JP3912837B2 - 水溶性加工油剤 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属の加工に使用される水溶性の加工油剤に関し、更に詳しくは、金属の切削、研削、圧延及び鍛造等の加工に使用される水溶性の加工油剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、金属の加工油剤は、油タイプのものが使用されてきたが、火災の危険性や作業性の点から、油溶性に代わり水溶性の加工油剤が使用されてきている。特に、切削研削加工では、冷却性が良好なことから水溶性が広く用いられてきている。これらの水溶性加工油剤は、潤滑剤、極圧添加剤、防錆剤、界面活性剤等(オレイン酸、ひまし油脂肪酸等の脂肪酸類やナフテン酸、ロジン酸等のアルカリ金属塩、またはアミン塩を主成分としている)を成分としているが、水溶性のため一般に発泡量が多いことから作業性が悪かったり、水によって希釈されて使用されることから、微生物分解による性能の劣化、及び被加工材・加工装置に錆が発生しやすいという問題点があった。
【0003】
従来、発泡を抑制するために、シリコーン系消泡剤が添加されていたが、持続性が乏しく経済性、作業性の点で問題がある。また、微生物分解防止のために防腐剤が用いられてきたが、防腐剤は手荒れを生じ易いことや、持続性がないという問題点がある。
【0004】
この様な発泡による作業性悪化や、微生物分解による性能劣化や錆が発生し易いという問題点を解決するためにいくつかの提案がなされている。例えば、特公昭40−14480号には酸化エチレン−酸化プロピレン共重合物、特開昭58−67792号には、ポリアミノアミド化合物、特開昭61−272292号には、芳香環あるいはシクロ環をもつアルカノールアミンエステル、が提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの水溶性加工油剤は、加工性能、消泡性及び防錆性の全ての性能を同時に達成できるものではなく、長所を有する反面短所も有し、従って目的に応じて限定された形でしか使用され得ないのが現状である。例えば、酸化エチレン−酸化プロピレン共重合物(特公昭40−14480号)は、分子量と全分子中の酸化エチレン重量%を選択することで、消泡性の良い水溶加工油剤用の潤滑剤を提供できるが、防錆性に悪影響を及ぼし、また加工性能が不十分であるという問題点があった。本発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、加工性、消泡性に優れ防錆性に悪影響を及ぼさない水溶性加工油剤を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、酸化プロピレンと酸化エチレンのブロック共重合体の構造式が、下記一般式(3)で表される酸化プロピレンと酸化エチレンとのブロック共重合体のアルキルエーテル、アルケニルエーテル、アリールエーテル及びアラルキルエーテルの群から選ばれる1種または2種以上を含有する水溶性加工油剤を提供する。
【化1】
Figure 0003912837
(ただし、上記の式中、a,b,c,d,e,f,g及びhは、1以上の整数を表し、いくつかが同時に同じであってもよい。Rは、炭素数2〜4のアルキレン基を示す)
【0007】
本発明のいう酸化プロピレンと酸化エチレンとのブロック共重合体(以下「本ブロック共重合体」という)とは、酸化プロピレンと酸化エチレンがブロック状に共重合した物質をいうが、好ましくは、平均分子量が1,000〜30,000であり、全分子中の酸化エチレンの割合が10〜80重量%のものである。平均分子量が、1,000以下では潤滑性が悪く、30,000以上では水溶液の粘度が高くなりすぎて実用的でない。また、酸化エチレンの含有量が10重量%以下では水溶性が悪く、80重量%以上では発泡性が大きくなり好ましくない。
【0008】
なお、酸化プロピレンと酸化エチレンの共重合体が、ランダム共重合体や酸化プロピレンや酸化エチレンの単独重合体では、潤滑性が悪く、又発泡性が高く本発明には適さない。
【0009】
また、本ブロック共重合体の構造は、一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で示される群から選ばれるのが好ましい。
【0010】
【化2】
Figure 0003912837
【0011】
【化3】
Figure 0003912837
【0012】
【化4】
Figure 0003912837
【0013】
【化5】
Figure 0003912837
【0014】
ただし、式中、a,b,c,d,e,f,g及びhは、1以上の整数を示しいくつかが同時に同じであってもよい。Rは、炭素数2〜4のアルキレン基を示す。
【0015】
本ブロック共重合体は、酸化プロピレンと酸化エチレンの重合順序や重合度、および出発原料を変えることにより、種々の分子量および酸化エチレン重量%の異なる共重合体が生産でき、種々のタイプの共重合体が市販されている。本発明では、これら市販のブロック型酸化ロピレン−酸化エチレン共重合体を用いることができる。例示すると、一般式(1)のブロック共重合体はプルロニック型界面活性剤として知られており、三洋化成工業(株)製のニューポールPEシリーズや旭電化工業(株)製のアデカプルロニックLまたはFシリーズ、等が挙げられる。一般式(2)は、リバース型プルロニックとして知られている共重合体で、例として旭電化工業(株)製アデカプルロニックRシリーズ、ミヨシ油脂(株)製のプリストールRMシリーズ、BASFジャパン社製のプルリオールPREシリーズ等が挙げられる。一般式(3)及び(4)は、テトロニック型界面活性剤、およびリバース型テトロニックとして知られている共重合体で、例として旭電化工業(株)製のアデカテトロニックシリーズ、テトロニックRシリーズが挙げられる。
【0016】
本発明でいうアルキルエーテル、アルケニルエーテル、アリールエーテル及びアラルキルエーテルのアルキル、アルケニル、アリール及びアラルキルは、分岐鎖を有することもある脂肪族、芳香族及び脂環族の炭化水素を意味し、炭素数が1〜18が好ましい。例示すると、メチル、ブチル、ヘキシル、オクチル、イソオクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、イソノニル、デシル、イソデシル、ドデシル、ペンタデシル、ステアリル、イソステアリル、12−ヒドロキシステアリル基、等の飽和炭化水素基、ウンデシル、オレイル、、リシノール基等の不飽和炭化水素基、ベンジル、t−ブチルベンジル、シクロヘキシル、ブチルシクロヘキシル基等の芳香族あるいは脂環族炭化水素基、等が挙げられる。
【0017】
本発明のいうエーテル化合物は、モノエーテル、ジエーテル、トリエーテル、テトラエーテルのいずれでもよく、単独或いは混合物を使用してもよい。一般式(1)および(2)の共重合体のエーテルとしては、モノエテルとジエーテルが可能であり、一般式(3)および(4)の共重合体のエーテルとしては、モノエーテル、ジエーテル、トリエーテル、テトラエーテルの4種が可能である。
【0018】
本ブロック共重合体のエーテル化は、衆知の方法で行うことができる。例えば、共重合体とα−モノハロゲン化アルキルとを、二塩化メチル、クロロホルム、エーテル等の溶媒中または無溶媒で、トリエチルアミン等の第三級アミン存在下で反応させることによって得られる。
【0019】
本発明による水溶性加工油剤は、防錆性の点から常套手段として用いられるpH調整をおこなうことが望ましい。一般にpHの範囲としては8〜11である。好ましくは、9〜10.5である。調整剤としては水溶性の塩基性物質が用いられ、例示するとK、Naの水酸化物、モノ、ジまたはトリメチルアミン、モノ、ジまたはトリエチルアミン、モノ、ジまたはトリブチルアミン、モノまたはジシクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン、モノ、ジまたはトリエタノールアミン、モノ、ジまたはトリイソプロパノールアミン等のアルカノールアミン等が挙げられる。好ましくは、KOH、NaOH、アンモニア、またはエタノールアミン類、プロパノールアミン類である。
【0020】
本発明による水溶性加工油剤として、本発明のエーテル化合物の配合量は、特に限定するものではないが、一般的には油剤原液中に1〜80重量%、好ましくは、5〜60重量%で含有する原液を調製し、使用時に水で5〜100倍に希釈して用いる。希釈倍率は被加工物の種類や要求性能により適宜選択すればよい。ただし、希釈時の含有量が0.1重量%以下では、本発明品の性能が十分に発揮できないので好ましくない。
【0021】
本発明の水溶性加工油剤は、所望により潤滑剤(例えば、鉱物油、動植物油、高級脂肪酸、脂肪酸エステル等)、防錆剤(例えば、p-t-ブチル安息香酸、高級脂肪酸塩、ほう酸、アルカノールアミン等)、極圧添加剤(例えば、塩素化パラフィン、硫黄化パラフィン、燐酸エステル等)、界面活性剤、防腐剤、消泡剤、染料、香料等の常套の添加剤を適宜配合してもよい。
【0022】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0023】
[実施例で使用した本ブロック共重合体]
実施例で使用した本ブロック共重合体(商品名)とその構造を表1に示した。
【0024】
【表1】
Figure 0003912837
【0025】
[実施例に使用した本ブロック共重合体のエーテル化合物の合成(エーテル化合物No.1〜25)]
本発明に用いた本ブロック共重合体のエーテル化合物は、常法に従い、以下に示す方法で合成した。所定量の炭化水素のα−ブロモ化合物と、所定量のブロック型ポリオキシアルキレン化合物とをクロロホルム溶媒中、トリエチルアミンを触媒として10℃以下にて反応させた後、純水洗浄にて副生する臭化水素を除去し、脱水後、クロロホルムを留去して得た。表2に、本発明の実施例に用いたエーテル化合物No.1〜25とその原料に用いた本ブロック共重合体及びエーテル化に用いた炭化水素との組合せ、更に末端エーテル化の数を示した。
【0026】
【表2】
Figure 0003912837
【0027】
[実施例1〜25]
表2に示したNO.1から25のエーテル化合物を0.5重量%とpH調整剤としてトリエタノールアミンを0.5重量%とを溶解した水溶液を調製したものを試験液として用い、次に記載する試験方法によりpH値、摩擦係数、耐圧度、防錆性、抗菌性を測定した。その結果を表3と表4に示した。
【0028】
(1)pH値の測定方法−−−比較電極法を用いて25℃にて測定した。
【0029】
(2)摩擦係数の測定方法−−−曽田式振り子型摩擦試験機を用い25℃にて測定した。
【0030】
(3)防錆性の測定方法−−−鋳物(FC250)のドライカッティング切粉を試験液に10分間浸漬後、試験液を切ってから切粉をシャーレに移して30℃の恒温室に3日間放置し、発錆状態を次の評価基準により評価した。
判定基準
−: 発錆なし
+: 発錆あり
【0031】
(4)抗菌性の測定方法−−−直径10cm、容量10mlの平板状普通寒天培地上に、腐敗液(菌数が105個/ml以上の切削油剤使用液)1マイクロリットルを全面に塗布し10分間自然乾燥した後、該寒天倍地の中央部に試験液を1ml滴下し、30℃の恒温槽で3日間培養後、菌の繁殖状態を観察した。結果の判定は、試験液滴下部分の菌の繁殖状態を周辺部辺部分と比較し、次の4段階で評価した。
0: 繁殖無し
1: 周辺部に比べ繁殖が微少
2: ある程度繁殖するが周辺部より少ない
3: 周辺部と同程度の繁殖
【0032】
(5)消泡性の測定方法−−−試料液50mlを100ml容の共栓付メスシリンダーに入れ、密栓後、液温25℃でメスシリンダーを上下に10回振り、その後静置して、直後、30秒後、60秒後の泡の容積を測定した。
【0033】
[実施例26〜29]
表2に示したNO.5、13、18、23のエーテル化合物の0.5重量%のみを溶解した水溶液を調製したものを試験液として用い、実施例1〜25と同様の試験を行った。その結果を表3と表4に示した。
【0034】
[比較例1〜10]および[比較例11〜13]
比較例として、表5に示したNO.1から10の化合物を0.5重量%とpH調整剤としてトリエタノールアミンを0.5重量%とを溶解した水溶液を調製したものを試験液として用い、実施例と同様の方法でpH値、摩擦係数、耐圧度、防錆性、抗菌性を測定した。その結果を表3と表4に示した。
【0035】
表4に示したNO.1、6、10の化合物の0.5重量%のみを溶解した水溶液を調製したものを試験液として用い、同様にpH値、摩擦係数、耐圧度、防錆性、抗菌性を測定した。その結果を表3と表4に示した。
【0036】
[実施例30〜33]、[比較例14〜17]
実施例3、5、18、23、および比較例1、6、8、10の試験液を用いて、下記に示すドリリング、およびタッピング試験を行い、切削性能を評価した。その結果を表6に示した。
【0037】
[切削試験条件と評価方法]
・加工機械:立型NCフライス盤(エンシュウ(株)製SEV)
・加工工具:(1)ドリル−−φ10.3mmハイスストレートドリル((株)神戸製鋼所製)
(2)タップ−−M12×1.75 ハイス・ハンドタップ((株)ヤマワ製)
・切削条件:(1)ドリリング−−回転数712rpm、送り142mm/min、深さ25mm貫通
(2)タッピング−−回転数177rpm、送り310mm/min、深さ25mm貫通
・被削材質:炭素鋼(S45C)
・給油量 :4l/min(普通給油、単一ノズル)
・評価方法:(1)ドリリングの切削動力の測定。−−−NTN(株)製の微少電力検出ユニットにて、加工時の主軸モータの消費電力を検出し、1〜15穴目までの各穴の加工に要した消費電力の平均値を切削動力とした。
(2)タッピングの工具磨耗の測定。−−−各加工個数毎に、タップの食いつき部(3番及び4番山)外周の逃げ面磨耗幅の最大値を測定した。
【0038】
【発明の効果】
以上のように、本発明の酸化プロピレンと酸化エチレンのブロック共重合体のエーテル化合物は、優れた加工性能を有すると共に、防錆性、抗菌性、消泡性が優れている。従って、本発明の水溶性加工油剤は、従来油剤に比べて、加工性能が優れるだけでなく、防錆性、抗菌性、消泡性が優れるため、作業性が良好で、微生物分解等による性能低下や作業性の悪化が少なく、長期間安定に使用できる。
【表3】
Figure 0003912837
【表4】
Figure 0003912837
【表5】
Figure 0003912837
【表6】
Figure 0003912837

Claims (3)

  1. 酸化プロピレンと酸化エチレンのブロック共重合体の構造式が、下記一般式(3)で表される酸化プロピレンと酸化エチレンとのブロック共重合体のアルキルエーテル、アルケニルエーテル、アリールエーテル及びアラルキルエーテルの群から選ばれる1種または2種以上を含有する水溶性加工油剤。
    Figure 0003912837
    (ただし、上記の式中、a,b,c,d,e,f,g及びhは、1以上の整数を表し、いくつかが同時に同じであってもよい。Rは、炭素数2〜4のアルキレン基を示す)
  2. 酸化プロピレンと酸化エチレンのブロック共重合体が、平均分子量1,000〜30,000で、全分子中の酸化エチレンの割合が、10〜80重量%である請求項1に記載の水溶性加工油剤。
  3. アルキルエーテル、アルケニルエーテル、アリールエーテル及びアラルキルエーテルのアルキル、アルケニル、アリール及びアラルキルの炭素数が1〜18である請求項1に記載の水溶性加工油剤。
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