JP3944586B2 - フォンビルブランド因子切断酵素の特異的基質および活性測定法 - Google Patents

フォンビルブランド因子切断酵素の特異的基質および活性測定法 Download PDF

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Description

本発明は、血漿蛋白の切断酵素、詳細には、フォンビルブランド因子切断酵素の特異的基質および活性測定方法、ならびにフォンビルブランド因子切断酵素活性のハイスループット測定系に関する。
フォンビルブランド因子(以下、「VWF」という)は、血液凝固において重要な役割を果たす血漿蛋白質である。VWFは主に血管内皮で合成され、高分子多量体の形態で血中に放出される。通常、血漿中のフォンビルブランド因子切断酵素(ADAMTS−13あるいはVWF−CPと呼ばれており、以下、「ADAMTS−13という)」によって適度な大きさに限定分解されることで、その凝固促進活性が調節されている。ADAMTS−13の活性が著しく低下した場合、VWFの異常高分子化が起こる。その結果、特に血小板の過剰凝集による血栓が生じ、血栓性血小板減少性紫斑病(以下、「TTP」という)と呼ばれる重篤な全身性疾患を引き起こす。TTPは、先天性と後天性に大別される。
近年、ADAMTS−13が単離され、それをコードする遺伝子ADAMTS13が同定された(1)。この遺伝子の変異は、先天性TTPの原因となる。一方、TTPの大半を占め、妊娠や薬剤の副作用等で誘発される後天性TTPの発症機構は解明されていない。
TTPは、血小板減少を伴う血栓性の全身性疾患であり、放置すればほぼ確実に死に至る。血漿交換の有効性が知られて以来、致死率は著しく減少した。しかしながら、2〜3週間に1度の血漿交換は患者にとって大きな負担であり、感染等の危険も無視できない。そこで、ADAMTS−13活性を正確かつ迅速に測定し、血漿交換のタイミングを正確に判断し、血漿交換の回数を減少させ、かつ治療効果を増大させることが必要となっている。また、後天性TTPの予知にもADAMTS−13活性の正確な測定が不可欠である。ADAMTS−13の正確な活性測定により、TTP発症の副作用を有する薬剤の服用時や、TTPを誘発しやすい妊娠時等に血中ADAMTS−13活性を定期的に測定し、それが低下していないか、すなわち、TTP発症の徴候が現れていないか、といった臨床情報を得ることが可能となる。また、ADAMTS−13の活性低下を根拠に、患者がTTPにかかっていることの確定診断を迅速に行なうこともできる。
TTPとよく似た臨床的症状を示す疾病としてHUS(溶血性尿毒症症候群)がある。しかしながら、HUS患者においてはADAMTS−13活性は正常レベルであり、TTP患者におけるADAMTS−13活性の低下または欠失とは対照をなす。したがって、患者のADAMTS−13活性を的確に測定することによって、TTPとHUSとを識別することもできる。
ADAMTS−13は、VWFサブユニットのTyr1605−Met1606間のペプチド結合を特異的に切断する(2)。この部位を特異的に切断する酵素はADAMTS−13以外に知られていない。現在、ADAMTS−13の活性測定法として、(i)精製ヒトVWFを基質とした反応液の電気泳動とウェスタンブロットの組み合わせ(3)、(ii)VWFのコラーゲン結合能の測定(4)、(iii)VWF部位特異的モノクローナル抗体を利用した定量(5)などが知られている。しかしながら、操作に時間や熟練を要する、定量性に欠ける、感度が低い、などといった欠点があり、さらに簡便性、多検体処理能にも欠けるものであり、臨床現場への普及は困難である。また、プロテアーゼ活性のハイスループット測定系として広く普及している発色性あるいは蛍光性合成ペプチド基質の利用は、ADAMTS−13の場合、基質特異性の問題から不可能であるといわれている(6)
発明が解決しようとする課題
上述のごとく、ADAMTS−13活性の低下により引き起こされるTTPが非常に重篤な疾患であるにもかかわらず、ADAMTS−13活性の正確かつ迅速な測定法が未だ確立されていないのが現状である。したがって、本発明は、従来のADAMTS−13活性測定法の欠点を克服し、TTPの効果的な治療およびTTP発症予知、TTPの確定診断、およびTTPとHUSの識別等に資することを課題とするものである。
発明が解決しようとする課題
上記事情に鑑みて、本発明者らは鋭意研究を重ねたところ、配列番号:1に示す野生型ヒトVWFのアミノ酸配列の1605番目のチロシンと1606番目のメチオニンとの間の切断部位(以下、Tyr1605−Met1606と表記することがあり、単に「切断部位」という場合がある)を含む、成熟VWFサブユニットの末端切断された比較的短い部分アミノ酸配列またはその変異配列であっても、ADAMTS−13により特異的に切断されることを見出し、簡便、特異的、高感度かつ定量的にADAMTS−13活性を測定することに成功し、本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は、
(1)配列表の配列番号:1に示された野生型ヒトVWFのアミノ酸配列のアミノ酸764から1605のうちの1つから始まり、アミノ酸1606から2813のうちの1つで終わるADAMTS−13基質ポリペプチド(ただし、配列表の配列番号:1のアミノ酸764から始まり、アミノ酸2813で終わるものを除く)、
(2)配列表の配列番号:1に示された野生型ヒトVWFのアミノ酸配列のアミノ酸1459から1605のうちの1つから始まり、アミノ酸1606から1668のうちの1つで終わるADAMTS−13基質ポリペプチド、
(3)配列表の配列番号:1に示された野生型ヒトVWFのアミノ酸配列のアミノ酸1459から1600のうちの1つから始まり、アミノ酸1611から1668のうちの1つで終わるADAMTS−13基質ポリペプチド、
(4)配列表の配列番号:1に示された野生型ヒトVWFのアミノ酸配列のアミノ酸1554から1600のうちの1つから始まり、アミノ酸1660から1668で終わるADAMTS−13基質ポリペプチド、
(5)配列表の配列番号:1に示された野生型ヒトVWFのアミノ酸配列のアミノ酸1587から始まり、アミノ酸1668で終わるADAMTS−13基質ポリペプチド、
(6)配列表の配列番号:1に示された野生型ヒトVWFのアミノ酸配列のアミノ酸1596から始まり、アミノ酸1668で終わるADAMTS−13基質ポリペプチド、
(7)上記(1)ないし(6)のいずれかに記載のADAMTS−13基質ポリペプチドに対して少なくとも50%以上のアミノ酸配列相同性を有する変異ADAMTS−13基質ポリペプチド、
(8)上記(1)ないし(6)のいずれかに記載のADAMTS−13基質ポリペプチドに対して少なくとも70%以上のアミノ酸配列相同性を有する変異ADAMTS−13基質ポリペプチド、
(9)上記(1)ないし(6)のいずれかに記載のADAMTS−13基質ポリペプチドに対して少なくとも90%以上のアミノ酸配列相同性を有する変異ADAMTS−13基質ポリペプチド、
(10)上記(1)ないし(6)のいずれかに記載のADAMTS−13基質ポリペプチドのアミノ酸配列において、1個ないし数個のアミノ酸の欠失、挿入、置換または付加(あるいはこれらの組み合わせ)により、上記(1)ないし(6)のいずれかに記載のADAMTS−13基質ポリペプチドとは異なっているものである変異ADAMTS−13基質ポリペプチド、
(11)N末端および/またはC末端にタグ配列が結合している上記(1)ないし(10)のいずれかに記載のADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチド、
(12)タグが蛋白、ペプチド、カップリング剤、放射性標識、発色団からなる群より選択されるものである上記(11)に記載のADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチド、
(13)タグが固相に固定化するためのものである上記(11)または(12)に記載のADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチド、
(14)固相に固定化された上記(13)に記載のADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチド、
(15)上記(1)ないし(14)のいずれかに記載のADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチドと正常対象から得た血漿とを接触させて、生成するポリペプチド断片を分析してこれを対照とし、上記(1)ないし(14)のいずれかに記載のADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチドと対象から得た血漿とを接触させて生成するポリペプチド断片を同様に分析し、対照と比較することを特徴とする、対象中のADAMTS−13活性測定方法、
(16)上記(1)ないし(14)のいずれかに記載のADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチドを用いることを特徴とする、対象から得た血漿中のADAMTS−13活性のハイスループット測定方法、
(17)上記(1)ないし(14)のいずれかに記載のADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチドを含む、対象におけるADAMTS−13活性低下または欠失をインビトロで調べるための診断組成物、
(18)上記(1)ないし(14)のいずれかに記載のADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチドを必須構成成分として含む、対象におけるADAMTS−13活性低下または欠失をインビトロで調べるためのキット、ならびに
(19)上記(17)に記載の診断組成物または上記(18)に記載のキットを製造するための、上記(1)ないし(14)のいずれかに記載のADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチドの使用を提供するものである。
図1は、GST−Asp1459−Arg1668−H、GST−Glu1554−Arg1668−H、GST−Asp1587−Arg1668−H、GST−Asp1596−Arg1668−HおよびGST−Asp1596−Arg1659−Hを正常血漿と37℃で2時間反応させ、SDS−PAGEで分離した後、抗GST抗体を一次抗体として用いたウェスタンブロットを行なった結果を示す。
図2は、GST−Asp1596−Arg1668−Hの基質特異性および反応の定量性を示す。反応条件は図1と同じである。
発明の詳細な説明
野生型ヒトVWFは、そのシグナルペプチドおよびプロ領域を含めて全部で2813個のアミノ酸からなるポリペプチドである。野生型ヒトVWFのアミノ酸配列を配列表の配列番号:1に示す。野生型ヒト成熟VWFサブユニットはそのシグナルペプチドおよびプロ領域を除いた部分であり、配列表の配列番号:1のアミノ酸764からアミノ酸2813までのポリペプチドである。そのアミノ酸の番号付けは、野生型ヒトVWFのアミノ(N)末端の開始メチオニンを1(アミノ酸1)としてカルボキシル(C)末端方向に順に数えていく(配列表の配列番号:1参照)。本明細書において、例えば、配列表の配列番号:1のN末端から1459番目のアミノ酸をアミノ酸1459と表示することがある。さらに配列表の配列番号:1のN末端から1459番目のアミノ酸はアスパラギン酸(Asp)であるので、Asp1459と表示することがある。また例えば、アミノ酸1459(Asp)からアミノ酸1668(Arg)までのポリペプチドをAsp1459−Arg1668と表示することがある。
「野生型」VWFのアミノ酸配列は、変異していないヒトのVWFのアミノ酸配列を意味する。本明細書において、「変異」している旨を特記しないかぎり、「野生型」の表示がなくてもアミノ酸配列は変異していないものである。
したがって、本明細書においては、ヒト成熟VWFサブユニットの部分アミノ酸配列が、その部分に対応する天然型ヒト成熟VWFサブユニットの配列と同じであれば「野生型」であり、異なっていれば「変異」したものである。
また、本明細書において、ヒト起源でないことを特記しないかぎり、VWFはヒト起源のものである。ヒト以外の生物を起源とするVWFは、本明細書においては「変異」したものに含められる。
本明細書において「ポリペプチド」はアミノ酸残基が2よりも多いペプチドをいう。さらに本明細書において「ポリペプチド」と「蛋白」または「蛋白質」なる語は同義として扱う。
本明細書においてアミノ酸は慣用的な3文字標記とする。
本発明は、1の態様において、配列表の配列番号:1に示された野生型ヒトVWFのアミノ酸配列のアミノ酸764から1605のうちの1つから始まり、アミノ酸1606から2813のうちの1つで終わるADAMTS−13基質ポリペプチド(ただし、配列表の配列番号:1のアミノ酸764から始まり、アミノ酸2813で終わるものを除く)を提供する。
本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドは切断部位Tyr1605−Met1606を必須として含むヒト成熟VWFサブユニットの部分アミノ酸配列である。したがって、アミノ酸764から始まり、アミノ酸2813で終わる全長の野生型ヒト成熟VWFサブユニットは除かれる。
配列表の配列番号:1に示された野生型ヒトVWFのアミノ酸配列のアミノ酸1459(Asp)からアミノ酸1668(Arg)までの領域はCys残基を含まないので、ジスルフィド結合の形成により多量体化することがなく、ADAMTS−13に対する特異性、ADAMTS−13活性測定の定量性、再現性、取り扱い等に問題を生じることがない。したがって、本発明は、好ましい態様において、配列表の配列番号:1に示された野生型ヒトVWFのアミノ酸配列のアミノ酸1459から1605のうちの1つから始まり、アミノ酸1606から1668のうちの1つで終わるADAMTS−13基質ポリペプチドを提供する。
また、切断部位の前後アミノ酸4個までの短いポリペプチドはADAMTS−13基質として特異性があまり高くない。したがって、本発明は、より好ましい態様において、配列表の配列番号:1に示された野生型ヒトVWFのアミノ酸配列のアミノ酸1459から1600のうちの1つから始まり、アミノ酸1611から1668のうちの1つで終わるADAMTS−13基質ポリペプチドを提供する。この態様のADAMTS−13基質ポリペプチドは、上述のごとくCys残基を含まないので、ジスルフィド結合の形成により多量体化することがなく、ADAMTS−13に対する特異性、ADAMTS−13活性測定の定量性、再現性、取り扱い等に問題を生じることがなく、この態様のADAMTS−13ポリペプチドは組み換え法による製造に十分に適した小型のものであり、ADAMTS−13に対する特異性も高い。
本発明は、さらに好ましい態様において、配列表の配列番号:1に示された野生型ヒトVWFのアミノ酸配列のアミノ酸1554から1600のうちの1つから始まり、アミノ酸1660から1668のうちの1つで終わるADAMTS−13基質ポリペプチドを提供する。上述のごとく、この態様のADAMTS−13基質ポリペプチドはCys残基を含まないので、ジスルフィド結合の形成により多量体化することがなく、ADAMTS−13に対する特異性、ADAMTS−13活性測定の定量性、再現性、取り扱い等に問題を生じることがなく、この態様のADAMTS−13基質ポリペプチドは上記態様のものよりも小型なので組み換え法による製造に特に適している。また、この態様のADAMTS−13基質ポリペプチドは上記態様のものよりもADAMTS−13に対する特異性がさらに高い(実施例のセクション参照)。
本発明は、特に好ましい具体例として、配列表の配列番号:1に示された野生型ヒトVWFのアミノ酸配列のアミノ酸1587から始まり、アミノ酸1668で終わるADAMTS−13基質ポリペプチド、ならびに配列表の配列番号:1に示された野生型ヒトVWFのアミノ酸配列のアミノ酸1596から始まり、アミノ酸1668で終わるADAMTS−13基質ポリペプチドを提供する。
本発明のこれらのADAMTS−13基質ポリペプチドはADAMTS−13によりTyr1605−Met1606間が切断される。
さらに、本発明は、さらなる態様において、上記態様のいずれかのADAMTS−13基質ポリペプチドに対して少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上のアミノ酸配列相同性を有する変異ADAMTS−13基質ポリペプチドを提供する。
好ましくは、変異ADAMTS−13基質ポリペプチドは切断部位Tyr160 −Met1606をその中に含む。しかしながら、変異ADAMTS−13基質ポリペプチドは、ADAMTS−13に対する特異性を保持する限り、切断部位の2つのアミノ酸が上記のもの(Tyr1605、Met1606)と異なっていてもよく、かかる変異ADAMTS−13基質ポリペプチドも本発明に包含される。
アミノ酸配列の「相同性」とは、比較される2つまたはそれ以上のアミノ酸配列が同一または類似のアミノ酸配列を有する度合いをいう。本発明の変異ADAMTS−13基質ポリペプチドの場合には、野生型のものに対して100%同一のアミノ酸配列を有するものは除かれる。
さらに好ましくは、本発明の変異ADAMTS−13基質ポリペプチドは、上記ADAMTS−13基質ポリペプチドのアミノ酸配列において、1個ないし数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加(あるいはこれらの組み合わせ)により、上記ADAMTS−13基質ポリペプチドとは異なっているものである変異ADAMTS−13基質ポリペプチドである。
変異アミノ酸配列は上記のものであればいかなるものであってもよく、好ましくは、例えば、野生型アミノ酸配列中の1またはそれ以上のアミノ酸が、欠失、挿入、置換または付加されたものであってもよく(これらの組み合わせであってもよい)、あるいは野生型アミノ酸配列中の1またはそれ以上のアミノ酸の側鎖が修飾されたもの(例えば、合成非天然アミノ酸)であってもよく、あるいはこれらの組み合わせであってもよい。
これらの変異は自然発生的な突然変異によるものであってもよく、あるいは人為的な突然変異誘発によるものであってもよい。人為的な突然変異誘発法は当該分野においてよく知られており、例えば、組み換え法を用いた部位特異的突然変異誘発法、化学的方法による変異ポリペプチドの合成、例えば固相合成および液相合成、またはアミノ酸残基の化学修飾等があり、それぞれの詳細は当業者のよく知るところである。また、かかる変異および/または修飾の位置はいずれの位置におけるものであってもよい。
アミノ酸の修飾例としては、アセチル化、アシル化、アミド化、糖鎖付加、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の付加、脂質または脂質誘導体の付加、環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、架橋形成、シスチン形成、ピログルタミン酸形成、ホルミル化、ヒドロキシル化、ハロゲン化、メチル化、側鎖の酸化、蛋白加水分解酵素による処理、リン酸化、硫酸化、ラセミ化等があり、当該分野においてよく知られている。
特に、真核細胞発現系において本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドを製造した場合には、ポリペプチド中のセリンまたはスレオニン残基において糖鎖付加される可能性が高く、このように真核細胞において発現されて糖鎖付加されたADAMTS−13基質ポリペプチドも本発明に含まれる。
次に、上記の本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチドの製造方法について説明する。以下の説明は本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドの製造についてのものであるが、以下の説明が変異ADAMTS−13基質ポリペプチドの製造についても適用できることは当業者に明らかである。
化学合成による場合は、固相または液相ペプチド合成が一般的である。例えば、固相ペプチド合成装置を用いることもできる。アミノ酸残基の修飾が必要な場合には、適宜、修飾アミノ酸を合成装置に導入することもできる。合成中に感受性の高い残基に保護基を導入することも公知である。また、アミノ酸配列が得られた後、修飾を行なってもよい。いうまでもなく、これらの化学合成法および他の化学合成法は当該分野において公知であり、当業者は適切な方法を選択して目的ポリペプチドを合成することができる。
あるいは、本発明のポリペプチドを含有するポリペプチドを適当なプロテアーゼおよび/またはペプチダーゼで切断することによって製造することもできる。例えば、血漿からVWF画分を精製し、特異的な切断部位を有するプロテアーゼおよび/またはペプチダーゼを作用させてもよい。
得られたポリペプチドを単離・精製する方法も当該分野においてよく知られており、例えば、各種クロマトグラフィー、塩析、電気泳動、限外濾過等の方法がある。
組み換え法により本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドを製造することもできる。組み換え法によるポリペプチドの製造は当業者に公知の方法、例えばSambrookらのMolecular Cloning 2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)に記載された方法により行うことができるが、以下に典型例を示す。
先ず、本発明のポリペプチドをコードするDNAをクローニングする。DNAクローニングの手段としては、例えば、本発明のポリペプチドの部分塩基配列を有する合成DNAプライマーを用いて、当該分野で公知の方法、例えばPCR法により増幅することができる。クローン化されたDNAを適切な発現ベクター中に連結し、適切な宿主中に導入して宿主を形質転換させ、形質転換宿主を培養することにより発現されたポリペプチドを得ることができる。クローン化されたDNAを適切な発現ベクター中に連結する際に、適切なプロモーターの下流に連結して発現を促進し、ポリペプチドを多く得ることが好ましい。なお、ヒトVWFのヌクレオチド配列は、例えば、GenBank受託番号NM000552としてデータベースに登録されており、利用可能である。
発現ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えば、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13等)、枯草菌由来のプラスミド(例えば、pUB10、pTP5、pC194等)、酵母由来のプラスミド(例えば、pSH19、pSH15等)、バクテリオファージ(例えば、λファージ等)、バキュロウイルス、動物ウイルス(例えば、レトロウイルス、ワクシニアウイルス等)、あるいはpA1−11、pXXT1、pRc、pcDNAI等がある。これらのベクターおよび他のベクターは当業者によく知られており、市販されているものも多い(例えば、アマシャム・バイオサイエンス社から市販されているpGEX−6P−1は、タグ蛋白であるグルタチオン−S−トランスフェラーゼとの融合蛋白を発現させるベクターである)。
宿主としては、細菌細胞、例えば大腸菌(例、K12株、HB101株、JM103株、JA221株、C600株、BL21株等)、枯草菌、ストレプトコッカス属、スタフィロコッカス属、エンテロコッカス属;真菌細胞、例えば酵母細胞およびアスペルギルス属細胞;昆虫細胞、例えばドロソフィラS2およびスポドプテラSf9細胞;動物細胞、例えばCHO、COS、HeLa、C127、3T3、BHK、293細胞等の動物細胞;ならびに植物細胞等がある。
プロモーターとしては、目的ポリペプチドをコードするDNAの発現に用いる宿主に適したものであればよく、大腸菌宿主の場合には、例えばtrpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター等が用いられ、枯草菌宿主の場合には、例えばSPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーター等が用いられ、酵母宿主の場合には、例えばPHO5プロモーター、PGKプロモーター等が用いられ、昆虫宿主の場合には、例えばP10プロモーター、ポリヘドロンプロモーター等が用いられ、動物細胞宿主の場合には、例えばSV40初期プロモーター、SRαプロモーター、CMVプロモーター等が用いられる。
発現ベクターは、所望により、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー(抗生物質耐性遺伝子(例、メトトレキセート耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等)、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子等)をさらに含んでいてもよい。
宿主細胞の形質転換は上記Sambrookらのテキストをはじめとする多くのテキストにある方法により行なうことができ、例えばリン酸カルシウム法、DEAE−デキストランを用いる方法、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、ウイルス感染等がある。
形質転換体を培養する際、使用される培地としては液体培地が適当であり、それぞれの宿主の種類に応じて好ましい培地組成、培養条件が当該分野において公知であり、当業者はこれらの培地組成、培養条件を選択できる。
翻訳ポリペプチドを、小胞体内腔、ペリプラスミックスペースまたは細胞外環境へ分泌させるために、適当な分泌シグナルを発現するポリペプチドに組み込むことができる。これらのシグナルはポリペプチドに本来的なものであってもよく、あるいは異種性のシグナルでもよい。
発現された組み換えポリペプチドは周知の方法により、組換え細胞培養物から回収および精製でき、その方法には、例えば硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、有機溶媒による沈殿、電気泳動、限外濾過、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィー等がある。高速液体クロマトグラフィーを精製に用いるのが好ましい。ポリペプチドが単離および/または精製中に変性した場合、例えば、細菌中の封入体として産生された場合、再び活性なコンホーメーションにするために、ポリペプチド再生のための公知の技法、例えば尿素処理を用いることができる。
以下に、本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチドの活性測定、ならびにそれらを含む診断組成物またはキット等について説明する。以下の説明はADAMTS−13基質ポリペプチドに関するものであるが、以下の説明が変異ADAMTS−13基質ポリペプチドについても適用できることは当業者に明らかである。
対象におけるADAMTS−13活性は、本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドを用いて、例えば、以下のようにして測定することができる。適当な反応条件下において、本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドと正常対象から得た血漿とを接触させて、生成するポリペプチド断片を例えばSDS−ポリアクリルアミドゲル(以下、「SDS−PAGE」という)により分析し、これを対照とし、本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドと対象から得た血漿とを接触させて同様にSDS−PAGEを行なった後クーマシーブルーあるいは銀染色等で蛋白を染色して生成物を分析し、バンド位置、濃さ等を対照と比較する。あるいはSDS−PAGEからウェスタンブロッティングを行なってもよい。なお、反応液は、ADAMTS−13の活性化因子であるBa2+などの2価金属イオンを含み、さらにADAMTS−13の至適pH8ないし9の緩衝液を含むことが好ましい。
したがって、本発明は、上記のごとく本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドに対象から得た血漿を接触させ、反応生成物を分析することを特徴とする、対象血漿中のADAMTS−13活性測定方法に関する。
また、本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドを含む、対象におけるADAMTS−13活性の低下または欠失、ひいてはTTPの存在またはTTP素質、あるいはTTPの確定診断およびTTPとHUSとの識別をインビトロで調べるための診断組成物にも関する。さらに本発明は、本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドを必須構成成分として含む、対象におけるADAMTS−13活性の低下または欠失、ひいてはTTPの存在またはTTP素質、あるいはTTPの確定診断およびTTPとHUSとの識別をインビトロで調べるためのキットにも関する。キットには取扱説明書を添付するのが通例である。
本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチドは、そのN末端および/またはC末端にタグ配列が結合していてもよい。以下の説明はADAMTS−13基質ポリペプチドに関するものであるが、変異ADAMTS−13基質ポリペプチドに関しても同様にタグを付すことができ、同様に使用できることは、当業者に明らかである。タグ配列はいかなるものであってもよいが、ADAMTS−13による切断生成物の検出、定量、分離等を容易化させるものが好ましい。また、タグ配列は、本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドを固相に固定化するためのものであってもよい。このようなタグ配列を用いて固相に固定化されたADAMTS−13基質ポリペプチドも本発明に包含される。タグ配列としては、蛋白(例えば、グルタチオントランスフェラーゼ(以下、「GST」という)、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ等)、ペプチド(例えば、Hisタグ等)、カップリング剤(カルボジイミド試薬等)、各種標識(例えば、放射性標識、発色団、酵素等)等があり、当業者は目的に応じて、タグの種類を選択することができる。また、タグ付加方法も当業者のよく知るところである。
例えば、実施例1で詳述するように、大腸菌発現ベクターpGEX−6P−1に、本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドをコードするDNAを挿入し、本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドのN末端にタグとしてGSTが融合した融合蛋白を得てもよい。その際、例えばグルタチオンセファロースカラムを用いるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することもできる。例えばGST蛋白のごとき高分子物質を融合させておくと、反応後、分子量が大きく異なる2つの断片を分析すればよく、例えば反応生成物をSDS−PAGEにおいて分離し、解析することが容易となる。また、上記の例において抗GST抗体が使用できる場合には、これを用いてウェスタンブロットを行なうこともできる。
また、例えば、本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドのC末端にタグ配列としてルシフェラーゼやガラクトシダーゼを融合させておき、N末端にGSTを融合させておく。グルタチオンビーズ等で融合蛋白をトラップし、ADAMTS−13での切断後に遊離したタグ付き生成物を、公知のルシフェラーゼあるいはガラクトシダーゼ活性測定方法により定量することにより、ADAMTS−13活性を定量することもできる。
さらに、タグ配列としては、公知のHisタグや抗Mycタグ等も使用できる。例えば、本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドのN末端にHisタグを付加して固相に固定化し、C末端にセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識した抗Mycタグを付加しておく。ADAMTS−13との反応後、液相に遊離したHRPを公知の方法で比色定量するすることにより、ADAMTS−13活性を測定することができる。
さらに以下のような具体例も本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドにタグを付したものと考えられる。すなわち、活性測定法が確立されている既知蛋白を選択し、該既知蛋白の活性を保持するように該既知蛋白のアミノ酸配列中に本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドのアミノ酸配列を挿入して融合蛋白を得る。この融合蛋白を対象から得た血漿と反応させ、血漿中のADAMTS−13活性により切断部位が切断されると元の既知蛋白の活性も消失するようにしておく。このような融合蛋白を用いて、その活性の消失の程度を調べることにより血漿中のADAMTS−13活性を測定することもできる。
また、本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチドは、例えば、検出を可能または容易にするタグを付する、あるいは固相に固定化する等により、ハイスループット化されたADAMTS−13活性測定に適したものとすることもできる。したがって、本発明は、好ましくはタグの付いた本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチドを用いることを特徴とする、対象から得た血漿中のADAMTS−13活性についての活性測定法、好ましくはハイスループット化された測定方法にも関する。また本発明は、タグの付いた本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチドを含む血漿ADAMTS−13活性測定用組成物またはキットにも関する。
さらなる態様において、本発明は、上記診断組成物または上記キットを製造するための、上記のいずれかのADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチドの使用に関するものである。
A.ADAMTS−13基質ポリペプチドの製造
上述のごとく、ADAMTS−13はVWFのTyr1605−Metl606間のペプチド結合を特異的に切断する。しかしながら、実際にはVWFは成熟サブユニットが多数会合して巨大分子化しており、従来の測定法のように、これをそのまま基質として使用したのでは定量性、再現性、操作性等に問題を生じる。本発明において、ADAMTS−13の酵素活性測定は、この切断部位の周辺配列を含む成熟VWFサブユニットの部分配列を基質として利用することとして、かかる問題を解決した。
ADAMTS−13の基質特異性を維持するためには、一般的には、部分配列は一定の長さを有するものとすべきであろうが、大腸菌による組み換え発現による製造に適したものとするためには部分配列は小さいほうがよい。また、基質として使用する場合、SH基を有するシステイン残基がポリペプチド中に存在すると、これにより多量体化し、定量性、取り扱い、再現性等に問題を生じるので、部分配列としてはシステイン残基を含まない領域が望ましい。このような条件を満たすものの1つとして、ポリペプチドAspl459−Arg1668を選択した。すなわち、この領域は切断部位を含み、かつCys残基を含まない最大のサイズの領域である。
市販のヒト臍帯静脈内皮細胞より抽出したRNAを鋳型にしてRT−PCRを行い、VWFサブユニットのAsp1459−Arg1668領域(配列番号:2)をコードするcDNAを得た。このとき使用したセンス方向のプライマーは5’−cgggatccGACCTTGCCCCTGAAGCCCCTC−3’(配列番号:7)、アンチセンス方向のプライマーは5’−cggaattcTCAGTGATGGTGATGGTGATGCCTCTGCAGCACCAGGTCAGGA−3’(配列番号:8)であった(小文字部分は、サブクローニングのために付加した制限酵素認識部位を示す)。アンチセンス方向のプライマーには6xHisタグ配列を付加してある。これをBamHIおよびEcoRIで切断処理した後、同じくBamHIおよびEcoRIで切断処理した大腸菌発現ベクターpGEX−6P−1(アマシャム・バイオサイエンス社)に挿入した。すなわち、VWFサブユニットのAsp1459−Arg1668領域のN端側にグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)が、C端側に6xHisタグ配列が結合した融合蛋白質(以下、GST−Asp1459−Arg1668−Hと表記)が発現されるようにした。得られた発現プラスミドを大腸菌BL21株に導入し、IPTG誘導によって一過性に発現させ、ニッケル親和性クロマトグラフィーとグルタチオン親和性クロマトグラフィーで精製して、融合蛋白GST−Asp1459−Arg1668−Hを得た。
さらに、上記のものよりも短いポリペプチドは大腸菌などを用いた組み換え法による製造にさらに適したものである。そこで、Glu1554−Arg1668(配列番号:3)、Asp1587−Arg1668(配列番号:4)、Asp1596−Arg1668(配列番号:5)およびAsp1596−Arg1659(配列番号:6)領域をコードするcDNAを得るために3種類のセンス方向プライマー5’−cgggatccGAGGCACAGTCCAAAGGGGACA−3’(配列番号:9)、5’−cgggatccGACCACAGCTTCTTGGTCAGCC−3’(配列番号:10)、5’−cgggatccGACCGGGAGCAGGCGCCCAACC−3’(配列番号:11)と1種類のアンチセンス方向プライマー5’−cggaattcTCAGTGATGGTGATGGTGATGTCGGGGGAGCGTCTCAAAGTCC3’(配列番号:12)を用い、これらを組み合わせて同様の過程を行い、4種類の融合蛋白質GST−Glu1554−Arg1668−H、GST−Asp1587−Arg1668−H、GST−Asp1596−Arg1668−H、GST−Asp1596−Arg1659−Hが発現されるプラスミドも作成した。これら発現プラスミドを大腸菌BL21株に導入し、IPTG誘導によって一過性に発現させ、ニッケル親和性クロマトグラフィーとグルタチオン親和性クロマトグラフィーで精製して、各融合蛋白を得た。
このようにして得た5種類の融合蛋白質GST−Asp1459−Arg1668−H、GST−Glu1554−Arg1668−H、GST−Asp1587−Arg1668−H、GST−Asp1596−Arg1668−H、GST−Asp1596−Arg1659−Hは、ADAMTS−13によって特異的に切断された場合、すなわち、VWFサブユニットのTyr1605−Met1606間に相当する部位で切断された場合、それぞれ43.1kDa(GST部分を含む)と7.7kDa(His6タグ配列部分を含む)の断片、32.7kDaと7.7kDaの断片、29.0kDaと7.7kDaの断片、28.0kDaと7.7kDaの断片、28.0kDaと6.7kDaの断片に分離するはずである。
B.ADAMTS−13基質ポリペプチドと血漿ADAMTS−13との反応
これら融合蛋白質を、正常血漿0.25μLと37℃で0時間あるいは2時間反応させた。反応液総容量は20μLで、25mM Tris(pH8.0)、10mM BaCl、4mM グルタチオン、1mM APMSFを含んでいた。これをSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離した後、抗GST抗体を一次抗体として用いたウェスタンブロットを行った。結果を図1に示す。
2時間反応させた場合、GST−Asp1587−Arg1668−H、GST−Asp1596−Arg1668−Hでは予想された断片(図中の矢頭)が明確に生じた。一方、それよりも領域の長いGST−Glu 554−Arg1668−Hでも予想位置に非常に薄いバンドが生じた。さらに領域の長いGST−Asp1459−Arg1668−H、あるいは領域の短いGST−Asp1596−Arg1659−Hでは断片が生じない、あるいは生じにくいことがわかった。つまり、GST−Asp1587−Arg1668−HとGST−Asp1596−Arg1668−HはADAMTS−13の基質として適していることが示唆された。
C.ADAMTS−13基質ポリペプチドの基質特異性および反応の定量性
次に、Bで得られた特に好ましいADAMTS−13基質ポリペプチドのうち、GST−Aspl596−Arg1668−Hの基質としての特異性を調べるため、TTP患者家族の血漿と反応させた。反応条件および検出方法は上述と同じである。結果を図2に示す。
2名の患者血漿それぞれとGST−Asp1596−Arg1668−Hを反応させた場合、正常血漿との反応で生じる断片(図中の矢頭)は検出されなかった。一方、別の方法でADAMTS−13の活性が正常血漿の約半分しかないことがわかっている家族Aの母と姉、家族Bの父と母の血漿では、正常血漿よりも少ない量の断片が生じた。さらに活性が低いことがわかっている家族Aの父の血漿では、より少ない量の断片しか生じなかった。以上の結果から、GST−Asp1596−Arg1668−Hは血漿中のADAMTS−13で定量的に切断され、かつ、他の酵素では切断されない、特異的な人工基質であることが示唆された。
産業上の利用の可能性
本発明のADAMTS−13活性測定用基質ポリペプチドは、基質特異性を維持しつつも、大腸菌による組み換え発現による製造に適した小型のものである。また、SH基を有するシステイン残基がポリペプチド中に存在しないので、多量体化の問題を回避でき、定量性、取り扱い、再現性等に関しても問題を生じることが少ない。したがって、本発明のADAMTS−13活性測定用基質ポリペプチドにより、簡便で、特異的で、定量性、再現性が良く、感度の高いADAMTS−13活性測定が可能となる。また本発明のADAMTS−13活性測定用基質は多検体処理能にも適する。例えば、本発明のADAMTS−13活性測定用基質を固定化、標識する等により多検体処理能を行うこともできる。
本発明によりTTPの効果的な治療およびTTP発症予知が可能となる。具体的には、本発明によって、TTP発症の副作用を持つ薬剤の服用時や、TTPを誘発しやすい妊娠時等に血中ADAMTS−13活性を定期的に測定し、それが低下していないかどうか、すなわち、TTP発症の徴候が現れていないかどうか、といった臨床情報を得ることが可能となる。また、本発明は、ADAMTS−13活性と種々の疾患との関連を疫学的研究で明らかにするための強力な道具となる。また、本発明により患者がTTPにかかっていることの迅速な確定診断を行なうこともできる。さらに本発明により患者のADAMTS−13活性を的確に測定することができるので、TTPとHUSとを識別することもできる。
配列番号:1は野生型ヒトVWFのアミノ酸配列を示す。
配列番号:2は本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドAsp1459−Arg1668のアミノ酸配列を示す。
配列番号:3は本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドGlu1554−Arg1668のアミノ酸配列を示す。
配列番号:4は本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドAsp1587−Arg1668のアミノ酸配列を示す。
配列番号:5は本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドAsp1596−Arg1668のアミノ酸配列を示す。
配列番号:6は本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドAsp1596−Arg1659のアミノ酸配列を示す。
配列番号:7は本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドAsp1459−Arg1668を製造するために使用したセンスプライマーのヌクレオチド配列を示す。
配列番号:8は本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドAsp1459−Arg1668を製造するために使用したアンチセンスプライマーのヌクレオチド配列を示す。
配列番号:9は本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドGlu1554−Arg1668、Asp1587−Arg1668、Asp1596−Arg1668、Asp1596−Arg1659を製造するために使用したセンスプライマーのヌクレオチド配列を示す。
配列番号:10は本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドGlu1554−Arg1668、Asp1587−Arg1668、Asp1596−Arg1668、Asp1596−Arg1659を製造するために使用したセンスプライマーのヌクレオチド配列を示す。
配列番号:11は本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドGlu1554−Arg1668、Asp1587−Arg1668、Asp1596−Arg1668、Asp1596−Arg1659を製造するために使用したセンスプライマーのヌクレオチド配列を示す。
配列番号:12は本発明のADAMTS−13基質ポリペプチドGlu1554−Arg1668、Asp1587−Arg1668、Asp1596−Arg1668、Asp1596−Arg1659を製造するために使用したアンチセンスプライマーのヌクレオチド配列を示す。
Figure 0003944586

Claims (13)

  1. 配列表の配列番号:1に示された野生型ヒトVWFのアミノ酸配列のアミノ酸1587から始まり、アミノ酸1668で終わるADAMTS−13基質ポリペプチド。
  2. 配列表の配列番号:1に示された野生型ヒトVWFのアミノ酸配列のアミノ酸1596から始まり、アミノ酸1668で終わるADAMTS−13基質ポリペプチド。
  3. 請求項1または2に記載のADAMTS−13基質ポリペプチドに対して少なくとも90%以上のアミノ酸配列同一性を有し、ADAMTS−13に対する特異性を保持している変異ADAMTS−13基質ポリペプチド。
  4. 請求項1または2に記載のADAMTS−13基質ポリペプチドのアミノ酸配列において、1個ないし数個のアミノ酸の欠失、挿入、置換または付加(あるいはこれらの組み合わせ)により、請求項1または2に記載のADAMTS−13基質ポリペプチドとは異なっており、ADAMTS−13に対する特異性を保持している変異ADAMTS−13基質ポリペプチド。
  5. N末端および/またはC末端にタグ配列が結合している請求項1ないし4のいずれかに記載のADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチド。
  6. タグが蛋白、ペプチド、カップリング剤、放射性標識、発色団からなる群より選択されるものである請求項5記載のADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチド。
  7. タグが固相に固定化するためのものである請求項5または6に記載のADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチド。
  8. 固相に固定化された請求項7記載のADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチド。
  9. 請求項1ないし8のいずれかに記載のADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチドと正常対象から得た血漿とを接触させて、生成するポリペプチド断片を分析してこれを対照とし、請求項1ないし8のいずれかに記載のADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチドと対象から得た血漿とを接触させて生成するポリペプチド断片を同様に分析し、対照と比較することを特徴とする、対象中のADAMTS−13活性測定方法。
  10. 請求項1ないし8のいずれかに記載のADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチドを用いることを特徴とする、対象から得た血漿中のADAMTS−13活性のハイスループット測定方法。
  11. 請求項1ないし8のいずれかに記載のADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチドを含む、対象におけるADAMTS−13活性低下または欠失をインビトロで調べるための診断組成物。
  12. 請求項1ないし8のいずれかに記載のADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチドを必須構成成分として含む、対象におけるADAMTS−13活性低下または欠失をインビトロで調べるためのキット。
  13. 請求項11記載の診断組成物または請求項12記載のキットを製造するための、請求項1ないし8のいずれか1項に記載のADAMTS−13基質ポリペプチドまたは変異ADAMTS−13基質ポリペプチドの使用。
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