JP3922462B2 - 赤外光放射装置および時系列変換パルス分光計測装置ならびに赤外光放射方法 - Google Patents

赤外光放射装置および時系列変換パルス分光計測装置ならびに赤外光放射方法 Download PDF

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本発明は、赤外光放射装置および時系列変換パルス分光計測装置ならびに赤外光放射方法に関するものである。
近年、極短幅パルスレーザ技術の実用化により、パルス状のコヒーレントな赤外領域(0.01〜130THz)の電磁波の放射技術及び検出技術が飛躍的に進歩した。それによって、このパルス状の赤外領域の電磁波を用いた時系列変換パルス分光が可能となり、時系列変換パルス分光計測装置の実用化に向けて開発が先駆的に進められた。
時系列変換パルス分光とは、パルス状の電磁波の時間に依存した電場強度を測定し、その時間に依存したデータ(時系列データ)をフーリエ変換することにより、そのパルスを形成する各周波数成分の電場強度と位相とを得る分光法である。この分光法の特徴の一つは、測定波長領域が従来では困難であった光と電波の境界領域であることが挙げられる。そのため、この分光法により新規材料の性質や新しい現象の解明が期待されている。また、従来の分光法では電磁波の電場強度しか得られなかったが、この時系列変換パルス分光計測法では、電磁波の電場強度の時間変化を直接測定することから、電磁波の電場強度(振幅)だけでなく、その位相をも得ることができるというユニークな特徴を持っている。従って、試料がない場合と比較することによって、位相シフトスペクトルを得ることができる。位相シフトは波数ベクトルに比例することから、この分光法を用いて試料中の分散関係を決定することができ、この分散関係から誘電体材料の誘電率を知得することも可能となる(特許文献1参照)。
図3に、従来の時系列変換パルス分光計測装置の一例を示す。
光源1としてフェムト秒レーザが用いられる。光源1としては、例えば、モード同期、エルビウム(Er)ドーピングのファイバレーザが用いられる。このモード同期ファイバレーザ1は、例えば平均パワー10mW、フェムト秒レーザパルスL1を、波長780nm、時間幅120フェムト秒、繰り返し周波数48.5MHzで伝送する。
光源1から放射されたフェムト秒レーザパルスL1は、ビームスプリッタ2で分割される。一方のフェムト秒レーザパルスは、励起用パルスレーザ光L2としてパルス光放射手段(赤外光放射装置)5に照射される。このとき、励起用パルスレーザ光L2は光チョッパ3により変調された後、対物レンズ4によって集光される。このパルス光放射手段5は例えば光伝導素子であり、励起用パルスレーザ光L2が照射されたときに瞬間的に電流が流れ、遠赤外光パルスL3を放射する。この遠赤外光パルス(THz(テラヘルツ)光パルス)L3は、放物面鏡6,7により導光され測定試料8に照射される。その試料8の反射又は透過パルス光(同図では透過パルス光)L3’は、放物面鏡9,10を経て検出手段12へと導光される。
ビームスプリッタ2で分割されたもう一方のレーザ光は、検出用パルスレーザ光L4として検出手段12へ導光される。この検出手段12も光伝導素子であり、検出用パルスレーザ光L4が照射されて、その瞬間だけ導電性となるので、その瞬間に到達した試料8からの反射又は透過パルス光の電場強度を電流として検出することができる。試料8からの反射又は透過パルス光の電場強度の時系列信号は、光学的遅延手段13(又は14)を用いて、励起用パルスレーザ光L2に対して検出用パルスレーザ光L4に所定の時間間隔ずつ遅延時間差を付与することにより得ることができる。同図では、時系列信号測定用の光学的遅延手段13(又は14)の他に、時間原点調整用の光学的遅延手段14(又は13)も備えている。
試料8の反射又は透過パルス光の電場強度の各時間分解データは、信号処理手段によって処理される。すなわち、ロックインアンプ16を介してコンピュータ17に伝送され、順次、時系列データとして記憶され、一連の時系列データを、該コンピュータ17でフーリエ変換処理して振動数(周波数)空間に変換することにより、試料8の反射又は透過パルス電磁波の電場強度の振幅及び位相の分光スペクトルが得られる。
図4には、パルス光放射手段5が示されている。パルス光放射手段5は、低温成長ガリウム砒素(LT(Low Temperature)一GaAs)とされた光伝導膜上に形成されたダイポールアンテナ構造の光伝導スイッチ素子(アンテナ電極膜)が用いられる。そして、テラヘルツ放射光L3の発生には、このようなパルス光放射手段5に、励起用パルスレーザ光L2を照射し、電子・正孔の自由キャリアを誘起させ、超高速電流変調することによって、そのテラヘルツ放射光L3を得ている。すなわち、バイアス電流印加のパルス光放射手段5に、励起用パルスレーザ光L2が照射されると、電場が揺り動かされる。電場が揺り動かされると、電流が揺り動かされることにより、パルス電磁波放射素子5に照射された励起用パルスレーザ光L2の時間幅△tにより規定される振動数(周波数)範囲に渡り、連続スベクトル分布を持ったテラヘルツ放射光L3が得られる。
検出手段12は、図4に示したパルス光放射手段5と同様の構成を備えている。この検出手段12に、試料透過テラヘルツ光L3’と検出用パルスレーザ光L4を同時に照射すると、検出用パルスレーザ光L4が照射されている間における試料透過テラヘルツ光L3’の強度を測定できる。
図5には、LT−GaAsとされた光伝導膜22上に形成されたアンテナ電極膜21が示されている。アンテナ電極膜21としては、金(Au)が用いられる。同図の右方にアンテナ周辺部21cが拡大されて示されているように、一対のアンテナ電極膜21の間には約5μm程度の間隙が形成されている。また、アンテナ電極膜の幅は約10μm程度とされている。
このような時系列変換パルス分光計測装置用いて偏光解析を行うために、偏光子を光路に挿入して所望の偏光を得る技術が知られている(特許文献2参照)。
特開2002−277394号公報 特開2003−014620号公報
しかし、特許文献1に示された技術では、一対のアンテナ電極を用いるに過ぎない(図5)ので、放射されるテラヘルツ光の偏光は常に固定された1方向のみとされていた。
また、特許文献2に示された技術のように、偏光子を光路に挿入することによって所望の偏光を得ることとすれば、目的の偏光成分は得ることができるが、それ以外の成分の光をまったく使用せずに失ってしまうことになる。
一方、放射されるテラヘルツ光の偏光面を回転させるようにパルス光放射手段自体を回転させる方法も考えられるが、励起用レーザパルス光が回転するパルス光放射手段に追随するように制御する必要があり、さらに、回転するパルス光放射手段に電圧を印加するためのケーブルの処理が問題となる。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、放射光の損失を伴うことなくかつ簡易な構成で放射光の偏光を可能とした赤外光放射装置および時系列変換パルス分光計測装置ならびに赤外光放射方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明の赤外光放射装置および時系列変換パルス分光計測装置ならびに赤外光放射方法は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかる赤外光放射装置は、パルス励起光が照射されて光キャリアを生成する光伝導膜と、該光伝導膜上に形成され、その先端間に間隙を介して配置された、赤外光を放射する一対の第1アンテナ電極膜と、前記光伝導膜上に形成され、その先端間に前記間隙を介しかつ前記第1アンテナ電極膜に対して角度を有して配置された、赤外光を放射する一対または複数対の第2アンテナ電極膜と、前記第1アンテナ電極膜および前記第2アンテナ電極膜に対して、それぞれ独立に電圧を印加する制御部と、を備えていることを特徴とする。
第1アンテナ電極膜と異なる角度を有する第2アンテナ電極膜を備えることとし、これら電極膜を制御部によって独立に制御するようにしたので、第1アンテナ電極膜から放射される赤外光とは異なる偏光を有する赤外光を第2アンテナ電極膜から放射することができる。
上記赤外光放射装置の前記制御部は、前記第1アンテナ電極膜に印加する電圧と、前記第2アンテナ電極膜に対して印加する電圧とを選択的に切り替えることを特徴とする。
各アンテナ電極膜に対して印加する電圧を選択的に切換えることとしたので、各アンテナ電極膜の配置に対応した偏光を所望の時刻毎に選択することができる。
上記赤外光放射装置の前記制御部は、前記第1アンテナ電極膜および前記第2アンテナ電極膜に対して、異なる位相で電圧を印加することを特徴とする。
各アンテナ電極膜に対して、異なる位相で電圧を印加することとしたので、円偏光が可能となる。つまり、各アンテナ電極膜に同時にかつ異なる位相で例えば正弦波とされた電圧を印加することにより、円偏光とされた放射光を得ることができる。
また、本発明の時系列変換パルス分光計測装置は、パルス励起光を発振する光源と、上記のいずれかに記載の赤外光放射装置と、を備えていることを特徴とする。
上記の赤外光放射装置を備えているので、偏光に依存する被測定物の測定が可能とされた時系列変換パルス分光計測装置を提供することができる。
また、本発明の赤外光放射方法は、パルス励起光が照射されて光キャリアを生成する光伝導膜上に形成され、その先端間に間隙を介して配置された、赤外光を放射する一対の第1アンテナ電極膜に電圧を印加し、前記光伝導膜上に形成され、その先端間に前記間隙を介しかつ前記第1アンテナ電極膜に対して角度を有して配置された、赤外光を放射する一対または複数対の第2アンテナ電極膜に電圧を印加することを特徴とする。
第1アンテナ電極膜と異なる角度を有する第2アンテナ電極膜に電圧を印加することとしたので、第1アンテナ電極膜から放射される赤外光とは異なる偏光を有する赤外光を第2アンテナ電極膜から放射することができる。
なお、第1アンテナ電極膜に印加する電圧と、第2アンテナ電極膜に印加する電圧は、それぞれ選択的に異なる時刻に印加することとしても良く、あるいは、同時に異なる位相で印加することとしても良い。
本発明によれば、それぞれ異なる角度を有して配置されたアンテナ電極膜を設けることとしたので、損失なくかつ簡易な構成で放射光の偏光を実現できる。
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
図1には、本発明の一実施形態にかかるテラヘルツ光放射装置(赤外光放射装置)の要部が示されている。なお、本実施形態のテラヘルツ光放射装置は、図3を用いて説明した時系列変換パルス分光計測装置に適用されるものである。
図1に示されているように、アンテナ電極膜21は、基板上に製膜された光伝導膜22上に蒸着法によって形成されている。アンテナ電極膜21は、金(Au)によって形成されている。光伝導膜22は、低温成長ガリウム砒素(LT−GaAs)によって形成されている。
一対の第1アンテナ電極膜21aは、図において左右の位置に設けられており、一対の第2アンテナ電極膜21bは、図において上下の位置に設けられている。すなわち、第1アンテナ電極膜21aと第2アンテナ電極膜21bとの向きは、平面視して略90°異なるように(略直交するように)設けられている。
各アンテナ電極膜21の基端部には、図示しないリード線と接続される給電部30が設けられている。各アンテナ電極膜21の先端部には、対向するアンテナ電極膜の先端部との間で間隙32を有して位置するアンテナ部34が設けられている。なお、これらアンテナ電極膜21のパターンは、放射するテラヘルツ光の周波数帯域に応じて適宜決定される。
間隙32は、第1アンテナ電極膜21aと第2アンテナ電極膜21bとの共有となっている。換言すると、第1アンテナ電極膜21aの間隙と第2アンテナ電極膜21bの間隙とは共通している。
図示されていないが、第1アンテナ電極膜および第2アンテナ電極膜に対して、それぞれ独立に電圧を印加する制御部が設けられている。制御部は、電圧を印加するタイミングや電圧波形を制御する機能を有している。
上記構成のテラヘルツ光放射装置は、以下のように使用される。
まず、制御部により、所定時間間隔にわたって、第1アンテナ電極膜21aのみに電圧を印加する。この場合、第2アンテナ電極膜21bには電圧を印加しない。この状態で、励起用パルスレーザ光L2(図3参照)をアンテナ電極膜21に照射する。すると、第1アンテナ電極膜21aにのみ電圧が印加されているので、第1アンテナ電極膜21aの配置に応じた固定された偏光のみを得ることができる。
次に、制御部により、所定時間間隔にわたって、第2アンテナ電極膜21bのみに電圧を印加する。この場合、第1アンテナ電極膜21aには電圧を印加しない。この状態で、励起用パルスレーザ光L2(図3参照)をアンテナ電極膜21に照射する。すると、第2アンテナ電極膜21bの配置に応じた固定された偏光のみを得ることができる。
このように、制御部によって各アンテナ電極膜21a,bに印加する電圧を選択的に切換えることとしたので、アンテナ電極膜21a,bの配置に対応した異なる偏光を、異なる時刻で得ることができる。
さらに、本実施形態のテラヘルツ光放射装置は、次のように使用することもできる。
制御部によって、第1アンテナ電極膜21aおよび第2アンテナ電極膜21bに対して、同時にかつ異なる位相で電圧を印加する。具体的には、第1アンテナ電極膜21aに対して正弦波とされた電圧を印加し、第2アンテナ電極膜21bに対して同一の振幅・周期を有するが位相が異なる正弦波を印加する。この状態で、励起用パルスレーザ光L2(図3参照)をアンテナ電極膜21に照射する。すると、円偏光とされたテラヘルツ光が放射されることになる。
また、第2アンテナ電極膜21bに印加する正弦波電圧の位相だけでなく振幅も異ならせるようにすれば、楕円偏光とされたテラヘルツ光が放射されることになる。
このような使用により、例えば円二色性検出器などの計測を行うことができる。
以上説明したように、本実施形態のテラヘルツ光放射装置によれば、各対のアンテナ電極膜21を異なる角度を有して配置することとしたので、テラヘルツ光放射装置自体を回転させることなく、また、偏光素子を光路中に配置することなく、任意の偏光面を有するテラヘルツ光を放射することができる。
したがって、放射光の損失を伴うことなくかつ簡易な構成で放射光の偏光を実現することができる。
なお、本実施形態では、アンテナ電極対が2つとされた構成について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、図2に示されているように、それぞれ角度が異なる3対のアンテナ電極対を設ける構成としてもよい。このようにすれば、より詳細に偏光を制御することが可能となる。
また、本実施形態では、時系列変換パルス分光計測装置に適用されるテラヘルツ光放射装置について説明したが、本発明の赤外光放射装置はこれに限定されるものではなく、他の用途に用いることもできる。
本発明のアンテナ電極膜のパターンを示した平面図である。 本発明のアンテナ電極膜のパターンの変形例を示した平面図である。 時系列変換パルス分光計測装置の概略を示した図である。 パルス光放射手段を示した斜視図である。 従来のアンテナ電極膜のパターンを示した平面図である。
符号の説明
21 アンテナ電極膜
21a 第1アンテナ電極膜
21b 第2アンテナ電極膜
22 光伝導膜
32 間隙

Claims (5)

  1. パルス励起光が照射されて光キャリアを生成する光伝導膜と、
    該光伝導膜上に形成され、その先端間に間隙を介して配置された、赤外光を放射する一対の第1アンテナ電極膜と、
    前記光伝導膜上に形成され、その先端間に前記間隙を介しかつ前記第1アンテナ電極膜に対して角度を有して配置された、赤外光を放射する一対または複数対の第2アンテナ電極膜と、
    前記第1アンテナ電極膜および前記第2アンテナ電極膜に対して、それぞれ独立に電圧を印加する制御部と、
    を備えていることを特徴とする赤外光放射装置。
  2. 前記制御部は、前記第1アンテナ電極膜に印加する電圧と、前記第2アンテナ電極膜に対して印加する電圧とを選択的に切り替えることを特徴とする請求項1記載の赤外光放射装置。
  3. 前記制御部は、前記第1アンテナ電極膜および前記第2アンテナ電極膜に対して、異なる位相で電圧を印加することを特徴とする請求項1記載の赤外光放射装置。
  4. パルス励起光を発振する光源と、
    請求項1〜3のいずれかに記載の赤外光放射装置と、
    を備えていることを特徴とする時系列変換パルス分光計測装置。
  5. パルス励起光が照射されて光キャリアを生成する光伝導膜上に形成され、その先端間に間隙を介して配置された、赤外光を放射する一対の第1アンテナ電極膜に電圧を印加し、
    前記光伝導膜上に形成され、その先端間に前記間隙を介しかつ前記第1アンテナ電極膜に対して角度を有して配置された、赤外光を放射する一対または複数対の第2アンテナ電極膜に電圧を印加することを特徴とする赤外光放射方法。
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