JP3919513B2 - 15−o−一酸化炭素の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はポジトロン放出断層法(PET:Positron Emission Tomography)において有用な15O−一酸化炭素、および15O−二酸化炭素に関する。15O−一酸化炭素、および15O−二酸化炭素は、脳組織の虚血状態を知る上で重要な情報である酸素代謝量測定に用いられる。
以下、15O−一酸化炭素をC15O、そして15O−二酸化炭素はC15O2と記載することがある。更にC15Oを含む一酸化炭素を[15O]CO、またC15O2を含む二酸化炭素は[15O]CO2と記載する。
【0002】
【従来の技術】
ポジトロン(陽電子)は、電子と反対の電荷を有する反粒子である。電子との衝突により、ポジトロンはγ線を放出して消滅する(β+崩壊)。ポジトロンを原子核に有する元素は、ポジトロン核種と呼ばれる。ポジトロン核種は、軽元素に陽子ビームや重陽子ビームを照射して、陽子数が中性子数に対して相対的に大きな元素を作り出すことによって得ることができる。ポジトロン核種には、11C、13N、15O、18Fなどの存在が知られている。たとえば、通常元素である16Oの中性子数は8であるのに対して、ポジトロン核種である15Oの中性子数は7で、その陽子数8よりも少ない。そのため15Oはポジトロンを放出して陽子数が7に減少し、安定な窒素元素となる。
【0003】
ポジトロン核種の半減期は、11Cでも約20分、15Oでは118−130秒と、たいへん短い。急速に放射活性が低下するため、トレーサーの標識合成や、動態測定には時間的な制約を伴う。反面、次のような利点を有することから、核医学領域で生体の診断に応用されている。ポジトロン核種を利用した診断方法は、ポジトロン放出断層法(PET:Positron Emission Tomography)と呼ばれている。
(1)これらのポジトロン核種は、もともと生体中に存在する分子を構成する元素の同位元素である。したがって生体中に存在する分子を修飾することなくトレーサーとして、生体の代謝状態を観察することができる。
(2)半減期が短いため、生体の被曝が低い(反復検査や負荷検査が可能)。
(3)半減期が短いので、比放射能が高く、極微量の核種で診断が可能。
【0004】
PETは次のような原理に基づいて、生体内のトレーサーの3次元空間における位置を画像化する。先に述べたように、ポジトロンは電子と衝突してγ線を放出する。γ線のエネルギーは511keVで、2本の電磁波(γ線)を互いに180゜方向に放出する。放出されるγ線を一直線上に設置した放射線検出器で測定し、同時計数回路で計数すれば、原子核崩壊がその直線上で起こったことがわかる。更にこの検出器を360゜方向に設置すると、X線CTとほぼ同じ原理でポジトロン核種の分布を断層画像化することができる。しかも放射線の検出量は定量的にとらえることができる。
【0005】
またPETでは、体内のポジトロン核種の濃度を断層画像として蓄積しているため、任意の部分に関心領域(ROI)を設定すれば、その部分のポジトロン核種の濃度を知ることもできる。更に、使用したトレーサーの代謝経路が既知で、かつ体内動態の解析モデルが確立していれば、そのトレーサーの体内での挙動を定量的に把握することができる。PETのこのような特徴を利用して、各種の臓器の代謝状態を生体外から無侵襲で観察することができる。PETによる診断方法としては、例えば次のような診断が実用化されている。
トレーサー 診断目的
15Oガス 脳局所酸素代謝
[15O]COガス 脳局所血液量
[15O]CO2ガス 脳局所血流量
15O−HO 脳局所血流量
18F−DG グルコース代謝
18F−DOPA ドーパミン系神経伝達機能
【0006】
たとえば脳卒中の医療においては、発症後3時間以内の的確な治療がその後の病状を大きく左右すると言われている。治療には、発症後の脳酸素代謝を迅速かつ正確に把握することが重要である。現在のところ、PETによる検査は、脳酸素代謝を正確に把握することができる唯一の検査である。
PETによる脳酸素代謝の検査は、次のようにして行われる。まず被検者にトレーサーとして次の3種類のガスをそれぞれ吸入させる。
[15O]COガス
[15O]CO2ガス
15Oガス
吸入後の頭部におけるトレーサーの分布をPETによって追跡することにより、脳局所血液量、脳局所血流量、および脳局所酸素摂取率を明らかにすることができる。これらの測定結果に基づいて、脳局所酸素代謝量が算出される。
【0007】
したがってPETによる脳酸素代謝の検査には、上記3種類の15O標識ガスの吸入が必要である。各ガスの調製と撮影のために、検査時間は約2時間に及ぶ。発症後3時間以内の治療が求められる疾患に対して、2時間以上の検査時間は、検査の適用範囲を著しく制限することになる。つまり、発症後、速やかに検査を開始できなければ、検査結果を治療に効果的に活用することが難しくなる可能性が生じる。したがって、より短時間で脳酸素代謝の検査を可能とする技術の提供が求められている。
【0008】
高齢化社会を迎え、脳卒中急性期医療の充実が求められている。迅速な検査が求められる脳卒中の検査方法として、30分以内で実施可能な検査方法も開発されつつある。たとえばX線CT(Computer Tomography)やMRI検査(Magnetic Resonance Imaging)による、脳の画像診断は、5分から30分程度で実施することができる。これらの検査は、出血や梗塞などの脳血管障害の診断には有効である。しかし、これらの脳血管障害によってもたらされる脳組織の機能障害をX線CTやMRI検査で把握することは難しい。脳組織の状態を知るには、脳局所における酸素代謝の検査が必要である。したがって、これらの短時間で実施可能な検査手法の実用化の後も、15Oをトレーサーとする脳酸素代謝の検査は重要である。
【0009】
一般に15Oガスは、次のような過程を経て調製されている。まず、0.5−2.5%の酸素ガスを含んだ窒素ガスに重陽子を照射して、14N(d,n)15Oの核反応により15Oガスを生成する。重陽子は、サイクロトロンによって照射される。こうして生成する15Oガスは、それ自体が上記のPETによる脳酸素代謝の検査のために吸入用ガスとして利用される他に、[15O]COガスの調製に利用される。[15O]COガスは、回収された15Oガスを1000℃に加熱した活性炭と反応させることにより調製することができる。
【0010】
一方、やはりPETによる脳酸素代謝検査に必要な[15O]CO2ガスは、次のようにして調製されていた。まず0.25−2.5%の酸素ガスを含んだ窒素ガスに重陽子を照射して14N(d,n)15Oの核反応により15Oガスを生成する。[15O]CO2ガスは、回収された15Oガスを400℃に加熱した活性炭と反応させることにより調製することができる。
【0011】
この他、標的ガスとして二酸化炭素を含む窒素ガスを用いて、[15O]CO2ガスを直接合成する方法も公知である(Mackay DB. Quality assuarance for PET gas production using the Cyclone 3D oxygen-15 generator. Applied Radiation and Isotopes 51, 1999, 403-409)。この方法によれば、二酸化炭素の合成には加熱工程を必要としない。しかし重陽子ビーム照射によって生成する一酸化炭素を除去するために、500℃に加熱した活性炭カラムを必要とする。つまり、加熱工程を必要とすることには変わりは無い。
【0012】
上記のとおり、公知の方法においては、[15O]COや[15O]CO2の調製にあたって、高温条件下で活性炭、触媒、あるいは吸着剤と接触させる工程が必要であった。一般に、高温条件は電気炉の昇温によって作り出される。しかし電気炉の昇温には時間を要するため、これらのトレーサーガスの供給工程の時間短縮を妨げる原因となっている。したがって、より低い温度条件で[15O]COや[15O]CO2を生成することができれば、トレーサーガスを短時間で生成することが可能となる。トレーサーガスが短時間で供給されれば、PETによる脳酸素代謝の検査をより短時間で完了することができる。早期の診断によって、より効果的な脳卒中の治療方法を選択することができる。また、検査時間の短縮によって、より多くの患者に必要な検査を実施することができる。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、[15O]COや[15O]CO2を、短時間で調製することができる方法の提供を課題としている。より具体的には、高温条件を必要としない[15O]COや[15O]CO2の調製方法を提供することが、本発明の課題である。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らはこの課題を解決すべく種々検討した結果、標的ガスに重陽子照射直後より連続的に[15O]COが生成することを見出した。また酸化剤を用いることによって、[15O]COを常温において迅速に15O−二酸化炭素に変換できることを見出した。そして、これらの方法によって得られる[15O]COや[15O]CO2を、PETによる脳酸素代謝の検査に利用することによって、検査時間の大幅な短縮が可能となることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち本発明は、以下の[15O]CO、あるいは[15O]CO2の製造方法と、そのための装置に関する。
〔1〕以下の工程を含む、15O−一酸化炭素の製造方法。
(1)被照射ガスとして一酸化炭素を含む窒素ガスを用い、この被照射ガスに重陽子ビームを照射する工程、および
(2)重陽子ビームの照射によって生成する15O−一酸化炭素を回収する工程
〔2〕被照射ガスに含まれる一酸化炭素が、0.01〜0.5v/v%である〔1〕に記載の方法。
〔3〕被照射ガスに含まれる一酸化炭素が、0.05〜0.2v/v%である〔2〕に記載の方法。
〔4〕重陽子ビームの照射後に、窒素酸化物吸着剤、および/または二酸化炭素吸着剤に被照射ガスを接触させ、15O−一酸化炭素を回収する工程を含む〔1〕に記載の方法。
〔5〕被照射ガスを連続的に供給するとともに、生成する15O−一酸化炭素を回収する〔1〕に記載の方法。
〔6〕次の手段を含む、15O−一酸化炭素の製造装置。
(1)被照射ガスを通過させることができ、かつ被照射ガスを重陽子ビームで照射することができる標的箱、
(2)標的箱(1)に、一酸化炭素を含む窒素ガスを被照射ガスとして供給する被照射ガス供給手段、および
(3)15O−一酸化炭素回収手段
〔7〕15O−一酸化炭素回収手段(3)が、標的箱(1)中の被照射ガスを受容する手段と、窒素酸化物吸着剤、および/または二酸化炭素吸着剤を含む〔6〕に記載の装置。
〔8〕被照射ガス供給手段(2)が、標的箱(1)に被照射ガスを連続的に供給することができるものである〔6〕に記載の装置。
〔9〕被検者に15O−一酸化炭素を供給するラインに、15O−一酸化炭素回収手段(3)が接続されている〔6〕に記載の装置。
〔10〕次の工程を含む、15O−二酸化炭素の製造方法。
(1)15O−一酸化炭素を、乾燥酸素の存在下で酸化触媒に接触させる工程、および
(2)生成する15O−二酸化炭素を回収する工程
〔11〕乾燥酸素が、乾燥二酸化炭素を含む混合ガスである〔10〕に記載の方法。
〔12〕15O−一酸化炭素を、次の工程を含む製造方法によって製造する〔10〕に記載の方法。
i)一酸化炭素を含む窒素ガスを被照射ガスとして、標的箱に供給する工程、および
ii)被照射ガスを重陽子ビームで照射し、15O−一酸化炭素を生成する工程
〔13〕次の手段を含む、15O−二酸化炭素の製造装置。
(1)15O−一酸化炭素の供給手段、
(2)一酸化炭素を酸化する酸化触媒、
(3)酸化触媒に乾燥酸素を供給する手段、および
(4)15O−二酸化炭素の回収手段
〔14〕15O−一酸化炭素の供給手段(1)が、以下の手段を含む15O−一酸化炭素の製造装置である〔13〕に記載の装置。
i)被照射ガスを通過させることができ、かつ被照射ガスを重陽子ビームで照射することができる標的箱(1)、および
ii)標的箱(1)に、一酸化炭素を含む窒素ガスを被照射ガスとして供給する被照射ガス供給手段
〔15〕以下の工程を含む、15O−一酸化炭素、および15O−二酸化炭素の製造方法。
(1)被照射ガスとして一酸化炭素を含む窒素ガスを用い、この被照射ガスに重陽子ビームを照射する工程、および
(2)重陽子ビームの照射によって生成する15O−一酸化炭素を回収する工程
(3)重陽子ビームを照射した被照射ガスを乾燥酸素の存在下で酸化触媒に接触させる工程、および
(4)工程(3)で生成する15O−二酸化炭素を回収する工程
〔16〕以下の手段を含む、15O−一酸化炭素、および15O−二酸化炭素の製造装置。
(1)被照射ガスを通過させることができ、かつ被照射ガスを重陽子ビームで照射することができる標的箱、
(2)標的箱に、一酸化炭素を含む窒素ガスを被照射ガスとして供給する被照射ガス供給手段、
(3)15O−一酸化炭素回収手段
(4)一酸化炭素を酸化する酸化触媒、
(5)酸化触媒に乾燥酸素を供給する手段、および
(6)15O−二酸化炭素の回収手段
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明は、以下の工程を含む、[15O]COの製造方法に関する。
(1)被照射ガスとして一酸化炭素を含む窒素ガスを用い、この被照射ガスに重陽子ビームを照射する工程、および
(2)重陽子ビームの照射によって生成した[15O]COを回収する工程
本発明において被照射ガスとは、標的ガスに担体ガスを添加したガスを言う。一般に標的ガスとは、核反応によってポジトロン核種とすべき元素をガス状態で含む気体を言う。本発明においては、標的ガスとして高純度窒素ガスに担体として少量の一酸化炭素を含んだ気体を用いることができる。標的ガス(窒素ガス)には高純度ガスを用いる。窒素ガスとしては、一般に14Nが用いられる。15Nも15N(p,n)15O反応によってポジトロン核種とすることができるが高価である。したがって好ましい標的ガスは、高純度の窒素ガス(14N)である。本発明において高純度とは、99.9999以上の純度を有するガスをいう。
【0017】
本発明の被照射ガスは、担体として一酸化炭素ガスを含む。一酸化炭素ガスは、重陽子ビームを照射した被照射ガス中の[15O]COの回収のために加えられる。被照射ガスに占める一酸化炭素ガスの割合は、通常0.5%以下とする。たとえば、後に述べるように酸化触媒によって[15O]CO2を合成する場合には、一酸化炭素ガス濃度によっては、酸化触媒の温度の上昇のために非放射性の副産物を生成する可能性がある。したがって一酸化炭素ガス濃度は、通常は0.5%以下とするのが望ましい。更に[15O]COを被検者に吸入させる場合には、一酸化炭素中毒の危険性が無い濃度としなければならない。一般に一酸化炭素中毒の安全域は1%未満とされている。したがって、安全性の面でも0.5%以下の一酸化炭素ガス濃度は好ましい。より具体的には、0.05〜0.1%v/vを好ましい一酸化炭素ガス濃度として示すことができる。
【0018】
本発明において、被照射ガスは重陽子ビームで照射される。一般に、被照射ガスの流路の一部に重陽子ビームを通過させることによって被照射ガスが照射される。重陽子ビームを通過させる部分は、被照射ガスの流路にあって、一定量の被照射ガスを貯留できる構造を有することが望ましい。本発明において、被照射ガスを貯留できる構造を、標的箱という。標的箱は、被照射ガスの流路の一部を構成し、かつ部分的に構成された容積の大きな空間であることができる。更に、被照射ガスを貯留させるために、標的箱は被照射ガスの流れを制御する機構を備えることもできる。標的箱は、重陽子ビームの進行方向に沿って、ある程度の長さを与えることによって、被照射ガスを効率的に照射することができる。標的箱の材質は、重陽子ビームを透過し、かつ被照射ガスを気密に保つことができるものであれば、制限されない。一般に、アルミニム−マグネシウム合金が標的箱の材質として用いられている。
【0019】
被照射ガスに重陽子ビームを適切な条件下で照射すれば、照射直後より標的ガスである窒素から連続的に[15O]COが生成する。このとき[15O]COは、14N(d,n)15O反応生成物の反跳エネルギーによって生成すると考えられる。たとえば、6〜10MeVの重陽子を、前記標的ガスに照射すれば、重陽子照射直後より連続的に[15O]COを生成させることができる。
【0020】
重陽子ビームの照射によって生成する[15O]COは、新たな被照射ガスを標的箱に連続的に供給することによって、標的箱の外に流出させることができる。流出した照射済みの被照射ガスを回収すれば、本発明の方法によって生成したC15Oを担体ガスとの混合気体として得ることができる。更に、必要に応じて不純物を除くこともできる。一酸化炭素を含む窒素ガスを被照射ガスに用いた場合、一酸化炭素の酸化によって生成する二酸化炭素、あるいは窒素の酸化によって生成する窒素酸化物などが混在する可能性がある。これらの副生成物は、PETによる脳酸素代謝の検査において誤った結果を与える可能性があることから、予め除去することが望まれる。
【0021】
これらの副生成物を除去する方法は公知である。たとえば二酸化炭素は、ソーダライムカラムを通過させることによって吸着除去することができる。また、窒素酸化物は、活性炭カラムを通過させれば効果的に除去することができる。副生成物が除去された被照射ガスは、一酸化炭素濃度を調節し、必要に応じて他のガスと混合して、PETによる脳の酸素代謝検査用の吸入ガスとすることができる。吸入ガスは、一般に[15O]ガスを含んだ被照射ガス(300〜500mL/min)に大量の空気(20〜40L/min)を混合することによって調製される。
【0022】
被照射ガスの供給から、副生成物の除去に至る本発明の[15O]COの製造方法は、公知のポジトロン合成装置を改変することによって実施することができる。本発明は、以下の手段を含む[15O]COの製造装置に関する。
(1)被照射ガスを通過させることができ、かつ被照射ガスを重陽子ビームで照射することができる標的箱、
(2)標的箱(1)に、一酸化炭素を含む窒素ガスを被照射ガスとして供給する被照射ガス供給手段、および
(3)[15O]CO回収手段
【0023】
標的箱(1)には、被照射ガスの供給手段(2)が接続される。被照射ガス供給手段(2)は、前記の適切な濃度の一酸化炭素を含む標的ガスを標的箱(1)に供給する。一酸化炭素濃度の調節、ならびに標的箱(1)への被照射ガスの供給量を制御するために、被照射ガス供給手段(2)はガス流量調節機構を有することができる。ガス流量調節機構は、例えば電磁弁とガス流量計とで構成され、標的ガスと一酸化炭素の流量の調節によって、一酸化炭素濃度と、標的ガスの供給量とを調節する。ガス流量を監視するコンピューターシステムによって、所定の数値を維持するように管理することもできる。
【0024】
標的箱(1)に供給された被照射ガスは、重陽子ビームで照射される。標的箱は、重陽子ビームによる照射が可能な材質で構成され、かつ重陽子ビームの照射位置に配置される。重陽子ビームを効率的に被照射ガスに照射するために、標的箱は重陽子ビームの進行方向に沿って被照射ガスを配置できる形状を有するのが望ましい。
重陽子ビームは、サイクロトロンによって供給することができる。重陽子ビームを照射するサイクロトロンは公知である。一般的なサイクロトロンは、イオン源や加速電極等で構成される。4〜8MeVのエネルギーを有する重陽子が14N(d,n)15O核反応を生起し、15O化合物を生成することから、このエネルギー範囲の加速性能を持つサイクロトロン加速器が医療用に適している。なお、核反応に用いる荷電粒子はともに陽荷電であるが、加速時における粒子の荷電の違いにより陽荷電加速型と陰荷電型がある。
【0025】
[15O]CO回収手段(3)は、標的箱(1)内にある重陽子を照射された被照射ガスを回収するための手段である。[15O]CO回収手段(3)は、たとえば標的箱(1)に接続された気体流路であることができる。[15O]CO回収手段(3)は、標的箱(1)から流出する被照射ガスの流量を制御することができる流量制御器を有することができる。流量制御器は、流路を流れる被照射ガスの流量を監視するとともに、製造工程に合わせて各部位に設けられた電磁弁を制御して本発明の装置内を流れる被照射ガスの量を総合的に制御する。たとえば、重陽子の照射が行われるときには、必要な線量が照射されるように標的箱(1)内に被照射ガスを貯留させるように、標的箱(1)を通過する被照射ガスの量を制御する。次いで、照射を終えた被照射ガスを回収するときには、新たな被照射ガスを標的箱(1)に導入して照射済みの被照射ガスを標的箱(1)の外に流出させるとともに、標的箱(1)の下流側で当該被照射ガスを回収する。被照射ガスを連続的に供給し、重陽子ビームの照射と、照射済みの被照射ガスの回収を連続して行うこともできる。
【0026】
本発明の[15O]COの製造装置において、[15O]CO回収手段(3)は、被照射ガスに含まれる副生成物の除去手段を有することができる。具体的には、たとえば二酸化炭素は、ソーダライムカラムを通過させることによって吸着除去することができる。また、窒素酸化物は、活性炭カラムを通過させれば効果的に除去することができる。これらの副生成物は、常温で除去することができるので加温の必要は無い。
【0027】
前記[15O]CO回収手段(3)は、他のガス流路に接続することもできる。たとえば、PETの被検者にトレーサーガスを吸入させるための吸入装置に直接接続することができる。吸入装置への接続は、半減期の短いトレーサーガスを、被検者に迅速に供給することができるので望ましい。あるいは、後に述べるような二酸化炭素の製造のためのラインに接続することもできる。二酸化炭素の製造のためのラインに接続する場合には、被照射ガスをソーダライムカラムを通過させる必要は無い。
【0028】
次に本発明は、次の工程を含む、[15O]CO2の製造方法に関する。
(1)[15O]COを乾燥酸素の存在下で酸化触媒に接触させる工程、および
(2)生成する[15O]CO2を回収する工程
【0029】
本発明の[15O]CO2の製造方法において、酸化触媒とは酸素の存在下で一酸化炭素を酸化して二酸化炭素を生成することができる触媒を言う。本発明における酸化触媒は、加熱を伴わないで触媒作用を発現するものが望ましい。加熱を伴わない触媒作用とは、積極的な加熱操作を伴うことなく、室温で保持したときにも十分な触媒作用を発現することを言う。加熱条件下で触媒作用を有する酸化触媒であっても、加熱しない条件下で必要な触媒能を示すものであれば、本発明における酸化触媒として利用することができる。
【0030】
本発明における酸化触媒として、具体的には、二酸化マンガン−酸化銅(II)触媒を示すことができる。二酸化マンガン−酸化銅(II)触媒が、酸素の存在下で一酸化炭素を酸化して二酸化炭素を生成する反応は公知である。しかしこの種の触媒が、PETによる脳酸素代謝検査に必要な[15O]CO2の生成に有用であることは知られていない。
【0031】
本発明において、二酸化マンガン−酸化銅(II)触媒は、市販されているものをそのまま利用することができる。たとえば外形φ12mm、長さ150mmのガラス管に2gの二酸化マンガン−酸化銅(II)触媒を充填し、120℃で2時間加熱乾燥する。放冷後の二酸化マンガン−酸化銅(II)触媒に、一酸化炭素ガスを乾燥酸素の共存下で接触させる。本発明において利用することができる二酸化マンガン−酸化銅(II)触媒としては、たとえば「Carulite Catalyst」(STREM Chemicals, INC (Newburyport, MA USA)製、商品名)などがある。一酸化炭素ガスの濃度は先に述べたように0.5%以下とし、酸素は酸化反応に必要な量を供給する。
【0032】
酸素にはC15O2の担体として二酸化炭素を加えることもできる。乾燥酸素に加えられた非放射性の二酸化炭素は、酸化触媒によって生成するC15O2のための担体として作用し、最終的な生成物におけるC15O2の放射化学的純度の向上に貢献する。担体として添加する二酸化炭素の量は、酸素と二酸化炭素の混合比、およびその混合ガスの流量に応じて適切な量を選択すれば良い。たとえば、前記混合ガスにおける非放射性の二酸化炭素は、先に生成した[15O]CO2の2.5V/V%以下となるように添加することができる。具体的には、被照射ガス300mL/minに対して、たとえば酸素ガスを10mL/minを供給することにより適切な酸化条件を与えることができる。担体として二酸化炭素を加える場合には、50V/V%二酸化炭素を含有した酸素ガスを10mL/min供給すればよい。
【0033】
二酸化マンガン−酸化銅(II)触媒のほか、パラジウム/シリカゲルや、二酸化マンガン−酸化銅(II)に更に酸化コバルトと酸化銀を加えた触媒も本発明における酸化触媒として利用することができる。これらの触媒は市販されているか、あるいは公知の方法に基づいて製造することもできる。
【0034】
本発明の[15O]CO2の製造において、[15O]COの製造方法は限定されない。本発明の目的は、過熱工程を必要としない[15O]CO2の製造方法の提供である。したがって、原料として利用する[15O]COも、加熱工程の不要な方法で製造することができれば理想的である。したがって前記の[15O]COの製造方法は、本発明による[15O]CO2の製造方法のための原料の供給方法として望ましい。
【0035】
本発明による[15O]CO2の製造方法においては、[15O]COを乾燥酸素の存在下で酸化触媒に接触させる。本発明において、乾燥酸素として、乾燥酸素と乾燥二酸化炭素との混合ガスを利用することもできる。
【0036】
乾燥酸素または乾燥二酸化炭素とは、水分を除去した酸素または二酸化炭素である。これらの乾燥ガスは、酸素ガスあるいは二酸化炭素ガスをシリカゲルカラムなどの乾燥剤に接触させることによって得ることができる。乾燥剤としてシリカゲルを用いるときには、通常、120℃で3時間乾燥させたものを用いる。乾燥剤の種類には関わらず、シリカゲルカラムによって得ることができる乾燥ガスよりも水分含有量が低いガスであれば、乾燥酸素、並びに乾燥二酸化炭素として本発明に用いることができる。より具体的には、たとえば水分含量が2ppm以下の酸素あるいは二酸化炭素を乾燥ガスとして用いることができる。
【0037】
乾燥酸素は、使用する酸化触媒の存在下で[15O]COを十分に酸化することが可能な量で用いる。したがって、酸素の添加量は、原料として用いる[15O]COと、酸化触媒の性質に応じて調節される。当業者は、適切な条件を容易に設定することができる。
【0038】
たとえば触媒として、前記二酸化マンガン−酸化銅(II)触媒を用いる場合、一酸化炭素濃度が高いと発熱による副反応を生じる可能性があると考えられている。したがって、一酸化炭素濃度は、たとえば0.5%v/v以下、具体的には0.05〜0.3%v/v、好ましくは0.07〜0.2%v/vの範囲が利用される。このときの乾燥酸素の濃度としては、たとえば5%V/V以下、通常1〜5%V/V、好ましくは2〜4%V/Vを示すことができる。
【0039】
酸化触媒として二酸化マンガン−酸化銅(II)触媒を用いる場合、触媒を作用させる温度は、限定されない。二酸化マンガン−酸化銅(II)触媒は、通常10〜40℃において、一酸化炭素の酸化反応を触媒することができる。この温度範囲内であれば、任意の温度で反応させることができる。したがって、積極的な温度制御を行わないで反応させても良いし、時間短縮の障害とならない範囲で酸化触媒を過熱することもできる。
【0040】
酸化触媒の作用によって生成する[15O]CO2は、回収され、必要に応じて精製した後に、PETによる脳酸素代謝検査用の吸入ガスとして利用することができる。本発明の[15O]CO2の製造方法によれば、[15O]COを原料として、その酸化によって[15O]CO2を得ることができる。そのため、本発明においては[15O]COの除去が不要となる。[15O]COの除去を不用とした結果、加熱工程が不要となる。けっきょく、原料となる[15O]COを加熱工程を必要としない方法で供給すれば、全ての工程において加熱を必要としない製造方法を実現できるのである。
【0041】
本発明に基づく[15O]CO2の製造方法は、たとえば先に述べた本発明による[15O]COの製造のための装置を利用して実施することができる。すなわち前記[15O]COの製造用装置によって供給される[15O]COの回収手段から分岐し、乾燥酸素、または乾燥酸素と乾燥二酸化炭素の混合ガスを混合して酸化触媒に導く流路を設ける。このような流路の構成を図1に示した。酸化触媒の前後には電磁弁を設けて、酸化触媒への原料ガスの供給量、あるいは生成する15O−ニ酸化炭素の流出量を制御することができる。更に酸素の供給経路に酸素を乾燥させるためのシリカゲルカラムを設置することもできる。
【0042】
本発明によって生成する[15O]CO2は、前記[15O]COと同様に、PETによる脳酸素代謝検査用の吸入ガスとして、直接吸入装置に供給することができる。
以下に実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の内容は実施例に限定されるものではない
【0043】
【実施例】
実施例1
[15O]COの生成と、放射化学的純度の測定のためのシステムを図2に示した。0.1%の一酸化炭素を含んだ高純度窒素ガス(99.9999以上)を被照射ガスとして、300mL/分の流量で標的箱に連続的に流した。標的箱に重陽子を連続照射して14N(d,n)15Oの核反応を行った。流出する反応生成物は、加熱することなく、活性炭およびソーダライムを充填したカラムに通して精製した。精製後の被照射ガスに含まれる [15O]COをラジオクロマトグラフィーで分析したところ、放射化学的純度は99%以上であった。
【0044】
実施例2
実施例1と同じ条件で得た [15O]COを含む被照射ガスを、シリカゲルおよび活性炭を充填したカラムに通した。続いて、シリカゲルで乾燥させた乾燥酸素(10mL/分)、または乾燥酸素に50V/V%の乾燥二酸化炭素を混合した混合ガス(10mL/分)を被照射ガスに加え、更に二酸化マンガン-酸化銅(II)触媒に通した。二酸化マンガン-酸化銅(II)触媒には、「Carulite Catalyst」(STREM Chemicals, INC (Newburyport, MA USA)製、商品名)を用いた。触媒による酸化後の被照射ガスに含まれる [15O]CO2をラジオクロマトグラフィーで分析したところ、放射化学的純度は96%以上であった。特に、50V/V%乾燥二酸化炭素を含んだ混合ガス(10mL/分)を使用した場合には、放射化学的純度は99V/V%以上に向上した。
【0045】
【発明の効果】
本発明によれば、加熱工程を必要としない[15O]CO、あるいは[15O]CO2の合成方法が提供される。既に15Oガスについては、加熱工程を伴うことなく合成することが可能である。したがって本発明は、PETに基づく脳の酸素代謝検査に必要な3種類のガスの全てを、加熱工程無しで供給することを可能としたことになる。
【0046】
PETによる脳の酸素代謝検査は、脳卒中発作の初期の治療方針を決定する上で重要な情報を与える検査である。しかし公知の方法に基づく検査の所要時間は、2時間に及んでいた。トレーサーガスの合成における加熱工程は、検査時間の多くを占めていて、検査時間の短縮を妨げる大きな原因となっていた。本発明は全てのトレーサーガスを加熱工程無しで実施できることから、検査時間の大幅な短縮を実現する。
【0047】
たとえば、実施例に示したようなトレーサーガスの合成装置を用いて、[15O]COガスを合成する。このときの、[15O]COガスの生成に必要な被照射ガスの準備は1分で完了することができる。本発明は加熱を必要としないので、重陽子を照射するためのサイクロトロンさえ準備できれば、直ちにトレーサーガスの合成を開始することができる。これに対して公知の方法は昇温が完了するまでトレーサーガスを合成することはできない。加熱には30分前後の時間が必要である。
以下の例(表1)は、本発明の方法(低音迅速合成法)の所要時間を、昇温に26分必要な従来法と比較した結果である。本発明の方法は、25分(26−1)の時間短縮を実現していることがわかる。つまり本発明によって、約2時間が必要とされている脳酸素代謝の検査時間をおよそ20%以上短縮することができるのである。
【0048】
【表1】
Figure 0003919513

【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に基づいて、[15O]CO、並びに[15O]CO2を供給するための装置の構成を示す図。
【図2】本発明による、 [15O]COおよび [15O]CO2の生成と、放射化学的純度の測定のためのシステムの構成を示す図。

Claims (13)

  1. 以下の工程を含む、15O−一酸化炭素の製造方法;
    (1)被照射ガスとして一酸化炭素を含む窒素ガスを用い、この被照射ガスに重陽子ビームを照射する工程、および
    (2)重陽子ビームの照射によって生成する15O−一酸化炭素を回収する工程。
  2. 被照射ガスに含まれる一酸化炭素が、0.01〜0.5v/v%である請求項1に記載の方法。
  3. 被照射ガスに含まれる一酸化炭素が、0.05〜0.2v/v%である請求項2に記載の方法。
  4. 重陽子ビームの照射後に、窒素酸化物吸着剤、および/または二酸化炭素吸着剤に被照射ガスを接触させ、15O−一酸化炭素を回収する工程を含む請求項1に記載の方法。
  5. 被照射ガスを連続的に供給するとともに、生成する15O−一酸化炭素を回収する請求項1に記載の方法。
  6. 次の手段を含む、15O−一酸化炭素の製造装置;
    )被照射ガスを通過させることができ、かつ被照射ガスを重陽子ビームで照射することができる標的箱、
    )標的箱(1)に、一酸化炭素を含む窒素ガスを被照射ガスとして供給する被照射ガス供給手段、および
    15O−一酸化炭素回収手段。
  7. 15O−一酸化炭素回収手段()が、標的箱(1)中の被照射ガスを受容する手段と、窒素酸化物吸着剤、および/または二酸化炭素吸着剤を含む請求項6に記載の装置。
  8. 被照射ガス供給手段()が、標的箱(1)に被照射ガスを連続的に供給することができるものである請求項6に記載の装置。
  9. 被検者に15O−一酸化炭素を供給するラインに、15O−一酸化炭素回収手段()が接続されている請求項6に記載の装置。
  10. 次の工程を含む、 15 O−二酸化炭素の製造方法;
    )一酸化炭素を含む窒素ガスを被照射ガスとして、標的箱に供給する工程、
    )被照射ガスを重陽子ビームで照射し、15O−一酸化炭素を生成する工程
    (3)工程(2)で生成した 15 O−一酸化炭素を、乾燥酸素の存在下で酸化触媒に接触させる工程、および
    (4)生成する 15 O−二酸化炭素を回収する工程。
  11. 乾燥酸素が、乾燥二酸化炭素を含む混合ガスである請求項10に記載の方法。
  12. 以下の工程を含む、15O−一酸化炭素、および15O−二酸化炭素の製造方法;
    (1)被照射ガスとして一酸化炭素を含む窒素ガスを用い、この被照射ガスに重陽子ビームを照射する工程、および
    (2)重陽子ビームの照射によって生成する15O−一酸化炭素を回収する工程
    (3)重陽子ビームを照射した被照射ガスを乾燥酸素の存在下で酸化触媒に接触させる工程、および
    (4)工程(3)で生成する15O−二酸化炭素を回収する工程。
  13. 以下の手段を含む、15O−一酸化炭素、および15O−二酸化炭素の製造装置;
    (1)被照射ガスを通過させることができ、かつ被照射ガスを重陽子ビームで照射することができる標的箱、
    (2)標的箱に、一酸化炭素を含む窒素ガスを被照射ガスとして供給する被照射ガス供給手段、
    (3)15O−一酸化炭素回収手段
    (4)一酸化炭素を酸化する酸化触媒、
    (5)酸化触媒に乾燥酸素を供給する手段、および
    (6)15O−二酸化炭素の回収手段。
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