JP3911201B2 - 親−疎水性修飾ポリ(γ−グルタミン酸) - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、親−疎水性基で修飾したポリ(γ−グルタミン酸)に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリ(γ−グルタミン酸)はバチルス(Bacillus)属の微生物の発酵により非常に効率よく(例えば、培養液1lあたり50g)生産され、α−カルボキシル基に由来するカルボキシル基を側鎖に有する直鎖の水溶性の生分解性ポリマーである。このような特性を活かし、ポリ(γ−グルタミン酸)は、制ガン剤を化学結合を介して担持させるか、化学的な架橋によるゲル化を介してゲルマトリックス中に薬物を内包させるための薬物担体としての用途が提案されている(特開平6−92870号、特開平6−256220号)。
【0003】
上記の化学的に架橋をさせたポリ(γ−グルタミン酸)(以下、γ−PGAと略記する場合あり)は、その側鎖カルボキシル基を介して二官能性基により架橋させることで新たな用途を開拓したγ−PGAの誘導体といえる。
【0004】
【発明の構成】
γ−PGAは、それ自体またはその上記のような誘導体としても有用なポリマー材料である。しかし、可能であれば、さらなる機能を付与したγ−PGA誘導体の提供も望まれるであろう。かような観点からγ−PGAの機能化を検討してきたところ、γ−PGAの側鎖カルボキシル基の一部を介して、個別に、一定の親水性基および疎水基を導入することによりγ−PGAを修飾すると、あるものは水性媒体中で会合した分子集合体である高分子ミセルを形成することを見出した。このような高分子ミセルは、ミセル内に薬物等を内包することのできる新たな薬物担体としても利用できる。また、仮に、γ−PGAそれ単独では高分子ミセルを形成できない場合であっても、例えば疎水性基を介して、または残存するカルボキシル基を介して適当な薬物を物質的もしくは化学的に結合することにより薬物を内包した高分子ミセルを形成しうるものもある。こうして、本発明者らはγ−PGAに新たな機能を付与することに成功した。
【0005】
したがって、本発明によれば、新たな機能を有する親−疎水性修飾γ−PGAが提供される。具体的には、本発明は、一般式(I)
【0006】
【化2】
Figure 0003911201
【0007】
(式中、Aは基−(CH2CH2O)n−R1であって、R1はC1−C6アルキルまたはC1−C5アルキルカルボニルを表し、かつ、nは1、好ましくは10〜200のいずれかの整数を表し、
Bは基−CHR23であって、R2はC3−C21アルキルを表し、かつ、R3は水素またはC1−C6アルキルオキシカルボニルを表し、
XおよびYは、独立して−O−または−NH−を表し、
p、qおよびrは、独立して1以上の整数を表し、p+q+rの総数は20〜2500のいずれかの整数を表し、そして
各繰り返し単位は部分的にブロックを形成してもよいが、本質的にはランダムに存在する)
で表される修飾ポリ(γ−グルタミン酸)またはその塩を提供する。
【0008】
【発明の具体的な態様】
一般式(I)における各基を定義するアルキルまたはアルキルカルボニルもしくはアルキルオキシカルボニルのアルキル部分は、共通して、直鎖または分岐鎖であることができる。したがって、C1−C6またはC1−C5アルキルの具体的なものとしては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、t−ペンチルが挙げられ、C6アルキルとしてはn−ヘキシル、イソヘキシルが挙げられる。
【0009】
また、一般式(I)におけるBに関連する基−CHR23におけるR2がC3−C21アルキルである場合は、上記したアルキルのうち、C3(炭素原子数が3)以上のものに加えC21までの分岐していてもよい長鎖脂肪炭化水素基である。
【0010】
こうして定義されるアルキルのうち、R1は、一般式(I)におけるA部が親水性ドメインを形成することを意図していることから炭素原子数3個までのアルキルが好ましい。もちろん、A部の−(CH2CH2O)n−R1におけるn数が大きくなれば、R1のアルキルの炭素数は6であってもよい。
【0011】
このようなA部は一般式(I)で表される分子において親水性ドメインとして機能する限り、n数には制限がないが、一般的には1以上、好ましくはnは10〜200のいずれかの整数、より好ましくは40〜120のいずれかの整数である。−X−A部は、後述するとおり、通常、片末端にアミノ基または水酸基を有するポリエチレングリコール誘導体を、それらの基とγ−PGAの側鎖カルボキシルとの反応させることにより導入できるので、Xは、それぞれ−NH−または−O−であるのが好ましい。
【0012】
他方、B部は疎水性ドメインを形成することを意図していることから、基−CHR23が全体として疎水性を示すようにR2およびR3が選ばれる。さらに、γ−PGAが有する生分解性の特性を維持するには、B部も生体由来の化合物の残基を主とするものが好ましい。したがって、基−CHR23は、該基をγ−PGA主鎖に連結するYの−NH−または−O−と一緒になって、カルボキシル基を保護した疎水性アミノ酸残基であるか、または高級脂肪族アルコールの残基であることが好ましい。
【0013】
限定されるものでないが、Yが−NH−である場合の典型的な残基としては、例えば、バリン、ロイシンまたはイソロイシンのカルボン酸エステルに由来するものを挙げることができ、一方、Yが−O−である場合の典型的な残基としては、天然油脂およびロウ中の飽和アルコール、例えば、C22のドコサノール、C19の16−メチルオクタデカノール、C18のステアリルアルコール、C16のセチルアルコール、C12のラウリルアルコール、C10のデカノール、C8のオクタノールの残基であることができる。
【0014】
p、qおよびrの総数は、後述するようにγ−PGAを原料として、それぞれ−Y−Bおよび−X−Aをグラフト化する場合には、原料γ−PGAの分子量により変動する。バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)の発酵によって得られるγ−PGAは数十万の分子量を有するものが得られており、例えば、F−20−1株からは分子量約30万のγ−PGAが得られており、また、市販もされている。本発明の修飾γ−PGAは市販されているものをそのまま、または、バチルス、ズブチルスの菌株を培養することにより、また、高分子量のγ−PGAを必要により機械的もしくは化学的に加水分解することによって、分子量を低下させたものを出発原料として得ることができる。したがって、一般的には、p、qおよびrの総数は20〜3000、好ましくは180〜2400のいずれかの整数であることができる。また、本発明の修飾γ−PGAでは、所期の機能を奏するためには、側鎖カルボキシル基、−COYBおよび−COXAをそれぞれ有する繰り返し単位が一緒に存在することが必須であるので、p、qおよびrは独立して1以上の整数である。
【0015】
本発明の修飾γ−PGAは、約30万の分子量のγ−PGAを原料に用い、−Y−BをL−ロイシンメチルエステルから形成し、そして−X−AをH2N(CH2CH2O)nCH3[ポリ(エチレンオキシド)の分子量5000]を用いて形成した場合には、q/(p+q+r)の比が0.25以上の一定値となるときには水中で会合した分子集合体である高分子ミセルを形成することができる。他方、上記の比が0.25をかなり下廻わる場合には上記修飾γ−PGAは水溶性となり、それら単独では水中で高分子ミセルを形成しなくなる。
【0016】
このような修飾γ−PGAの高分子ミセル形成能は、A部およびB部を有する単位の各分子量、それらを構成する残基の種類によって異なる。また、修飾γ−PGAが高分子ミセルを形成しうる場合、A部のn数を変動させることにより高分子ミセルの粒径を調製できるる。
【0017】
このように高分子ミセルを形成できる修飾γ−PGAは、一般的に、疎水性薬物(疎水性薬物は、水可溶化を目的に公知のポリマーミセルに封入されることが知られているものであれば限定されず包含され、または、水難溶性薬物とも称されている広範な薬物が包含される)を水性溶媒中で共存させることにより、該薬物を内包した高分子ミセルを形成しうる。かような系では、必ずしも、もとの修飾γ−PGAそれ自体が高分子ミセルを形成し得ない場合であっても、薬物と−Y−Bを有する単位による疎水性ドメインとの相互作用により、高分子ミセルが形成可能になるものと推測される。また、こうして形成された高分子ミセルは、ミセルの表面にカルボキシル基を露出し得るので、該基を利用してさらに修飾することも可能である。このような修飾は、生物学的な指向性を示す残基、例えば、抗体またはその機能性残基によることが可能であろう。
【0018】
またさらに、仮に、修飾γ−PGAがそれ単独で高分子ミセルを形成できない場合であっても、上記のような疎水性薬剤と−Y−B単位との相互作用に代え、カルボキシル基を有する単位を介して、例えば、疎水性(または場合によっては水可溶性)のアルカリ性薬物を結合させることにより、水性媒体中で該薬物を内包した高分子ミセルを形成することも可能となろう。
【0019】
したがって、本発明の修飾γ−PGAは、必ずしも、単独で高分子ミセルを形成し得ないものであっても、例えば、薬物の担体として有用である。しかし、好ましくは、修飾γ−PGA単独で高分子ミセルを形成し得るものが、上述のような薬物を内包せしめた場合であっても、より安定な高分子ミセルを形成しうるので好ましい。修飾γ−PGAがそれ単独で水性媒体中で高分子ミセルを形成しうるか否かは、当業者であれば、上記説明、または後述する実施例に示す高分子ミセルを形成しうる例を参照し、小実験を行うことにより、極めて容易に確認できる。なお、上記の高分子ミセルを形成する水性媒体には、水そのもの、また、緩衝化された水溶液、高分子ミセルの安定性に悪影響を及ぼさない範囲で水混和性の有機溶媒を含んでいてもよい水溶液が包含される。
【0020】
また、本発明の修飾γ−PGAは、カルボキシル基を介して形成される塩、好ましくはアルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム)の部分塩または完全な塩であることもできる。
【0021】
以上に説明してきた本発明の修飾γ−PGAは、都合よくは、下記反応スキームに示すごとく、γ−PGAに、順次、−Y−B部分および−X−A部分を導入することによって製造できる。
反応スキーム:
【0022】
【化3】
Figure 0003911201
【0023】
(各式におけるA、B、X、Y、p、qおよびrは上記定義と同義である。)
こうして製造される一般式(I)で表される修飾γ−PGAにおける3種の繰り返し単位の各々は、場合によって部分的数個のブロックを形成していてもよいが、本質的にはランダムに存在するであろう。
【0024】
【実施例】
以下、具体例を挙げ本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものでない。
実施例:
(1) γ−PGAのL−ロイシンメチルエステルによる疎水性化
1.0gのγ−PGA(Mn=3.0×106、明治製菓(株))を0.3MのNaHCO3水溶液50mlに溶解した。この溶液とクロロホルム150mlを混合、攪拌した。この溶液に所定量のL−ロイシンメチルエステル(Leu−Met)を溶解させた。溶液を氷冷し、WSC(水溶性カルボジイミド、和光純薬(株))を加えて一時間氷温下で攪拌した。その後、室温で12時間攪拌を行った。反応後クロロホルムを留去、残った水を取り除き、沈殿しているポリマーをアセトンに溶解した。これを水に対して再沈殿し、得られたものを減圧乾燥した。
【0025】
【表1】
Figure 0003911201
【0026】
(2) ポリエチレングリコール(PEG)のグラフト化
上記(1)で得たロイシン化PGA(Leu−PGA)をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、
【0027】
【化4】
Figure 0003911201
【0028】
塩酸塩(以下、PEG−NH2)およびブタノール(HOBt)を加えた。溶液を氷冷し、WSCを加えて1時間攪拌した。次いで、室温で12時間攪拌した。反応後、溶液を水に対して3日間透析することで、溶液は白く濁り粒子が形成した。これを遠心分離(10,000rpm、10分×3)によって精製し、微粒子の分散液を得た。原料および反応体の使用割合は表2のとおりであった。
【0029】
【表2】
Figure 0003911201
【0030】
表2中、GAunitはγ−グルタミン酸単位の存在割合を示す。
【0031】
透析直後は、どちらのサンプルも薄く白濁していたが、例2−2は、3日目辺りで凝集して濁りが強くなり、沈殿も生じ始めた。これに対して例2−1は一週間以上、合成直後の状態を保っている。比較として、ロイシン化PGAをDMFに溶解し、これを水に透析したが最初は白濁するものの例2−2のサンプルと同様に2−3日で、濁りが強くなり沈殿を生じ始めた。このことから、PEGをグラフト鎖として導入することで、粒子の分散安定性が向上した。
【0032】
例2−1の粒子を動的光散乱によって解析した結果、平均粒径241nm、標準偏差50nm、C.V.21%であった。また、電子顕微鏡による観察結果からも微粒子が形成していることが確認された。また、得られた微粒子を蒸留水に分散させて導電度滴定を行った結果、ナノスフェア10mg当たりに、2.65×10-6(mol)のカルボキシル基が存在することが明らかとなった。

Claims (5)

  1. 一般式(I)
    Figure 0003911201
    (式中、Aは基−(CH2CH2O)n−R1であって、R1はC1−C6アルキルまたはC1−C5アルキルカルボニルを表し、かつ、nは1〜200のいずれかの整数を表し、
    Bは基−CHR23であって、R2はC3−C21アルキルを表し、かつ、R3は水素またはC1−C6アルキルオキシカルボニルを表し、
    XおよびYは、独立して−O−または−NH−を表し、
    p、qおよびrは、独立して1以上の整数を表し、p+q+rの総数は20〜2500のいずれかの整数を表し、そして
    各繰り返し単位はランダムに存在する)
    で表される修飾ポリ(γ−グルタミン酸)またはその塩。
  2. −X−Aが−NH−(CH2CH2O)n−R1aを表し、R1aがC1−C3アルキルを表す請求項1記載の修飾ポリ(γ−グルタミン酸)またはその塩。
  3. −Y−Bが−NHCHR2a3a(ここで、R2aはC3−C5アルキルであり、かつ、R3aがC1−C3アルキルオキシカルボニルである。)または−OCH22b(ここで、R2bはC8−C20アルキルである。)を表す請求項1または2記載の修飾ポリ(γ−グルタミン酸)またはその塩。
  4. −X−Aが−NH−(CH2CH2O)n−CH3を表し、かつnが10〜120のいずれかの整数を表し、そして−Y−Bが−NHCHR2a3aであって、かつ、R2aがイソプロピル、2−ブチルプロピルまたは1−メチルプロピルを表し、R3aがメトキシカルボニルを表す請求項1〜3のいずれかに記載の修飾ポリ(γ−グルタミン酸)またはその塩。
  5. 水性媒体中で高分子ミセルを形成することのできる請求項1〜4のいずれかに記載の修飾ポリ(γ−グルタミン酸)またはそのアルキル金属塩。
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