JP3940246B2 - クラッチ装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、クラッチ装置、特に、クラッチカバー組立体がクラッチディスクの軸方向エンジン側に配置されたクラッチ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
クラッチ装置は、エンジンからの動力をトランスミッションの入力シャフトに伝達すると共に、必要に応じてその動力を遮断するための装置である。クラッチ装置は、主に、トランスミッションのクランクシャフトから動力が入力される摩擦駆動板と、摩擦駆動板に近接して配置されたクラッチディスクと、クラッチディスクを摩擦駆動板に付勢すると共に必要に応じてその付勢を解除するためのクラッチカバー組立体とから構成されている。クラッチカバー組立体は、駆動板と一体回転するように設けられたクラッチカバーと、クラッチカバー内に配置されクラッチディスクに近接して配置されたプレッシャープレートと、クラッチカバーに支持されプレッシャープレートをクラッチディスク及び駆動板側に付勢するための付勢部材とを有している。
【0003】
クラッチカバー組立体の種類として、クラッチカバー組立体が駆動板の軸方向エンジン側に配置されたものが知られている。この場合、クラッチカバー組立体に対して荷重を付与することでクラッチをレリーズするためのレリーズ機構は、摩擦駆動板の軸方向トランスミッション側に設けられている。レリーズ機構は、例えば、駆動板の軸方向トランスミッション側に固定されたカバー部材と、駆動板を貫通して一端がプレッシャープレートに当接する当接部となっているレリーズ部材と、カバー部材の一部を支点としてレバー部材の他端に当接するレバー部材とから構成されている。レバー部材に対して駆動機構からの荷重が作用すると、レバー部材はカバー部材に支持されてレリーズ部材を軸方向エンジン側に移動させる。これにより、プレッシャープレートは付勢部材からの付勢力に打ち勝ってクラッチディスクから離れる。このようにしてクラッチ装置においてクラッチ連結が解除される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
前記従来のクラッチ装置では、クラッチカバーは例えば内周部がクランクシャフトや他の部材に支持されている。このため、エンジンからの曲げ振動がクラッチ装置に入力されると、クラッチ装置全体が曲げ振動の影響を受け、共振現象を生じさせ易い。
【0005】
本発明の目的は、クラッチカバー組立体がクラッチディスクの軸方向エンジン側に配置されたクラッチ装置において、エンジンからの曲げ振動による悪影響を減らすことにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載のクラッチ装置は、クラッチディスクを連結・解除することで、エンジンのクランクシャフトからの動力をトランスミッションの入力シャフトに伝達・遮断するための装置であって、摩擦駆動板とクラッチカバー組立体とレリーズ機構と軸受とダンパー機構とを備えている。摩擦駆動板はクラッチディスクの軸方向トランスミッション側に配置されている。クラッチカバー組立体は、摩擦駆動板の軸方向エンジン側に固定されたクラッチカバーと、クラッチディスクの軸方向エンジン側に配置されたプレッシャープレートと、クラッチカバーに支持されプレッシャープレートをクラッチディスク側に付勢するための付勢部材とを有する。レリーズ機構は、摩擦駆動板の軸方向トランスミッション側に固定され内周端がトランスミッション側の部材に支持されたカバー部材と、一端がプレッシャープレートの軸方向トランスミッション側の面に当接し他端がカバー部材に近接して配置されたレリーズ部材と、カバー部材及びレリーズ部材の他端に支持されたレバー部材とを有する。軸受は、クラッチカバーの内周端と入力シャフトとの半径方向間に配置され、入力シャフトに対してクラッチカバーを回転可能に支持する。ダンパー機構は、クランクシャフトとクラッチカバー組立体とを回転方向に弾性的に連結する機構であって、クラッチカバー組立体に保持される複数の弾性部材と、クランクシャフトに固定され複数の弾性部材の端部同士の回転方向間にエンジン側から軸方向に挿入されるドライブ部材と、を有している。クラッチカバーの内周端は、クランクシャフトに設けられトランスミッション側に延びる環状突出部の内周側に軸方向に着脱可能に挿入されている。クラッチカバーはクランクシャフト側の部材のうち環状突出部のみによって半径方向に支持されている。
【0007】
このクラッチ装置では、カバー部材は内周端がトランスミッション側の部材に支持されている。このように、クラッチ装置において軸方向トランスミッション側に配置された部材であるカバー部材が支持されることによって、エンジンからの曲げ振動が入力された場合であっても装置全体が傾きにくくなっており、曲げ振動による共振現象が生じにくくなっている。また、このクラッチ装置では、クラッチカバーの内周端がクランクシャフトに支持されているため、クラッチ装置は軸方向両側で他の部材によって支持されていることになるため、エンジンからの曲げ振動が入力された場合の曲げ振動による共振現象が生じにくくなっている。
【0008】
請求項2に記載のクラッチ装置では、請求項1において、駆動機構は、インナーレースと、レバー部材に荷重を付与するためのアウターレースと、両レース間に配置された複数の転動体とからなるレリーズベアリングさらに有している。カバー部材の内周端はアウターレースによって支持されている。
このクラッチ装置では、レリーズベアリングを用いてカバー部材を支持しているため、特別な部材を設ける必要がない。
【0009】
請求項3に記載のクラッチ装置では、請求項2において、アウターレースに取り付けられ、カバー部材の内周面を軸方向に摺動可能に支持する外周面を有する筒状部材をさらに備えている。
このクラッチ装置では、カバー部材の内周面はレリーズベアリングに取り付けられた筒状部材によって支持されている。
【0010】
請求項4に記載のクラッチ装置では、請求項3において、筒状部材は、外周面を有する筒状部と、レバー部材に当接する当接部とを有している。
このクラッチ装置では、筒状部材はカバー部材の内周端を支持すると共にレバー部材を駆動する機能を有している。
請求項5に記載のクラッチ装置では、請求項1〜4のいずれかにおいて、軸受のエンジン側の端面は環状突出部の半径方向内側に配置されている
【0011】
請求項6に記載のクラッチ装置では、請求項1〜5のいずれかにおいて、クラッチカバーの内周端のエンジン側の端面はクランクシャフトに軸方向に当接している
【0013】
【発明の実施の形態
第1実施形態
図1に本発明の第1実施形態としてのクラッチ装置1の縦断面概略図を示す。クラッチ装置1は、エンジンのクランクシャフト2からトランスミッションの入力シャフト3にトルクを伝達及び遮断するための装置である。図1の左側にエンジン(図示せず)が配置され、図1の右側にトランスミッション(図示せず)が配置されている。
【0014】
クラッチ装置1は、主に、質量体5と、クラッチディスク組立体7と、クラッチカバー組立体8と、レリーズ機構10とを備えている。
質量体5はクランクシャフト2の先端に固定されている。質量体5はクランクシャフト2側に大きな慣性モーメントを確保するための部材である。質量体5は円板状部材12と環状部材13とから構成されている。円板状部材12は内周端が複数のボルト15によってクランクシャフト2の先端に固定されている。ボルト15は軸方向トランスミッション側から取り付けられている。円板状部材12の内周縁は、クランクシャフト2の先端面に形成された環状突出部2aの外周面に当接している。環状部材13は円板状部材12の外周端軸方向トランスミッション側に固定されている。環状部材13は軸方向厚みの大きいイナーシャ部材である。環状部材13は円周方向に並んだ複数のボルト16によって円板状部材12に固定されている。ボルト16は軸方向エンジン側から取り付けられている。さらに、円板状部材12の外周縁にはエンジン始動用リングギア17が固定されている。なお、質量体は一体の部材から構成されていてもよい。
【0015】
摩擦駆動板23は質量体5の軸方向トランスミッション側に間隔をあけて配置された円板状かつ環状の部材である。摩擦駆動板23の外径は環状部材13の外径とほぼ等しい。但し、摩擦駆動板23の内径は環状部材13の内径より小さくかつ円板状部材12の内径より大きい。摩擦駆動板23は軸方向エンジン側に環状かつ平坦な摩擦面25を有している。さらに、摩擦駆動板23の摩擦面25より外周側の部分には、円周方向に並んで複数の軸方向貫通孔26が形成されている。
【0016】
クラッチディスク組立体7は、クラッチディスク82と、連結プレート83と、ハブ85とから主に構成されている。クラッチディスク82はプレートとそのプレートの両面に設けられた1対の摩擦フェーシングとから構成されている。クラッチディスク82は摩擦駆動板23の摩擦面25に近接して配置されている。連結プレート83は環状かつ円板状のプレート部材であり、後述するクラッチカバー28の内周側部分33の軸方向トランスミッション側に近接して配置されている。連結プレート83の外周部は図示しないリベット等によりクラッチディスク82のプレートに固定されている。また、連結プレート83の内周部複数のリベット84によってハブ85のフランジに固定されている。ハブ85の内周面には入力シャフト3と係合するスプライン孔が形成されている。
【0017】
次に、クラッチカバー組立体8について説明する。クラッチカバー組立体8は、摩擦駆動板23に対して軸方向エンジン側に取り付けられた主にクラッチカバー28の外周側部分32と、プレッシャープレート51と、コーンスプリング52とから構成されている。
クラッチカバー28(プレート部材)は、質量体5の軸方向トランスミッション側に近接して配置された円板状かつ環状のプレート部材である。クラッチカバー28の外径は環状部材13の外径とほぼ等しいが、内径は円板状部材12の内径よりさらに小さい。クラッチカバー28はその半径方向中間で外周側部分32と内周側部分33とに分かれている。外周側部分32は概ね軸方向エンジン側に突出するように曲げられており、摩擦駆動板23との軸方向間に空間を確保している。また、内周側部分33は軸方向トランスミッション側に突出するように曲げられており、円板状部材12との軸方向間に空間を確保している。外周側部分32の最外周縁部分34は図示しないボルト等により摩擦駆動板23の外周部に固定されている。また、内周側部分33の内周端は筒状部37とその先端から内周側に延びるフランジ38とから構成されている。筒状部37の外周面はクランクシャフト2の環状突出部2aの内周面に当接し、フランジ38はクランクシャフト2において環状突出部2aより内周側の軸方向端面2bに軸方向トランスミッション側から当接している。このように、クラッチカバー28の内周端はクランクシャフト2に対して半径方向及び軸方向の位置決めがされている。さらに、筒状部37と入力シャフト3と間に軸受39が配置されている。軸受39はインナーレースとアウターレースと複数の転動体とからなるラジアル軸受であり、クラッチカバー28に対して入力シャフト3を回転自在に支持している。
【0018】
プレッシャープレート51はクラッチディスク82の軸方向エンジン側に配置された環状の部材である。プレッシャープレート51はクラッチディスク82に対向する環状かつ平坦な押圧面51aを有している。
コーンスプリング52(付勢部材)は、外周側部分32とプレッシャープレート51との軸方向間に配置されている。コーンスプリング52の外周端はプレッシャープレート51の環状突出部51bに支持され、その内周端はクラッチカバー28に形成された環状突出部35に支持されている。この状態でコーンスプリング52は軸方向に弾性変形させられており、それによりプレッシャープレート51に対して軸方向トランスミッション側に付勢する力を与えている。また、コーンスプリング52の内周面はクラッチカバー28に形成された筒状部分の外周面に支持され、半径方向の位置決めがされている。付勢部材の種類はコーンスプリングに限定されない。
【0019】
ダンパー機構24はクラッチカバー組立体8をクランクシャフト2に対して回転方向に弾性的に連結するための機構である。ダンパー機構24は、ドライブ部材29と、クラッチカバー28の内周側部分33と、複数の弾性部材30とから構成されている。
ドライブ部材29は、環状のプレート部材であり、前述の複数のボルト15によってクランクシャフト2の先端に固定されている。ドライブ部材29は、円板状部材12の内周端の軸方向トランスミッション側に当接する環状部分と、その外周縁から軸方向トランスミッション側に延びる複数の当接部46とを有している。
【0020】
クラッチカバー28の内周側部分33には、円周方向に延びる複数のばね保持部36が形成されている。ばね保持部36は他の部分に比べて軸方向トランスミッション側に突出するように絞り加工で形成された突出部分であり、軸方向エンジン側に凹んでいる。各ばね保持部36の円周方向間にはばね保持部36に比べて半径方向が短い凹部41が形成されている。
【0021】
各弾性部材30は、円周方向に長く延びるコイルスプリングであり、ばね保持部36内に収容されている。弾性部材30の円周方向両端にはスプリングシート43が配置されており、スプリングシート43は各弾性部材30の円周方向両端を支持すると共に凹部41の半径方向両側に形成された支持面42に当接している。スプリングシート43は、弾性部材30を支持する支持部と、その支持部から弾性部材30のコイル内に延びる突出部とを有している。ここで、前述のドライブ部材29の当接部46は凹部41内に延びてその円周方向両端がスプリングシート43の支持部背面に当接又は近接している。このようにして、ドライブ部材29のトルクは弾性部材30を介してクラッチカバー28に伝達されるようになっている。さらに、ばね保持部36の外周側部分には、弧状又は環状の保持プレート48が複数のリベット49によって固定されている。保持プレート48は弾性部材30の半径方向外側においてその軸方向エンジン側を支持するようになっている。これにより、弾性部材30はクラッチカバー28に保持され、軸方向に脱落しないようになっている。また、ドライブ部材29の当接部46はこの保持された弾性部材30に対して軸方向からの移動のみによって係合又は係合解除することができる。なお、弾性部材の種類はコイルスプリングに限定されず、板状部材を折り曲げて複数のばね要素を形成した曲がり板ばねであってもよい。
【0022】
以上に述べたように、クラッチカバー28は、内周側部分33によってダンパー機構24の出力側部材を構成し、外周側部分32によってクラッチカバー組立体8のばね支持部を構成している。このように1つの部材に複数の機能を持たせることで全体の部品点数が少なくなっている。さらに、外周側部分32に形成された軸方向トランスミッション側を向く凹部内にプレッシャープレート51及びコーンスプリング52を収容し、さらに内周側部分33に形成された軸方向エンジン側を向く凹部内に弾性部材30、ドライブ部材29さらにはボルト15の頭部を収容しているため、半径方向及び軸方向にコンパクトな構造になっている。特に弾性部材30がプレッシャープレート51の内周側に配置されている構造が効果的である。ここで、例えばダンパー機構24の弾性部材30をプレッシャープレート51の軸方向エンジン側に配置すれば装置全体の軸方向寸法が大きくなり、又は弾性部材30をプレッシャープレート51の半径方向外側に配置すれば装置全体の半径方向寸法が大きくなってしまう。
【0023】
さらに、前述の環状部材13はクラッチカバー28の外周側部分32のさらに外周側に配置されており、クラッチ装置1の軸方向及び半径方向寸法を大きくすることなく十分な慣性モーメントを確保している。
以上に述べたように、クラッチカバー組立体8はダンパー機構24を介して直接クランクシャフト2に連結されている。このため、ダンパー機構24の構造が簡単かつコンパクトにな、組み付け作業性が向上している。
【0024】
次にレリーズ機構10について説明する。レリーズ機構10は主にカバー組立体54と駆動機構55とから構成されている。カバー組立体54は摩擦駆動板23の軸方向トランスミッション側に取り付けられている。すなわちカバー組立体54は摩擦駆動板23に対してクラッチカバー組立体8と反対側に配置されている。カバー組立体54は、後述する駆動機構55からの荷重をプレッシャープレート51に伝えることでクラッチ連結を解除するための機構である。カバー組立体54は、カバー部材57と、レリーズ部材58と、レバー部材59とから構成されている。
【0025】
カバー部材57は環状のプレート部材であり、摩擦駆動板23の外周側面に当接する外周部57aと、外周部57aの内周縁から軸方向トランスミッション側に延びる筒状部57bと、筒状部57bの先端から内周側に延びる内周部57cとを有している。内周部57cは摩擦駆動板23の軸方向トランスミッション側面から軸方向に離れて配置されている。外周部57aは図示しないボルト等によって摩擦駆動板23の外周部に固定されている。内周部57cには軸方向エンジン側に延びる環状突出部68が形成されている。
【0026】
レリーズ部材58は軸方向に延びる駆動部材60と支持部形成部材61とから構成されている。駆動部材60は、図2に示すように概ね筒状の部材であり、環状の着座部62と、着座部62から軸方向トランスミッション側に延びる複数の軸方向延長部63とから構成されている。着座部62の軸方向エンジン側端はプレッシャープレート51の軸方向トランスミッション側の外周縁に形成された溝51cに当接している。また、着座部62の先端側内周面は溝51cの外周面に当接して半径方向の位置決めがされている。このように環状の着座部62によって、駆動部材60のプレッシャープレート51に対する姿勢が安定している。軸方向延長部63は、図1及び図2に示すように、摩擦駆動板23の軸方向貫通孔26内を軸方向に貫通しており、先端は摩擦駆動板23の軸方向トランスミッション側面よりさらに突出している。軸方向延長部63の先端は、半径方向内側に折り曲げられてさらに軸方向に延びる折り曲げ部64となっている。
【0027】
支持部形成部材61は、駆動部材60に環状の支持部を形成するための部材であり、駆動部材60に対して軸方向トランスミッション側から容易に着脱可能である。支持部形成部材61は、概ね環状のプレート部材であり、円板状部93とその外周端から軸方向トランスミッション側に延びる筒状部94とから構成されている。円板状部93には軸方向トランスミッション側に突出する環状突出部67が形成されている。環状突出部67は環状突出部68の外周側に位置している。筒状部94の先端は折り曲げ部64の外周側に当接している。また、筒状部94には切り曲げられて折り曲げ部64の内周側に当接する屈曲部66とを有している。屈曲部66は折り曲げ部64の円周方向中間に位置している。このようにして、筒状部94と屈曲部66との半径方向間に折り曲げ部64が挟まれており、支持部形成部材61は各軸方向延長部63の先端に対して軸方向及び半径方向に移動不能に係合している。
【0028】
レバー部材59は環状かつ円板状のプレート部材である。レバー部材59の外周部はカバー部材57の内周部57cの軸方向エンジン側に近接して配置されている。レバー部材59の外周端は支持部形成部材61の環状突出部67に軸方向トランスミッション側から当接し、さらにその内周側の部分がカバー部材57の環状突出部68に軸方向エンジン側から当接している。レバー部材59は例えば円板状プレートに内周縁及び外周縁から交互に形成されたスリットによって弾性機能をほとんど有さず単にレバーとしてのみ機能するようになっていてもよい。以上に述べた構造において、レバー部材59の内周端が軸方向トランスミッション側に移動すると、カバー部材57の環状突出部68を支点としてレバー部材59の外周端が軸方向エンジン側に回動し、レリーズ部材58を軸方向エンジン側に移動させる。これにより、プレッシャープレート51はコーンスプリング52からの付勢力に打ち勝ってクラッチディスク82から離れていく。
【0029】
駆動機構55はレバー部材59を駆動することでクラッチレリーズ動作を行うための機構である。駆動機構55は主にレリーズベアリング69と油圧シリンダ70と油圧回路71とから構成されている。レリーズベアリング69は主にインナーレースとアウターレースとその間に配置された複数の転動体からなり、ラジアル荷重及びスラスト荷重を受けることが可能となっている。レリーズベアリング69のアウターレースには、筒状部材72が装着されている。筒状部材72はアウターレースの外周面に当接する筒状部73と、筒状部73の軸方向エンジン側端から半径方向外側に延びる第1フランジ74と、筒状部73の軸方向トランスミッション側端から半径方向内側に延びアウターレースの軸方向トランスミッション側面に当接する第2フランジ75とを有している。第1フランジ74はレバー部材59の半径方向内側端に軸方向エンジン側から当接している。
【0030】
油圧シリンダ70は、油圧室構成部材76と、ピストン77とから主に構成されている。油圧室構成部材76はその内周側に配置されたピストン77との間に油圧室79を構成している。油圧室79内には油圧回路71から油圧が供給可能となっている。ピストン77は筒状の部材であり、その内周面はトランスミッション側から延びる筒状シャフト80の外周面に支持されている。さらに、ピストン77はレリーズベアリング69のインナーレースに対して軸方向エンジン側から当接するフランジ78を有している。この状態で油圧回路71から油圧室79内の作動油がドレンされると、ピストン77は軸方向トランスミッション側に移動しレリーズベアリング69を移動させる。
【0031】
次に、カバー部材57を支持する構造について説明する。筒状部材72の筒状部73には、軸方向トランスミッション側に延びる延長部87がさらに形成されている。これにより、筒状部材72には軸方向に長い外周面91が形成されている。
カバー部材57の内周部57cは、前記実施形態よりさらに内周側に延びており、内周側延長部88を形成している。これにより、内周部57cの内径は、レバー部材59の内径とほぼ等しくなっており、レリーズベアリング69の近傍に位置している。内周側延長部88には複数の孔88aが形成されている。さらに、内周側延長部88の内周縁には軸方向エンジン側に延びる筒状部89が形成されている。この筒状部89の内周側には筒状部材90が固定されている。筒状部材90の内周面は延長部87の外周面91に支持されている。ここで、カバー部材57はクラッチカバー組立体8、摩擦駆動板23及びカバー組立体54からなる一体の構成において最もトランスミッション側に配置された部材であり、その部材がトランスミッション側の他の部材によって支持されていることになる。この結果、エンジンンからの曲げ振動によってクラッチ装置1全体が傾きにくくなっており、エンジンの曲げ振動によって発生する共振現象を抑えることができる。これにより、クラッチカバー28の板厚を小さくできる。
【0032】
また、クラッチカバー28はクラッチカバー組立体8、摩擦駆動板23及びカバー組立体54からなる一体の構成において最も軸方向エンジン側に配置された部材であり、その内周端がクランクシャフト2に支持されているため、結果として軸方向両側でそれぞれクラッチ装置1の支持が行われている。そのため、さらに、エンジン側からの曲げ振動に対して共振現象を生じにくなっている。
【0033】
また、カバー部材57の内周端を支持するための部材としてレリーズベアリング69を用いているため、特別な部品やそのためのスペースが不要である。別の表現を用いると、筒状部材72は、レバー部材59を駆動するための第1フランジ74と、カバー部材57を支持するための延長部87とを有している。さらに、内周側延長部88側に軸方向に長い筒状部材90を用いることで、カバー部材57の内周面と他の部材との軸方向接触長さを長くすることができ、カバー部材57がより傾きにくくなっている。さらに、筒状部材90に低摩擦係数の材料を用いるなどして、レリーズベアリング69が軸方向に移動する際に当接部分間での摺動抵抗を小さくできる。
【0034】
次に、クラッチ装置1の組み付け動作について説明する。図4に示すように、エンジン側の構成としては、ボルト15によってクランクシャフト2の先端に質量体5とドライブ部材29とが予め固定されている。また、クラッチカバー28には、弾性部材30が予め取り付けられている。これは組み付け動作前にダンパー機構24を主に構成する弾性部材30があらかじめクラッチカバー組立体8の一部すなわちクラッチカバー28に装着されていることを意味する。このため、組付け前のクラッチカバー組立体8及び弾性部材30の運搬や保管が便利になっている。
【0035】
この状態から例えばエンジン及びクランクシャフトを軸方向トランスミッション側に移動させて行く。すると、ドライブ部材29の当接部46は軸方向トランスミッション側から各弾性部材30の円周方向間に、より具体的にはスプリングシート43の間に挿入される。クランクシャフト2の軸方向端面2bがクラッチカバー28のフランジ38に当接すると、両者の軸方向相対移動が停止する。以上に述べたように、クランクシャフト2とクラッチカバー組立体8との組み付け動作は、両側の部材を軸方向に移動させるだけで完了し、ボルトやリベット等の締結部材等を必要としない。このようにクラッチ装置1の組み付け時の作業が簡単になり、組み付け作業が短時間で行える。一言で言うと、クラッチ装置1の組み付け性が向上している。
第2実施形態
図5及び図6に本発明の第2実施形態としてのクラッチ装置の縦断面概略図を示す。本実施形態のクラッチ装置1は基本構造が第1実施形態のものと同様であるので、ここでは異なる点についてのみ説明する。
〔カバー部材の支持構造〕
カバー部材57’における環状突出部68’は、第1実施形態の環状突出部68に比べて外周側に位置している。また、支持部形成部材61’の環状突出部67’は第1実施形態の環状突出部67に比べて内周側に位置している。これにより、レバー部材59’の外周端は環状突出部68’に対して軸方向エンジン側から当接し、さらにその内周側部分が環状突出部67’に対して軸方向トランスミッション側から当接している。
【0036】
レリーズベアリング69’のアウターレースに設けられた筒状部材72’は、アウターレース外周面に当接する筒状部73’と、筒状部73’の軸方向エンジン側端から内周側に突出しアウターレースの軸方向エンジン側面に当接する第2フランジ75’と、筒状部73’の軸方向トランスミッション端から外周側に延びる第1フランジ74’とを有している。第1フランジ74’はレバー部材59’の内周端に軸方向トランスミッション側から当接している。筒状部材72’の筒状部73’には、軸方向トランスミッション側に延びる延長部87’がさらに形成されている。これにより、筒状部材72’には軸方向に長い外周面91’が形成されている。
【0037】
カバー部材57’の内周部57c’は、内周側に延びており、内周側延長部88’を形成している。これにより、内周部57c’の内径はレバー部材59’の内径とほぼ等しくなっており、レリーズベアリング69の近傍に位置している。内周側延長部88’には複数の孔88a’が形成されている。さらに、内周側延長部88’の内周縁には軸方向トランスミッション側に延びる筒状部89’が形成されている。この筒状部89’の内周側には筒状部材90’が固定されている。筒状部材90’の内周面は延長部87’の外周面91’に支持されている。この構造によって得られる効果は前記実施形態と同様である。
〔ダンパーのロック機構〕
クラッチカバー28は、軸方向に薄い板金製であり、軸方向に弾性変形可能である。さらに、クラッチカバー28の外周側部分32において平坦な環状部分32aの軸方向エンジン側には摩擦フェーシング99が接着されている。摩擦フェーシング99は円板状部材12の平坦な面に対して軸方向に対向している。図5に示すクラッチ連結状態では、摩擦フェーシング99と円板状部材12との軸方向間には隙間が確保されている。
【0038】
図5に示す状態から、油圧回路71によって油圧室79内の作動油がドレンされると、ピストン77は軸方向エンジン側に移動する。これにより、レリーズベアリング69’はレバー部材59’の内周端を軸方向エンジン側に移動させる。レバー部材59’はカバー部材57’の環状突出部68’を支点として回動し、レリーズ部材58を軸方向エンジン側に移動させる。これによりプレッシャープレート51はコーンスプリング52の付勢力に打ち勝ってクラッチディスク82から離れる。このとき、レリーズベアリング69’からクラッチカバー組立体8に対して軸方向エンジン側に作用する荷重によって、クラッチカバー28の特に外周側部分32が軸方向エンジン側に弾性変形する。これより、摩擦フェーシング99が円板状部材12に当接して摩擦係合する。すなわち、ダンパー機構24の出力側部材であるクラッチカバー28がクランクシャフト2と一体回転する円板状部材12と摩擦係合して一体回転するようになる。さらに言い換えると、クラッチカバー28や摩擦駆動板23がクランクシャフト2に対してロックされた状態となり、ダンパー機構24が作動しない。したがって、エンジン始動時の低回転数領域(例えば回転数0〜500rpm)での共振点通過時には、クラッチをレリーズすることで、共振によるダンパー機構24の破損や音/振動を生じにくくしている。
【0039】
以上に述べた構造及び動作をまとめて説明すると、このクラッチ装置1では、レリーズ機構10がクラッチカバー組立体8に対して荷重を付与することでクラッチをレリーズすると、その荷重を利用してクラッチカバー28の摩擦フェーシング99が円板状部材12に摩擦係合させられる。ここでは、ダンパー機構24のロックがクラッチレリーズ時におけるレリーズ機構10からの荷重を利用しているため、構造が簡単になる。特に、ロック機構が円板状部材12やクラッチカバー28といった従来部材からなるため、特別な構造を設ける必要がない。
【0040】
ここで本実施形態と第1実施形態とを比べてみると、本実施形態のクラッチ装置はレバー部材59の内周端を軸方向エンジン側に押すことでクラッチをレリーズするプッシュタイプであり、第1実施形態のクラッチ装置はレバー部材59の内周端を軸方向トランスミッション側に引くことでクラッチをレリーズするプルタイプである。ここで両者の違いはカバー組立体54や駆動機構55などのレリーズ機構10のみに存在し、クラッチカバー組立体8のプレッシャープレート51やコーンスプリング52は共通していることが分かる。言い換えると、共通部分に対してカバー部材、支持部形成部材等を変えるだけでプルタイプのクラッチ装置とプッシュタイプのクラッチ装置とを製造できる。ここで、レリーズ部材58において駆動部材60は共通部品であり交換する必要がないため、異なる部材はすべて軸方向トランスミッション側から取付可能であり、作業性がよい。
〔変形例〕
本発明は前記実施形態に限定されない。本発明は、他の種類のクラッチ装置、例えば、クラッチカバー組立体が摩擦板の軸方向トランスミッション側に配置されたクラッチ装置や、摩擦駆動板の軸方向両側に別のクラッチカバー組立体を設け2出力を可能とするクラッチ装置にも採用できる。
【0041】
【発明の効果】
本発明に係るクラッチ装置では、カバー部材は内周端がトランスミッション側の部材に支持されていため、エンジンからの曲げ振動が入力された場合であっても装置全体が傾きにくくなっており、曲げ振動による共振現象が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態としてのクラッチ装置の縦断面概略図。
【図2】レリーズ部材を説明するための部分側面図。
【図3】ダンパー機構を説明するための部分平面図。
【図4】クラッチ装置の組み付け動作を説明するための縦断面概略図。
【図5】本発明の第2実施形態に係るクラッチ装置の縦断面概略図。
【図6】クラッチ装置の組み付け動作を説明するための縦断面概略図。
【符号の説明】
1 クラッチ装置
2 クランクシャフト
3 入力シャフト
5 質量体
7 クラッチディスク組立体
8 クラッチカバー組立体
10 レリーズ機構
23 摩擦駆動板
28 クラッチカバー
29 ドライブ部材
30 弾性部材
51 プレッシャープレート
52 コーンスプリング

Claims (6)

  1. クラッチディスクを連結・解除することで、エンジンのクランクシャフトからの動力をトランスミッションの入力シャフトに伝達・遮断するためのクラッチ装置であって、
    前記クラッチディスクの軸方向トランスミッション側に配置された摩擦駆動板と、
    前記摩擦駆動板の軸方向エンジン側に固定されたクラッチカバーと、前記クラッチディスクの軸方向エンジン側に配置されたプレッシャープレートと、前記クラッチカバーに支持され前記プレッシャープレートを前記クラッチディスク側に付勢するための付勢部材とを有するクラッチカバー組立体と、
    前記摩擦駆動板の軸方向トランスミッション側に固定され内周端が前記トランスミッション側の部材に支持されたカバー部材と、一端が前記プレッシャープレートの軸方向トランスミッション側の面に当接し他端が前記カバー部材に近接して配置されたレリーズ部材と、前記カバー部材及び前記レリーズ部材の前記他端に支持されたレバー部材と、前記レバー部材を駆動することで前記レリーズ部材を介して前記プレッシャープレートを軸方向エンジン側に移動させるための駆動機構とを有するレリーズ機構と、
    前記クラッチカバーの内周端と前記入力シャフトとの半径方向間に配置され、前記入力シャフトに対して前記クラッチカバーを回転可能に支持する軸受と、
    前記クランクシャフトと前記クラッチカバー組立体とを回転方向に弾性的に連結する機構であって、前記クラッチカバー組立体に保持された複数の弾性部材と、前記クランクシャフトに固定され前記複数の弾性部材の端部同士の回転方向間に前記エンジン側から軸方向に挿入されるドライブ部材と、を有するダンパー機構と、を備え、
    前記クラッチカバーの内周端は、前記クランクシャフトに設けられ前記トランスミッション側に延びる環状突出部の内周側に軸方向に着脱可能に挿入されており、
    前記クラッチカバーは、前記クランクシャフト側の部材のうち前記環状突出部のみによって半径方向に支持されている、クラッチ装置。
  2. 前記駆動機構は、インナーレースと、前記レバー部材に荷重を付与するためのアウターレースと、前記両レース間に配置された複数の転動体とからなるレリーズベアリングをさらに有し、
    前記カバー部材の内周端は前記アウターレースによって支持されている、請求項1に記載のクラッチ装置。
  3. 前記アウターレースに取り付けられ、前記カバー部材の内周面を軸方向に摺動可能に支持する外周面を有する筒状部材をさらに備えている、請求項2に記載のクラッチ装置。
  4. 前記筒状部材は、前記外周面を有する筒状部と、前記レバー部材に当接する当接部とを有している、請求項3に記載のクラッチ装置。
  5. 前記軸受の前記エンジン側の端面は、前記環状突出部の半径方向内側に配置されている、請求項1〜4のいずれかに記載のクラッチ装置。
  6. 前記クラッチカバーの内周端の前記エンジン側の端面は前記クランクシャフトに軸方向に当接している、請求項1〜5のいずれかに記載のクラッチ装置。
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