JP3941666B2 - アルキルシクロヘキサン系溶剤の製造方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルキルシクロヘキサン系溶剤の製造方法に関し、より詳しくは、アルキルベンゼンを懸濁床方式による触媒存在下に核水素化してアルキルシクロヘキサン系溶剤を効率よく製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルキルシクロヘキサンの製造方法としては、回分反応方式で、水素加圧下、接触水素化触媒を用い、アルキルベンゼンを核水素化する方法が知られている(非特許文献1)。しかしながら、回分反応方式で大規模に工業的生産を実施する場合、攪拌機を含めた反応装置や濾過装置が大型にならざるを得ず、反応設備の建設及び設備保全が容易でなくなるという欠点がある。
【0003】
一方、アルキルベンゼンを核水素化してアルキルシクロヘキサンを連続反応方式で生産する場合、固定床方式(特許文献1、特許文献2)と懸濁床方式(特許文献3)のいずれかを採用できる。かかる核水素化反応は、大きな発熱を伴う反応であるため、前記いずれの方式を採用したとしても発生する熱を除去(冷却)する技術、さらに、懸濁床方式では、触媒の回収・再使用する技術が必要である。
【0004】
従来、かかる反応熱を除去するため工業的に行われている方法としては、通常、慣用の冷却装置で制御可能な程度まで原料を水素化反応条件下で反応不活性な成分で希釈する方法が採られる。しかし、この方法では、水素化反応後、不活性成分と水素化生成物との分離工程が必要となり生産性が著しく低下する欠点がある。
【0005】
また、固定床方式の場合、反応塔を多管式とし熱交換面積を大きくして冷却する方法が知られている(非特許文献2)が、装置が複雑になり、また各管に均等に反応液を分散する特別な技術が必要である等の問題がある。
【0006】
懸濁床方式は、触媒の濾過工程が必要となる。濾過工程では、触媒を回収・再使用するため遠心分離機等により触媒と反応生成物の分離操作を行う。このような分離操作では、静電気の発生が懸念されることから、アルキルシクロヘキサンのような易帯電性及び易引火性を有する液体を扱う場合は非常に注意のいる操作であると言える。
【0007】
上記に記載の連続反応方式によりアルキルシクロヘキサンを効率よく製造するには、アルキルベンゼンの核水素化に伴う反応熱の除去と触媒の回収・再使用等の困難な問題を同時に解決する必要がある。これまで、これらの問題点を同時に解決した開示技術は見られず、大規模に工業的に効率よく製造する方法の開発が強く要望されている。
【0008】
【非特許文献1】
H.Adkins,W.H.Zartman,H.Cramer,J.Am.
Chem.Soc.,53,1425(1931)
【非特許文献2】
橋本健治著,「工業反応装置」,培風館(1984),p.39
【特許文献1】
特公昭46−42501号公報
【特許文献2】
特開平7−228897号公報
【特許文献3】
特開平6−116570号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、アルキルベンゼンを懸濁床方式による水素化触媒の存在下に核水素化してアルキルシクロヘキサン系溶剤を効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、アルキルベンゼンと水素ガスの両者を反応塔下部から連続的に供給する反応塔を用いて、懸濁床方式による水素化触媒の存在下にアルキルベンゼンの核水素化反応を行い、生成したアルキルシクロヘキサンを蒸発させ、その気化熱により反応熱を効率的に除去し、かつ、該アルキルシクロヘキサンが気体として得られるため水素化触媒はスラリーとして再循環することにより該触媒の濾過の必要がなく、連続的にアルキルシクロヘキサンが製造できることを見い出し、かかる知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下に示すアルキルシクロヘキサン系溶剤の製造方法を提供するものである。
項1 (A)アルキルベンゼンと水素ガスを、水素化触媒が該アルキルベンゼンを水素化して得られるアルキルシクロヘキサン中で懸濁状態にある反応塔に反応塔下部より連続的に供給し、反応温度100〜200℃で核水素化する工程、(B)A工程で生成したアルキルシクロヘキサンの一部又は全量を気体成分又は気液混合成分として反応塔上部より連続的に抜き出し、気液分離する工程、及び(C)B工程で分離された気体成分を熱交換器により凝縮し、未反応水素ガスとアルキルシクロヘキサンとに気液分離する工程からなることを特徴とするアルキルシクロヘキサン系溶剤の製造方法。
【0012】
項2 A工程のアルキルベンゼンの芳香族成分の含有量が90容量%以上である上記項1に記載のアルキルシクロヘキサン系溶剤の製造方法。
【0013】
項3 B工程の反応塔上部より抜き出すアルキルシクロヘキサンの液体成分と気体成分の重量比が、液体成分:気体成分=0:100〜50:50である上記項1又は2に記載のアルキルシクロヘキサン系溶剤の製造方法。
【0014】
項4 A工程の反応水素圧が0.5〜1.0MPaGである上記項1〜3のいずれかに記載のアルキルシクロヘキサン系溶剤の製造方法。
【0015】
項5 A工程の連続的に供給される水素ガスの空筒基準線速度が0.5〜20cm/secである上記項1〜4のいずれかに記載のアルキルシクロヘキサン系溶剤の製造方法。
【0016】
項6 A工程の水素化触媒がニッケル触媒である上記項1〜5のいずれかに記載のアルキルシクロヘキサン系溶剤の製造方法。
【0017】
項7 アルキルシクロヘキサンの含有量が80〜100容量%であり、且つ、アニリン点が45〜65℃である上記項1〜6に記載の製造方法により得られるアルキルシクロヘキサン系溶剤。
【0018】
【発明の実施の形態】
アルキルベンゼン
本発明に係るアルキルシクロヘキサン系溶剤の水素化原料であるアルキルベンゼンとしては、例えば、原油の蒸留留分、その水素化精製処理油、重油の直接脱硫で副生する低沸留分、重油又は重質軽油の水素化分解で得られる分解系低留分、及びナフサの接触改質反応で副生する改質系留分からなる群から選ばれる少なくとも1種で、沸点範囲が100〜200℃で、炭素数8〜10の芳香族成分が90容量%以上のアルキルベンゼン(芳香族留分)が推奨される。
【0019】
炭素数8〜10の芳香族成分としては、具体的には、エチルベンゼン、キシレン、ノルマルプロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、エチルトルエン、トリメチルベンゼン、イソブチルベンゼン、t−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、ノルマルブチルベンゼン、メチルノルマルプロピルベンゼン、メチルイソプロピルベンゼン、ジエチルベンゼン、ジメチルエチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等のモノ又はポリアルキル置換芳香族炭化水素類、インダン、テトラリン等の縮合芳香族炭化水素類等が例示される。
【0020】
上記の水素化原料は、それぞれ単独で又は2種以上を適宜組み合わせて使用できる。
【0021】
ただし、芳香族成分の水素化の際に使用する触媒を被毒するような硫黄成分の混入した原料は好ましくない。推奨される原料中の硫黄含有量は50ppm以下、好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは1ppm以下である。硫黄分はJIS K2541の方法により測定される。
【0022】
上記アルキルベンゼンをそのまま水素化原料として用いる場合、生産性又は反応性を考慮して芳香族成分の含有量を調整して用いることができる。水素化原料の芳香族成分の含有量としては、30容量%以上、好ましくは60容量%以上、更に好ましくは90容量%以上であることが望ましい。
【0023】
核水素化の際の発熱等が大きい場合は、水素化原料を希釈して用いることができる。かかる希釈に用いられる溶媒としては、予め反応塔に充填しておく溶媒と同一溶媒であることが生産性やコスト面等から好ましく、なかでも特に、水素化原料であるアルキルベンゼンを水素化して得られるアルキルシクロヘキサンが好ましい。
【0024】
水素化触媒
本発明で使用される水素化触媒としては、一般的には特に制限はなく、核水素化能力を有する粉末状接触水素化触媒であれば公知の各種の触媒が使用可能である。
【0025】
これらのうち特に、触媒性能面及び価格面から、ニッケル触媒が推奨される。かかるニッケル触媒は、単独系で、又は、助触媒として、コバルト、鉄、銅、マンガン、クロム、モリブテン、タングステン等からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属との複合系で用いることもできる。また、ラネーニッケルを用いることもできる。本発明で使用する触媒は、それ自体公知の触媒である。
【0026】
上記複合系触媒としては、具体的には、ニッケル−コバルト、ニッケル−モリブテン、ニッケル−タングステン、ニッケル−モリブテン−タングステン、ニッケル−モリブテン−マンガン、ニッケル−コバルト−モリブテン、ニッケル−コバルト−モリブテン−タングステン、ニッケル−モリブテン−マンガン等が例示できる。
【0027】
こうした水素化触媒としては、通常、上記金属又はこれらの酸化物等を無機質担体に担持させたものが用いられるが、金属単独でも使用することができる。
かかる水素化触媒における金属の担持量は、得られる触媒重量当たりの金属の重量%として計算して、通常、30〜90重量%、好ましくは50〜70重量%の範囲が推奨される。
【0028】
上記無機質担体としては、通常、水素化触媒の担体に利用される無機酸化物又はこれらの混合物が使用でき、具体的には、珪藻土、アルミナ、シリカ、グラファイト、マグネシア、チタニア、ゼオライト、モンモリロナイト、アルミナ−シリカ、アルミナ−チタニア、アルミナ−シリカ−マグネシア等が例示される。
【0029】
これらの担持触媒の調製法は、特に限定されないが、例えば、含浸法、浸漬法、混練法等の公知の方法に従って調製することができる。
【0030】
本発明に使用される担持触媒の粒径としては、通常、0.5〜100μm程度、好ましくは5〜40μm程度の範囲である。
【0031】
上記触媒量(割合)は、使用する触媒の種類や触媒性能によって異なるので一律に定めることはできないが、、通常は、反応塔内の全液量に対して、0.5〜10重量%、特に、1〜3重量%程度が好ましい。触媒量が0.5重量未満だと実用的な反応速度が得られにくく、一方、その触媒量が10重量%を越えると供給水素だけでは反応塔内の触媒を十分に拡散できなくなる傾向が見られる。
【0032】
アルキルシクロヘキサンの製造方法
本発明のアルキルシクロヘキサンの製造方法は、(A)アルキルベンゼンと水素ガスを、水素化触媒が該アルキルベンゼンを水素化して得られるアルキルシクロヘキサン溶媒中で懸濁状態にある反応塔に反応塔下部より連続的に供給し、核水素化を行う工程と、(B)A工程で生成したアルキルシクロヘキサンの全量又は一部を気体成分又は気液混合成分として反応塔上部より連続的に抜き出し、気液分離する工程、及び(C)B工程で分離された気体成分を熱交換器により凝縮し、未反応水素ガスとアルキルシクロヘキサンとに気液分離する工程からなる。
【0033】
A工程の核水素化反応において、十分な滞留時間が得られないため低反応率の水素化生成物が得られた場合は、得られた低反応率の水素化生成物を水素化原料として反応塔に再供給することにより高反応率を達成できる。
【0034】
A工程で発生する反応熱は、水素ガスの供給量を制御することによりアルキルシクロヘキサンの蒸発量を調節し、その蒸発熱により除去することができる。また、アルキルベンゼンをその水素化生成物であるアルキルシクロヘキサンで芳香族成分の含有量を調整した水素化原料を用い、反応熱を制御することもできる。
【0035】
このように、従来、核水素化反応に必要とされた反応熱除去のための特別な冷却用装置を必要としない。
【0036】
B工程の反応塔上部より抜き出すアルキルシクロヘキサンの液体成分と気体成分の重量比としては、液体成分:気体成分=0:100〜50:50であることが好ましい。液体成分の重量比が1を越えた場合、水素化の際発生する反応熱の除去効率や生産性が低下する傾向が見られる。
【0037】
上記反応塔上部より抜き出された気体成分と液体成分は気液分離器により分離され、該液体成分は、水素化触媒を含み、スラリーポンプにより反応塔底部に再導入する。このため、従来必要とされた触媒の回収・再使用するための分離工程が不要となり、設備面での費用を大幅に低減できる。また、触媒活性の失活の程度に応じて、該液体成分を反応塔に再導入せずに抜出し、新触媒を等量水素化生成物であるアルキルシクロヘキサンに分散させたスラリーとして反応塔下部より導入することにより、運転を停止することなく触媒を交換又は補充することができる。
【0038】
さらに、C工程では、上記B工程の気液分離器で分離された気体成分は、続く熱交換器で凝縮され、次の気液分離器により水素ガスと液体成分として水素化生成物に分離される。分離された水素ガスは、反応で消費された水素分を補充して、水素循環器により再び反応塔に導入される。
【0039】
〈原料供給速度、水素圧力、反応温度、水素供給速度、溶媒など〉
以下に、A工程の核水素化条件について詳細に述べる。
原料のアルキルベンゼンの供給速度としては、液空間速度(以下「LHSV」と略記する。)が通常、0.01〜1.0h−1、好ましくは0.01〜0.5h−1の範囲である。0.01未満では生産性が劣り実用的ではなく、一方、1.0を越える量を供給した場合は、反応率が低くなる傾向が見られる。
【0040】
本発明で用いられる水素圧力としては、0.5〜1.0MPaG程度の範囲が推奨される。水素圧力が0.5MPaG未満では反応速度が著しく遅くなり、一方、1.0MPaGを超えると高圧ガス保安法により安価な反応設備を用いることができなくなる。本発明の範囲内では、高価な反応設備を必要としないことから経済的に有利に製造できる。
【0041】
本発明に用いられる水素ガスの供給速度としては、反応熱を十分に除去でき、しかも、反応塔内の反応液が十分に懸濁状態を維持できる程度に混合できる範囲が必要である。かかる範囲としては、反応温度及び反応圧力下の空筒基準線速度が0.5〜20cm/sec程度、好ましくは1〜10程度が推奨される。これより小さいと十分な混合効果が得られなくなるため触媒との有効な気液接触が得られず、これより大きいと反応液の蒸発量が大きくなりすぎて十分な反応速度が得られにくくなる。
【0042】
反応温度としては、通常、100〜200℃程度、より好ましくは130〜180℃程度である。反応温度が100℃未満だと実用的な反応速度が得られず、一方、200℃を越えると反応混合物の蒸発量が多くなり、反応塔内での反応混合物の滞留時間が短くなるため高い反応率が得られなくなる傾向が見られる。
【0043】
溶媒としては、水素化反応に不活性な成分が選択されるが、特に水素化原料のアルキルベンゼンを水素化して得られるアルキルシクロヘキサンが生産性やコスト面等から推奨される。
【0044】
〈反応塔〉
本発明に用いられる反応塔としては、特に限定されず、任意の形状のものが使用できるが、水素ガスにより触媒と原料を混合し、懸濁状態に維持するため円筒状を採用することが好ましい。さらに、反応速度を向上させる目的で、反応塔内部は、開口部を有する仕切板で適当数区分されていてもよい。
【0045】
反応装置の長さ(L)及び直径(D)の比(L/D)は、原料の種類、生産量及び建造コストや操作性等に応じて適宜選択すればよいが、一般的にはL/Dが1〜50程度、好ましくは5〜10程度の反応器を使用するのが好ましい。
【0046】
アルキルシクロヘキサン系溶剤
本発明により得られるアルキルシクロヘキサン系溶剤としては、アルキルシクロヘキサン類の含有量が80〜100容量%であり、且つアニリン点が45〜65℃であることが望ましい。
【0047】
また、分留試験(JIS K−2254)におけるアルキルシクロヘキサン系溶剤の5%留出温度と95%留出温度との幅が30℃以内、好ましくは20℃以内、より好ましくは10℃以内であることが望ましい。上記温度幅が30℃を越える場合は、アニリン点が上昇し、溶解性が低下するため好ましくない。
【0048】
更に、未反応の残存芳香族成分が3容量%以下、好ましくは2容量%以下、さらに好ましくは1容量%以下であることが望ましい。
【0049】
また、上記アルキルシクロヘキサン系溶剤は、必要に応じて蒸留又は精密蒸留を行ってもよい。
【0050】
上記性状を有する本発明のアルキルシクロヘキサン系溶剤は、塗料、インキ、接着剤、ゴム、離型剤、粘着剤、撥水剤剤及び撥油剤、密封剤、精密部品や金属材料などの脱脂洗浄剤、クリーニング用溶剤用の各種用途に使用できる。
【0051】
【実施例】
以下に、本発明の実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
1)水素化原料として以下のアルキルベンゼンA及びBを用いた。
A: 分解系キシレン(沸点範囲136.5〜138.9℃、炭素数8のアルキルベンゼンの含有量99%、硫黄含有量1ppm以下)、
B:スワゾール1000(丸善石油化学社製、沸点範囲163.0〜175.0℃、炭素数8〜10のアルキルベンゼンの含有量99%、硫黄含有量1ppm以下)。
【0053】
2)装置
図1に示すような装置を用いる。即ち、内径5.29cm、塔長300cm(内容積6.6L)の懸濁床反応塔3、気液分離器4、熱交換器5、気液分離器6及び水素循環機8を備えている。予め、水素気流中で活性化した触媒が所定量のアルキルシクロヘキサン中で懸濁状態にある反応塔3に水素ガス循環機8を用いて、所定圧力に加圧した水素ガスを所定流量で流しておく。昇温を開始し、所定温度より約10℃低い温度に達したとき該アルキルシクロヘキサンの水素化原料であるアルキルベンゼンの供給を開始し、昇温を継続する(所定温度に達した時点を反応開始時間とする。)。反応塔頭頂部より気体成分と液体成分を連続的に気液分離器4に抜き出し、液体成分はスラリーポンプ9により反応塔3に循環させる。一方、気液分離器4で分離された気体成分は、熱交換器5により凝縮され、水素ガスと水素化生成物に気液分離器6で分離される。分離された未反応の水素ガスは、水素循環機8により連続的にリサイクルラインに供給して、所定圧力を維持する。通常、4〜6時間程度で定常状態に達する。
【0054】
3)反応率
反応率は、気液分離器6の下部より液体として採取されるアルキルシクロヘキサンについてUV吸収法により求めた。原料からノルマルヘキサン標準溶液(0.01〜0.1g/Lの濃度範囲の3点)を調製し、そのUVスペクトルにおける最大吸収ピークの波長の吸光度をUV分光光度計(島津製作所製、商品名「UV−2100」)で測定して、検量線を作成する。得られた検量線を基準として、測定試料を直接もしくはノルマルヘキサン溶液として、その吸光度を測定し、反応率を求めた。
【0055】
4)アニリン点
アニリン点はJIS−K2256に準拠して測定した。
【0056】
5)分留経時変化試験
分留経時変化試験はJIS−K2435に準拠して測定した。
【0057】
6)残存芳香族成分含有量
残存芳香族成分の含有量は、JIS K2356に準じて測定した。
【0058】
実施例1
上記反応装置に安定化Ni触媒SN110(堺化学社製)0.04kg及び上記水素化原料Aを核水素化して得られるアルキルシクロヘキサン(芳香族成分2容量%以下)4kgを充填した。水素ガスの空筒線基準速度を1.5cm/secに調整しながら135℃まで昇温した。昇温中に蒸発したアルキルシクロヘキサンは反応塔に再導入した。135℃に到達後を上記水素化原料AをLHSV0.21で仕込みを開始し、昇温を継続した。その後、反応温度145℃、反応圧力1.0MPaにて、水素を空筒基準線速度1.5cm/secで供給し、5時間運転して定常状態に到達後、液体成分が180g/hで得られ、ここで得られた液体成分はスラリーポンプにより反応塔に再導入した。また、気体成分のうち水素化生成物は熱交換器で凝集され、水素化生成物として反応率99.7%のアルキルシクロヘキサンが850g/hの速度で得られた。得られたアルキルシクロヘキサンの残存芳香族成分の含有量は0.3容量%であり、アニリン点は45.1℃であった。また、得られたアルキルシクロヘキサンの分留試験における5%留出温度と95%留出温度との幅は8.0℃であった。
【0059】
実施例2
実施例1と同様の反応装置に上記水素化原料Bを核水素化して得られるアルキルシクロヘキサン(芳香族成分2容量%以下)4kg及び安定化Ni触媒SN110(堺化学社製)0.04kgを充填した。水素ガスの空筒線基準速度を3.0cm/secに調整しながら155℃まで昇温した。昇温中に蒸発したアルキルシクロヘキサンはスラリーポンプにより反応塔に再導入した。155℃に到達後を水素化原料BをLHSV0.37で供給を開始し、昇温を継続した。その後、反応温度165℃、反応圧力0.86MPaにて、水素を空筒基準線速度3.0cm/secで供給し、4時間運転して定常状態に到達後、水素化生成物として反応率42%のアルキルシクロヘキサンが1500g/hの速度で得られた。
【0060】
次に、水素化原料Bに代えて得られた水素化生成物(反応率42%)をLHSV0.38で供給し、反応温度165℃、反応圧力0.86MPaにて、水素を空筒基準線速度3.0cm/secで導入し、4時間運転して定常状態に到達後、液体成分が350g/hで得られ、ここで得られた液体成分は反応塔にスラリーポンプにより再導入した。また、気体成分のうち水素化生成物は熱交換器で凝集され、水素化生成物として反応率99.9%のアルキルシクロヘキサンが1540g/hの速度で得られた。得られたアルキルシクロヘキサンの残存芳香族成分の含有量は0.1容量%であり、アニリン点は53.0℃であった。また、得られたアルキルシクロヘキサンの分留試験における5%留出温度と95%留出温度との幅は12.5℃であった。
【0061】
【発明の効果】
本発明の方法によってアルキルベンゼンを懸濁床方式による水素化触媒の存在下に核水素化してアルキルシクロヘキサン系溶剤を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 各実施例で使用した反応装置の概略図である。
【符号の説明】
1 原料タンク
2 原料仕込ポンプ
3 懸濁床反応塔
4 気液分離器
5 熱交換器
6 気液分離器
7 製品タンク
8 水素循環器
9 スラリーポンプ
10 圧力計
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルキルシクロヘキサン系溶剤の製造方法に関し、より詳しくは、アルキルベンゼンを懸濁床方式による触媒存在下に核水素化してアルキルシクロヘキサン系溶剤を効率よく製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルキルシクロヘキサンの製造方法としては、回分反応方式で、水素加圧下、接触水素化触媒を用い、アルキルベンゼンを核水素化する方法が知られている(非特許文献1)。しかしながら、回分反応方式で大規模に工業的生産を実施する場合、攪拌機を含めた反応装置や濾過装置が大型にならざるを得ず、反応設備の建設及び設備保全が容易でなくなるという欠点がある。
【0003】
一方、アルキルベンゼンを核水素化してアルキルシクロヘキサンを連続反応方式で生産する場合、固定床方式(特許文献1、特許文献2)と懸濁床方式(特許文献3)のいずれかを採用できる。かかる核水素化反応は、大きな発熱を伴う反応であるため、前記いずれの方式を採用したとしても発生する熱を除去(冷却)する技術、さらに、懸濁床方式では、触媒の回収・再使用する技術が必要である。
【0004】
従来、かかる反応熱を除去するため工業的に行われている方法としては、通常、慣用の冷却装置で制御可能な程度まで原料を水素化反応条件下で反応不活性な成分で希釈する方法が採られる。しかし、この方法では、水素化反応後、不活性成分と水素化生成物との分離工程が必要となり生産性が著しく低下する欠点がある。
【0005】
また、固定床方式の場合、反応塔を多管式とし熱交換面積を大きくして冷却する方法が知られている(非特許文献2)が、装置が複雑になり、また各管に均等に反応液を分散する特別な技術が必要である等の問題がある。
【0006】
懸濁床方式は、触媒の濾過工程が必要となる。濾過工程では、触媒を回収・再使用するため遠心分離機等により触媒と反応生成物の分離操作を行う。このような分離操作では、静電気の発生が懸念されることから、アルキルシクロヘキサンのような易帯電性及び易引火性を有する液体を扱う場合は非常に注意のいる操作であると言える。
【0007】
上記に記載の連続反応方式によりアルキルシクロヘキサンを効率よく製造するには、アルキルベンゼンの核水素化に伴う反応熱の除去と触媒の回収・再使用等の困難な問題を同時に解決する必要がある。これまで、これらの問題点を同時に解決した開示技術は見られず、大規模に工業的に効率よく製造する方法の開発が強く要望されている。
【0008】
【非特許文献1】
H.Adkins,W.H.Zartman,H.Cramer,J.Am.
Chem.Soc.,53,1425(1931)
【非特許文献2】
橋本健治著,「工業反応装置」,培風館(1984),p.39
【特許文献1】
特公昭46−42501号公報
【特許文献2】
特開平7−228897号公報
【特許文献3】
特開平6−116570号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、アルキルベンゼンを懸濁床方式による水素化触媒の存在下に核水素化してアルキルシクロヘキサン系溶剤を効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、アルキルベンゼンと水素ガスの両者を反応塔下部から連続的に供給する反応塔を用いて、懸濁床方式による水素化触媒の存在下にアルキルベンゼンの核水素化反応を行い、生成したアルキルシクロヘキサンを蒸発させ、その気化熱により反応熱を効率的に除去し、かつ、該アルキルシクロヘキサンが気体として得られるため水素化触媒はスラリーとして再循環することにより該触媒の濾過の必要がなく、連続的にアルキルシクロヘキサンが製造できることを見い出し、かかる知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下に示すアルキルシクロヘキサン系溶剤の製造方法を提供するものである。
項1 (A)アルキルベンゼンと水素ガスを、水素化触媒が該アルキルベンゼンを水素化して得られるアルキルシクロヘキサン中で懸濁状態にある反応塔に反応塔下部より連続的に供給し、反応温度100〜200℃で核水素化する工程、(B)A工程で生成したアルキルシクロヘキサンの一部又は全量を気体成分又は気液混合成分として反応塔上部より連続的に抜き出し、気液分離する工程、及び(C)B工程で分離された気体成分を熱交換器により凝縮し、未反応水素ガスとアルキルシクロヘキサンとに気液分離する工程からなることを特徴とするアルキルシクロヘキサン系溶剤の製造方法。
【0012】
項2 A工程のアルキルベンゼンの芳香族成分の含有量が90容量%以上である上記項1に記載のアルキルシクロヘキサン系溶剤の製造方法。
【0013】
項3 B工程の反応塔上部より抜き出すアルキルシクロヘキサンの液体成分と気体成分の重量比が、液体成分:気体成分=0:100〜50:50である上記項1又は2に記載のアルキルシクロヘキサン系溶剤の製造方法。
【0014】
項4 A工程の反応水素圧が0.5〜1.0MPaGである上記項1〜3のいずれかに記載のアルキルシクロヘキサン系溶剤の製造方法。
【0015】
項5 A工程の連続的に供給される水素ガスの空筒基準線速度が0.5〜20cm/secである上記項1〜4のいずれかに記載のアルキルシクロヘキサン系溶剤の製造方法。
【0016】
項6 A工程の水素化触媒がニッケル触媒である上記項1〜5のいずれかに記載のアルキルシクロヘキサン系溶剤の製造方法。
【0017】
項7 アルキルシクロヘキサンの含有量が80〜100容量%であり、且つ、アニリン点が45〜65℃である上記項1〜6に記載の製造方法により得られるアルキルシクロヘキサン系溶剤。
【0018】
【発明の実施の形態】
アルキルベンゼン
本発明に係るアルキルシクロヘキサン系溶剤の水素化原料であるアルキルベンゼンとしては、例えば、原油の蒸留留分、その水素化精製処理油、重油の直接脱硫で副生する低沸留分、重油又は重質軽油の水素化分解で得られる分解系低留分、及びナフサの接触改質反応で副生する改質系留分からなる群から選ばれる少なくとも1種で、沸点範囲が100〜200℃で、炭素数8〜10の芳香族成分が90容量%以上のアルキルベンゼン(芳香族留分)が推奨される。
【0019】
炭素数8〜10の芳香族成分としては、具体的には、エチルベンゼン、キシレン、ノルマルプロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、エチルトルエン、トリメチルベンゼン、イソブチルベンゼン、t−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、ノルマルブチルベンゼン、メチルノルマルプロピルベンゼン、メチルイソプロピルベンゼン、ジエチルベンゼン、ジメチルエチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等のモノ又はポリアルキル置換芳香族炭化水素類、インダン、テトラリン等の縮合芳香族炭化水素類等が例示される。
【0020】
上記の水素化原料は、それぞれ単独で又は2種以上を適宜組み合わせて使用できる。
【0021】
ただし、芳香族成分の水素化の際に使用する触媒を被毒するような硫黄成分の混入した原料は好ましくない。推奨される原料中の硫黄含有量は50ppm以下、好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは1ppm以下である。硫黄分はJIS K2541の方法により測定される。
【0022】
上記アルキルベンゼンをそのまま水素化原料として用いる場合、生産性又は反応性を考慮して芳香族成分の含有量を調整して用いることができる。水素化原料の芳香族成分の含有量としては、30容量%以上、好ましくは60容量%以上、更に好ましくは90容量%以上であることが望ましい。
【0023】
核水素化の際の発熱等が大きい場合は、水素化原料を希釈して用いることができる。かかる希釈に用いられる溶媒としては、予め反応塔に充填しておく溶媒と同一溶媒であることが生産性やコスト面等から好ましく、なかでも特に、水素化原料であるアルキルベンゼンを水素化して得られるアルキルシクロヘキサンが好ましい。
【0024】
水素化触媒
本発明で使用される水素化触媒としては、一般的には特に制限はなく、核水素化能力を有する粉末状接触水素化触媒であれば公知の各種の触媒が使用可能である。
【0025】
これらのうち特に、触媒性能面及び価格面から、ニッケル触媒が推奨される。かかるニッケル触媒は、単独系で、又は、助触媒として、コバルト、鉄、銅、マンガン、クロム、モリブテン、タングステン等からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属との複合系で用いることもできる。また、ラネーニッケルを用いることもできる。本発明で使用する触媒は、それ自体公知の触媒である。
【0026】
上記複合系触媒としては、具体的には、ニッケル−コバルト、ニッケル−モリブテン、ニッケル−タングステン、ニッケル−モリブテン−タングステン、ニッケル−モリブテン−マンガン、ニッケル−コバルト−モリブテン、ニッケル−コバルト−モリブテン−タングステン、ニッケル−モリブテン−マンガン等が例示できる。
【0027】
こうした水素化触媒としては、通常、上記金属又はこれらの酸化物等を無機質担体に担持させたものが用いられるが、金属単独でも使用することができる。
かかる水素化触媒における金属の担持量は、得られる触媒重量当たりの金属の重量%として計算して、通常、30〜90重量%、好ましくは50〜70重量%の範囲が推奨される。
【0028】
上記無機質担体としては、通常、水素化触媒の担体に利用される無機酸化物又はこれらの混合物が使用でき、具体的には、珪藻土、アルミナ、シリカ、グラファイト、マグネシア、チタニア、ゼオライト、モンモリロナイト、アルミナ−シリカ、アルミナ−チタニア、アルミナ−シリカ−マグネシア等が例示される。
【0029】
これらの担持触媒の調製法は、特に限定されないが、例えば、含浸法、浸漬法、混練法等の公知の方法に従って調製することができる。
【0030】
本発明に使用される担持触媒の粒径としては、通常、0.5〜100μm程度、好ましくは5〜40μm程度の範囲である。
【0031】
上記触媒量(割合)は、使用する触媒の種類や触媒性能によって異なるので一律に定めることはできないが、、通常は、反応塔内の全液量に対して、0.5〜10重量%、特に、1〜3重量%程度が好ましい。触媒量が0.5重量未満だと実用的な反応速度が得られにくく、一方、その触媒量が10重量%を越えると供給水素だけでは反応塔内の触媒を十分に拡散できなくなる傾向が見られる。
【0032】
アルキルシクロヘキサンの製造方法
本発明のアルキルシクロヘキサンの製造方法は、(A)アルキルベンゼンと水素ガスを、水素化触媒が該アルキルベンゼンを水素化して得られるアルキルシクロヘキサン溶媒中で懸濁状態にある反応塔に反応塔下部より連続的に供給し、核水素化を行う工程と、(B)A工程で生成したアルキルシクロヘキサンの全量又は一部を気体成分又は気液混合成分として反応塔上部より連続的に抜き出し、気液分離する工程、及び(C)B工程で分離された気体成分を熱交換器により凝縮し、未反応水素ガスとアルキルシクロヘキサンとに気液分離する工程からなる。
【0033】
A工程の核水素化反応において、十分な滞留時間が得られないため低反応率の水素化生成物が得られた場合は、得られた低反応率の水素化生成物を水素化原料として反応塔に再供給することにより高反応率を達成できる。
【0034】
A工程で発生する反応熱は、水素ガスの供給量を制御することによりアルキルシクロヘキサンの蒸発量を調節し、その蒸発熱により除去することができる。また、アルキルベンゼンをその水素化生成物であるアルキルシクロヘキサンで芳香族成分の含有量を調整した水素化原料を用い、反応熱を制御することもできる。
【0035】
このように、従来、核水素化反応に必要とされた反応熱除去のための特別な冷却用装置を必要としない。
【0036】
B工程の反応塔上部より抜き出すアルキルシクロヘキサンの液体成分と気体成分の重量比としては、液体成分:気体成分=0:100〜50:50であることが好ましい。液体成分の重量比が1を越えた場合、水素化の際発生する反応熱の除去効率や生産性が低下する傾向が見られる。
【0037】
上記反応塔上部より抜き出された気体成分と液体成分は気液分離器により分離され、該液体成分は、水素化触媒を含み、スラリーポンプにより反応塔底部に再導入する。このため、従来必要とされた触媒の回収・再使用するための分離工程が不要となり、設備面での費用を大幅に低減できる。また、触媒活性の失活の程度に応じて、該液体成分を反応塔に再導入せずに抜出し、新触媒を等量水素化生成物であるアルキルシクロヘキサンに分散させたスラリーとして反応塔下部より導入することにより、運転を停止することなく触媒を交換又は補充することができる。
【0038】
さらに、C工程では、上記B工程の気液分離器で分離された気体成分は、続く熱交換器で凝縮され、次の気液分離器により水素ガスと液体成分として水素化生成物に分離される。分離された水素ガスは、反応で消費された水素分を補充して、水素循環器により再び反応塔に導入される。
【0039】
〈原料供給速度、水素圧力、反応温度、水素供給速度、溶媒など〉
以下に、A工程の核水素化条件について詳細に述べる。
原料のアルキルベンゼンの供給速度としては、液空間速度(以下「LHSV」と略記する。)が通常、0.01〜1.0h−1、好ましくは0.01〜0.5h−1の範囲である。0.01未満では生産性が劣り実用的ではなく、一方、1.0を越える量を供給した場合は、反応率が低くなる傾向が見られる。
【0040】
本発明で用いられる水素圧力としては、0.5〜1.0MPaG程度の範囲が推奨される。水素圧力が0.5MPaG未満では反応速度が著しく遅くなり、一方、1.0MPaGを超えると高圧ガス保安法により安価な反応設備を用いることができなくなる。本発明の範囲内では、高価な反応設備を必要としないことから経済的に有利に製造できる。
【0041】
本発明に用いられる水素ガスの供給速度としては、反応熱を十分に除去でき、しかも、反応塔内の反応液が十分に懸濁状態を維持できる程度に混合できる範囲が必要である。かかる範囲としては、反応温度及び反応圧力下の空筒基準線速度が0.5〜20cm/sec程度、好ましくは1〜10程度が推奨される。これより小さいと十分な混合効果が得られなくなるため触媒との有効な気液接触が得られず、これより大きいと反応液の蒸発量が大きくなりすぎて十分な反応速度が得られにくくなる。
【0042】
反応温度としては、通常、100〜200℃程度、より好ましくは130〜180℃程度である。反応温度が100℃未満だと実用的な反応速度が得られず、一方、200℃を越えると反応混合物の蒸発量が多くなり、反応塔内での反応混合物の滞留時間が短くなるため高い反応率が得られなくなる傾向が見られる。
【0043】
溶媒としては、水素化反応に不活性な成分が選択されるが、特に水素化原料のアルキルベンゼンを水素化して得られるアルキルシクロヘキサンが生産性やコスト面等から推奨される。
【0044】
〈反応塔〉
本発明に用いられる反応塔としては、特に限定されず、任意の形状のものが使用できるが、水素ガスにより触媒と原料を混合し、懸濁状態に維持するため円筒状を採用することが好ましい。さらに、反応速度を向上させる目的で、反応塔内部は、開口部を有する仕切板で適当数区分されていてもよい。
【0045】
反応装置の長さ(L)及び直径(D)の比(L/D)は、原料の種類、生産量及び建造コストや操作性等に応じて適宜選択すればよいが、一般的にはL/Dが1〜50程度、好ましくは5〜10程度の反応器を使用するのが好ましい。
【0046】
アルキルシクロヘキサン系溶剤
本発明により得られるアルキルシクロヘキサン系溶剤としては、アルキルシクロヘキサン類の含有量が80〜100容量%であり、且つアニリン点が45〜65℃であることが望ましい。
【0047】
また、分留試験(JIS K−2254)におけるアルキルシクロヘキサン系溶剤の5%留出温度と95%留出温度との幅が30℃以内、好ましくは20℃以内、より好ましくは10℃以内であることが望ましい。上記温度幅が30℃を越える場合は、アニリン点が上昇し、溶解性が低下するため好ましくない。
【0048】
更に、未反応の残存芳香族成分が3容量%以下、好ましくは2容量%以下、さらに好ましくは1容量%以下であることが望ましい。
【0049】
また、上記アルキルシクロヘキサン系溶剤は、必要に応じて蒸留又は精密蒸留を行ってもよい。
【0050】
上記性状を有する本発明のアルキルシクロヘキサン系溶剤は、塗料、インキ、接着剤、ゴム、離型剤、粘着剤、撥水剤剤及び撥油剤、密封剤、精密部品や金属材料などの脱脂洗浄剤、クリーニング用溶剤用の各種用途に使用できる。
【0051】
【実施例】
以下に、本発明の実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
1)水素化原料として以下のアルキルベンゼンA及びBを用いた。
A: 分解系キシレン(沸点範囲136.5〜138.9℃、炭素数8のアルキルベンゼンの含有量99%、硫黄含有量1ppm以下)、
B:スワゾール1000(丸善石油化学社製、沸点範囲163.0〜175.0℃、炭素数8〜10のアルキルベンゼンの含有量99%、硫黄含有量1ppm以下)。
【0053】
2)装置
図1に示すような装置を用いる。即ち、内径5.29cm、塔長300cm(内容積6.6L)の懸濁床反応塔3、気液分離器4、熱交換器5、気液分離器6及び水素循環機8を備えている。予め、水素気流中で活性化した触媒が所定量のアルキルシクロヘキサン中で懸濁状態にある反応塔3に水素ガス循環機8を用いて、所定圧力に加圧した水素ガスを所定流量で流しておく。昇温を開始し、所定温度より約10℃低い温度に達したとき該アルキルシクロヘキサンの水素化原料であるアルキルベンゼンの供給を開始し、昇温を継続する(所定温度に達した時点を反応開始時間とする。)。反応塔頭頂部より気体成分と液体成分を連続的に気液分離器4に抜き出し、液体成分はスラリーポンプ9により反応塔3に循環させる。一方、気液分離器4で分離された気体成分は、熱交換器5により凝縮され、水素ガスと水素化生成物に気液分離器6で分離される。分離された未反応の水素ガスは、水素循環機8により連続的にリサイクルラインに供給して、所定圧力を維持する。通常、4〜6時間程度で定常状態に達する。
【0054】
3)反応率
反応率は、気液分離器6の下部より液体として採取されるアルキルシクロヘキサンについてUV吸収法により求めた。原料からノルマルヘキサン標準溶液(0.01〜0.1g/Lの濃度範囲の3点)を調製し、そのUVスペクトルにおける最大吸収ピークの波長の吸光度をUV分光光度計(島津製作所製、商品名「UV−2100」)で測定して、検量線を作成する。得られた検量線を基準として、測定試料を直接もしくはノルマルヘキサン溶液として、その吸光度を測定し、反応率を求めた。
【0055】
4)アニリン点
アニリン点はJIS−K2256に準拠して測定した。
【0056】
5)分留経時変化試験
分留経時変化試験はJIS−K2435に準拠して測定した。
【0057】
6)残存芳香族成分含有量
残存芳香族成分の含有量は、JIS K2356に準じて測定した。
【0058】
実施例1
上記反応装置に安定化Ni触媒SN110(堺化学社製)0.04kg及び上記水素化原料Aを核水素化して得られるアルキルシクロヘキサン(芳香族成分2容量%以下)4kgを充填した。水素ガスの空筒線基準速度を1.5cm/secに調整しながら135℃まで昇温した。昇温中に蒸発したアルキルシクロヘキサンは反応塔に再導入した。135℃に到達後を上記水素化原料AをLHSV0.21で仕込みを開始し、昇温を継続した。その後、反応温度145℃、反応圧力1.0MPaにて、水素を空筒基準線速度1.5cm/secで供給し、5時間運転して定常状態に到達後、液体成分が180g/hで得られ、ここで得られた液体成分はスラリーポンプにより反応塔に再導入した。また、気体成分のうち水素化生成物は熱交換器で凝集され、水素化生成物として反応率99.7%のアルキルシクロヘキサンが850g/hの速度で得られた。得られたアルキルシクロヘキサンの残存芳香族成分の含有量は0.3容量%であり、アニリン点は45.1℃であった。また、得られたアルキルシクロヘキサンの分留試験における5%留出温度と95%留出温度との幅は8.0℃であった。
【0059】
実施例2
実施例1と同様の反応装置に上記水素化原料Bを核水素化して得られるアルキルシクロヘキサン(芳香族成分2容量%以下)4kg及び安定化Ni触媒SN110(堺化学社製)0.04kgを充填した。水素ガスの空筒線基準速度を3.0cm/secに調整しながら155℃まで昇温した。昇温中に蒸発したアルキルシクロヘキサンはスラリーポンプにより反応塔に再導入した。155℃に到達後を水素化原料BをLHSV0.37で供給を開始し、昇温を継続した。その後、反応温度165℃、反応圧力0.86MPaにて、水素を空筒基準線速度3.0cm/secで供給し、4時間運転して定常状態に到達後、水素化生成物として反応率42%のアルキルシクロヘキサンが1500g/hの速度で得られた。
【0060】
次に、水素化原料Bに代えて得られた水素化生成物(反応率42%)をLHSV0.38で供給し、反応温度165℃、反応圧力0.86MPaにて、水素を空筒基準線速度3.0cm/secで導入し、4時間運転して定常状態に到達後、液体成分が350g/hで得られ、ここで得られた液体成分は反応塔にスラリーポンプにより再導入した。また、気体成分のうち水素化生成物は熱交換器で凝集され、水素化生成物として反応率99.9%のアルキルシクロヘキサンが1540g/hの速度で得られた。得られたアルキルシクロヘキサンの残存芳香族成分の含有量は0.1容量%であり、アニリン点は53.0℃であった。また、得られたアルキルシクロヘキサンの分留試験における5%留出温度と95%留出温度との幅は12.5℃であった。
【0061】
【発明の効果】
本発明の方法によってアルキルベンゼンを懸濁床方式による水素化触媒の存在下に核水素化してアルキルシクロヘキサン系溶剤を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 各実施例で使用した反応装置の概略図である。
【符号の説明】
1 原料タンク
2 原料仕込ポンプ
3 懸濁床反応塔
4 気液分離器
5 熱交換器
6 気液分離器
7 製品タンク
8 水素循環器
9 スラリーポンプ
10 圧力計
Claims (6)
- (A)アルキルベンゼンと水素ガスを、水素化触媒が該アルキルベンゼンを水素化して得られるアルキルシクロヘキサン中で懸濁状態にある反応塔に反応塔下部より連続的に供給し、反応温度100〜200℃で核水素化する工程、(B)A工程で生成したアルキルシクロヘキサンの一部又は全量を気液混合成分として反応塔上部より連続的に抜き出し、気液分離する工程、及び(C)B工程で分離された気体成分を熱交換器により凝縮し、未反応水素ガスとアルキルシクロヘキサンとに気液分離する工程からなることを特徴とするアルキルシクロヘキサン系溶剤の製造方法。
- A工程のアルキルベンゼンの芳香族成分の含有量が90容量%以上である請求項1に記載のアルキルシクロヘキサン系溶剤の製造方法。
- B工程の反応塔上部より抜き出すアルキルシクロヘキサンの液体成分と気体成分の重量比が、液体成分:気体成分=0:100〜50:50である請求項1又は2に記載のアルキルシクロヘキサン系溶剤の製造方法。
- A工程の反応水素圧が0.5〜1.0MPaGである請求項1〜3のいずれかに記載のアルキルシクロヘキサン系溶剤の製造方法。
- A工程の連続的に供給される水素ガスの空筒基準線速度が0.5〜20cm/secである請求項1〜4のいずれかに記載のアルキルシクロヘキサン系溶剤の製造方法。
- A工程の水素化触媒がニッケル触媒である請求項1〜5のいずれかに記載のアルキルシクロヘキサン系溶剤の製造方法。
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