JP3887513B2 - ガスタービン燃焼器ライナの回復熱処理方法および再生燃焼器ライナ - Google Patents
ガスタービン燃焼器ライナの回復熱処理方法および再生燃焼器ライナ Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガスタービン運転中に高温下に曝されることにより材質劣化を受けたガスタービン燃焼器ライナを再生させるガスタービン燃焼器ライナの回復熱処理方法および再生燃焼器ライナに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ガスタービン発電プラントでは、ガスタービンと同軸に設けられた圧縮機により外部から空気を吸入・圧縮し、圧縮空気を燃焼器に案内する。燃焼器に導入した圧縮空気の中に燃料である油を噴射して過熱し、高温・高圧の燃焼ガスを発生させる。この高温・高圧の燃焼ガスを、燃焼器ライナ、トランジションピースおよび静翼を経て動翼に案内した後、動翼を回転駆動させて燃焼ガスを膨張させ、熱エネルギーを回転の機械エネルギーに変え、同軸に設けられた発電機で発電する。
【0003】
燃焼器ライナ、トランジションピース、静翼および動翼などのガスタービン高温部品には、耐熱超合金が適用される。耐熱超合金として、一般に、Mo、WおよびFe等の元素をマトリックスに固溶させて高温強度を向上させた固溶強化型合金が使用される。例えば、燃焼器ライナにはNi基超合金またはCo基超合金が用いられる。
【0004】
ガスタービン燃焼器ライナは、約1mm〜2mm程度の圧延材を円筒状とした円筒部材を溶接にて接合し、部分的にろう付けを施した円筒状構造を有する。この燃焼器ライナの円筒内面には燃焼ガスの熱を遮蔽するセラミックコーティングが施されている。
【0005】
ガスタービンの運転により、ガスタービン高温部品には種々の損傷がみられるが、特に、燃焼器ライナでは、運転中の燃焼振動による溶接部でのき裂が生じるとともに、腐食や酸化および材質劣化が生じる。このため、燃焼器ライナの保守管理は、約1年毎に定期的に検査して、き裂および摩耗等の溶接補修を行って再使用している。なお、き裂発生部は局部的ではあるが材質劣化が生じており、再使用後は材質劣化に起因してき裂が発生し易くなっている。材質劣化が広範囲で生じている場合には、上述した補修に加えて材質劣化部のみを機械的に切断し、新製交換または再生処理を施した後、再接合および再コーティングして燃焼器ライナを再使用する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、燃焼器ライナに熱処理を施す際、材質劣化は回復するものの、部分的にろう付けされたろう材が溶融してしまうという問題を有していた。このため、ろう材の溶融を防止するために、あらかじめ材質劣化部のみを機械的に切断し、新製交換または再生処理を施した後再接合および再コーティングするため、再生に要するコストが過大となっていた。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、ろう付け接合部を有する燃焼器ライナを対象として、燃焼器ライナを分解することなく材質劣化を回復させて新品と同等の材料特性を有し、コスト低減を図ったガスタービン燃焼器ライナの回復熱処理方法および再生燃焼器ライナを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、重量%で、C:0.07%、Cr:22%、Co:1.5%、Fe:1.9%、W:0.7%、Mo:9%、B:0.005%および残部がNiからなる成分で代表されるNi基超合金材料、または、重量%で、C:0.1%、Cr:22%、Fe:1.5%、W:14%、B:0.01%、La:0.05%および残部がCoからなる成分で代表されるCo基超合金材料、もしくは前記Ni基超合金材料と前記Co基超合金材料とを溶接接合した材料、のいずれか1種の材料からなるとともに、その内部にろう付けによる接合部を備えた筒状の燃焼器ライナであって、この燃焼器ライナが高温下に晒されることによる材質劣化を熱処理を施すことより回復させるガスタービン燃焼器ライナの回復熱処理方法において、前記回復熱処理の温度は、燃焼器ライナの形状を維持する温度とし、接合部のろう材の溶融温度よりも低い温度で、かつ、燃焼器ライナの使用により生じた材質劣化相が固溶する温度以上とし、前記回復熱処理の処理雰囲気は不活性ガスまたは真空とすることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のガスタービン燃焼器ライナの回復熱処理方法において、前記燃焼器ライナの使用により生じた材質劣化相の固溶温度が、接合部のろう材の溶融温度よりも高い燃焼器ライナに回復熱処理を施す際、回復熱処理の温度を材質劣化相の固溶温度以上とし、この回復熱処理と同時にろう付けを施すことを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2記載のガスタービン燃焼器ライナの回復熱処理方法において、回復熱処理と同時に施すろう付けのろう材は、重量比でCr:6〜20%、B:4%以下、Si:3〜11%、Fe:5%以下、C:1%以下、P:0.02%以下、Co:1%以下、Pb:0.5%以下、不可避的不純物および残部がNiからなることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3に記載のガスタービン燃焼器ライナの回復熱処理方法において、前記回復熱処理の温度は、前記燃焼器ライナの材料が前記重量%で、C:0.07%、Cr:22%、Co:1.5%、Fe:1.9%、W:0.7%、Mo:9%、B:0.005%および残部がNiからなる成分で代表されるNi基超合金材料の場合は、1100℃以上1200℃以下、前記燃焼器ライナの材料が前記重量%で、C:0.1%、Cr:22%、Fe:1.5%、W:14%、B:0.01%、La:0.05%および残部がCoからなる成分で代表されるCo基超合金材料の場合は、1160℃以上1200℃以下、前記燃焼器ライナの材料が前記Ni基超合金材料と前記Co基超合金材料とを溶接接合した材料である場合は、1160℃以上1200℃以下、であることを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、重量%で、C:0.07%、Cr:22%、Co:1.5%、Fe:1.9%、W:0.7%、Mo:9%、B:0.005%および残部がNiからなる成分で代表されるNi基超合金材料、または、重量%で、C:0.1%、Cr:22%、Fe:1.5%、W:14%、B:0.01%、La:0.05%および残部がCoからなる成分で代表されるCo基超合金材料、もしくは前記Ni基超合金材料と前記Co基超合金材料とを溶接接合した材料のいずれか1つの材料からなるとともに、その内部にろう付けによる接合部を備えた筒状の燃焼器ライナであって、この燃焼器ライナが高温下に晒されることによる材質劣化を熱処理を施されたことにより回復されたガスタービン燃焼器ライナにおいて、前記回復熱処理の温度が、接合部のろう材の溶融温度よりも低い温度で、かつ、燃焼器ライナの使用により生じた材質劣化相が固溶する温度以上とし、前記回復熱処理の処理雰囲気は不活性ガスまたは真空であることを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の再生燃焼器ライナにおいて、前記再生燃焼器ライナの使用により生じた材質劣化相の固溶温度が、接合部のろう材の溶融温度よりも高い燃焼器ライナに回復熱処理を施す際、回復熱処理の温度を材質劣化相の固溶温度以上で、この回復熱処理と同時にろう付けを施したことを特徴とする。
請求項7記載の発明は、請求項6記載の再生燃焼器ライナにおいて、回復熱処理と同時に施すろう付けのろう材は、重量比でCr:6〜20%、B:4%以下、Si:3〜11%、Fe:5%以下、C:1%以下、P:0.02%以下、Co:1%以下、Pb:0.5%以下、不可避的不純物および残部がNiからなることを特徴とする再生燃焼器ライナ。
【0018】
高温下で使用される固溶強化型のガスタービン燃焼器ライナは、炭化物(主にCr23C6)の析出や成長および凝集粗大化が進むとともに、他の析出相(σ相:FeCr、μ相:Co7Mo6)の析出が生じ、材質劣化が生じる。材質劣化に伴い本来の材料特性が損なわれ、起動および停止時における熱・歪みによる熱疲労損傷、または高・低サイクル疲労による損傷を受けている。このような劣化および損傷を受けた部材を回復させるため、材質劣化相が消失する材質劣化相の固溶温度以上で熱処理する必要がある。
【0019】
しかしながら、一般に材質劣化相のマトリックス中への固溶温度がろう材の溶融開始温度とほぼ同等か、固溶温度が低い合金の場合には、材質劣化相の固溶温度以上で熱処理することで分解せずに回復が可能であるが、材質劣化相の固溶温度がろう材の溶融開始温度より高い場合には、ろう材の溶融が生じる。
【0020】
そこで、材質劣化相の固溶温度がろう材の溶融開始温度より高い場合の燃焼器ライナにおいては、材質劣化相の固溶温度以上で熱処理することにより不可避的に生じるろう材の溶融をこの熱処理と同時にろう付けすることを可能としたものである。なお、ここで行う熱処理は、Arガスにて急冷できる真空熱処理装置を用い、この容器中に部品をセットした後、一旦容器内を排気し、真空度を維持しつつ昇温し、所定の温度で材質劣化相のマトリックスへの完全固溶を図るものである。
【0021】
熱処理温度は、前述した理由により析出物が固溶する温度以上である。しかし、過度に熱処理温度を上げることは、温度が高くなるにつれて部材の強度が低下して自重により変形を生じることから、回復熱処理時に設計上問題を生じるような変形を生じない強度を有する温度以下にする必要がある。
【0023】
以下に、燃焼器ライナの回復熱処理方法およびその前後の手順を説明する。
【0024】
まず、回復熱処理する部品に用いられる合金の材質劣化相の固溶温度を、その温度前後の温度に保持し急冷した試験材の組織観察により求める。この組織観察結果により回復熱処理の温度条件を設定する。
【0026】
次に、真空中で回復熱処理を施すが、熱処理炉に部品を装填するにあたり、高温にて処理するため、部品が自重により変形しないように配列する。なお、部品の装填は炉の均熱帯に配列することが望ましい。炉に部品を装填した時点では雰囲気が大気であり、真空雰囲気で処理するため、まず、容器の真空引きを行い所定の温度まで昇温する。温度が所定に達した後、保持し、部品に用いられている材料の通常の冷却速度にてArガスを吹き付けて熱処理を施す。
【0027】
最後に、回復熱処理を施した後、目視検査、寸法検査等の非破壊検査を行う。
【0028】
このような回復熱処理方法の手順により、ガスタービン燃焼器ライナに生じた材質劣化を回復することができる。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について、図1〜図15および表1〜表2を用いて説明する。
【0030】
まず、ガスタービンの燃焼器ライナに適用されるNi基超合金およびCo基超合金を試験材として、この試験材を人工劣化させた後、この人工劣化材に回復熱処理を施し、燃焼器ライナを回復する際に適用する温度条件を調査した。
【0031】
Ni基超合金およびCo基超合金として、表1に示すHastelloyX材およびHS188材を適用した。
【0032】
【表1】
【0033】
表1に示すように、HastelloyX材の組成は、重量%で、C:0.07%、Cr:22%、Co:1.5%、Fe:1.9%、W:0.7%、Mo:9%、B:0.005%および残部がNiである。
【0034】
また、HS188材の組成は、重量%で、C:0.1%、Cr:22%、Fe:1.5%、W:14%、B:0.01%、La:0.05%および残部がCoである。
【0035】
このような化学組成を有するHastelloyX材を所定形状とし、No.1からNo.8までの試験材とした。また同様に、HS188材を所定形状とし、No.9からNo.16までの試験材とした。その後、No.1からNo.16までの試験材を850℃の温度で12000時間加熱して人口的に劣化させた。HaselloyXの人工劣化材は炭化物(Cr23C6)の他にもμ相(Co7Mo6)が析出していた。また、HS188の人工劣化材は炭化物の他にもLaves相(Co2W)が析出していた。
【0036】
次に、人工劣化させたNo.1からNo.16までの試験材に、1060℃〜1200℃の温度範囲内において、20℃間隔で変化させた温度にて回復熱処理を施した。回復熱処理の保持時間は30分とした。回復熱処理後、各試験材の断面組織観察を行い、材質劣化相の固溶の有無およびろう材の溶融の有無を調べた。この試験結果を表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
表2に示すように、HastelloyX材を1060℃および1080℃の温度で回復熱処理したNo.1およびNo.2の試験材は、材質劣化相が固溶していなかったが、1100℃以上の温度で回復熱処理したNo.3からNo.8までの試験材は、全て材質劣化相の固溶が生じており組織の回復が認められた。一方、HS188の人工劣化材を1160℃以上の温度で回復熱処理したNo.14からNo.16までの試験材では、材質劣化相の固溶が生じており組織の回復が認められ、1140℃以上の温度で回復熱処理したNo.13からNo.16までの試験材は、ろう材の溶融が認められた。
【0039】
次に、各回復熱処理材について室温にて引張り試験を行い、引張強さ(kgf/mm2)および伸び(%)を測定した。その結果を図2に示す。
【0040】
HastelloyXおよびHS188の試験材では、材質劣化が生じている回復熱処理前の室温での引張強さは、新材と比較して強度が上昇しており、逆に延性が顕著に低下したが、図2に示すように、HastelloyX材では1100℃以上、HS188材では1160℃以上で回復熱処理を施すことで、強度および延性の回復が認められた。
【0041】
このような試験結果から、再生処理するNi基超合金およびCo基超合金の材質劣化相の固溶温度を、その温度前後の温度に保持し急冷した試験材の組織観察により求めることができ、この組織観察結果により再生処理を施す際、回復熱処理の温度条件を設定することができる。なお、本試験により適用した成分組成を有するHastelloyX材は、1100℃から1200℃までの温度範囲で、また、HS188材は1160℃から1200℃までの範囲で回復熱処理するこが望ましい。
【0042】
次に、実際に実プラントにおけるガスタービンの運用により設計寿命に達して廃却となった燃焼器ライナに回復熱処理を施し、以下に示す実施例1から実施例3までの試験を行った。
【0043】
実施例1(図1、図3〜図7)
本実施例においては、実プラントで設計寿命に達して廃却となったHastelloyX合金からなるガスタービン燃焼器ライナに回復熱処理を施した。なお、廃却となった燃焼器ライナの表面を鏡面に研磨してスンプ法にて組織観察したところ、炭化物の析出が生じており、材質劣化が認められた。
【0046】
回復熱処理3時における温度、即ち、回復熱処理温度は上述した試験結果における、HastelloyXの試験材No.3、No.4およびNo.5で適用した1100℃、1120℃および1140℃とした。この温度にて回復熱処理3を施して回復熱処理品を得る。なお、試験材No.5の回復熱処理温度では、ろう材が溶融するため回復熱処理3と同時にろう付け接合部にろう材を装填し、ろう付けも兼ねて行う。なお、ろう付けには、重量%で、Cr:6〜20%、B:4%以下、Si:3〜11%、Fe:5%以下、C:1%以下、P:0.02%以下、Co:1%以下、Pb:0.5%以下、不可避的不純物および残部がNiからなるろう材を適用した。
【0047】
このような回復熱処理を施して得られた燃焼器ライナの組織およびろう付け接合部を図3および図4に示す。
【0048】
図3は、回復処理後の燃焼器ライナの組織を模式的に示す図である。なお、3種類の回復熱処理品、新品および廃却品を比較して示す。
【0049】
図3に示すように、新品5は、結晶粒内6に未固溶の炭化物7が析出していた。一方、実プラントの運用により廃却となった廃却品8は、結晶粒内6に未固溶の炭化物7のほかにも炭化物9が認められ、また結晶粒界10にも炭化物11の析出が多量に認められていた。これに対し、1100℃、1120℃および1140℃の温度にて回復熱処理3を施した回復熱処理品12a,12b,12cは、未固溶の炭化物7のみが認められ、ほぼ新品5と同様の組織に回復していた。
【0050】
図4は、燃焼器ライナのろう付け接合部を示す拡大図である。なお、このろう付け接合部についても、3種類の回復熱処理品、新品および廃却品を比較して示す。
【0051】
図4に示すように、新品5は、円筒状の燃焼器ライナ本体13の内側にスロットリング14が設けられており、この燃焼器ライナ本体13およびスロットリング14の隙間には、ろう付けされたろう材15が設置されている。さらに、燃焼器ライナ本体13およびスロットリング14の内面には、燃焼ガスの熱を遮蔽する遮熱コーティング16が施されている。一方、廃却品8は、ろう材15が部分的に溶けていた。これに対し、1100℃、1120℃および1140℃の温度で回復熱処理した回復熱処理品12a,12b,12cは、全てろう材15が一旦溶融していたものの、ほぼ新品5と同様の接合状態を呈していた。
【0052】
さらに、各回復熱処理品12a,12b,12cについて室温にて引張試験を行い、引張強さ(kgf/mm2)および伸び(%)を測定した。その結果を図5に示す。
【0053】
図5に示すように、廃却品8は引張強度の上昇と顕著な伸びの低下が生じていたのに対し、回復熱処理品12a,12b,12cでは組織と同様に強度と延性の完全回復が図られていた。なお、回復熱処理3を行う際には、内面に施したセラミックスコーティング層を除去せずに行った。コーティング層の構成元素と母材の構成元素とが相互拡散し、強度に寄与しない拡散層が生じていたが、図6に示すように、回復熱処理温度が1140℃と高い回復熱処理品12cでも拡散層の厚さは10μm程度であり、問題となる厚さとはならなかった。
【0054】
さらに、回復熱処理3により得られた燃焼器ライナの全長および直径を計測した。この計測結果を図7に示す。図7に示すように、各回復処理品12a,12b,12cともほとんど変形がみられず、燃焼器ライナの全長についての上限の許容値17aと下限の許容値17bとの範囲内であり、また、燃焼器ライナの直径についての上限の許容値18aと下限の許容値18bとの範囲内となっており、燃焼器ライナの設計基準を満足していた。
【0055】
実施例2(図1、図8〜図11)
本実施例においては、HastelloyX材とHS188材とを溶接接合した燃焼器ライナに回復熱処理を施した。なお、実施例1と同一箇所には、同一符号を用いる。
【0056】
実施例1と同様に燃焼器ライナ内面のセラミックスコーティング層を除去せず、図1のフローチャートに従い回復熱処理3を施した。回復熱処理温度は、前述したNi基超合金およびCo基超合金の試験で適用した試験材No.14、No.15およびNo.16の回復熱処理温度とした。具体的には、1160℃、1180℃および1200℃とした。なお、ろう材はNi基超合金およびCo基超合金の試験結果を示す表2からも明らかなように、ろう材が溶融するため回復熱処理と同時にろう付け接合部にろう材を装填し、ろう付けも兼ねて行った。なお、ろう付けには、重量%で、Cr:6〜20%、B:4%以下、Si:3〜11%、Fe:5%以下、C:1%以下、P:0.02%以下、Co:1%以下、Pb:0.5%以下、不可避的不純物および残部がNiからなるろう材を適用した。
【0057】
図8は、回復熱処理後の燃焼器ライナの組織を模式的に示す図である。なお、新品19、廃却品20および3種類の回復熱処理品21a,21b,21cを比較して示す。
【0058】
図8に示すように、廃却品20のHS188材の部位では粒内6に若干の炭化物9の析出が認められるものの、HastelloyX材の部位では結晶粒界10および粒内6に炭化物9の析出が多量に認められていた。これに対し、回復熱処理品21a,21b,21cは両材料の部位とも未固溶の炭化物7のみが認められ、ほぼ新品19の組織に回復していた。
【0059】
図9は、ろう付け接合部の拡大図を示す。図9に示すように、各温度において回復熱処理を施した回復熱処理品21a,21b,21cともろう材15が一旦溶融していたものの、ほぼ新品19と同様の接合状態を呈していた。
【0060】
図10は、回復熱処理後の引張試験による引張強さ(kgf/mm2)および伸び(%)を示す図である。
【0061】
図10に示すように、廃却品20はHastelloyX材およびHS188材の部位とも引張強度の上昇と顕著な伸びの低下が生じていたのに対し、回復熱処理品21a,21b,21cは組織と同様に強度および延性の完全回復が図られていた。
【0062】
さらに、回復熱処理3により得られた燃焼器ライナの全長および直径を計測した。この計測結果を図11に示す。図11に示すように、各回復処理品21a,21b,21cともほとんど変形がみられず、燃焼器ライナの全長についての上限の許容値22aと下限の許容値22bとの範囲内であり、また、燃焼器ライナの直径についての上限の許容値23aと下限の許容値23bとの範囲内となっており、燃焼器ライナの設計基準を満足していた。
【0063】
実施例3(図1、図12〜図15)
本実施例においては、HastelloyX材よりも燃焼温度が高いHS188材の燃焼器ライナに回復熱処理を施した。実施例1および実施例2と同様に内面のコーティングを除去せず、図1のフローチャートに従い、回復熱処理3を施した。
【0064】
図12は、回復処理後の燃焼器ライナの組織を模式的に示す図である。なお、新品22、廃却品23および3種類の回復熱処理品24a,24b,24cを比較して示す。
【0065】
図12に示すように、廃却品23では結晶粒界10および粒内6に炭化物9,11の析出が多量に認められていた。これに対し、回復熱処理品24a,24b,24cは未固溶の炭化物7のみが認められ、ほぼ新品22の組織に回復していた。
【0066】
図13は、ろう付け接合部のろう材の断面組織を示す図である。図13に示すように、各温度の回復熱処理品24a,24b,24cともろう材が一旦溶融していたものの、ほぼ新品22と同様の接合状態を呈していた。
【0067】
図14は、回復熱処理後の引張試験による引張強さ(kgf/mm2)および伸び(%)を示す図である。
【0068】
図14に示すように、廃却品23はHastelloyX材およびHS188材の部位とも引張強度の上昇と顕著な伸びの低下が生じていたのに対し、回復熱処理品24a,24b,24cは組織と同様に強度と延性の完全回復が図られていた。
【0069】
また、回復熱処理3により得られた燃焼器ライナの全長および直径を計測した。この計測結果を図15に示す。図15に示すように、各回復処理品24a,24b,24cともほとんど変形がみられず、燃焼器ライナの全長についての上限の許容値17aと下限の許容値17bとの範囲内であり、また、燃焼器ライナの直径についての上限の許容値18aと下限の許容値18bとの範囲内となっており、燃焼器ライナの設計基準を満足していた。
【0070】
本実施形態によれば、接合部のろう材の溶融温度よりも低い温度で、かつ、燃焼器ライナの使用により生じた材質劣化相が固溶する温度以上で回復熱処理を施すことにより、燃焼器ライナを分解することなく材質劣化を回復させて新品と同等の材料特性を有し、燃焼器ライナのコスト低減を図れる。また、燃焼器ライナの材質劣化相の固溶温度が、接合部のろう材の溶融温度よりも高い燃焼器ライナに回復熱処理を施す際には、回復熱処理の温度を材質劣化相の固溶温度以上とし、この回復熱処理と同時にろう付けを施すことで燃焼器ライナを再生することができる。このように燃焼器ライナを再生して再生燃焼器を再使用することで、燃焼器ライナの寿命向上を図れる。
【0071】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明におけるガスタービン燃焼器ライナの回復熱処理方法によれば、分解せずに再生できることから大幅にコスト低減を図れるだけでなく、再使用により寿命向上を図れる再生燃焼器ライナを得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態における回復熱処理およびその前後の処理の手順を示す図。
【図2】 本発明の実施形態における、HastelloyX材およびHS188材に回復熱処理を施した後の引張試験結果の引張強さ(kgf/mm2)および伸び(%)を示す図。
【図3】 本発明の実施例1における、HastelloyX合金からなる燃焼器ライナの回復熱処理後の組織を示す模式図。
【図4】 本発明の実施例1を対象とした、燃焼器ライナの回復熱処理後のろう付け接合部を示す拡大図。
【図5】 本発明の実施例1を対象とした、燃焼器ライナの回復熱処理後における引張試験結果の引張強さ(kgf/mm2)および伸び(%)を示す図。
【図6】 本発明の実施例1を対象とした、燃焼器ライナに回復熱処理を施した後の拡散層厚さ(μm)の計測結果を示す図。
【図7】 本発明の実施例1を対象とした、燃焼器ライナに回復熱処理を施した後の変形計測結果を示す図。
【図8】 本発明の実施例2を対象とした、HastelloyX材とHS188材とを溶接接合した燃焼器ライナの回復熱処理後の組織を示す模式図。
【図9】 本発明の実施例2を対象とした、燃焼器ライナの回復熱処理後のろう付け接合部を示す拡大図。
【図10】 本発明の実施例2を対象とした、燃焼器ライナの回復熱処理後における引張試験結果の引張強さ(kgf/mm2)および伸び(%)を示す図。
【図11】 本発明の実施例2を対象とした、燃焼器ライナの回復熱処理後の変形計測結果を示す図。
【図12】 本発明の実施例3を対象とした、HS188材からなる燃焼器ライナの回復熱処理後の組織を示す模式図。
【図13】 本発明の実施例3を対象とした、燃焼器ライナの回復熱処理後のろう付け接合部を示す拡大図。
【図14】 本発明の実施例3を対象とした、燃焼器ライナの回復熱処理後における引張試験結果の引張強さ(kgf/mm2)および伸び(%)を示す図。
【図15】 本発明の実施例3を対象とした、燃焼器ライナの回復熱処理後における変形計測結果を示す図。
【符号の説明】
1 回復前検査
2 損傷補修
3 回復熱処理
4 回復後検査
5 新品
6 結晶粒内
7 未固溶の炭化物
8 廃却品
9 粒内の炭化物
10 結晶粒界
11 粒界の炭化物
12a,12b,12c 回復熱処理品
13 燃焼器ライナ本体
14 スロットリング
15 ろう材
16 遮熱コーティング
17a 燃焼器ライナの全長についての上限の許容値
17b 燃焼器ライナの全長についての下限の許容値
18a 燃焼器ライナの直径についての上限の許容値
18b 燃焼器ライナの直径についての下限の許容値
19 新品
20 廃却品
21a,21b,21c 回復熱処理品
22 新品
23 廃却品
24a,24b,24c 回復熱処理品
Claims (7)
- 重量%で、C:0.07%、Cr:22%、Co:1.5%、Fe:1.9%、W:0.7%、Mo:9%、B:0.005%および残部がNiからなる成分で代表されるNi基超合金材料、
または、
重量%で、C:0.1%、Cr:22%、Fe:1.5%、W:14%、B:0.01%、La:0.05%および残部がCoからなる成分で代表されるCo基超合金材料、
もしくは前記Ni基超合金材料と前記Co基超合金材料とを溶接接合した材料、のいずれか1種の材料からなるとともに、
その内部にろう付けによる接合部を備えた筒状の燃焼器ライナであって、
この燃焼器ライナが高温下に晒されることによる材質劣化を熱処理を施すことより回復させるガスタービン燃焼器ライナの回復熱処理方法において、
前記回復熱処理の温度は、燃焼器ライナの形状を維持する温度とし、接合部のろう材の溶融温度よりも低い温度で、かつ、燃焼器ライナの使用により生じた材質劣化相が固溶する温度以上とし、前記回復熱処理の処理雰囲気は不活性ガスまたは真空とする
ことを特徴とするガスタービン燃焼器ライナの回復熱処理方法。 - 前記燃焼器ライナの使用により生じた材質劣化相の固溶温度が、接合部のろう材の溶融温度よりも高い燃焼器ライナに回復熱処理を施す際、回復熱処理の温度を材質劣化相の固溶温度以上とし、この回復熱処理と同時にろう付けを施すことを特徴とする請求項1記載のガスタービン燃焼器ライナの回復熱処理方法。
- 請求項2記載のガスタービン燃焼器ライナの回復熱処理方法において、
回復熱処理と同時に施すろう付けのろう材は、重量比でCr:6〜20%、B:4%以下、Si:3〜11%、Fe:5%以下、C:1%以下、P:0.02%以下、Co:1%以下、Pb:0.5%以下、不可避的不純物および残部がNiからなることを特徴とするガスタービン燃焼器ライナの回復熱処理方法。 - 前記回復熱処理の温度は、前記燃焼器ライナの材料が前記重量%で、C:0.07%、Cr:22%、Co:1.5%、Fe:1.9%、W:0.7%、Mo:9%、B:0.005%および残部がNiからなる成分で代表されるNi基超合金材料の場合は、1100℃以上1200℃以下、
前記燃焼器ライナの材料が前記重量%で、C:0.1%、Cr:22%、Fe:1.5%、W:14%、B:0.01%、La:0.05%および残部がCoからなる成分で代表されるCo基超合金材料の場合は、1160℃以上1200℃以下、
前記燃焼器ライナの材料が前記Ni基超合金材料と前記Co基超合金材料とを溶接接合した材料である場合は、1160℃以上1200℃以下、
であることを特徴とする請求項1乃至3に記載のガスタービン燃焼器ライナの回復熱処理方法。 - 重量%で、C:0.07%、Cr:22%、Co:1.5%、Fe:1.9%、W:0.7%、Mo:9%、B:0.005%および残部がNiからなる成分で代表されるNi基超合金材料、
または、
重量%で、C:0.1%、Cr:22%、Fe:1.5%、W:14%、B:0.01%、La:0.05%および残部がCoからなる成分で代表されるCo基超合金材料、
もしくは前記Ni基超合金材料と前記Co基超合金材料とを溶接接合した材料のいずれか1つの材料からなるとともに、
その内部にろう付けによる接合部を備えた筒状の燃焼器ライナであって、
この燃焼器ライナが高温下に晒されることによる材質劣化を熱処理を施されたことにより回復されたガスタービン燃焼器ライナにおいて、
前記回復熱処理の温度が、接合部のろう材の溶融温度よりも低い温度で、かつ、燃焼器ライナの使用により生じた材質劣化相が固溶する温度以上とし、前記回復熱処理の処理雰 囲気は不活性ガスまたは真空である
ことを特徴とする再生燃焼器ライナ。 - 前記再生燃焼器ライナの使用により生じた材質劣化相の固溶温度が、接合部のろう材の溶融温度よりも高い燃焼器ライナに回復熱処理を施す際、回復熱処理の温度を材質劣化相の固溶温度以上で、この回復熱処理と同時にろう付けを施したことを特徴とする請求項5記載の再生燃焼器ライナ。
- 請求項6記載の再生燃焼器ライナにおいて、回復熱処理と同時に施すろう付けのろう材は、重量比でCr:6〜20%、B:4%以下、Si:3〜11%、Fe:5%以下、C:1%以下、P:0.02%以下、Co:1%以下、Pb:0.5%以下、不可避的不純物および残部がNiからなることを特徴とする再生燃焼器ライナ。
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