JP3892622B2 - インクジェット記録ヘッドの駆動方法及び駆動装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ノズルから微細なインク滴を吐出して文字や図などを紙などの記録媒体に記録するインクジェット記録装置におけるインクジェット記録ヘッドの駆動方法及び駆動装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
圧電振動子などのアクチュエータを用いて、インクが充填された圧力発生室を膨張・収縮させ、内部の圧力変化によって圧力発生室に形成されたノズルの先端からインク滴を吐出させる、いわゆるドロップオンデマンド形のインクジェット記録装置が、例えば特公昭53−12138号公報や特開平10−193587号公報などで知られている。
【0003】
図6は上記公報などで公知のインクジェット記録装置の記録ヘッドの一例を説明する正面図、図7は図6の記録ヘッドの側面図である。
インクが充填される圧力発生室31が図6の紙面直交方向に複数個並べて配置される。圧力発生室31の後方には各圧力発生室31に共通のインクタンク33が設けられ、インク供給路34で各圧力発生室31と連通状に連結されている。
圧力発生室31のぞれぞれを膨張・収縮させるための圧電振動子36が各圧力発生室31に対応して櫛刃状に配置される。また、圧電振動子36と圧力発生室31との間には、圧電振動子36の駆動によって振動される振動板35が設けられる。
【0004】
圧電振動子36が駆動すると、振動板35が振動させられて圧力発生室31を膨張又は収縮させる。これにより、圧力発生室31内に充填されたインクを、ノズル32の開口からインク滴37にして吐出させる。
【0005】
ところで、記録画質の向上の要求から、この種のインクジェットの記録ヘッドにおいても高品質な記録画質を行うことが求められており、そのためには、滑らかな中間階調を表現する必要がある。
階調記録を実行する方式には、インク滴径を固定して複数の滴で一つの画素(ピクセル)を形成する方法(疑似階調)と、インク滴径を多段階に変化させることでビットごとに濃度を変化させる方法の二つが知られている。
【0006】
前者の方法で高画質を得るには、記録解像度をきわめて高くする必要があり、そのため記録に必要なドット数が大幅に増加して記録速度が低下するという不都合がある。
これに対して後者の方法では、ドットごとに濃度を変化させることができるため、比較的低い記録解像度で高画質を得ることができ、記録速度も高速にできるという利点がある。
【0007】
インク滴径を多段階に変化させるためには、図9に示すような複数種類の駆動電圧波形を圧電振動子36に付与すればよい。図9は小径、中径、大径の三種類のインク滴を発生させるための駆動電圧波形を示すグラフで、(a)は小径のインク滴用のもの、図9(b)は中径のインク滴用のもの、図9(c)は大径のインク滴用のものである。図9(b)及び図9(c)において、図9(a)の各部と対応する部分には、図9(a)と同一の符号を使用し、符号右肩に「′」又は「″」を付す。
【0008】
図9では、グラフが下向きになる電圧変化部分(符号51,53で示す部分)で圧力発生室31が膨張し、上向きになる電圧変化部分(同52,54で示す部分)で圧力発生室が収縮する。
図9(c)に示すように、比較的長い時間t3″をかけて圧力発生室31を収縮し、比較的長い時間t4″の間圧力発生室31の収縮状態を保ち、その後、比較的長い時間t7″をかけて圧力発生室31を膨張させると、ノズルの開口からは大径のインク滴が吐出される。
【0009】
これとは逆に、図9(a)に示すように、膨張させた状態から短時間t3で圧力発生室31を収縮させ、短時間で膨張状態に切り換えると、ノズルの開口からは小径のインク滴が吐出される。
図9(b)は図9(a)と図9(b)の中間の状態であり、中径のインク滴がノズルの開口から吐出される。
このように、駆動電圧波形を変化させることにより、インク滴の径を変化させる方法は、いわゆるメニスカス制御方法として前記した特開平10−193587号公報などにも記載されている。
【0010】
しかしながら、インクジェット記録ヘッド内には前記したように多数の圧力発生室が近接して並列配置され、かつ、圧電振動子も近接して設けられているので、圧電振動子の駆動による振動が干渉しあって所望の径のインク滴を吐出することが難しいという問題がある。
特に、図8に示すように、隣接する圧電振動子36が同時に駆動すると(圧電振動子36の縦振動の付与方向を矢印でしめす)、圧電振動子36の間に設けられた圧電振動子36を支持するための支持部材37が振動にともなって図8の矢印で示す方向に変形する。この変形が他の圧力発生室31に影響を及ぼすとともに振動損失を引き起こして、各ノズル32ごとにインク滴Aの径や吐出速度がばらつき、高品質の記録画像を得ることができない。
【0011】
このような、いわゆるクロストークの問題を解決するためには、圧電振動子が他の圧力発生室に影響を及ぼしたり振動損失を起こさないように、圧電振動子支持部材や圧力発生室、その他インクジェット記録ヘッドを構成する部材を剛性の高い材料で形成するとよい。
しかし、剛性の高い材料でインクジェット記録ヘッドを形成すると、加工が困難でインクジェット記録ヘッドも大型になり、コストも高くなるという問題がある。
特開平10−193587号公報では、クロストークの問題点を解決するために、隣接する圧電振動子を交互に駆動させるようにしているが、このような方法では記録時間が長くなるという問題がある。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の問題点にかんがみてなされたもので、インクジェット記録ヘッドの構造的なクロストークの問題を解消し、かつ、印刷速度も長くすることのない、高画質と高速記録の両立を図ることのできるインクジェット記録ヘッドの駆動方法及び駆動装置を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために請求項1の発明は、インクが充填された複数の圧力発生室と、この圧力発生室に設けられ前記インクが吐出されるノズルと、前記圧力発生室のそれぞれに対応して設けられ前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせるための振動発生手段とを有し、吐出させるインク滴の径に対応した複数の駆動電圧波形を複数の波形発生手段によって生成し、前記複数の駆動電圧波形を前記振動発生手段に印加することによって前記ノズルからインク滴を吐出させるインクジェット記録ヘッドの駆動方法において、
前記複数の駆動電圧波形が時間的に並列に生成され、
小径のインク滴吐出に関与する駆動電圧波形は初期値から電圧v1を印加して前記圧力発生室の体積を時間t1で膨張させ、この状態を時間t2維持した後、v1よりも小さい電圧v2を印加して時間t3で前記圧力発生室を収縮させ、この状態を時間t4維持した後、時間t5でv1と略同等の電圧v3を印加して前記圧力発生室の体積を膨張させ、この状態を時間t6維持し、時間t7で電圧を初期値に戻す波形であり、
中径のインク滴吐出に関与する駆動電圧波形は待機時間t0′後に初期値から電圧v1′を印加して前記圧力発生室の体積を時間t1′で膨張させ、この状態をt2′維持した後、v1′よりも大きい電圧v2′を印加して時間t3′で前記圧力発生室を収縮させ、この状態をt4′維持した後、t7′で電圧を初期値に戻す波形であり、
大径のインク滴吐出に関与する駆動電圧波形は待機時間t0″後に初期値から電圧v2″を印加して前記圧力発生室の体積を時間t3″で収縮させ、この状態をt4″維持した後、時間t7″で電圧を初期値に戻す波形であり、
小径のインク滴吐出に関与する電圧変化が終了するまでの時間を
te=t1+t2+t3+t4+t5
としたとき、前記小径のインク滴よりも大径のインク滴を吐出させる電圧変化が重ならないように、径の異なるインク滴に対応した前記駆動電圧波形における待機時間t0′および待機時間t0″は
te<t0′およびte<t0″なる関係を満たし、小径のインク滴吐出に関与する電圧変化が終了するまで中径および大径のインク滴の吐出に関与する電圧変化は開始されないことを特徴とする。
【0014】
この方法によれば、インク滴に応じて駆動電圧波形を生成し、この駆動電圧波形を各圧力発生室に対応して設けられた振動発生手段に時間差を設けて印加するようにしたので、一方の圧力発生室からインク滴が吐出される際にその振動が他方の圧力発生室に影響を与えないので、各圧力発生室で所望の径のインク滴が生成され、所望の速度でノズルから吐出させることが可能になる。
また、インク滴に応じて駆動電圧波形を生成しているので、異なる径のインク滴をきわめて短時間で次々に吐出させることが可能になり、記録時間を必要以上に延長することもない。
【0015】
また、上記の構成では滴径の小さなインク滴ほど早期に吐出するように前記駆動電圧波形を設定した方法としてある。滴径の小さいインク滴ほど質量が小さいために空気抵抗による影響が大きく、記録媒体に到達する時間が長くかかる。この方法によれば、滴径の小さなインク滴ほど早期に吐出するようにしているので、滴径の違いによる記録媒体への着滴時間のばらつきを小さくして、記録画質を向上させることができる。
【0016】
さらに、小径のインク滴吐出時の前記駆動電圧波形が、インク滴吐出前にノズル部のメニスカスを圧力発生室側に引き込むものを含む方法としてある。この方法によれば、所望の径のインク滴を高い精度で得ることが可能になり、記録画質を高品質にすることができる。
【0017】
請求項2に記載の発明は、複数の圧力発生室と、この圧力発生室に連通して設けられたインク吐出用のノズルと、前記圧力発生室の内部圧力を変化させるための振動を付与する振動付与手段と、この振動付与手段に駆動電圧波形を印加し、この駆動電圧波形によって前記ノズルからインク滴を吐出させるインクジェット記録ヘッドの駆動装置であって、吐出されるインク滴の径に対応した複数の前記駆動電圧波形を生成する複数の波形発生手段を有し、これらの波形発生手段で生成されるインク滴径に応じた駆動電圧波形が時間的に並列に生成され、
小径のインク滴吐出に関与する駆動電圧波形は初期値から電圧v1を印加して前記圧力発生室の体積を時間t1で膨張させ、この状態を時間t2維持した後、v1よりも小さい電圧v2を印加して時間t3で前記圧力発生室を収縮させ、この状態を時間t4維持した後、時間t5でv1と略同等の電圧v3を印加して前記圧力発生室の体積を膨張させ、この状態を時間t6維持し、時間t7で電圧を初期値に戻す波形であり、中径のインク滴吐出に関与する駆動電圧波形は待機時間t0′後に初期値から電圧v1′を印加して前記圧力発生室の体積を時間t1′で膨張させ、この状態をt2′維持した後、v1′よりも大きい電圧v2′を印加して時間t3′で前記圧力発生室を収縮させ、この状態をt4′維持した後、t7′で電圧を初期値に戻す波形であり、大径のインク滴吐出に関与する駆動電圧波形は待機時間t0″後に初期値から電圧v2″を印加して前記圧力発生室の体積を時間t3″で収縮させ、この状態をt4″維持した後、時間t7″で電圧を初期値に戻す波形であり、小径のインク滴吐出に関与する電圧変化が終了するまでの時間を
te=t1+t2+t3+t4+t5
としたとき、前記小径のインク滴よりも大径のインク滴を吐出させる電圧変化が重ならないように、径の異なるインク滴に対応した前記駆動電圧波形における待機時間t0′および待機時間t0″は
te<t0′およびte<t0″なる関係を満たし、小径のインク滴吐出に関与する電圧変化が終了するまで中径および大径のインク滴の吐出に関与する電圧変化は開始されないことを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、インク滴に応じて駆動電圧波形を生成し、この駆動電圧波形を各圧力発生室に対応して設けられた振動発生手段に時間差を設けて印加するようにしたので、一方の圧力発生室からインク滴が吐出される際にその振動が他方の圧力発生室に影響を与えないので、各圧力発生室で所望の径のインク滴が生成され、所望の速度でノズルから吐出させることが可能になる。
また、インク滴に応じて駆動電圧波形を生成しているので、異なる径のインク滴をきわめて短時間で次々に吐出させることが可能になり、記録時間を必要以上に延長することもない。
【0019】
請求項3に記載の発明は、前記振動付与手段が、圧電振動子である構成としてある。振動付与手段を圧電振動子とすることにより、装置の小型化が可能になり、圧力発生室内での圧力波発生を高い精度で制御することが可能になる。
【0020】
請求項4に記載の発明は、前記圧電振動子が、縦振動を生成するものである構成としてある。このように、縦振動型の圧電振動子を用いることにより、撓み振動型の振動子に比べて振動子のサイズを小型化することができ、ノズルの高密度配置を可能にする。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のインクジェット記録ヘッドの駆動方法及び駆動装置を図面にしたがって詳細に説明する。
図1は本発明のインクジェット記録ヘッドの駆動方法の第1の実施形態にかかる駆動電圧波形を示すグラフで、図1(a)は小径のインク滴を吐出させるための駆動電圧波形、図1(b)は中径のインク滴を吐出させるための駆動電圧波形、図1(c)は大径のインク滴を吐出させるための駆動電圧波形である。
【0022】
本発明の記録方法の特徴の第1は、吐出するインク滴の滴径に応じて駆動電圧波形を用意し、異なる滴径でインク滴の吐出タイミングが異なるように駆動電圧波形を生成した点にある。
特徴の第2は、最も滴径の小さいインク滴を吐出させるための駆動電圧波形における前記インク滴の吐出タイミングを、他の径のインク滴の駆動電圧波形の吐出タイミングより早くした点にある。
【0023】
図1(a)のグラフに示すように、小径のインク滴を吐出させる場合は、電圧V1(V1=15V)を印加して圧力発生室の体積をt1時間(t2=2μs)で急激に膨張させ、その状態をt2時間維持した後(t2=4μs)、電圧V2(V2=10V)を印加してt3時間(t3=2μs)で急激に収縮させる。収縮状態をt4時間維持した後(t4=0.3μs)、t5時間(t5=2μs)で電圧V3(V3=15V)を印加して圧力発生室31の体積を再び急激に膨張させる。そして、膨張状態をt6時間(t6=8μs)維持し、t7時間(t7=30μs)で印加電圧をゆっくりと基準電圧Vb(Vb=20V)に戻す。
【0024】
グラフのt1時間の電圧変化部分11では、メニスカスが急激にノズルの内部に引き込まれ、凹形状のメニスカスが形成される。この実施形態の駆動電圧波形ではt=t1+t2の時間で、メニスカスの中央が−50〜−45μm程度の位置まで引き込まれることが確認された。
時間t3の電圧変化部分12では、圧力発生室が急激に収縮されることによって、凹形状のメニスカスの中央に細い液柱が形成される。
時間t6の電圧変化部分13では、メニスカスが急速に引き戻されるため、液柱の先端が早期に分離し、小径のインク滴が吐出される。
【0025】
この実施形態の駆動電圧波形では、電圧変化(圧力変化)を与えてから小径のインク滴の吐出が開始されるまでの時間はt1+t2=6μsであり、吐出に関与する電圧変化が終了するまでの時間te(吐出タイミング)は約10.3μsである。
この実施形態では、図1(a)の駆動電圧波形によって、滴径約20μmのインク滴が、滴速6m/sで吐出された。
【0026】
図1(b)に示すように、中径のインク滴を吐出させる際にも、小径のインク滴を吐出させる場合と同様にメニスカス制御によってインク滴の微小化を行う。
図1(b)に示す駆動電圧波形では、電圧V1′(V1′=15V)を印加してt1′時間(t1′=2μs)で圧力発生室の体積を急激に膨張させ、この状態をt2′時間(t2′=4μs)維持した後、電圧V2′(V2′=20V)を印加してt3′時間(t3′=2μs)で圧力発生室の体積を急激に収縮させる。
【0027】
そして、t4′時間(t4′=8μs)経過後にt7′時間(t7′=30μs)で、印加電圧をゆっくりと基準電圧Vb(Vb=20V)まで戻す。
図1(b)のグラフで示す各電圧変化部分11′,12′,14′はそれぞれ、小径のインク滴を形成する場合における図1(a)の電圧変化部分11,12,14に対応する。
【0028】
小径のインク滴を吐出させるための駆動電圧波形(図1(a))と比較すると、電圧変化部分12′の直後の圧力発生室の膨張が、小径のインク滴を発生させる場合ほど急激ではないため、インク滴の排出量が多くなり、その結果インク滴の滴径が大きくなる。
本実施形態の中径のインク滴用の駆動電圧波形では、滴径約30μmのインク滴が滴速6m/sで吐出された(単一ノズル吐出の場合)。
【0029】
なお、本実施形態の中径のインク滴用の駆動電圧波形では、電圧変化開始までの時間t0′が約11μsに設定されているため、中径のインク滴を吐出させるための電圧変化(圧力変化)が始まるのは小径のインク滴の吐出終了後(t0′>te)である。
【0030】
従って、小径のインク滴を吐出する圧力発生室31の周囲に、中径のインク滴を吐出する圧力発生室31が存在しても、構造的クロストークによって小径のインク滴の滴速が低下したり、吐出不良が発生したりすることを防ぐことができ、小径のインク滴の吐出に高い安定を得ることができる。
【0031】
図1(c)に示すように、大径のインク滴を吐出させるための駆動電圧波形は、電圧V2″(V2″=22V)を印加して小径及び中径のインク滴の場合よりも大きな立ち上げ時間(t3″=10μs)で圧力発生室を収縮させ、t4時間(t4=15μs)この状態を維持した後、t7″時間(t7″=30μs)で印加電圧をゆっくりと基準電圧Vb(Vb=20V)に戻している。
図1(c)の駆動電圧波形では、滴径約40μmのインク滴が、滴速7m/sで吐出された(単一ノズル吐出の場合)。
【0032】
大径のインク滴用の駆動電圧波形においても、t0″=11″μsに設定されているため、電圧変化(圧力変化)が開始されるのは小径のインク滴の吐出終了後であり、小径のインク滴を吐出する圧力発生室31の周囲に大径のインク滴を吐出する圧力発生室31があっても、構造的クロストークによって小径のインク滴の滴速が低下したり、吐出不良が発生したりすることはない。
【0033】
次に、上記方法の発明で説明した駆動電圧波形をインク滴径に応じて圧電振動子に印加するための駆動装置の構成を、図2にしたがって説明する。
小径のインク滴用、中径のインク滴用、および大径のインク滴用の駆動電圧波形は、それぞれ別個の波形発生回路41A、41B、41Cにより生成される。各波形発生回路41A、41B、41Cで生成される駆動電圧波形は、図1(a)〜(c)に示す駆動電圧波形と同じものである。
各波形発生回路41A,41B,41Cで生成された駆動電圧波形の各々は増幅回路42で増幅され、ライン44A,44B,44Cに送出される。
【0034】
各圧電振動子36とライン44A,44B,44Cの間にはスイッチング回路43が設けられ、このスイッチング回路43がライン44A,44B,44Cと圧電振動子36との接続を切り換える。そして、画像データに基づいてスイッチング回路43がライン44A,44B,44Cの切り換えを行うことにより、各圧電振動子36に印加される駆動電圧波形が切り換えられ、ノズルから吐出されるインク滴径が切り換えられて階調記録が行われる。
【0035】
図3は、図2の駆動装置の作用の説明図で、ノズル32から小径、中径、大径のインク滴A,B,Cを吐出させた状態を示す側面図である。
波形発生回路41Aによって生成された駆動電圧波形に基づいて小径のインク滴Aの吐出が行われると(図3(a)の状態)、波形発生回路41B,41Cによって生成された駆動電圧波形に基づいて圧電振動子36が駆動され、ノズル32から中径及び大径のインク滴B,Cが同時に吐出される(図3(b))。
【0036】
この実施形態では、小径のインク滴A、中径のインク滴B、および大径のインク滴Cを0.1〜10KHzの駆動周波数で常に安定に吐出させることができ、また、同時に駆動する圧電振動子36の数や吐出パターンを変化させても、記録画質に影響を及ぼすような滴速変動および吐出不良が一切発生しないことが確かめられた。
【0037】
一方、本実施形態で用いたインクジェット記録装置で、図9に示した従来波形(時間、各パラメータは図1の波形と同じ)を用いて記録実験を行ったところ、小径のインク滴Aの吐出状態は明らかに悪化し、特に小径のインク滴A・中径のインク滴B・大径のインク滴Cが混在するような画像パターン部では、小径のインク滴Aの着滴位置が大きくずれたり、小径のインク滴Aの吐出不良が発生したりすることが確認された。
【0038】
これは、図9に示す従来の駆動電圧波形では、小径のインク滴Aが吐出されるまでの時間内(0≦t≦teの時間範囲)に、中径のインク滴B及び大径のインク滴Cを吐出させるための電圧変化(圧力変化)が発生するため、構造的クロストークが大きく影響してしまうためである。
なお、図1(b)(c)に示す大径のインク滴及び中径のインク滴の吐出タイミングは、従来の駆動電圧波形(図6)と比較して約11μsずらしただけなので、インク滴の吐出周波数に対してほとんど影響を及ぼすことはない。具体的には、従来の駆動電圧波形での限界吐出周波数(15KHz)と同じ駆動周波数でも、安定した吐出が可能である。
【0039】
以上のように、本発明の駆動方法及び駆動装置を用いれば、吐出周波数を低下させることなく、構造的クロストークによる小径のインク滴吐出の不安定化を防止することができ、高品質で高速の画像記録が可能である。
なお、本発明を用いて滴径変調を実行する際の駆動電圧波形は、本実施形態で示した駆動電圧波形に限定されるものではない。
【0040】
たとえば、大径のインク滴用の駆動電圧波形においても、吐出直前にメニスカスをわずかに凹形状にする電圧変化プロセスを加えてもよい。
また、本実施形態の中径のインク滴用の駆動電圧披形では、電圧変化部分12′の直後に圧力発生室31を膨張させることなく滴径を小径のインク滴よりも大きくしたが、電圧変化時間(t1′)を大きく設定することによっても、滴径を増加させることが可能である。また、メニスカス制御を使用することなく滴径を増加させることも可能である。
【0041】
また、本実施形態では、滴径変調の段階数を大・中・小の三段階として説明したが、滴径の段階はこれに限らず、2段階または4段階以上に設定してもよい。
さらに、本実施形態では、小径のインク滴が中径のインク滴・大径のインク滴の前に吐出されるように駆動電庄波形を設定したが、本発明の目的からすれば、小径のインク滴の吐出タイミングを中径のインク滴・大径のインク滴吐出の後に配してもかまわない。ただし、小径のインク滴は大径のインク滴や中径のインク滴に比べて空気抵抗の影響を受けやすく、着滴時間が遅くなりやすいため、小径のインク滴吐出を中径のインク滴、大径のインク滴吐出よりも前に行うほうが望ましい。
【0042】
また、本実施形態では小径のインク滴のみが構造的クロストークの影響を受けにくいように駆動電圧波形を設定したが、小径のインク滴と中径のインク滴を同じ吐出タイミングに設定し、最も構造的クロストークを発生させやすい大径のインク滴の吐出タイミングだけをずらすように駆動電圧波形を設定してもよい。
【0043】
[第2の実施形態]
図4は本発明の駆動方法の第2の実施形態にかかる駆動電圧波形を示すグラフで、図4(a)は小径のインク滴を吐出させるためのもの、図4(b)は中径のインク滴を吐出させるためのもの、図4(c)は大径のインク滴を吐出させるためのものである。
なお、この第2の実施形態では、小径のインク滴を直径約20μm、中径のインク滴を同約30μm、大径のインク滴を同約40μmとした。
【0044】
本実施形態のように、滴径によって吐出タイミングをずらすと、圧電振動子の駆動に必要となる瞬間最大電流量を減少でき、駆動回路系のコストを低減できるという利点がある。
本実施形態の駆動電圧波形では、小径のインク滴、中径のインク滴、大径のインク滴の吐出タイミングのすべてをずらして設定している点が特徴である。
【0045】
小径のインク滴・中径のインク滴および大径のインク滴用の駆動電圧波形の形状および機能は、基本的に図1に示したものと同一である。ただし、図4のグラフでは、中径のインク滴用駆動電圧波形((b)のグラフ)の電圧変化開始時刻(t0′)が5μs、大径のインク滴用駆動電圧波形((c)のグラフ)の電圧変化開始時刻(t0″)が13μsになるように設定されている点が第一実施形態(図1のグラフ)と異なっている。
【0046】
本実施形態の中径のインク滴用の駆動電圧波形では、t0′=5μsに設定されているため、電圧変化部分22′によって圧力発生室31の収縮を行うタイミングは、小径のインク滴吐出のための電圧印加(電圧変化部分11〜13)が終了した後となる。従って、小径のインク滴を吐出する圧力発生室の周囲に中径のインク滴を吐出する圧力発生室が存在しても、構造的クロストークによって小径のインク滴の滴速が低下したり、吐出不良が発生したりすることを防止でき。小径のインク滴吐出に高い安定性を得ることが可能となる。
【0047】
なお、本実施形態の駆動電圧波形では、小径のインク滴吐出中に中径のインク滴のメニスカス制御プロセス(電圧変化部分21′)が行われるため、小径のインク滴吐出は構造的クロストークの影響を多少は受けてしまう。しかし、電圧変化部分21′は圧力発生室を膨張させる方向に庄電アクチュエー夕を変位させるため、構造的クロストークは小径のインク滴の滴速を増加させる方向に働く。従って、小径のインク滴の滴速低下や吐出不良の発生と比較すると、画質への影響を小さく抑えることができる。
【0048】
大径のインク滴用駆動電圧波形では、t0″=13μsに設定されているため、電圧変化が開始されるのは小径のインク滴吐出および中径のインク滴吐出のための電圧変化(電圧変化部分21〜23、電圧変化部分21′〜22′)が終了した後である。
図5はノズル32からインク滴が吐出される状態を示す記録ヘッドの側面図であるが、この図5にも示すように、ノズル32からは小径、中径、大径の順にインク滴A,B,Cが吐出される。
従って、小径のインク滴Aや中径のインク滴Bを吐出する圧力発生室31の周囲に、大径のインク滴Cを吐出する圧力発生室31があっても、構造的クロフトークによって小径のインク滴A及び中径のインク滴Bの滴速が低下したり、吐出不良が発生したりすることはない。
【0049】
この実施形態においても、上記の小径のインク滴A用、中径のインク滴B用、および大径のインク滴C用の駆動電圧波形を、図2に示すような個別の波形発生回路(41A,41B,41C)により生成させた。そして、画像データに基づいて各圧電振動子36に印加する駆動電圧波形を切り換えることにより、階調記録を実行した。
その結果、0.1〜10KHzの駆動周波数で常に安定的に吐出させることができ、吐出不良などの問題も一切発生しないことが確認された。
【0050】
なお、この第2の実施形態では、小径のインク滴A、中径のインク滴B、大径のインク滴Cの順で吐出させるようにしているが、構造的クロストークを防止するには必ずしもこの順番で吐出させる必要はない。
しかし、構造的クロストークの影響は吐出するインク滴径が小さくなるほど顕著となるため、本実施形態のように、吐出滴径が小さいものほど早く吐出を行うように設定するのが望ましい。
【0051】
以上、各実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態の構成に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、振動発生手段として圧電定数d33を利用した縦振動モードの積層圧電振動子36を用いたが、圧電定数d31を利用した縦振動モードの振動発生手段や、単板型の圧電振動子、撓み振動モードの圧電振動子など他の形態の圧電発生手段を使用してもよい。
【0052】
また、上の実施形態では、図6に示すようなカイザー形のインクジェット記録ヘッドを用いたが、圧電振動子に設けた溝を圧力発生室ととする記録ヘッドなど、他の構造のインクジェット記録ヘッドに対しても本発明を同様に適用することが可能である。
【0053】
さらに、圧電振動子以外のアクチュエータ、例えば静電力や磁気力を利用したアクチュエータを利用したインクジェット記録ヘッドに対しても適用が可能である。また、上記の実施形態では記録紙上に着色インクを吐出して文字や図などの記録を行うインクジェット記録装置を例に挙げたが、記録紙上への文字や図の記録に限定されず、吐出するインクも着色インクには限られない。
【0054】
【発明の効果】
本発明によれば、インク滴径に応じて駆動電圧波形を生成し、この駆動電圧波形を各圧力発生室に対応して設けられた振動発生手段に時間差を設けて印加するようにしたので、一方の圧力発生室からインク滴が吐出される際にその振動が他方の圧力発生室に影響を与えないので、各圧力発生室で所望の径のインク滴が生成され、所望の速度でノズルから吐出させることが可能になる。そのため、記録画質を向上させることができる。
【0055】
また、インク滴に応じて駆動電圧波形を生成しているので、異なる径のインク滴をきわめて短時間で次々に吐出させることが可能になる。そのため、記録時間を必要以上に延長することもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の駆動方法の第1の実施形態にかかり、図1(a)は小径のインク滴を吐出させるための駆動電圧波形、図1(b)は中径のインク滴を吐出させるための駆動電圧波形、図1(c)は大径のインク滴を吐出させるための駆動電圧波形を示すグラフである。
【図2】本発明の記録ヘッドの実施形態にかかり、インクジェット記録ヘッドの駆動化路を示すブロック図である。
【図3】図2の駆動装置の作用の説明図で、ノズルから小径、中径、大径のインク滴を吐出させた状態を示す側面図である。
【図4】本発明の駆動方法の第2の実施形態にかかり、図4(a)は小径のインク滴を吐出させるための駆動電圧波形、図4(b)は中径のインク滴を吐出させるための駆動電圧波形、図4(c)は大径のインク滴を吐出させるための駆動電圧波形を示すグラフである。
【図5】ノズルからインク滴が吐出される状態を示す記録ヘッドの側面図である
【図6】本発明の従来例にかかるインクジェット記録ヘッドの正面図である。
【図7】図6の記録ヘッドの側面図である。
【図8】隣接する圧電振動子が同時に駆動した状態を示す図6の記録ヘッドの側面図である。
【図9】小径、中径、大径の三種類のインク滴を発生させるための駆動電圧波形を示すグラフで、(a)は小径のインク滴用のもの、図9(b)は中径のインク滴用のもの、図9(c)は大径のインク滴用のものである。
【符号の説明】
31 圧力発生室
32 ノズル
33 インク室
34 インク供給路
35 振動板
36 圧電振動子(振動発生手段)
41A,41B,41C 波形発生回路(波形発生手段)
42 増幅回路
43 スイッチング回路
A,B,C インク滴
Claims (4)
- インクが充填された複数の圧力発生室と、この圧力発生室に設けられ前記インクが吐出されるノズルと、前記圧力発生室のそれぞれに対応して設けられ前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせるための振動発生手段とを有し、吐出させるインク滴の径に対応した複数の駆動電圧波形を複数の波形発生手段によって生成し、前記複数の駆動電圧波形を前記振動発生手段に印加することによって前記ノズルからインク滴を吐出させるインクジェット記録ヘッドの駆動方法において、
前記複数の駆動電圧波形が時間的に並列に生成され、
小径のインク滴吐出に関与する駆動電圧波形は初期値から電圧v1を印加して前記圧力発生室の体積を時間t1で膨張させ、この状態を時間t2維持した後、v1よりも小さい電圧v2を印加して時間t3で前記圧力発生室を収縮させ、この状態を時間t4維持した後、時間t5でv1と略同等の電圧v3を印加して前記圧力発生室の体積を膨張させ、この状態を時間t6維持し、時間t7で電圧を初期値に戻す波形であり、
中径のインク滴吐出に関与する駆動電圧波形は待機時間t0′後に初期値から電圧v1′を印加して前記圧力発生室の体積を時間t1′で膨張させ、この状態をt2′維持した後、v1′よりも大きい電圧v2′を印加して時間t3′で前記圧力発生室を収縮させ、この状態をt4′維持した後、t7′で電圧を初期値に戻す波形であり、
大径のインク滴吐出に関与する駆動電圧波形は待機時間t0″後に初期値から電圧v2″を印加して前記圧力発生室の体積を時間t3″で収縮させ、この状態をt4″維持した後、時間t7″で電圧を初期値に戻す波形であり、
小径のインク滴吐出に関与する電圧変化が終了するまでの時間を
te=t1+t2+t3+t4+t5
としたとき、前記小径のインク滴よりも大径のインク滴を吐出させる電圧変化が重ならないように、径の異なるインク滴に対応した前記駆動電圧波形における待機時間t0′および待機時間t0″は
te<t0′およびte<t0″なる関係を満たし、小径のインク滴吐出に関与する電圧変化が終了するまで中径および大径のインク滴の吐出に関与する電圧変化は開始されないことを特徴とするインクジェット記録ヘッドの駆動方法。 - 複数の圧力発生室と、この圧力発生室に連通して設けられたインク吐出用のノズルと、前記圧力発生室の内部圧力を変化させるための振動を付与する振動付与手段と、この振動付与手段に駆動電圧波形を印加し、この駆動電圧波形によって前記ノズルからインク滴を吐出させるインクジェット記録ヘッドの駆動装置であって、吐出されるインク滴の径に対応した複数の前記駆動電圧波形を生成する複数の波形発生手段を有し、これらの波形発生手段で生成されるインク滴径に応じた駆動電圧波形が時間的に並列に生成され、
小径のインク滴吐出に関与する駆動電圧波形は初期値から電圧v1を印加して前記圧力発生室の体積を時間t1で膨張させ、この状態を時間t2維持した後、v1よりも小さい電圧v2を印加して時間t3で前記圧力発生室を収縮させ、この状態を時間t4維持した後、時間t5でv1と略同等の電圧v3を印加して前記圧力発生室の体積を膨張させ、この状態を時間t6維持し、時間t7で電圧を初期値に戻す波形であり、
中径のインク滴吐出に関与する駆動電圧波形は待機時間t0′後に初期値から電圧v1′を印加して前記圧力発生室の体積を時間t1′で膨張させ、この状態をt2′維持した後、v1′よりも大きい電圧v2′を印加して時間t3′で前記圧力発生室を収縮させ、この状態をt4′維持した後、t7′で電圧を初期値に戻す波形であり、
大径のインク滴吐出に関与する駆動電圧波形は待機時間t0″後に初期値から電圧v2″を印加して前記圧力発生室の体積を時間t3″で収縮させ、この状態をt4″維持した後、時間t7″で電圧を初期値に戻す波形であり、
小径のインク滴吐出に関与する電圧変化が終了するまでの時間を
te=t1+t2+t3+t4+t5
としたとき、前記小径のインク滴よりも大径のインク滴を吐出させる電圧変化が重なら ないように、径の異なるインク滴に対応した前記駆動電圧波形における待機時間t0′および待機時間t0″は
te<t0′およびte<t0″なる関係を満たし、小径のインク滴吐出に関与する電圧変化が終了するまで中径および大径のインク滴の吐出に関与する電圧変化は開始されないことを特徴とするインクジェット記録ヘッドの駆動装置。 - 前記振動付与手段が、圧電振動子であることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録ヘッドの駆動装置。
- 前記圧電振動子が、縦振動を生じさせるものであることを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録ヘッドの駆動装置。
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