JP3939482B2 - 制動トルク制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明が属する技術分野】
この発明は、制動トルク制御装置、特に、回生制動トルク制御装置と摩擦制動トルク制御装置とを備えた車両の制動トルク制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
周知のように、自動車等の車両の制動トルク制御装置としては、ブレーキペダルに連繋されたマスタシリンダから車輪側に付設されたホイールシリンダに至る液圧回路を備え、運転者のブレーキ操作に応じてマスタシリンダで発生した液圧を、当該液圧回路に介設した制御弁等によって適切に制御してホイールシリンダに伝えることにより、車輪の回転体に摩擦力を作用させて制動トルクを制御するようにした液圧式の摩擦制動トルク制御装置が、従来、一般的である。
また、摩擦制動トルクの制御に液圧回路ではなく例えば電動モータを用い、車輪側のブレーキ機構に組み込まれた摩擦材を電動モータにより車輪の回転体に押圧させるようにした形式など、他の形式の摩擦制動トルク制御装置も知られている。
【0003】
一方、所謂ハイブリッド型などを含む電気自動車においては、車両駆動源としての電動モータに発電機の機能を持たせ、車両走行中にこの電動モータの回転軸が外部(車輪側)からの力によって強制的に回転させられる際に、電動モータに発生する起電力(いわゆる回生起電力)により蓄電池を充電できるようにしたシステムが知られている。
かかるシステムでは、通常、蓄電池の充電は車両の制動が必要な場合にのみ行われるが、その充電中は車両の運動エネルギの一部が電気エネルギに変換されて蓄電池に蓄えられる。換言すれば、電動モータが外部(車輪側)の力に対して負荷となり、車輪側に対して回生による制動トルク(いわゆる回生制動トルク)を及ぼすことになる。
【0004】
従って、上記のような車両では、車両の制動トルク制御装置として、摩擦制動トルク制御装置と回生制動トルク制御装置の両方を備えることになるのであるが、上記回生制動トルクの大きさは種々の要因によって変動し、例えば、車両の走行速度が低くなって電動モータの回転軸の回転速度が小さくなるほど回生制動トルクも小さくなる傾向があり、車両走行速度が一定以下では発生する回生制動トルクは殆ど0(零)になる。また、通常、過充電による蓄電池の劣化防止のために、蓄電池の充電量が一定以上の場合(特に、容量一杯の場合)にはエネルギの回生が禁止されるようになっており、このような回生禁止期間中は、回生制動トルクは当然0(零)になる。
【0005】
一方、かかる回生制動トルクと上記摩擦制動トルクの総和としての車両制動トルクの大きさは、運転者の意図に応じた(つまり、ブレーキペダルの踏み込み量など、運転者のブレーキ操作状況に応じた)大きさとなるように制御される必要がある。
この場合、通常、回生制動トルク制御装置によって回生制動トルクが運転者のブレーキ操作に応じた所要の制動トルクに極力近付くように制御されるのであるが、エネルギの回生によって得られる制動トルクの大きさには上述のように種々制約があるので、この回生制動トルクだけで所要の制動トルクを充足することはできないのが一般的である。
【0006】
従って、このような場合には、制動トルクの不足分は、今一つの制動装置である摩擦制動装置によって発生させられることになる。すなわち、液圧式の摩擦制動装置の場合を例にとって説明すれば、運転者のブレーキ操作に応じたマスタシリンダの液圧が、摩擦制動トルク制御装置の制御によって回生制動トルクに応じた分だけ減圧されてホイールシリンダに伝達されることにより、不足分の制動トルクが摩擦制動装置によって発生させられるのである。
以上のように、摩擦制動トルクと回生制動トルクとを併用して車輪に制動トルクを加える場合には、両制動トルクの制御装置をバランス良く且つタイミング良く協調させて、運転者のブレーキ操作に応じた総制動トルクが的確に得られるように制御することが求められる。この協調関係が十分なもので無い場合には、車両制動時に乗員に違和感を及ぼす等の不具合を招来することがある。
【0007】
例えば、上述のように、回生制動トルクは電動モータの回転軸の回転速度が小さくなるほど減少する傾向があるので、電動モータの回転数が予め設定された所定回転数(実回生制動トルクが実質的に0(零)になると見做し得る回転数)よりも小さくなった場合には、液圧制動装置における液圧制御(マスタシリンダで発生した液圧を回生制動トルクに対応した分だけ減圧してホイールシリンダに伝える液圧制御)が終了させられるようにすることが知られている。この場合、液圧制御弁による液圧制御が終了させられて、マスタシリンダとホイールシリンダとが連通(実質的に直結)させられ、マスタシリンダの液圧がそのままホイールシリンダに供給されることになる。
【0008】
しかし、このように電動モータの回転数が設定回転数より小さくなって液圧制御弁の制御が終了する際、つまり、ホイールシリンダに作用する液圧が制御弁で制御された状態からマスタシリンダに直結した状態に切り換えられる際、液圧制御弁の制御誤差や液圧制御特性のばらつき等のために、液圧制御弁の前後における液圧差が実際には未だ0(零)になっていない場合があり、かかる場合には、制御終了時にホイールシリンダの液圧がその分だけ大きくなって摩擦制動トルクが急増することになる。
すなわち、上記液圧制御弁による液圧制御時とその制御終了時とで、車輪に作用する液圧制動トルクが(従って、総制動トルクが)急変し、これに伴なって車両減速度が急変する結果、乗員に違和感を及ぼすという難点がある。
【0009】
かかる問題に関して、例えば特開平11−115746号公報には、車両減速度の変化を抑制して総制動トルクの制御を良好に行えるようにすることを目的として、回生制動トルクを制御する回生制動トルク制御装置と、該装置から供給された実回生制動トルクを表す情報に基づいて摩擦制動トルクを制御する摩擦制動トルク制御装置とを備え、回生制動トルク制御装置によって実回生制動トルクが0(零)にされた後も、摩擦制動トルク制御装置はそれ以前と同じ制御を継続するように構成した制動トルク制御装置が開示されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上述のようなタイプの制動トルク制御装置では、運転者の制動意図は液圧制動トルクと回生制動トルクの和(総制動トルク)でもって実現が図られるのであるが、上記従来技術においては、まず、マスタシリンダ液圧に基づいて、運転者の意図する(つまり、ブレーキ操作状況に応じた)車両制動トルクが目標総制動トルクとして求められ、次いで、この目標総制動トルク値と設計上限値とに基づいて目標とすべき回生制動トルクの値(目標回生制動トルク値)が定められる。次に、この目標回生制動トルク値が電動モータの制御装置に送信されて電動モータの制御が行われ、実際に得られた実回生制動トルクの値が総制動トルク制御装置に返信される。そして、この実回生制動トルク値を上記目標総制動トルクから差し引いた値を目標とすべき液圧制動トルクとし、この目標液圧制動トルクが得られるように液圧制御弁が制御されるようになっている。
【0011】
すなわち、上記従来技術では、まず、目標回生制動トルクに応じた回生制動トルクを発生させた後、目標総制動トルクから実回生制動トルクを差し引いた残り(不足分)を液圧制動トルクで得るようにしている。
しかしながら、このような構成では、総制動トルク制御装置は、回生制動トルクが実際に発生しそのトルク値を表わす情報が電動モータ制御装置から送信される迄までは実回生制動トルク値を知ることができないので、この実回生制動トルク値と目標総制動トルク値とに基づいてその目標値が定められる液圧制動トルクは、回生制動トルクに比して常に遅れて発生することになり、運転者の制動意図に応じた総制動トルクを的確に得ることは、実際にはなかなかに難しいという問題があった。かかる事情は、液圧式の摩擦制動トルクの制御に限らず、他のタイプの摩擦制動トルクの制御においても同様である。
【0012】
この発明は、かかる技術的課題に鑑みてなされたもので、回生制動トルクに対する摩擦制動トルク発生の時間的遅れを極力回避することにより、運転者の制動意図に応じた総制動トルクを的確に得ることができる制動トルク制御装置を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
このため、本願発明に係る制動トルク制御装置は、車輪に作用する回生制動トルクを目標回生制動トルク値となるように制御する回生制動トルク制御装置と、上記車輪に作用する摩擦制動トルクを目標摩擦制動トルクとなるように制御する摩擦制動トルク制御装置とを備え、上記回生制動トルク制御装置と摩擦制動トルク制御装置とを協働させて目標総制動トルクを得るようにした制動トルク制御装置であって、上記摩擦制動トルク制御装置が上記回生制動トルク制御装置に対して目標回生制動トルクを表わす情報を送信する一方、上記回生制動トルク制御装置は上記摩擦制動トルク制御装置に対して実回生制動トルクを表わす情報を送信し、上記摩擦制動トルク制御装置は、目標回生制動トルク値と実回生制動トルク値とに基づいて、目標回生制動トルクを表わす情報の送信から現在までの経過時間(Тs)を推定し、Тs時間前の目標回生制動トルク値と現在の目標総制動トルク値とに基づいて、目標摩擦制動トルク値を決定することを特徴としたものである。
【0014】
この場合において、上記現在までの経過時間(Тs)の推定が可能となる迄は、目標総制動トルク値を目標摩擦制動トルクとすることが好ましい。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本実施の形態に係る制動トルク制御装置を含む車両用制動装置を搭載した自動車の制動系の主要部を概略的に示す構成説明図である。また、図2は、上記車両用制動装置の一部をなす液圧制動装置の主要部を概略的に示す構成説明図である。
図1に示すように、本実施の形態に係る自動車は、内燃機関(エンジン)による駆動力と電気的駆動力とを併用し得るようにした所謂ハイブリッド車とされ、駆動輪としての前輪10,12は電気的駆動装置14と内燃駆動装置(不図示)とによって駆動される。電気的駆動装置14は、差動装置22と左右のドライブシャフト24,26とを順次介して、駆動輪(前輪)10,12に接続されている。この電気的駆動装置14は、電動モータ28の回生制動により車輪10,12に回生制動トルクを加える回生制動装置としても作用するものである。
【0016】
上記車両用制動装置には、この回生制動装置14と併せて摩擦制動装置としての液圧制動装置30も設けられている。該液圧制動装置30では、後述するようにしてホイールシリンダ32,34,64,66に液圧が伝達されることにより、車輪10,12,60,62と一体的に回転する回転体(不図示)に摩擦材(不図示)が摩擦係合させられ、車輪10,12,60,62に液圧制動トルクが加えられる。
このように、車両制動時、車輪10,12には、回生制動装置14による回生制動トルクと液圧制動装置30による液圧制動トルクとが作用し、車輪60,62には液圧制動装置30による液圧制動トルクが作用し、その和である総制動トルクに応じて、車両が制動されるようになっている。
【0017】
上記回生制動装置14は、電動モータ28の他、蓄電装置36,変速装置38,電力変換装置40および電動モータ制御装置42等を備えて構成されている。車輪10,12の回転に伴なって上記電動モータ28の回転軸が強制的に回転させられる際に、電動モータ28に発生する起電力(いわゆる回生起電力)により蓄電装置36を充電すれば、電動モータ28が車輪10,12の回転運動に対し負荷として作用することになる。つまり、車輪10,12の回転に対する回生制動トルクが発生するのである。
【0018】
上記電動モータ28には、蓄電装置36に蓄えられた直流電流が電力変換装置40により交流に変換されて供給される。該電力変換装置40は、具体的には図示しなかったが、インバータ等を備えて構成され、電動モータ制御装置42からの制御信号によって制御されるようになっている。インバータにおけるすべり周波数制御やベクトル制御等の電流制御によって、電動モータ28による制動トルクや駆動トルクの大きさが制御され、その結果、車輪に加えられる回生制動トルクや駆動トルクが制御されるのである。尚、この駆動トルクは、運転者のアクセルペダル(不図示)踏込み状況などに基づいた大きさとなるように制御される。
【0019】
上記液圧制動装置30は、車輪10,12及び60,62にそれぞれ付設されたホイールシリンダ32,34及び64,66、総制動トルク制御装置46、リニアバルブ装置56およびアンチロック制御装置58のほか、図2に示すような液圧回路などを備えて構成されている。
上記総制動トルク制御装置46は、摩擦制動トルクとしての液圧制動トルクを制御するとともに、該液圧制動トルクと回生制動トルクの和である総制動トルクを制御するものである。その制御の詳細については後述する。
【0020】
図2に示される液圧回路は、ブレーキペダル76に連繋されたマスタシリンダ68から車輪10,12,60,62側に付設されたホイールシリンダ32,34,64,66に至るもので、その基本的な構成および作用は、従来公知のものと大略同様であり、運転者のブレーキ操作に応じて(ブレーキペダル76の踏み込み状況等に応じて)マスタシリンダ68で発生した液圧を、当該液圧回路に介設した制御弁等により適宜制御して各車輪10,12,60,62のホイールシリンダ32,34,64,66に伝えるものである。
上記マスタシリンダ68は2つの加圧室72,74を備え、運転者がブレーキペダル76を踏み込み操作することにより、各加圧室72,74にブレーキペダル76の操作力に応じた略等しい大きさの液圧が発生させられるようになっている。一方の加圧室72には液通路80を介して駆動輪である前輪10,12のホイールシリンダ32,34が接続され、他方の加圧室74には液通路82を介して後輪60,62のホイールシリンダ64,66が接続されている。
【0021】
液圧回路の高液圧源70は、マスタリザーバ84,ポンプ85,アキュムレータ86等を備えて構成され、マスタリザーバ84の作動液がポンプ85で汲み上げられてアキュムレータ86に蓄えられるようになっている。該アキュムレータ86から加圧室74に至る液通路には圧力センサ88が取り付けられており、アキュムレータ86の液圧が上限値以上になったこと、下限値以下になったことが検出される。この圧力センサ88の検出値に応じてポンプ85が起動,停止させられ、それにより、アキュムレータ86に設定圧力範囲の作動液が常時蓄えられるようになっている。
上記高液圧源70はマスタシリンダ68の加圧室74に接続されているので、ブレーキペダル76が踏み込み操作された際には、高液圧源70の作動液が加圧室74に供給される。これにより、ブレーキペダル76の操作ストロークの軽減を図ることができるようになっている。
【0022】
マスタシリンダ68の一方の加圧室72から駆動輪である前輪10,12のホイールシリンダ32,34にまで至る上記液通路80の途中には、電磁開閉弁90が介設されている。この電磁開閉弁90の開閉により、ホイールシリンダ32,34とマスタシリンダ68との連通/遮断が制御される。上記ホイールシリンダ32,34は、回生制動トルク制御と摩擦制動トルク制御とが併用される場合(所謂、回生制動協調制御が行われる場合)やアンチロック制御が行われる場合などには、マスタシリンダ68から遮断されるように設定されている。
前輪側ホイールシリンダ32,34とマスタリザーバ84とを接続する液通路93の途中には、減圧弁としての電磁開閉弁94,96が介設されている。これら電磁開閉弁94,96が開状態に切り換えられると、ホイールシリンダ32,34とマスタリザーバ84とが連通させられ、ホイールシリンダ32,34の液圧が減圧させられ、液圧制動トルクが減少させられる。
【0023】
また、前輪側ホイールシリンダ32,34とリニアバルブ装置56とを接続する液通路98の途中には、増圧弁としての電磁開閉弁100,102が介設されている。これら電磁開閉弁100,102は、通常制動時において回生制動協調制御が行われる場合には開状態に保たれ、ホイールシリンダ32,34とリニアバルブ装置56とが連通状態に維持される。
電磁開閉弁100,102をそれぞれバイパスするバイパス通路の途中には、それぞれホイールシリンダ32,34からリニアバルブ装置56へ向かう作動液の流れを許容するが逆向きの流れは阻止する逆止弁104,106が設けられており、これら逆止弁104,106により、ブレーキペダル76の踏込みが解除された場合に、ホイールシリンダ32,34の作動液が迅速に戻される。また、上記液通路98のリニアバルブ装置56と電磁開閉弁100,102との間には、電磁開閉弁108が設けられている。この電磁開閉弁108は、回生制動協調制御や前輪10,12についてアンチロック制御が行われる場合等に、開状態を保つように設定されている。
【0024】
上記リニアバルブ装置56は、マスタシリンダ68の加圧室74と後輪60,62のホイールシリンダ64,66とを接続する液通路82の途中に介設されており、この液通路82のリニアバルブ装置56のホイールシリンダ側に上記液通路98が接続されることになる。リニアバルブ装置56とホイールシリンダ64,66との間には、増圧弁としての電磁開閉弁110が介設され、該電磁開閉弁110をバイパスするバイパス通路の途中には、ホイールシリンダ64,66からリニアバルブ装置56へ向かう方向の作動液の流れを許容するが逆向きの流れは阻止する逆止弁112が設けられている。
【0025】
また、ホイールシリンダ64,66とマスタリザーバ84とを接続する液通路114の途中には、減圧弁としての電磁開閉弁116が設けられている。液通路82には、プロポーショニングバルブ(Pバルブ)118も設けられ、後輪60,62のホイールシリンダ64,66の液圧が前輪10,12のホイールシリンダ32,34の液圧に対して大きくならないように制御されている。尚、本実施形態においては、後輪60のホイールシリンダ64の液圧と後輪62のホイールシリンダ66の液圧とは、互いに共通に制御されるように構成されている。
【0026】
更に、上記液通路82のリニアバルブ装置56とマスタシリンダ68との間には液圧センサ122が設けられ、リニアバルブ装置56のホイールシリンダ側の近傍には、液圧センサ124が設けられている。また、液通路98にも液圧センサ132が設けられている。尚、この液圧センサ132は、上記液圧センサ124のフェールを検出するために設けられたもので、電磁開閉弁108が開状態に保たれた場合に、液圧センサ132の出力信号と液圧センサ124の出力信号とが一定以上異なる場合には、上記液圧センサ124が異常であるとされる。
上記リニアバルブ装置56は、液圧センサ124で検出される液圧が、目標とすべき液圧制動トルク(目標液圧制動トルク)に対応する値になるように加圧室74の液圧を調圧し、ホイールシリンダ側に供給する。この目標液圧制動トルクをどのようにして決定するかについては、後で詳しく説明する。
【0027】
また、上記液通路80には、マスタシリンダ68の液圧(具体的には加圧室72の液圧)を検出する液圧センサ226が設けられている。マスタシリンダ68の液圧は、運転者のブレーキペダル76の踏み込み操作力に応じた液圧となるので、この液圧に対応する制動トルクが運転者の意図する制動トルクであると見做すことができ、これが制動トルク制御における目標総制動トルクとされる。尚、上記液通路80には、電磁開閉弁90が閉状態とされた場合においてブレーキペダル76のストロークが殆ど0(零)になることを回避するために、所謂、ストロークシミュレータ228が更に設けられている。
また、各車輪10,12,60,62各々の回転速度を検出するための車輪速センサ252,254,256,258が設けられ、これら車輪速センサ252,254,256,258の出力信号に基づいて、制動スリップ状態や推定車体速度等がのデータが得られるようになっている。
【0028】
運転者がブレーキ操作を行った場合、目標総制動トルクは、マスタシリンダ68の加圧室72の液圧を検出する液圧センサ226の出力信号に基づいて決定される。上述のように、マスタシリンダ68の液圧は、運転者のブレーキペダル76の踏み込み操作力に応じた液圧となるので、この液圧に対応する制動トルクが運転者の意図する所要制動トルク(目標総制動トルク)であるとすることができる。従って、マスタシリンダ68の加圧室72の液圧に応じて目標総制動トルクが決定されるのである。
尚、この目標総制動トルクを、ブレーキペダル76の踏み込み操作力に限らず、例えば操作ストロークや操作時間など、他のブレーキ操作状況に基づいて決定することも可能である。
【0029】
一方、目標回生制動トルクは、装置の設計条件に基づいて決定付けられる設計上限値と、ブレーキ操作状況に基づいて決定付けられる操作側上限値のうちのいずれか小さい方に決定される。上記設計上限値は、より詳しく説明すれば、発電機として機能する電動モータ28の能力や蓄電装置36の充電能力(最大充電容量)などの装置の設計条件に基づいて決まる回生制動トルクの上限値であり、また、操作側上限値は、運転者のブレーキペダル76の踏み込み量などの操作状況に応じて定まる制動トルクの上限値(操作側上限値は、上述の目標総制動トルクに対応する)である。
【0030】
総制動トルク制御装置46および電動モータ制御装置42は、それぞれROM,RAM及びPU(プロセッシングユニット)等を備えたマイクロコンピュータを主要部として構成されている。
上記総制動トルク制御装置46の入力部には、前述の各液圧センサ122,124,226,蓄電装置36の充電容量を検出する充電容量検出装置262等が電気的に接続され、出力部には、前述の各電磁開閉弁90,94,96,100,102,108,110,116のソレノイドやリニアバルブ装置56等が、図示しない駆動回路を介して電気的に接続されるている。また、そのROMには、回生制動トルクと液圧制動トルクの協調制御を行うか否かを蓄電装置36の充電容量に基づいて判定する制動トルク協調制御判定プログラムやかかる協調制御を実行するための協調制御プログラムなどの制御プログラム等が格納されている。
【0031】
上記電動モータ制御装置42の入力部には、電動モータ28の回転数を検出するエンコーダ260やアクセルペダル(不図示)の操作状況を検出するアクセル操作状況検出装置等が電気的に接続され、出力部には電力変換装置40が電気的に接続されている。そして、そのROMには、駆動トルク制御プログラムや回生制動トルク制御プログラムなどの種々の制御プログラム等が格納されている。
上記電力変換装置40は、電動モータ制御装置42からの制御信号に応じて、アクセルペダル(不図示)の操作状況に応じた駆動トルクが得られるように、或いは、目標回生制動トルクと略同じ大きさの回生制動トルクが得られるように、制御されるものである。
【0032】
以上のように構成された車両用制動装置において、ブレーキペダル76が踏み込まれると、各車輪10,12,60,62に、液圧制動トルクと回生制動トルクとの少なくとも一方を含む総制動トルクが加えられる。駆動輪である前輪10,12には、運転者のブレーキ操作状況に応じて液圧制動トルクと回生制動トルクの両方が作用し得るが、非駆動輪である後輪60,62には、回生制動トルクが加えられることはなく、液圧制動トルクのみが加えられるようになっている。
【0033】
上記電動モータ制御装置42と総制動トルク制御装置46との間においては、種々の情報交換が行われる。
本実施の形態では、総制動トルク制御装置46から電動モータ制御装置42へは、(回生制動トルクと液圧制動トルクとの)制動トルクの協調制御における制御フラグ(制御中は1、非制御中は0)を表わす情報(信号)と、目標回生制動トルクを表わす情報(信号)とが供給される。この目標回生制動トルクの値については、制動トルクの協調制御が行われていない非制御中は0である。制御中の目標回生制動トルクについては後述する。
一方、電動モータ制御装置42から総制動トルク制御装置46へは、回生制動トルクの上限値(つまり、上述の操作側上限値と設定上限値との小さい方)を表わす情報(信号)と、実回生制動トルクを表す情報(信号)が供給される。この実回生制動トルクについては、制動制御が行われていない非制御中は0である。制御中の実回生制動トルクについては後述する。
【0034】
上記制動トルクの制御は、マスタシリンダ68に(具体的には、その加圧室72に)液圧が発生したことが液圧センサ226によって検出されたことを制御開始のトリガーとして、制御フラグ1が立てられる。また、制御の終了は、車両が停止状態になったこと、総制動トルク制御装置46等に異常が生じたこと、或いは蓄電装置36の充電容量が0になったこと等が条件とされ、これらのうちのいずれか1つの条件が満たされた場合に終了させられ、制御フラグが0に設定される。
車両が停止状態にあることは、例えば、駆動輪である前輪10,12の車輪速度のうちの小さい方、すなわち、車輪速センサ252,254によって検出された車輪速度のうちの小さい方が設定速度より小さい場合に、車両停止状態にあると判定される。尚、この替わりに、各車輪10,12,60,62の車輪速度に基づいて求められた推定車体速度が設定速度より小さい場合に車両停止状態にあるとしたり、車速センサを設け、車速センサによって検出された車速が設定速度より小さい場合に停止状態にあると、判定するようにしても良い。
【0035】
本実施の形態では、回生制動トルクに対する摩擦制動(液圧制動)トルク発生の時間的遅れを極力小さくして運転者の制動意図に応じた総制動トルクを的確に得ることができるように、目標液圧制動トルクを決定する際には、目標回生制動トルク値と実回生制動トルク値とに基づいて、目標回生制動トルクを表わす情報の送信から実回生制動トルク発生までの所要時間Тdと現在までの経過時間Тsとを推定し、該Тs時間前の目標回生制動トルク値と現在の目標総制動トルク値とに基づいて、目標摩擦制動トルク値を決定するようにしている。
【0036】
次に、この目標液圧制動トルク値の決定について説明する。上記総制動トルク制御装置46は、目標液圧制動トルクを決定するに際して、制動トルクの協調制御の開始から終了までを3つの時間帯A,B及びCに区切り、その時間帯に応じて制御の内容を変更するようになっている。
まず、時間帯Aとは、制御開始から次に述べる時間帯Bに移行するまでの時間帯で、目標回生制動トルク値を0(零)として、電動モータ制御装置42に情報が送られる。従って、この時間帯Aでは、総制動トルク値をそのまま目標液圧制動トルク値として、リニアバルブ56の制御を行う。
【0037】
時間帯Bとは、時間帯Aにおいてマスタシリンダ68の(加圧室72の)液圧が予め定められた所定値を越えると、時間帯Aから移行する時間帯で、設計上限値と操作側上限値のうちの小さい方を目標回生制動トルク値として、電動モータ制御装置42に情報が送られる。この時間帯Bでは、求めた総制動トルク値をそのままそのまま目標液圧制動トルク値として、リニアバルブ56の制御を行う。
更に、時間帯Cとは、時間帯Bにおいて、電動モータ制御装置42から送信されて来る実回生制動トルク値が0(零)でなくなったときに、時間帯Bから移行する時間帯である。
【0038】
回生制動トルクと液圧制動トルクとの制動トルクの協調制御が開始されると、まず、時間帯Aでは、目標回生制動トルク値が0であるので、電動モータ制御装置42は回生制動トルクを発生させることはない。従って、制御開始直後(時間帯Aの間)は、実回生制動トルクは0である。
その後、マスタシリンダ68の(加圧室72の)液圧が予め定められた所定値を越えて時間帯Bに移行すると、総制動トルク制御装置46は電動モータ制御装置42に対して0でない目標回生制動トルク値を情報として送信する。
【0039】
電動モータ制御装置42は、この送信に要する時間(Т0)だけ遅れて上記(0でない)目標回生制動トルク値を情報として受信し、受信した値に応じて(実)回生制動トルクを発生させる。この実回生制動トルクの発生に要する時間をТ1とすると、目標回生制動トルク値を受信した後このТ1時間が経過した後、得られた実回生制動トルク値が電動モータ制御装置42から総制動トルク制御装置46に対して返信される。総制動トルク制御装置46は、この返信に要する時間(Т2)だけ遅れて上記実回生制動トルク値を情報として受信する。
【0040】
以上のように、時間帯Bに移行して目標回生制動トルク値が電動モータ制御装置42に対して発信されてから、Т0+Т1+Т2(=Тs)時間だけ経過して初めて、実回生制動トルク値が総制動トルク制御装置46に返信されることになる。上記送信に要する通信時間Т0と返信に要する通信時間Т2とは、殆ど等しいものと見做すことができるので、総制動トルク制御装置46が電動モータ制御装置42に対して目標回生制動トルク値を情報として発信してから、実際にそれに応じた回生制動トルクが得られるまでの所要時間(つまり時間遅れ)Тdは、上記経過時間Тsの半分(Тd=Тs/2)と見做すことができる。
【0041】
換言すれば、電動モータ制御装置42は、総制動トルク制御装置46がТs時間だけ前に送信した目標回生制動トルクを発生させているものと推定できる。
従って、時間帯Cでは、総制動トルク制御装置46は、今現在の総制動トルク値とТs時間前に送信した目標回生制動トルク値とから、(前者から後者を差し引いた値として)目標液圧制動トルク値を決定し、この目標値となるようにリニアバルブ装置56を制御すれば良いことになる。
上記経過時間Тsは、車両に固有であるかも知れないが、外気温などに依存して電動モータ28の応答特性等が変化するものと考えられるので、目標液圧制動トルク値の推定は、より好ましくは、制御開始時に行われる。
【0042】
図3は、上記総制動トルク制御装置46による制動トルク制御プログラムの一部を示すフローチャートである。このフローチャートに示すように、回生制動トルクと液圧制動トルクとの制動トルクの協調制御が開始されると、まず、ステップS1で、かかる協調制御の終了条件が満たされているか否かが判定される。終了条件が満たされている場合には(ステップS1:YES)、ステップS11が実行され、マスタシリンダ(M/C)とホイールシリンダ(W/C)とが導通させられる。一方、終了条件が満たされない場合には(ステップS1:NО)制御が継続され、ステップS2で、車速が設定速度より小さいか否かが判定される。
【0043】
この車速が設定速度以上である場合(ステップS2:NО)には、そのままステップS3以降が実行される。車速が設定速度より大きく電動モータ28の回転数が設定数より大きい場合には、回生制動トルクが制御可能だからである。
すなわち、ステップS3で、液圧センサ226によって検出されたマスタシリンダ(M/C)液圧を読み込み、これに基づいて運転者の制動意図に対応した目標総制動トルク値が求められる。また、ステップS4で、電動モータ制御装置42からの送信データを読み込む。更に、ステップS5で、時間帯が上述の時間帯A〜Cの何れであるかを判別する。
【0044】
そして、次に、ステップS6で、その時間帯に応じて目標回生制動トルク値および目標液圧制動トルク値が演算される。このとき、目標液圧制動トルク値は、上述のように、今現在の総制動トルク値とТs時間前に送信した目標回生制動トルク値とから決定されるのである。
その後、ステップS7で、電動モータ制御装置42に対して目標回生制動トルク値などのデータを送信し、また、ステップS8で、液圧制動装置30のリニアバルブ56を制御することにより、液圧制動トルクが上記目標液圧制動トルク値に極力近づくように制御されるようになっている。
【0045】
一方、ステップS2において車速が設定速度よりも低い場合には(ステップS2:YES)、ステップS9で目標回生制動トルクが0にされる。電動モータ28の回転数が設定数より小さくなると、出力し得る回生制動トルクが非常に小さくなり、また、その変動が大きくなったりするので、回生制動トルクを適切に制御することが非常に難しくなるからである。
このように目標回生制動トルクが0にされた後、ステップS10でマスタシリンダ液圧が読み込まれ、目標総制動トルクが求められる。そして、ステップS7以降が実行されるようになっている。
【0046】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、目標回生制動トルクを表わす情報の送信から実回生制動トルク発生までの所要時間(つまり、遅れ時間)Тd及び現在までの経過時間Тsを推定することにより、実際に現在発生している回生制動トルクの値(つまり、現在よりТs時間前の目標回生制動トルク値)をリアルタイムで高精度に推定することができる。そして、このТs時間前の目標回生制動トルク値と現在の目標総制動トルク値とに基づいて、目標摩擦制動トルク値を決定するようにしたので、従来のように、摩擦制動トルクの発生が回生制動トルクに比して常時遅れることはなくなる。すなわち、回生制動トルクに対する摩擦制動トルク発生の時間的遅れを無くして、運転者の意図に応じた総制動トルクを的確に得ることができるのである。
【0047】
この場合において、上記所要時間(遅れ時間)Тd及び経過時間Тsの推定(つまり、実際に現在発生している回生制動トルク値の推定)が可能となる迄は、目標総制動トルク値を目標摩擦制動トルクとすることにより、運転者の意図に応じた所要制動トルクを摩擦制動トルクのみによって確保することができ、回生制動トルクと摩擦制動トルクを併用して協調制御を行う場合において、例えばその制御初期など、実際に現在発生している回生制動トルク値の推定ができない場合にも、支障無く安全サイドの対応をすることができる。
【0048】
尚、以上の実施の形態においては、摩擦制動トルク制御装置は総制動トルク制御装置46およびリニアバルブ装置56等によって構成され、回生制動トルク制御装置は電動モータ制御装置42および電力変換装置40等によって構成したものであり、また、摩擦制動トルクは液圧回路を主要部として形成された液圧制動装置として構成されたものであったが、この替わりに、他のタイプの摩擦制動装置を適用することができる。
このように、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々の設計上の変更や改良を加えることができるのは、勿論のことである。
【0049】
【発明の効果】
本願発明によれば、目標回生制動トルクを表わす情報の送信から現在までの経過時間Тsを推定することにより、実際に現在発生している回生制動トルクの値(つまり、現在よりТs時間前の目標回生制動トルク値)をリアルタイムで高精度に推定することができる。そして、このТs時間前の目標回生制動トルク値と現在の目標総制動トルク値とに基づいて、目標摩擦制動トルク値を決定するようにしたので、従来のように、摩擦制動トルクの発生が回生制動トルクに比して常時遅れることはなくなる。すなわち、回生制動トルクに対する摩擦制動トルク発生の時間的遅れを無くして、運転者の意図に応じた総制動トルクを的確に得ることができる。
【0050】
また、この場合において、上記経過時間Тsの推定(つまり、実際に現在発生している回生制動トルク値の推定)が可能となる迄は、目標総制動トルク値を目標摩擦制動トルクとすることにより、運転者の意図に応じた所要制動トルクを摩擦制動トルクのみによって確保することができ、回生制動トルクと摩擦制動トルクを併用して協調制御を行う場合において、例えばその制御初期など、実際に現在発生している回生制動トルク値の推定ができない場合にも、支障無く安全サイドの対応をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態に係る制動トルク制御装置を含む車両用制動装置を搭載した自動車の制動系の主要部を概略的に示す構成説明図である。
【図2】 上記車両用制動装置の一部をなす液圧制動装置の主要部を概略的に示す構成説明図である。
【図3】 上記車両用制動装置に設けられた総制動トルク制御装置による制動トルク制御プログラムの一部を示すフローチャートである。
【符号の説明】
28… 電動モータ
36… 蓄電装置
40… 電力変換装置
42… 電動モータ制御装置
46… 総制動トルク制御装置
56… リニアバルブ装置

Claims (2)

  1. 車輪に作用する回生制動トルクを目標回生制動トルク値となるように制御する回生制動トルク制御装置と、上記車輪に作用する摩擦制動トルクを目標摩擦制動トルクとなるように制御する摩擦制動トルク制御装置とを備え、上記回生制動トルク制御装置と摩擦制動トルク制御装置とを協働させて目標総制動トルクを得るようにした制動トルク制御装置であって、
    上記摩擦制動トルク制御装置が上記回生制動トルク制御装置に対して目標回生制動トルクを表わす情報を送信する一方、上記回生制動トルク制御装置は上記摩擦制動トルク制御装置に対して実回生制動トルクを表わす情報を送信し、上記摩擦制動トルク制御装置は、目標回生制動トルク値と実回生制動トルク値とに基づいて、目標回生制動トルクを表わす情報の送信から現在までの経過時間(Тs)を推定し、Тs時間前の目標回生制動トルク値と現在の目標総制動トルク値とに基づいて、目標摩擦制動トルク値を決定することを特徴とする制動トルク制御装置。
  2. 記経過時間(Тs)の推定が可能となる迄は、目標総制動トルク値を目標摩擦制動トルクとすることを特徴とする請求項1記載の制動トルク制御装置。
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