JP3896737B2 - 調湿構造体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は壁、床、天井、ドア、家具などの室内に臨む面に板状の調湿建材を設置した調湿構造体に係り、特に目地を設けた調湿構造体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、日本の家屋では、木造土壁建築により、調湿性、防露性の良い建築物を実現してきたが、近年、建築物の高気密化が進められ、耐火性、気密性を重視した新建材が多用されるようになった。しかし、新建材では、調湿性、防露性などの特性が十分でないことから、建材表面で結露することにより、建物の快適性及び耐久性が損なわれたり、カビやダニが発生し易くなる等の短所がある。
【0003】
これらの問題を解決するために、一般的には空調設備が取り付けられるが、空調設備は動力を必要とし、設備費のみならず、運転費の面で好ましくない。
【0004】
このようなことから、建材自体に調湿機能を持たせ、空調設備や動力などを必要とせずに室内の湿度調整を行い、防露性を得ることができる調湿建材の開発が行われている。従来、調湿建材としては、ゼオライトや珪藻土などの吸放湿性をもつ材料を、セメント、石膏などの凝結硬化剤で固めた建材や粘土などと混合して焼成してなる建材が用いられている。具体的には、珪藻土系調湿建材としては特開平4−354514号公報等が、また、ゼオライト系調湿建材としては特開平3−109244号公報が提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来、調湿建材は単に突き付けられて施工されているだけであり、タイル壁などに比べると美感に劣りがちである。そこで、調湿建材についてもタイルと同様に目地を設けることが考えられるが、目地幅をとる分だけ壁面等に張り付ける調湿建材の面積が小さくなり、調湿性能が低下する。
【0006】
本発明は調湿性能及び美感に優れた調湿構造体を得ることを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の調湿構造体は、室内に臨む面に板状の調湿建材を設置した調湿構造体において、該調湿構造体の表面を占める面積領域が90%以下となるよう釉薬が施され、該調湿健材の前面に凹条を有し、該凹条及び該調湿建材同士の間に塗り目地法により調湿目地材が充填されていることを特徴とするものである。
【0008】
かかる調湿構造体にあっては、目地を設けているので美感に優れると共に、この目地の目地材が調湿性を有しているので、壁や床などの全体の調湿性能も良好である。
【0009】
本発明では、調湿建材の前面に凹条が設けられ、該凹条に調湿目地材が充填されている構成としているため、調湿建材を小形化することなく目地の条数を多くすることができる。
【0010】
本発明で用いる調湿建材は、焼成された調湿建材であって、調湿建材本体の表面に釉薬が施されている。かかる調湿建材は、表面が施釉されているので、釉薬による様々な加飾を付与することができ、意匠の幅を広げることができる。
【0011】
また、施釉面は手垢などの汚れが付き難く、また、汚れが付いた場合でも容易に落とすことができるため、表面を清浄に保つことができる。
【0012】
なお、調湿建材本体の表面を施釉することにより、調湿建材本体表面が釉薬によるガラス層で覆われて、吸放湿速度は若干遅くなるが、吸放湿容量には殆ど変わりはなく、調湿建材としての機能が大きく損なわれることはない。
【0013】
本発明では、調湿建材の前面側の少なくとも一部の辺縁部に切欠形状部が設けられ、該調湿建材同士が突き付けられ、該切欠形状部に該調湿目地材が充填されていることが好ましい。
【0014】
このようにすれば、切欠形状部内の目地材が、調湿建材を張り付け等により設けた下地に対し連結しないので、切欠形状部に充填された目地材が下地に吸水されることがなく、目地材が十分に高強度に硬化すると共に、吸水ムラに起因した目地材の色ムラも防止される。
【0015】
この調湿建材同士の間の調湿目地材と該凹条の調湿目地材とが同一のものとすれば、壁などの全体において目地材のすべての部分を色ムラのない同色に揃えることができ、美感が著しく良好なものとなる。
【0016】
この施釉は、釉薬によって生成するガラス層が調湿建材本体の表面の90%以下の面積領域に形成されるように、或いは、このガラス層の最大厚みが300μm以下となるように行うのが好ましく、施釉後の調湿建材は、施釉前の調湿建材本体の80%以上の調湿性能を有することが好ましい。
【0017】
本発明で用いる調湿建材は、8時間サイクルの吸放湿性能が80g/m2以上であることが好ましい。即ち、住宅では、炊事、入浴、暖房などによる湿度発生や日レベルの温度変動に基づく湿度変動など短時間の変動に対応する必要がある。このためには吸放湿の速度が大きいことが必要である。8時間サイクルの吸放湿性能を80g/m2以上(24時間サイクルの吸放湿性能としては140g/m2以上)とすることによりこの要件が満たされる。なお、この8時間サイクルの吸放湿性能は次のようにして求める。相対湿度50%に保持した恒温恒湿槽中で重量を恒量化(変動0.1%以下)させた試験体をすばやく相対湿度90%に保持した別の恒温恒湿槽中に入れ、8時間後の重量増(吸湿量(g))を単位面積(1m2)あたりに換算した値を8時間吸湿量とする。また、相対湿度90%に保持した恒温恒湿槽中で重量を恒量化(変動0.1%以下)させた試験体をすばやく相対湿度50%に保持した別の恒温恒湿槽中に入れ、8時間後の重量減(放湿量(g))を単位面積(1m2)あたりに換算した値を8時間放湿量とする。そして、下記式で求める。
【0018】
8時間サイクルの吸放湿性能=(8時間吸湿量+8時間放湿量)/2
焼成により得られる調湿建材は、例えば、鹿沼土、大沢土及び膠質土、水土、味噌土と呼ばれる各地の火山軽石層や珪藻土、酸性白土、活性白土、ゼオライト、ハロイサイト、セピオライトなどの調湿性原料に木節粘土、蛙目粘土等の粘土や珪石、陶石、蝋石、長石その他のガラス質成分等を下記の配合割合及び化学組成で混合し、押し出し成形又はプレス成形し、得られた成形体を焼成することにより製造される。
【0019】
<配合割合(重量部)>
鹿沼土等の調湿性原料: 100
粘土 : 100〜1000
ガラス質成分 : 0〜500
施釉された調湿建材は、このようにして得られる成形体に施釉した後焼成することにより、或いは、成形体を素焼きした後施釉し、その後更に焼成することにより製造することができる。
【0020】
本発明で用いる調湿建材は、このような調湿建材本体の表面に施釉した後も、調湿建材本体の調湿性能を高く維持していることが重要であり、好ましくは、施釉後の調湿建材は、施釉前の調湿建材本体の80%以上の調湿性能を有することが望まれる。また、本発明の調湿建材は、8時間サイクルの吸放湿性能が80g/m2以上であることが好ましい。
【0021】
このように、調湿性能を高く維持した上で施釉を行うためには、施釉面積や施釉厚さを制御することが重要であり、調湿建材本体表面への施釉は、下記(1)の条件を満たす必要がある。また、(2)の条件を満たすように行うのが好ましい。施釉はスプレー法、幕掛け、プリントなどで良く、方法は問わない。
【0022】
(1) 釉薬によって生成するガラス層が、調湿建材本体の表面を占める面積領域(以下「施釉面積割合」と称す。)が90%以下。
【0023】
(2) 釉薬によって生成するガラス層の最大厚み(以下、単に「最大厚み」と称す。)が300μm以下。
【0024】
上記施釉面積割合が90%を超えると調湿性能の低下が著しく調湿建材としての調湿性能が損なわれる。しかし、施釉面積割合が10%より少ないと、施釉面が少なすぎて加飾、耐汚れ性の向上効果が十分に得られない。従って、施釉面積割合は10〜90%、特に30〜85%とするのが好ましい。
【0025】
このように、施釉面積割合を90%以下とした場合は、最大厚みには特に制約はないが、好ましくは500μm以下とするのが望ましい。
【0026】
また、最大厚みが300μmを超えると、施釉面積割合が90%を超える場合、調湿性能の低下が大きくなるため、最大厚みは300μm以下とするのが好ましい。しかし、この最大厚みが過度に薄いと施釉による加飾、耐汚れ性の向上効果が十分に得られない。この最大厚みは、施釉面積割合が95〜100%の場合には10〜100μm、90〜95%の場合には20〜200μmとするのが好ましい。
【0027】
このようにガラス層を薄くすると調湿建材本体の全面に施釉した場合でも調湿性能を高く維持できる理由は、薄いガラス層を形成した場合には、素地の欠陥や焼成過程で発生するガスなどにより、調湿建材本体まで貫通した水蒸気透過性の微細なホールがガラス層に生じやすいためではないかと考えられる。
【0028】
上記施釉面積割合及び/又は最大厚みで施釉するには、施釉方法や、施釉に用いる釉薬量、或いは、釉薬の比重等を適宜調整すればよい。
【0029】
例えば、通常のスプレー法等による施釉に際し、単位面積当りの施釉量を少なくすることにより施釉面積割合を90%以下に抑えることができる。また、幕掛け法等による全面施釉においても、単位面積当りの施釉量を少なくすることにより最大厚みを小さくすることができる。
【0030】
この施釉に当り、当然、焼成条件に応じたフリットが必要であるが、ローラーハースキルンによる迅速焼成では、フリットはその軟化点が焼成温度より100〜400℃低く、適度な溶融粘性を持つものを選べばよい。この粘性が低すぎると、調湿効果を発揮する調湿建材本体の微細な気孔を、施釉により形成されるガラスがうめてしまい、調湿性能が大きく損なわれてしまう。
【0031】
従って、調湿性能が損なわれないように、施釉量及び釉薬の溶融粘性(フリットの軟化点)を適宜調整する。
【0032】
その他、全面施釉ではなく、斑点状、ライン状、格子状のように部分的な施釉を行える加飾施釉法を採用する方法もあり、例えば、プリント法では調湿建材本体に付着する釉薬にメッシュにより一定間隔を持たせられるため、施釉面積割合を小さくすることができる。また、遠心法では、他の施釉法の場合より大きな斑点状となって釉薬が付着するため、やはり施釉面積を小さくすることができ、調湿性能の維持に有効であると共に、施釉による模様付けで意匠性も高めることができる。
【0033】
施釉に用いる釉薬は、単に、フリットと水とを混合して得られる比重1.01〜1.90程度の泥漿でも良く、これに更に粘土や顔料を配合して用いても良い。顔料の配合により、意匠性をより一層高めることができる。
【0034】
本発明において用いるのに好適な調湿目地材について次に説明する。
【0035】
この調湿目地材としては、硬化後に調湿性能を有する珪藻土、しっくい、セメント等の水硬性物質を用い、この水硬性物質を水と混合してスラリー状とし、塗り目地法により目地詰めするのが好ましい。水硬性物質と水との割合は、重量比で100:20〜100:40程度が好ましい。
【0036】
なお、塗り目地法とは、タイル目地詰めに古くから採用されている技法であり、スラリー状の目地材料をタイル張り付け面の全面に塗布して塗り伸ばし、目地に充填した後、タイル表面の目地材料を拭き取るようにした目地充填方法である。この塗り目地法を調湿建材の張り付け面に同様に適用することにより、調湿建材同士の間の切欠形状部だけでなく、調湿建材前面に設けられることがある凹条にも同一の目地材をきわめて容易に充填することができる。
【0037】
この場合、前面に凹条が設けられた調湿建材としては、次のようなものが例示される。
【0038】
(1) 方形の調湿建材の表面に、該調湿建材の一辺と略平行に凹条が設けられ、該調湿建材の少なくとも該辺の全長にわたって切欠形状部が設けられている調湿建材。
【0039】
(2) 方形の調湿建材の表面に、該調湿建材の一辺と交叉方向に凹条が設けられ、該調湿建材の全周縁部にわたって切欠形状部が設けられている調湿建材。
【0040】
(3) 非方形の異形調湿建材の表面に凹条が設けられ、該調湿建材の全周縁部にわたって切欠形状部が設けられている調湿建材。
【0041】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0042】
第2図は実施の形態に用いられる調湿建材の斜視図、第1図はこの調湿建材の施工法の説明図であり、(a)図は調湿建材施工面の正面図、第1図(b)は第1図(a)のB−B線に沿う断面図、第1図(c)は第1図(b)のC部分の拡大図、第1図(d)は目地充填後の第1図(c)と同一部分の断面図である。なお、第1図(b),(c)では目地材料の図示が省略されている。また、第1図(a)のハッチを付した部分は1枚の調湿建材の大きさを示している。
【0043】
この調湿建材7は、1枚の平行な辺に切欠形状部8が設けられ、表面にこの辺と平行な凹条9が複数条設けられている。凹条9は調湿建材7の一方の端辺から他方の端辺にまで連続している。なお、この切欠形状部8は斜めの面取り状となっているが、略L形に切り欠いた形状であってもよい。また、凹条9は逆台形断面形状となっているが、U字形、V字形など他の形状であってもよい。
【0044】
この調湿建材7を床や壁の下地4に対し、接着剤3又はモルタルを介して張り付ける。この際、各調湿建材7を突き付ける。即ち、隣接する調湿建材7の側面同士を当接させる。
【0045】
次いで、塗り目地法により目地材2を充填する。これにより、すべての切欠形状部8及び凹条9に目地材2が充填される。切欠形状部8及び凹条9内の目地材2は調湿建材7には全く又は殆ど水分が吸収されない。また、切欠形状部8の目地材2は下地4から離隔しており、該下地4によって吸水されることがない。従って、切欠形状部8の目地と凹条9の目地とは全くの同色となる。しかも、第1図から明らかな通り、調湿建材枚数を増やすことなく多数条の目地が形成され、各目地が同色であることから、きわめて良好な外観仕上りとなる。
【0046】
なお、第3図は逆台形形状の凹条11と、該凹条11を半分にした略L形の切欠形状部12を設けた調湿建材10を用いた実施の形態を示す斜視断面図であり、(a)図は目地充填前を示し、(b)図は目地材2の充填後の状態を示している。この実施の形態においても同様にきわめて良好な外観仕上りを得ることができる。
【0047】
上記実施の形態にあっては、1対の平行辺にのみ切欠形状部を設けているが、1つの辺にのみ切欠形状部を設けてもよく、調湿建材の3辺に切欠形状部を設けてもよい。また、調湿建材の4辺すべてに切欠形状部を設けてもよい。また、凹条数は図示のものに限定されない。凹条は図示のように一方向にのみ設けるのではなく、直交状に交叉して設けられてもよい。
【0048】
上記実施の形態にあっては、方形の調湿建材の表面に調湿建材の一辺と略平行な凹条が設けられた調湿建材を例示したが、第4図及び第5図に示す如く、凹条は調湿建材の一辺と交叉方向に設けられていてもよく、また、調湿建材は非方形の異形調湿建材であってもよい。
【0049】
即ち、第4図(a)は方形の調湿建材20の表面に、調湿建材の4辺とは交叉する方向に、複数の凹条21が不規則的に設けられ、調湿建材20の全周縁部に切欠形状部22が設けられたものであり、このような調湿建材20を用いても、第4図(b)に示す如く、本発明に従って調湿建材20を下地面に張り付けた後、凹条21と切欠形状部22に目地材2を充填することにより、良好な調湿建材施工面を形成することができる。なお、第4図(b)は第4図(a)の調湿建材を用いた調湿建材施工面の正面図であり、ハッチを付した部分は一枚の調湿建材の大きさを示している。
【0050】
また、第5図(a)は非方形の異形調湿建材30の表面に、互いに交叉する複数の凹条31が不規則的に設けられ、調湿建材30の全周縁部に切欠形状部32が設けられたものであり、このような調湿建材30を用いても、第5図(b)に示す如く、本発明に従って調湿建材30を下地面に張り付けた後、凹条31と切欠形状部32に目地材2を充填することにより、良好な調湿建材施工面を形成することができる。なお、第5図(b)は第5図(a)の調湿建材を用いた調湿建材施工面の正面図であり、ハッチを付した部分は一枚の調湿建材の大きさを示している。
【0051】
なお、図示は省略したが、上記調湿建材7,10,20,30のいずれにも、表面を占める面積領域が90%以下となるように釉薬が施されている。
【0052】
【発明の効果】
以上の通り、本発明によると、調湿性能が良好であり、外観仕上りがきわめて良好な調湿建材施工面を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)図は調湿建材施工面の正面図、(b)図は(a)図のB−B線に沿う断面図、(c)図は(b)図のC部分の拡大図、(d)図は目地充填後の(c)図と同一部分の断面図である。
【図2】 実施の形態に係る調湿建材施工面に用いられる調湿建材の斜視図である。
【図3】 別の実施の形態を示す断面斜視図である。
【図4】 (a)図は他の実施の形態に係る調湿建材施工法に用いられる調湿建材の平面図、(b)図は(a)図の調湿建材を用いた調湿建材施工面の正面図である。
【図5】 (a)図は異なる実施の形態に係る調湿建材施工法に用いられる調湿建材の平面図、(b)図は(a)図の調湿建材を用いた調湿建材施工面の正面図である。
【符号の説明】
2 目地材
3 接着剤
4 下地
7 調湿建材
8,12 切欠形状部
9 凹条
Claims (4)
- 室内に臨む面に板状の調湿建材を設置した調湿構造体において、
該調湿構造体の表面を占める面積領域が90%以下となるよう釉薬が施され、該調湿健材の前面に凹条を有し、該凹条及び該調湿建材同士の間に塗り目地法により調湿目地材が充填されていることを特徴とする調湿構造体。 - 請求項1において、前記釉薬を施してなるガラス層の最大厚みが300μm以下であることを特徴とする調湿構造体。
- 請求項1又は2において、調湿建材の前面側の少なくとも一部の辺縁部に切欠形状部が設けられ、該調湿建材同士が突き付けられ、該切欠形状部に該調湿目地材が充填されていることを特徴とする調湿構造体。
- 請求項1ないし3のいずれか1項において、調湿建材同士の間の調湿目地材と該凹条の調湿目地材とが同一のものであることを特徴とする調湿構造体。
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