JP3919405B2 - 可燃性ガス識別装置及び可燃性ガス識別方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は可燃性ガス識別装置に関するものであって、例えば、プロパンやブタンを主体とする液化石油ガス(LPG)、主にメタンからなる液化天然ガス(LNG)等を主材料として都市ガスを製造、輸送、消費する過程や、LPG、LNG、都市ガスを燃料等として用いる過程において、漏洩したガスのガス種を識別する装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
LPG、LNG及び都市ガスの用途拡大により、これらを近接した地域で使用する場合が想定される。保安上、これらの可燃性ガスの漏洩等を検知した場合に、漏洩部位の特定を容易にし、又、ガス種に応じた適切な後処理を行なう等の目的から、可燃性ガスのガス種を特定する技術が求められている。
可燃性ガスのガス種を特定する際には、液化石油ガスの様にメタン(CH4)を主成分とするガスか否かの識別が重要であると考えられており、従来、可燃性ガスがメタンを主成分とするガスであるか否かを識別する可燃性ガス識別装置としては、以下に示す装置が知られていた。
(1) 半導体式又は接触燃焼式の可燃性ガスセンサを用いて、可燃性ガスの漏洩を検知する。
(2) ガスクロマトグラフ装置を備えた成分分離型ガス検知装置を用いて、検知対象ガスを分析し、その信号パターンに基づいて測定者が識別する。
(3) メタンを含めて広く可燃性ガス全般に感応する接触燃焼式ガスセンサから得られた信号と、メタン以外の可燃性ガス(非メタン可燃性ガス)に感応する接触燃焼式ガスセンサから得られた信号とに基づいて演算処理を行なって、非メタン可燃性ガス濃度を算出すると共にメタンガス濃度を間接的に算出し、これらの存在比から検出対象ガスのガス種を推定する(実公平4−48528号公報)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した識別装置(1)によれば、前記可燃性ガスセンサが可燃性ガス一般に感応するために、検知対象ガス中に含まれる可燃性ガスの種類を特定することができず、メタンガスを主体とするガスであるか、主にプロパン、ブタンを主体とするLPGであるか等の判定を下すことが困難であるという問題点があった。
前記識別装置(2)によれば、操作が煩雑である上に、検体当たりの測定時間が長く、更に、得られた測定データの解析に個人差が大きいという問題点があった。又、装置が大型で高価であるという問題点があった。
又、前記識別装置(3)によれば、接触燃焼式センサの性質上、ベースラインの変動が比較的激しく、又、センサ自身が劣化しやすいために、感度が変動し易く、低濃度領域(例えば、1000ppm以下)でのガスの検出精度が低いという問題点があった。従って、ガス種判定結果の信頼性が低いという問題点があった。又、メタンガス濃度を直接測定するものではないので、例えば、検出対象ガスが低濃度である場合にメタン以外の可燃性ガスがメタンと混在していると、メタンを特定して検出できない可能性が高い等の問題点があった。
【0004】
従って、本発明の目的は、上記欠点に鑑み、メタンガスの存在濃度・存在比率を指標に、可燃性ガスを構成するガス種の識別を、簡便に、且つ、低濃度領域であっても確実に行なうことができる可燃性ガス識別装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するための本発明の可燃性ガス識別装置の特徴構成は、
メタンガスを選択的に検知可能な半導体式メタンガスセンサと、各種炭化水素を含む総可燃性ガスを検知可能な半導体式総可燃性ガスセンサとを備えたガス検知手段を備え、前記半導体式メタンガスセンサから得られた出力信号をメタンガス濃度に変換する第一変換手段と、前記半導体式総可燃性ガスセンサから得られた出力信号を総可燃性ガス濃度に変換する第二変換手段と、前記総可燃性ガス濃度と前記メタンガス濃度との差を減算処理して非メタン可燃性ガス濃度を算出する減算手段とを有する演算手段を備えていると共に、前記メタンガス濃度と前記非メタン可燃性ガス濃度の比に基づいて、検知対象ガスのガス種を判定する識別手段を備えた点にある。
更に、好ましくは、前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の3倍以上である場合には前記検知対象ガスのガス種がメタンガスであると判定し、前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の1/3倍以下である場合には前記検知対象ガスのガス種が液化石油ガス又はその他の可燃性ガスであると判定し、前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の1/3倍より高く3倍未満であるである場合には前記検知対象ガスのガス種がメタン又はその他の可燃性ガスであると判定する前記識別手段を備えた点にある。
又は、前記識別手段が、検知対象ガスのガス種について下記( i )〜( iii )のうち少なくとも何れかの判定を行うものであってもよい。
( i ) 前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の3倍以上である場合には前記検知対象ガスのガス種がメタンガスであるとの判定
( ii ) 前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の1/3倍以下である場合には前記検知対象ガスのガス種が液化石油ガス又はその他の可燃性ガスであるとの判定
( iii ) 前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の1/3倍より高く3倍未満である場合には前記検知対象ガスのガス種がメタン又はその他の可燃性ガスであるとの判定
更に、好ましくは、前記半導体式メタンガスセンサが、酸化物半導体と、この酸化物半導体の表面を覆うように設けられた触媒層を有し、前記触媒層中に、酸化物半導体表面からの距離に応じて組成の異なる触媒を積層させた構成のガスセンサであって、前記触媒層中の、前記酸化物半導体表面からの距離が2μm未満の下層部領域には、白金を含有しない、もしくは1重量%未満の白金を含有し、前記触媒層中の、前記酸化物半導体表面から少なくとも2μm以上離れた部分のいずれかに、1.5重量%以上の白金を含有する上層部領域が存在するガスセンサである点にある。ここで、前記上層部領域の厚みの上限は1mmであって白金の最大含有量は20重量%である。
更に、好ましくは、メタンガスを選択的に検知可能な半導体式メタンガスセンサと、総可燃性ガスを検知可能な半導体式総可燃性ガスセンサとを備えたガス検知手段を備え、
前記半導体式メタンガスセンサから得られた出力信号をメタンガス濃度に変換する第一変換手段と、前記半導体式総可燃性ガスセンサから得られた出力信号を総可燃性ガス濃度に変換する第二変換手段と、前記総可燃性ガス濃度と前記メタンガス濃度との差を減算処理して非メタン可燃性ガス濃度を算出する減算手段とを有する演算手段を備えていると共に、
少なくとも前記第一変換手段及び前記減算手段の演算結果を出力する出力手段を設けている点にある。
又、この目的を達成するための本発明の可燃性ガス識別方法の特徴手段は、
メタンガスを選択的に検知可能な半導体式メタンガスセンサから得られた出力信号をメタンガス濃度に変換し、各種炭化水素を含む総可燃性ガスを検知可能な半導体式総可燃性ガスセンサから得られた出力信号を総可燃性ガス濃度に変換し、前記総可燃性ガス濃度と前記メタンガス濃度との差を減算処理して非メタン可燃性ガス濃度を算出した後に、前記メタンガス濃度と前記非メタン可燃性ガス濃度の比に基づいて、検知対象ガスのガス種を判定する点にある。
更に、好ましくは、前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の3倍以上である場合には前記検知対象ガスのガス種がメタンガスであると判定し、前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の1/3倍以下である場合には前記検知対象ガスのガス種が液化石油ガス又はその他の可燃性ガスであると判定し、前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の1/3倍より高く3倍未満であるである場合には前記検知対象ガスのガス種がメタン又はその他の可燃性ガスであると判定する点にある。
又は、前記可燃性ガス識別方法において、前記検知対象ガスのガス種について下記( i )〜( iii )のうち少なくとも何れかの判定を行ってもよい。
( i ) 前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の3倍以上である場合には前記検知対象ガスのガス種がメタンガスであるとの判定
( ii ) 前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の1/3倍以下である場合には前記検知対象ガスのガス種が液化石油ガス又はその他の可燃性ガスであるとの判定
( iii ) 前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の1/3倍より高く3倍未満である場合には前記検知対象ガスのガス種がメタン又はその他の可燃性ガスであるとの判定
更に、好ましくは、前記半導体式メタンガスセンサが、酸化物半導体と、この酸化物半導体の表面を覆うように設けられた触媒層を有し、前記触媒層中に、酸化物半導体表面からの距離に応じて組成の異なる触媒を積層させた構成のガスセンサであって、前記触媒層中の、前記酸化物半導体表面からの距離が2μm未満の下層部領域には、白金を含有しない、もしくは1重量%未満の白金を含有し、前記触媒層中の、前記酸化物半導体表面から少なくとも2μm以上離れた部分のいずれかに、1.5重量%以上の白金を含有する上層部領域が存在するガスセンサである点にある。ここで、前記上層部領域の厚みの上限は1mmであって白金の最大含有量は20重量%である。
そして、これらの作用効果は、以下の通りである。
【0006】
つまり、メタンガスを選択的に検知可能な半導体式メタンガスセンサと、各種炭化水素を含む総可燃性ガスを検知可能な半導体式総可燃性ガスセンサとを、高感度(例えば、10ppmレベルでも検出可能)で長寿命である半導体式ガスセンサとすることで、高感度で長寿命なガス検知手段を得ることができ、このように前記ガス検知手段を構成することで、前記半導体式メタンガスセンサから得られた出力信号を第一変換手段で変換して直接得られるメタンガス濃度の値は、信頼性が高いものとなる。ここで、メタンガス濃度と他のガス濃度との比較によってガス種を判定するという方法を採用するにあたって、直接メタンガス濃度を測定できるということは、誤差を低減する上で有効である。又、同様に、前記半導体式総可燃性ガスセンサから得られた出力信号を第二変換手段で変換して得られる総可燃性ガス濃度の値も、信頼性が高いものとなる。
そして、演算手段に設けられた減算手段によって、前記総可燃性ガス濃度と前記メタンガス濃度との差を減算処理すると、非メタン可燃性ガス濃度を算出することができる。このようにして求めたメタンガス及び非メタン可燃性ガスの濃度比に基づいて、識別手段が検知対象ガスのガス種を判定すると、従来の識別装置(1)と比較して、分析者の個人差に基づく誤差が生じ難いと共に、簡便且つ迅速に検知対象ガスのガス種を特定することができる。又、本願発明に係る可燃性ガス識別装置にあっては、従来の識別装置(2)と比較して耐久性が向上していると共に、後述する試験結果に示すように、燃焼式ガスセンサで検知できないような1000ppm以下の低濃度領域であっても可燃性ガスのガス種を判定することができるようになっている。
【0007】
尚、経験的に、前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の3倍以上である場合には前記検知対象ガスのガス種がメタンガスであると判定し、前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の1/3倍以下である場合には前記検知対象ガスのガス種が液化石油ガス又はその他の可燃性ガスであると判定し、前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の1/3倍より高く3倍未満であるである場合には前記検知対象ガスのガス種がメタン又はその他の可燃性ガスであると判定することができるので、前記識別手段における判定基準として、上記判定の少なくとも一つ或いは全部を採用することができる。
【0008】
更に、前記半導体式メタンガスセンサが、酸化物半導体と、この酸化物半導体の表面を覆うように設けられた触媒層を有し、前記触媒層中に、酸化物半導体表面からの距離に応じて組成の異なる触媒を積層させた構成のガスセンサであって、前記触媒層中の、前記酸化物半導体表面からの距離が2μm未満の下層部領域には、白金を含有しない、もしくは1重量%未満の白金を含有し、前記触媒層中の、前記酸化物半導体表面から少なくとも2μm以上離れた部分のいずれかに、1.5重量%以上の白金を含有する上層部領域が存在するガスセンサであると、他の可燃性ガスに対するメタン選択性が著しく高いので、検知対象ガスに含まれるメタンガスの濃度を正確に測定することができる。従って、メタンガス濃度及び非メタン可燃性ガス濃度の算定精度が著しく向上するので、これらに基づいた検知対象ガスのガス種判定の精度を向上させることができる。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を、各種炭化水素を含む総可燃性ガスとメタンガスとの存在比に基づいて、検知対象ガスのガス種を識別する可燃性ガス識別装置を例示して、図面に基づいて説明する。
本発明に係る可燃性ガス識別装置1は、図1に示すように、検知対象ガス中の可燃性ガスを検知するガス検知手段2を有し、前記ガス検知手段2は、メタンガスを選択的に検知する半導体式メタンガスセンサ21と、広く可燃性ガス一般に感応する半導体式総可燃性ガスセンサ22とを備えている。
前記半導体式メタンガスセンサ21は、図2(イ)に示すように、加熱手段としての膜状ヒーター211を備えた絶縁基板212(例えばアルミナ基板)上に、酸化物半導体(例えば酸化スズ)からなる感応層213を備えると共に、この感応層213を覆うように、触媒層214を設けて形成される。この感応層213の両端部には、この層213の抵抗値の変化を検出するための一対の電極215a,215bが設けられる。更に、上記の触媒層214は、前記感応層213の表面に接触する側に設けられる触媒層下層部領域214aと触媒層上層部領域214bとに別れる。このような基板212としては、この基板の何れかの部位に膜状ヒーター211を設けたものを用いることができる。即ち、図2(イ)のように、基板下部に設ける他、図2(ロ)に示されるような、シリコン基板上にSiO2絶縁層を形成し、膜状ヒーター211を内蔵した基板を用いることもできる。
ここで、「メタンガスを選択的に検知する」とは、基準メタンガス濃度(10〜10000ppm)に対する感度が、基準メタンガスの3倍の基準非メタンガスに対する感度を上回ることを意味する。これに対して、半導体式総可燃性ガスセンサ22は、この感度比が3倍未満である。
【0010】
前記半導体式メタンガスセンサ21の信号と、前記半導体式総可燃性ガスセンサ22の信号は、図1に示すように、演算手段3(例えば、CPU等)に送られ、夫々、第一変換手段31と第二変換手段32によって、メタンガス濃度及び総可燃性ガス濃度に変換される。そして、前記メタンガス濃度の値と前記総可燃性ガス濃度の値は、前記演算手段3に備えた減算手段33に送られて、ここで、前記総可燃性ガス濃度と前記メタンガス濃度との差を減算処理することによって、非メタン可燃性ガス濃度が算出される。
前記第一変換手段31、前記第二変換手段32及び前記減算手段33の出力、即ち、メタンガス濃度、総可燃性ガス濃度及び非メタン可燃性ガス濃度の値は、夫々、出力手段5(例えば、スピーカ等を備えた報知装置、ディスプレイ等を備えた表示装置、プリンタ、記録媒体)に出力可能に構成されている。又、前記第一変換手段31と前記減算手段33の出力信号であるメタンガス濃度と非メタン可燃性ガス濃度の値は、識別手段4に送られ、前記識別手段4は、前記2種のガスの存在比に基づいて、前記検知対象ガスのガス種を判定し、その結果を前記出力手段5に出力する。
【0011】
前記識別手段4における検知対象ガスのガス種の判定は、検知対象となり得るガスのメタンガス/非メタン可燃性ガス濃度比に基づいて、任意に設定可能である。例えば、検知対象ガスのメタンガス濃度が非メタン可燃性ガス濃度の3倍以上であると、経験的に、前記2つのガス検知における識別検知が可能とみなすことができる有意な差であると判断することができるので、この存在比で検出された場合には、前記検知対象ガスのガス種がメタンガスであると判定を下すことができる。同様に、前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の1/3倍以下である場合には、前記検知対象ガスのガス種が液化石油ガス又はその他の可燃性ガスであると判定し、前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の1/3倍より高く3倍未満であるである場合には前記検知対象ガスのガス種がメタンガス又はその他の可燃性ガスであると判定することができる。
【0012】
尚、前記識別手段4による判定に代えて、少なくとも前記第一変換手段及び前記減算手段の演算結果を出力する出力手段5により出力された夫々のガス濃度の情報を、使用者が検討して判定を下しても良い。
【0013】
前記半導体式メタンガスセンサ21及び前記半導体式総可燃性ガスセンサ22は、半導体式センサであること自体で、安定、高感度、長寿命を達成することが可能であるが、特に、メタンガス選択性が高い半導体式メタンガスセンサとして、酸化物半導体と、この酸化物半導体の表面を覆うように設けられた触媒層を有し、前記触媒層中に、酸化物半導体表面からの距離に応じて組成の異なる触媒を積層させた構成のガスセンサであって、前記触媒層中の、前記酸化物半導体表面からの距離が2μm未満の下層部領域には、白金を含有しない、もしくは1重量%未満の白金を含有し、前記触媒層中の、前記酸化物半導体表面から少なくとも2μm以上離れた部分のいずれかに、1.5重量%以上の白金を含有する上層部領域が存在するガスセンサ(特願平11−104468号参照)を挙げることができる。
【0014】
【実施例】
以下に本発明の実施例を説明する。
〔実施例〕
前記半導体式メタンガスセンサ21として、酸化物半導体としての酸化スズと、この酸化物半導体の表面を覆うように設けられたアルミナを触媒担体とする触媒層を有し、前記触媒層中に、前記酸化物半導体表面からの距離が50μmまでの0.1重量%パラジウムを含有した下層部領域(触媒構成材料1g当たりのパラジウムの表面積は0.5m2)と、前記下層部領域の外周に350μm厚の、5重量%の白金を含有する上層部領域(触媒構成材料1g当たりの白金の表面積は1.9m2)が存在するガスセンサを用いた。
前記半導体式総可燃性ガスセンサ22としては、酸化スズを酸化物半導体とする半導体式ガスセンサ(FISガスセンサSP−12A、FIS株式会社製)を用いた。前記半導体式総可燃性ガスセンサ22も、感応層として酸化スズを採用しているが、前記半導体式メタンガスセンサ21に備えられているような二層構造の触媒層は備えていない。この半導体式総可燃性ガスセンサ22にあっても、前記感応層の抵抗値の変化を、前記感応層に備えられた電極により検出して、総可燃性ガス濃度に応じた出力を得ることができる。
これらのガスセンサを図1に示す可燃性ガス識別装置1の半導体式メタンガスセンサ、半導体式総可燃性ガスセンサとして用いたものを実施例として、以下の試験に用いた。
尚、図4に示すように、前記半導体式メタンガスセンサ21は、ブタン、プロパン、水素等の各種炭化水素ガス(ここでは、水素ガスも含める)に対しても感度を有するものであるが、同一濃度条件においては、メタンを除く炭化水素ガスの指示濃度はメタンガスの指示濃度のほぼ1%以下であって、メタンガスに対して高い選択性を有することがわかる。又、前記半導体式総可燃性ガスセンサ22は、各種炭化水素ガスに対して図5に示すように応答し、水素ガスに対する感度は若干低いものの、メタンガス、ブタンガス及びプロパンガスに対しては、夫々試験に供したガスの濃度に対応した指示濃度が得られるものであることがわかる(但し、これらのガスの種類を識別検知することはできない)。
【0015】
前記可燃性ガス識別装置1付近でLNGが漏洩した場合を想定して、10〜10000ppmの濃度のメタンガスが空気中に存在する条件下における、前記可燃性ガス識別装置1の検出結果を、図6に示す。
前記可燃性ガス識別装置1が検出したメタンガス濃度の実測値は、低濃度域から高濃度域の全般に亘って、供給した試験ガス(メタンガス)の濃度にほぼ等しかった。一方、非メタン可燃性ガス濃度の実測値は、概ねメタンガス濃度の実測値の1%以下であって誤差の範囲内であると考えられ、メタンガスと非メタン可燃性ガスの識別が正確になされているといえる。
この様な場合、前記識別手段4は、前記半導体式メタンガスセンサ21と前記半導体式総可燃性ガスセンサ22から得られた信号を前記演算手段3で変換・演算した結果を受けて、メタンガスが非メタン可燃性ガスの3倍以上の濃度で存在しているという判定を下し、前記出力手段5に対して、「検知対象ガスがメタンガスである」という判定結果を出力することとなる。
【0016】
又、前記可燃性ガス識別装置1付近でLPGが漏洩した場合を想定して、10〜10000ppmの濃度のプロパン/ブタン混合ガス(プロパンガス:ブタンガス=3:1)が空気中に存在する条件下において、前記可燃性ガス識別装置1が検出したガス濃度を、図7に示す。
前記可燃性ガス識別装置1が検出した非メタン可燃性ガス濃度の実測値は、低濃度域から高濃度域の全般に亘って、供給した試験ガス(プロパン/ブタン混合ガス)の濃度にほぼ等しかった。一方、メタンガス濃度の実測値は、概ねプロパン/ブタン混合ガス濃度の実測値の1%前後であって誤差の範囲内であると考えられ、メタンガスと非メタン可燃性ガスの識別が正確になされているといえる。 この様な場合、前記識別手段4は、メタンガスが非メタン可燃性ガスの1/3倍以下の濃度で存在しているという判定を下し、前記出力手段5に対して、「検知対象ガスはLPG又はその他の可燃性ガスである」という判定結果を出力することとなる。
【0017】
〔比較例1〕
図8に示すように、総可燃性ガスセンサ71として前記半導体式ガスセンサ(FISガスセンサSP−12A、FIS株式会社製)を備えると共に、前記総可燃性ガスセンサ71から得られた出力信号をガス濃度に変換する変換手段72と、前記検知対象ガス濃度を出力する出力手段73を備えた単一センサ型可燃性ガス識別装置7を比較例1として、実施例と同じ試験を行なった。
尚、前記単一センサ型総可燃性ガス検知装置7の総可燃性ガスに対する出力パターンは、実施例の半導体式総可燃性ガスセンサ22と同じセンサを用いていることから、図5に示すものと同じである。
【0018】
図9は、メタンガス又はプロパン/ブタン混合ガスを試験ガスとして供給したときの前記可燃性ガス検知装置7の実測値を夫々示すものである。この可燃性ガス検知装置7は、低濃度域から高濃度域に亘って、前記2種のガスの供給濃度に対応して実測値を出力することができる。しかし、前記出力手段73から出力されるのは、単に可燃性ガスの量であって、ガス種を特定することができない。従って、当初の目的である、可燃性ガスのガス種の特定は、この種の可燃性ガス検知装置7では達成することができない。
【0019】
〔比較例2〕
実公平4−48528号公報に記載された可燃性ガス識別装置と同様に、総可燃性ガスに感度を有するガス接触燃焼式総可燃性ガスセンサ82と、メタンガスを除く可燃性ガスに感度を有する接触燃焼式非メタン可燃性ガスセンサ83を備えたガス検知手段81と、前記接触燃焼式総可燃性ガスセンサ82から得られた出力信号を総可燃性ガス濃度に変換する第三変換手段85と、前記接触燃焼式非メタン可燃性ガスセンサ83から得られた出力信号を非メタン可燃性ガス濃度に変換する第四変換手段86と、前記総可燃性ガス濃度と前記非メタン可燃性ガス濃度との差を減算処理してメタンガス濃度を算出する減算手段87とを有する演算手段84を備えていると共に、前記メタンガス濃度と前記非メタン可燃性ガス濃度の比に基づいて、検知対象ガスのガス種を判定する識別手段88を備え、その判定結果を出力する出力手段89を備えた接触燃焼式可燃性ガス識別装置8(図10参照)を、比較例2として、実施例と同じ試験を行なった。
【0020】
図11は、メタンガス又はプロパン/ブタン混合ガスを試験ガスとして供給したときの前記接触燃焼式可燃性ガス識別装置8の実測値を示すものである。この接触燃焼式可燃性ガス識別装置8は、前記演算手段84及び識別手段88の働きによって、メタンガス又はプロパン/ブタン混合ガスの供給濃度に対応し、夫々のガス種を識別して、メタンガス又はLPGとして実測値を出力することができる。しかし、前記接触燃焼式可燃性ガス識別装置8から出力されるのは、1000ppm以上の高濃度域であって、1000ppm以下の低濃度域では検出することができない。従って、低濃度域であってもガス種を特定して検出することができる点で、本願発明に係る可燃性ガス識別装置1は、優れているといえる。
【0021】
以上の結果をまとめた表1及び表2を、以下に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
つまり、本願発明に係る可燃性ガス識別装置1は、検出対象ガスにおけるメタンガスの存在濃度・存在比率を指標に、簡便な操作で、迅速に可燃性ガスのガス種を識別し得ると共に、検出対象ガスを低濃度から高濃度まで広い範囲で検出可能な点で、従来の可燃性ガス識別装置7、8と比較して優れているといえる。
【0025】
〔別実施形態〕
以下に別実施形態を説明する。
メタンガスを選択的に検知可能な半導体式メタンガスセンサと、広く総可燃性ガス一般を検知可能な半導体式総可燃性ガスセンサとを備えた可燃性ガス識別装置を例示して説明したが、前記総可燃性ガスセンサは半導体式総可燃性ガスセンサに限らず、測定対象、条件等により適宜変更可能である。例えば、前記半導体式総可燃性ガスセンサに代えて、液化石油ガス、メタン・エタン及び液化石油ガス、飽和炭素水素全般等の各種炭化水素を含む総可燃性ガスを選択的に検知可能な半導体式総可燃性ガスセンサを備えた可燃性ガス識別装置であっても良い。
又、前記半導体式メタンガスセンサとして、基板型半導体式ガスセンサを例示して説明したが、半導体式ガスセンサであれば他の型であっても適用可能であって、例えば、図3に示すように、電極及びヒーターを兼ねる電極線216のコイルの周りに、酸化物半導体からなる感応層213を形成し、この周部に触媒層214を形成する場合も適応できる。この場合も、触媒層214内において、感応層213に接触する側を触媒層下層部領域214a,外側を触媒層上層部領域214bとみなして、本願の特徴構成を適応すれば良い。又、傍熱型半導体式ガスセンサ、マイクロチップ型半導体式ガスセンサ等を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る可燃性ガス識別装置のブロック図
【図2】 本発明に係る可燃性ガス識別装置の半導体式メタンガスセンサを表わす断面図
【図3】 本発明に係る可燃性ガス識別装置の半導体式メタンガスセンサの別実施形態を表わす断面図
【図4】 本発明に係る可燃性ガス識別装置の半導体式メタンガスセンサの感度を示すグラフ
【図5】 本発明に係る可燃性ガス識別装置の半導体式総可燃性ガスセンサの感度を示すグラフ
【図6】 本発明に係る可燃性ガス識別装置のメタンガスに対する応答を示すグラフ
【図7】 本発明に係る可燃性ガス識別装置の液化石油ガスに対する応答を示すグラフ
【図8】 比較例に係る半導体式総可燃性ガスセンサのブロック図
【図9】 比較例に係る半導体式可燃性ガスンサのメタン及び液化石油ガスに対する応答を示すグラフ
【図10】 比較例に係る接触燃焼式可燃性ガス識別装置のブロック図
【図11】 比較例に係る接触燃焼式可燃性ガス識別装置のメタン及び液化石油ガスに対する応答を示すグラフ
【符号の説明】
1 可燃性ガス識別装置
2 ガス検知手段
3 演算手段
4 識別手段
21 半導体式メタンガスセンサ
22 半導体式総可燃性ガスセンサ
31 第一変換手段
32 第二変換手段
33 減算手段
Claims (11)
- メタンガスを選択的に検知可能な半導体式メタンガスセンサと、各種炭化水素を含む総可燃性ガスを検知可能な半導体式総可燃性ガスセンサとを備えたガス検知手段を備え、
前記半導体式メタンガスセンサから得られた出力信号をメタンガス濃度に変換する第一変換手段と、前記半導体式総可燃性ガスセンサから得られた出力信号を総可燃性ガス濃度に変換する第二変換手段と、前記総可燃性ガス濃度と前記メタンガス濃度との差を減算処理して非メタン可燃性ガス濃度を算出する減算手段とを有する演算手段を備えていると共に、
前記メタンガス濃度と前記非メタン可燃性ガス濃度の比に基づいて、検知対象ガスのガス種を判定する識別手段を備えた可燃性ガス識別装置。 - 前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の3倍以上である場合には前記検知対象ガスのガス種がメタンガスであると判定し、前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の1/3倍以下である場合には前記検知対象ガスのガス種が液化石油ガス又はその他の可燃性ガスであると判定し、前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の1/3倍より高く3倍未満であるである場合には前記検知対象ガスのガス種がメタン又はその他の可燃性ガスであると判定する前記識別手段を備えた請求項1記載の可燃性ガス識別装置。
- 前記識別手段が、検知対象ガスのガス種について下記( i )〜( iii )のうち少なくとも何れかの判定を行う請求項1記載の可燃性ガス識別装置
( i ) 前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の3倍以上である場合には前記検知対象ガスのガス種がメタンガスであるとの判定
( ii ) 前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の1/3倍以下である場合には前記検知対象ガスのガス種が液化石油ガス又はその他の可燃性ガスであるとの判定
( iii ) 前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の1/3倍より高く3倍未満である場合には前記検知対象ガスのガス種がメタン又はその他の可燃性ガスであるとの判定。 - 前記半導体式メタンガスセンサが、酸化物半導体と、この酸化物半導体の表面を覆うように設けられた触媒層を有し、前記触媒層中に、酸化物半導体表面からの距離に応じて組成の異なる触媒を積層させた構成のガスセンサであって、
前記触媒層中の前記酸化物半導体表面からの距離が2μm未満の下層部領域には白金を含有せず、前記酸化物半導体表面から少なくとも2μm以上離れた部分のいずれかに1.5重量%以上の白金を含有する上層部領域が存在するガスセンサである請求項1記載の可燃性ガス識別装置。 - 前記半導体式メタンガスセンサが、酸化物半導体と、この酸化物半導体の表面を覆うように設けられた触媒層を有し、前記触媒層中に、酸化物半導体表面からの距離に応じて組成の異なる触媒を積層させた構成のガスセンサであって、
前記触媒層中の前記酸化物半導体表面からの距離が2μm未満の下層部領域には1重量%未満の白金を含有し、前記酸化物半導体表面から少なくとも2μm以上離れた部分のいずれかに1.5重量%以上の白金を含有する上層部領域が存在するガスセンサである請求項1記載の可燃性ガス識別装置。 - メタンガスを選択的に検知可能な半導体式メタンガスセンサと、各種炭化水素を含む総可燃性ガスを検知可能な半導体式総可燃性ガスセンサとを備えたガス検知手段を備え、
前記半導体式メタンガスセンサから得られた出力信号をメタンガス濃度に変換する第一変換手段と、前記半導体式総可燃性ガスセンサから得られた出力信号を総可燃性ガス濃度に変換する第二変換手段と、前記総可燃性ガス濃度と前記メタンガス濃度との差を減算処理して非メタン可燃性ガス濃度を算出する減算手段とを有する演算手段を備えていると共に、
少なくとも前記第一変換手段及び前記減算手段の演算結果を出力する出力手段を設けた可燃性ガス識別装置。 - メタンガスを選択的に検知可能な半導体式メタンガスセンサから得られた出力信号をメタンガス濃度に変換し、各種炭化水素を含む総可燃性ガスを検知可能な半導体式総可燃性ガスセンサから得られた出力信号を総可燃性ガス濃度に変換し、前記総可燃性ガス濃度と前記メタンガス濃度との差を減算処理して非メタン可燃性ガス濃度を算出した後に、
前記メタンガス濃度と前記非メタン可燃性ガス濃度の比に基づいて、検知対象ガスのガス種を判定する可燃性ガス識別方法。 - 前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の3倍以上である場合には前記検知対象ガスのガス種がメタンガスであると判定し、前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の1/3倍以下である場合には前記検知対象ガスのガス種が液化石油ガス又はその他の可燃性ガスであると判定し、前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の1/3倍より高く3倍未満であるである場合には前記検知対象ガスのガス種がメタン又はその他の可燃性ガスであると判定する請求項7記載の可燃性ガス識別方法。
- 前記検知対象ガスのガス種について下記( i )〜( iii )のうち少なくとも何れかの判定を行う請求項7記載の可燃性ガス識別方法
( i ) 前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の3倍以上である場合には前記検知対象ガスのガス種がメタンガスであるとの判定
( ii ) 前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の1/3倍以下である場合には前記検知対象ガスのガス種が液化石油ガス又はその他の可燃性ガスであるとの判定
( iii ) 前記メタンガス濃度が前記非メタン可燃性ガス濃度の1/3倍より高く3倍未満である場合には前記検知対象ガスのガス種がメタン又はその他の可燃性ガスであるとの判定。 - 前記半導体式メタンガスセンサが、酸化物半導体と、この酸化物半導体の表面を覆うように設けられた触媒層を有し、前記触媒層中に、酸化物半導体表面からの距離に応じて組成の異なる触媒を積層させた構成のガスセンサであって、
前記触媒層中の前記酸化物半導体表面からの距離が2μm未満の下層部領域には白金を含有せず、前記酸化物半導体表面から少なくとも2μm以上離れた部分のいずれかに1.5重量%以上の白金を含有する上層部領域が存在するガスセンサである請求項7記載の可燃性ガス識別方法。 - 前記半導体式メタンガスセンサが、酸化物半導体と、この酸化物半導体の表面を覆うように設けられた触媒層を有し、前記触媒層中に、酸化物半導体表面からの距離に応じて組成の異なる触媒を積層させた構成のガスセンサであって、
前記触媒層中の前記酸化物半導体表面からの距離が2μm未満の下層部領域には1重量%未満の白金を含有し、前記酸化物半導体表面から少なくとも2μm以上離れた部分のいずれかに1.5重量%以上の白金を含有する上層部領域が存在するガスセンサである請求項7記載の可燃性ガス識別方法。
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