JP3906343B2 - 超流動ヘリウム発生装置の制御方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば超電導磁石装置等の様な極低温装置で冷媒として用いる非飽和超流動ヘリウムを発生させる装置を、効果的に制御する為の有用な方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、NMR装置等に用いられる超電導磁石装置では、発生する磁場をより高くすることが要求されている。また、こうした超電導磁石装置では、冷媒として液体ヘリウムが用いられるのが一般的である。一方、例えば超電導材料であるNbTiを主材料とするいわゆる合金系材料や、Nb3Snに代表される化合物系材料では、液体ヘリウムの沸点である約4.2Kにおける上部臨界磁場が、夫々約11.5T、約22Tである。
【0003】
上記の様な超電導材料を用いて、上記の臨界磁場よりも更に高い磁場を発生する超電導磁石装置を実現しようとする場合には、2.17K以下の超流動状態の液体ヘリウムを発生させることによって、超電導材料の上部臨界磁場を上昇させ、その結果として超電導磁石装置が発生する磁場を高める方法が採用される。この様に、超電導磁石装置における性能を向上させる為には、冷媒として用いる液体ヘリウムを2.17K以下の超流動状態にする必要がある。
【0004】
図1は従来の超流動ヘリウム発生装置の構成例を模式的に示した説明図であり、図中1は4.2Kの液体ヘリウム、2はヘリウム槽、3は非飽和超流動ヘリウム槽、4はコミュニケーションチャンネル、5は飽和超流動ヘリウム管路、6はジュールトムソン弁、7は熱交換器、8は真空ポンプ、9はコンプレッサー、10は冷凍機、11は非飽和超流動ヘリウムを夫々示す。尚、上記において、「飽和超流動ヘリウム」とは、圧力がその領域での温度に対応する飽和蒸気圧である超流動ヘリウムを意味し、「非飽和超流動ヘリウム」とは、圧力がその領域での温度に対応する飽和蒸気圧以上である超流動ヘリウムを意味する。
【0005】
図1に示した装置において、4.2Kの液体ヘリウム1を収納したヘリウム槽2は、コミュニケーションチャンネル4を介して非飽和超流動ヘリウム槽3と接続されている。この非飽和超流動ヘリウム槽3内には、その槽3内を冷却する為の飽和超流動ヘリウム管路5が配置されている。飽和超流動ヘリウム管路5の一端側は、ジュールトムソン弁(以下、「JT弁」と略称することがある)6、熱交換器7の一次側7aを介して前記ヘリウム槽2に接続され、他端側は上記熱交換器7の二次側7bを介して真空ポンプ8の吸い込み口に接続されている。真空ポンプ8の吐出し口8aは、コンプレッサー9を介して冷凍機10に接続されている。そして、上記冷凍機10で、ヘリウム槽2内に導入する液体ヘリウム1を冷却する様にしている。
【0006】
上記の様な装置において、非超流動ヘリウム槽3内の非超流動ヘリウム11を超流動化させる原理は、次の通りである。まず非飽和超流動ヘリウム槽3内をコミュニケーションチャンネル4の微小な隙間を通じて1気圧に保つと共に、真空ポンプ8、コンプレッサー9および冷凍機10を動作させる。このときの真空ポンプ8の動作によって、ヘリウム槽2内における4.2Kの液体ヘリウム1の一部が、熱交換器7の一次側7a、JT弁6、飽和超流動ヘリウム管路5、および熱交換器7の二次側7bの経路で流れることになる。
【0007】
そして、飽和超流動ヘリウム管路5内が、真空ポンプ8によって非飽和超流動ヘリウム槽3内の温度に対応する飽和蒸気圧よりも低い圧力に減圧されているものとすると、ヘリウム槽2から吸い込まれた液体ヘリウムは、熱交換器7の一次側7aを通る間に、例えば2.2K程度にまで冷却される。この冷却された液体ヘリウムは、JT弁6で膨張冷却されて、温度がTsまで低下したガスと液になる。そして、この液が飽和超流動ヘリウム管路5内を通る間に蒸発することによって、非飽和超流動ヘリウム槽3内の液体ヘリウムが冷却されることになる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、この様な装置にあっては、特に初期冷却するときに、或は超流動ヘリウム温度で定常に保つときに、JT弁6をどの様に制御すれば良いかという点が問題になる。例えば、JT弁6を絞り過ぎると、飽和超流動ヘリウム管路5内を通過する冷媒量が減って冷凍能力が低下することになる。逆に、JT弁6を開け過ぎると、飽和超流動ヘリウム管路5内で液体ヘリウムが全て蒸発しきれず、飽和超流動ヘリウム管路5の中が液で溢れ、熱交換器7の二次側7bに液体ヘリウムが入り込み、非飽和超流動ヘリウム槽3の冷却に直接関与しない熱交換器7、或は真空ポンプ8との間を接続する排気管内で液体ヘリウムが蒸発し、冷凍能力が著しく低下することになる。
【0009】
上記の様な不都合を回避する方法として、超電導線材を使用した液面計で非飽和超流動ヘリウムを流通させる槽の液面を検知し、それを指針としてJT弁6を制御する方法も考えられる。しかしながら、飽和超流動ヘリウム管路5内では、重力に逆らって路壁を液膜が這い上がるフィルムフローという特異現象があるので、特に冷却条件がJT弁6の開度によって大きく変わる環境条件下では、液体ヘリウムに浸かっていない部分を常電導化する為に、超電導液面計に流す電流値を最適化することは困難であるという事情がある。また飽和超流動ヘリウムを流通させる槽の形状を、図1に示した様にコイル状(管路状)にして熱交換表面積を増加させている場合には、こうした技術は適用できないという問題がある。
【0010】
上記の様な問題を解決するという観点から、例えば特開昭60−101455号の様な技術も提案されている。この技術は、非飽和超流動ヘリウム槽3の温度Tbと飽和超流動ヘリウム管路5の温度Tsを監視し、これらの温度TbとTsの関係が冷凍能力最大となる様に、上記TsをJT弁6の開度で制御するものである。
【0011】
しかしながら、図1に示した様な装置を運転する際には、上記ヘリウム槽2には消費された液体ヘリウム量を度々補填する必要があり、これによってヘリウム槽2の底やそれに通じたJT弁6の入口温度が変化するという懸念がある。従って、この方法では最大冷凍能力を常時発揮させることは殆ど困難であり、また飽和超流動ヘリウム管路内温度が目標温度に到達した後も、その温度を一定に保持することは難しくなる。即ち、飽和超流動ヘリウム管路5による冷凍能力は、主にJT弁6を通過した後の液体ヘリウム部分の蒸発潜熱で賄われるものであるが、この液体部分の比率がJT弁6の入口温度によって大きく変化するため、上記冷却能力を正確に算定することは困難である。
【0012】
本発明はこうした状況の下でなされたものであって、その目的は、初期冷却するときに、或は超流動ヘリウム温度で定常に保つときに、安定して操業することのできる超流動ヘリウム発生装置の制御方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成し得た本発明の制御方法とは、非飽和超流動ヘリウム槽内に、この槽内を冷却するための飽和超流動ヘリウム管路を配置し、上記飽和超流動ヘリウム管路内にジュールトムソン弁を介して冷却用液体ヘリウムを流通する様にした超流動ヘリウム発生装置を制御するに当たり、前記ジュールトムソン弁入側温度および出側温度と上記非飽和流動ヘリウム槽内温度から算出される必要熱交換面積が、前記飽和超流動ヘリウム管路の全内表面積未満となる様にジュールトムソン弁の開度を制御して、上記非飽和ヘリウム槽内を液体ヘリウム温度から超流動ヘリウム温度まで冷却し、更に当該温度を保つ様に操業する点に要旨を有するものである。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下図面に基づき、本発明方法の構成および作用効果についてより具体的に説明するが、本発明は図示した構成に限定されるものではなく、前・後記の趣旨に徴して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。例えば、図2に示した冷凍機10の部分は、通常の液体ヘリウム貯槽からの液体ヘリウム移送で置き換えることも可能である。
【0015】
図2は、本発明を実施する為の装置構成例を模式的に示した説明図であり、その基本的な構成は前記図1に示した装置に類似し、対応する部分には同一の参照符号を付すことによって重複説明を回避する。尚、図2中、12は液体ヘリウム槽2内における液体ヘリウム1の対流を抑える為の邪魔板である。
【0016】
図2に示した装置において、21はJT弁6を通過する直前の液体ヘリウム温度Tjt in(JT弁入側温度)を測定する為の温度センサー、22はJT弁出側温度Tjt out(即ち、飽和超流動ヘリウム管路5の入口温度)を検出する為の温度センサー、23は飽和超流動ヘリウム管路5の出口温度を測定する為の温度センサー、24は非飽和超流動ヘリウム槽3内の温度Tbを測定する為の温度センサー、25はヘリウム槽2の底の温度Tjt suctionを測定する為の温度センサーである。
【0017】
また、温度センサー21,22,23および24の出力は、夫々インターフェイス31,32,33,34を介してコントローラ42に入力される。そして、JT弁6の駆動軸はステッピングモータ41に連結されており、またステッピングモータ41はコントローラ42によって制御されており、ステッピングモータ41を制御することによって、JT弁6の開度が調整される様に構成されている。また、前記真空ポンプ8は、コントローラ42によって制御される様に構成っされている。
【0018】
本発明では、上記の様な装置を用い、JT弁6の入側および出側の夫々における液体ヘリウム温度(Tjt inおよびTjt out)を温度センサー21、22によって計測すると共に、温度センサー24によって上記非飽和超流動ヘリウム槽3内温度Tbを計測し、これらの温度(Tjt in、Tjt outおよびTb)を用いて算出される必要熱交換面積が、前記飽和超流動ヘリウム管路5の内面積未満となる様にしたものである。
【0019】
本発明の制御における原理は、次の通りである。まず、初期冷却過程では、前記温度Tjt in、Tjt outおよびTbを監視しながらJT弁6の開度を調整し、温度Tjt outが温度Tbよりも低くなる様にする。ここで、JT弁6の開度が大き過ぎると、温度Tjt outとTbの温度差が小さ過ぎ、飽和超流動ヘリウム管路5内の蒸発量が減少して飽和超流動ヘリウム管路5に液が溢れるという問題がある。そこで本発明では、飽和超流動ヘリウム管路5内に貯留している液体ヘリウムが、飽和超流動ヘリウム管路5の内壁と接している面積A(前記必要熱交換面積)を、飽和超流動ヘリウム管路5の全内面積未満になる様にJT弁6の開度を制御する。
【0020】
そして上記面積Aは、次の様にして算出される。前記図2に示した装置において、JT弁6の開度がある開度になり、十分な時間を経て温度センサー21,22,23,24の温度指示値が一定値を示したとき、JT弁6を通過した後の液体の質量比率yは、温度Tjt inに対応したエンタルピー(Hjt in)、上記Tjt outに対応した液体ヘリウムのガスエンタルピー(Hs gas)、および潜熱σを用いて下記(1)式の様に表わせる。
y=(Hs gas−Hjt in)/σ ……(1)
【0021】
次に、JT弁6を通過する液体ヘリウムの質量流量をmと表すと、飽和超流動ヘリウム管路5の冷凍能力(即ち、非飽和超流動ヘリウム槽3から飽和超流動ヘリウム管路5の壁面を介して、その内部の飽和超流動ヘリウムに吸収される熱量Q)は、下記(2)式の様に表される。
Q=m・y・σ ……(2)
【0022】
一方、前述の如く、飽和超流動ヘリウム管路5内に貯留する飽和液体ヘリウムが内壁と接する面積をAとすると、Qは下記(3)式の様にも表現できる(例えば“Design Issues For a Superfluid Helium Subcooler”,J.M.Pfotenhauer p33,HTD-Vol.211,Heat Transfer and Superconducting Magnetic Energy Storage, ASME, 1992)。尚下記(3)式において、定数a,nは飽和超流動ヘリウム管路5の壁面の材質と表面状態で決まる定数であり、飽和超流動ヘリウム管路5の壁面が銅の場合には、前記定数a,nは夫々0.05,3.5付近の値を取ることが知られている(例えば「The International Cryogenics Monograph Series:Herim Cryogenics」Table5.2)。
Q=0.5・a・A・(Tbn−Tjt outn) ……(3)
従って、上記(1)式〜(3)式により、面積Aは下記(4)式で算出されることになる。
A=m・y・σ/[0.5・a・(Tbn−Tjt outn)]……(4)
【0023】
上記(4)式において、質量流量mの値はJT弁6の開度のみで決まる量であり、一方Tjt outもJT弁6の開度によって決まる量であるので、mはTjt outの関数と考えて良い。同様に、σもTjt outのみの関数であり、yはTjt inとTjt outのみの関数である。従って、上記面積Aは、Tjt in、Tjt outおよびTbが与えられれば求めることができる。
【0024】
逆に、飽和超流動ヘリウム管路5の全内表面積がAcoolerである様な図2で示された装置を運転中、前記温度センサー21,24で温度Tjt in、Tbが夫々観測されたとき、下記(5)式で示される様なTjt outの範囲は一意的に求められるから、JT弁6の開度を調整して、温度Tjt outを下記(5)式で求められる範囲となる様に制御すれば、前述した様な問題を回避しながら効率的に装置を運転することが可能となる。
A(Tjt in,Tjt out,Tb)<Acooler ……(5)
【0025】
尚、温度Tjt outが大きいほど、ポンプ8によって排気される液体ヘリウムの流量が大きく、飽和超流動ヘリウム管路5による冷凍能力が大きくなるので、特に初期冷却過程においては、TbとTjt outの温度差が小さいほど、つまりTjt outが大きいほど、非飽和超流動ヘリウム槽3を速く冷却することができる。従って、上記(5)式を満足する範囲内で、Tjt outができるだけ高い値となる条件で操業することが、飽和超流動ヘリウム管路5における冷却能力を最大限に発揮させるという観点から好ましい。
【0026】
上記のことを考慮しながら、前記図2に示した装置を用いて本発明者らが実験を行なったところ、Tjt in,Tjt out,Tb,Tjt suctionの時間経過として、図3に示す結果が得られた。また、前記図3における各時点のTjt in,Tbを前記(5)式に代入し、最大冷却能力に対応するTb−Tjt outの値を求めた結果、図4の実線に示す結果が得られた。即ち、前記図3のTjt outの値は、図4の実線の値となる様にJT弁6の開度を制御して得られたものである。
【0027】
従来方法の様に、Tjt inを計測しない制御方法では、Tjt inを暗黙のうちにTjt suctionと等しいと仮定することが多かったが、実際は前記図3から明らかな様に、初期冷却においてTjt inは大きく変化しており、飽和超流動ヘリウム管路5の冷却能力を算出するには、Tjt inの計測が不可欠であることが分かる。仮に、JT弁6の入側温度Tjt inが常にTjt suctionに等しいと仮定した場合、上記(5)式を満足するTb−Tjt outの最小値は、図4の破線の様になるが、計測されたTjt inを用いた計算結果よりも小さくなっている。即ち、不必要にJT弁6を開け、飽和超流動ヘリウム管路5内の温度を高める結果、前述した不具合を招いたことが想像される。
【0028】
本発明では、上記の様にして制御することによって、飽和超流動ヘリウム管路5内に内部の液面を計測する為の手段を講じなくても、また液体ヘリウム補填作業中においても、JT弁6の絞り過ぎや、開き過ぎによって起こる前述した不都合を確実に防止することができ、目的の温度まで装置が持つ最大の速度で初期冷却し、且つ目的の温度を容易に維持することができるのである。
【0029】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、初期冷却するときに、或は超流動ヘリウム温度で定常に保つときに、安定して操業することのできる超流動ヘリウム発生装置の制御方法が実現できた。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の超流動ヘリウム発生装置の構成例を模式的に示した説明図である。
【図2】本発明を実施する為の装置構成例を模式的に示した説明図である。
【図3】Tjt in,Tjt out,Tb,Tjt suctionの時間経過の例を示すグラフである。
【図4】前記図3の各時点で最大冷凍能力に対応するTb−Tjt outの値を求めた結果を示したグラフである。
【符号の説明】
1 4.2Kの液体ヘリウム
2 ヘリウム槽
3 非飽和超流動ヘリウム槽
4 コミュニケーションチャンネル
5 飽和超流動ヘリウム槽
6 ジュールトムソン弁
7 熱交換器
8 真空ポンプ
9 コンプレッサー
10 冷凍機
21,22,23,24,25 温度センサー
31,32,33,34 インターフェイス
41 ステッピングモータ
42 コントローラ
Claims (1)
- 非飽和超流動ヘリウム槽内に、この槽内を冷却するための飽和超流動ヘリウム管路を配置し、上記飽和超流動ヘリウム管路内にジュールトムソン弁を介して冷却用液体ヘリウムを流通する様にした超流動ヘリウム発生装置を制御するに当たり、前記ジュールトムソン弁入側温度および出側温度と上記非飽和超流動ヘリウム槽内温度から算出される必要熱交換面積が、前記飽和超流動ヘリウム管路の全内表面積未満となる様にジュールトムソン弁の開度を制御して、上記非飽和ヘリウム槽内を液体ヘリウム温度から超流動ヘリウム温度まで冷却し、更に当該温度を保つ様に操業することを特徴とする超流動ヘリウム発生装置の制御方法。
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