JP3893697B2 - 溶射法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、クランクケース一体型のシリンダブロックに関し、シリンダブロックのボア内面に溶射皮膜を形成する際の溶射法及びシリンダブロックの形状の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、金属又は金属酸化物等の溶射材料を加熱し、溶融状態にした溶射材料の微粉末等を相手素材に吹き付けてコーテイングする各種の溶射法が提案されており、これら溶射法によって耐摩耗性などが要求される部品の素材表面に硬質層の溶射皮膜を形成することができる。このような溶射法は、クランクケース一体型のシリンダブロックについても適用されている。
ここで、クランクケース一体型のシリンダブロックは、通常、図5に示すような形状をしている。すなわち、このシリンダブロック51は、鋳鉄又はアルミニウム合金等を鋳造し、機械加工することによって製作され、シリンダボア52がボア径Dで設けられている。このボア52のすぐ下にボア内面をホーニング加工する際に必要なボア径よりも径の大きい部分(以下ホーニングにげ部)56が設けられ、さらに連続してクランクハウジング53が、クランクハウジング間距離Lをもって設けられている。
【0003】
この形状のシリンダブロック51に溶射すると、ボア52の内面以外の不要な部分に溶射皮膜が付着する。また、ボア52の内面より内側にせり出したクランクハウジング53によって生じた段差54が溶射時の気流を乱すことによって、ボア52方向へのはね返り粒子を発生させ、それがボア52の内面へ付着したり、溶射皮膜内に取り込まれてしまう。このはね返り粒子は密着性が悪いため、皮膜の密着性を低下させる原因となり、さらには、皮膜剥離を引き起こす場合もある。
これまで、特開平6−65711号等のような溶射時のマスキング治具については、提案がなされて来たが、ボア52の内面以外への溶射皮膜付着防止対策に関するものがほとんどであり、エンジンブロック内での溶射気流をスムーズにし、溶射皮膜の密着性を向上させることは、従来ほとんど考えられなかった。したがって、シリンダブロック51あるいは治具に段差が存在しているため、溶射時の気流の乱れにより、ボア52の内面に形成された溶射皮膜、特に下側において密着性や膜質にバラつきが生じ易く、製品間の品質に違いが生じるという問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来の技術の問題点を解消し、シリンダブロックの形状を変更し、又は治具を用いることで、溶射時の気流をスムーズにし、はね返り粒子を軽減することにより、溶射皮膜の密着性を向上させるようにしたクランクケース一体型のシリンダブロックのボア内面への溶射法及びシリンダブロックを提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
すなわち、上記目的を達成するため、請求項1の発明は、クランクケース一体型のシリンダブロックのボア内面への溶射法において、ボア下端とクランクハウジング上端との間のホーニングにげ部に傾斜治具を設置することにより、ボア下端より下方に向かってボア中心軸方向に向かう傾斜を設け、このように構成したシリンダブロックに対し溶射を行うようにしたことを特徴とする。
また、請求項2の発明は、クランクケース一体型のシリンダブロックのボア内面への溶射法において、ボア下端とクランクハウジング上端との間のホーニングにげ部に傾斜面を備えた形状とすることにより、 ボア下端より下方に向かってボア中心軸方向に向かう傾斜を設け、このように構成したシリンダブロックに対し溶射を行うようにしたことを特徴とする。
【0006】
さらに、請求項3の発明は、クランクケース一体型のシリンダブロックのボア内面への溶射法において、ボアのすぐ下にホーニングにげ部を設け、その下のクランクハウジングに傾斜面を備えた形状とすることにより、ボア下端より下方に向かってボア中心軸方向に向かう傾斜を設け、このように構成したシリンダブロックに対し溶射を行うようにしたことを特徴とする。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明は、シリンダブロックのボア下端より下方に向かう傾斜を設け、段差をなくすことにより、溶射時のボア付近での気流をスムーズにし、上方へのはね返り粒子を軽減することを特徴としている。その結果、ボア内面に形成された溶射皮膜の密着性が向上し、製品間の品質のバラツキを軽減することができる。
【0008】
本発明において、「ボア下端より下方に向かう」とは、シリンダブロックの上方からクランクハウジング側に向かう方向で溶射ガンを挿入した場合に、溶射フレームの流れで見て、ボア下端より下流側の位置から下方に向けることを意味する。したがって、以下の実施の形態で示されるように、一体型のシリンダブロックのうち、ホーニングにげ部に傾斜を設けることのみならず、クランクハウジングに傾斜を設けることも含まれる。ただし、ボア内面に溶射を行うにあたって、ボア付近での気流をスムーズにするという効果を十分発揮する位置に設定される。
また、「傾斜を設ける」とは、シリンダブロック自体の形状として、傾斜面を設けることのみでなく、以下の実施の形態で示されるように適切な治具を採用して傾斜を設けることも含まれる。
なお、溶射材料については、ボア内面に耐摩耗性等を付与するためのものであれば、金属、サーメット等特に限定されるものではない。
本発明にかかる溶射方法について、以下に添付図面に示した実施の形態を参照しながら説明する。
【0009】
治具を採用した実施の形態(第1の実施の形態)
上記説明した従来のシリンダブロックは、図5に示した形状をしており、ボア52の内径Dと、クランクハウジング53の内部端面間距離間LとはD>Lの関係にあるため、クランクハウジング53の上端面に段差54が存在した。
これに対し、図1に本発明にかかる第1の実施の形態を示す。この実施の形態のシリンダブロック1では、傾斜治具6をボア下端2aとクランクハウジング3の内面上端3aとの間のホーニングにげ部11に設置し、これによって段差のない形状としている。この時、傾斜治具6の傾斜は点2aと3aを結ぶ直線にほぼ一致し、設置したときに段差のない形状が好ましい。図1に示した傾斜治具6の断面形状は台形であるが、直角三角形あるいは傾斜面が曲面であっても良い。
【0010】
さらに、ボア2の内面2bと傾斜治具6に形成された溶射皮膜7を不連続とし、皮膜7に影響を与えることなく容易に治具を取り外すために、傾斜治具6の上端とボア2の下端との間に隙間H(0.5mm<H<2mm)を設けることがより好ましい。
なお、図2に示すように板状の治具6aで傾斜を持たせても良い。
【0011】
なお、必要に応じてクランクハウジング3のマスキングをしても良く、この時傾斜治具6はそれ単体でも、クランクハウジング3のマスキング治具と一体でも良い。
傾斜治具6の材質は、溶射時の溶射フレームの熱により変形しないものであれば、金属、セラミックス等特に限定されるものではない。また、設置方法は、例えばボア内面以外に溶射皮膜が形成されるのを防ぐためにテープ等でマスキングする場合、それと同時にテープで傾斜治具6をシリンダブロックに固定する等、設置方法についても特に限定されるものではない。
【0012】
シリンダブロックのボア下端とクランクハウジングの間に傾斜を設けた実施の形態(第2の実施の形態)
図3に示すように、この実施の形態では、ボア下端2aとクランクハウジング3の内面上端3aとの間のホーニングにげ部11において、クランクハウジング上端3aに至る傾斜を持たせて段差をなくしている。この実施の形態では、傾斜治具の設置が不要となるため、製造工程が簡略になる。図3では、ボア2の下端2aから傾斜が始まっているが、傾斜の始まる位置はホーニングにげ部11の範囲であればよい。また、この実施の形態では、溶射後点線8で示した形状に機械加工する必要がある。これは、ボア2の内面2aをホーニング加工する際に、ボア径よりも径の大きい部分がボア2のすぐ下に必要となるためである。また、ボア内面以外の部分については必要に応じてマスキングしても良い。なお、この実施の形態では、機械加工することにより従来と同一形状のシリンダブロックを得ることができる。
図3において、シリンダブロック1のホーニングにげ部11に持たせた傾斜面9の傾斜角度θは、ボア2の中心線に対する溶射ガン5の噴射口の角度をαとすると、α<θ<90゜であることが好ましい。
【0013】
クランクハウジングに傾斜を設けた実施の形態(第3の実施の形態)
図4に示すように、この実施の形態では、ボア2のすぐ下にホーニングにげ部11を設け、その下のクランクハウジング3に、クランクハウジング上端3aからその下方の点3b(断面上の点3b)に至る傾斜面10を形成している。
そのため、傾斜治具の設置が不要となり、上記第2の実施の形態のような溶射後の機械加工も不要となる。また、ボア内径以外の部分については必要に応じてマスキングしても良い。
図4において、シリンダブロック1のクランクハウジング3に持たせた傾斜面10の傾斜角度θは、図3の実施の形態と同様に、ボア2の中心線に対する溶射ガン5(図4では省略)の噴射口の角度をαとすると、α<θ<90゜であることが好ましい。
【0014】
他の実施の形態
本発明は、内燃機関への溶射時に溶射気流をスムーズにし、溶射皮膜の密着性を向上させるためのものであって、上記実施の形態によって限定されるものではなく、その趣旨から逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0015】
【実施例】
実施例1
図1に示すように、傾斜治具6を設置した従来のシリンダブロックに対して、α=45゜の溶射ガン5をボア2内に挿入し、シリンダブロック1をボア2の中心軸を中心にして回転させ、溶射ガン5を上または下方向に移動させることによりボア2内面へ溶射皮膜7を形成した。また、ボア内径Dを85mmとし、クランクハウジング間距離Lを62mm、傾斜治具6上端とボア下端2aとの距離を1mmとした。傾斜治具6を設置しない従来の方法でも同条件で溶射したところ、形成された溶射皮膜がボア2の下側約1/3の範囲において剥離した。しかし、上記のように傾斜治具6を設置した方法では皮膜の剥離はなく、ボア2の内面2bのホーニング加工後においても剥離はなかった。したがって、密着性に優れた良質の皮膜が形成されたことが確認された。
【0016】
実施例2
図3に示すような形状のシリンダブロック1を作製し、実施例1の溶射法と同様にしてボア内面2bに皮膜を形成した。この時、シリンダブロック1のホーニングにげ部11に持たせた傾斜角度θを70゜とした。溶射皮膜形成後、ボア下端2aとクランクハウジング上端3aとの間の不要な部分を取り除くための中ぐり加工、ボア2の内面2bのホーニング加工を行ったが、溶射皮膜の剥離はなく、実施例1と同様に密着性に優れた皮膜が形成された。
【0017】
実施例3
図4に示すような形状のシリンダブロック1を作製し、実施例1、2の溶射法と同様にしてボア2の内面2bに皮膜を形成した。この時、シリンダブロック1のクランクハウジング3に持たせた傾斜角度θを70°とした。溶射皮膜形成後、皮膜の剥離はなく、ボア2内面2bのホーニング加工後においても剥離はなかった。したがって、実施例1、2と同様に密着性に優れた皮膜が形成された。
【0018】
【発明の効果】
上記したところから明かなように、本発明にかかる溶射法によれば、溶射時の気流をスムーズにし、はね返り粒子を軽減することにより、ボア内面に形成した溶射皮膜の密着性を向上し、安定した品質の溶射シリンダを製造することができる。
傾斜治具を用いてシリンダブロックに傾斜を設けた場合には、従来のシリンダブロックにそのまま傾斜治具を設ければ良く、容易にこのような傾斜を持たせることができる。また、ホーニングボア下端とクランクハウジング上端との間に傾斜面を設けた場合には、傾斜治具を不要とでき、加工後のシリンダは従来と同一形状となる。さらに、クランクハウジングに傾斜面を設けた場合には、溶射皮膜形成後の機械加工を不要とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる溶射法の第1の実施の形態を説明する概念的断面図である。
【図2】本発明にかかる溶射法の第1の実施の形態を変形した形態を説明する概念的断面図である。
【図3】本発明にかかる溶射法の第2の実施の形態を説明する概念的断面図である。
【図4】本発明にかかる溶射法の第3の実施の形態を説明する概念的断面図である。
【図5】従来の溶射法を説明する概念的断面図である。
【符号の説明】
1、51 シリンダブロック
2、52 ボア
3、53 クランクハウジング
5 溶射ガン
6 傾斜治具
11、56 ホーニングにげ部
54 段差
Claims (3)
- クランクケース一体型のシリンダブロックのボア内面への溶射法において、ボア下端とクランクハウジング上端との間のホーニングにげ部に傾斜治具を設置することにより、ボア下端より下方に向かってボア中心軸方向に向かう傾斜を設け、このように構成したシリンダブロックに対し溶射を行うようにしたことを特徴とするクランクケース一体型のシリンダブロックのボア内面への溶射法。
- クランクケース一体型のシリンダブロックのボア内面への溶射法において、ボア下端とクランクハウジング上端との間のホーニングにげ部に傾斜面を備えた形状とすることにより、 ボア下端より下方に向かってボア中心軸方向に向かう傾斜を設け、このように構成したシリンダブロックに対し溶射を行うようにしたことを特徴とするクランクケース一体型のシリンダブロックのボア内面への溶射法。
- クランクケース一体型のシリンダブロックのボア内面への溶射法において、ボアのすぐ下にホーニングにげ部を設け、その下のクランクハウジングに傾斜面を備えた形状とすることにより、ボア下端より下方に向かってボア中心軸方向に向かう傾斜を設け、このように構成したシリンダブロックに対し溶射を行うようにしたことを特徴とするクランクケース一体型のシリンダブロックのボア内面への溶射法。
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