JP3766032B2 - 試料の物理的性質の測定方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体ウェーハや半導体集積回路のオンラインでの測定を可能にするものである。特に、基板上に薄膜が多層に積層形成された試料の各層の厚み解析に使用できるものである。また、本発明は各層の密度、弾性定数、音響的減衰を評価することができる。さらに、本発明はこれらに影響を与える他の物理量、例えばイオン注入量、内部応力、表面粗さ、界面粗さ、表面吸着物質、粘着力、粒径、空隙率、微細構造、湿度の影響などを評価することができる。本発明は試料の物性を非破壊および非接触的に測定でき、このことにより例えば半導体ウェーハ上に単層又は多層の薄膜が形成された製品に対してオンライン状態で使用される。
【0002】
本発明には他にも多くの産業上の利用分野がある。対象物が薄膜構造を持ち、その物理的な性質を微小な領域について測定する必要があるあらゆる場面で本発明を用いることができる。例えば、最終製品の性能を決定づけるような特定の部分の機械的または弾性的性質の測定に本発明が用いられる。
【0003】
なお、本件の本文(数式を除く)において「 # 」と記した場合には、太字であり、ベクトル量を意味している。
【0004】
【従来技術と問題点】
表面、表面近傍または界面の物理的性質を音響波を用いて非破壊的に測定する方法は、広範な分野で提案されている。非接触で高い空間分解能を持つ測定方法としては、特に光を音響波の励起と検出に用いる方法が注目されている。
【0005】
例えば、ミクロンからサブミクロンの薄膜の厚み測定のための音響パルス−エコー法がJ.Taucらによって提案されている(米国特許第4710030号、1987年12月1日) 。これは超短時間幅のポンプ光パルスを用いて試料中に短波長の音響波を励起し、遅延されたプローブ光パルスの試料からの反射強度の変化を観測することにより応力による試料の光学定数の変化を検出する。しかし、ここで用いられる音響パルス−エコー法で測定されるのは薄膜中の音響波伝搬時間のみであり、薄膜の膜厚を測定するためにはその薄膜の弾性係数および密度によって決定される音速が既知でなければならない。すなわち、この方法は別途音速の較正を行わなければならないという欠点を持つ。
【0006】
K.A.Nelsonらによって提案された光パルスを用いて薄膜試料における表面音響波の励起と検出を行う類似の方法(米国特許第5633711号、1997年5月27日) では、上記の方法の欠点を避けることが可能である。すなわち、この方法では試料の機械的・弾性的性質を測定する。この方法は光グレーティング法と呼ばれる手法を利用する。この手法では、2本のポンプ(励起)光ビームが異なった方向から試料上の同一点に集光され、その一部が試料に吸収される。このポンプ光ビームの集光点と同じ点に入射されたプローブ光ビームは回折を受ける。この回折光ビームの位相と強度は試料中の音響波に対して感度がある。2本のポンプ光ビームによって試料上に形成されたグレーティング状の干渉縞により、主としてグレーティングの縞方向に垂直な方向に伝搬する表面音響波を試料上に生成する。音響波の波長はグレーティングの縞間隔によって決定される。そこで、ポンプ光の角度を変化させてグレーティングの縞間隔を変化させることにより、グレーティングの縞方向に垂直な方向に伝搬する表面音響波の分散関係を実験的に求めることができる。表面音響波の伝搬は密度の変化、弾性定数の変化、膜厚の変化などの影響を受けるため、この方法により、試料の膜厚と弾性定数を同時に測定することができる。
【0007】
しかし、この方法を用いて試料が顕著な異方性を持つ場合に試料の全ての弾性定数を求めるためには、ポンプ光ビームの角度を変化させることに加えて、形成されるグレーティングの縞の方向を試料に垂直な軸の周りで回転させなければならない。これは音響波生成のための測定系の構成を測定中に変えなければならないことを意味するが、このような変更は測定の速度を低下させる。さらに、音響波の生成および伝搬に影響を与える何らかの欠陥や不均一性が試料の音響波生成の領域にあった場合、この測定方法は検出不可能な測定誤差を生じさせる。この検出不可能性はこの方法が試料中の観察領域の不均一性の情報を与える音響的揺動の画像を観測しないためである。さらに、この方法では音響波生成のためにポンプ光ビームを試料に斜めに入射しなければならない。しかし、測定の空間分解能を高めるためには光スポット径を小さくする必要があり、そのために垂直入射の光学系が使用されることが望ましい。垂直入射光学系ではスポット形状を真円に近づけることが容易であり、また単一の顕微鏡対物レンズを全ての光ビームの集光に用いることができるためである。さらに光グレーティング法は必然的に複数本の光干渉縞を試料上に形成する必要があり、光の回折限界の小さなスポットを用いて横空間分解能を高めることが原理的に不可能である。
【0008】
試料の機械的または弾性的性質を測定する別の光学的方法がA.NeubrandとP.Hessによって提案されている〔J.Appl.Phys.,vol.71,pp.227−238(1992)〕。この方法では試料表面の線状のポンプ光パルス照射領域が音響波源となる。この音響波源から空間的に離れた数点において、ポンプ光パルスから遅延したプローブ光パルスと光干渉計を用いて音響波による表面変位を遅延時間の関数として測定する。線波源に対して垂直方向に伝搬する表面音響波の分散関係は実験結果の1次元フーリエ解析により求められる。この方法により、例えば既知の密度と弾性定数を持つ基板上の薄膜の膜厚、密度、弾性定数が得られる。しかし、試料表面が異方性を持つ場合にこの方法を用いて分散関係を得るためには、線波源の方向を試料表面に垂直な軸を中心に回転させなければならず不便である。さらにこの方法は観察領域における試料の均一性の指標となる音響的揺動の画像を観測しない。
【0009】
K.L.Telschowらは、薄板の一点に接触させた圧電トランスデューサーを一定周波数で連続的に振動させることにより、点波源より薄板を伝搬する音響波(Lamb波) を励起し、その2次元画像を測定して音響波の分散関係を得た〔J.Acoust.Soc.Am.,vol.106,pp.2578−2587(1999)〕。この方法では、音響波の検出とその2次元画像化にホログラフィの技術が使用された。与えられた周波数でのLamb波の位相速度は、2次元画像のフーリエ解析により得られた。また、トランスデューサーの振動数を走査することにより、音響波の分散関係が得られる。しかしこの方法は音響波の励起にトランスデューサーを用いており、従って非接触測定には不向きである。
【0010】
光学系を用いない音響波伝搬イメージ測定法も存在する。R.E.Vinesらは点収束型トランスデューサーを用いて音響波伝搬の角度−時間イメージを測定した〔Z.Phys.B,vol.98,pp.355−371(1995)〕。この方法は試料の機械的・弾性的性質を測定することができる。しかしこの方法では試料を液体中に沈めることおよび測定系を試料に接触させることが必要であり、非接触測定には不向きである。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、従来の各種の試料の物理的性質の測定装置は、それぞれ問題点を有している。
【0012】
それに対して、本発明は、典型的な値として0.01psから1000ns程度の時間幅を持ち、10nmから100μmの波長範囲にあるポンプ光パルスを用いて音響波を励起し、10nmから100μmの波長範囲にあり0.01psから1000ns程度の時間幅を持つプローブ光パルスまたは同じ波長範囲にある継続的なプローブ光によって音響波を検出することにより、0.1nmから10mm程度の小さな空間領域における試料の物理的性質の非接触測定を可能にする。さらにこれにより音響波伝搬に影響を与える種々の物理的性質を測定することができる。
【0013】
測定の横空間分解能を高める目的のためには、ポンプ光を円形のスポットに集光することにより小さな局所化された音響波源を形成することが望ましい。この音響波源の形状は一般に試料の様々な面内方向に伝搬する音響的揺動を生成し、特に試料が異方性固体の場合にはフォノン収束効果による複雑な音響場を形成する。この音響的揺動の伝搬状況を把握し、試料が測定に必要な品質を持っているかを判断するために、試料の表面または内部の適切な範囲に渡って音響的揺動の画像を取得できることが望ましい。例えば音響的揺動の画像によって、試料の物理的性質を測定するために必要な、試料の弾性的および機械的性質の水平方向における均一性が試験される。この試験がなされなければ、試料の物理的性質が例えば試料の均一性や欠陥の有無などについての誤った仮定のもとに導き出されてしまう危険性がある。以上のことから、音響波、特に面内方向に伝搬しているそれによる揺動を時間の関数として適当な空間範囲における2次元画像として観測することは有益である。集光されたプローブ光のスポットを試料の表面または試料の内部において走査することによって、あるいはプローブ光を用いる別の画像化方法によって、ポンプ光パルスが試料に到着した後の異なる時刻において音響的揺動の画像を取得することができる。
【0014】
本発明は、このような音響的揺動の画像をもとに試料の物理的性質を取得する方法に関するものである。
【0015】
本発明によれば、試料に接触することなしに時間の関数として取得された音響的揺動の2次元画像を用いて、試料の機械的あるいは弾性的性質のような試料の物理的性質を取得することができる。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、短時間幅の光パルス照射に対する試料の音響的反応を光学的に検出することにより改善された、試料の物理的性質の測定方法を提供することである。
【0017】
本発明の他の目的は、試料への機械的接触を行わず、非破壊的に用いることができる試料の物理的性質の測定方法を提供することである。
【0018】
本発明の他の目的は、試料の比較的小さな大きさの領域について、試料の物理的性質の測定方法を提供することである。
【0019】
本発明の他の目的は、試料の音響的揺動が試料の適当な領域を伝搬する画像を取得する方法を提供することである。その場合、画像の横空間分解能は円形の光スポットの回折限界のみによって制限され、典型的には横空間分解能が1μmまたはそれ以下である。
【0020】
本発明の他の目的は、高い横空間分解能を得るために試料に垂直に入射するプローブ光ビームを用いて、短時間幅の光パルス照射による試料の反応を光学的に検出することによる試料の物理的性質の測定方法を提供することである。
【0021】
本発明の他の目的は、試料の表面または内部の与えられた領域における試料の物理的性質をマップする測定方法を提供することである。
【0022】
本発明の他の目的は、試料上において円形の光スポットの回折限界のみで制限される1μmまたはそれ以下の領域に局在化した光パルスによる、音響波の励起のみを用いた試料の物理的性質の測定方法を提供することである。
【0023】
本発明の他の目的は、短時間幅の光パルスによって試料上の局在領域に生成された音響波を用いた試料の物理的性質の測定方法を提供するものである。その場合、測定中に音響波を生成するための領域や形態を変化させる必要は無い。
【0024】
本発明の他の目的は、試料上の単一の局在領域のみを光パルスで励起することにより異方性試料の膜厚、弾性定数、密度を取得できる試料の物理的性質の測定手段を提供するものである。その場合、励起される局在領域の大きさは円形の光スポットの回折限界のみによって制限され、典型的には横空間分解能が1μmまたはそれ以下である。
【0025】
本発明の他の目的は、試料の局所的な領域周辺における音速を測定することにより、試料の膜厚を局所的に測定する音響パルス−エコー測定を較正する方法を提供するものである。音響パルス−エコー測定において、励起される局在領域の大きさは円形の光スポットの回折限界のみによって制限され、典型的には横空間分解能が1μmまたはそれ以下である。
【0026】
本発明の他の目的は、試料の物理的性質を測定すると同時に、測定部位付近を伝搬する音響的揺動の画像を取得し、測定部位付近の試料が均質で欠陥を含まないことを確認できる方法を提供するものである。
【0027】
本発明の他の目的は、バルク試料の物理的性質の測定方法を提供することである。
【0028】
本発明の他の目的は、薄膜試料の物理的性質の測定方法を提供することである。
【0029】
本発明の他の目的は、単層または複数の層からなる試料の物理的性質の測定方法を提供することである。
【0030】
本発明の他の目的は、膜または板状試料の物理的性質の測定方法を提供することである。
【0031】
本発明の他の目的は、不透明部分、透明部分、半透明部分またはそれらの組合わせからなる試料の物理的性質の測定方法を提供することである。
【0032】
本発明の他の目的は、等方性または異方性試料の物理的性質の測定方法を提供することである。
【0033】
本発明は、短時間幅の光パルスの照射に対する試料の比較的小さな領域の音響的反応において最大限の情報を観測するために必要な、真に効果的な機器を実現するものである。また同時に、この機器は光の回折限界までの横空間分解能を持ち、測定において試料上の音響波源の領域や形態を変更する必要がなく、等方性または異方性の試料において試料の物理的性質を定量的に測定可能なものであることを要求する。
【0034】
本発明は、ポンプ光パルスを用いて試料に瞬発的に音響波を励起し、引き続いて起こる音響的揺動をプローブ光を用いて試料の2 次元的領域に渡って検出することによって試料の物理的性質を測定する方法を特徴とする。ポンプ光パルスの光源としては時間幅が典型的には0.002psから2000nsのコヒーレントまたは部分的にコヒーレントな光パルスを周期的に発生するものを用いることができる。そのような光源の典型的なものは、高繰り返し周波数のモードロック固体レーザーである。プローブ光ビームとしては、時間幅が典型的には0.002psから2000nsの周期的な光パルスを用いることができ、この場合ポンプ光パルスの光源と同じものをプローブ光パルスの光源として使用できる。別の方法としてプローブ光は継続的な光を発生する光源から取り出すこともできる。ポンプ光およびプローブ光の波長としては10nmから100μmの範囲のものを用いることができ、その中心波長やスペクトル成分は双方において同一である必要はない。
【0035】
ポンプ光ビームは定められた方向から試料に向けられる。ポンプ光ビームはプローブ光ビームと同軸に試料に入射しても良い。ポンプ光パルスの役割は、広い範囲の波数成分および周波数成分を含む音響波を発生するための瞬発的な音響波源を生成することである。プローブ光ビームの役割は、試料表面または試料内部の音響的揺動を検出し、その2次元画像を取得することである。この目的のために、音響的揺動によってプローブ光に引き起こされる振幅、位相、偏光の変調を用いることができる。プローブ光がパルスである場合には、ポンプ光パルスが試料に到着した後に入射するプローブ光パルスにおける振幅、位相、偏光の変調の変化を用いることができる。また、別の方法としてポンプ光パルスが試料に到着した後に連続して試料に入射されるふたつのプローブ光パルスの間の振幅、位相、偏光の違いを用いて音響的揺動を検出することもできる。ポンプ光パルスとプローブ光パルスの試料への到着時間の差を変化させることにより、その時間差の関数として複数の音響的揺動の画像を取得する。この画像を取得するために光を照射される試料上の領域は、それ自身試料上の定められた領域内で走査され、走査領域内の試料の物理的性質をマップすることができる。
【0036】
ポンプ光ビームを形成する光パルスは試料で吸収され音響波を生成する。生成される音響波の種類は、例えば縦波音響波、横波音響波、表面音響波、界面音響波などである。具体的な生成音響波の例は、Rayleigh波、Lamb波、Love波、Stoneley波、一般的な表面音響波、疑似表面音響波、表面スキミングバルク波などである。これらの音響波は試料表面または試料内界面の機械的な運動を引き起こし、また試料内の音響的歪み場を変化させる。これらの変化がプローブ光ビームを形成する光の振幅、位相、偏光を変調する。
【0037】
異なる時刻における音響的揺動の一連の画像が得られると、それらの2次元空間フーリエ変換を実行する。異なる複数の画像のフーリエ変換を用いて、実験的な分散関係ω(k# )を計算する。ここでωは角振動数、k# は音響波数ベクトルである。この分散関係は一般的には一つ以上の分枝からなる。それぞれの分枝は試料中を伝搬するそれぞれの音響モードに対応する。分散関係は実部と虚部を持ちうる。分散関係の虚部は試料の音響的減衰を表している。試料の物理的性質をあらわす変数を仮定することによって理論的に得られる分散関係と実験的な分散関係を比較し、両者の差が小さくなるように仮定した変数を変化させることにより、試料のプローブされた領域を特徴づける物理的性質、例えば、弾性定数、音響減衰、密度、膜厚などが得られる。さらにこれらの物理的性質に関連する他の量、例えばイオン注入量、内部応力、表面粗さ、界面粗さ、表面吸着物質、粘着性、粒径、空隙率、微細構造、湿度の効果などを測定することができる。
【0038】
【発明の実施の形態】
本発明とともに用いられる典型的な装置を図1に示す。
【0039】
この装置は時分割干渉計を用いている。図1における時分割干渉計3の例は本願発明者による特開2001−228121,特開2001−228122,特開2001−228123に詳しい。この時分割干渉計3は試料への到着時間がわずかに異なる2つの短時間幅のプローブ光パルスの位相差を検出する。2 つのプローブ光パルスは図中でプローブ光パルス1、プローブ光パルス2として表されている。プローブ光パルス1およびプローブ光パルス2はプローブ光ビーム9を形成し、それはレンズ5によって試料6上の同一の局在領域11に試料6に垂直な方向またはほとんど垂直な方向より集光される。図1は励起およびプローブ光に対して試料が不透明な場合に対応している。短時間幅のポンプ光パルス4はビームスプリッター12を介してレンズ5によって試料6上の局在領域11の近傍に試料に垂直な方向またはほとんど垂直な方向より集光される。ポンプ光とプローブ光とが同一の中心波長を持たない場合はビームスプリッター12を2色性ビームスプリッターとすると有利である。ポンプ光パルス4は瞬発的な局所音響波源8を試料6上に生成する。ポンプ光ビーム10の試料6上での空間ビームプロファイルは軸対称、例えばガウシアン形状に選ぶことが、広い範囲に渡る面内波数ベクトルを持つ音響波を励起する上で、すなわち広い波数ベクトル範囲に対応する実験的な分散関係を取得する上で有利である。時間の経過と共に音響的揺動は音響波面として外向きに拡がっていく。音響的分散のために音響波面は空間的に拡がりうる。ポンプ光パルスおよびプローブ光パルスとしては周期的なパルス列を使用して適当な時間に渡って検出信号を平均化するのが通例である。
【0040】
一般にプローブ光と音響的揺動との間の結合は試料表面または試料表面近傍の音響的運動あるいは試料6の内部の音響的歪みを介して起こる。試料6の表面または界面の音響的変位の面外成分、試料6の表面または界面の音響的変位の面内成分、試料6の表面または界面の音響粒子速度の面外成分、試料6の表面または界面の音響粒子速度の面内成分、試料6の音響的歪みテンソルの6つの成分のうちの一つで表される量のうちの少なくとも一つがプローブ光と結合すれば、原理的に音響的揺動を検出できる。試料6におけるプローブ光ビーム9の光侵入長以内の音響的歪みは一般に光弾性効果を通じてプローブ光の変調に寄与する。
【0041】
プローブ光は、一般に図1の時分割干渉計3内に設置された光検出器によって観測される。信号ノイズ比を改善するために周知の技術であるポンプ光ビームのチョッピングとロックイン検出が用いられる。
【0042】
音響的揺動はポンプ光パルス4が試料6に入射する瞬間の時刻とプローブ光パルス1およびプローブ光パルス2が試料6に入射する瞬間の平均時刻との間の定められた遅延時間において検出される。この遅延時間は光学的遅延またはポンプ光パルスとプローブ光パルス間に電子回路によって付される遅延によって与えられる。これらのポンプ光パルスおよびプローブ光パルスにはしばしば同一の繰り返し周波数を持つ周期的なパルス列が用いられる。試料6上におけるポンプ光スポットとプローブ光スポットとの相対的な位置関係を走査することにより、音響的揺動の画像が得られる。ついでポンプ光パルス4が試料6に入射する瞬間の時刻と音響的揺動が検出される時刻すなわちプローブ光パルス1およびプローブ光パルス2が試料6に入射する瞬間の平均時刻との間の遅延時間を変化させることにより、様々な遅延時間における音響的揺動の画像を得ることができる。先に引用した本願発明者らによる発明で述べられているように、プローブ光パルス1とプローブ光パルス2の間の時間差を十分に小さく選ぶことにより、試料6からのプローブ光の反射光の位相変化の時間微分を実効的に検出することができる。
【0043】
本発明の全ての実施例では、合理的な近似として音響波の伝搬が線形な弾性波動方程式で記述されることを仮定している。一般には弾性波動方程式は散逸項を含んでいても良い。そのような線形波動方程式は例えばG.W.FarnellとE.L.Adlerによって与えられた異方性基板上の異方性薄膜における表面音響波の伝搬を記述する標準的な異方性弾性方程式である〔PhysicalAcoustics,vol.9,edited by W.P.Masonand R.N.Thurston,pp.35−127(AcademicPress,New York,1972)〕。
【0044】
時間に依存する音響的揺動f(r# ,t)は実の関数であり、その2次元フーリエ変換F(k# ,t)とは
【0045】
【数6】
【0046】
の関係がある。ここで音響波の伝搬は単一の音響モードのみによって支配されていると仮定した。波数スペクトルF0 (k# )は瞬発的な局所音響波源8の特性に依存する。結局のところそれは例えばポンプ光ビーム10の試料6上でのスポットの大きさ、ポンプ光パルス4の時間的な形状、ポンプ光ビーム10の強度、試料6の光学的、電子的、熱的、機械的および弾性的特性などに依存する。この波数スペクトルは音響波のスペクトル成分を決定づける。音響的揺動の角振動数ωとプローブ光の観測面上での音響的揺動の波数ベクトルk# との間の関係ω(k# )は、伝搬する音響モードが音響的減衰を示すときには一般に複素数になる。プローブ光の観測面を試料の表面7あるいは試料の界面に平行になるように選ぶのが有利である。以下ではプローブ光の観測面に沿ったベクトルの方向を面内方向と呼ぶことにする。この方向はプロープ光による画像観測光学系の配置によって決定される。
【0047】
本発明の第1の実施例では検出された音響波揺動の主要部分が単一の音響モードの伝搬に起因する場合を扱う。さらにこの実施例では試料6上の画像に寄与する領域内ではこの音響モードの音響的減衰が無視できることを仮定する。ここでいう試料6上の画像に寄与する領域とは、試料上で音響的揺動を検出する領域のことを指す。ここで扱う音響モードの一例は等方性基板上のRayleigh波である。しかしながら、この第1の実施例の適用は等方的物質に限られない。
【0048】
一定の時間間隔t1 ( >0)をおいて連続した3枚の音響的揺動の画像を記録する。方程式(1)および(2)に従って一定の時間間隔をおいた3つの対応するフーリエ変換F(k# ,t)を求める。これは標準的な数値的フーリエ変換の手法または高速フーリエ変換(FFT)によって行える。時刻原点t=0は時系列の真ん中の画像を取得した時刻とする。時刻t=t1 において
【0049】
【数7】
【0050】
である。ここで音響的減衰を無視することに対応して(i)ω(k# )=ω* (k# )である。また、試料の面内方向への均一性のために(ii)ω(k# )=ω(−k# )である。従って
【0051】
【数8】
【0052】
となる。式(4)〜(6)において波数スペクトルF0 (k# )を消去することによって実験的な分散関係ω(k# )は
【0053】
【数9】
【0054】
のように3つのフーリエ変換を用いて表すことができる。t1 は既知であるから3つの画像から単一の音響モードの分散関係ω(k# )を求められることが示された。単一のポンプ光パルス4を用いる場合は、時刻−t1 はポンプ光パルス4が試料6に入射する時刻よりも後に選ばれる必要がある。ここで表れた実験的な分散関係ω(k# )は波数スペクトルF0 (k# )が0でない音響波数ベクトルk# の範囲に渡って得られる。例えば、基板上の厚さdの薄膜について測定を行う場合、波数1/d付近においてF0 (k# )が大きな値をとるようにすることが有利である。これは例えばポンプ光スポットの大きさを調節することで実現される。すなわち試料6上でのポンプ光ビーム10の面内空間プロファイルにおいてビームの面内方向への拡がりがd程度であれば良い。加えてポンプ光パルスの時間幅をd/vより短くなるように選ぶことが有利である。ここでvは考えている音響モードの典型的な位相速度である。この時間幅の選択は、生成される音響的揺動の周波数帯域による制限を緩和することが目的である。また別の方法として生成される音響的揺動の周波数帯域を制限したい場合においてはポンプ光パルス4の時間幅を故意にd/vより長く選ぶことも可能である。もし必要であれば波数スペクトルF0 (k# )は3つの音響的揺動の画像のフーリエ変換を用いて
【0055】
【数10】
【0056】
とあらわすことができる。ここでω(k# )は式(7)で与えられる。
【0057】
実験的な分散関係ω(k# )が得られたなら、考えている試料の波動方程式に基づいて問題とする音響モードについて理論的に求められた分散関係と実験的な分散関係とを比較することができる。
【0058】
もし試料6が均質な基板から成るものであれば、音響的減衰を考えない場合の分散関係は弾性定数と密度に依存する。測定できる物理的性質は(1)弾性定数、および(2)密度のうちから選択される。理論的な分散関係を求める際に仮定する弾性定数または密度あるいはその両方を調節して、理論的な分散関係と実験的な分散関係との差を最小になるようにすることでこれらの量を求めることができる。一般的にこれらの量のうち一部が既知であれば、残りの量を求めることは簡単になる。この最小化の手続きは周知のものであり、ここではその詳細については述べない。
【0059】
もし、試料6が均質な基板とその上に形成された薄膜から成るものであれば、音響的減衰を考えない場合の分散関係は薄膜の厚み、薄膜と基板双方の弾性定数および薄膜と基板双方の密度に依存する。測定できる物理的性質は(1)薄膜の厚み、(2)薄膜または基板の弾性定数、および(3)薄膜または基板の密度のうちから選択される。理論的な分散関係を求める際に仮定する薄膜の厚み、薄膜および基板の弾性定数および密度の一部または全部を調節して、理論的な分散関係と実験的な分散関係との差を最小になるようにすることでこれらの量を求めることができる。
【0060】
もし、試料6が多層構造を持つものであれば、音響的減衰を考えない場合の分散関係は各層の厚み、弾性定数および密度に依存する。測定できる物理的性質は(1)各層の厚み、(2)各層の弾性定数、および(3)各層の密度のうちから選択される。理論的な分散関係を求める際に仮定する各層の厚み、弾性定数および密度の一部または全部を調節して、理論的な分散関係と実験的な分散関係との差を最小になるようにすることでこれらの量を求めることができる。
【0061】
実験的な分散関係の精度を上げるために、検出される音響的揺動の画像において、瞬発的な局所音響波源8から出発した音響波面が画像観測領域の端に到達することによるクリッピングの効果を避けることが有利である。
【0062】
ポンプ光パルス4に周期的なパルス列を用いている場合、それぞれのポンプ光パルス4によって励起された一連の音響波面が形成される。このような状況下での音響的揺動の画像の処理においては、あらかじめ取得された音響的揺動の画像に空間的なフィルター処理を施して、単一のポンプ光パルスに対応する音響波面のみを残しておくことが有利である。特に−t1 からt1 の間に新しい瞬発的な局所音響波源8が生成されないようにすること、および既に述べたように観測領域の端に到達している波面をフィルターによって取り除くことが有利である。
【0063】
上記の実施例において、3つの音響的揺動の画像を取得する時間間隔を一定にすることは不可欠の用件ではない。式(4)〜(6)を一般化して任意の3つの時刻における音響的揺動の画像を用いて実験的な分散関係を求められるように拡張することは容易である。しかしながら、実施例にあるように画像取得時刻を選ぶのが最も簡単で代数的にも便利である。
【0064】
本発明の第2の実施例では、検出された音響波揺動の主要部分が、単一の音響モードの伝搬に起因する場合を扱う。さらにこの実施例では、試料6上の画像に寄与する領域内でこの音響モードの音響的減衰が無視できないことを仮定する。ここで扱う音響モードの一例は、等方性基板上のRayleigh波である。しかしながら、この第2の実施例の適用は等方的物質に限られない。
【0065】
この場合、再び式(1)〜(3)に基づいて取り扱いを進める。第1の実施例の場合と異なり、試料の面内方向への均一性に基づくω(k# )=ω(−k# )の関係のみを仮定する。ω(k# )=ω1 (k# )−iω2 (k# )と書いてω1 (k# ),−ω2 (k# )がそれぞれω(k# )の実部、虚部であるとする。解析には5つの時刻−t2 ,−t1 ,0,t1 ,t2 における音響的揺動の画像を以下のように使用する。
【0066】
【数11】
【0067】
ここで、0 <t1 <t2 とする。時刻原点t=0は再び時系列の真ん中の画像を取得した時刻とする。
【0068】
5つのフーリエ変換について式(9)〜(13)を用いて波数スペクトルF0 (k# )を消去し、実験的な分散関係ω1 (k# )を含む方程式
【0069】
【数12】
【0070】
が得られる。
【0071】
t1 ,t2 は既知であるので、上の関係を用いて5つの音響的揺動の画像から単一の音響モードについての分散関係ω1 (k# )が得られる。特にt1 =t2 と選ぶことにより方程式は
【0072】
【数13】
【0073】
と簡単化される。ω1 (k# )がわかると式(9)〜(13)を用いて容易にω2 (k# )を求めることができる。ω2 (k# )は関係ω2 (k# )=α(k# )v(k# )のように表すこともできる。ここでα(k# )は、音響的な吸収係数で長さの逆数の次元を持つ単位で表される。またv(k# )=ω1 (k# )/kは注目している音響モードの位相速度である。また、k= |k# |である。一般に吸収係数α(k# )は試料中の粒界や空隙、またその他の微細構造の存在に敏感である〔E.P.Papadakis,Physical Acoustics,ed.W.P.Mason,vol.4B,pp.269−328(Academic Press,New York,1968)およびJ.E.Gubernatis and E.Domany,Wave Motion,vol.6 pp.579−589(1984)〕。すなわちω1 (k# )とω2 (k# )を求めることによりα(k# )がわかり、それによって試料の粒径や空隙率を評価できる。さらに表面音響波の減衰は表面粗さ、界面粗さ、表面吸着物質、湿度に影響されるので、これらの物理量も減衰を通して測ることができる。例えば、この方法により物質表面の清浄度を評価することができる。
【0074】
上に述べた第2の実施例では、音響的揺動の画像を取得する時間間隔が特別の関係を持つように指定したが、より一般的には任意の複数の時刻における画像を用いて実験的な分散関係を得ることもできる。しかしながら、実施例にあるように画像取得時刻を選ぶのが最も簡単で代数的にも便利である。波数スペクトルF0 (k# )は一般に実部と虚部を持つ複素関数になっており、式(9)〜(13)における未知関数は全部で四つである。従って、原理的には四つの時刻における音響的揺動の画像があれば、ω1 (k# )とω2 (k# )を決定することができる。しかし、この方法は第2の実施例に挙げた方法よりも代数的には便利でない。
【0075】
本発明の第3の実施例では、検出された音響波揺動の主要部分が二つの音響モードの伝搬に起因する場合を扱う。さらにこの実施例では、試料6上の画像に寄与する領域内でこれら音響モードの音響的減衰を無視できることを仮定する。ここで扱う二つの音響モードの一例は、等方性基板上のRayleigh波および表面スキミングバルク波である。また二つの音響モードの別の例は異方性物質の表面音響波と疑似表面音響波である。
【0076】
この場合式(1),(2)は一般化されて
【0077】
【数14】
【0078】
となる。2つの音響分枝は音響モード1,2に対応し、それぞれの分散関係をω1 (k# ),ω2 (k# )とする。波数スペクトルF1 (k# ),F2 (k# )は、それぞれ音響モード1,2の振幅を表す。この記法を第2の実施例における記法と混同してはならない。再び試料の面内方向への均一性に基づいてω(k# )=ω(−k# )を仮定する。この解析法は7つの異なる時刻−3t1 ,−2t1 ,−1t1 ,0,t1 ,2t1 ,3t1 における音響的揺動の画像を用いる。時刻原点t=0は再び時系列の真ん中の画像を取得した時刻とする。
【0079】
【数15】
【0080】
関係cos(2θ)=2cos2 θ−1およびcos(3θ)=4cos3 θ−3cosθを用いるとω1 (k# ),ω2 (k# )についての以下の2つの方程式
【0081】
【数16】
【0082】
が得られる。ここでA=F(k# ,t1 )+F(k# ,−t1 ),B=F(k# ,2t1 )+F(k# ,−2t1 ),C=F(k# ,3t1 )+F(k# ,−3t1 ),D=2F(k# ,0)である。式(25),(26)を数値的に解くことによりω1 (k# ),ω2 (k# )が得られる。このようにして2つの異なる音響モードについての分散関係が得られる。実験的な分散関係と理論から得られた分散関係とを比較して試料の物理的性質を取得する場合には、どちらか一方の音響モードの分散関係あるいは両方の分散関係のいずれを用いても良いが、精度の点からは両方の分散関係を用いた方が有利である。
【0083】
上に述べた第3の実施例では、音響的揺動の7つの画像を一定の時間間隔をおいて取得したが、より一般的には任意の複数の時刻における画像を用いて実験的な分散関係を得ることもできる。しかしながら実施例にあるように画像取得時刻を選ぶのが最も簡単で代数的にも便利である。式(18)〜(24)における未知関数は全部で6つである。従って原理的には6つの時刻における音響的揺動の画像があれば、ω1 (k# ),ω2 (k# )を決定することができる。しかし、この方法は第3の実施例に挙げた方法よりも代数的には便利でない。
【0084】
これまでに述べた第1から第3の実施例を検討することによって、試料が面内方向に均一である場合に、解析方法を一般化することができる。まず、N個の音響モードがあり、試料6上の画像に寄与する領域内でこれらの音響モードの音響的減衰が無視できる場合、一般に少なくとも3N個の異なる時刻における音響的揺動の画像を元に各音響モードに対応する実験的な分散関係を得ることができる。また、N個の音響モードがあり、試料6上の画像に寄与する領域内でこれらの音響モードの音響的減衰が無視できない場合、一般に少なくとも4N個の異なる時刻における音響的揺動の画像を元に各音響モードに対応する実験的な分散関係を得ることができる。さらに、N個の音響モードがあり、そのうちM個の音響モードについて試料6上の画像に寄与する領域内で音響的減衰が無視できない場合、一般に少なくとも3(N−M)+4M=3M+N個の異なる時刻における音響的揺動の画像を元に各音響モードに対応する実験的な分散関係を得ることができる。実験的に得られた分散関係と理論から得られた分散関係とを比較して試料の物理的性質を取得する場合には、これらのうち一つ以上の音響モードの分散関係を用いれば良いが、精度の点からはなるべく多くの分散関係を用いた方が有利である。
【0085】
波数スペクトルに特別の制限が課せられる場合には、信号処理に必要な音響的揺動の画像の数を減らすことができる。例えば、いくつかの音響モードの波数スペクトルが実数または純虚数であることがあらかじめ分かっていれば、そのような音響モードの数だけ、必要な音響的揺動の画像の枚数を減らすことができる。このような状況は、瞬発的な局所音響波源8が良い軸対称性を持ち、その時間変化が良い時間対称性を持っている場合に、近似的に起こりうる。
【0086】
分散関係を導き出す方法としてこれまで3つの実施例について述べたが、これらをより一般的な場合に分散関係を導き出す方法へと拡張することは容易である。すなわち、N個の音響モードがあり、そのうちいくつかの音響モードについて試料6上の画像に寄与する領域内で音響的減衰が無視できない場合を考える。それぞれの音響モードの分枝に対応する分散関係をω1 (k# )=ω11(k# )−iω21(k# ),ω12(k# )−iω22(k# ),…ω1n(k# )−iω2n(k# ),…ω1N(k# )−iω2N(k# )とする。一連の音響的揺動の画像の2次元空間フーリエ変換は
【0087】
【数17】
【0088】
で表される。Fn (k# )は音響モードnの波数スペクトルである。必要な数の異なる時刻におけるフーリエ変換を用いて波数スペクトルを消去することにより、各音響モードの分散関係が得られる。
【0089】
本発明の第4の実施例では試料6中で励起された多数の音響モードが検出された音響波揺動に寄与する場合の信号解析の別の方法を与える。この実施例では、試料6上の画像に寄与する領域内でこれらの音響モードの音響的減衰が無視できることを仮定する。ここで扱う多数の音響モードの組み合わせの一例は、異方性基板における表面音響波、疑似表面音響波、表面スキミングバルク波が共存する場合である。
【0090】
この場合、式(1),(2)を一般化することにより
【0091】
【数18】
【0092】
が得られる。ここで、nは音響モードを区別するための添字である。既に述べたように、ωn (k# )=ωn * (k# )およびωn (k# )=ωn (−k# )である。この実施例では複数の音響的揺動の画像が必要である。それらは時間フーリエ変換により
【0093】
【数19】
【0094】
とされる。空間的フーリエ変換の場合と同様に、F(k# ,ω)の計算においては数値積分による標準的な数値フーリエ変換あるいは時刻0から適当な時刻Tまでを等分割した時刻において取得した一連の画像を用いた高速フーリエ変換が用いられる。式(29)は正のωに対して
【0095】
【数20】
【0096】
と変形される。この式はF(k# ,ω)が非0になるようなωとk# の組合わせを持つ音響波が存在可能であることを示している。言い換えると式(30)は直接に各音響モードに対する実験的な分散関係を与える。波数スペクトルFn (k# )は単なる定数倍の因子であり、与えられたωに対する可能なk# を決定するに当たっては無関係である。F(k# ,ω)から実験的な分散関係を得るためには、適当な正の定数εを用いて|F(k# ,ω)|がεより大きくなるk# ,ωの組を探せば良い。εはノイズレベルよりも大きいように選ばれる。実験的な分散関係における等ω曲線の形状を眺める別の方法では、スロウネス曲線が描かれる。スロウネス曲線のプロットの二つの軸は波数ベクトルの成分をωで割ったものすなわちk# x /ω,k# y /ωである。ωによる除算は曲線の形を変えないので、スロウネス曲線と分散関係における等ω曲線とは同じ形状をしている。
【0097】
第1の実施例において述べたように、ポンプ光パルス4が周期的なパルス列である場合、測定がなされる時刻0からTの間に新しい瞬発的な局所音響波源を生成しないことが有利である。またこれも既に述べたように観測領域の境界に音響波面が到達することを避けることが有利である。
【0098】
本発明の第5の実施例では、試料6中で励起された多数の音響モードが、検出された音響波揺動に寄与する場合の信号解析の別の方法を与える。この実施例では試料6上の画像に寄与する領域内でこれらの音響モードの音響的減衰が無視できないことを仮定する。ここで扱う多数の音響モードの組み合わせの一例は異方性基板における表面音響波、疑似表面音響波、表面スキミングバルク波が共存する場合である。
【0099】
この場合、式(1),(2)を一般化することにより
【0100】
【数21】
【0101】
が得られる。ここでnは音響モードを区別するための添字である。またωn (k# )=ω1n(k# )−iω2n(k# )とする。この実施例では複数の音響的揺動の画像が必要である。それらは2次元空間的フーリエ変換と時間フーリエ変換により
【0102】
【数22】
【0103】
とされる。積分の下限は、音響減衰のために積分が発散することを避けるように−t0 とされる。式(32)はω2nがω1nよりずっと小さいときに正のωに対して
【0104】
【数23】
【0105】
と変形され、
【0106】
【数24】
【0107】
が得られる。この結果は、音響減衰が式(30)のデルタ関数に幅をつけるような効果を持つこと、および一定のωに対する|F(k# ,ω)|のピーク位置には音響減衰は影響しないことを示している。各音響モードnに対する分散関係ω1n(k# )は関数|F(k# ,ω)|を用いて第4の実施例の場合と同様にして求められる。すなわち、各モードの与えられたωに対して、デルタ関数が0でない音響波数ベクトルk# のかわりに、関数|F(k# ,ω)|の極大を与える音響波数ベクトルk# が存在可能な音響波のω,k# の組を与える。また、第4の実施例と同様にして、ノイズレベルよりも大きなεと|F(k# ,ω)|との大小を判断することにより実験的な分散関係を得ることができる。さらに、第4の実施例と同様に波数スペクトルFn (k# )は単なる定数倍の因子であり、与えられたωに対する可能なk# を決定するに当たっては無関係である。
【0108】
音響モードnの音響減衰に関係する分散関係ω2n(k# )は式(34)によってωの関数としての|F(k# ,ω)|2 の半値全幅より得られる。
【0109】
これまで述べてきた全ての実施例において、音響的揺動の画像が軸対称性を示す場合にはフーリエ変換のかわりにベッセル関数を用いた方程式を用いることもできる。しかしこれは単に数学的な表現方法の違いであり、フーリエ変換を用いる方法と本質的に異なるものではない。
【0110】
本発明と共に用いられる実験装置は先に述べられたものに限られない。プローブ光ビーム9の位相の変化を検出する代りに、反射または透過した光の強度の変化のみあるいは偏光の状態の変化のみを検出しても良い。あるいはまたポンプ光パルス4とともに単一のプローブ光パルス1のみを用いても良い。音響的揺動の画像を形成するためには一般にプローブ光パルスの振幅、位相、偏光が音響的揺動によって変調されるか、または試料6に引き続いて入射するプローブ光パルス1およびプローブ光パルス2の間の振幅、位相、偏光の差が音響的揺動によって変調されることが必要である。ポンプ光パルス4に対してより多くのプローブ光パルスを用いることも可能である。更にプローブ光に光パルスを用いることは本質的ではない。検出に要求されるバンド幅によっては、継続的な光をプローブ光ビーム9として用いることが有利な場合もある。この場合、音響的揺動によるプローブ光の変調は、例えば光検出器によって継続的に検出され、音響的揺動に依存する信号がポンプ光ビームとプローブ光ビームの試料上での与えられた相対的な位置において時間領域で直接的に記録される。また、プローブ光の位相変化を検出することができるので、試料はプローブ光に対して透明であっても良い。
【0111】
例えば、図2に示すようにプローブ光が試料6に入射するのと反対の方向からポンプ光ビーム10をレンズ13を介して試料6に入射しても良い。これは試料6が透明基板上の不透明薄膜である場合に便利である。さらに本手法は平行な面を持つ試料に限定されるものでない。例えば瞬発的な局所音響波源8が結晶の一つのファセットにあり、音響的揺動の検出が先のファセットと平行でない別のファセットにおいて行われても良い。言い換えれば、試料6での音響的揺動の発生と検出において、瞬発的な局所音響波源8と検出領域は必ずしも重なっている必要はなく、試料6の別々の部分で行われても良い。また音響的揺動は必ずしも試料6の表面にある必要はない。例えば透明なバルク物質の間に金属薄膜が挟み込まれたような試料も本手法で扱うことができる。この場合は界面音響波に関係する試料の物理的性質を測定することができる。さらに、これまでの議論では平面の表面あるいは界面を持つ試料が暗黙に仮定されていたが、表面または界面がゆるい曲率の曲面を持つ場合であっても、画像の取得領域がその内部に顕著な曲率の部位を含まないように選ばれるなら本手法を適用できる。
【0112】
試料6上のポンプ光ビーム10およびプローブ光ビーム9の相対位置は音響的揺動の画像を形成するために走査される。得られる画像の解釈を容易にするために、試料6上におけるポンプ光ビーム10の位置を固定して像を形成することが有利である。しかし、試料6が面内方向に均質である場合にはこれは本質的ではない。ポンプ光ビーム10またはプローブ光ビーム9は試料に斜め方向から入射しても良い。この場合でも必要であれば試料表面7におけるビームスポット形状が円形になるように円筒レンズを用いてビーム形状を補正することができる。ある種の試料においてはプローブ光ビーム9を斜めから入射することにより試料6中の音響歪みと光との結合を変化させ音響的揺動の画像の強度を増加させることができる。また、ポンプ光ビーム10およびプローブ光ビーム9において単一の中心波長や単一の偏光を用いなければならない理由は無い。複数の中心波長や偏光を用いることは、例えば多層膜試料において試料の異なる場所の音響波生成および検出の効率を高めるために有益である。
【0113】
画像取得のための別の方法は、並列的データ収録技術を利用するものである。これにより複数の点、線または試料6のかなりの領域がプローブ光ビーム9によって照射され試料6の複数の部分が同時に検出される。マルチチャンネル光検出器をこの目的のために用いることができる。さらに一連の画像を得るための試料6上の光照射領域は、試料上の与えられた領域内での物理的性質をマッピングするために試料6上で走査される。
【0114】
試料6において生成される音響波の種類は、試料の形状のみならずキャリアの励起や温度の変化にも依存することがある。例えば音響波の生成は熱弾性効果、変形ポテンシャル、エレクトロストリクション、アブレーションなどによって起こる。この音響波は例えば表面音響波、界面波、縦波、横波、または一般のバルク波である。本発明においては、もっぱら試料6の表面または内部の界面に平行な面内方向に伝搬する音響波の解析を行う。これらは例えばRayleigh波、Lamb波、Love波、Stoneley波、一般の表面音響波、疑似表面音響波、表面スキミングバルク波などである。これらの波の伝搬状況は各層厚み、弾性定数、密度に依存し、従って実験的な分散関係もこれらの物理的諸量に依存する。またこれらの物理的諸量は別の物理量と結び付いている。例えば試料の弾性定数および密度に依存する音速は、試料の空隙率〔C.M.Sayers,J.Phys.D:Appl.Phys.,vol.14,pp.413−420(1981)〕、あるいは内部応力〔A.L.Nalamwar and M.Epstein,J.Appl.Phys.,vol.47,pp.43−48(1976)〕に影響される。これらの物理的性質は、それが独立に起こり、空隙や内部応力が存在しない状態での弾性定数が較正されている場合には簡単に測定される。もしこれらが独立でない場合には、より複雑な較正方法が必要となる。さらに弾性定数と音響減衰はイオン打ち込み量に敏感であり、従って本測定によりイオン打ち込み量を評価することができる。イオン打ち込みの結果、試料に物理的性質の不均一な傾きが生じる。本発明による方法は一般的にそのような傾きについての情報をも取得することができる。
【0115】
試料6における短時間幅のポンプ光パルスの空間プロファイルとしては試料6上においてなめらかで軸対称性を持つものを選択することが普通であるが、別のプロファイルを選択することもできる。同様に短時間幅のポンプ光パルスの試料6上での時間プロファイルとしては滑らかなものを選択することが普通であるが、別のプロファイルを持つものを選択することもできる。
【0116】
本手法においては通常試料の面内方向に伝搬する波を取り扱う。それに対して周知の技術として試料の深さ方向に伝搬する光励起音響波を観測するパルス−エコー法がある〔J.Tauc et al.,米国特許4710030,1987年12月1日または本願発明者らの特開2001−228121〕。音響パルス−エコー法を用いる利点は、これが試料上の局所的な領域で生成された音響波を用いるものであり、その検出も局所的に行われるため、試料の物理的性質を1μm以下の高い横空間分解能を持って測定できることである。これらのパルス−エコー法においては、音響波の伝搬時間が計測される。従って、例えば試料の厚みをパルス−エコー法によって測定するためには、あらかじめ試料の音速、あるいは弾性定数と密度を測定しておく必要がある。本発明のために用いた例えば図1,図2に示したような装置はそのままで容易にパルス−エコー法の測定にも使用することができる。従って、本発明の手法による音速の測定をパルス−エコー法の較正手段として用いることで測定装置の付加価値を高めることができる。
【0117】
【発明の効果】
本発明において記述された方法は、幅広い分野において試料の物理的性質を比較的小さな領域について測定することに用いられる。その多様性は本発明を様々な試料、例えば、不透明、透明および半透明な部分の組合わせから成る試料、均質、不均質、層構造、シート状、板状、等方性、異方性の試料などに適用可能とする。本発明は試料の物理的性質、例えば膜厚、密度、弾性定数、音響減衰、および粘着力などを非接触・非破壊で測定することを可能にする。密度、弾性定数、音響減衰はさらに様々な物理的性質、例えば空隙率、粒径、微細構造、内部応力、表面粗さ、界面粗さ、表面吸着物質、湿度の効果に関連づけられる。表面以外の層や断面の試料の物理的性質を検出しマッピングすることもできる。この方法はまた試料表面や内部の音響的揺動を広い空間的領域に渡って画像化することができる。これは試料中の面内方向に伝搬する音響波の性質を調べたり、試料が面内方向に十分な均一性を持っているのかを評価することに用いられる。特に表面音響波や界面波の伝搬を時間の関数としての2次元画像として観測できることが利点である。本方法は試料の音響的反応から試料の微小領域について最大限の情報を引き出す。同時に測定の横分解能は光の回折限界程度まで高めることができる。さらに本発明は音響パルス−エコー法と組み合わせて用いることにより同手法の較正を行えることが利点である。
【0118】
非接触型で画像観測能力を持たない他の試料の物理的性質の測定装置に比較して、本発明は幅広い分野での応用が可能である。垂直入射光学系を用いているために測定を回折限界の光スポットを用いて行うことができる。更に重要な特徴として、測定中に測定形式や測定範囲を変化させる必要がなく、必要な測定を短時間で完了できる。
【0119】
以下、具体例について説明する。
【0120】
本発明の方法を検査するために図2の装置を用いた。実験はポンププローブ法に基づくものでサブピコ秒の時間幅を持つ可視広域のポンプ光パルス4によって音響波を周期的に発生させる。ここで用いた実験配置による制約から、試料6として透明基板上に不透明な薄膜や構造を蒸着したものを用いた。Ti−サファイアモードロックレーザーからの出力光を逓倍し、波長415nm、継続時間約1ps、繰り返し周波数80MHzのポンプ光パルス4とする。これを試料6の基板側から、100倍の長作動距離顕微鏡対物レンズ13によって試料6の不透明部分に強度の半値全幅が2μmのガウシアンスポットとして試料表面に垂直に入射・集光する。典型的な入射ポンプパルスエネルギーは0.3nJ程度である。このエネルギーは金薄膜試料において100K程度の過渡的な温度上昇をもたらす。ポンプ光パルス4は試料6内に複雑な3次元音響場を作り出す。特に面内方向に伝搬する表面音響波を発生させる。この表面音響波の波長は主としてポンプ光スポットの面内方向の大きさによって決定されるが、熱拡散の効果も若干含まれる。本実験の場合の典型的な波長は3〜30μmの程度である。これは周波数領域では100MHzから1GHz程度に対応する。
【0121】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【0122】
音響的揺動の検出は安定度の高い共通経路型サニアック干渉計を用いて行った。干渉計の詳細は本願発明者らによる特開2001−228121に記載されている。プローブ光パルスの中心波長は830nm、継続時間200fsで、試料6の薄膜側から50倍の長作動距離顕微鏡対物レンズ5によって試料6の不透明部分に強度の半値全幅が3μmのガウシアンスポットとして試料表面に垂直に入射・集光する。ポンプ光パルス4を出力するレーザーと同一のレーザーから取り出されたポンプ光パルス4と同期したプローブ光パルス1およびプローブ光パルス2を検出に用いた。ポンプ光パルス4が試料6に到着した後、適当な時間をおいてプローブ光パルス1が次いで短い時間をおいてプローブ光パルス2が試料6に到着する。プローブ光パルス1とプローブ光パルス2は同軸になっている。試料6から反射されたプローブ光パルス1とプローブ光パルス2の間の位相差を干渉計3によって検出する。本願発明者らによる特開2001−228121に示すように位相差に比例する信号を直接に観測することが可能である。プローブ光パルス1とプローブ光パルス2の間の試料6における到着時間差は510psに選ばれた。この時間差は、検出される信号が位相差の時間微分であるとみなされるのに十分な短さである。ここで行った金薄膜についての測定では、音響的揺動に対応して検出される信号は、大部分が試料6の表面の面外方向への変位に依るものであり、したがって取得される音響的揺動の信号は表面の音響的粒子速度の面外方向成分にほぼ対応する。しかしプローブ光波長を変化させる、あるいはクロムなどの異なった金属を用いることにより、試料の光弾性効果に対応する音響的揺動の信号を得ることも可能である。本測定における典型的な信号の強度は表面変位の差にして10pmの程度である。試料6上においてポンプ光スポットは固定され、一方プローブ光スポットは試料6の表面において2次元的に走査され、音響的揺動の画像を形成する。ポンプ光とプローブ光間の可変遅延を用いて、ポンプ光パルス4が試料6へ到着した後、任意の時間が経過した時点での音響的揺動の画像が得られる。その後遅延時間を変化させて画像を取得することを繰り返す。周波数1MHzの光学的チョッピングとロックイン検出技術が信号雑音比を改善するために用いられる。
【0123】
本発明の方法を説明するために等方性試料への適用例について述べる。試料は厚さ1mmのクラウンガラス基板上に多結晶金薄膜を蒸着したものである。図3(a)〜(c)は、試料表面の90μm×90μmの領域について、3つの連続する時刻における音響的揺動の画像を上記の装置を用いて取得したものである。観測される同心円状の一連のパターンは、用いたレーザーの繰り返し周波数80MHzに対応して、同心円の中心部分にポンプ光パルスが12.5nsの周期で繰り返し入射することによって形成されている。薄膜と基板が共に等方的であるために、円形の波面パターンが形成されている。3枚の画像は400psの時間間隔に対応して取得されている。分散のために波面のリングは中心から外に進むほど拡がっていく。観測領域においては音響的減衰の効果は小さい。
【0124】
本発明の第1の実施例を上の結果の解析に適用する。すなわち単一の音響モードを仮定し、音響的減衰の効果を無視する。はじめに各画像から信号処理に干渉する可能性のある波面の部分を取り除く。取り除いた結果を図3(d)〜(f)に示す。図3(e)の画像に見られる波面はポンプ光とプローブ光間の遅延時間13.7nsに対応する。以下では図3(e)の画像の取得時刻をt=0と定義する。画像間の取得時刻の差t1 は400psである。図3(d)〜(f)について式(7)を用いて分散関係を求める。図4の四角記号は得られた分散関係をk# の各方向について平均したものを表している。分散関係は軸対称性を持っているので、|k# |の関数として表すことができる。
【0125】
G.W.FarnellとE.L.Adlerによる方法〔PhysicalAcoustics,vol.9,ed.W.P.Mason and R.N.Thurston(Academic,New York,1972),pp.35−127〕に従って金薄膜ガラス基板系の第1のRayleigh−likeモードの理論的な計算を行った。音響的減衰が無視できるとして弾性的波動方程式を解いた。図4の太い実線は金薄膜の厚さを70nm、金の弾性定数および密度として文献値c11=207GPa,c44=28.5GPa,ρ=19.32gcm-3、クラウンガラスの弾性定数および密度として文献値c11=81.5GPa,c44=29.3GPa,ρ=2.55gcm-3を用いて計算した結果である。図4における実験的な分散関係と理論計算によって得られた分散関係との一致は非常に良い。ここで仮定した金薄膜の厚さは触針法によって得られた結果と良く一致しており、本発明の方法が有効であることを示している。 式(8)を用いて波数スペクトルの絶対値|F0 (k# )|を求めた。ここで波数スペクトルは波数ベクトルk# の各方向にわたって平均化されている。得られた波数スペクトルの絶対値を図5に示す。典型的な音速を3000ms-1とするとピークを300MHzから400MHzに持ち100MHzから1GHzの範囲に周波数的に拡がった音響波が励起されている。
【0126】
更に、理論的に得られた分散関係と、実験的に得られた波数スペクトルを用いて図3(c)の波面パターンを計算により再現することを行った。結果を図6に示す。実験結果と極めて良い一致が見られた。これは、またここで用いた理論的手法の実効的な試験になっている。
【0127】
次に、異方性試料の場合について述べる。試料として厚さ1mmのTeO2 単結晶基板の(001)表面に多結晶金薄膜を40nmの厚さに蒸着したものを用いた。図7は上で述べた装置を用いて取得した150μm×150μmの試料表面領域の、与えられた遅延時間における音響的揺動の画像である。画像の横および縦方向はそれぞれ試料の〔100〕方向および〔010〕方向に対応する。異方性のためにフォノン収束効果が発生していること、および励起が周期的であることのために波面のパターンは非常に複雑である。画像検出領域内では音響的減衰の効果は小さい。
【0128】
このような複雑な波面パターンを解析するために本発明の第4の実施例を適用した。0.67nsの間隔をおいて取得された18枚の一連の音響的揺動の画像について2次元空間フーリエ変換を行った。ついで得られた一連の空間フーリエ変換について時間フーリエ変換を行いF(k# ,ω)を得た。図8(a)は周波数ω/2π=720MHzにおける|F(k# ,ω)|を示す。図8(b)には理論的に求めたこの周波数における音響波として存在可能な波数ベクトルk# を同じスケールで示してある。すなわちこれはTeO2 の(001)面の音響波の分散関係から得られる周波数720MHzの等エネルギー曲線に対応する。計算において薄膜の存在と圧電効果は無視した。用いた弾性定数はGPa単位でc11=55.7,c12=51.2,c13=21.8,c33=105.8,c44=26.5,c66=65.9、密度はρ=5.99gcm-3である。理論的な分散には様々な音響モードの分枝が見られる。それらは表面音響波(SAW)、疑似表面音響波(PSAW)、縦バルク音響波(LBW)である。*印の付された部分を除けば、図8(b)に見られる曲線は全て図8(a)に再現されている。図8(b)の*印の表面音響波はフォノン収束効果および音響的測定法が粒子速度の面外成分に選択的に感度を持っていることにより観測されない。図8(a)の中央付近に見られる正方形はLBWに極めて近い音速を持つ表面スキミングバルク波を表している。図8(b)にSAW,PSAWとして示されている曲線は図8(a)に明確に現れている。図8(a)において各ピークが多重的に観測されているが、これは音響的揺動の励起が周期的に行われていることによる。図7に見られるように音響波面が観測領域境界に達しているが、このことによるクリッピングの効果は図8(a)の画像を不鮮明なものにしている。これらは低い繰り返し周波数のレーザーを用いることで回避できる。繰り返し励起による音響波面は図7に見られるように互いに重なっており、先にクラウンガラス上の金薄膜について行ったように単一励起に対応する部分に分離することは難しい。これらの制限にも拘らず、この例は第4の実施例によって異なる音響モードの伝搬状況が分離される様子を良く示している。
【0129】
最後の例として、基板上の薄膜が損傷を受けているときをとりあげる。試料はガラス基板上のAu/Cr/Au多層構造で、それぞれの膜厚は150nm/400nm/230nmである。上記の測定装置を用いて、125μm×125μmの領域について与えられた遅延時間における音響的揺動の画像を取得したものを図9に示す。多層薄膜の一部が剥離しており、その影響が音響的揺動の画像にはっきりと現れている。このような画像観察により薄膜の不均一性や欠陥、密着性などを評価することができるのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明と共に用いることが可能な装置の例を示す図である。ポンプ光ビームおよびプローブ光ビームは共通のレンズによって試料の同一の面上に集光される。ポンプ光スポットとプローブ光スポットの相対位置を走査することによってポンプ光パルスによって生成された音響的揺動の画像を取得することができる。
【図2】本発明と共に用いることが可能な装置の別の例を示す図である。ポンプ光ビームおよびプローブ光ビームは異なるレンズによって試料の異なる面上に集光される。ポンプ光スポットとプローブ光スポットの相対位置を走査することによってポンプ光パルスによって生成された音響的揺動の画像を取得することができる。
【図3】この(a)〜(c)はクラウンガラス上に金薄膜を蒸着した試料における音響的揺動の画像を示す図である。各々の画像は400psずつ異なる一連の時刻において取得された。
この(d)〜(f)は上の画像から解析に必要な波面以外の部分を取り除いた図である。この(e)の画像はポンプ光が試料に到着してから13.7ns後に対応している。
【図4】図3より求めた実験的な分散関係を示す図である。
四角印:図3より求めた実験的な分散関係を横軸を波数、縦軸を振動数ω/2πとして示したものである。分散関係は図3(d)〜(f)の2次元空間フーリエ変換から求めた。
太い実線: クラウンガラス上の厚さ70nmの多結晶金薄膜試料について弾性波動方程式から理論的に求めた分散関係を示したものである。
【図5】図3(d)〜(f)から求めた波数スペクトルの絶対値を伝搬方向について平均することによって得た実験的な波数スペクトルを示す図である。
【図6】理論的に求めた音響波面パターンを示す図である。これは図3(c)と比較されるものである。計算には理論的に得られた分散関係と、実験的に得られた波数スペクトルを用いた。
【図7】TeO2 の(001)面上に多結晶金薄膜を蒸着した試料における音響的揺動の画像を示す図である。画像は固定された遅延時間に対応したものである。
【図8】この(a)は、図7の画像を含む一連の画像をもとに求められた|F(k# ,ω)|をω/2π=720MHzに対してプロットしたものである。
この(b)TeO2 の(001)面において720MHzの周波数を持つ音響波に許される波数を理論的に計算し、(a)と同じスケールでプロットしたものである。計算においては表面の金薄膜の存在および圧電効果の影響は無視した。LBW,SAW,PSAWはそれぞれ縦バルク音響波、表面音響波、疑似表面音響波に対応する。*印を付した表面音響波の分枝は実験結果に対応するものが見られない。
【図9】基板上の薄膜が損傷を受けている場合の実験的に得られた音響的揺動の画像を示す図である。試料はガラス基板上のAu/Cr/Au多層膜構造でそれぞれの膜厚は150nm/400nm/230nmである。
【符号の説明】
1 プローブ光パルス
2 プローブ光パルス
3 干渉計
4 ポンプ光パルス
5 レンズ
6 試料
7 試料表面
8 瞬発的な局所音響波源
9 プローブ光ビーム
10 ポンプ光ビーム
11 プローブ光局在領域
12 ビームスプリッター
13 レンズ
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体ウェーハや半導体集積回路のオンラインでの測定を可能にするものである。特に、基板上に薄膜が多層に積層形成された試料の各層の厚み解析に使用できるものである。また、本発明は各層の密度、弾性定数、音響的減衰を評価することができる。さらに、本発明はこれらに影響を与える他の物理量、例えばイオン注入量、内部応力、表面粗さ、界面粗さ、表面吸着物質、粘着力、粒径、空隙率、微細構造、湿度の影響などを評価することができる。本発明は試料の物性を非破壊および非接触的に測定でき、このことにより例えば半導体ウェーハ上に単層又は多層の薄膜が形成された製品に対してオンライン状態で使用される。
【0002】
本発明には他にも多くの産業上の利用分野がある。対象物が薄膜構造を持ち、その物理的な性質を微小な領域について測定する必要があるあらゆる場面で本発明を用いることができる。例えば、最終製品の性能を決定づけるような特定の部分の機械的または弾性的性質の測定に本発明が用いられる。
【0003】
なお、本件の本文(数式を除く)において「 # 」と記した場合には、太字であり、ベクトル量を意味している。
【0004】
【従来技術と問題点】
表面、表面近傍または界面の物理的性質を音響波を用いて非破壊的に測定する方法は、広範な分野で提案されている。非接触で高い空間分解能を持つ測定方法としては、特に光を音響波の励起と検出に用いる方法が注目されている。
【0005】
例えば、ミクロンからサブミクロンの薄膜の厚み測定のための音響パルス−エコー法がJ.Taucらによって提案されている(米国特許第4710030号、1987年12月1日) 。これは超短時間幅のポンプ光パルスを用いて試料中に短波長の音響波を励起し、遅延されたプローブ光パルスの試料からの反射強度の変化を観測することにより応力による試料の光学定数の変化を検出する。しかし、ここで用いられる音響パルス−エコー法で測定されるのは薄膜中の音響波伝搬時間のみであり、薄膜の膜厚を測定するためにはその薄膜の弾性係数および密度によって決定される音速が既知でなければならない。すなわち、この方法は別途音速の較正を行わなければならないという欠点を持つ。
【0006】
K.A.Nelsonらによって提案された光パルスを用いて薄膜試料における表面音響波の励起と検出を行う類似の方法(米国特許第5633711号、1997年5月27日) では、上記の方法の欠点を避けることが可能である。すなわち、この方法では試料の機械的・弾性的性質を測定する。この方法は光グレーティング法と呼ばれる手法を利用する。この手法では、2本のポンプ(励起)光ビームが異なった方向から試料上の同一点に集光され、その一部が試料に吸収される。このポンプ光ビームの集光点と同じ点に入射されたプローブ光ビームは回折を受ける。この回折光ビームの位相と強度は試料中の音響波に対して感度がある。2本のポンプ光ビームによって試料上に形成されたグレーティング状の干渉縞により、主としてグレーティングの縞方向に垂直な方向に伝搬する表面音響波を試料上に生成する。音響波の波長はグレーティングの縞間隔によって決定される。そこで、ポンプ光の角度を変化させてグレーティングの縞間隔を変化させることにより、グレーティングの縞方向に垂直な方向に伝搬する表面音響波の分散関係を実験的に求めることができる。表面音響波の伝搬は密度の変化、弾性定数の変化、膜厚の変化などの影響を受けるため、この方法により、試料の膜厚と弾性定数を同時に測定することができる。
【0007】
しかし、この方法を用いて試料が顕著な異方性を持つ場合に試料の全ての弾性定数を求めるためには、ポンプ光ビームの角度を変化させることに加えて、形成されるグレーティングの縞の方向を試料に垂直な軸の周りで回転させなければならない。これは音響波生成のための測定系の構成を測定中に変えなければならないことを意味するが、このような変更は測定の速度を低下させる。さらに、音響波の生成および伝搬に影響を与える何らかの欠陥や不均一性が試料の音響波生成の領域にあった場合、この測定方法は検出不可能な測定誤差を生じさせる。この検出不可能性はこの方法が試料中の観察領域の不均一性の情報を与える音響的揺動の画像を観測しないためである。さらに、この方法では音響波生成のためにポンプ光ビームを試料に斜めに入射しなければならない。しかし、測定の空間分解能を高めるためには光スポット径を小さくする必要があり、そのために垂直入射の光学系が使用されることが望ましい。垂直入射光学系ではスポット形状を真円に近づけることが容易であり、また単一の顕微鏡対物レンズを全ての光ビームの集光に用いることができるためである。さらに光グレーティング法は必然的に複数本の光干渉縞を試料上に形成する必要があり、光の回折限界の小さなスポットを用いて横空間分解能を高めることが原理的に不可能である。
【0008】
試料の機械的または弾性的性質を測定する別の光学的方法がA.NeubrandとP.Hessによって提案されている〔J.Appl.Phys.,vol.71,pp.227−238(1992)〕。この方法では試料表面の線状のポンプ光パルス照射領域が音響波源となる。この音響波源から空間的に離れた数点において、ポンプ光パルスから遅延したプローブ光パルスと光干渉計を用いて音響波による表面変位を遅延時間の関数として測定する。線波源に対して垂直方向に伝搬する表面音響波の分散関係は実験結果の1次元フーリエ解析により求められる。この方法により、例えば既知の密度と弾性定数を持つ基板上の薄膜の膜厚、密度、弾性定数が得られる。しかし、試料表面が異方性を持つ場合にこの方法を用いて分散関係を得るためには、線波源の方向を試料表面に垂直な軸を中心に回転させなければならず不便である。さらにこの方法は観察領域における試料の均一性の指標となる音響的揺動の画像を観測しない。
【0009】
K.L.Telschowらは、薄板の一点に接触させた圧電トランスデューサーを一定周波数で連続的に振動させることにより、点波源より薄板を伝搬する音響波(Lamb波) を励起し、その2次元画像を測定して音響波の分散関係を得た〔J.Acoust.Soc.Am.,vol.106,pp.2578−2587(1999)〕。この方法では、音響波の検出とその2次元画像化にホログラフィの技術が使用された。与えられた周波数でのLamb波の位相速度は、2次元画像のフーリエ解析により得られた。また、トランスデューサーの振動数を走査することにより、音響波の分散関係が得られる。しかしこの方法は音響波の励起にトランスデューサーを用いており、従って非接触測定には不向きである。
【0010】
光学系を用いない音響波伝搬イメージ測定法も存在する。R.E.Vinesらは点収束型トランスデューサーを用いて音響波伝搬の角度−時間イメージを測定した〔Z.Phys.B,vol.98,pp.355−371(1995)〕。この方法は試料の機械的・弾性的性質を測定することができる。しかしこの方法では試料を液体中に沈めることおよび測定系を試料に接触させることが必要であり、非接触測定には不向きである。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、従来の各種の試料の物理的性質の測定装置は、それぞれ問題点を有している。
【0012】
それに対して、本発明は、典型的な値として0.01psから1000ns程度の時間幅を持ち、10nmから100μmの波長範囲にあるポンプ光パルスを用いて音響波を励起し、10nmから100μmの波長範囲にあり0.01psから1000ns程度の時間幅を持つプローブ光パルスまたは同じ波長範囲にある継続的なプローブ光によって音響波を検出することにより、0.1nmから10mm程度の小さな空間領域における試料の物理的性質の非接触測定を可能にする。さらにこれにより音響波伝搬に影響を与える種々の物理的性質を測定することができる。
【0013】
測定の横空間分解能を高める目的のためには、ポンプ光を円形のスポットに集光することにより小さな局所化された音響波源を形成することが望ましい。この音響波源の形状は一般に試料の様々な面内方向に伝搬する音響的揺動を生成し、特に試料が異方性固体の場合にはフォノン収束効果による複雑な音響場を形成する。この音響的揺動の伝搬状況を把握し、試料が測定に必要な品質を持っているかを判断するために、試料の表面または内部の適切な範囲に渡って音響的揺動の画像を取得できることが望ましい。例えば音響的揺動の画像によって、試料の物理的性質を測定するために必要な、試料の弾性的および機械的性質の水平方向における均一性が試験される。この試験がなされなければ、試料の物理的性質が例えば試料の均一性や欠陥の有無などについての誤った仮定のもとに導き出されてしまう危険性がある。以上のことから、音響波、特に面内方向に伝搬しているそれによる揺動を時間の関数として適当な空間範囲における2次元画像として観測することは有益である。集光されたプローブ光のスポットを試料の表面または試料の内部において走査することによって、あるいはプローブ光を用いる別の画像化方法によって、ポンプ光パルスが試料に到着した後の異なる時刻において音響的揺動の画像を取得することができる。
【0014】
本発明は、このような音響的揺動の画像をもとに試料の物理的性質を取得する方法に関するものである。
【0015】
本発明によれば、試料に接触することなしに時間の関数として取得された音響的揺動の2次元画像を用いて、試料の機械的あるいは弾性的性質のような試料の物理的性質を取得することができる。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、短時間幅の光パルス照射に対する試料の音響的反応を光学的に検出することにより改善された、試料の物理的性質の測定方法を提供することである。
【0017】
本発明の他の目的は、試料への機械的接触を行わず、非破壊的に用いることができる試料の物理的性質の測定方法を提供することである。
【0018】
本発明の他の目的は、試料の比較的小さな大きさの領域について、試料の物理的性質の測定方法を提供することである。
【0019】
本発明の他の目的は、試料の音響的揺動が試料の適当な領域を伝搬する画像を取得する方法を提供することである。その場合、画像の横空間分解能は円形の光スポットの回折限界のみによって制限され、典型的には横空間分解能が1μmまたはそれ以下である。
【0020】
本発明の他の目的は、高い横空間分解能を得るために試料に垂直に入射するプローブ光ビームを用いて、短時間幅の光パルス照射による試料の反応を光学的に検出することによる試料の物理的性質の測定方法を提供することである。
【0021】
本発明の他の目的は、試料の表面または内部の与えられた領域における試料の物理的性質をマップする測定方法を提供することである。
【0022】
本発明の他の目的は、試料上において円形の光スポットの回折限界のみで制限される1μmまたはそれ以下の領域に局在化した光パルスによる、音響波の励起のみを用いた試料の物理的性質の測定方法を提供することである。
【0023】
本発明の他の目的は、短時間幅の光パルスによって試料上の局在領域に生成された音響波を用いた試料の物理的性質の測定方法を提供するものである。その場合、測定中に音響波を生成するための領域や形態を変化させる必要は無い。
【0024】
本発明の他の目的は、試料上の単一の局在領域のみを光パルスで励起することにより異方性試料の膜厚、弾性定数、密度を取得できる試料の物理的性質の測定手段を提供するものである。その場合、励起される局在領域の大きさは円形の光スポットの回折限界のみによって制限され、典型的には横空間分解能が1μmまたはそれ以下である。
【0025】
本発明の他の目的は、試料の局所的な領域周辺における音速を測定することにより、試料の膜厚を局所的に測定する音響パルス−エコー測定を較正する方法を提供するものである。音響パルス−エコー測定において、励起される局在領域の大きさは円形の光スポットの回折限界のみによって制限され、典型的には横空間分解能が1μmまたはそれ以下である。
【0026】
本発明の他の目的は、試料の物理的性質を測定すると同時に、測定部位付近を伝搬する音響的揺動の画像を取得し、測定部位付近の試料が均質で欠陥を含まないことを確認できる方法を提供するものである。
【0027】
本発明の他の目的は、バルク試料の物理的性質の測定方法を提供することである。
【0028】
本発明の他の目的は、薄膜試料の物理的性質の測定方法を提供することである。
【0029】
本発明の他の目的は、単層または複数の層からなる試料の物理的性質の測定方法を提供することである。
【0030】
本発明の他の目的は、膜または板状試料の物理的性質の測定方法を提供することである。
【0031】
本発明の他の目的は、不透明部分、透明部分、半透明部分またはそれらの組合わせからなる試料の物理的性質の測定方法を提供することである。
【0032】
本発明の他の目的は、等方性または異方性試料の物理的性質の測定方法を提供することである。
【0033】
本発明は、短時間幅の光パルスの照射に対する試料の比較的小さな領域の音響的反応において最大限の情報を観測するために必要な、真に効果的な機器を実現するものである。また同時に、この機器は光の回折限界までの横空間分解能を持ち、測定において試料上の音響波源の領域や形態を変更する必要がなく、等方性または異方性の試料において試料の物理的性質を定量的に測定可能なものであることを要求する。
【0034】
本発明は、ポンプ光パルスを用いて試料に瞬発的に音響波を励起し、引き続いて起こる音響的揺動をプローブ光を用いて試料の2 次元的領域に渡って検出することによって試料の物理的性質を測定する方法を特徴とする。ポンプ光パルスの光源としては時間幅が典型的には0.002psから2000nsのコヒーレントまたは部分的にコヒーレントな光パルスを周期的に発生するものを用いることができる。そのような光源の典型的なものは、高繰り返し周波数のモードロック固体レーザーである。プローブ光ビームとしては、時間幅が典型的には0.002psから2000nsの周期的な光パルスを用いることができ、この場合ポンプ光パルスの光源と同じものをプローブ光パルスの光源として使用できる。別の方法としてプローブ光は継続的な光を発生する光源から取り出すこともできる。ポンプ光およびプローブ光の波長としては10nmから100μmの範囲のものを用いることができ、その中心波長やスペクトル成分は双方において同一である必要はない。
【0035】
ポンプ光ビームは定められた方向から試料に向けられる。ポンプ光ビームはプローブ光ビームと同軸に試料に入射しても良い。ポンプ光パルスの役割は、広い範囲の波数成分および周波数成分を含む音響波を発生するための瞬発的な音響波源を生成することである。プローブ光ビームの役割は、試料表面または試料内部の音響的揺動を検出し、その2次元画像を取得することである。この目的のために、音響的揺動によってプローブ光に引き起こされる振幅、位相、偏光の変調を用いることができる。プローブ光がパルスである場合には、ポンプ光パルスが試料に到着した後に入射するプローブ光パルスにおける振幅、位相、偏光の変調の変化を用いることができる。また、別の方法としてポンプ光パルスが試料に到着した後に連続して試料に入射されるふたつのプローブ光パルスの間の振幅、位相、偏光の違いを用いて音響的揺動を検出することもできる。ポンプ光パルスとプローブ光パルスの試料への到着時間の差を変化させることにより、その時間差の関数として複数の音響的揺動の画像を取得する。この画像を取得するために光を照射される試料上の領域は、それ自身試料上の定められた領域内で走査され、走査領域内の試料の物理的性質をマップすることができる。
【0036】
ポンプ光ビームを形成する光パルスは試料で吸収され音響波を生成する。生成される音響波の種類は、例えば縦波音響波、横波音響波、表面音響波、界面音響波などである。具体的な生成音響波の例は、Rayleigh波、Lamb波、Love波、Stoneley波、一般的な表面音響波、疑似表面音響波、表面スキミングバルク波などである。これらの音響波は試料表面または試料内界面の機械的な運動を引き起こし、また試料内の音響的歪み場を変化させる。これらの変化がプローブ光ビームを形成する光の振幅、位相、偏光を変調する。
【0037】
異なる時刻における音響的揺動の一連の画像が得られると、それらの2次元空間フーリエ変換を実行する。異なる複数の画像のフーリエ変換を用いて、実験的な分散関係ω(k# )を計算する。ここでωは角振動数、k# は音響波数ベクトルである。この分散関係は一般的には一つ以上の分枝からなる。それぞれの分枝は試料中を伝搬するそれぞれの音響モードに対応する。分散関係は実部と虚部を持ちうる。分散関係の虚部は試料の音響的減衰を表している。試料の物理的性質をあらわす変数を仮定することによって理論的に得られる分散関係と実験的な分散関係を比較し、両者の差が小さくなるように仮定した変数を変化させることにより、試料のプローブされた領域を特徴づける物理的性質、例えば、弾性定数、音響減衰、密度、膜厚などが得られる。さらにこれらの物理的性質に関連する他の量、例えばイオン注入量、内部応力、表面粗さ、界面粗さ、表面吸着物質、粘着性、粒径、空隙率、微細構造、湿度の効果などを測定することができる。
【0038】
【発明の実施の形態】
本発明とともに用いられる典型的な装置を図1に示す。
【0039】
この装置は時分割干渉計を用いている。図1における時分割干渉計3の例は本願発明者による特開2001−228121,特開2001−228122,特開2001−228123に詳しい。この時分割干渉計3は試料への到着時間がわずかに異なる2つの短時間幅のプローブ光パルスの位相差を検出する。2 つのプローブ光パルスは図中でプローブ光パルス1、プローブ光パルス2として表されている。プローブ光パルス1およびプローブ光パルス2はプローブ光ビーム9を形成し、それはレンズ5によって試料6上の同一の局在領域11に試料6に垂直な方向またはほとんど垂直な方向より集光される。図1は励起およびプローブ光に対して試料が不透明な場合に対応している。短時間幅のポンプ光パルス4はビームスプリッター12を介してレンズ5によって試料6上の局在領域11の近傍に試料に垂直な方向またはほとんど垂直な方向より集光される。ポンプ光とプローブ光とが同一の中心波長を持たない場合はビームスプリッター12を2色性ビームスプリッターとすると有利である。ポンプ光パルス4は瞬発的な局所音響波源8を試料6上に生成する。ポンプ光ビーム10の試料6上での空間ビームプロファイルは軸対称、例えばガウシアン形状に選ぶことが、広い範囲に渡る面内波数ベクトルを持つ音響波を励起する上で、すなわち広い波数ベクトル範囲に対応する実験的な分散関係を取得する上で有利である。時間の経過と共に音響的揺動は音響波面として外向きに拡がっていく。音響的分散のために音響波面は空間的に拡がりうる。ポンプ光パルスおよびプローブ光パルスとしては周期的なパルス列を使用して適当な時間に渡って検出信号を平均化するのが通例である。
【0040】
一般にプローブ光と音響的揺動との間の結合は試料表面または試料表面近傍の音響的運動あるいは試料6の内部の音響的歪みを介して起こる。試料6の表面または界面の音響的変位の面外成分、試料6の表面または界面の音響的変位の面内成分、試料6の表面または界面の音響粒子速度の面外成分、試料6の表面または界面の音響粒子速度の面内成分、試料6の音響的歪みテンソルの6つの成分のうちの一つで表される量のうちの少なくとも一つがプローブ光と結合すれば、原理的に音響的揺動を検出できる。試料6におけるプローブ光ビーム9の光侵入長以内の音響的歪みは一般に光弾性効果を通じてプローブ光の変調に寄与する。
【0041】
プローブ光は、一般に図1の時分割干渉計3内に設置された光検出器によって観測される。信号ノイズ比を改善するために周知の技術であるポンプ光ビームのチョッピングとロックイン検出が用いられる。
【0042】
音響的揺動はポンプ光パルス4が試料6に入射する瞬間の時刻とプローブ光パルス1およびプローブ光パルス2が試料6に入射する瞬間の平均時刻との間の定められた遅延時間において検出される。この遅延時間は光学的遅延またはポンプ光パルスとプローブ光パルス間に電子回路によって付される遅延によって与えられる。これらのポンプ光パルスおよびプローブ光パルスにはしばしば同一の繰り返し周波数を持つ周期的なパルス列が用いられる。試料6上におけるポンプ光スポットとプローブ光スポットとの相対的な位置関係を走査することにより、音響的揺動の画像が得られる。ついでポンプ光パルス4が試料6に入射する瞬間の時刻と音響的揺動が検出される時刻すなわちプローブ光パルス1およびプローブ光パルス2が試料6に入射する瞬間の平均時刻との間の遅延時間を変化させることにより、様々な遅延時間における音響的揺動の画像を得ることができる。先に引用した本願発明者らによる発明で述べられているように、プローブ光パルス1とプローブ光パルス2の間の時間差を十分に小さく選ぶことにより、試料6からのプローブ光の反射光の位相変化の時間微分を実効的に検出することができる。
【0043】
本発明の全ての実施例では、合理的な近似として音響波の伝搬が線形な弾性波動方程式で記述されることを仮定している。一般には弾性波動方程式は散逸項を含んでいても良い。そのような線形波動方程式は例えばG.W.FarnellとE.L.Adlerによって与えられた異方性基板上の異方性薄膜における表面音響波の伝搬を記述する標準的な異方性弾性方程式である〔PhysicalAcoustics,vol.9,edited by W.P.Masonand R.N.Thurston,pp.35−127(AcademicPress,New York,1972)〕。
【0044】
時間に依存する音響的揺動f(r# ,t)は実の関数であり、その2次元フーリエ変換F(k# ,t)とは
【0045】
【数6】
【0046】
の関係がある。ここで音響波の伝搬は単一の音響モードのみによって支配されていると仮定した。波数スペクトルF0 (k# )は瞬発的な局所音響波源8の特性に依存する。結局のところそれは例えばポンプ光ビーム10の試料6上でのスポットの大きさ、ポンプ光パルス4の時間的な形状、ポンプ光ビーム10の強度、試料6の光学的、電子的、熱的、機械的および弾性的特性などに依存する。この波数スペクトルは音響波のスペクトル成分を決定づける。音響的揺動の角振動数ωとプローブ光の観測面上での音響的揺動の波数ベクトルk# との間の関係ω(k# )は、伝搬する音響モードが音響的減衰を示すときには一般に複素数になる。プローブ光の観測面を試料の表面7あるいは試料の界面に平行になるように選ぶのが有利である。以下ではプローブ光の観測面に沿ったベクトルの方向を面内方向と呼ぶことにする。この方向はプロープ光による画像観測光学系の配置によって決定される。
【0047】
本発明の第1の実施例では検出された音響波揺動の主要部分が単一の音響モードの伝搬に起因する場合を扱う。さらにこの実施例では試料6上の画像に寄与する領域内ではこの音響モードの音響的減衰が無視できることを仮定する。ここでいう試料6上の画像に寄与する領域とは、試料上で音響的揺動を検出する領域のことを指す。ここで扱う音響モードの一例は等方性基板上のRayleigh波である。しかしながら、この第1の実施例の適用は等方的物質に限られない。
【0048】
一定の時間間隔t1 ( >0)をおいて連続した3枚の音響的揺動の画像を記録する。方程式(1)および(2)に従って一定の時間間隔をおいた3つの対応するフーリエ変換F(k# ,t)を求める。これは標準的な数値的フーリエ変換の手法または高速フーリエ変換(FFT)によって行える。時刻原点t=0は時系列の真ん中の画像を取得した時刻とする。時刻t=t1 において
【0049】
【数7】
【0050】
である。ここで音響的減衰を無視することに対応して(i)ω(k# )=ω* (k# )である。また、試料の面内方向への均一性のために(ii)ω(k# )=ω(−k# )である。従って
【0051】
【数8】
【0052】
となる。式(4)〜(6)において波数スペクトルF0 (k# )を消去することによって実験的な分散関係ω(k# )は
【0053】
【数9】
【0054】
のように3つのフーリエ変換を用いて表すことができる。t1 は既知であるから3つの画像から単一の音響モードの分散関係ω(k# )を求められることが示された。単一のポンプ光パルス4を用いる場合は、時刻−t1 はポンプ光パルス4が試料6に入射する時刻よりも後に選ばれる必要がある。ここで表れた実験的な分散関係ω(k# )は波数スペクトルF0 (k# )が0でない音響波数ベクトルk# の範囲に渡って得られる。例えば、基板上の厚さdの薄膜について測定を行う場合、波数1/d付近においてF0 (k# )が大きな値をとるようにすることが有利である。これは例えばポンプ光スポットの大きさを調節することで実現される。すなわち試料6上でのポンプ光ビーム10の面内空間プロファイルにおいてビームの面内方向への拡がりがd程度であれば良い。加えてポンプ光パルスの時間幅をd/vより短くなるように選ぶことが有利である。ここでvは考えている音響モードの典型的な位相速度である。この時間幅の選択は、生成される音響的揺動の周波数帯域による制限を緩和することが目的である。また別の方法として生成される音響的揺動の周波数帯域を制限したい場合においてはポンプ光パルス4の時間幅を故意にd/vより長く選ぶことも可能である。もし必要であれば波数スペクトルF0 (k# )は3つの音響的揺動の画像のフーリエ変換を用いて
【0055】
【数10】
【0056】
とあらわすことができる。ここでω(k# )は式(7)で与えられる。
【0057】
実験的な分散関係ω(k# )が得られたなら、考えている試料の波動方程式に基づいて問題とする音響モードについて理論的に求められた分散関係と実験的な分散関係とを比較することができる。
【0058】
もし試料6が均質な基板から成るものであれば、音響的減衰を考えない場合の分散関係は弾性定数と密度に依存する。測定できる物理的性質は(1)弾性定数、および(2)密度のうちから選択される。理論的な分散関係を求める際に仮定する弾性定数または密度あるいはその両方を調節して、理論的な分散関係と実験的な分散関係との差を最小になるようにすることでこれらの量を求めることができる。一般的にこれらの量のうち一部が既知であれば、残りの量を求めることは簡単になる。この最小化の手続きは周知のものであり、ここではその詳細については述べない。
【0059】
もし、試料6が均質な基板とその上に形成された薄膜から成るものであれば、音響的減衰を考えない場合の分散関係は薄膜の厚み、薄膜と基板双方の弾性定数および薄膜と基板双方の密度に依存する。測定できる物理的性質は(1)薄膜の厚み、(2)薄膜または基板の弾性定数、および(3)薄膜または基板の密度のうちから選択される。理論的な分散関係を求める際に仮定する薄膜の厚み、薄膜および基板の弾性定数および密度の一部または全部を調節して、理論的な分散関係と実験的な分散関係との差を最小になるようにすることでこれらの量を求めることができる。
【0060】
もし、試料6が多層構造を持つものであれば、音響的減衰を考えない場合の分散関係は各層の厚み、弾性定数および密度に依存する。測定できる物理的性質は(1)各層の厚み、(2)各層の弾性定数、および(3)各層の密度のうちから選択される。理論的な分散関係を求める際に仮定する各層の厚み、弾性定数および密度の一部または全部を調節して、理論的な分散関係と実験的な分散関係との差を最小になるようにすることでこれらの量を求めることができる。
【0061】
実験的な分散関係の精度を上げるために、検出される音響的揺動の画像において、瞬発的な局所音響波源8から出発した音響波面が画像観測領域の端に到達することによるクリッピングの効果を避けることが有利である。
【0062】
ポンプ光パルス4に周期的なパルス列を用いている場合、それぞれのポンプ光パルス4によって励起された一連の音響波面が形成される。このような状況下での音響的揺動の画像の処理においては、あらかじめ取得された音響的揺動の画像に空間的なフィルター処理を施して、単一のポンプ光パルスに対応する音響波面のみを残しておくことが有利である。特に−t1 からt1 の間に新しい瞬発的な局所音響波源8が生成されないようにすること、および既に述べたように観測領域の端に到達している波面をフィルターによって取り除くことが有利である。
【0063】
上記の実施例において、3つの音響的揺動の画像を取得する時間間隔を一定にすることは不可欠の用件ではない。式(4)〜(6)を一般化して任意の3つの時刻における音響的揺動の画像を用いて実験的な分散関係を求められるように拡張することは容易である。しかしながら、実施例にあるように画像取得時刻を選ぶのが最も簡単で代数的にも便利である。
【0064】
本発明の第2の実施例では、検出された音響波揺動の主要部分が、単一の音響モードの伝搬に起因する場合を扱う。さらにこの実施例では、試料6上の画像に寄与する領域内でこの音響モードの音響的減衰が無視できないことを仮定する。ここで扱う音響モードの一例は、等方性基板上のRayleigh波である。しかしながら、この第2の実施例の適用は等方的物質に限られない。
【0065】
この場合、再び式(1)〜(3)に基づいて取り扱いを進める。第1の実施例の場合と異なり、試料の面内方向への均一性に基づくω(k# )=ω(−k# )の関係のみを仮定する。ω(k# )=ω1 (k# )−iω2 (k# )と書いてω1 (k# ),−ω2 (k# )がそれぞれω(k# )の実部、虚部であるとする。解析には5つの時刻−t2 ,−t1 ,0,t1 ,t2 における音響的揺動の画像を以下のように使用する。
【0066】
【数11】
【0067】
ここで、0 <t1 <t2 とする。時刻原点t=0は再び時系列の真ん中の画像を取得した時刻とする。
【0068】
5つのフーリエ変換について式(9)〜(13)を用いて波数スペクトルF0 (k# )を消去し、実験的な分散関係ω1 (k# )を含む方程式
【0069】
【数12】
【0070】
が得られる。
【0071】
t1 ,t2 は既知であるので、上の関係を用いて5つの音響的揺動の画像から単一の音響モードについての分散関係ω1 (k# )が得られる。特にt1 =t2 と選ぶことにより方程式は
【0072】
【数13】
【0073】
と簡単化される。ω1 (k# )がわかると式(9)〜(13)を用いて容易にω2 (k# )を求めることができる。ω2 (k# )は関係ω2 (k# )=α(k# )v(k# )のように表すこともできる。ここでα(k# )は、音響的な吸収係数で長さの逆数の次元を持つ単位で表される。またv(k# )=ω1 (k# )/kは注目している音響モードの位相速度である。また、k= |k# |である。一般に吸収係数α(k# )は試料中の粒界や空隙、またその他の微細構造の存在に敏感である〔E.P.Papadakis,Physical Acoustics,ed.W.P.Mason,vol.4B,pp.269−328(Academic Press,New York,1968)およびJ.E.Gubernatis and E.Domany,Wave Motion,vol.6 pp.579−589(1984)〕。すなわちω1 (k# )とω2 (k# )を求めることによりα(k# )がわかり、それによって試料の粒径や空隙率を評価できる。さらに表面音響波の減衰は表面粗さ、界面粗さ、表面吸着物質、湿度に影響されるので、これらの物理量も減衰を通して測ることができる。例えば、この方法により物質表面の清浄度を評価することができる。
【0074】
上に述べた第2の実施例では、音響的揺動の画像を取得する時間間隔が特別の関係を持つように指定したが、より一般的には任意の複数の時刻における画像を用いて実験的な分散関係を得ることもできる。しかしながら、実施例にあるように画像取得時刻を選ぶのが最も簡単で代数的にも便利である。波数スペクトルF0 (k# )は一般に実部と虚部を持つ複素関数になっており、式(9)〜(13)における未知関数は全部で四つである。従って、原理的には四つの時刻における音響的揺動の画像があれば、ω1 (k# )とω2 (k# )を決定することができる。しかし、この方法は第2の実施例に挙げた方法よりも代数的には便利でない。
【0075】
本発明の第3の実施例では、検出された音響波揺動の主要部分が二つの音響モードの伝搬に起因する場合を扱う。さらにこの実施例では、試料6上の画像に寄与する領域内でこれら音響モードの音響的減衰を無視できることを仮定する。ここで扱う二つの音響モードの一例は、等方性基板上のRayleigh波および表面スキミングバルク波である。また二つの音響モードの別の例は異方性物質の表面音響波と疑似表面音響波である。
【0076】
この場合式(1),(2)は一般化されて
【0077】
【数14】
【0078】
となる。2つの音響分枝は音響モード1,2に対応し、それぞれの分散関係をω1 (k# ),ω2 (k# )とする。波数スペクトルF1 (k# ),F2 (k# )は、それぞれ音響モード1,2の振幅を表す。この記法を第2の実施例における記法と混同してはならない。再び試料の面内方向への均一性に基づいてω(k# )=ω(−k# )を仮定する。この解析法は7つの異なる時刻−3t1 ,−2t1 ,−1t1 ,0,t1 ,2t1 ,3t1 における音響的揺動の画像を用いる。時刻原点t=0は再び時系列の真ん中の画像を取得した時刻とする。
【0079】
【数15】
【0080】
関係cos(2θ)=2cos2 θ−1およびcos(3θ)=4cos3 θ−3cosθを用いるとω1 (k# ),ω2 (k# )についての以下の2つの方程式
【0081】
【数16】
【0082】
が得られる。ここでA=F(k# ,t1 )+F(k# ,−t1 ),B=F(k# ,2t1 )+F(k# ,−2t1 ),C=F(k# ,3t1 )+F(k# ,−3t1 ),D=2F(k# ,0)である。式(25),(26)を数値的に解くことによりω1 (k# ),ω2 (k# )が得られる。このようにして2つの異なる音響モードについての分散関係が得られる。実験的な分散関係と理論から得られた分散関係とを比較して試料の物理的性質を取得する場合には、どちらか一方の音響モードの分散関係あるいは両方の分散関係のいずれを用いても良いが、精度の点からは両方の分散関係を用いた方が有利である。
【0083】
上に述べた第3の実施例では、音響的揺動の7つの画像を一定の時間間隔をおいて取得したが、より一般的には任意の複数の時刻における画像を用いて実験的な分散関係を得ることもできる。しかしながら実施例にあるように画像取得時刻を選ぶのが最も簡単で代数的にも便利である。式(18)〜(24)における未知関数は全部で6つである。従って原理的には6つの時刻における音響的揺動の画像があれば、ω1 (k# ),ω2 (k# )を決定することができる。しかし、この方法は第3の実施例に挙げた方法よりも代数的には便利でない。
【0084】
これまでに述べた第1から第3の実施例を検討することによって、試料が面内方向に均一である場合に、解析方法を一般化することができる。まず、N個の音響モードがあり、試料6上の画像に寄与する領域内でこれらの音響モードの音響的減衰が無視できる場合、一般に少なくとも3N個の異なる時刻における音響的揺動の画像を元に各音響モードに対応する実験的な分散関係を得ることができる。また、N個の音響モードがあり、試料6上の画像に寄与する領域内でこれらの音響モードの音響的減衰が無視できない場合、一般に少なくとも4N個の異なる時刻における音響的揺動の画像を元に各音響モードに対応する実験的な分散関係を得ることができる。さらに、N個の音響モードがあり、そのうちM個の音響モードについて試料6上の画像に寄与する領域内で音響的減衰が無視できない場合、一般に少なくとも3(N−M)+4M=3M+N個の異なる時刻における音響的揺動の画像を元に各音響モードに対応する実験的な分散関係を得ることができる。実験的に得られた分散関係と理論から得られた分散関係とを比較して試料の物理的性質を取得する場合には、これらのうち一つ以上の音響モードの分散関係を用いれば良いが、精度の点からはなるべく多くの分散関係を用いた方が有利である。
【0085】
波数スペクトルに特別の制限が課せられる場合には、信号処理に必要な音響的揺動の画像の数を減らすことができる。例えば、いくつかの音響モードの波数スペクトルが実数または純虚数であることがあらかじめ分かっていれば、そのような音響モードの数だけ、必要な音響的揺動の画像の枚数を減らすことができる。このような状況は、瞬発的な局所音響波源8が良い軸対称性を持ち、その時間変化が良い時間対称性を持っている場合に、近似的に起こりうる。
【0086】
分散関係を導き出す方法としてこれまで3つの実施例について述べたが、これらをより一般的な場合に分散関係を導き出す方法へと拡張することは容易である。すなわち、N個の音響モードがあり、そのうちいくつかの音響モードについて試料6上の画像に寄与する領域内で音響的減衰が無視できない場合を考える。それぞれの音響モードの分枝に対応する分散関係をω1 (k# )=ω11(k# )−iω21(k# ),ω12(k# )−iω22(k# ),…ω1n(k# )−iω2n(k# ),…ω1N(k# )−iω2N(k# )とする。一連の音響的揺動の画像の2次元空間フーリエ変換は
【0087】
【数17】
【0088】
で表される。Fn (k# )は音響モードnの波数スペクトルである。必要な数の異なる時刻におけるフーリエ変換を用いて波数スペクトルを消去することにより、各音響モードの分散関係が得られる。
【0089】
本発明の第4の実施例では試料6中で励起された多数の音響モードが検出された音響波揺動に寄与する場合の信号解析の別の方法を与える。この実施例では、試料6上の画像に寄与する領域内でこれらの音響モードの音響的減衰が無視できることを仮定する。ここで扱う多数の音響モードの組み合わせの一例は、異方性基板における表面音響波、疑似表面音響波、表面スキミングバルク波が共存する場合である。
【0090】
この場合、式(1),(2)を一般化することにより
【0091】
【数18】
【0092】
が得られる。ここで、nは音響モードを区別するための添字である。既に述べたように、ωn (k# )=ωn * (k# )およびωn (k# )=ωn (−k# )である。この実施例では複数の音響的揺動の画像が必要である。それらは時間フーリエ変換により
【0093】
【数19】
【0094】
とされる。空間的フーリエ変換の場合と同様に、F(k# ,ω)の計算においては数値積分による標準的な数値フーリエ変換あるいは時刻0から適当な時刻Tまでを等分割した時刻において取得した一連の画像を用いた高速フーリエ変換が用いられる。式(29)は正のωに対して
【0095】
【数20】
【0096】
と変形される。この式はF(k# ,ω)が非0になるようなωとk# の組合わせを持つ音響波が存在可能であることを示している。言い換えると式(30)は直接に各音響モードに対する実験的な分散関係を与える。波数スペクトルFn (k# )は単なる定数倍の因子であり、与えられたωに対する可能なk# を決定するに当たっては無関係である。F(k# ,ω)から実験的な分散関係を得るためには、適当な正の定数εを用いて|F(k# ,ω)|がεより大きくなるk# ,ωの組を探せば良い。εはノイズレベルよりも大きいように選ばれる。実験的な分散関係における等ω曲線の形状を眺める別の方法では、スロウネス曲線が描かれる。スロウネス曲線のプロットの二つの軸は波数ベクトルの成分をωで割ったものすなわちk# x /ω,k# y /ωである。ωによる除算は曲線の形を変えないので、スロウネス曲線と分散関係における等ω曲線とは同じ形状をしている。
【0097】
第1の実施例において述べたように、ポンプ光パルス4が周期的なパルス列である場合、測定がなされる時刻0からTの間に新しい瞬発的な局所音響波源を生成しないことが有利である。またこれも既に述べたように観測領域の境界に音響波面が到達することを避けることが有利である。
【0098】
本発明の第5の実施例では、試料6中で励起された多数の音響モードが、検出された音響波揺動に寄与する場合の信号解析の別の方法を与える。この実施例では試料6上の画像に寄与する領域内でこれらの音響モードの音響的減衰が無視できないことを仮定する。ここで扱う多数の音響モードの組み合わせの一例は異方性基板における表面音響波、疑似表面音響波、表面スキミングバルク波が共存する場合である。
【0099】
この場合、式(1),(2)を一般化することにより
【0100】
【数21】
【0101】
が得られる。ここでnは音響モードを区別するための添字である。またωn (k# )=ω1n(k# )−iω2n(k# )とする。この実施例では複数の音響的揺動の画像が必要である。それらは2次元空間的フーリエ変換と時間フーリエ変換により
【0102】
【数22】
【0103】
とされる。積分の下限は、音響減衰のために積分が発散することを避けるように−t0 とされる。式(32)はω2nがω1nよりずっと小さいときに正のωに対して
【0104】
【数23】
【0105】
と変形され、
【0106】
【数24】
【0107】
が得られる。この結果は、音響減衰が式(30)のデルタ関数に幅をつけるような効果を持つこと、および一定のωに対する|F(k# ,ω)|のピーク位置には音響減衰は影響しないことを示している。各音響モードnに対する分散関係ω1n(k# )は関数|F(k# ,ω)|を用いて第4の実施例の場合と同様にして求められる。すなわち、各モードの与えられたωに対して、デルタ関数が0でない音響波数ベクトルk# のかわりに、関数|F(k# ,ω)|の極大を与える音響波数ベクトルk# が存在可能な音響波のω,k# の組を与える。また、第4の実施例と同様にして、ノイズレベルよりも大きなεと|F(k# ,ω)|との大小を判断することにより実験的な分散関係を得ることができる。さらに、第4の実施例と同様に波数スペクトルFn (k# )は単なる定数倍の因子であり、与えられたωに対する可能なk# を決定するに当たっては無関係である。
【0108】
音響モードnの音響減衰に関係する分散関係ω2n(k# )は式(34)によってωの関数としての|F(k# ,ω)|2 の半値全幅より得られる。
【0109】
これまで述べてきた全ての実施例において、音響的揺動の画像が軸対称性を示す場合にはフーリエ変換のかわりにベッセル関数を用いた方程式を用いることもできる。しかしこれは単に数学的な表現方法の違いであり、フーリエ変換を用いる方法と本質的に異なるものではない。
【0110】
本発明と共に用いられる実験装置は先に述べられたものに限られない。プローブ光ビーム9の位相の変化を検出する代りに、反射または透過した光の強度の変化のみあるいは偏光の状態の変化のみを検出しても良い。あるいはまたポンプ光パルス4とともに単一のプローブ光パルス1のみを用いても良い。音響的揺動の画像を形成するためには一般にプローブ光パルスの振幅、位相、偏光が音響的揺動によって変調されるか、または試料6に引き続いて入射するプローブ光パルス1およびプローブ光パルス2の間の振幅、位相、偏光の差が音響的揺動によって変調されることが必要である。ポンプ光パルス4に対してより多くのプローブ光パルスを用いることも可能である。更にプローブ光に光パルスを用いることは本質的ではない。検出に要求されるバンド幅によっては、継続的な光をプローブ光ビーム9として用いることが有利な場合もある。この場合、音響的揺動によるプローブ光の変調は、例えば光検出器によって継続的に検出され、音響的揺動に依存する信号がポンプ光ビームとプローブ光ビームの試料上での与えられた相対的な位置において時間領域で直接的に記録される。また、プローブ光の位相変化を検出することができるので、試料はプローブ光に対して透明であっても良い。
【0111】
例えば、図2に示すようにプローブ光が試料6に入射するのと反対の方向からポンプ光ビーム10をレンズ13を介して試料6に入射しても良い。これは試料6が透明基板上の不透明薄膜である場合に便利である。さらに本手法は平行な面を持つ試料に限定されるものでない。例えば瞬発的な局所音響波源8が結晶の一つのファセットにあり、音響的揺動の検出が先のファセットと平行でない別のファセットにおいて行われても良い。言い換えれば、試料6での音響的揺動の発生と検出において、瞬発的な局所音響波源8と検出領域は必ずしも重なっている必要はなく、試料6の別々の部分で行われても良い。また音響的揺動は必ずしも試料6の表面にある必要はない。例えば透明なバルク物質の間に金属薄膜が挟み込まれたような試料も本手法で扱うことができる。この場合は界面音響波に関係する試料の物理的性質を測定することができる。さらに、これまでの議論では平面の表面あるいは界面を持つ試料が暗黙に仮定されていたが、表面または界面がゆるい曲率の曲面を持つ場合であっても、画像の取得領域がその内部に顕著な曲率の部位を含まないように選ばれるなら本手法を適用できる。
【0112】
試料6上のポンプ光ビーム10およびプローブ光ビーム9の相対位置は音響的揺動の画像を形成するために走査される。得られる画像の解釈を容易にするために、試料6上におけるポンプ光ビーム10の位置を固定して像を形成することが有利である。しかし、試料6が面内方向に均質である場合にはこれは本質的ではない。ポンプ光ビーム10またはプローブ光ビーム9は試料に斜め方向から入射しても良い。この場合でも必要であれば試料表面7におけるビームスポット形状が円形になるように円筒レンズを用いてビーム形状を補正することができる。ある種の試料においてはプローブ光ビーム9を斜めから入射することにより試料6中の音響歪みと光との結合を変化させ音響的揺動の画像の強度を増加させることができる。また、ポンプ光ビーム10およびプローブ光ビーム9において単一の中心波長や単一の偏光を用いなければならない理由は無い。複数の中心波長や偏光を用いることは、例えば多層膜試料において試料の異なる場所の音響波生成および検出の効率を高めるために有益である。
【0113】
画像取得のための別の方法は、並列的データ収録技術を利用するものである。これにより複数の点、線または試料6のかなりの領域がプローブ光ビーム9によって照射され試料6の複数の部分が同時に検出される。マルチチャンネル光検出器をこの目的のために用いることができる。さらに一連の画像を得るための試料6上の光照射領域は、試料上の与えられた領域内での物理的性質をマッピングするために試料6上で走査される。
【0114】
試料6において生成される音響波の種類は、試料の形状のみならずキャリアの励起や温度の変化にも依存することがある。例えば音響波の生成は熱弾性効果、変形ポテンシャル、エレクトロストリクション、アブレーションなどによって起こる。この音響波は例えば表面音響波、界面波、縦波、横波、または一般のバルク波である。本発明においては、もっぱら試料6の表面または内部の界面に平行な面内方向に伝搬する音響波の解析を行う。これらは例えばRayleigh波、Lamb波、Love波、Stoneley波、一般の表面音響波、疑似表面音響波、表面スキミングバルク波などである。これらの波の伝搬状況は各層厚み、弾性定数、密度に依存し、従って実験的な分散関係もこれらの物理的諸量に依存する。またこれらの物理的諸量は別の物理量と結び付いている。例えば試料の弾性定数および密度に依存する音速は、試料の空隙率〔C.M.Sayers,J.Phys.D:Appl.Phys.,vol.14,pp.413−420(1981)〕、あるいは内部応力〔A.L.Nalamwar and M.Epstein,J.Appl.Phys.,vol.47,pp.43−48(1976)〕に影響される。これらの物理的性質は、それが独立に起こり、空隙や内部応力が存在しない状態での弾性定数が較正されている場合には簡単に測定される。もしこれらが独立でない場合には、より複雑な較正方法が必要となる。さらに弾性定数と音響減衰はイオン打ち込み量に敏感であり、従って本測定によりイオン打ち込み量を評価することができる。イオン打ち込みの結果、試料に物理的性質の不均一な傾きが生じる。本発明による方法は一般的にそのような傾きについての情報をも取得することができる。
【0115】
試料6における短時間幅のポンプ光パルスの空間プロファイルとしては試料6上においてなめらかで軸対称性を持つものを選択することが普通であるが、別のプロファイルを選択することもできる。同様に短時間幅のポンプ光パルスの試料6上での時間プロファイルとしては滑らかなものを選択することが普通であるが、別のプロファイルを持つものを選択することもできる。
【0116】
本手法においては通常試料の面内方向に伝搬する波を取り扱う。それに対して周知の技術として試料の深さ方向に伝搬する光励起音響波を観測するパルス−エコー法がある〔J.Tauc et al.,米国特許4710030,1987年12月1日または本願発明者らの特開2001−228121〕。音響パルス−エコー法を用いる利点は、これが試料上の局所的な領域で生成された音響波を用いるものであり、その検出も局所的に行われるため、試料の物理的性質を1μm以下の高い横空間分解能を持って測定できることである。これらのパルス−エコー法においては、音響波の伝搬時間が計測される。従って、例えば試料の厚みをパルス−エコー法によって測定するためには、あらかじめ試料の音速、あるいは弾性定数と密度を測定しておく必要がある。本発明のために用いた例えば図1,図2に示したような装置はそのままで容易にパルス−エコー法の測定にも使用することができる。従って、本発明の手法による音速の測定をパルス−エコー法の較正手段として用いることで測定装置の付加価値を高めることができる。
【0117】
【発明の効果】
本発明において記述された方法は、幅広い分野において試料の物理的性質を比較的小さな領域について測定することに用いられる。その多様性は本発明を様々な試料、例えば、不透明、透明および半透明な部分の組合わせから成る試料、均質、不均質、層構造、シート状、板状、等方性、異方性の試料などに適用可能とする。本発明は試料の物理的性質、例えば膜厚、密度、弾性定数、音響減衰、および粘着力などを非接触・非破壊で測定することを可能にする。密度、弾性定数、音響減衰はさらに様々な物理的性質、例えば空隙率、粒径、微細構造、内部応力、表面粗さ、界面粗さ、表面吸着物質、湿度の効果に関連づけられる。表面以外の層や断面の試料の物理的性質を検出しマッピングすることもできる。この方法はまた試料表面や内部の音響的揺動を広い空間的領域に渡って画像化することができる。これは試料中の面内方向に伝搬する音響波の性質を調べたり、試料が面内方向に十分な均一性を持っているのかを評価することに用いられる。特に表面音響波や界面波の伝搬を時間の関数としての2次元画像として観測できることが利点である。本方法は試料の音響的反応から試料の微小領域について最大限の情報を引き出す。同時に測定の横分解能は光の回折限界程度まで高めることができる。さらに本発明は音響パルス−エコー法と組み合わせて用いることにより同手法の較正を行えることが利点である。
【0118】
非接触型で画像観測能力を持たない他の試料の物理的性質の測定装置に比較して、本発明は幅広い分野での応用が可能である。垂直入射光学系を用いているために測定を回折限界の光スポットを用いて行うことができる。更に重要な特徴として、測定中に測定形式や測定範囲を変化させる必要がなく、必要な測定を短時間で完了できる。
【0119】
以下、具体例について説明する。
【0120】
本発明の方法を検査するために図2の装置を用いた。実験はポンププローブ法に基づくものでサブピコ秒の時間幅を持つ可視広域のポンプ光パルス4によって音響波を周期的に発生させる。ここで用いた実験配置による制約から、試料6として透明基板上に不透明な薄膜や構造を蒸着したものを用いた。Ti−サファイアモードロックレーザーからの出力光を逓倍し、波長415nm、継続時間約1ps、繰り返し周波数80MHzのポンプ光パルス4とする。これを試料6の基板側から、100倍の長作動距離顕微鏡対物レンズ13によって試料6の不透明部分に強度の半値全幅が2μmのガウシアンスポットとして試料表面に垂直に入射・集光する。典型的な入射ポンプパルスエネルギーは0.3nJ程度である。このエネルギーは金薄膜試料において100K程度の過渡的な温度上昇をもたらす。ポンプ光パルス4は試料6内に複雑な3次元音響場を作り出す。特に面内方向に伝搬する表面音響波を発生させる。この表面音響波の波長は主としてポンプ光スポットの面内方向の大きさによって決定されるが、熱拡散の効果も若干含まれる。本実験の場合の典型的な波長は3〜30μmの程度である。これは周波数領域では100MHzから1GHz程度に対応する。
【0121】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【0122】
音響的揺動の検出は安定度の高い共通経路型サニアック干渉計を用いて行った。干渉計の詳細は本願発明者らによる特開2001−228121に記載されている。プローブ光パルスの中心波長は830nm、継続時間200fsで、試料6の薄膜側から50倍の長作動距離顕微鏡対物レンズ5によって試料6の不透明部分に強度の半値全幅が3μmのガウシアンスポットとして試料表面に垂直に入射・集光する。ポンプ光パルス4を出力するレーザーと同一のレーザーから取り出されたポンプ光パルス4と同期したプローブ光パルス1およびプローブ光パルス2を検出に用いた。ポンプ光パルス4が試料6に到着した後、適当な時間をおいてプローブ光パルス1が次いで短い時間をおいてプローブ光パルス2が試料6に到着する。プローブ光パルス1とプローブ光パルス2は同軸になっている。試料6から反射されたプローブ光パルス1とプローブ光パルス2の間の位相差を干渉計3によって検出する。本願発明者らによる特開2001−228121に示すように位相差に比例する信号を直接に観測することが可能である。プローブ光パルス1とプローブ光パルス2の間の試料6における到着時間差は510psに選ばれた。この時間差は、検出される信号が位相差の時間微分であるとみなされるのに十分な短さである。ここで行った金薄膜についての測定では、音響的揺動に対応して検出される信号は、大部分が試料6の表面の面外方向への変位に依るものであり、したがって取得される音響的揺動の信号は表面の音響的粒子速度の面外方向成分にほぼ対応する。しかしプローブ光波長を変化させる、あるいはクロムなどの異なった金属を用いることにより、試料の光弾性効果に対応する音響的揺動の信号を得ることも可能である。本測定における典型的な信号の強度は表面変位の差にして10pmの程度である。試料6上においてポンプ光スポットは固定され、一方プローブ光スポットは試料6の表面において2次元的に走査され、音響的揺動の画像を形成する。ポンプ光とプローブ光間の可変遅延を用いて、ポンプ光パルス4が試料6へ到着した後、任意の時間が経過した時点での音響的揺動の画像が得られる。その後遅延時間を変化させて画像を取得することを繰り返す。周波数1MHzの光学的チョッピングとロックイン検出技術が信号雑音比を改善するために用いられる。
【0123】
本発明の方法を説明するために等方性試料への適用例について述べる。試料は厚さ1mmのクラウンガラス基板上に多結晶金薄膜を蒸着したものである。図3(a)〜(c)は、試料表面の90μm×90μmの領域について、3つの連続する時刻における音響的揺動の画像を上記の装置を用いて取得したものである。観測される同心円状の一連のパターンは、用いたレーザーの繰り返し周波数80MHzに対応して、同心円の中心部分にポンプ光パルスが12.5nsの周期で繰り返し入射することによって形成されている。薄膜と基板が共に等方的であるために、円形の波面パターンが形成されている。3枚の画像は400psの時間間隔に対応して取得されている。分散のために波面のリングは中心から外に進むほど拡がっていく。観測領域においては音響的減衰の効果は小さい。
【0124】
本発明の第1の実施例を上の結果の解析に適用する。すなわち単一の音響モードを仮定し、音響的減衰の効果を無視する。はじめに各画像から信号処理に干渉する可能性のある波面の部分を取り除く。取り除いた結果を図3(d)〜(f)に示す。図3(e)の画像に見られる波面はポンプ光とプローブ光間の遅延時間13.7nsに対応する。以下では図3(e)の画像の取得時刻をt=0と定義する。画像間の取得時刻の差t1 は400psである。図3(d)〜(f)について式(7)を用いて分散関係を求める。図4の四角記号は得られた分散関係をk# の各方向について平均したものを表している。分散関係は軸対称性を持っているので、|k# |の関数として表すことができる。
【0125】
G.W.FarnellとE.L.Adlerによる方法〔PhysicalAcoustics,vol.9,ed.W.P.Mason and R.N.Thurston(Academic,New York,1972),pp.35−127〕に従って金薄膜ガラス基板系の第1のRayleigh−likeモードの理論的な計算を行った。音響的減衰が無視できるとして弾性的波動方程式を解いた。図4の太い実線は金薄膜の厚さを70nm、金の弾性定数および密度として文献値c11=207GPa,c44=28.5GPa,ρ=19.32gcm-3、クラウンガラスの弾性定数および密度として文献値c11=81.5GPa,c44=29.3GPa,ρ=2.55gcm-3を用いて計算した結果である。図4における実験的な分散関係と理論計算によって得られた分散関係との一致は非常に良い。ここで仮定した金薄膜の厚さは触針法によって得られた結果と良く一致しており、本発明の方法が有効であることを示している。 式(8)を用いて波数スペクトルの絶対値|F0 (k# )|を求めた。ここで波数スペクトルは波数ベクトルk# の各方向にわたって平均化されている。得られた波数スペクトルの絶対値を図5に示す。典型的な音速を3000ms-1とするとピークを300MHzから400MHzに持ち100MHzから1GHzの範囲に周波数的に拡がった音響波が励起されている。
【0126】
更に、理論的に得られた分散関係と、実験的に得られた波数スペクトルを用いて図3(c)の波面パターンを計算により再現することを行った。結果を図6に示す。実験結果と極めて良い一致が見られた。これは、またここで用いた理論的手法の実効的な試験になっている。
【0127】
次に、異方性試料の場合について述べる。試料として厚さ1mmのTeO2 単結晶基板の(001)表面に多結晶金薄膜を40nmの厚さに蒸着したものを用いた。図7は上で述べた装置を用いて取得した150μm×150μmの試料表面領域の、与えられた遅延時間における音響的揺動の画像である。画像の横および縦方向はそれぞれ試料の〔100〕方向および〔010〕方向に対応する。異方性のためにフォノン収束効果が発生していること、および励起が周期的であることのために波面のパターンは非常に複雑である。画像検出領域内では音響的減衰の効果は小さい。
【0128】
このような複雑な波面パターンを解析するために本発明の第4の実施例を適用した。0.67nsの間隔をおいて取得された18枚の一連の音響的揺動の画像について2次元空間フーリエ変換を行った。ついで得られた一連の空間フーリエ変換について時間フーリエ変換を行いF(k# ,ω)を得た。図8(a)は周波数ω/2π=720MHzにおける|F(k# ,ω)|を示す。図8(b)には理論的に求めたこの周波数における音響波として存在可能な波数ベクトルk# を同じスケールで示してある。すなわちこれはTeO2 の(001)面の音響波の分散関係から得られる周波数720MHzの等エネルギー曲線に対応する。計算において薄膜の存在と圧電効果は無視した。用いた弾性定数はGPa単位でc11=55.7,c12=51.2,c13=21.8,c33=105.8,c44=26.5,c66=65.9、密度はρ=5.99gcm-3である。理論的な分散には様々な音響モードの分枝が見られる。それらは表面音響波(SAW)、疑似表面音響波(PSAW)、縦バルク音響波(LBW)である。*印の付された部分を除けば、図8(b)に見られる曲線は全て図8(a)に再現されている。図8(b)の*印の表面音響波はフォノン収束効果および音響的測定法が粒子速度の面外成分に選択的に感度を持っていることにより観測されない。図8(a)の中央付近に見られる正方形はLBWに極めて近い音速を持つ表面スキミングバルク波を表している。図8(b)にSAW,PSAWとして示されている曲線は図8(a)に明確に現れている。図8(a)において各ピークが多重的に観測されているが、これは音響的揺動の励起が周期的に行われていることによる。図7に見られるように音響波面が観測領域境界に達しているが、このことによるクリッピングの効果は図8(a)の画像を不鮮明なものにしている。これらは低い繰り返し周波数のレーザーを用いることで回避できる。繰り返し励起による音響波面は図7に見られるように互いに重なっており、先にクラウンガラス上の金薄膜について行ったように単一励起に対応する部分に分離することは難しい。これらの制限にも拘らず、この例は第4の実施例によって異なる音響モードの伝搬状況が分離される様子を良く示している。
【0129】
最後の例として、基板上の薄膜が損傷を受けているときをとりあげる。試料はガラス基板上のAu/Cr/Au多層構造で、それぞれの膜厚は150nm/400nm/230nmである。上記の測定装置を用いて、125μm×125μmの領域について与えられた遅延時間における音響的揺動の画像を取得したものを図9に示す。多層薄膜の一部が剥離しており、その影響が音響的揺動の画像にはっきりと現れている。このような画像観察により薄膜の不均一性や欠陥、密着性などを評価することができるのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明と共に用いることが可能な装置の例を示す図である。ポンプ光ビームおよびプローブ光ビームは共通のレンズによって試料の同一の面上に集光される。ポンプ光スポットとプローブ光スポットの相対位置を走査することによってポンプ光パルスによって生成された音響的揺動の画像を取得することができる。
【図2】本発明と共に用いることが可能な装置の別の例を示す図である。ポンプ光ビームおよびプローブ光ビームは異なるレンズによって試料の異なる面上に集光される。ポンプ光スポットとプローブ光スポットの相対位置を走査することによってポンプ光パルスによって生成された音響的揺動の画像を取得することができる。
【図3】この(a)〜(c)はクラウンガラス上に金薄膜を蒸着した試料における音響的揺動の画像を示す図である。各々の画像は400psずつ異なる一連の時刻において取得された。
この(d)〜(f)は上の画像から解析に必要な波面以外の部分を取り除いた図である。この(e)の画像はポンプ光が試料に到着してから13.7ns後に対応している。
【図4】図3より求めた実験的な分散関係を示す図である。
四角印:図3より求めた実験的な分散関係を横軸を波数、縦軸を振動数ω/2πとして示したものである。分散関係は図3(d)〜(f)の2次元空間フーリエ変換から求めた。
太い実線: クラウンガラス上の厚さ70nmの多結晶金薄膜試料について弾性波動方程式から理論的に求めた分散関係を示したものである。
【図5】図3(d)〜(f)から求めた波数スペクトルの絶対値を伝搬方向について平均することによって得た実験的な波数スペクトルを示す図である。
【図6】理論的に求めた音響波面パターンを示す図である。これは図3(c)と比較されるものである。計算には理論的に得られた分散関係と、実験的に得られた波数スペクトルを用いた。
【図7】TeO2 の(001)面上に多結晶金薄膜を蒸着した試料における音響的揺動の画像を示す図である。画像は固定された遅延時間に対応したものである。
【図8】この(a)は、図7の画像を含む一連の画像をもとに求められた|F(k# ,ω)|をω/2π=720MHzに対してプロットしたものである。
この(b)TeO2 の(001)面において720MHzの周波数を持つ音響波に許される波数を理論的に計算し、(a)と同じスケールでプロットしたものである。計算においては表面の金薄膜の存在および圧電効果の影響は無視した。LBW,SAW,PSAWはそれぞれ縦バルク音響波、表面音響波、疑似表面音響波に対応する。*印を付した表面音響波の分枝は実験結果に対応するものが見られない。
【図9】基板上の薄膜が損傷を受けている場合の実験的に得られた音響的揺動の画像を示す図である。試料はガラス基板上のAu/Cr/Au多層膜構造でそれぞれの膜厚は150nm/400nm/230nmである。
【符号の説明】
1 プローブ光パルス
2 プローブ光パルス
3 干渉計
4 ポンプ光パルス
5 レンズ
6 試料
7 試料表面
8 瞬発的な局所音響波源
9 プローブ光ビーム
10 ポンプ光ビーム
11 プローブ光局在領域
12 ビームスプリッター
13 レンズ
Claims (46)
- (a)短時間幅のポンプ光パルスによって試料中に音響波を発生させる局所化された瞬発的な音響波源を生成し、
(b)前記試料の表面または内部の音響的揺動をプローブ光によって前記局所化された瞬発的な音響波源の近傍の2次元的領域において検出することにより音響的揺動の画像を形成し、
(c)前記局所化された瞬発的な音響波源の生成時刻と前記音響的揺動を前記プローブ光によって測定する時刻との間の遅延時間を変化させ、
(d)前記遅延時間の異なる複数枚の前記音響的揺動の画像の2次元空間的フーリエ変換を得るために前記音響的揺動の画像を処理し、
(e)一つ以上の音響モードについて適当な音響波動ベクトルの範囲内で実験的な分散関係を求め、前記実験的な分散関係を前記試料における前記音響モードについて理論的に求めた分散関係と比較することによって前記試料の前記2次元的領域における物理的性質を抽出するように、前記2次元空間フーリエ変換をもとにしたデータ処理を行うことを特徴とする試料の物理的性質の測定方法。 - 前記短時間幅のポンプ光パルスを軸対称断面強度分布をもつビームに集光し、前記試料の適当な領域に前記局所化された瞬発的な音響波源を生成させることを特徴とする請求項1記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記短時間幅のポンプ光パルスを近似ガウシアン型断面強度分布を持つビームに集光し、前記試料の適当な領域に前記局所化された瞬発的な音響波源を生成させることを特徴とする請求項1記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記試料の表面または内部の音響的揺動をプローブ光によって検出する際に短時間幅のプローブ光パルスを用いることを特徴とする請求項1記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記試料の表面または内部の音響的揺動をプローブ光によって検出する際に継続的なプローブ光を用いることを特徴とする請求項1記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記試料の表面または内部の音響的揺動をプローブ光によって検出する際に、該プローブ光が前記試料の一部に入射したときの反射光または透過光における振幅、位相、または偏光の変調を用いることを特徴とする請求項1記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記試料の表面または内部の音響的揺動をプローブ光学的輻射によって検出する際に、該プローブ光が前記試料に入射する場所が前記短時間幅のポンプ光パルスが前記試料に入射する場所と前記試料の同一の側にあることを特徴とする請求項1記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記試料の表面または内部の音響的揺動をプローブ光によって検出する際に、該プローブ光が前記試料に入射する場所が前記短時間幅のポンプ光パルスが前記試料に入射する場所と前記試料の反対の側にあることを特徴とする請求項1記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記試料の表面または内部の音響的揺動をプローブ光によって検出する際に、該プローブ光が前記試料に入射する場所が前記短時間幅のポンプ光パルスが前記試料に入射する場所と前記試料において異なることを特徴とする請求項1記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記短時間幅のポンプ光パルスが前記試料の一領域に向けられ、前記プローブ光が前記試料の異なる領域に向けられ、二つの光照射領域が相互に走査されることによって前記音響的揺動の画像を形成することを特徴とする請求項1 記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記短時間幅のポンプ光パルスが前記試料の固定された領域に向けられ、前記プローブ光が前記試料の異なる領域に向けられ、前記プローブ光による光照射領域が走査されることによって前記音響的揺動の画像を形成することを特徴とする請求項1記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 検出された前記音響的揺動が音響的振幅の面外成分に比例することを特徴とする請求項1記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 検出された前記音響的揺動が音響的粒子速度の面外成分に比例することを特徴とする請求項1記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 検出された前記音響的揺動が音響的歪みテンソルの一成分に比例することを特徴とする請求項1記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 検出された前記音響的揺動が以下の、(a)前記試料の表面または界面の音響的変位の面外成分、(b)前記試料の表面または界面の音響的変位の面内成分、(c)前記試料の表面または界面の音響的粒子速度の面外成分、(d)前記試料の表面または界面の音響的粒子速度の面内成分、(e)音響的歪みテンソルの6つの成分のうちいくつか、の組み合わせに比例することを特徴とする請求項1記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記音響的揺動の画像が短時間間隔をおいて測定された2つの前記音響的揺動の差で与えられることを特徴とする請求項1記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 角振動数ωと音響波数ベクトルk# の間についての前記実験的な分散関係ω(k# )がN本の分枝ω1 (k# )=ω11(k# )−iω21(k# ),ω2 (k# )=ω12(k# )−iω22(k# ),…,ωN (k# )=ω1N(k# )−iω2N(k# )から成っており、それらは前記試料のN個の前記音響モードに対応しているものであり、そのうちの一部または全部が前記音響的揺動の画像の範囲において無視できない音響的減衰を示す場合に、一つ以上の音響モードについて適当な音響波数ベクトルの範囲内で実験的な分散関係を求めるために複数の異なる時刻tにおける前記音響的揺動の画像f(r# ,t)、該音響的揺動の画像f(r# ,t)の2次元空間的フーリエ変換F(k# ,t)、および以下の方程式により定義される音響波中の音響モードnの波数スペクトル成分Fn (k# )の間に成り立つ方程式
- 角振動数ωと音響波数ベクトルk# の間についての前記実験的な分散関係ω(k# )が前記試料の一つの前記音響モードに対応しているものであり、前記音響的揺動の画像の範囲において音響的減衰が無視できる場合に、適当な音響波数ベクトルの範囲内で実験的な分散関係を求めるために、一定の時間間隔t1 をおいた連続する3つの異なる時刻t=−t1 ,0,t1 における前記音響的揺動の画像f(r# ,t)および
- 角振動数ωと音響波数ベクトルk# の間についての前記実験的な分散関係ω(k# )が前記試料の一つの前記音響モードに対応しているものであり、前記音響的揺動の画像の範囲において音響的減衰が無視できない場合に、適当な音響波数ベクトルの範囲内で実験的な分散関係を求めるために、連続する5つの異なる時刻t=−t2 ,−t1 ,0,t1 ,t2 における前記音響的揺動の画像f(r# ,t)および該音響的揺動の画像f(r# ,t)の2次元空間的フーリエ変換F(k# ,t)およびω(k# )の実部ω1 (k# )についての方程式
- 角振動数ωと音響波数ベクトルk# の間についての前記実験的な分散関係ω(k# )が前記試料の二つの音響モードに対応する二つの分枝ω1 (k# )およびω2 (k# )からなっているものであり、前記音響的揺動の画像の範囲において音響的減衰が無視できる場合に、適当な音響波数ベクトルの範囲内で実験的な分散関係を求めるために、一定の時間間隔t1 をおいた連続する7つの異なる時刻t=−3t1 ,−2t1 ,−t1 ,0,t1 ,2t1 ,3t1 における前記音響的揺動の画像f(r# ,t)および前記音響的揺動の画像f(r# ,t)の2次元空間的フーリエ変換F(k# ,t)によって与えられるA=F(k# ,t1 )+F(k# ,−t1 )、B=F(k# ,2t1 )+F(k# ,−2t1 )、C=F(k# ,3t1 )+F(k# ,−3t1 )、D=F(k# ,0)+F(k# ,0)についての方程式
- 角振動数ωと音響波数ベクトルk# の間についての前記実験的な分散関係ω(k# )が複数の分枝から成っており、それらは前記試料の複数の前記音響モードに対応しているものであり、そのうちの一部または全部が前記音響的揺動の画像の範囲において無視できない音響的減衰を示す場合に、一つ以上の音響モードについて適当な音響波数ベクトルの範囲内で実験的な分散関係を求めるために、一連の異なる時刻における前記音響的揺動の画像の2次元空間的フーリエ変換の時間フーリエ変換を用いることを含めて、前記遅延時間の異なる複数枚の前記音響的揺動の画像の前記2次元空間フーリエ変換を処理することを特徴とする請求項1記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記音響的揺動の画像のクリッピングによる効果を避けるために、前記音響的揺動の画像の2次元空間的フーリエ変換を得るために該音響的揺動の画像を処理する前記手段が適用される前に、該音響的揺動の画像の特定の部分を取り除くように空間フィルターを作用させることを特徴とする請求項17から21のいずれか1項記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記試料の一部について大きさ、弾性定数、密度が既知であり前記試料の残りの部分について大きさ、弾性定数、密度が未知であるとき、前記未知の大きさ、弾性定数、密度に適当な値を仮定して前記試料の前記音響モードの伝搬について理論的に求めた分散関係と前記実験的な分散関係とを比較し、二つの分散関係の間の差が最小になるように前記仮定した未知の大きさ、弾性定数、密度を調節することによって前記試料の前記未知の大きさ、弾性定数、密度を測定することを特徴とする請求項1記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記試料が均質な基板から成るもので、前記実験的な分散関係と前記試料の前記音響モードの伝搬について理論的に求めた分散関係を比較することにより測定される、物理的性質が前記均質な基板の(a)弾性定数および(b)密度のうちから選択されることを特徴とする請求項23記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記試料が均質な基板と単一の薄膜から成るもので、前記実験的な分散関係と前記試料の前記音響モードの伝搬について理論的に求めた分散関係を比較することにより測定される物理的性質が(a)前記薄膜の厚み、(b)前記薄膜または前記均質な基板の弾性定数、(c)前記薄膜または前記均質な基板の密度、のうちから選択されることを特徴とする請求項23記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記試料が多層膜であり、前記実験的な分散関係と前記試料の前記音響モードの伝搬について理論的に求めた分散関係を比較することにより測定される物理的性質が(a)前記多層膜の各層の厚み、(b)前記多層膜の各層の弾性定数、(c)前記多層膜の各層の密度、のうちから選択されることを特徴とする請求項23記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記試料が自己保持膜または板であり、前記実験的な分散関係と前記試料の前記音響モードの伝搬について理論的に求めた分散関係を比較することにより測定される物理的性質が(a)前記膜または板の厚み、(b)前記膜または板の弾性定数、(c)前記膜または板の密度、のうちから選択されることを特徴とする請求項23記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記実験的な分散関係の実部または虚部が前記試料の物理的性質を測定するために使用されることを特徴とする請求項23記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記実験的な分散関係の実部および虚部の両方が前記試料の物理的性質を測定するために使用されることを特徴とする請求項23記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記実験的な分散関係が前記試料の内部応力を測定するために使用されることを特徴とする請求項23記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記実験的な分散関係が前記試料の部分の間の粘着力を測定するために使用されることを特徴とする請求項23記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記実験的な分散関係が前記試料のイオン打ち込み量を測定するために使用されることを特徴とする請求項23記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記実験的な分散関係が前記試料の表面または界面の粗さを測定するために使用されることを特徴とする請求項23記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記実験的な分散関係が前記試料の粒径を測定するために使用されることを特徴とする請求項23記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記実験的な分散関係が前記試料の空隙率を測定するために使用されることを特徴とする請求項23記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記実験的な分散関係が前記試料に対する湿度の影響を測定するために使用されることを特徴とする請求項23記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記実験的な分散関係の虚部が前記試料に吸着された物質の存在を測定するために使用されることを特徴とする請求項23記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記実験的な分散関係が前記試料の微細構造の状態を評価するために使用されることを特徴とする請求項23記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記試料が前記短時間幅のポンプ光パルスを吸収する物質でできていることを特徴とする請求項1記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記試料が前記短時間幅のポンプ光パルスに対して透明及び不透明の部分からできていることを特徴とする請求項1記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記試料が前記短時間幅のポンプ光パルスに対して(a)透明、(b)半透明、(c)不透明のうちの一つまたは複数の部分からできていることを特徴とする請求項1記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記試料が前記プローブ光に対して(a)透明、(b)半透明、(c)不透明のうちの一つまたは複数の部分からできていることを特徴とする請求項1記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記試料の前記2次元的領域を前記試料上のより大きな領域内で走査することにより、試料の物理的性質のマップを作製することを特徴とする請求項1記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記試料の深さ方向への音響的伝搬を調べることを含むパルス−エコー実験の較正のために試料の物理的性質を測定することを特徴とする請求項1記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記試料の深さ方向への音響的伝搬に対応する音速が前記試料の別の方向に伝搬する音響的伝搬の測定から決定された弾性定数と密度を用いて計算され、この計算された音速が前記試料の深さ方向への音響的伝搬に関するパルス−エコー実験の結果を較正するために用いられることを特徴とする請求項43記載の試料の物理的性質の測定方法。
- 前記試料の深さ方向への音響的伝搬に対応する音速が前記試料の別の方向に伝搬する音響的伝搬の測定から決定された弾性定数と密度を用いて計算され、この計算された音速が前記試料の面内方向への音響的伝搬に関するパルス−エコー実験の結果を較正するために用いられることを特徴とする請求項43記載の試料の物理的性質の測定方法。
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