JP3889697B2 - 光バンドパスフィルタ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、入力された光信号のうち所定の光周波数範囲の光信号のみを選択的に透過する光バンドパスフィルタに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、大容量光通信ネットワークの研究開発が進み、波長分割多重(WDM)と時分割多重(TDM)を組み合わせた伝送方式では、1テラ(=1012) ビット毎秒を越える超大容量システムが実現されている。これらの超大容量システムを実現するキーデバイスの一つとして、光バンドパスフィルタ(OBPF)が挙げられる。
【0003】
光バンドパスフィルタは、例えば被変調光信号の片側の側帯波を抑制する片側帯波(SSB:Single SideBand)化や、残留側帯波(VSB:Vestigial SideBand) 化に用いられ、信号帯域の狭窄化による光周波数利用効率の改善(非特許文献1)や、色分散耐力の改善(非特許文献2)などを目的に用いられている。このような光バンドパスフィルタには、不要側帯波成分を十分に抑圧し、さらに切り出す側帯波成分の歪みを避けるために、透過スペクトルが矩形であることが要求される。さらに、WDM化された複数の被変調光信号を一括で処理するために、等周波数間隔で繰り返す周期的な透過スペクトルが望まれる。
【0004】
このような周期的で矩形の透過スペクトルを実現する光バンドパスフィルタとして、例えば図13(a) に示すような、反射波長が異なる複数のブラッググレーティングフィルタ(BGF)10と光サーキュレータ11を組み合わせた構成や、図13(b) に示すような、光路長差が異なる複数のマッハツェンダ干渉計(MZI)12を縦列接続したインタリーブフィルタを用いた構成などが知られている。ここで、図中矢印は光信号の進行方向を示す。
【0005】
【非特許文献1】
S.Bigo et al.,"10.2 Tbit/s(256×42.7Gbit/s PDM/WDM) transmission over 100km TeraLight TM fiber with 1.28 bit/s/Hz spectral efficiency", OFC'02, postdeadline paper PD25, 2001
【非特許文献2】
A.Hirano et al.,"SSB direct detection scheme in duobinary-carrier-suppressed RZ transmission", Electron. Lett., vol.38, pp.585-587, 2002
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、BGFと光サーキュレータを組み合わせた光バンドパスフィルタでは、複数個のBGFの波長特性を高精度に合わせることが困難であり、また環境温度変化による特性変動を抑制するためにBGFの温度を一定に保つ温度制御系を構成することが困難であった。また、インタリーブフィルタでは、透過スペクトルの矩形性を向上させるためにはMZIを多段に縦列接続する必要があり、実用的な回路寸法で矩形性に優れた透過スペクトルを実現するのが困難であった。
【0007】
本発明は、矩形性に優れ、かつ繰り返し周期が高精度に制御された周期的な透過スペクトルを有し、透過帯域内の色分散が極めて小さい光バンドパスフィルタを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、入力された光信号のうち所定の光周波数範囲の光信号のみを選択的に透過する光バンドパスフィルタにおいて、平面基板上に、入力(出力)導波路と、導波路の長さが所定の導波路長差で順次長くなるように構成されたアレイ導波路と、入力(出力)導波路とアレイ導波路とを接続する第1のスラブ導波路と、アレイ導波路の他端に接続された第2のスラブ導波路とを有するアレイ導波路回折格子を一対備え、一対の第2のスラブ導波路の中心線を共有し、かつ当該中心線上での焦点位置が一致するように一対の第2のスラブ導波路を配置し、さらに中心線に垂直で焦点位置を通る面である一対の第2のスラブ導波路の接続面に、その一部に開口部を設けた空間フィルタを配置した構成である。
【0009】
この空間フィルタの開口部に集光する波長範囲の光は低損失に通過し、かつ空間フィルタの遮光部に集光する波長範囲の光は集光ビームの欠け度合いに応じた減衰が与えられるので、透過帯域の損失平坦性に優れ、かつ透過帯域の端部では急激に損失が増加する矩形性に優れた透過スペクトルが実現する。さらに、アレイ導波路回折格子の高精度で繰り返す周期的な透過特性を利用し、繰り返し周期が高精度に制御された透過スペクトルが簡単に実現する。
【0010】
また、本発明のバンドパスフィルタは、空間フィルタの開口部にレンズを配置する。このレンズは、一方のアレイ導波路回折格子のアレイ導波路から出射され接続面上で開口部内に集光する全ての波長成分の光について、他方のアレイ導波路回折格子のアレイ導波路と第2のスラブ導波路の境界面上で光強度が最も強くなる伝搬光の中心位置が同位置になるような屈折を与えるレンズを配置した構成である。これにより、一方のアレイ導波路回折格子のアレイ導波路から出射され接続面上で開口部内に集光する透過海域内の全ての波長成分の光は、他方のアレイ導波路回折格子のアレイ導波路と第2のスラブ導波路の境界面上で光強度が最も強くなる伝搬光の中心位置が同位置となり、第2のアレイ導波路回折格子の光路長が波長に対して無依存になるため、透過帯域内の色分散が極めて小さい光バンドパスフィルタを実現することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
(第1の実施形態:参考例)
図1は、本発明の光バンドパスフィルタの第1の実施形態(参考例)を示す。図において、(a) は上面図、(b) は空間フィルタ5近傍の拡大図、(c) は図1(b) 中のA−A′断面図である。
【0013】
シリコン基板1上に、入出力導波路31a、導波路の長さが所定の導波路長差で順次長くなるように構成されたアレイ導波路32a、入出力導波路31aとアレイ導波路32aを接続する第1のスラブ導波路33a、アレイ導波路32aの他端に接続された第2のスラブ導波路34aを有するアレイ導波路回折格子30aと、同様の入出力導波路31b、アレイ導波路32b、第1のスラブ導波路33b、第2のスラブ導波路34bを有するアレイ導波路回折格子30bとを一対配置し、一対の第2のスラブ導波路34a,34bの中心線を共有し、かつ当該中心線上での焦点位置が一致するように配置する。さらに、一対の第2のスラブ導波路34a,34bの接続面に、その一部に開口部(スリット)を設けた空間フィルタ5を配置する。
【0014】
この空間フィルタ5は、図1(b) に示すように、2つのスラブ導波路34a,34bが中心線(ア−イ)を共有し、かつ当該中心線上での焦点位置(ウ)が一致するように配置されたその接続面(エ−オ)に形成された遮光溝5a,5bと、遮光溝5a,5b間に形成される開口部(開口幅:D)により構成される。この遮光溝5a,5bは、図1(c) に示すように、シリコン基板1上に形成される下部クラッド2、コア3、上部クラッド4からなる導波路材料を基板表面まで除去し、その内部に透明シリコン樹脂に炭素微粉末を混合した光吸収材料を充填したものである。
【0015】
このような空間フィルタ5を介して一対のアレイ導波路回折格子30a,30bの第2のスラブ導波路34a,34bを結合し、第1のスラブ導波路33aに接続される入出力導波路31aから光を入力すると、その光はアレイ導波路32aを介して第2のスラブ導波路34a,34bの接続面に光周波数ごとに異なる位置に集光する。そして、分波された各光周波数の光は、第2のスラブ導波路34b、アレイ導波路32b、第1のスラブ導波路33bを介して入出力導波路31bに集光する。
【0016】
このとき、空間フィルタ5の開口部に集光する波長範囲の光は低損失に通過し、かつ空間フィルタ5の遮光溝5a,5bに集光する波長範囲の光は集光ビームの欠け度合いに応じた減衰が与えられる。これにより、図2に示すように、透過帯域の損失平坦性に優れ、かつ透過帯域の端部では急激に損失が増加する矩形性に優れた透過スペクトルを実現することができる。また、アレイ導波路回折格子の高精度で繰り返す周期的な透過特性を利用し、繰り返し周期が高精度に制御された透過スペクトルを簡単に実現することができる。なお、破線で示す透過スペクトルは、一対のアレイ導波路回折格子30a,30bをそれぞれ単独で構成し、第2のスラブ導波路34a,34bの接続面に複数の入出力導波路を接続する通常のアレイ導波路回折格子の特性である。ここでは、チャネル4,5に相当する部分に空間フィルタ5の開口部が設けられた状態を示す。
【0017】
本実施形態の光バンドパスフィルタは図3の製造方法により製作される。まず、シリコン基板1上に、下部クラッド2とコア3を形成する(同図(a))。次に、コア3をフォトリソグラフィ技術と反応性イオンエッチング(RIE)技術を用いて入出力導波路形状、アレイ導波路形状およびスラブ導波路形状に加工し、その上に上部クラッド4を堆積して埋め込み型導波路構造を形成する(同図(b))。次に、RIE技術を用いて2つのスラブ導波路34a,34bの接続面に溝を形成し、その内部に光吸収材料を充填して空間フィルタ5を形成する(同図(c))。
【0018】
ここで、本実施形態の光バンドパスフィルタを実際に製作し、フィルタ特性について検証した結果を示す。本実施形態では、アレイ導波路回折格子30a,30bの構造を等しく設定し、波長1.55μm帯で動作し、繰り返し周波数が 200GHz(≒1.6 nm)になるように、アレイ導波路32a,32bの光路長差を1010μm、第2のスラブ導波路34a,34bの接続面上での線分散を78.1μm/nm、焦点距離を1760μmに設定し、透過帯域幅が40GHz(≒0.32nm)になるように、空間フィルタ5の開口幅Dを25μmに設定した。ここで、線分散は伝搬光の波長変化がΔλ[nm]で、第2のスラブ導波路34a,34bの接続面上での焦点位置の変化がΔx[μm]であるときに、Δx/Δλ[μm/nm]で表される。光導波路の構造は、下部クラッド2の膜厚が15μm、上部クラッド4の膜厚が20μmであり、コア3は比屈折率差(Δ)が 1.5%、コア寸法が 4.5μm× 4.5μmであり、最小曲げ半径は2mmである。
【0019】
フィルタ特性の測定方法は、入出力導波路31a,31bに 1.3μm零分散のシングルモード光ファイバ(SMF)を接続し、波長1.55μmでの透過スペクトルを測定した。測定結果を図4に示す。図4(a) は、1つの透過波長帯を拡大した透過スペクトル(実線)と分散スペクトル(破線)を示す。図4(b) は、波長範囲10nm内での透過スペクトルを示す。
【0020】
測定の結果、6dB帯域幅は40.0GHz(≒0.320 nm)、透過帯域内での挿入損失は7dB、遮断帯域内でのクロストークは約−40dBであった。矩形度は高次ガウスの次数Mで表した時に約3.5 であった。なお、高次ガウスの次数Mは、透過スペクトルを
I(λ)=A×exp{−(λ/B)2M }
で近似したときのMである。ここで、A,Bは定数、λは波長である。また、図4(b) に示すとおり、透過波長帯の繰り返し周波数は200.1 GHz(≒1.6 nm)であり、極めて高精度に制御されていることが確認された。これらの結果は、図13(a) に示すBGFと光サーキュレータを組み合わせた場合(〜1GHz)に比べて繰り返し周波数精度が10倍程度高く、また図13(b) に示すインタリーブフィルタの場合(M=〜2.5 )に比べて矩形度が優れていた。
【0021】
ところで、本光バンドパスフィルタは、製作誤差等により一対のアレイ導波路回折格子30a,30bの中心波長がずれた場合に、例えばアレイ導波路回折格子30bの第1のスラブ導波路33bで集光する光ビームと入出力導波路31bに軸ずれが生じ、挿入損失が増加することがある。この場合には、図5に示すように、一対のアレイ導波路回折格子30a,30bの直下位置に、サーミスタを内蔵した均熱板9とペルチェ素子7からなる温度制御系を独立に2つ配置し、アレイ導波路回折格子30a,30bに独立に温度変化を与えられるように実装する。この実装方法において、アレイ導波路回折格子30aの温度を一定とし、アレイ導波路回折格子30bの温度のみを変化させて中心波長の相対関係を変化させ、透過帯域内での挿入損失を測定した結果を図6に示す。
【0022】
図6において、横軸はアレイ導波路回折格子30aに対するアレイ導波路回折格子30bの相対温度、縦軸は透過帯域内での挿入損失、丸印は測定値、実線はフィッテング曲線を表す。図に示すように、アレイ導波路回折格子30bの温度をアレイ導波路回折格子30aの温度に対して−3℃にしたときに最小挿入損失5dBが得られた。この結果は、石英系ガラスで作製したアレイ導波路回折格子の中心波長の温度依存性が約0.011 nm/℃であるので、アレイ導波路回折格子30a,30bが等温度の場合、製作誤差によってアレイ導波路回折格子30bの中心波長がアレイ導波路回折格子30aの中心波長に比べて0.033 nmだけ長波長側にシフトして2dBの過剰損失が生じており、温度調整によりアレイ導波路回折格子30a,30bの中心波長を一致させることにより過剰損失が抑制されることを意味している。
【0023】
また、図4(a) に示すように、作製した光バンドパスフィルタの色分散は、透過帯域内で約−60ps/nmであり、その値は透過帯域中心の近傍でほぼ平坦になっている。この色分散は原理的に生じたものであり、その原理については次の第2の実施形態で説明する。本実施形態において、波長軸上でほぼ平坦なこの色分散を補償するには、逆特性の色分散を有する適当な長さの光ファイバを用いて相殺する構成が可能である。
【0024】
(第2の実施形態)
図7は、本発明の光バンドパスフィルタの第2の実施形態を示す。図において、(a) は空間フィルタ5近傍の拡大図、(b) は図7(a) 中のB−B′断面図である。なお、本実施形態の上面図は、空間フィルタ5の遮光溝5a,5b間の開口部にレンズ6aが形成される以外は、図1(a) に示す第1の実施形態と同様である。
【0025】
本実施形態は、本光バンドパスフィルタがもっている原理的な色分散の発生を抑制するためにレンズ6aを用いるものであるが、ここで色分散の発生原理とレンズによる抑制原理について図8を参照して説明する。図8(a),(b) は、アレイ導波路回折格子30a,30bの第2のスラブ導波路34a,34bの接続面に設けられる空間フィルタ5の遮光溝5a,5b間の開口部にレンズ6aを形成しない場合と、形成した場合の第2のスラブ導波路34a,34b内での光の伝搬の様子を示す。
【0026】
図中の実線矢印は、点アから第2のスラブ導波路34aの中心線に沿って伝搬する光、すなわち波長がアレイ導波路回折格子30aの中心波長と等しい光のビーム中心位置の軌跡を表している。この光は、レンズ6aを有無にかかわらず、点ウ(中心線と接続面の交点)を介して点イに到達する。図中の破線矢印は、点アから第2のスラブ導波路34aの中心線よりも紙面下方に伝搬する光、すなわち波長がアレイ導波路回折格子30aの中心波長より長波長の光のビーム中心位置の軌跡を表している。この光は、第2のスラブ導波路34aを伝搬して点カに到達し、点カ通過後は、レンズ6aがない場合はそのまま第2のスラブ導波路34bを直進して点キに到達する。
【0027】
一方、レンズ6aがある場合は、レンズ6aで屈折によって伝搬方向が変化し、点イに到達する。ここでは、伝搬光の波長がアレイ導波路回折格子の中心波長と等しい場合と、アレイ導波路回折格子の中心波長よりも長波長である場合の2例のみ説明したが、これに限定されるものではなく、透過波長帯域内のすべての波長の光が伝搬する場合において、ビーム中心が点アに位置するすべての伝搬光はレンズ6aでの屈折により、ビーム中心が点イに至るように伝搬される。
【0028】
アレイ導波路回折格子30bのアレイ導波路32bは、紙面下方ほど導波路長が短くなっているので、レンズ6aがない場合は中心波長より長波長の伝搬光がアレイ導波路32bの短い部分を伝搬することになり、原理的に負の色分散が発生する。一方、レンズ6aがある場合は、伝搬光の波長が変化しても常にビーム中心が点イに位置し、アレイ導波路32bの伝搬長が波長に無依存になるので、色分散が原理的に零になる。
【0029】
以上の機能を実現するレンズ6aの形成方法について説明する。レンズ6aは、遮光溝5a,5bと同様にフォトリソグラフィ技術と反応性イオンエッチングを用いて、導波路材料を除去した溝を形成し、その内部に導波路材料に比べて屈折率が約0.1 高い透明シリコン樹脂を充填して形成することができる。このレンズ6aの形状は、例えば単純な凸レンズで対応できるが、図8に示したように波長が変化した場合でも、ビーム中心が点アに位置する光をビーム中心が点イに位置するような屈折特性を有していれば、例えば第2のスラブ導波路34a,34bの接続面に対して非対称形状や、その他の形状であってもよい。このときのレンズ6aの焦点距離fは、第2のスラブ導波路34a,34bの焦点距離をそれぞれLa ,Lb としたときに、
1/f=1/La +1/Lb
で表される。本実施形態では、La ,Lb はともに1760μmであり、fは880 μmである。
【0030】
ここで、本実施形態の光バンドパスフィルタを実際に製作し、フィルタ特性について検証した結果を示す。測定方法および測定条件は第1の実施形態と同様とした。また、図5に示す実装方法によって2つのアレイ導波路回折格子30a,30bの中心波長を一致させて特性を測定した。測定結果は図9に示す通り、透過帯域内での挿入損失は 5.5dB、遮断帯域内でのクロストークは約−40dBであった。本実施形態では、レンズ6aによる回折損失分 0.5dBだけ、第1の実施形態よりも挿入損失が増加した。また、矩形度は第1の実施形態と同様にM=3.5 であった。さらに、色分散は図9に示すように−5ps/nmであり、その値は透過帯域中心の近傍でほぼ平坦であった。したがって、レンズ6aを形成することにより、第1の実施形態に比べて色分散が大幅に低減されたことがわかる。
【0031】
(第3の実施形態)
図10は、本発明の光バンドパスフィルタの第3の実施形態を示す。図において、(a) は空間フィルタ5近傍の拡大図、(b) は図10(a) 中のC−C′断面図である。なお、本実施形態の上面図は、空間フィルタ5の遮光溝5a,5b間の開口部にレンズ6bが形成される以外は、図1(a) に示す第1の実施形態と同様である。
【0032】
本実施形態は、本光バンドパスフィルタがもっている原理的な色分散の発生を抑制するためにレンズ6bを用いるものであるが、第2の実施形態のレンズ6aとの相違点はその形成方法にある。本実施形態のレンズ6bは、遮光溝5a,5b間に形成される開口部の導波路に、ビーム径および形状を調整した紫外線光を照射して局所的に屈折率を変化させて形成する。レンズ6bを形成する際には、紫外線光照射と色分散特性評価を繰り返しながら、精密にレンズ構造を最適化する。なお、最適化されたレンズ構造は、点アから出射した光が点イへ集光するように焦点距離が設定される。
【0033】
ここで、本実施形態の光バンドパスフィルタを実際に製作し、フィルタ特性について検証した結果を示す。測定方法および測定条件は第1の実施形態と同様とした。また、図5に示す実装方法によって2つのアレイ導波路回折格子30a,30bの中心波長を一致させて特性を測定した。測定結果は図11に示す通り、透過帯域内での挿入損失は 5.0dB、遮断帯域内でのクロストークは約−40dBであった。本実施形態では、導波路材料を除去した溝を形成せずに導波路に紫外線照射してレンズ6bを形成したので、第2の実施形態と比較して挿入損失が 0.5dB低減し、第1の実施形態のレンズを形成しない場合と同じになった。また、矩形度は第1の実施形態と同様にM=3.5 であった。さらに、色分散は図11に示すように透過帯域内で 0.5ps/nm以下であり、色分散特性を測定しながらレンズ6bの構造を精密に最適化できたので、色分散を極めて低く抑えることができた。
【0034】
(第4の実施形態)
図12は、本発明の光バンドパスフィルタの第4の実施形態を示す。図において、(a) は空間フィルタ5近傍の拡大図、(b) は本実施形態における第2のスラブ導波路34a,34c内での光の伝搬の様子を示す。
【0035】
本実施形態は、第2の実施形態と同様にレンズ6cを用いて原理的な色分散の発生を抑制するものであるが、本実施形態の特徴は一対のアレイ導波路回折格子の設計が異なるところにある。本実施形態では、一対のアレイ導波路回折格子の線分散がともに78.13 μm/nmであり、それぞれの第2のスラブ導波路34a,34cの焦点距離が1760μm, 880μmであり、アレイ導波路32a,32cの光路長差が1010μm,2020μmであり、FSRが 200GHz, 100GHzである。また、レンズ6cの焦点距離は、第2のスラブ導波路34a,34cの焦点距離が1760μm, 880μmであるので、 587μmに設定した。本実施形態においても、図12(b) に示すように、ビーム中心が点アに位置する光がアレイ導波路32aから出射された場合、レンズ6cで屈折してビーム中心が点イに至るように伝搬される。上記以外の構造は、図1(a) に示す第1の実施形態、および図7(a) に示す第2の実施形態と同様である。
【0036】
ここで、本実施形態の光バンドパスフィルタを実際に製作し、フィルタ特性について検証した結果を示す。測定方法および測定条件は第1の実施形態と同様とした。また、図5に示す実装方法によって2つのアレイ導波路回折格子30a,30bの中心波長を一致させて特性を測定した。測定結果は図9に示す第2の実施形態と同様のものが得られ、透過帯域内での挿入損失は 5.5dB、遮断帯域内でのクロストークは約−40dBであった。また、矩形度も同様にM=3.5 であり、色分散も同様に−5ps/nmであり、その値は透過帯域中心の近傍でほぼ平坦であった。本実施形態により、接続面上での線分散が一致していれば、一対のアレイ導波路回折格子の設計を必ずしも同一にする必要がないことがわかる。
【0037】
(他の実施形態)
本発明の光バンドパスフィルタの基板は、上記の実施形態に示したシリコン基板に限らず、光導波路を形成する際に変形しない材質からなるものであれば、例えば石英やサファイヤなどの無機誘電体材料、InPやGaAs などの半導体材料、ポリイミド系樹脂やエポキシ系樹脂やPMMAなどの有機誘電体材料を用いることができる。また、導波路材料は、石英を主成分とするガラス材料に限らず、例えばTiO2 やSiNなどの無機誘電体材料、ポリイミド系樹脂やエポキシ系樹脂やPMMAなどの有機誘電体材料、InGaAsやInGaAsPやGaAlAs などの半導体材料を用いることができる。また、薄膜形成方法としては、火炎堆積法に限らず、例えばスパッタ法やCVD法、ゾルゲル法などの気相堆積法を用いることができる。
【0038】
また、空間フィルタ5の遮光溝5a,5bに充填する光吸収材料は、炭素微粉末を混入したシリコン樹脂に限らず、十分に光を遮断あるいは減衰できる材料であれば他の光吸収材料でもよい。また、空間フィルタ5の遮光溝5a,5bは、光吸収材料の充填に限らず、光散乱体を混入した材料の充填や、側壁に金属や多層膜などの反射膜を形成してもよい。
【0039】
また、空間フィルタ5の遮光溝5a,5b間に形成される開口部は、第2のスラブ導波路34a,34bの中心線を含む中央部に限らず、適宜最適な位置に形成してもよい。
【0040】
また、レンズ6a,6b,6cの材料はシリコン樹脂に限らず、導波路材料と屈折率が異なる材料であれば、例えばTiO2 やSiNなどの無機誘電体材料、ポリイミド系樹脂やエポキシ系樹脂やPMMAなどの有機誘電体材料を用いることができる。また、溝にシリンドリカルレンズやロッドレンズなどのバルクレンズを挿入してもよい。また、光を集光できる機能であればその形状には限定されない。例えば、凸レンズに限らず、低屈折率材料を充填した凹レンズや、2つの半円レンズが接続面に対して対称に配置されたレンズでもよい。また、レンズ6a,6b,6cの形成のための紫外線光の光源は、KrFエキシマレーザ、ArFエキシマレーザ、Ar第二高調波レーザなどを用いることができる。
【0041】
また、図5の例では、一対のアレイ導波路回折格子30a,30bの直下位置に温度制御系を配置したが、2つのアレイ導波路回折格子の温度を独立に制御できれば、直上位置や、直上と直下の両方に配置するようにしてもよい。
【0042】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1の光バンドパスフィルタは、平面基板上にアレイ導波路回折格子を一対備え、第2のスラブ導波路の中心線に垂直で焦点位置を通る面である接続面に開口部を有する空間フィルタを配置することにより、透過帯域の損失平坦性に優れ、かつ透過帯域の端部では急激に損失が増加する矩形性に優れた透過スペクトルが実現することができる。さらに、アレイ導波路回折格子の高精度で繰り返す周期的な透過特性を利用し、繰り返し周期が高精度に制御された透過スペクトルを簡単に実現することができる。さらに、空間フィルタの開口部にレンズを形成することにより、矩形性に優れかつ繰り返し周期が高精度に制御された透過スペクトルを有するとともに、原理的に生じる透過帯域内の色分散を抑制することができる。
【0043】
請求項2および請求項3の光バンドパスフィルタは、導波路材料を除去して溝を形成し、その溝の中に光吸収材料を充填して遮光部を構成することにより、空間フィルタを高精度に形成することができる。これにより、矩形性に優れかつ繰り返し周期が高精度に制御された透過スペクトルを有する光バンドパスフィルタを安定に提供することができる。
【0045】
また、請求項2の光バンドパスフィルタは、空間フィルタの開口部に溝を形成し、その溝の中に屈折率の異なる材料を充填してレンズを構成することにより、レンズの形状および形成位置を高精度かつ容易に制御することができる。これにより、矩形性に優れかつ繰り返し周期が高精度に制御された透過スペクトルを有し、さらに色分散が小さい光バンドパスフィルタを安定に提供することができる。
【0046】
また、請求項3の発明は、空間フィルタの開口部の導波路に紫外線光を照射し、導波路材料の屈折率を変化させてレンズを形成することにより、矩形性に優れかつ繰り返し周期が高精度に制御された透過スペクトルを有し、かつ色分散が小さく、さらに挿入損失の小さい光バンドパスフィルタを提供することができる。さらに、請求項4の発明は、紫外線光照射によってレンズを形成する際に、紫外線光照射と色分散特性評価を繰り返しながら、精密にレンズ構造を最適化することができるので、色分散を極めて低く抑えることができる。
【0047】
請求項5の発明は、以上示した光バンドパスフィルタの導波路材料が石英を主成分とするガラス材料、または有機誘電体材料であるので、低損失かつ温度安定性に優れた光バンドパスフィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の光バンドパスフィルタの第1の実施形態を示す図。
【図2】本発明の光バンドパスフィルタの透過特性を示す図。
【図3】第1の実施形態の光バンドパスフィルタの作製手順を示す図。
【図4】第1の実施形態の光バンドパスフィルタの透過スペクトルおよび分散スペクトルの測定結果を示す図。
【図5】本発明の光バンドパスフィルタの実装方法の一例を示す図。
【図6】第1の実施形態の光バンドパスフィルタの2つのアレイ導波路回折格子の温度差と挿入損失の関係を示す図。
【図7】本発明の光バンドパスフィルタの第2の実施形態を示す図。
【図8】第2の実施形態の光バンドパスフィルタのレンズの作用を説明する図。
【図9】第2の実施形態の光バンドパスフィルタの透過スペクトルおよび分散スペクトルの測定結果を示す図。
【図10】本発明の光バンドパスフィルタの第3の実施形態を示す図。
【図11】第3の実施形態の光バンドパスフィルタの透過スペクトルおよび分散スペクトルの測定結果を示す図。
【図12】本発明の光バンドパスフィルタの第4の実施形態を示す図。
【図13】従来の光バンドパスフィルタの構成例を示す図。
【符号の説明】
1 シリコン基板
2 下部クラッド
3 コア
30a,30b アレイ導波路回折格子
31a,31b 入出力導波路
32a,32b,32c アレイ導波路
33a,33b 第1のスラブ導波路
34a,34b,34c 第2のスラブ導波路
4 上部クラッド
5 空間フィルタ
5a,5b 遮光溝
6a,6b,6c レンズ
7 ペルチェ素子
8 サーミスタ
9 均熱板
10 ブラッググレーティングフィルタ(BGF)
11 光サーキュレータ
12 マッハツェンダ干渉計
Claims (5)
- 入力された光信号のうち所定の光周波数範囲の光信号のみを選択的に透過する光バンドパスフィルタにおいて、
平面基板上に、入力(出力)導波路と、導波路の長さが所定の導波路長差で順次長くなるように構成されたアレイ導波路と、入力(出力)導波路とアレイ導波路とを接続する第1のスラブ導波路と、アレイ導波路の他端に接続された第2のスラブ導波路とを有するアレイ導波路回折格子を一対備え、一対の第2のスラブ導波路の中心線を共有し、かつ当該中心線上での焦点位置が一致するように一対の第2のスラブ導波路を配置し、さらに前記中心線に垂直で前記焦点位置を通る面である一対の第2のスラブ導波路の接続面に、その一部に開口部を設けた空間フィルタを配置し、
前記空間フィルタの開口部に、一方のアレイ導波路回折格子のアレイ導波路から出射され前記接続面上で前記開口部内に集光する全ての波長成分の光について、他方のアレイ導波路回折格子のアレイ導波路と第2のスラブ導波路の境界面上で光強度が最も強くなる伝搬光の中心位置が同位置になるような屈折を与えるレンズを配置して、伝搬光に対する前記アレイ導波路の伝搬長が波長に無依存になるようにした構成であることを特徴とする光バンドパスフィルタ。 - 請求項1に記載の光バンドパスフィルタにおいて、
前記空間フィルタは、前記開口部を除く前記接続面に、少なくとも光が伝搬するコア層よりも下方まで導波路材料を除去して溝を形成し、その溝の内部に光吸収材料を充填して形成され、かつ
前記レンズは、前記空間フィルタの開口部に、少なくとも光が伝搬するコア層よりも下方まで導波路材料を除去して溝を形成し、その溝の内部に前記導波路材料と屈折率が異なる無機誘電体材料または有機誘電体材料を充填して形成されることを特徴とする光バンドパスフィルタ。 - 請求項1に記載の光バンドパスフィルタにおいて、
前記空間フィルタは、前記開口部を除く前記接続面に、少なくとも光が伝搬するコア層よりも下方まで導波路材料を除去して溝を形成し、その溝の内部に光吸収材料を充填して形成され、かつ
前記レンズは、前記空間フィルタの開口部の導波路に紫外線光を照射し、コア層の屈折率を局所的に変化させて形成されることを特徴とする光バンドパスフィルタ。 - 請求項3に記載の光バンドパスフィルタにおいて、
前記レンズは、前記紫外線光のビーム径および形状の調整と光バンドパスフィルタの色分散特性評価を繰り返し、所定の色分散特性が得られる屈折率分布が形成されることを特徴とする光バンドパスフィルタ。 - 請求項1〜4のいずれかに記載の光バンドパスフィルタにおいて、
導波路材料が石英を主成分とするガラス材料、または有機誘電体材料であることを特徴とする光バンドパスフィルタ。
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