JP3937486B2 - 記録装置および記録再生装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、画像情報、大容量のデータ情報等の記録情報の超高密度記録を行うことができる新規な記録、再生および記録再生装置、すなわち上記情報の記録のみを行う記録装置、または上記情報の再生のみを行う再生装置、あるいは情報の記録および再生の双方を行う記録再生装置に係わる。
【0002】
【従来の技術】
マルチメディア社会、特にハイビジョンシステムおよび高度情報通信システム、コンピュータネットワーク、ビデオオンデマンド、インフォメーションオンデマンドなどに必要とされる大容量の画像情報、データファイルにおいて高速高密度な記録再生装置の要求が益々高まっている。
従来のランダムアクセスが可能な高密度記録技術には、磁気記録、光記録、半導体メモリ等がある。
【0003】
半導体メモリではその集積度が年々向上しているにもかかわらず、半導体メモリの製造技術の例えばフォトリソグラフィの限界に起因するメモリトランジスタの微細化の限界から、高精細度の画像情報を記録するだけの容量を満たすような、すなわち少なくとも3Gバイト以上の容量を満たすような半導体メモリを得るには至っていない。
【0004】
一方、光記録、磁気記録において、大容量の情報を記録するには記録ビットの単位記録領域を小さくして、面記録密度を向上させることが必要である。
【0005】
光記録においても、短波長半導体レーザの開発などその記録領域を小さくする試みはなされているが、波長500nm付近の半導体レーザー光源が開発された場合でも、物理的な限界、光の回折限界が存在するため記録ビット直径(スポットエリア)をその光の波長以下にすることは原理的に不可能である。超解像方式等、その限界を超える方式が提案されているが、それらの方法を用いても直径100nm以下の記録領域を実現することは難しいとされている。
【0006】
また、磁気記録においても、特にハードディスクにおいて磁気抵抗効果を用いたMR(磁気抵抗効果)ヘッド、GMR(巨大磁気抵抗効果)ヘッドの開発により記録密度の向上が著しいが、再生ヘッドの感度の限界の問題で直径100nm以下の記録領域を達成することは難しい。
【0007】
一方、原子分子レベルの空間分解能を持つ走査トンネル顕微鏡(STM:Scanning Tunneling Microscope )、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope )が開発され、種々の材料の微細表面形状の解析に適用され、表面解析装置として非常な成功を収めている。AFMでは試料とカンチレバーチップとの原子間相互作用をカンチレバーを制御するためのプローブとして用いているが、近年AFMは種々の相互作用に伴う物理量を制御プローブとして用いた走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope )として発展している。最近、これらの手段すなわち原子、分子にアクセスする手段を用いて、記録領域を極めて小さくした高密度メモリとしての実現可能性の検討がなされている。
【0008】
これまでにSTMまたはAFMを用いて、高密度記録実現の試みの報告はなされているが、原理的な可能性が述べられているにとどまり、実用化に至っていない。
【0009】
例えば、スタンフォード大学のクエート(Prof. Quate )氏等は、Si基板上にSiO2 膜およびSiN膜を形成したNOS(SiN/SiO2 /Si)構造による記録媒体を用いてAFMの発展系である走査型容量顕微鏡(SCM:Scanning Capacitance Microscope )構成によって高密度メモリへの応用の可能性を示した(R.C.Barret and C.F.Quate;Journal of Applied Physics,70 2725-2733(1991)参照。)。
【0010】
ところで、図15に示すように、Si基体1上に、熱酸化によるSiO2 膜2および熱CVD(化学的気相成長)法によるSiN膜3を被着形成し、このSiN膜3上に金属電極による上部電極4が被着されたいわゆるMNOS(Metal Nitride Oxide Semiconductor )系の記録媒体は、不揮発性半導体メモリの1つであるEEPROM(Electrically Erasable Programable Read Only Memory)ですでに実用化されている。
【0011】
これらNOS系、MNOS系記録再生の基本は、Si基体とSiO2 /SiNヘテロ界面付近のヘテロ界面トラップ(SiO2 /SiN界面およびSiN膜中に存在するキャリアトラップ)との間の電荷の移動を用いることである。クエート氏等はトンネル酸化膜(SiO2 )に十分厚い膜厚のものを用いて、局所的な記録ビットのデータの保持特性を良好なものにしている。
【0012】
すなわち、この層構造でSiO2 /SiN界面付近(SiN/SiO2 界面とSiN膜中)にキャリアのトラップが形成されることが分かっており、例えば図15のMNOS系においてSiN膜3上の上部電極4に正電圧を掛けると、強電界によりSi基体1側から電子がSiO2 膜2およびSiN膜3の一部分をトンネルして、SiO2 /SiN界面付近に存在するトラップに注入され蓄積される。一方、上部電極4に負電圧を掛けると、逆向きの強電界によりSiO2 /SiN界面付近にトラップされていた電子がSi基体1側にSiO2 膜2をトンネルして、放出されてSiO2 /SiN界面付近トラップに存在する電子が欠乏する。また、トンネル酸化膜の膜厚が比較的薄い場合には電子の放出と同時にホールがSiO2 膜2をトンネルして、SiO2 /SiN界面付近のトラップに蓄積される。
【0013】
このようにして、MNOS記録媒体への電圧パルス印加に伴う電荷の移動により記録、消去を行っている。そして、この記録媒体からの記録情報の読み出しすなわち再生は、この記録媒体すなわちMNOS構造キャパシタに電荷が注入された場合と注入されていない場合のSi基体における空間電荷層の空間的な変化に起因する静電容量の変化として電気的に読み出すという方法がとられる。
【0014】
上述のクエート(Quate )氏等の研究では、NOS媒体に記録・再生ヘッドとなる導電性カンチレバーを接触させた状態で記録、消去を行い、同様に導電性カンチレバーの接触状態でその記録情報に基くSi基体表面の空間電荷層の変化に起因する容量変化を、導電性カンチレバーの後段に接続された容量センサーおよび信号処理回路を用いて検出することによって再生するという方法がとられている。
【0015】
この方法による場合、現在実用化ないしは研究、開発がなされている光記録、あるいは磁気記録方法では不可能な微小領域での情報の記録再生、すなわち高密度記録が可能であることを示した。この場合、記録媒体ではトンネル酸化膜が厚いためキャリア(電子)の移動を用いているものである。
この場合、最小記録領域は、直径で150nmであり、トラップに蓄積された電子は、7日間以上安定であったことが確認されている。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上述した高密度記録装置では、1つの記録ビットに対して2値のデジタルデータを対応させているため、記録密度は微小記録ビットの大きさで直接的に制限されるという問題点がある。
【0017】
また、従来の容量変化検出方式を再生に用いる方式の記録装置では静電容量型(CED)または高密度記録が可能なVHDビデオディスク等がある。しかし、これを大容量の記録媒体とするには記録密度が低く、また再生専用であって記録消去の機能を有するものではない。
また、Iwamura 等によるディスク形状のMNOS記録媒体を用いて静電容量検出方式の記録再生の試みがなされている(IEEE Transactions on Electron Devices. Vol28 No7 854-860(1981))。しかし、これも高記録密度の点で問題があり、上記クエート氏のSPMを用いた記録密度の実験結果と比較しても及ばない。
【0018】
本発明においては、鋭意研究を重ねた結果、SPMと、2層以上のヘテロ層を有する電荷蓄積材料媒体との組み合わせによって1つの記録ビットに対して3値以上の情報を記録することにより上述した諸問題の解決をはかり、高速、高密度記録にすぐれヘッドの長寿命化をはかることができる記録再生装置を提供するに至ったものである。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明装置は、針状電極を含むヘッドを有し、酸化シリコン膜と、酸化シリコン膜中にシリコンナノ結晶が埋め込まれてなるナノ結晶層を有する記録媒体に対して、ヘッドの針状電極からパルス電圧を印加することにより記録媒体に存在する電子またはホールトラップの所定領域への電荷移動を行って1個の記録ビットに3値以上の情報を記録する。
【0021】
また、本発明装置は、針状電極を含むヘッドを有し、酸化シリコン膜と、酸化シリコン膜中にシリコンナノ結晶が埋め込まれてなるナノ結晶層を有する記録媒体に対して、ヘッドの針状電極からパルス電圧を印加することにより記録媒体に存在する電子またはホールトラップの所定領域への電荷移動を行って1個の記録ビットに3値以上の情報を記録し、針状電極を含むヘッドが記録媒体に接触または非接触な状態で、上記所定領域に記録された情報を、この領域における電荷、表面電位または静電容量の変化量の検出によって再生する。
【0022】
本発明装置によれば、1つの記録ビットに3値以上の情報を記録するものであるので、従来の2値記録と比較して同一の空間的記録密度で、情報の記録密度を少なくとも1.5倍以上に高めることが可能となる。
【0023】
また、本発明装置によれば、針状電極を含むヘッドによる電圧印加により記録媒体に対し、電荷移動により情報を記録または消去する態様をとることから、高速、高密度記録がなされ、しかもその再生においては、記録媒体に対してヘッドを非接触の状態で、記録媒体上の記録情報を、この微小記録領域における電荷、表面電位または静電容量の変化量を検出することにより再生することによって針状電極を含むヘッドを記録媒体に対し、非接触状態で再生することが可能となり、この場合は、針状電極を含むヘッドや記録媒体を損耗させることが回避される。そして、その表面電位の検出分解能は、1〜3mVであるため、多値記録の情報の再生を充分行うことができる。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明による記録再生装置の実施の形態を説明する。
本発明は、針状電極を含むヘッドと記録媒体とを相対的に移行、例えば回転あるいは並進させることによって相対的に移行させて、ヘッドの針状電極を一方の電極として、記録媒体に電圧を印加することにより記録媒体に存在する電子またはホールトラップ(キャリアトラップ)の所定領域への電荷移動を行って1個の記録ビットに3値以上の情報を記録または消去し、上記ヘッドが記録媒体に接触または非接触な状態で、上記所定領域に記録された情報を、上述と同様に相対的に移行させてこの領域における電荷、表面電位または静電容量の変化量の検出によって再生する。
【0025】
図1は本発明装置における記録媒体10の基本構成を示し、この基体構成においては、基体11上に、情報の記録がなされる活性層13が形成される。
活性層13は、電荷の移動が生じる電荷蓄積材料膜による電荷蓄積層によって構成される。
この記録媒体10は、例えば、基体11が導電性を有するSi基体よりなり、これの上に例えばSiO2 シリコン酸化膜、SiN窒化シリコン膜、SiO2 シリコン酸化膜が順次積層されて隣接する異種の層(ヘテロ層)から構成される界面(ヘテロ界面)を有する電荷蓄積層による活性層13が形成されて成る。
【0026】
基体11は、上述したSi基体等の半導体基体によって構成することができるものであり、また、その裏面に下部電極12が被着形成された構成とすることができるが、この基体11が導電率の高い半導体基体である場合、下部電極12の形成を省略することもできる。
【0027】
また、記録媒体10に対する記録態様によっては、基体11を半導体基体以外の良導電性を有する基体によって構成することができ、この場合においても、下部電極12を省略することができる。
【0028】
記録媒体10を構成する電荷蓄積材料膜はそれぞれ例えば熱酸化法、熱窒化法、LPCVD(Low Pressure Chemical Vapor Deposition)法、プラズマCVD法、スパッタリング法、分子線蒸着法、通常の蒸着法、レーザアブレーション法、ゾルゲル法、スピンコート法などによって成膜することができる。
【0029】
この記録媒体10に対する情報の記録は、多値記録によるものであるが、例えば3値記録による多値記録の場合、周辺部と同一の電位(キャリア注入なし)を基準として、電位が低い場合(電子注入)、電位が高い場合(電子放出)の3種類の状態を3値記録の3種類のデジタルデータの値にそれぞれ対応させることにより実現する。3値以上の多値記録の場合には表面電位の値を分割して、各々の情報に対応させる。
【0030】
また、3値情報の再生には、キャリアトラップの状態に応じた静電容量の変化量値を用いて行うことも可能である。この場合、その再生は、記録媒体に対してヘッドを接触、または非接触いずれの態様によって行うこともできる。
【0031】
記録媒体10に対する情報の記録構成は、原子間力顕微鏡(AFM)構成とする。すなわち、記録ヘッドは、先端に針状電極を有するAFM制御の導電性カンチレバー構成とされる。
【0032】
電荷蓄積層を有する記録媒体10に対する記録は、記録ヘッドとしての針状電極を先端に有する導電性カンチレバーに記録電圧VR を印加して、キャリア(キャリアトラップに注入または放出することにより行なう。例えば、|VR |<10Vの例えば負電圧の−9Vのパルス電圧を印加することによりカンチレバーより電子を局所的に例えば前述のSiO2 /SiN界面付近のトラップに注入し、この電荷の移動によって情報の記録を行う。そして、この局所的に電荷が注入された領域に対し、所要の正電圧例えば約9Vのパルス電圧を印加することにより電子を放出して、情報の記録によって上記SiO2 /SiN界面付近のトラップの電荷が注入された領域を、周辺部の電位と同一の電位に戻して記録情報の消去を行う。
【0033】
この記録態様によれば、別の記録された情報を記録する場合、9Vの電圧パルスを印加することにより表面電位を周囲より高くして記録する。このようにして、同一の記録領域(記録ビット)に、3値の情報を記録することができる。
【0034】
また、5値記録を行う場合は、その表面電位の値を、それぞれ例えば以下のように分割選定することができる。
情報“0”の記録は、その記録部における表面電位が−40mV以下、
情報“1”の記録は、その記録部における表面電位が−35〜−15mV、
情報“2”の記録は、その記録部における表面電位が−10〜+10mV、
情報“3”の記録は、その記録部における表面電位が+15〜+35mV、
情報“4”の記録は、その記録部における表面電位が40mV以上。
【0035】
情報の書き込みは、プラスマイナス10Vまたはプラスマイナス6Vの電圧パルスの印加で行って、多値記録が可能な表面電位の値を制御した。
【0036】
また、本発明においては、ナノ結晶(ナノ結晶とは、nmオーダーの粒径による微細結晶を指称する)特にシリコンナノ結晶を含む記録媒体を用いて、これに多値記録を行うこともできる。
【0037】
この記録媒体は、例えばシリコンSi基体上に、ナノ結晶が絶縁膜中に埋込まれて配列された結晶層を有して成る。この絶縁膜中に埋込まれたナノ結晶は、空間的に離散化されたエネルギーレベルの深いキャリアトラップになっている。この結晶サイズは直径10nm以下、その間の距離は10nm以下である。このような場合、キャリア(電子)は記録ヘッドとSi基体との間に印加された強電界によりSi基体側または記録ヘッド側からトンネル絶縁膜(例えばSiO2 膜)をトンネルして空間的に離散化されたキャリアトラップに注入されるようになされることにより情報の記録がなされる。注入される電子の方向は、キャリアトラップとSi基体、記録ヘッドとの間のトンネル絶縁膜の厚さおよび、記録ヘッドでの記録時の表面電界集中の大きさなどに依存している。キャリアトラップの密度は約1012cm-3である。また、一つのキャリアトラップには複数個のキャリア(電子)をトラップすることができる。
【0038】
一方、情報の消去は、記録ヘッドと基体との間に、記録の場合とは逆の極性の強電界を印加することによりトラップに注入されていた電子を放出して情報の消去を行う。
【0039】
情報の再生は、キャリアトラップに捕獲された電子と再生ヘッドとのクーロン相互作用を表面電位、静電容量等として直接検出することによって行う。この再生方法は、非常に高感度であり、このため、少数のキャリアトラップに捕獲された電子を高感度に検出することが可能となる。すなわち、表面電位の検出感度は数mVであるため、100mV程度のポテンシャルシフトを容易に検出することができる。
【0040】
このナノ結晶(ナノクリスタル)を用い記録媒体は、
(1)ナノクリスタルの元素を選択することにより、エネルギーレベルが深く、密度が高いキャリアトラップを絶縁膜中に作製することができる。
(2)ナノクリスタルから構成されるキャリアトラップを空間的に離散化した状態で絶縁膜中に作製することができる。
という利点がある。
その結果として、
(1)書き込み動作電圧を10V以下(場合によっては5V以下)にすることができる。
(2)トラップが空間的に離散化しているため、低電圧での繰り返し書き換え消去特性が良好となる。
(3)トラップのエネルギーレベルが深いため、同一トンネル絶縁膜で比較した場合、データ保持特性が良好になる。
という効果を奏する。
そして、このシリコンナノ結晶記録媒体に対して多値記録を行う場合には、表面電位の量を分割して同一の記録ビットを用いて3値、5値などの多値記録を行う。
【0041】
次に、本発明装置の記録、消去の機構と、再生機構の具体例を説明する。
【0042】
〔記録、消去機構〕
図2は記録、消去の一例の概略構成図を示す。この記録ヘッドHRは、先端に例えば円錐状、3角錐状、断面例えば3角の柱状等の実質的に記録媒体に対して点接触ないしは微小面接触できる針状電極21が形成された例えば短冊状の板バネ構成を有し、一端が固定されたカンチレバー22によって構成される。このカンチレバー22は、バネ定数0.01〜10[N/m]のSiもしくはSiNよりなりその表面にAu、Pt、Co、Ni、Ir、Cr等の単層ないしは多層構造の金属層が被覆されることによって高い導電性が付与されて成る。或いは針状加工が可能で、導電性を有する不純物ドーピングのなされた導電性シリコンによって構成される。これらカンチレバー22は、いわゆるマイクロファブリケーション技術によって作製することができる。
【0043】
30は、記録媒体10が載置され、その面方向に沿って例えば互いに直交するx軸およびy軸に関して移動するように、もしくは回転するようになされた記録媒体10の載置台であり、この載置台30は、さらに記録ヘッドすなわちカンチレバー22の針状電極21との接触状態を調整できるように記録媒体10の面方向と垂直方向(以下z軸方向という)に移動制御できるように構成される。
【0044】
この載置台30のz軸方向の制御は、例えば、半導体レーザー38からのレーザー光を、収束レンズ系31によって収束させてカンチレバー22の先端に照射し、その反射光を例えば複数の分割フォトダイオード例えば4分割フォトダイオードによる光検出器32によって差動検出し、その検出信号をプリアンプ33を通じて、載置台30のz軸制御を行うサーボ回路34に入力して載置台30のz軸方向の位置を制御することによって、常時記録媒体10に対して、記録ヘッドすなわち針状電極21が、最適な接触状態にあるように制御される。
【0045】
一方、カンチレバー22と記録媒体10の下部電極12との間に、記録信号に応じた電圧が印加される。この印加電圧は、記録信号に応じたパルス電圧発生回路35よりのパルス電圧を直流電源36による所要の直流バイアス電圧(0Vを含む)に重畳して印加する。
【0046】
このようにして、記録媒体10に、カンチレバー22の先端の針状電極21すなわち記録ヘッドを接触させた状態で記録媒体と相対的に移行させて上述の直流電圧にパルス電圧を重畳させた電圧をカンチレバーとSi基体裏面の間に印加することにより情報の記録を行う。
【0047】
次に、再生機構について説明する。
〔再生機構〕
記録媒体10からの記録情報の読み出しすなわち再生は、再生ヘッドが記録媒体と接触しない、すなわち非接触状態で行うか、あるいは接触状態で行う。
先ず、非接触状態による場合について説明する。この再生装置は、基本的には、下記(i) 〜(iv)のいづれかの構成による。
(i) 走査型マックスウエル応力顕微鏡(SMM:Scanning Maxwell Stress Mi croscope) 構成。
(ii)上記SMM構成においてヘテロダイン検出方式を採る構成。
(iii) ケルビン力顕微鏡(KFM:Kelvin Force Microscope )構成。
(iv)走査型容量顕微鏡(SCM:Scanning Capacitance Microscope)構成。
【0048】
上記(i) 〜(iv)の構成について説明する。
〔(i) のSMM構成による場合。〕
図3は、この再生装置における再生ヘッドHPとその制御部の構成図を示す。この再生はSMMで知られている動作原理(例えばMolecular Electronics and Bioelectronics,vol.3 p79(1992)参照。)によってなされる。ここで、再生ヘッドHPは、図2で説明した記録ヘッドHR自体を用いることができるが、いずれの場合においてもこの再生ヘッドHPは記録媒体10に対して非接触状態で用いられる。この再生ヘッドHPは、前述した記録ヘッドHRにおける場合と同様に、先端に例えば円錐状、3角錐状、断面例えば3角の柱状等の実質的に針状電極21が形成された例えば短冊状の板バネ構成を有し、一端が固定されたカンチレバー22によって構成される。このカンチレバー22は、前述した載置台30上に載置された記録媒体10に非接触な状態で記録媒体10の表面電位Vsまたは静電容量の検出によって記録情報の再生がなされる。
【0049】
載置台30は、前述したように、これに載置された記録媒体10の面方向に沿って例えば互いに直交するx軸およびy軸に関して移動するように、もしくは回転するようになされ、さらに再生ヘッドHPとしてのカンチレバー22の針状電極21との間隔を調整できるように記録媒体10の面方向と直交するz軸方向に移動制御できるように構成される。
【0050】
再生ヘッドHPすなわち針状電極21を有するカンチレバー22と記録媒体10との間にバイアス電圧Vを印加すると、静電結合により針状電極21と、記録媒体との間に(数1)で与えられる力FZ が働く。
【0051】
【数1】
(ここでCは針状電極21と記録媒体10との間の静電容量、Zは針状電極21と記録媒体10との間の距離。)
今、記録媒体10の表面電位をVS とし、
V=VAC・sinωt+Voff
のバイアス電圧Vを印加すると、力FZ は次式(数2)のようになる。
【0052】
【数2】
【0053】
これによってカンチレバー22は力FZ を受けて振動する。一方カンチレバー22の先端に、半導体レーザー43からのレーザー光を照射し、その反射光をフォトダイオード等の光検出器44によって検出する。この光検出器44によって得られる検出信号Aは、次式(数3)で表すことができる。
【0054】
【数3】
【0055】
この検出信号Aは、ロックインアンプ45に入力され、ここで、2ω成分の出力(数4)を取り出す。
【0056】
【数4】
【0057】
この2ω成分による出力は、載置台30のz軸方向の位置制御を行うサーボ回路46に入力し、これによって載置台30のz軸方向の位置制御を行ってこの2ω成分による出力が一定になるようになされる。2ω成分は静電容量の微分信号であり、2ωを一定に制御することにより、誘電率を一定に仮定すれば、カンチレバー22の針状電極21と記録媒体との距離を一定に制御できる。
【0058】
このときの載置台30のz軸の制御信号を画像化すると、記録媒体10の表面形状の情報が得られることになる。
【0059】
また、このとき同時にω成分の出力(数5)をロックインアンプ45で取り出す。
【0060】
【数5】
【0061】
これは媒体10の表面電位VS にのみ依存することになる。つまり、これが記録媒体10の表面電位分布に対応した出力となる。そして、このとき、この出力が∂C/∂zの大きさによって変わることのないように、さらに、ω項がゼロになるようにω成分出力をVoff の制御回路47にフィードバックしてVoff の制御を行って∂C/∂Zの大きさによる影響を排して、
Voff +VS =0 すなわち VS =−Voff
とする。このようにすればVS 、云い換えれば、記録媒体10上の表面電位分布として生じる記録情報を読み出すことができる。
【0062】
〔(ii)上記SMM構成においてヘテロダイン検出方式を採る構成による場合。〕通常のSMMでは、周波数特性はカンチレバーの機械的共振周波数によって限定されるが、この方法によるときは、カンチレバーと記録媒体に働くマックスウエル応力の非線形性を利用することにより、カンチレバーの機械的共振周波数の影響を受けることなく、高周波数成分の差周波を持つビート信号を検出することによる表面電位または静電容量の変化量の再生が可能であり、高周波数領域における高速な多値情報の再生が可能となる。このため、再生ヘッドの周波数特性は、MHz帯域までの応答が可能となる。
【0063】
図4は、この再生装置における再生ヘッドHPとその制御部の構成図を示す。図4において図3と対応する部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0064】
この検出方式は、ヘテロダイン検出方式によるSMMの動作原理による(前記Molecular Electronics and Bioelectronics,Vol.3 p79(1992)およびVol.79 p34(1995)参照)。
この方式では、通常のSMM検出方式による表面電位の検出等、カンチレバーの共振点より高い周波数領域における表面電位または静電容量の検出を行うことができる。
【0065】
この検出方式においても、再生ヘッドHPすなわち針状電極21を有するカンチレバー22と記録媒体10との間にバイアス電圧Vを印加すると、静電結合により針状電極21と、記録媒体10との間に前記(数1)で与えられる力FZ が働く。今、記録媒体10の表面電位をVsとし、
V=VAC・sinωt+Voff
のバイアス電圧Vを印加すると、力FZ は前記(数2)のようになる。これによってカンチレバー22は力FZ を受けて振動する。一方カンチレバー22の先端に半導体レーザー43からのレーザー光を照射し、その反射光をフォトダイオード等の光検出器44によって検出する。この光検出器44によって得られる検出信号Aは、前記(数3)で表すことができる。
【0066】
この検出信号は、ロックインアンプ45Bに入力され、ここで、2ω成分の出力(前記(数4))を取出す。
この2ω成分による出力は、載置台30のz軸方向の位置制御を行うサーボ回路46に入力し、これによって載置台30のz軸方向の位置制御を行ってこの2ω成分による出力が一定になるようになされる。2ω成分は静電容量の微分信号であり、2ωを一定に制御することにより、誘電率を一定に仮定すれば、カンチレバー22の針状電極21と記録媒体10との距離を一定に制御できる。
このときの載置台30のz軸の制御信号を画像化すると、記録媒体10の表面形状の情報が得られることになる。
【0067】
また、このとき同時にω成分の出力(前記(数5))をロックインアンプ45Bで取り出す。
これは記録媒体10の表面電位Vsにのみ依存することになる。つまり、これが記録媒体10の表面電位分布に対応した出力となる。そして、このとき、この出力が∂C/∂zの大きさによって変わることのないように、さらに、ω項がゼロになるようにω成分出力をフィードバックしてVoff の制御を行って∂C/∂zの大きさによる影響を排して、
Voff +Vs=0 すなわち Vs=−Voff
とする。また、ω項の値を直接検出することによっても情報を読み出すことは可能である。
このようにしてVs、云い換えれば、記録媒体10上の表面電位分布として生じる記録情報を読み出すことができる。
【0068】
そして、通常のSMMでは、その再生系の周波数特性はカンチレバーの共振周波数によって制限されるが、ヘテロダイン検出方式を用いることによりカンチレバーの機械的共振周波数よりも高い周波数帯域での静電容量または表面電位の検出が可能となる。このため再生ヘッドの周波数特性は、MHz帯域までの応答が可能となる。
ヘテロダイン検出方式のSMMの動作原理は以下の通りである。
SMMでMHz以上の高周波数成分を含む複数の交流電圧をカンチレバー22と記録媒体10との間に印加し、誘起されたカンチレバー22の振動を4分割光検出器44で検出する。
【0069】
【数6】
【0070】
ここで、VAFは、(数7)で与えられ、カンチレバーの共振周波数以下の周波数成分からなる低周波電圧で、低周波発振器56およびローパスフィルタ57によって得たDC(直流)バイアス電圧VDcと周波数ω0 の交流電圧からなる。VRFは、(数8)で与えられ、カンチレバーの共振周波数より高い交流電圧を示し、高周波発振器58からの周波数ωa でハイパスフィルタ59よりの周波数ωr の高周波キャリア信号を変調の深さM(M≒1)で振幅変調したものである。
【0071】
【数7】
【0072】
【数8】
【0073】
この結果、印加電圧は、DC、ω0 、ωr とωr +ωa 、ωr −ωa の5種類の周波数成分から構成される交流電圧となる。上記交流電圧がカンチレバーに印加されるとマックスウエル応力が電界の2乗に比例するために、周波数の混合が引き起こされ、和と差の周波数を持つ振動成分がカンチレバー上に誘起され、この振動が光検出器44で検出されプリアンプ55で増幅され、ロックインアンプ45Aおよび45Bに導入される。ロックインアンプ45Aおよびロックインアンプ45Bから得たヘテロダインビート成分、ω0 成分、2ω0 成分は、コンピュータ147に入力される。特にωa で振動するヘテロダインビート成分は周波数ωr での記録媒体での誘電応答についての情報を与える(下記(数9))。このためヘテロダイン検出方式は、カンチレバーの共振器周波数よりも高い周波数での記録媒体の静電容量の検出を可能にする。また、カンチレバーの位置の制御は、2ω0 の振幅が常に一定になるように、例えばz軸方向のピエゾ素子(図示せず)による制御によって行われる。
【0074】
【数9】
【0075】
〔(iii) ケルビン力顕微鏡(KFM:Kelvin Force Microscope )構成。〕
この動作原理は、ケルビン力顕微鏡で知られている(例えばApplied Physics Letters 52 1103 (1993)参照)。
【0076】
図5を参照して説明する。図5において、図4と対応する部分には同一符号を付して示す。この場合においても、再生ヘッドHPは、図2で説明した記録ヘッドHR自体を用いることができるが、この場合における再生ヘッドHPは記録媒体10に対して非接触状態で用いられる。すなわち、図2で説明した記録ヘッドにおけると同様に、再生ヘッドHPは、先端に例えば円錐状、3角錐状、断面例えば3角の柱状等の実質的に針状の電極21が形成された例えば短冊状の板バネ構成を有し、一端が固定されたカンチレバー22によって構成される。このカンチレバー22は、前述した載置台30上に載置された記録媒体10に非接触な状態で記録媒体10の表面電圧Vsの検出すなわち記録情報の再生がなされる。そして、この場合、共振周波数が充分高く、バネ定数が充分低いカンチレバーを用いることにより、KFMを用いてMHz帯の高周波数領域における高速の再生が可能となる。
【0077】
この載置台30は、前述したと同様にこれに載置された記録媒体10の面方向に沿って例えば互いに直交するx軸およびy軸に関して移動するように、もしくは回転するようになされ、さらに再生ヘッドHPとしてのカンチレバー22の針状電極21との間隔を調整できるように記録媒体10の面方向と直交するz軸方向に移動制御できるように構成される。
【0078】
そして、再生ヘッドHPすなわち針状電極21を有する圧電素子23を用いて共振周波数で振動しているカンチレバー22と記録媒体10との間に、バイアス電圧Vを印加すると、静電結合により針状電極21と、記録媒体10との間に前記(数1)で与えられる力Fzが働く。
そして、いま、記録媒体10の表面電位をVsとし、
V=VAC・sinωt+Voff
で与えられるバイアス電圧Vを印加すると、力FZ は(数10)のようになり、カンチレバー22は、力Fzを受けて振動する。
【0079】
【数10】
【0080】
一方、カンチレバー22の先端に、半導体レーザー43からのレーザー光を照射し、その反射光をフォトダイオード等の光検出器44によって検出する。この光検出器44によって得られる検出信号Aで、カンチレバー22の共振周波数の振幅の減少量に着目する。カンチレバー22の共振周波数の振幅は、記録媒体10とのクーロン相互作用により減少する。この共振周波数の周波数シフトに起因する共振周波数の振幅の減少量または位相変化を検出することにより表面電位または静電容量の微分量等の物理量を求めることができる。
この検出信号は、ロックインアンプ45に入力され、ここでカンチレバーの共振器周波数ωr 成分の出力(数11)を取り出す。
【0081】
【数11】
【0082】
このωr 成分による出力は、載置台30のz軸方向の位置制御を行うサーボ回路46に入力し、これによって載置台30のz軸方向の位置制御を行ってこの2ω成分による出力が一定になるようにされる。ωr 成分は、ファンデルフワールス力とクーロン力に起因する力であり、ωr を一定に制御することにより、誘電率を一定と仮定すれば、カンチレバー22の針状電極21と記録媒体10との距離を一定に制御できる。
このときの載置台30のz軸の制御信号を画像化すると、記録媒体10の表面形状の情報が得られることになる。
【0083】
また、このとき同時に、ω成分の出力(数12)をロックインアンプ45で取り出す。
【0084】
【数12】
【0085】
測定される変位量Aは、カンチレバーの共振点での振動の振幅または位相に対する微分信号となるため記録媒体10の表面電位Vsの微分に対応する信号が得られる。つまり、これが記録媒体10の表面電位分布に対応した出力となる。そして、このとき、この出力が∂C/∂zの大きさによって変わることのないように、さらにω項が0になるように、ω成分出力をVoff の制御回路47にフィードバックしてVoff の制御を行って∂C/∂zの大きさによる影響を排して、
Voff +Vs=0すなわちVs=−Voff
とする。このようにすれば、Vs言い換えれば、記録媒体10上の表面電位分布の微分信号として生じる記録情報を読み出すことができる。
【0086】
また、記録媒体10からの記録情報の再生の他の例としては、再生ヘッドを記録媒体に接触させた状態での容量変化の検出によって行うことができる。この再生は、具体的には、上述のAFMを発展させた周知の装置である走査型容量顕微鏡(SCM)構成によることができる。
【0087】
上述した(i) 〜(iii) の各再生方法によるときは、再生ヘッドが記録媒体10に対して非接触状態とされることから、再生ヘッド、すなわち針状電極21の摩耗を回避でき、再生ヘッドと記録媒体の長寿命化をはかることができる。
【0088】
〔(iv)のSCMによる場合〕
この記録媒体10からの記録情報の再生は、再生ヘッドを記録媒体10に対して接触させた状態で行う。図6は、記録情報に基く静電容量の変化量を検出して記録情報の再生を行うこの再生装置の一例の概略構成図を示す。この再生装置は、具体的には上述のAFMを発展させた周知の走査型静電容量顕微鏡(SCM:Scanning Capacitance Microscop)構成とした(以下、この再生装置をSCM型再生装置という)。すなわち、この場合においても、前述した記録装置におけると同様に、先端に針状電極21を有する導電性カンチレバー22が設けられた再生ヘッドHPを有してなる。この再生ヘッドHPは、記録ヘッドHRと共用することも別構成とすることもできる。この再生ヘッドHPにおいても、先端に例えば円錐状、三角錐状、断面例えば三角の柱状等の実質的に記録媒体に対して点接触ないしは微小面接触できる針状電極21が形成された例えば短冊状の板バネ構成を有し、一端が固定されたカンチレバー22によって構成される。このカンチレバー22は、バネ定数0.01〜10〔N/m〕のSiもしくはSiNよりなりその表面にAu,Pt,Co,Ni,Ir,Cr等の単層ないしは多層構造の金属層が被覆されることによって高い導電性が付与されて成る。或いは針状加工が可能で、導電性を有する不純物ドーピングのなされた導電性シリコンによって構成される。これらカンチレバー22は、いわゆるマイクロファブリケーション技術によって作製することができる。
【0089】
載置台30は、前述したように、これに載置された記録媒体10の面方向に沿って例えば互いに直交するx軸およびy軸に関して移動するように、もしくは回転するようになされ、更に再生ヘッドHPとしてのカンチレバー22の針状電極21との接触状態を調整できるように記録媒体10の面方向と直交するz軸方向に移動制御できるように構成される。
【0090】
再生ヘッドHPの針状電極21を記録媒体10上に接触させ、この状態で載置台30によって記録媒体を例えば回転させて針状電極21を記録媒体10上に走査しつつ、直流電源40からの直流バイアス電圧V記録媒体10に印加し、カンチレバー22と記録媒体10との間の静電容量を検出器50に内蔵する発振周波数915MHzの発振器からの発振周波数シフトとして静電容量信号C(V)を検出し、ロックインアンプ45からdC/dV信号を取り出し、これをコンピュータ52に入力する。この場合、媒体の極くわずかな容量変化が共振周波数のシフトとなり、出力振幅の高低が変化する。この信号を検波回路で検波し、静電容量または静電容量の電圧微分(dC/dV)の変化として検出する。
【0091】
その概略構成を説明すると、カンチレバー22に、例えば半導体レーザ43からのレーザー光を照射し、その反射光を光検出器44によって検出し、サーボ回路に入力し、載置台30のz軸方向の制御がなされる。
【0092】
この場合の再生ヘッドは、前述した例えば記録ヘッドHRにおけると同様のカンチレバー構成を採り得る。このカンチレバーすなわち再生ヘッドは、上述した記録ヘッドと兼用することもできるし、別の構成とするこもできる。いずれにおいても、その再生ヘッドとしてのカンチレバーは、これが記録媒体に接触した状態で通常のAFM装置と同一の方式でフィードバック制御される。そして、記録媒体内の空間電荷に起因する静電容量を再生ヘッドの後段に配置された容量センサで検出する。そして、この検出された静電容量を2次元画像化することができ、これにより静電容量の2次元分布を検出することができる。
【0093】
SCMでは、周波数特性はカンチレバーの共振周波数によって限定されず、カンチレバーよりも高い周波数帯域での静電容量の検出が可能となる。このため再生ヘッドの周波数特性は、MHz帯域までの応答が可能となる。
【0094】
次に、本発明の実施例を説明する。
〔実施例1〕
この実施例における記録媒体は、針状電極を含むヘッドから電子を、記録媒体のキャリアトラップに注入または放出することによる記録態様で3値記録をとる場合である。
この場合の記録媒体10は、図7でその概略断面図を示すように、Si基体11上に、その表面熱酸化による厚さ4nmSiO2 膜14が形成され、これの上にLPCVD(低圧CVD(化学的気相成長))法により厚さ10nmのSiN膜15が形成され、これの上に、熱酸化法により厚さ3.5nmのSiO2 膜16による電荷蓄積層が形成されて成る。
【0095】
この電荷蓄積層を有する記録媒体10に対する記録は、前述した図2の記録ヘッドHRによって行う。すなわち、記録媒体10を、移動載置台30上に配置し、記録媒体10の表面SiO2 層16に、針状電極21を、いわば微小面接触させて、載置台30を移動させて記録媒体10上に針状電極21を走査しつつ記録情報に基いてパルス電圧を印加して、導電性カンチレバーよりSiO2 /SiN界面付近に存在するキャリアトラップに電子を局所的に注入または放出して3値情報に対応する情報の記録をパルス電圧の極性に対応させて行う。
【0096】
すなわち、記録媒体中のキャリアトラップに局所的に注入または放出したキャリア(電子)の状態により表面電位が制御可能であり、その結果として3値記録の記録情報に応じた電位パターンを形成することができる。
【0097】
次に、この実施例における記録媒体の電圧容量特性を検討した。
記録層のトラップが電荷の注入を受けている場合と、電荷の注入を受けていない場合と比較して電圧容量特性が異なる。その結果として、注入電荷の有無で電圧容量特性にヒステリシス特性を示すことが分かる。
【0098】
ヒステリシス特性におけるフラットバンド電圧のシフト量ΔVは注入された電荷量に依存しており、注入電荷量が多いほどΔVは大きくなる。このヒステリシス特性は一定のバイアス電圧では注入電荷の有無によって静電容量の値が異なるため、キャリアトラップへの局所的キャリアの注入の有無による空間的な容量変化を表面電位の変化として記録媒体に非接触状態で検出することにより情報の記録再生が可能になる。
【0099】
次に、この実施例1における記録消去再生特性を示す。
まず、記録媒体10に、−9Vまたは9Vのパルス電圧を、針状電極を含むヘッドHRの針状電極21から、これに近接した場所に印加して、局所的に電子をSiO2 /SiN界面付近のトラップに注入または放出する。
【0100】
図8に9V、4msのパルス電圧を印加した場合の記録ビットパターンをSMMで検出再生した例を示した。図8はその表面電位像であり、周囲と比較して表面電位が増大している部分を情報“2”、周囲と同一の表面電位の部分を情報の“1”に対応させることができる。また、図9に示すように−9V、4msのパルス電圧を印加することにより、周囲と比較して表面電位が減少している部分が生じ、この表面電位が情報“0”に対応させることができる。図10にSMM再生法を用いて検出再生した1次元記録ビットパターンを示す。情報“2”は9V、2msのパルス電圧による電子の局所的な放出により形成した。情報“2”と情報“1”に対応する記録ビットパターンが形成されていることが分かる。図11に情報“2”に対応する2次元記録ビットパターンを示す。記録ビットの直径は約100nmであり、従来と比較して数倍の高記録密度を実現した。このことより、3値情報の記録、再生ができることが分かった。
【0101】
次に、図4のヘテロダイン検出SMM再生装置を用いて、上述の記録媒体に対する記録、すなわち局所的な注入電荷量の差を表面電位Vsの分布として検出した。この場合、10MHzの高周波数領域で表面電位分布を評価した。
【0102】
その結果、表面形状は、パルス電圧を印加する前後で変化は観察されず、パルス電圧を印加することによって記録媒体の表面が変質することなく良好に保持されていることが分かった。
【0103】
このヘテロダイン検出SMM像において、電子が注入または放出された部分にコントラストが生じ、記録ビットが再生された。その表面電位は周辺と比較して増大または減少していることが分かり、パルス電圧の極性によって記録ビットの極性が対応することが分かった。この2種類の極性と周辺の電子の注入または放出されていない位置の表面電位とを併せて3値の情報の記録再生が可能なことが分かった。
【0104】
また、ヘテロダイン検出SMM再生法を用いることにより、10MHzでの高周波数領域でも通常のSMMの動作領域である5〜20kHzの場合と同様な表面電位分布が得られていることが分かった。これは表面電位分布が10MHzの高周波数領域においても記録ビットの検出再生ができることを示すものである。
【0105】
キャリアの注入電荷量の差は電位差で約70mVであり、SMMの電位分解能が1mVであることから、例えばデジタル信号“0”,“1”および“2”のデータの識別を充分行うことができる値であることが分かった。
【0106】
このことから、この実施例の記録媒体の局所的な電荷の注入または放出量がカンチレバー記録ヘッドよりのパルスバイアス電圧印加により制御可能であることが示された。
【0107】
この2種類の局所的な電荷に起因した表面電位の値をデジタルデータのストレージの“0”,“1”と“2”に対応させることができることが分かった。
【0108】
種々の実験の結果、最小記録ビットの直径を100nm以下にすることが可能であることが分かった。また、キャリア注入の記録または消去時間も1μsよりの小さくすることが可能であることが分かった。
【0109】
そして、局所的にキャリアを注入した領域は、充分安定に保持されることが分かった。上述したように、この実施例1では3値記録の高密度記録再生装置として充分な機能をもっていることが分かった。
【0110】
本実施例では3値記録再生装置について示したが、3値記録装置、または3値再生装置としても適用可能なことは言うまでもない。
【0111】
〔実施例2〕
本実施例では、実施例1と同様の記録ヘッド、記録媒体10を用いて、5値情報の記録再生消去の検討結果を示した。図12に表面電位のパルス電圧依存性を示した。これにより表面電位はパルス電圧が増大するにつれて単調に増大していることが分かる。また、バイアス電圧の極性が反対の場合も、表面電位とパルス電圧は図12と同様の関係を示した。このため、この傾向はパルス電圧の極性に依存していないことも分かった。
【0112】
そこで、情報を以下に示す表面電位に分割して5値の記録再生を試みた。
情報“0”として表面電位 −40mV以下
情報“1”として表面電位 −35mV〜−15mV
情報“2”として表面電位 −10mV〜+10mV
情報“3”として表面電位 +15mV〜+35mV
情報“4”として表面電位 +40mV以上
【0113】
データの書き込みはプラスマイナス10Vまたはプラスマイナス6Vの電圧パルスの印加で行い、多値記録が可能な表面電位の値を制御した。
【0114】
再生は通常のSMMまたはヘテロダイン検出方式のSMMの表面電位分布の表面電位差として、局所的な電荷トラップ領域に記録させた情報を読み出した。
【0115】
電荷蓄積層のSiO2 /SiN界面付近のトラップに存在する電荷の状態を表面電位の変化としてパルス印加電圧条件により制御し、デジタルデータの“0”,“1”,“2”,“3”および“4”に対応する表面電位が得られることが分かった。ビット情報間の電位差はSMMの検出感度1mVに対して充分とれることが分かった。
【0116】
以上より、表面電位の極性と大きさをパルス電圧の極性と電圧の大きさで制御して、5値の情報の記録再生消去を実現した。
【0117】
また、先端直径の鋭いカンチレバーを再生ヘッドに用いることにより、記録ビットの直径も100nm以下になることが分かった。
また、局所的に電荷が注入または放出された記録ビット領域は充分安定に保持されることが分かった。
【0118】
以上より、この実施例では5値記録の高密度記録再生装置として充分な機能をもっていることが分かった。
【0119】
本実施例では5値の記録再生装置について示したが、本発明が5値の記録装置、または5値の再生装置としても適用可能なことは言うまでもない。
【0120】
〔実施例3〕
この実施例における記録媒体は、記録ヘッドから電子をトラップに注入または放出することによる3値記録の記録態様をとる場合である。
この実施例では、図13にその概略断面図を示すように、記録媒体10は、Si基体11上に、その表面熱酸化によって厚さ4nmSiO2 膜14が形成され、これの上にLPCVD法により厚さ5nmのSiN膜15が形成され、さらにこれの上にLPCVD法により厚さ3nmのSiO2 膜16が形成され、さらにこれの上に、厚さ5nmのSiN膜17が形成され、これの上に熱酸化法またはLPCVD法により厚さ3.5nmのSiO2 膜16が形成された電荷蓄積層を有して成る。
上記LPCVDで形成したSiO2 膜とSiN膜は、クラスタツールCVD装置を用いて連続的に作製した。
【0121】
この電荷蓄積層を有する記録媒体10に対する記録は、前述した図2の記録ヘッドHRによって行う。すなわち、記録媒体10を、移動載置台30上に配置し、記録媒体10の表面SiO2 層16に、針状電極21を、いわば点接触させて、載置台30を移動させて記録媒体10上に針状電極21を走査しつつ記録情報に基いてパルス電圧を印加して、導電性カンチレバーよりSiO2 /SiN界面付近に存在するキャリアトラップに電子を局所的に注入または放出して情報の記録を行う。すなわち、キャリアトラップに局所的に注入したキャリア(電子)の有無の記録情報に応じた電位パターンを形成する。
【0122】
この実施例では、ヘテロ界面の数は実施例1と比較して1.5倍になっているため、その結果として、界面に存在し得るキャリアトラップの濃度も大きくなる。
【0123】
この実施例では、SiO2 膜とSiN膜のヘテロ界面付近のキャリアトラップに導電性カンチレバーより電子を局所的に注入または放出することによって局所的に電荷量の差を生じさせ、電荷量の差の検出を表面電位Vsの分布の検出によって行う。
【0124】
次に、この実施例3における3値情報の記録消去再生特性を示す。
まず、記録媒体10のSiO2 /SiN/SiO2 /SiN/SiO2 /Si構造の記録媒体に−9Vまたは9Vのパルス電圧をヘッドすなわち針状電極21から印加して、局所的に電子を界面トラップに注入または放出して形成した3値情報は以下の表面電位に分割して検出再生する。
【0125】
情報“0”として表面電位 −70mV〜−30mV
情報“1”として表面電位 −15mV〜+15mV
情報“2”として表面電位 +30mV〜+70mV
【0126】
次に、上述の図3の通常のSMM再生装置、および図4のヘテロダイン検出SMM再生装置を用いて、記録媒体の局所的な注入または放出電荷量の差を表面電位Vsの分布として検出する。通常のSMMおよびヘテロダインSMM再生法によって3μm×3μmのエリアを評価した結果、表面形状は、パルス電圧を印加する直後で変化は観察されず、パルス電圧を印加することによって記録媒体の表面が変質することなく良好に保持されていることが分かった。
【0127】
ヘテロダインSMM像では3μm×3μmの部分でキャリアの注入または放出させた部分の表面電位のコントラストは周囲と比較して変化した。これは−9Vまたは9Vのパルス電圧印加によって電子が導電性カンチレバーより界面付近のトラップに局所的に注入または放出され、その結果として表面電位の値が周囲と比較して増加または減少していること、すなわち、記録ビットが形成されていることを示した。
【0128】
また、ヘテロダインSMMのスキャンエリアをさらに小さくして、例えば1.5μm×1.5μmとして、同様な実験を試みた場合も、電子のキャリア注入または放出により電荷量、その結果として表面電位が増大または減少している記録ビットが検出再生された。
【0129】
以上より微細な記録ビットをヘテロダイン検出SMM再生法によって検出可能であることが分かった。SMMの電位分解能が1mVであることから、例えばデジタル信号“0”,“1”および“2”のデータの識別を充分行うことのできる値であることが分かった。
【0130】
このことから、この実施例の記録媒体の局所的な電荷の注入または放出量がカンチレバー記録ヘッドよりのバイアス電圧印加により制御できることが示された。
【0131】
この2種類の局所的な電荷の有無をデジタルデータのストレージの“0”,“1”と“2”に対応させることができる。すなわち、コントラストの明るい部分と暗い部分と周辺の部分でデジタルデータの“0”,“1”と“2”に対応させることにより高密度記録ができることが分かった。
【0132】
種々の実験の結果、最小記録領域の直径を100nm以下にすることが可能であることが分かった。また、キャリア注入の記録消去時間も1μsよりの小さいことが分かった。
【0133】
そして、局所的にキャリアを注入した領域は、充分安定に保持されることが分かった。上述したように、この実施例3では高密度記録再生装置として十分な機能をもっていることが分かった。
【0134】
尚、この実施例ではSiO2 /SiNヘテロ界面が3種類形成されている場合について示したが、ヘテロ界面が1種類の場合、すなわち、SiN/SiO2 /Si構成による記録媒体の場合も、3値記録の記録、再生、消去ができることを確認した。
【0135】
また、本実施例では記録、再生装置について示したが、3値の記録装置または再生装置としても本発明は適用可能である。
【0136】
〔実施例4〕
この実施例では、蓄積キャリアをSi基体側から電荷蓄積記録のキャリアトラップに注入または放出する方式での3値情報の記録再生を行った場合である。
【0137】
この実施例で用いた記録媒体10は、実施例1におけると同様に、図7に示すように、SiO2 膜14(厚さ3nm)、SiN膜15(厚さ10nm)およびSiO2 膜16の構成によるものの、この実施例で用いた記録媒体においては、そのSiO2 膜16を熱CVD法によって形成し、その膜厚を5nmとした。
【0138】
そして、その記録、消去、および再生方法も実施例1と同様の方法によった。
この場合の3値記録での電位分布の分割は次の通りである。
【0139】
情報“0”として表面電位 −70mV〜−30mV
情報“1”として表面電位 −15mV〜+15mV
情報“2”として表面電位 +30mV〜+70mV
【0140】
実施例1と同様に、カンチレバーにパルス電圧を印加することにより、Si基体側から電荷蓄積記録の電子をキャリアトラップに注入、放出することができ、その結果として、3値記録での記録ビットの記録再生消去が可能であることが分かった。
【0141】
記録ビットの記録再生特性については本実施例も実施例1と同等の特性が得られた。また、この実施例では、再生にヘテロダイン検出方式のSMM再生法を用いているため、記録ビットの高周波領域での高速な再生が可能になった。
【0142】
また、本実施例では3値情報の記録再生装置について示したが、本発明を3値情報の記録装置および再生装置としても適用することは可能である。
【0143】
〔実施例5〕
この実施例では記録媒体として、実施例1と同様の記録媒体を用い、図2および図4で説明した記録および消去ヘッドHRと、再生ヘッドHPをそれぞれ別構成として、3値記録を行った。
【0144】
すなわち、各ヘッドHRとHPのカンチレバーを独別に構成し、記録媒体10に対して接触状態で用いられる記録および消去ヘッドの針状電極に関しては、その磨耗を考慮して表面に形成される導電層を比較的厚く形成した例えばその先端の曲率半径が50〜100nmとするが、非接触状態で用いられる再生ヘッドHPに関してはその磨耗を考慮する必要がないことから、表面導電層は薄く形成して、その針状電極の先端の曲率半径は記録および消去ヘッドHRのそれより小さい30nm以下でその共振周波数を5MHzとした。
【0145】
このように、再生ヘッドの針状電極の先端の曲率半径を小さくすることによって、再生時の表面電位の空間分解能の解像度を上げることができることから、その最小記録領域の大きさを直径約60nm以下にまで小さくすることができた。
【0146】
また、局所的に電荷が注入された領域は、充分安定に保持できた。また、ヘテロダイン検出方式のSMMを用いることにより、記録ビットの高周波数領域での再生ができた。
【0147】
このように、この実施例においても、高密度記録再生装置として充分な機能をもっていることが確認された。
【0148】
また、この実施例では、図7で示した構成による記録媒体を用いたが、他の構成、例えば図13で示した構成による電荷蓄積層を有する記録媒体を用いた場合であっても本発明の本質が変わらないことは言うまでもない。
【0149】
さらに、本実施例では3値情報の記録再生装置について示したが、本発明を3値情報の記録装置または再生装置として適用することが可能であることは言うまでもない。
【0150】
〔実施例6〕
この実施例における針状電極を有するカンチレバー記録ヘッドと記録媒体の基体との間に電圧パルスを印加し、電子を電荷蓄積層のトラップへ注入することによる3値記録態様をとる場合である。
【0151】
この場合の記録媒体10は、図14にその概略断面図を示すように、Si基体11上に、その表面熱酸化による下層絶縁層としての厚さ3nmのSiO2 膜74を形成した後、プラズマCVD法によりSiナノ結晶75cを形成し、これの上に、Si結晶75cを埋込む絶縁膜75iを形成して、この絶縁膜75i中にナノ結晶75cが埋込まれて成るナノ結晶層75を形成し、続いてこれの上に、LPCVD法により上層絶縁膜として厚さ5nmのSiO2 膜76を形成して成る。
【0152】
この記録媒体10にSiナノ結晶層75を有する電荷蓄積層に対する記録は、前述した図2の記録ヘッドHRによって行う。すなわち、記録媒体10を、移動載置台30上に配置し、記録媒体10の表面SiO2 層16に、針状電極21を、いわば微小面接触させて、載置台30を移動させて記録媒体10上に針状電極21を走査しつつ記録情報に基いてパルス電圧を印加して、導電性カンチレバーよりSiナノ結晶層を有する電荷蓄積層のキャリアトラップに電子を局所的に注入して情報の記録を行う。すなわち、キャリアトラップに局所的に注入したキャリア(電子)の有無の記録情報に応じた電位パターンを形成する。
【0153】
この記録媒体10からの記録情報の読み出しすなわち再生は、本実施例ではSiO2 膜14をトンネルして主としてSiナノ結晶層15のトラップに電子を局所的に注入することによって局所的に電荷量の差が生じさせ、電荷量の差の検出を表面電位Vsの分布の検出によって行う。
【0154】
次に、この実施例6における記録消去再生特性を示す。
まず、記録媒体10のSiO2 /Si結晶層/SiO2 /Si基体に5Vのパルス電圧をヘッドすなわち針状電極21から印加して、電子を主としてSiナノ結晶層に存在する局所的なトラップに注入する。
【0155】
次に、図3のSMM再生装置を用いて記録媒体の局所的な注入電荷量の差を表面電位Vsの分布として検出するSMMによって3μm×3μmのエリアを評価した結果、表面形状は、パルス電圧を印加する前後で変化は観察されず、パルス電圧を印加することによって記録媒体の表面が変質することなく良好に保持されていることが分かった。
SMM像では2μm×2μmの部分でキャリアの注入させた部分のコントラストは周囲と比較して暗くなっており、これは5Vのパルス電圧によって電子がSi基体側よりトラップに局所的に注入され、負の電荷量が周囲と比較して増加していることを示している。
【0156】
以上より微細な記録ビットをSMM再生法によって検出可能であることが分かった。注入電荷量の差は電位差では約40mVであり、SMMの電位分解能が1mVであることから、例えばデジタル信号“0”及び、“1”のデータの識別を充分行うことのできる値であることが分かった。
また、−5Vのパルス電圧を記録メディアにかけた場合、すなわち、上述のキャリアの注入、すなわち記録は反対の極性の電圧を印加した場合、SMMの電位分布で観察される画像のコントラストも逆転していることが分かった。すなわち、記録媒体のトラップに注入されるキャリアの量が反対になっていることが分かる。
【0157】
このことから、本実施例の記録媒体の局所的な電荷の注入量がカンチレバー記録ヘッドよりのバイアス電圧印加により制御可能なことが示された。
この最高の表面電位、中間電位と周辺の電位、または電子の注入と放出の各々の表面電位と周辺の電位を3種類の局所的な記録ビットを、デジタルデータのストレージの“0”と“1”および“2”に対応させることができる。すなわち、コントラストの明るい部分と暗い部分と周辺部で、デジタルデータの“0”,“1”および“2”に対応させることにより3値情報を同一の記録ビットに記録する高密度多値記録ができることが分かった。
また、種々の実験の結果、最小記録領域の直径を100nm以下にすることが可能であることが分かった。また、キャリア注入のスイッチング時間も1μsよりの小さいことが分かった。
【0158】
また、図4に示したヘテロダイン検出SMM法を用いることにより、10MHz以上の高周波数領域での記録ビット信号の検出再生を行うことができた。
そして、局所的にキャリアを注入した領域は、充分安定に保持されることが分かった。上述したように、この実施例6では高密度記録再生装置として十分な機能をもっていることが分かった。
【0159】
〔実施例7〕
この実施例では、記録媒体がいわゆるディスク形状をなしている場合で、これを回転させて3値情報の記録再生を行った。
ヘッドは、実施例5で確認した2種類の記録および再生用ヘッドを用いた。また、記録媒体の構造は、実施例1と同様の記録媒体を用いた。
【0160】
この場合の3値情報の記録再生特性は、実施例1と同様に確認することができた。また、記録媒体と非接触状態で情報の再生を行っているため、記録媒体が高速回転している場合でも、ヘッドと記録媒体間の摩擦磨耗による影響を最小限に抑止することができた。また、ヘテロダイン検出方式のSMMを用いることにより、記録ビットの高周波数領域での再生ができた。
【0161】
種々の実験の結果、この場合においても最小記録ビット直径を100nm以下にすることが可能であることが分かった。記録の消去時間は1μsより小さくすることができた。また、局所的に電荷が注入された領域は充分安定に保持された。
【0162】
以上より、本実施例で高密度記録再生装置として充分な機能をもっていることが確認された。この実施例においても、図7で示した構成による記録媒体を用いたが、他の構成、例えば図13、図14で示した構成による電荷蓄積層を有する記録媒体を用いた場合であっても本発明の本質が変わらないことは言うまでもない。
【0163】
さらに、本実施例では3値情報の記録再生装置について示したが、本発明を3値情報の記録装置または再生装置として適用することが可能であることは言うまでもない。
【0164】
〔実施例8〕
この実施例においては、実施例1と同様の構成による記録媒体を用い、実施例1と同様の記録装置によって3値記録を行った場合である。
【0165】
しかしながら、この実施例8においては、その記録情報の再生を、図5で説明したKFMで検出再生した場合である。
【0166】
この実施例における記録消去再生特性を示す。
まず、記録媒体10に、−9Vまたは+9Vのパルス電圧を、針状電極を含むヘッドHRの針状電極21から、これに近接した場所に印加して、電子を界面付近のトラップに局所的に注入または放出する。
【0167】
9V、4msのパルス電圧を印加した場合の記録ビットパターンを、KFMで検出再生した場合の表面電位像を検討した。図8〜図10で示したSMM再生法の場合と同様に、周囲と比較して表面電位が増大している部分が情報“2”と、周囲と同一の表面電位の分が情報の“1”に対応させることができることが分かった。また、−9V、4msのパルス電圧を印加することにより、周囲と比較して表面電位が減少している部分が生じ、この表面電位を情報“0”に対応させることができる。このことより、3値情報の記録、再生ができることが分かった。
【0168】
次に、KFM再生装置を用いて、上述の記録媒体に対する記録、すなわち局所的な注入電荷量の差を表面電位Vsの分布として検出した。この場合、共振周波数5MHzのカンチレバーを用い、5MHzの高周波数領域で表面電位分布を評価した。
【0169】
その結果、表面形状は、パルス電圧を印加する前後で変化は観察されず、パルス電圧を印加することによって記録媒体の表面が変質することなく良好に保持されていることが分かった。
【0170】
KFM像において電子が注入または放出された部分にコントラストが生じ、記録ビットが再生されたことを確認した。その表面電位は周辺と比較して増大または減少していることが分かり、パルス電圧の極性によって記録ビットの極性が対応することが分かった。この2種類の極性の表面電位と周辺の電子の注入または放出されていない位置の表面電位とを併せて3値の情報の記録再生が可能なことが分かった。
【0171】
また、共振周波数を5MHzのカンチレバーの再生ヘッドを用いたKFM再生法を用いることにより、5MHzでの高周波数領域でも5−10kHzと同様な表面電位分布が得られていることが分かった。また、共振周波数が10MHz以上で十分バネ定数の小さいカンチレバーを作製することは可能であり、その結果として10MHz以上の高周波数領域においても記録ビットの検出再生ができることを示すものである。
【0172】
キャリアの注入電荷量の差は電位差で約70mVであり、KFMの電位分解能が3mVであることから、例えばデジタル信号“0”,“1”および“2”のデータの識別を充分行うことのできる値であることが分かった。
【0173】
このことから、この実施例の記録媒体の局所的な電荷の注入量がカンチレバー記録ヘッドよりのバイアス電圧印加により制御できることが示された。
【0174】
この2種類の局所的な電荷に起因した表面電位の値をデジタルデータのストレージの“0”,“1”と“2”に対応させることができることが分かった。
【0175】
種々の実験の結果、最小記録ビットの直径を100nm以下にすることができることが分かった。また、キャリア注入の記録、消去時間も1μsよりの小さくすることができることが分かった。
【0176】
そして、局所的にキャリアを注入した領域は、充分安定に保持されることが分かった。
上述したように、この実施例では3値記録の高密度記録再生装置として十分な機能をもっていることが分かった。
【0177】
本実施例では3値情報の記録、再生装置について示したが、本発明を3値情報の記録装置または再生装置に適用することは可能である。
【0178】
〔実施例9〕
本実施例では、実施例8と同様の記録ヘッド、記録媒体を用いて、5値情報の記録再生消去の検討結果を示した。図12に記録ビット最大表面電位のパルス電圧依存性を示した。この図より表面電位はパルス電圧が増大するにつれて単調に増大していることが分かる。また、上記傾向はパルス電圧の極性が反対の場合に依存せず、パルス電圧の極性が反対の場合も図12と同様な傾向を示すことが分かった。そこで、情報を以下に示す表面電位に分割して5値の記録再生を行った。
【0179】
情報“0”として表面電位 −40mV以下
情報“1”として表面電位 −35mV〜−15mV
情報“2”として表面電位 −10mV〜+10mV
情報“3”として表面電位 +15mV〜+35mV
情報“4”として表面電位 +40mV以上
【0180】
データの書き込みはプラスマイナス10Vまたはプラスマイナス6Vの電圧パルスの印加で行い、多値記録が可能な表面電位の値を制御した。
【0181】
再生はKFMの表面電位分布の表面電位差として、局所的な電荷トラップ領域に記録させた情報を読み出した。
【0182】
SiO2 /SiN界面付近のトラップに存在する電荷の状態を表面電位としてパルス印加電圧により制御し、デジタルデータの“0”,“1”,“2”,“3”および“4”に対応する表面電位が得られることが分かった。ビット情報間の電位差は、KFMの検出感度3mVに対して充分とれることが分かった。
【0183】
以上より、表面電位の極性と大きさをパルス電圧の極性と電圧の大きさで制御して、5値の情報の記録再生消去を実現した。
【0184】
また、先端直径の鋭い針状電極を含むヘッドを用いることにより、記録ビットの直径も100nm以下になることが分かった。
また、局所的に電荷が注入または放出された記録ビット領域は充分安定に保持されることが分かった。
【0185】
以上より、この実施例において、5値記録の高密度記録再生装置として充分な機能をもっていることが分かった。
【0186】
本実施例では5値情報の記録、再生について示したが、本発明が5値情報の記録装置または再生装置としても適用可能なことは言うまでもない。
【0187】
〔実施例10〕
この実施例における記録および記録媒体は、実施例3と同様の記録方法および記録媒体を用いて行った。すなわち、この実施例においても、図13で説明した記録媒体を用い、そのキャリアトラップへの針状電極を含む記録ヘッドから電子の注入によって3値記録を行った場合である。
【0188】
この実施例においても、実施例8および9に比し、ヘテロ界面の数が1.5倍になっているため、その結果として、界面に存在し得るキャリアトラップの濃度も大となる。
【0189】
そして、この実施例においては、図5で説明した通常のKFM再生装置を用いて記録媒体の電荷蓄積層における局所的な注入または放出電荷量の差を表面電位Vsの分布として検出する。
【0190】
この実施例における記録消去再生特性を示す。
まず、記録媒体10に、−9Vまたは9Vのパルス電圧を、針状電極を含むヘッドHRの針状電極21から、これに近接した場所に印加して、局所的に電子を界面トラップに注入または放出する。
3値情報は、以下の表面電位に分割して記録、再生した。
【0191】
情報“0”として表面電位 −70mV〜−30mV
情報“1”として表面電位 −15mV〜+15mV
情報“2”として表面電位 +30mV〜+70mV
【0192】
次に、通常のKFMによって3μm×3μmのエリアを評価した結果、表面形状は、パルス電圧を印加する直後で変化は観察されず、パルス電圧を印加することによって記録媒体の表面が変質することなく良好に保持されていることが分かった。
【0193】
KFM像では3μm×3μmの部分でキャリアの注入または放出させた部分の表面電位のコントラストは周囲と比較して低下した。これは−9Vまたは9Vのパルス電圧印加によって電子が導電性カンチレバーよりヘテロ界面付近のトラップに局所的に注入または放出され、その結果として表面電位の値が周囲と比較して増加または減少していること、すなわち、記録ビットが形成されていることを示した。
【0194】
また、KFMのスキャンエリアをさらに小さくして、例えば1.5μm×1.5μmとして、同様な実験を試みた場合も、電子のキャリア注入または放出により電荷量が増大または減少している記録ビットが検出された。
【0195】
以上より微細な記録ビットをKFMによって検出可能であることが分かった。KFMの電位分解能が3mVであることから、例えばデジタル信号“0”,“1”および“2”のデータの識別を充分行うことのできる値であることが分かった。
【0196】
このことから、この実施例の記録媒体の局所的な電荷の注入または放出量がカンチレバー記録ヘッドよりのバイアス電圧印加により制御可能なことが示された。
【0197】
この2種類の局所的な電荷の有無をデジタルデータのストレージの“0”,“1”と“2”に対応させることができる。すなわち、周辺部と比較して表面電位の低い部分と高い部分と周辺の部分でデジタルデータの“0”,“1”と“2”に対応させることにより3値情報の高密度記録がのできることが分かった。
【0198】
種々の実験の結果、最小記録領域の直径を100nm以下にすることが可能であることが分かった。また、キャリア注入の記録、消去時間も1μsより小さいことが分かった。
【0199】
そして、局所的にキャリアを注入した領域は、充分安定に保持されることが分かった。上述したように、この実施例3では高密度記録再生装置として十分な機能をもっていることが分かった。
【0200】
尚、この実施例ではSiN/SiO2 ヘテロ界面が3種類形成されている場合について示したが、ヘテロ界面が1種類の場合、すなわち、SiN/SiO2 /Si構成による記録媒体の場合も、3値記録の記録、再生、消去ができることを確認した。
【0201】
さらに、本実施例では3値情報の記録再生装置について示したが、本発明を3値情報の記録装置または再生装置として適用することが可能であることは言うまでもない。
【0202】
〔実施例11〕
この実施例では、実施例4におけると同様に、蓄積キャリアをSi基体側から電荷蓄積記録のキャリアトラップに注入する方式での3値情報の記録再生を行った場合である。
【0203】
この実施例で用いた記録媒体は、実施例1におけると同様に、図7に示すように、SiO2 膜14(3nm)、SiN膜15(10nm)およびSiO2 膜16の構成によるものの、この実施例で用いた記録媒体においては、そのSiO2 膜16を熱CVD法によって形成し、その膜厚を5nmとした。
【0204】
そして、その記録、消去、および再生方法は、実施例7と同様の方法によった。
この場合の3値記録での表面電位分布の分割は次の通りである。
【0205】
情報“0”として表面電位 −70mV〜−30mV
情報“1”として表面電位 −15mV〜+15mV
情報“2”として表面電位 +30mV〜+70mV
【0206】
実施例1および7と同様に、カンチレバーにパルス電圧を印加することにより、Si基体側から電荷蓄積記録の電子を注入、放出することができ、その結果として、3値記録での記録ビットの記録再生消去が可能であることが分かった。
【0207】
この実施例における記録再生特性は、実施例1および7と同等の特性が得られた。また、この実施例では再生に共振周波数5MHzのカンチレバーを用いたKFM再生装置を用いたことにより、記録ビット5MHzまでの高周波数領域での高速な再生が可能になった。
【0208】
さらに、本実施例では3値情報の記録再生装置について示したが、本発明を3値情報の記録装置または再生装置として適用することが可能であることは言うまでもない。
【0209】
〔実施例12〕
この実施例では、蓄積キャリアをSi基体側から電荷蓄積層のキャリアトラップに注入する方法を取った場合で、その3値情報の記録再生の結果を示す。この実施例では3値情報の再生にSCMを用いた静電容量の変化量を記録に対して接触した状態で検出再生している。
【0210】
この実施例で用いた記録媒体は、実施例1および7におけると同様に、図7に示すように、SiO2 膜14(3nm)、SiN膜15(10nm)およびSiO2 膜16の構成によるものの、この実施例で用いた記録媒体においては、そのSiO2 膜16を熱CVD法によって形成し、その膜厚を5nmとした。
【0211】
3値記録での静電容量の分布を表面電位分布で表わし電位分布の分割は以下に示す通りである。
情報“0”として表面電位 −70mV〜−30mV
情報“1”として表面電位 −15mV〜+15mV
情報“2”として表面電位 +30mV〜+70mV
【0212】
実施例1および7と同様に、カンチレバーにパルス電圧を印加することにより、Si基体側から電荷蓄積記録の電子を注入、放出することができ、その結果として、3値記録での記録ビットの記録再生消去が可能であることがわかった。
【0213】
記録ビットの記録再生特性についてはこの実施例も実施例7と同等の特性が得られた。記録再生ヘッドとして用いたカンチレバーはヘッドと記録媒体との間の浮遊容量を低減するような設計がなされている。
【0214】
また、この実施例では再生にSCM再生技術を用いているため、記録ビット10MHz以上の高周波数領域での高速な再生が可能になった。
【0215】
本実施例では3値情報の記録、再生装置について示したが、本発明は3値情報の記録装置または再生装置に適用可能なことは言うまでもない。
【0216】
〔実施例13〕
この実施例における記録媒体は、カンチレバーと記録媒体に電圧パルスを印加することにより、電子を記録媒体の電荷蓄積層のトラップへ局所的に注入または放出することによる3値記録態様をとった場合である。
【0217】
この場合の記録媒体10は、図14で示した、前記実施例6と同一のものを用いた。
この電荷蓄積層を有する記録媒体10に対する記録は、前述した図2の記録ヘッドHRによって行う。すなわち、記録媒体10を、移動載置台30上に配置し、記録媒体10の表面SiO2 層18に、針状電極21を、いわば微小面接触させて、載置台30を移動させて記録媒体10上に針状電極21を走査しつつ記録情報に基づいてパルス電圧を印加して、導電性カンチレバーよりSiナノ結晶層付近に存在するキャリアトラップに電子を局所的に注入して情報の記録を行う。すなわち、キャリアトラップに局所的に注入したキャリア(電子)の有無の記録情報に応じた電位パターンを形成する。
【0218】
この記録媒体10からの記録情報の読み出しすなわち再生は、本実施例では主としてSiナノ結晶のキャリアトラップにSi基体より電子を局所的に注入することによって局所的に電荷量の差を生じさせ、電荷量の差の検出を表面電位Vsの分布の検出によって行う。
【0219】
次に、この実施例13における記録消去再生特性を示す。
まず、記録媒体10のSiO2 /Siナノ結晶層/SiO2 /Siナノ結晶層/SiO2 膜/Si基体(以下材料2という)に5Vのパルス電圧を針状電極21から印加して、局所的に電子を界面トラップに注入する。
【0220】
次に、図5のKFM再生装置を用いて記録媒体の局所的な注入電荷量の差を表面電位Vsの分布として検出する。KFMによって3μm×3μmのエリアを評価した結果、表面形状は、パルス電圧を印加する前後で変化は観察されず、パルス電圧を印加することによって記録媒体の表面が変質することなく良好に保持されていることが分かった。
【0221】
KFM像では3μm×3μmの部分でキャリアの注入させた部分の表面電位は周辺部と比較して低くなっており、電子注入により記録ビットが形成されることが分かった。
【0222】
また、KFMのスキャンエリアをさらに小さくして、例えば1.5μm×1.5μmとして、同様のキャリア注入を試みた場合も、キャリア(電子)の注入により表面電位が周辺と比較して減少している記録ビットが検出再生された。
【0223】
以上より微細な記録ビットをKFMによって検出可能であることが分かった。注入電荷量の周辺電位との差は電位差では約40mVであり、KFMの電位分解能が3mVであることから、中間電位と周辺電位を考慮すると、例えばデジタル信号“0”,“1”及び“2”のデータの識別を充分行うことのできる値であることが分かった。
【0224】
また、−5Vのパルス電圧を記録媒体にかけた場合、すなわち、上述のキャリアの注入(記録)とは反対の極性の電圧を印加した場合、KFMの電位分布で観察される画像のコントラストも逆転していることが分かった。すなわち、記録媒体のトラップに注入されるキャリアの量が反対になっていることが分かる。
【0225】
このことから、本実施例の記録媒体の局所的な電荷の注入量がカンチレバー記録ヘッドよりのバイアス電圧印加により制御可能なことが示された。
この最高の表面電位、中間電位と周辺電位、または電子の注入と放出に対応する各々の電位と周辺電位を3種類の表面電位を有する局所的な記録ビットをデジタルデータのストレージの“0”と“1”及び“2”に対応させることができる。すなわち、コントラストの明るい部分と暗い部分と周辺部でデジタルデータの“0”,“1”及び“2”に対応させることにより3値情報を同一の記録ビットに記録する高密度多値記録が可能であることが分かった。
【0226】
種々の実験の結果、最小記録領域の直径を100nm以下にすることが可能であることが分かった。また、キャリア注入のスイッチング時間も1μsよりの小さいことが分かった。
【0227】
また、記録ヘッドの共振周波数が十分大きく(10MHzオーダ)、バネ定数が十分小さく(約1N/m)することにより、記録ビットの5MHz帯での高速な再生が可能になった。
そして、局所的にキャリアを注入した領域は、十分安定に保持されることが分かった。上述したように、この実施例13では高密度記録再生装置として十分な機能をもっていることが分かった。
【0228】
本実施例では記録媒体の電荷蓄積層が、ナノ結晶層である場合に対して説明を行ったが、他の電荷蓄積層による記録媒体に適用しても本発明の本質が変わらないことは言うまでもない。
【0229】
〔実施例14〕
この実施例では記録媒体として、実施例1および7と同様の記録媒体を用い、図2および図5で説明した記録および消去ヘッドHRと、再生ヘッドHPをそれぞれ別構成として、3値記録を行った。
【0230】
すなわち、各ヘッドHRとHPのカンチレバーを独別に構成し、記録媒体10に対して接触状態で用いられる記録および消去ヘッドHRの針状電極に関しては、その磨耗を考慮して表面に形成される導電層を比較的厚く形成した例えばその先端の曲率半径が50〜100nmとするが、非接触状態で用いられる再生ヘッドHPに関してはその磨耗を考慮する必要がないことから、表面導電層は薄く形成して、その針状電極の先端の曲率半径は記録および消去ヘッドHRのそれより小さい30nm以下でその共振周波数を5MHzとした。
【0231】
このように、再生ヘッドの針状電極の先端の曲率半径を小さくすることによって、再生時の記録ビットの空間分解能の解像度を上げることができることから、その最小記録領域の大きさを直径約60nm以下にまで小さくすることができた。
【0232】
また、局所的に電荷が注入された領域は、充分安定に保持できた。また、共振周波数を5MHzの再生ヘッドを用いたKFM再生を用いることにより、記録ビットの5MHzまでの高周波数領域での再生が可能になった。
【0233】
上述したように、この実施例で高密度記録再生装置として充分な機能をもっていることが確認された。
【0234】
また、この実施例では電荷蓄積材料による記録媒体を用いたが、他の実施例で示した電荷蓄積材料を記録媒体に適用した場合であっても本発明の本質が変わらないことは言うまでもない。
【0235】
また、本実施例では3値情報の記録再生装置について示したが、本発明は3値情報の記録装置または再生装置としても適用可能である。
【0236】
〔実施例15〕
この実施例ではディスク形状をしている記録媒体を回転させて3値情報の記録再生を行った。
ヘッドは実施例14で確認した2種類の記録および再生用ヘッドを用いた。また、記録媒体は実施例11で用いた記録媒体を用いた。
【0237】
この場合の3値情報の記録再生特性は、実施例7と同様に確認することができた。また、記録媒体と非接触状態で情報の再生を行っているため、記録媒体が高速回転している場合でも、ヘッドと記録媒体間の摩擦磨耗による影響を最小限に抑止することができた。また、共振周波数が5MHzより大きいカンチレバーを用いたKFM再生技術を用いることにより、記録ビットの高周波領域での再生が可能になった。
【0238】
種々の実験の結果、この場合においても最小記録ビット直径を100nm以下にすることが可能であることが分かった。記録消去時間は1μsより小さくすることができた。また、局所的に電荷が注入された領域は充分安定に保持された。
【0239】
以上より、この実施例で高密度記録再生装置として充分な機能をもっていることが確認された。この実施例では記録媒体として電荷蓄積材料1に対して説明を行ったが、他の電荷蓄積材料を記録媒体に適用しても本発明の本質が変わらないことは言うまでもない。
【0240】
また、本実施例では3値情報の記録再生装置について示したが、本発明は3値情報の記録装置または再生装置としても適用可能である。
【0241】
以上、種々の実施例によって、本発明の有効性を示したが、全ての実施例において、記録再生媒体の最上部にダイヤモンドライクカーボン等の保護層を付加した場合、記録再生装置および記録媒体の信頼性が向上した。
【0242】
尚、上述した各実施例で用いた記録媒体においては、基体11がSi基体、すなわち半導体基体によって構成され、その裏面に下部電極12がオーミックに被着された構成とした場合であるが、例えば実施例3におけるように、キャリアトラップに対して、記録ヘッド側からキャリア(電子)の注入を行う記録態様を採る場合には、基体11は半導体基体である必要はなく、表面が平滑な導電体例えば金属または導電性高分子基体によって構成することもできる。そして、このように基体11が高導電率を有する半導体基体あるいは金属基体または導電性高分子基体等によって構成する場合は、下部電極12が形成されない構成とすることができる。
【0243】
上述したように本発明装置によれば、多値記録による記録密度の向上、高周波数領域での記録再生がはかられた。この本発明による高密度記録再生装置は、従来に比較して実効的に1桁以上大きな記録密度を実現できるものである。
【0244】
尚、上述したように本発明装置においては記録、再生ヘッドが針状電極を有する構成とするものであるが、この針状電極の機械的強度を補強するなどの目的で針状電極の周囲に絶縁体を配するなど上述の各実施例に限られず、種々の変更を行うことができる。
【0245】
また、本発明による記録再生装置は、多値情報の記録および再生の双方の機能を有する構成とすることもできるし、記録機能がなく、上述の記録方法で記録されている多値情報を再生する機能を有する構成とすることもできる。
【0246】
以上、種々の実施例によって、本発明の有効性を示したが、各実施例においては、すべて単一の記録ヘッド、または再生ヘッドを用いた多値高密度記録についての実施例であった。しかしながら、記録または再生ヘッドの数を複数にした集積マルチヘッドを用いた同時並列記録、または並列再生、または並列記録再生を行う場合であっても、一つの記録ビットに3値以上の情報を記録する多値高密度記録に本発明を適用できることは言うまでもない。
【0247】
【発明の効果】
上述したように、本発明によれば、極めて優れた記録密度、記録再生速度を有するため、従来技術と比較して格段に優れた高密度記録装置が実現された。したがって、高度情報化社会に必要とされる大容量で高速なアクセスが必要とされる画像情報のストレージ、ハイビジョン放送などの画像の記録およびコンピュータにおける大容量なデータの記録に有効な記録、再生および記録再生装置となるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明装置に用いる記録媒体の基本的構成を示す図である。
【図2】本発明装置の記録消去機構の一例の構成図である。
【図3】本発明装置の再生装置の一例の構成図である。
【図4】本発明装置の再生装置の一例の構成図である。
【図5】本発明装置の再生装置の一例の構成図である。
【図6】本発明装置の再生装置の一例の構成図である。
【図7】本発明装置に用いる記録媒体の一例の概略断面図である。
【図8】本発明装置の一例の走査型マックスウエル応力顕微鏡における表面電位分布を示すディスプレイ上に表示した中間調画像である。
【図9】本発明装置の一例の走査型マックスウエル応力顕微鏡における表面電位分布を示すディスプレイ上に表示した中間調画像である。
【図10】本発明装置の一例の走査型マックスウエル応力顕微鏡における表面電位分布を示すディスプレイ上に表示した中間調画像である。
【図11】本発明装置の一例の走査型マックスウエル応力顕微鏡における表面電位分布を示すディスプレイ上に表示した中間調画像である。
【図12】本発明装置の一例の表面電位のパルス電位依存性を示す図である。
【図13】本発明装置に用いる記録媒体の一例の概略断面図である。
【図14】本発明装置に用いる記録媒体の一例の概略断面図である。
【図15】従来装置に用いる記録媒体の一例の概略断面図である。
【符号の説明】
10 記録媒体、11 基体、12 下部電極、13 活性層、22 カンチレバー
Claims (21)
- 針状電極を含むヘッドを有し、
酸化シリコン膜と、該酸化シリコン膜中にシリコンナノ結晶が埋め込まれてなるナノ結晶層を有する記録媒体に対して、前記ヘッドの前記針状電極からパルス電圧印加を行うことにより、前記記録媒体に存在する電子またはホールトラップの所定領域への電荷移動を行って1個の記録ビットに3値以上の情報を記録する
ことを特徴とする記録装置。 - 針状電極を含むヘッドを有し、
酸化シリコン膜と、該酸化シリコン膜中にシリコンナノ結晶が埋め込まれてなるナノ結晶層を有する記録媒体に対して、前記ヘッドの前記針状電極からパルス電圧印加を行うことにより、前記記録媒体に存在する電子またはホールトラップの所定領域への電荷移動を行って1個の記録ビットに3値以上の情報を記録し、
針状電極を含むヘッドによる針状電極を、前記記録媒体に対して接触あるいは非接触させた状態で、該記録媒体の前記所定領域における情報を、該所定領域における電荷、表面電位または静電容量の変化量の検出によって再生する
ことを特徴とする記録再生装置。 - 前記ヘッドが、前記記録媒体に非接触な状態で、前記所定領域に記録された情報を、該領域における電荷、表面電位または静電容量の変化量をヘテロダイン法による検出によって再生することを特徴とする請求項2に記載の記録再生装置。
- 前記ヘッドが、前記記録媒体に非接触な状態で、前記所定領域に記録された情報を、該領域における電荷、表面電位または静電容量の変化量を、ヘッドの共振周波数の周波数、位相、振幅の変化量として検出することによって再生することを特徴とする請求項2に記載の記録再生装置。
- 記録用ヘッドと再生用ヘッドとが共通のヘッドとされたことを特徴とする請求項2に記載の記録再生装置。
- 記録用ヘッドと再生用ヘッドとがそれぞれ設けられたことを特徴とする請
求項2に記載の記録再生装置。 - 前記ヘッドに20V以下のパルス電圧を印加することにより情報の記録または消去を行い、前記記録媒体の単位記録領域が直径100nm以下とされたことを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
- 前記ヘッドに20V以下のパルス電圧を印加することにより情報の記録または消去を行い、前記記録媒体の単位記録領域が直径100nm以下とされたことを特徴とする請求項2に記載の記録再生装置。
- 単位記録領域の記録時間を、1μs以下とすることを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
- 単位記録領域の記録時間を、1μs以下とすることを特徴とする請求項2に記載の記録再生装置。
- 単位記録領域の再生時間を、1μs以下とすることを特徴とする請求項2に記載の記録再生装置。
- 情報の記録を、前記ヘッドを前記記録媒体に接触させて行うことを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
- 情報の記録を、前記ヘッドを前記記録媒体に接触させて行うことを特徴とする請求項2に記載の記録再生装置。
- 前記記録を、前記記録媒体を回転または並進させて行うことを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
- 前記記録または再生を、前記記録媒体を回転または並進させて行うことを特徴とする請求項2に記載の記録再生装置。
- 前記記録媒体は、十分なキャリアトラップを有するヘテロ層を含むことを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
- 前記記録媒体は、十分なキャリアトラップを有するヘテロ層を含むことを特徴とする請求項2に記載の記録再生装置。
- 前記記録媒体は、2層以上のヘテロ層を有し、十分なキャリアトラップを有するヘテロ界面、ヘテロ層を含むことを特徴とする請求項1記載の記録装置。
- 前記記録媒体は、2層以上のヘテロ層を有し、十分なキャリアトラップを有するヘテロ界面、ヘテロ層を含むことを特徴とする請求項2記載の記録再生装置。
- 前記記録媒体は、導電性シリコン基体上に少なくとも酸化シリコン膜、窒化シリコン膜を有することを特徴とする請求項16に記載の記録装置。
- 前記記録媒体は、導電性シリコン基体上に少なくとも酸化シリコン膜、窒化シリコン膜を有することを特徴とする請求項17に記載の記録再生装置。
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- 1996-12-05 JP JP32569396A patent/JP3937486B2/ja not_active Expired - Fee Related
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