JP3895865B2 - レーザー超音波法による塑性歪み比を測定する方法及び装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、検査対象物にレーザービームを照射して超音波を発生させ、検査対象物を伝播した超音波を観測した結果から材料の塑性歪み比を求める、レーザー超音波法による塑性歪み比を測定する方法及び装置に関連する。
【0002】
【従来の技術】
冷間圧延鋼板は、プレス加工により自動車や電気製品などの外板に用いられる。このため、引張強さなどの機械的強度の他に、プレス成形性、すなわち破断せずにどの程度成形できるかという特性が重要となる。鋼板が深絞り変形を受けるときの加工性を表す指標として、一般に塑性歪み比(以下「r値」という)が用いられる。r値が高い製品ほど、深絞り性が高く、プレス成形したときに割れ等が生じにくい。このため、r値を特定することによって、製品の品質管理に役立てることができる。r値は、通常、引張試験法や固有振動法等の破壊的方法によって測定されている。
【0003】
しかし、これらの試験法ではサンプルの切り出しが必要なため、測定に手間や時間がかかり、また、製品の一部しか評価できないという問題がある。そこで、サンプルを切り出すことなく、製品のまま迅速にr値の測定を行うことを可能にするために、超音波を用いた非破壊的手法によってr値を測定する技術が開発されている。これについては、新日鐵技報第364号(1997)に掲載されている「冷間圧延鋼板のオンラインr値(塑性歪み比)測定」(赤城他)に詳細に報告されている(以下、この論文を「文献1」という)。
【0004】
前掲論文によるrave 値の測定手法は、共振電磁超音波法を用いている。すなわち、電磁超音波トランスデューサーによって鋼板内部に超音波を発生させ、この超音波が反対側の表面で反射され戻ってきたことを、おなじく電磁超音波トランスデューサーによって検出し、超音波が発生してから戻ってくるまでの時間を計測することによって、超音波の音速を求め、これを用いてr値を算出している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、前掲文献1に記載されているr値の測定技術は、共振電磁超音波法を用いている。このため、電磁超音波トランスデューサーを被検体と数ミリ程度の距離まで近づける必要がある。このような近距離だと、何らかの原因で被検体が振動したり、電磁超音波トランスデューサーから離れたり、逆にこれに近づきすぎて接触すると、適正な検査はできない。したがって、この方法を実際の生産ラインで用いるときには、電磁超音波トランスデューサーと被検体とが、常に非常に接近した一定の距離に維持されるよう、何らかの方策を採る必要がある。
【0006】
本発明は、上記事情に基づいてなされたものであり、装置と被検体とを接近させる必要がなく、かつ、それら距離を一定に保たなくても高い精度で被検体のr値を求めることができるレーザー超音波法による塑性歪み比を測定する方法及び装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するための請求項1記載の発明であるレーザー超音波法による塑性歪み比測定装置は、ファブリ・ペロー干渉計を用いて、少なくとも第一、第二、第三の光周波数において、透過光強度を光周波数で微分した値の絶対値が局所的に最大となる特性を持たせたファブリ・ペロー干渉手段と、被検体に超音波を発生させるためのレーザービームを発する第一のレーザー光源と、それぞれの光周波数が前記第一、第二、第三の光周波数又はその近傍である、前記被検体を伝播した超音波を観測するための第一、第二、第三のレーザービームを発する第二のレーザー光源と、前記第一のレーザービームを被検体表面(これをx−y平面とする)の法線(これをz軸とする)と平行に、前記第二のレーザービームをz−x平面内でz軸からθ1 の入射角で、また前記第三のレーザービームをz−y平面内でz軸からθ2 の入射角で、それぞれ前記被検体表面の同一の位置に入射させる第一の光学手段と、前記第一、第二、第三のレーザービームの前記被検体からの反射光を前記ファブリ・ペロー干渉手段に入射させる第二の光学手段と、前記被検体内を伝播した超音波が前記第一、第二、第三のレーザービームの前記反射光の光周波数をシフトさせたことによる前記ファブリ・ペロー干手段の出射光強度の変化を検出し、その旨の信号を出力する光検出手段と、前記第一のレーザー光源が発するレーザー光を前記被検体に照射してから前記光検出手段によって所定の超音波が観測されるまでの伝播時間を求めるとともに、前記伝播時間から各超音波の音速を算出し、その値を用いて所定の計算式に基づいて前記被検体の塑性歪み比を算出する演算手段と、を具備することを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記ファブリ・ペロー干渉手段は、少なくとも第一、第二、第三の光周波数において透過光強度を光周波数で微分した値の絶対値が局所的に最大となる特性を有する単一のファブリ・ペロー干渉計からなり、前記第二の光学手段は、前記第一、第二、第三のレーザービームの前記被検体からの反射光を単一の経路に統合して前記ファブリ・ペロー干渉計に入射させるものであり、更に、前記ファブリ・ペロー干渉計からの出射光をそれぞれの光周波数のレーザービームに分岐して、それぞれのレーザービームを、その強度変化を検出できるそれぞれの前記光検出手段へ入射させる分岐手段を有することを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記第二のレーザー光源は、単一の光周波数を有する単一のレーザービームを発するレーザーと、前記レーザーから放射されたレーザービームを、を三つに分岐して第一、第二、第三のレーザービームとする第一の分岐手段と、前記第一、第二、第三のレーザービームの光周波数を、それぞれ前記第一、第二、第三の光周波数又はその近傍の光周波数に変換する光周波数変換手段と、を具備することを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記光周波数変換手段は、音響光学素子であることを特徴とする。
請求項4記載の発明であるレーザー超音波法による塑性歪み比測定方法は、第一のレーザー光源が放射したレーザービームを被検体表面に照射して、被検体に超音波を発生させる超音波発生工程と、それぞれの光周波数が前記第一、第二、第三の光周波数又はその近傍である、前記被検体を伝播した超音波を観測するための第一、第二、第三のレーザービームを発生させ、前記第一のレーザービームを被検体表面(これをx−y平面とする)の法線(これをz軸とする)と平行に、前記第二のレーザービームをz−x平面内でz軸からθ1 の入射角で、そして前記第三のレーザービームをz−y平面内でz軸からθ2 の入射角で、それぞれ前記被検体表面の同一の位置に入射させるレーザービーム入射工程と、前記レーザービーム入射工程において被検体に照射された各レーザービームの反射光を、少なくとも前記第一、第二、第三の光周波数において、透過光強度を光周波数で微分した値の絶対値が局所的に最大となる特性を有するファブリ・ペロー干渉手段に入射させるファブリ・ペロー干渉手段入射工程と、前記ファブリ・ペロー干渉手段から出力されたレーザービームに基づいて、前記被検体内を伝播した超音波が前記第一、第二、第三のレーザービームの反射光の光周波数をシフトさせたことによる前記ファブリ・ペロー干渉手段の出射光強度の変化を検出し、その旨の信号を出力する光検出工程と、前記第一のレーザー光源を前記被検体に照射してから前記光検出手段によって所定の超音波が観測されるまでの伝播時間を測定する超音波伝播時間測定工程と、前記伝播時間から各超音波の音速を算出し、その値を用い所定の計算式に基づいて前記被検体の塑性歪み比を算出する演算工程と、を具備することを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下に図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本発明に係るレーザー超音波装置の一実施形態の構成を示す図である。図1において、超音波発生用レーザー10は、r値を測定しようとする鋼材1の内部に超音波を発生させるためのレーザービームを放射するレーザー光源であり、超音波観測用レーザー光源11は、被検体1を伝播する超音波を観測するためのレーザービームを放射するレーザー光源である。超音波発生用レーザー10としては、例えば、Nd:YAGレーザーを用い、超音波観測用レーザー11としては、例えば、周波数が安定なHe−Neレーザーを用いる。
【0012】
超音波発生用レーザー10から放射されたレーザービームは、ミラー12、ハーフミラー13,14,15を経て被検体1の表面上に照射される。被検体1にレーザービームが照射されると、その部分には熱的応力又は蒸発反力によって超音波が発生する。この超音波には、被検体の内部に伝播してゆくものと、レーザービームを照射した点を中心に被検体の表面を伝播してゆくものがあるが、本実施形態では、被検体の表面に垂直な方向(これをz軸方向とする。図3参照。)に伝播する超音波だけを考える。
【0013】
一方、超音波観測用レーザー11から放射されたレーザービーム(光周波数をfとする)は、二つの偏光ビームスプリッタ(PBS)16,17によって三つのレーザービームに分けられ、それぞれのレーザービームは対応する音響光学素子18,19,20に導かれる。
音響光学素子18,19,20は音響光学効果を利用した素子であり、ここでは音響光学周波数シフタ(Acousto−Optic Frequency Shifter:AOFS)として作用する。すなわち、音響光学素子は、外部の発振器等から供給される信号によって内部に設けられた媒体が超音波振動を行い、その弾性歪みや圧力が場所によって変化する。これに起因して、媒体には超音波の波長を周期とする屈折率変動が生じ、この変動領域に入射した光に回折を生じさせる。このとき、回折した光は超音波によるドップラーシフトを受け、一次回折光の光周波数は、入射光の光周波数から超音波の周波数分だけシフトした値となる。すなわち、入射光の光周波数をνi 、一次回折光の光周波数をνd 、超音波の周波数をfa とすると、
νd =νi ±fa
となる。ここで、±の符号は、回折される方向によって決まる。
【0014】
本実施形態の説明では、超音波観測用レーザー光源11から放射される周波数fのレーザービームを、音響光学素子18,19,20によってf0 ,f1 ,f2 の光周波数にシフトさせ、この周波数シフトされたレーザービームを、超音波の観測に用いる。超音波の観測は、これらのレーザービームが被検体表面で反射されるときに被検体表面の超音波振動によってドップラーシフトを受け、光周波数がそれぞれf0 ,f1 ,f2 を中心周波数として僅かに変位するのを、ファブリ・ペロー干渉計で捉えることによってなされる。
【0015】
音響光学素子18,19,20によって回折され、周波数シフトを受けた超音波観測用のレーザービームは、適当な光学要素によって被検体1に照射される。これらのレーザービームが照射される被検体1上の位置は、超音波発生用レーザー10から放射されたレーザービームが照射された位置と同じである。但し、被検体1の表面に対する入射角は、それぞれ異なる。この入射角をどのようにするかにいては後述する。被検体1に照射された超音波観測用のレーザービームのうち、被検体1の表面で反射されたものは、ハーフミラー5およびミラー21で反射されて、ファブリ・ペロー干渉計30に入射する。
【0016】
図2は、ファブリ・ペロー干渉計30の特性を示した図であり、横軸に入射光の光周波数、縦軸に出射光強度(透過光強度)である。同図に示すように、ファブリ・ペロー干渉計は、ある光周波数において出射光強度がピークとなり、その前後で大きく低下する。このような出射光強度のピークは、略一定の光周波数間隔で現れるが、図2では二つのピークだけを示している。
【0017】
前述のように、光周波数f0 ,f1 ,f2 は、それぞれ音響光学素子18,19,20に外部から供給される信号の周波数に依存する。そこで、本実施形態では、三つの光周波数f0 ,f1 ,f2 が、ファブリ・ペロー干渉計30の透過光強度(縦軸)を光周波数(横軸)で微分した値が局所的に最大又は最小となる光周波数、言い換えると、図2の特性曲線の傾きが最大となる光周波数、もしくはこれらの近傍の光周波数となるように、音響光学素子18,19,20に供給する信号の周波数を調整する。これらの光周波数は、図2で透過光強度がピークとなる光周波数の前後に位置している。このように光周波数f0 ,f1 、f2 を、出射光強度の変化が最も大きくなる値に選ぶことによって、被検体表面の超音波振動によって超音波観測用のレーザービームが受ける僅かな光周波数の変位も、ファブリ・ペロー干渉計の出射光強度の変化として、感度よく捉えることができる。
【0018】
なお、本明細書では、透過光強度を光周波数で微分した値が局所的に最大又は最小となる光周波数を「最大変化周波数」という。図2の場合は、連続する三つの最大変化周波数に対応する光周波数をそれぞれf0 ,f1 ,f2 としているが、実際にはこれより多くの最大変化周波数があり、したがって、光周波数f0 ,f1 ,f2 は、同じ光周波数とならないことを条件に、任意の最大変化周波数とすることができる。なお、上記で「局所的」という言葉を用いたのは、前述のように、出射光強度のピークが略一定の光周波数間隔で現れ、そのそれぞれのピークの前後の光周波数に最大変化周波数が存在することを考慮したものである。
【0019】
ファブリ・ペロー干渉計30から出射したレーザービームは、干渉フィルタ31,32に入射する。これらの干渉フィルタは、ある範囲の光周波数の入射光は反射し、別のある範囲の入射光は透過する性質を有するもので、かかる特性を利用して、光周波数に応じてレーザービームの経路を分けることができる。これにより、光周波数f0 のレーザービームは光検出器40で、光周波数f1 のレーザービームは光検出器41で、光周波数f2 のレーザービームは光検出器42でそれぞれ検出されるようにする。光検出器40,41,42は、入射したレーザービームを、その強度に対応した電気信号に変換して出力する。
【0020】
次に、光周波数f0 ,f1 ,f2 の各超音波観測用レーザービームをどのような入射角で被検体1に照射するかについて説明する。図3は、被検体1上で、各レーザービームが照射される点の近傍を拡大して示した図であり、被検体1の表面にx軸及びy軸を図のようにとり、z軸を被検体1と垂直な方向にとる。図3に示すように、光周波数f0 のレーザービームは、被検体1の表面に垂直に(z軸と平行に)入射させ、光周波数f1 のレーザービームは、x−z平面内でx軸からθ1 の角度で入射させ、光周波数f2 のレーザービームは、y−z平面内でy軸からθ2 の角度で入射させる。各レーザービームを照射する位置は、前述のように、超音波発生用のレーザービームを照射する点と同じであり、この点をOとする。
【0021】
図3に示すような態様で各超音波観測用のレーザービームを照射すると、被検体1の表面に垂直に照射するレーザービームf0 (以下、同様に、光周波数を表すf0 ,f1 ,f2 を用いて各レーザービームを区別する)は、被検体の表面に垂直に振動する超音波、すなわち縦波の超音波によってドップラーシフトを受ける。x軸からθ1 の角度で入射するレーザービーム(f1 )は、被検体の表面に垂直に振動する縦波の超音波と、被検体の表面がx軸方向に変位する横波の超音波によってドップラーシフトを受ける。そして、y軸からθ2 の角度で入射するレーザービーム(f2 )は、被検体の表面に垂直に変位する縦波の超音波と、被検体の表面がy軸方向に変位する横波の超音波によってドップラーシフトを受ける。
【0022】
レーザービームf1 ,f2 のように、照射方向を被検体の法線方向から所定角度だけ傾けた超音波観測用レーザービームを用いると、被検体の表面が面と平行な方向に振動する横波を捉えることができる。このようなレーザービームによる横波の観測については、たとえば中村・上羽「振動の非接触計測手法」(超音波TECHNO ’97年5月)に詳しく説明されている(以下、この論文を「文献2」という)。
【0023】
ところで、同じz軸方向に伝播する超音波でも、被検体の表面に垂直に振動する縦波の音速VZZ、波面がx−z面内にある(被検体の表面がx軸方向に変位する)横波の音速VZX、波面がy−z面内にある(被検体の表面がy軸方向に変位する)横波の音速VZYは、一般に同じではない。このため、被検体1の点Oに超音波発生用レーザービームを照射した瞬間に発生したこれらの超音波が、被検体の裏面で反射して再び点Oに戻ってくるまでの時間は、超音波の種類によって異なる。更に、縦波の超音波は、被検体1の裏面で反射するときに、その一部は横波となる。
【0024】
したがって、レーザービームf0 は往路・復路とも縦波の超音波だけによってドップラーシフトを受ける。レーザービームf1 は、往路・復路とも縦波の超音波と、往路が縦波で復路が横波(波面がx−z面内にある横波)の超音波と、往路・復路とも波面がx−z面内にある横波の超音波によってドップラーシフトを受ける。そして、レーザービームf2 は、往路・復路とも縦波の超音波と、往路が縦波で復路が横波(波面がy−z面内にある横波)の超音波と、往路・復路とも波面がy−z面内にある横波の超音波によってドップラーシフトを受ける。
【0025】
ところで、周知のように、レーザービームf0 のドップラーシフトΔf0 は、
Δf0 =2Vf0 /c (1)
と表される。ここで、Vは、被検体1の表面の変位速度であり、cは光速である。また、前記文献2によれば、レーザービームf1 及びレーザービームf2 のドップラーシフトΔf1 ,Δf2 は、それぞれ
Δf1 ∝V sinθ1 − Ux cosθ1 (2)
Δf2 ∝V sinθ2 − Uy cosθ2 (3)
と表される。ここで、Ux は、被検体1の表面のx軸方向における変位の速度であり、Uy は、被検体1の表面のy軸方向における変位の速度である。
【0026】
図4(a)(b)(c)は、それぞれ図1に示す光検出器40,41,42の出力波形の概略を示した図であり、横軸は、被検体表面に超音波発生用レーザービームを照射してからの時間を表している。(a)で光検出器40の出力が時刻t0ll で大きく変化しているのは、往路・復路とも縦波の超音波が観測されたことを示している。(b)で、光検出器41の出力が時刻t1ll ,t1tl ,t1tt で大きく変化しているのは、それぞれ、往路・復路とも縦波の超音波、往路が縦波で復路が横波(波面がx−z面内にある横波)の超音波、往路・復路とも波面がx−z面内にある横波の超音波が観測されたことを示している。更に、(c)で、光検出器42の出力が時刻t2ll ,t2tl ,t2tt で大きく変化しているのは、それぞれ、往路・復路とも縦波の超音波、往路が縦波で復路が横波(波面がy−z面内にある横波)の超音波、往路・復路とも波面がy−z面内にある横波の超音波が観測されたことを示している。
【0027】
図4(a)(b)(c)において、時刻t0ll ,t1ll ,t2ll は、すべて同じである。これは、これらの超音波がすべて縦波のみからなるものだからである。但し、それぞれの時刻における各光検出器40,41,42の出力波形の変化の大きさは異なる。一方、t1tl とt2tl 、t1tt とt2tt については、音速に異方性があることから、一般には異なる。
【0028】
したがって、例えば、t0ll ,t1tt ,t2tt を測定することによって(被検体1の厚さdは予め測定しておく)、縦波の音速VZZ、波面がx−z面内にある(被検体の表面がx軸方向に変位する)横波の音速VZX、波面がy−z面内にある(被検体の表面がy軸方向に変位する)横波の音速VZYを算出することができる。
【0029】
このように、VZZ,VZX,VZYが求まると、これらから、r値を求めることができる。これについては、上記文献1に詳しく記載されている。ここで、文献1の記載に基づいて、VZZ,VZX,VZYからr値が求められることを簡単に説明する。
焼鈍された冷延鋼板は、立方晶をなす鉄の単結晶の集合体と考えられるが、材料軸に対する各結晶方位の分布には偏りがあり、いわゆる集合組織を形成している。この集合組織のでき具合は、その塑性的性質に大きな影響を与え、r値もそれによって強く支配される。
【0030】
一方、この集合組織は、鋼板の弾性的性質にも深くかかわっている。集合組織を決定する各結晶の優先方位の度合いは、材料軸に対して特性の方位を有する結晶方位の確率を与える結晶方位分布係数によって表される。冷延鋼板のように斜方晶系の対称性を持つ多結晶体試料の場合、3個の低次の結晶方位分布係数W400 ,W420 W440 が、重要な意味を持ち、この三つの値、及び単結晶の3個の弾性率C0 11 ,C0 12 ,C0 44 は物理定数と考えられるため、結局、W400 ,W420 W440 が鋼板の弾性的性質を決定し、ヤング率もそれにより決定される。
【0031】
集合組織はまた、鋼板を伝播する超音波にも影響を与え、集合組織による異方性に従い、超音波も速度異方性を示す。
そこで、図5に示すような5種類の超音波、すなわち、板厚方向(Z方向)に伝播する縦波UZZ、板厚方向に伝播し圧延方向(X方向)に偏波する横波UZX、板厚方向に伝播し幅方向(Y方向)に偏波する横波UZY、および二方向に伝播するSH0 板波を用いて、前3種類の超音波の厚み共振周波数の比K1 ,K2 や、後2種類の超音波の音速の比K3 から、W400 ,W420 W440 が求められることが、以下のように明らかにされる。すなわち、
【0032】
【数1】
【0033】
ここで、m,nは任意の次数であり、
fZZm は、縦波超音波UZZのm次厚み共振周波数
fZYn は、幅方向に偏波する横波超音波UZYのn次厚み共振周波数
fZXn は、圧延方向に偏波する横波超音波UZXのn次厚み共振周波数
VSH0 (0°),VSH0 (45°)は、それぞれ圧延方向、圧延方向と45°方向へ伝播するSH0 板波の音速である。
【0034】
このとき、
【0035】
【数2】
【0036】
として、
【0037】
【数3】
【0038】
と表される。ただし、C0 =C0 11 −C0 12 −2C0 44 である。
前述のように、冷延鋼板の9個の弾性率Cij、更に圧延面内θ方向のヤング率E(θ)は、上記のW400 ,W420 W440 とC0 11 ,C0 12 ,C0 44 で表すことができる。したがって、超音波測定によって得られる変数KP ,KM ,K3 及び鉄単結晶3個からヤング率E(θ)を得られることになる。
ところで、超音波測定のうち、2方向に伝播するSH0 板波の音速比を示すK3 は、各方向のヤング率Eave =[E(0°)+2E(45°)+E(90°)]/4に対して、あまり影響を与えない。
【0039】
多数の冷延鋼板を測定した結果得られたK1 ,K2 ,K3 の範囲で、K3 を一定値とした場合の誤差を評価したところ、Eave の変化は最大で0.05GPa程度であり、非常に小さいことが分かった。したがって、
Eave =Func3 (KP ,KM ,C0 11 ,C0 12 ,C0 44 ) (6)
となる。
【0040】
ところで、圧延面内平均r値(rave =[r(0°)+2r(45°)+r(90°)]/4)と面内平均ヤング率Eave との間には強い相関があることが知られている(これについては、Stickels.C.A.,Mould.P.R.:Metall.Trans.1,1303(1970)を参照)。したがって、上記のようにヤング率Eave が求まれば、実験式、例えばrave =aEave 2 +bEave +c(a,b,cは適当な係数)のような二次式に基づいてrave 値を得ることができる。以上から、図5の5種類の超音波のうち、K3 にかかわるSH0 板波の音速測定は省略して、板圧方向に伝播する3種類の超音波の厚み共振周波数測定だけでヤング率Eave を得ることができ、更にrave 値をえることができることが分かる。
【0041】
ところで、各超音波の音速VZZ,VZX,VZYと、その周波数との間には、
fZZm =(m/2d)VZZ (7)
fZYn =(n/2d)VZY (8)
fZXn =(n/2d)VZX (9)
という関係がある。ここで、dは被検体の厚さであり、m,nは、共振周波数の次数である。この(7)〜(9)式を(3)式に代入することによって、K1 ,K2 が求められ、これを(4)式に代入することによってKp ,KM が求められ、これを(6)式に代入することによってヤング率Eave が求められ、更に、このヤング率Eave から前述のようにrave 値が算出される。したがって、図1に示した本実施形態の構成で各超音波の音速VZZ,VZX,VZYを求めると、あとは上に説明した手順で計算を行うことによって、rave 値を算出することができる。
【0042】
このように、本実施形態では、レーザー超音波法を用いるため、共振電磁超音波法を用いる場合のように、装置(共振電磁超音波法の場合は電磁超音波トランスデューサー)を被検体に接近させる必要はなく、例えば被検体から数メートル程度離れたところからレーザーを照射することもできる。また、この距離が変動しても特定結果には影響しない。したがって、共振電磁超音波法に比べて、実際の生産ラインでの操作性が高まる。
【0043】
また、本実施形態では、1台の超音波観測用レーザー光源11から放射されるレーザービームを三つに分け、更に、それぞれのレーザービームの光周波数fを、音響光学素子18,19,20によって、ドップラーシフトの観測に最適の周波数f0 ,f1 ,f2 にシフトさせ、このシフト後の異なる三つの光周波数f0 ,f1 ,f2 のレーザービームを用いて超音波を、別々の光検出器を用いて観測している。このことにより、たとえ、三つの超音波が観測された時刻が非常に接近している場合であっても、各超音波における伝播時間を精度よく求めることができる。
【0044】
更に、本実施形態では、三つの超音波観測用レーザービームを、単一のレーザー光源11から放射されるレーザービームを分岐することによって得ている。更に、被検体1で反射されたレーザービームを単一のファブリ・ペロー干渉計30を用いて検出している。このように、相対的に高コストのレーザー光源11やファブリ・ペロー干渉計30をそれぞれ一つで済ますことができるので、コスト的に有利である。
【0045】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々の変更が可能である。
【0046】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、電磁超音波トランスデューサーを被検体と非常に接近させなければならない共振電磁超音波法とは異なり、装置を被検体から十分に遠ざけた状態で被検体内部の様子を非破壊で調べることができるレーザー超音波法を用いて、被検体における縦波及び二つの横波の音速を測定し、これらから所定の計算式から被検体の塑性歪み比を算出することができるので、実際の生産ラインにおける塑性歪み比の測定が容易になるレーザー超音波法による塑性歪み比を測定する方法及び装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るレーザー超音波装置の一実施形態の構成を示す図である。
【図2】横軸を入射光の光周波数、縦軸を出射光強度(透過光強度)としたファブリ・ペロー干渉計の特性図である。
【図3】被検体上で、各レーザービームが照射される点の近傍を拡大して示した図である。
【図4】三つの光検出器の出力波形の概略を示した図である。
【図5】被検体中に生じる各種の超音波を概略的に示した図である。
【符号の説明】
1 被検体
10 超音波発生用レーザー
11 超音波観測用レーザー
12,21 ミラー
13,14,15 ハーフミラー
16,17 偏光ビームスプリッタ(PBS)
18,19,20 音響光学素子
30 ファブリ・ペロー干渉計
31,32 干渉フィルタ
40,41,42 光検出器
Claims (5)
- ファブリ・ペロー干渉計を用いて、少なくとも第一、第二、第三の光周波数において、透過光強度を光周波数で微分した値の絶対値が局所的に最大となる特性を持たせたファブリ・ペロー干渉手段と、
被検体に超音波を発生させるためのレーザービームを発する第一のレーザー光源と、
それぞれの光周波数が前記第一、第二、第三の光周波数又はその近傍である、前記被検体を伝播した超音波を観測するための第一、第二、第三のレーザービームを発する第二のレーザー光源と、
前記第一のレーザービームを被検体表面(これをx−y平面とする)の法線(これをz軸とする)と平行に、前記第二のレーザービームをz−x平面内でz軸からθ1 の入射角で、また前記第三のレーザービームをz−y平面内でz軸からθ2 の入射角で、それぞれ前記被検体表面の同一の位置に入射させる第一の光学手段と、
前記第一、第二、第三のレーザービームの前記被検体からの反射光を前記ファブリ・ペロー干渉手段に入射させる第二の光学手段と、
前記被検体内を伝播した超音波が前記第一、第二、第三のレーザービームの前記反射光の光周波数をシフトさせたことによる前記ファブリ・ペロー干手段の出射光強度の変化を検出し、その旨の信号を出力する光検出手段と、
前記第一のレーザー光源が発するレーザー光を前記被検体に照射してから前記光検出手段によって所定の超音波が観測されるまでの伝播時間を求めるとともに、前記伝播時間から各超音波の音速を算出し、その値を用いて所定の計算式に基づいて前記被検体の塑性歪み比を算出する演算手段と、
を具備することを特徴とするレーザー超音波法による塑性歪み比測定装置。 - 前記ファブリ・ペロー干渉手段は、少なくとも第一、第二、第三の光周波数において透過光強度を光周波数で微分した値の絶対値が局所的に最大となる特性を有する単一のファブリ・ペロー干渉計からなり、
前記第二の光学手段は、前記第一、第二、第三のレーザービームの前記被検体からの反射光を単一の経路に統合して前記ファブリ・ペロー干渉計に入射させるものであり、
更に、前記ファブリ・ペロー干渉計からの出射光をそれぞれの光周波数のレーザービームに分岐して、それぞれのレーザービームを、その強度変化を検出できるそれぞれの前記光検出手段へ入射させる分岐手段を有することを特徴とする請求項1記載のレーザー超音波法による塑性歪み比測定装置。 - 前記第二のレーザー光源は、
単一の光周波数を有する単一のレーザービームを発するレーザーと、
前記レーザーから放射されたレーザービームを、を三つに分岐して第一、第二、第三のレーザービームとする第一の分岐手段と、
前記第一、第二、第三のレーザービームの光周波数を、それぞれ前記第一、第二、第三の光周波数又はその近傍の光周波数に変換する光周波数変換手段と、
を具備することを特徴とする請求項1又は2記載のレーザー超音波法による塑性歪み比測定装置。 - 前記光周波数変換手段は、音響光学素子であることを特徴とする請求項3記載のレーザー超音波法による塑性歪み比測定装置。
- 第一のレーザー光源が放射したレーザービームを被検体表面に照射して、被検体に超音波を発生させる超音波発生工程と、
それぞれの光周波数が前記第一、第二、第三の光周波数又はその近傍である、前記被検体を伝播した超音波を観測するための第一、第二、第三のレーザービームを発生させ、前記第一のレーザービームを被検体表面(これをx−y平面とする)の法線(これをz軸とする)と平行に、前記第二のレーザービームをz−x平面内でz軸からθ1 の入射角で、そして前記第三のレーザービームをz−y平面内でz軸からθ2 の入射角で、それぞれ前記被検体表面の同一の位置に入射させるレーザービーム入射工程と、
前記レーザービーム入射工程において被検体に照射された各レーザービームの反射光を、少なくとも前記第一、第二、第三の光周波数において、透過光強度を光周波数で微分した値の絶対値が局所的に最大となる特性を有するファブリ・ペロー干渉手段に入射させるファブリ・ペロー干渉手段入射工程と、
前記ファブリ・ペロー干渉手段から出力されたレーザービームに基づいて、前記被検体内を伝播した超音波が前記第一、第二、第三のレーザービームの反射光の光周波数をシフトさせたことによる前記ファブリ・ペロー干渉手段の出射光強度の変化を検出し、その旨の信号を出力する光検出工程と、
前記第一のレーザー光源を前記被検体に照射してから前記光検出手段によって所定の超音波が観測されるまでの伝播時間を測定する超音波伝播時間測定工程と、
前記伝播時間から各超音波の音速を算出し、その値を用い所定の計算式に基づいて前記被検体の塑性歪み比を算出する演算工程と、
を具備することを特徴とするレーザー超音波法による塑性歪み比測定方法。
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