JP3886023B2 - 鉄道車両用ブレーキ制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄道車両用ブレーキ制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、電気ブレーキと流体ブレーキ(例えば空気ブレーキ)とを併用した鉄道車両のブレーキ制御装置においては、ブレーキ力指令信号に対して電気ブレーキ力を最大限に利用するとともに、電気ブレーキ力だけでは指令されたブレーキ力に足りない場合に、その不足分を流体ブレーキ力により補う制御を行っている。かかる電気ブレーキは、列車の速度が例えば時速10km程度にまで低下すると、そのブレーキ力が減衰する。従って、電気ブレーキ力の減衰を流体ブレーキ力により補足する必要がある。このような電気ブレーキから流体ブレーキへの移行の際には、電気ブレーキ装置からフィードバックして得られた電気ブレーキ力等価信号に基づいて、当該電気ブレーキ力等価信号の低下を補償するように流体ブレーキ力指令信号を出力させる。しかしながら、理論上は完全に補償がなされるように流体ブレーキ力指令信号を出力しても、実際には流体ブレーキ装置等の応答の遅れにより、流体ブレーキ圧による補足が立ち遅れて一時的に全ブレーキ力の低下が起こる。全ブレーキ力の一時的な低下は列車の乗り心地を損なうとともに、制動距離も増大させる。
そこで、流体ブレーキへの移行を、真の電気ブレーキ力等価信号に基づいて行わせるのではなく、真の電気ブレーキ力等価信号より信号レベルを一定の関係で下げたダミー信号に基づいて流体ブレーキ力指令信号を出力する。これにより、流体ブレーキ力による補足のタイミングを早めて応答の遅延による影響を封じ込め、全ブレーキ力の一時的な低下を防止するブレーキ制御装置が提案されている(実公昭63−9477号参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような従来のブレーキ制御装置によれば、電気ブレーキから流体ブレーキへの移行の際の全ブレーキ力の一時的な低下を、ある程度まで防止することができる。しかしながら、モータを搭載したモータ車と、モータを搭載しないトレーラ車とを含んで編成された鉄道車両用ブレーキ制御装置においては、以下のような問題点が残っている。図6は、かかるブレーキ制御装置における、電気ブレーキから流体ブレーキへの移行過程を概念的に示す図である。
【0004】
図6において、高さ方向はブレーキ力信号を表し、幅方向は時間を表す。高さ方向の最大寸法は、モータ車とトレーラ車との総ブレーキ力に相当する編成ブレーキ力指令信号Fであり、図示の矩形全領域を上下に分割したそれぞれの高さがトレーラ車ブレーキ力指令信号FT及びモータ車ブレーキ力指令信号FMである。ハッチングを設けた領域は電気ブレーキの負担範囲を示し、それ以外の領域は流体ブレーキの負担範囲を示している。時刻t1までは一定の電気ブレーキ力が発生しており、電気ブレーキ装置からフィードバックして得られた電気ブレーキ力等価信号はFE0である。これは、モータ車のブレーキ力指令信号FMに相当するブレーキ力を負担するのみならず、トレーラ車のブレーキ力指令信号FTの一部に相当するブレーキ力をも負担している。そして不足分(F−FE0)がトレーラ車の流体ブレーキにより負担されている。このようにして、モータ車の電気ブレーキ力を最大限に活用し、不足分をまずトレーラ車の流体ブレーキにより負担させる制御方式を、トレーラ車優先遅れ込め方式という。
【0005】
上記のような制御方式において、ブレーキが作用することによって列車の速度が低下すると、電気ブレーキ力等価信号FEは時刻t1以降において図の点線に示すように低下する。ここで、前述のように、電気ブレーキ力等価信号より信号レベルを20%程度下げたダミーの信号(点線部分と平行な実線部分)を生じさせ、このダミー信号に従って流体ブレーキ力を増加させる。この結果、非ハッチング領域に着目すれば明らかなように、時刻t1においてトレーラ車のブレーキ負担が急激に増加し、その後は実線部分に沿ってトレーラ車の流体ブレーキ指令信号が増加する。時刻t2において、トレーラ車のブレーキ負担は100%に達し、その後モータ車の流体ブレーキ力が発生し、かつ、増加してゆく。
【0006】
図7は、列車速度とブレーキ力の諸量とを個別に示したグラフである。(a)に示す列車速度が時刻t1においてV1(例えば時速9〜10km程度)にまで減速すると、それ以降は(b)の点線に示すように、電気ブレーキ力に相当する電気ブレーキ力等価信号が低下する。ここで、ダミー信号FDEを生じさせる。従って、理論上生じるべき流体ブレーキ力は(c)の実線に示すように、(b)の実線部分の特性と相補的な特性となる。(c)の実線に示す流体ブレーキ力は、(d)の実線に示すM車(モータ車)の流体ブレーキ力と(e)の実線に示すT車(トレーラ車)の流体ブレーキ力とにより構成されている。
【0007】
しかしながら、(d)及び(e)に示すように、流体ブレーキ力の立ち上がりはモータ車とトレーラ車とでタイミングが異なり、しかもその変化は比較的急峻である。とりわけ、トレーラ車の流体ブレーキ力は、ダミー信号出力開始時点の信号の段差により変化が極めて急峻である。このため、実際には流体ブレーキ装置等の応答が遅れ、理論通りの特性は得難い。従って、実際のモータ車及びトレーラ車の流体ブレーキの立ち上がりは、それぞれ点線で示すように遅れを伴い、総合の流体ブレーキ力は、(c)の点線で示すように立ち上がる。従って、これは(b)に示す電気ブレーキ力信号と正確に相補的な特性になり得なかった。このため、列車の全ブレーキ力に一時的な変動が生じて、乗り心地が損なわれるという問題点があった。
【0008】
上記のような従来の問題点に鑑み、本発明は、乗り心地を損なうことなく電気ブレーキから流体ブレーキへの移行を行うことのできるブレーキ制御装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明による鉄道車両用ブレーキ制御装置は、モータ車及びトレーラ車を含んで編成された列車の電気ブレーキ装置及び流体ブレーキ装置を、トレーラ車優先の遅れ込め方式にて制御するブレーキ制御装置であって、モータ車の負担するブレーキ力Fを設定するモータ車ブレーキ力設定手段と、トレーラ車の負担するブレーキ力Fを設定するトレーラ車ブレーキ力設定手段と、前記電気ブレーキ装置により発生する電気ブレーキ力等価信号Fを検出する電気ブレーキ力検出手段と、列車速度の低下に伴い電気ブレーキから流体ブレーキへの移行を指示する電制絞込信号を発生する絞込信号発生手段と、前記電制絞込信号を受けた場合において、当該電制絞込信号を受ける前の電気ブレーキ力等価信号を、前記ブレーキ力F より大きい値であるE0として、そのうちのトレーラ車相当の電気ブレーキ力等価信号FBT及びモータ車相当の電気ブレーキ力等価信号FBMをそれぞれ、
BT=FE0 及び、FBM=FE0−FBTとし、かつ、当該電制絞込信号を受けた後の電気ブレーキ力等価信号Fに基づき設定される電気ブレーキ力信号をFDEとするとき、モータ車の流体ブレーキ力指令信号FAM及びトレーラ車の流体ブレーキ力指令信号FATを、
AM=F−(FBM/(FBM+FBT))・FDE、及び、
AT=F−(FBT/(FBM+FBT))・FDE
とする流体ブレーキ力制御手段とを備えたものである(請求項1)。
このように構成されたブレーキ制御装置においては、電気ブレーキ力の減衰をモータ車とトレーラ車とに分配して演算処理することで、電気ブレーキ力の減衰を補うべく発生させる流体ブレーキ力を、モータ車とトレーラ車とに分配して同一のタイミングで立ち上げる。これによって、流体ブレーキ力はモータ車とトレーラ車とに同時分散されて立ち上がるので、個々の立ち上がり変化は小さくなり、上昇勾配も緩やかになる。従って、流体ブレーキ装置等における実際の出力の追随性が良くなる。
【0010】
上記ブレーキ制御装置(請求項1)において、電気ブレーキ力信号FDEは、電気ブレーキ力等価信号FEと一定の関係を有して当該電気ブレーキ力等価信号FEよりも信号レベルを下げたダミー信号であってもよい(請求項2)。
ダミー信号を用いることにより流体ブレーキ力を早めに立ち上げるようにすれば、流体ブレーキ装置等の応答の遅れを補償することができる。
【0011】
上記ブレーキ制御装置(請求項1)において、絞込信号発生手段は、電気ブレーキ力等価信号FEが低下し始める時点より所定時間早く電制絞込信号を発生するものであってもよい(請求項3)。
この場合、電制絞込信号に基づいて流体ブレーキ力を早めに立ち上げるようにすれば、流体ブレーキ装置等の応答の遅れがあっても、実際の電気ブレーキ力の低下を流体ブレーキにより適時に補足して全ブレーキ力の変動を防止することができる。
【0012】
上記ブレーキ制御装置(請求項1)において、絞込信号発生手段は、電気ブレーキ力等価信号FEが低下し始める時点より所定時間早く電制絞込信号を発生し、流体ブレーキ力制御手段は、電気ブレーキ力等価信号FEが低下し始める時点より所定時間早く、電気ブレーキ力等価信号FEより信号レベルを下げたダミー信号を前記電気ブレーキ力信号FDEとして提供するものであってもよい(請求項4)。
この場合、電気ブレーキから流体ブレーキへの移行が早めに進行するので、流体ブレーキ装置等の応答の遅れがあっても、実際の電気ブレーキ力の低下を流体ブレーキにより適時に補足して全ブレーキ力の変動を防止することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
図1は本発明の第1の実施形態による鉄道車両用ブレーキ制御装置を示すブロック図である。当該鉄道車両はモータを搭載したモータ車(以下、M車という。)とモータを搭載しないトレーラ車(以下、T車という。)とにより編成されている。図において、編成ブレーキ力指令部1は、運転士のブレーキ操作に応じて、列車全体で必要とする編成ブレーキ力指令信号FをM車ブレーキ力設定器2、T車ブレーキ力設定器3、及び、電気ブレーキ力指令部4に伝達する。電気ブレーキ力指令部4には、M車のモータを利用した電気ブレーキ装置5が接続されている。電気ブレーキ力指令部4はリミッタ特性を有し、その出力である電気ブレーキ力指令信号Eは、編成ブレーキ力指令信号FがM車の最大粘着ブレーキ力等価信号H未満のときE=Fであり、編成ブレーキ力指令信号Fが最大粘着ブレーキ力等価信号H以上のときE=Hとなる。
【0014】
電気ブレーキ装置5には電気ブレーキ力検出器7及び絞込信号発生器8が接続されている。電気ブレーキ力検出器7は、電気ブレーキ装置5において実際に発生している電気ブレーキ力に相当する電気ブレーキ力等価信号FEを検出する。絞込信号発生器8は、電気ブレーキ装置5において実際に発生している電気ブレーキ力から列車の速度を検知し、電気ブレーキから流体ブレーキへの移行をすべき所定の速度範囲において電気制動絞込信号(以下、電制絞込信号という。)を発生する。なお、本実施形態において絞込信号発生器8は電気ブレーキ装置5とは別個に設けられているが、電気ブレーキ装置5に内蔵して設けることもできる。
【0015】
一方、M車ブレーキ力設定器2及びT車ブレーキ力設定器3は、それぞれ、M車が負担すべきブレーキ力に相当するブレーキ力指令信号FM及びT車が負担すべきブレーキ力に相当するブレーキ力指令信号FTを以下の式により決定する。
M=WM・F/(WM+WT
T=WT・F/(WM+WT
但し、WM及びWTはそれぞれM車の重量及びT車の重量である。
【0016】
M車ブレーキ力設定器2及び電気ブレーキ力検出器7は、それぞれ切換スイッチ6を介して演算器9の正の入力端子及び負の入力端子に接続されている。また、M車ブレーキ力設定器2及び電気ブレーキ力検出器7は、それぞれ切換スイッチ6を介して演算器12の負の入力端子及び正の入力端子に接続されている。
切換スイッチ6は図中の4箇所に設けられており、すべての切換スイッチ6が同時に動作する。切換スイッチ6は絞込信号発生器8によって駆動され、駆動されていない図示の状態においては接点6b側に電路を閉成し、駆動されると接点6a側に電路を閉成する。
演算器9はダイオード10及び切換スイッチ6を介してM車流体ブレーキ装置11に接続されている。M車流体ブレーキ装置11は、M車に搭載された流体ブレーキ装置である。一方、演算器12はダイオード13及び切換スイッチ6を介して演算器14の負の入力端子に接続されている。この演算器14の正の入力端子はT車ブレーキ力設定器3と接続されている。そして、演算器14はT車流体ブレーキ装置15と接続されている。T車流体ブレーキ装置15は、T車に搭載された流体ブレーキ装置である。
【0017】
ダミー信号発生器16の入力側は、切換スイッチ6の接点6a及び絞込信号発生器8と接続されている。ダミー信号発生器16の出力側は、M車電制負担決定部17及びT車電制負担決定部18と接続されている。当該ダミー信号発生器16は電気ブレーキ力検出器7から受けた信号に対して後述する一定の関係を有するダミーの出力信号をM車電制負担決定部17及びT車電制負担決定部18に提供する。
演算器19の正の入力端子は切換スイッチ6の接点6aと接続され、負の入力端子はM車電制負担決定部17の出力側と接続されている。また、演算器19の出力端子は切換スイッチ6の接点6aと接続されている。T車電制負担決定部18の出力側は切換スイッチ6の接点6aと接続されている。
【0018】
上記のように構成されたブレーキ制御装置において、列車の力行中に編成ブレーキ力指令部1から編成ブレーキ指令信号Fが出力されたとき、同信号FがM車の最大粘着ブレーキ力H未満である場合は、電気ブレーキ力指令部4から電気ブレーキ力指令信号E(=F)が出力される。電気ブレーキ装置5はこれを受けて、電気ブレーキを作用させる。電気ブレーキの作用開始当初であって列車の速度が所定値以上である場合には、絞込信号発生器8は電制絞込信号を発生しないので、切換スイッチ6は接点6b側に閉成されている。従って、電気ブレーキ力検出器7から演算器9に対して、電気ブレーキ装置5において実際に発生している電気ブレーキ力に相当する電気ブレーキ力等価信号FEが与えられる。演算器9においては、M車が負担すべきブレーキ力指令信号FMから前記電気ブレーキ力等価信号FEを減じる演算がなされる。
【0019】
電気ブレーキ作用開始当初であって列車の速度が所定値以上である場合には、M車のブレーキ力指令信号FMより電気ブレーキ力等価信号FEの方が大きいため、演算器9の出力は負の値となる。従ってダイオード10の出力は0であり、M車流体ブレーキ装置11には流体ブレーキ指令信号が与えられない。一方、演算器12においては、M車のブレーキ力指令信号FMより電気ブレーキ力等価信号FEの方が大きいため、出力は正の値となる。この正の値はダイオード13及び切換スイッチ6を介して演算器14に入力される。そして、演算器14では、T車が負担すべきブレーキ力に相当するブレーキ力指令信号FTから前記正の値が減算されて出力される。T車流体ブレーキ装置15はこれを受けてT車に流体ブレーキを作用させる。
この結果、電気ブレーキがM車に作用し、かつ、M車のブレーキ負担量を超えて発生している電気ブレーキの量をT車のブレーキ負担量から差し引いた量の流体ブレーキがT車に作用する。
【0020】
次に、列車の速度が低下して、電気ブレーキから流体ブレーキへの移行が行われる際の動作について図2のグラフを参照しながら説明する。
列車速度が時速V1(例えば9〜10km)まで低下すると、絞込信号発生器8は電制絞込信号(図2の(b))を出力する。電制絞込信号は列車速度がV2に低下する時刻T2まで維持される。電制絞込信号の出力と同時に、切換スイッチ6は接点6a側に閉成される。また、電制絞込信号を受けたダミー信号発生器16は、電気ブレーキ力検出器7によって取り出された電気ブレーキ力等価信号FEを基にしてダミー信号FDEを発生させる(図2の(c))。具体的には、電制絞込信号を受ける前の電気ブレーキ力等価信号FE0を20%減じた値を初期値として、以後、実際の電気ブレーキ等価信号FEと同一勾配で下降する特性をダミー信号FDEとする。このダミー信号FDEは、M車電制負担決定部17及びT車電制負担決定部18に与えられ、それぞれにおける負担分が決定される。図3は、この負担決定の概念を表す図である。
【0021】
図3において、高さ方向はブレーキ力信号を表し、幅方向は時間を表す。高さ方向の最大寸法は編成ブレーキ力指令信号Fであり、図示の矩形全領域を上下に分割したそれぞれの高さがT車ブレーキ力指令信号FT及びM車ブレーキ力指令信号FMである。ハッチングを設けた領域は電気ブレーキの負担範囲を示し、それ以外の領域は流体ブレーキの負担範囲を示している。図示の場合は、電気ブレーキの減衰開始前の値が前述のFE0であり、これはM車のブレーキ力指令信号FMに相当するブレーキ力を負担するのみならず、T車のブレーキ力指令信号FTの一部に相当するブレーキ力をも負担している。そして不足分(F−FE0)がT車の流体ブレーキにより負担されている。このようにして、M車の電気ブレーキ力を最大限に活用し、不足分を、まずT車の流体ブレーキによって負担する制御方式、すなわちT車優先遅れ込め方式がとられている。
【0022】
上記電気ブレーキ力等価信号FE0は、M車の本来のブレーキ負担量に対して100%の値である電気ブレーキ力等価信号FBM(すなわち、FBM=FM)と、T車のブレーキ負担量の何%かを占める電気ブレーキ力等価信号FBTとの和により成り立っている。すなわち、FBTは、FBT=FE0−FMの関係にある。
従って、電気ブレーキ力等価信号FBMはM車のブレーキ力信号として用いられ、電気ブレーキ力等価信号FBTはT車のブレーキ力信号として用いられている。すなわち、実際に電気ブレーキ力を提供しているのはM車のみであるが、見かけ上は、FBMはM車相当の電気ブレーキ力等価信号であり、FBTはT車相当の電気ブレーキ力等価信号である。そこで、FBM及びFBTを基準として、その後の電気ブレーキ力の減衰をM車及びT車で分配して演算処理することによりM車及びT車において同一のタイミングで流体ブレーキによる補足を行う「均一補足」の手法を導入する。
【0023】
前述のように、時刻T1以後の電気ブレーキ力信号は、電気ブレーキ力等価信号FEそのものではなく、ダミー信号FDEに従って与えられるが、このダミー信号FDEを、M車相当分FEMとT車相当分FETに分配する。分配比は、減衰前の電気ブレーキ力等価信号FBM及びFBTによる。すなわち、
EM=(FBM/(FBM+FBT))・FDE ...(1)
ET=(FBT/(FBM+FBT))・FDE ...(2)
であり、これらはそれぞれ図3の実線に示すように減衰する。なお、図中の点線は、仮に、ダミー信号FDEではなく電気ブレーキ力等価信号FEを上記式(1)及び(2)の分配比で分配した場合の特性を、参考のため示すものである。
従って、電気ブレーキから流体ブレーキへの移行中の任意のFDEに対するM車の流体ブレーキ力指令信号FAM及びT車の流体ブレーキ力指令信号FATは、
AM=FM−(FBM/(FBM+FBT))・FDE ...(3)、及び、
AT=FT−(FBT/(FBM+FBT))・FDE ...(4)
となり、図3の非ハッチング領域に示すように時間の経過と共に増大する。
【0024】
上記流体ブレーキ力指令信号FAM及びFATに基づいて生じるM車及びT車の理論上の流体ブレーキ力は、それぞれ図2の(e)及び(f)に示す特性となる。これらの特性は、ダミー信号FDEがM車とT車とに同一タイミングで分配されたことにより、個々には立ち上がりの変化量が小さくなり、かつ、その後の流体ブレーキ力の上昇の勾配が小さい。従って、流体ブレーキ装置等の応答の遅れによる影響がほとんど現れず、実際に得られる流体ブレーキ力もこれらの理論上の特性とほとんど変わらない。従って、(d)に示す両者の合算特性についても、実際に生じる補足力(点線)が理論上の補足力(実線)に対してごくわずかに遅れる程度であり、実質的に理論上の特性と同一と認められる流体ブレーキ力を実際に提供することができる。
こうして、全ブレーキ力の変動を防止すべく適切に設定されたダミー信号を含む特性(c)に対して、正確に相補的な特性(d)を提供することができるので、
全ブレーキ力の変動を防止することができる。これによって、列車の乗り心地を損なうことなく、電気ブレーキから流体ブレーキへの移行を行わせることができる。
【0025】
なお、上記実施形態においては、編成ブレーキ指令信号FがM車の最大粘着ブレーキ力H未満である場合について説明したが、同信号FがM車の最大粘着ブレーキ力H以上である場合は以下のようになる。
すなわち、この場合は、電気ブレーキ力指令部4から電気ブレーキ力指令信号E(=H)が出力される。電気ブレーキ装置5はこれを受けて、電気ブレーキを作用させる。電気ブレーキの作用開始当初であって列車の速度が所定値以上である場合には、絞込信号発生器8は電制絞込信号を発生しないので、切換スイッチ6は接点6b側に閉成されている。従って、電気ブレーキ力検出器7から演算器9に対して、電気ブレーキ装置5において実際に発生している電気ブレーキ力に相当する電気ブレーキ力等価信号FEが与えられる。演算器9においては、M車が負担すべきブレーキ力指令信号FMから前記電気ブレーキ力等価信号FEを減じる演算がなされる。
【0026】
ここで、M車のブレーキ力指令信号FMは電気ブレーキ力等価信号FEより大きいため、演算器9の出力は正の値となる。従ってダイオード10及び切換スイッチ6を介して、M車流体ブレーキ装置11に流体ブレーキ指令信号が与えられる。一方、演算器12においては、M車のブレーキ力指令信号FMが電気ブレーキ力等価信号FEより大きいため、出力は負の値となる。従ってダイオード13の出力は0となり、演算器14の負の入力端子に与えられる信号は0である。そして、演算器14では、T車が負担すべきブレーキ力に相当するブレーキ力指令信号FTがそのまま出力される。T車流体ブレーキ装置15はこれを受けてT車に流体ブレーキを作用させる。
この結果、電気ブレーキ及び、M車のブレーキ負担量から電気ブレーキ量を差し引いた分の流体ブレーキ量がM車に作用し、かつ、T車が負担すべき流体ブレーキの全量がT車に作用する。
【0027】
図4は上記の状態における移行過程のブレーキ力の構成の変化を示す図である。すなわち、この構成は、図3に示すFBTが0である場合に相当する。この場合、前述の式(3)及び(4)が、それぞれ
AM=FM−FDE ...(3’)、及び、
AT=FT ...(4’)
になる。従って、電気ブレーキ力の減衰分はモータ車の流体ブレーキ力の増加のみによって補足される。しかしながら、この場合は、全ブレーキ力に占める電気ブレーキ力の負担の割合が元々少ないことから、時刻T1後の流体ブレーキの上昇勾配が比較的小さい。従って、流体ブレーキ装置等の応答の遅延による影響が少ない。
【0028】
図5は、第2の実施形態によるブレーキ制御装置における電気ブレーキから流体ブレーキへの移行過程を示すグラフである。なお、ブレーキ制御装置の見かけ上の構成は第1の実施形態と同様であるので図1を参照するものとする。
第1の実施形態との違いは、電制絞込信号を、実際の電気ブレーキ力が低下し始める時刻T1より前に出力することにより、電気ブレーキの失効を予告することにある(図5の(a)及び(b)参照)。図1において、絞込信号発生器8は、電気ブレーキ装置5からの電気ブレーキ力等価信号を受けて、列車の速度の下降特性の傾き(減速度)を捉えている。そこで、その下降特性の傾きから、電気ブレーキが減衰し始める速度V1に達する時刻T1より所定時間(例えば0.5秒)前の時刻Taを求め、この時刻Taにおいて電制絞込信号を出力する。なお、このように速度の下降特性の傾きを基に時刻Taを求める方法以外に、速度が所定値(例えば時速11km)に達したことにより電制絞込信号を出力してもよい。
【0029】
ダミー信号発生器16は、図5の(c)に示すように、時刻Taより後の時刻Tbからダミー信号の出力を開始する。また、このとき切換スイッチ6が動作して接点6a側に電路を閉成する。但し、この時刻Tbにおいてはまだ実際の電気ブレーキ力等価信号の減衰は生じていない。すなわち、実際に電気ブレーキ力等価信号が減衰するのは時刻T1以降である。そこで、時刻Tbから時刻T1までの間においては、時刻T1の時点でダミー信号が電気ブレーキ力等価信号より20%ダウンした値となるような所定の傾きで下降するダミー信号を出力する。そして、時刻T1以降は、第1の実施形態と同様に、実際の電気ブレーキ力等価信号と同一勾配で下降するダミー信号を出力する。
【0030】
このようにして出力されたダミー信号については、第1の実施形態と同様にM車電制負担及びT車電制負担が決定され、流体ブレーキによる補足力が決定される。図5の(e)はM車の流体ブレーキによる補足力を、(f)はT車の流体ブレーキによる補足力を、それぞれ表している。従って、流体ブレーキによる全補足力は(d)に示すような特性となる。これは、(c)に示すダミー信号を補償する特性である。この(d)〜(f)に示す特性は、図2の(d)〜(f)との比較により明らかなように、変化がさらに緩やかなものとなっている。従って、実際の流体ブレーキ力が追随しやすい。また、このようにして実際の電気ブレーキ力等価信号の低下が始まるより前に流体ブレーキによる補足力を立ち上げ始めることにより、流体ブレーキ装置等の応答の遅延が表面化するのをほぼ完全に防止することができる。従って、全ブレーキ力に生じる変動をさらに極小化することができる。この結果、電気ブレーキから流体ブレーキへの移行に際して、列車の乗り心地を損なうことがない。
【0031】
【発明の効果】
以上のように構成された本発明は以下の効果を奏する。
請求項1の鉄道車両用ブレーキ制御装置によれば、電気ブレーキ力の減衰を補うべく発生させる流体ブレーキ力を、モータ車とトレーラ車とに分配して同一のタイミングで立ち上げることで、流体ブレーキ力はモータ車とトレーラ車とに同時分散されて立ち上がるので、個々の立ち上がり変化は小さくなり、上昇勾配も緩やかになる。従って、流体ブレーキ装置等の応答の遅れはほとんど無視できる程度に小さくなり、全ブレーキ力に変動を生じることなく電気ブレーキから流体ブレーキへの移行を行うことができる。この結果、乗り心地が損なわれることがなく、制動距離も短くなる。
【0032】
請求項2の鉄道車両用ブレーキ制御装置によれば、ダミー信号を用いることにより流体ブレーキ力を早めに立ち上げるようにすれば、流体ブレーキ装置等の応答の遅れを補償することができる。
【0033】
請求項3の鉄道車両用ブレーキ制御装置によれば、電制絞込信号に基づいて流体ブレーキ力を早めに立ち上げるようにすれば、流体ブレーキ装置等の応答の遅れがあっても、実際の電気ブレーキ力の低下を流体ブレーキにより適時に補足して全ブレーキ力の変動を防止することができる。
【0034】
請求項4の鉄道車両用ブレーキ制御装置によれば、電気ブレーキから流体ブレーキへの移行が早めに進行するので、流体ブレーキ装置等の応答の遅れがあっても、実際の電気ブレーキ力の低下を流体ブレーキにより適時に補足して全ブレーキ力の変動を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態による鉄道車両用ブレーキ制御装置を示すブロック図である。
【図2】上記ブレーキ制御装置における電気ブレーキから流体ブレーキへの移行過程の信号変化を示すグラフである。
【図3】上記移行過程におけるブレーキ力の構成の変化を示す図である。
【図4】他の条件下での移行過程におけるブレーキ力の構成の変化を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施形態による鉄道車両用ブレーキ制御装置における電気ブレーキから流体ブレーキへの移行過程の信号変化を示すグラフである。
【図6】従来のブレーキ制御装置における電気ブレーキから流体ブレーキへの移行過程のブレーキ力の構成の変化を示す図である。
【図7】従来のブレーキ制御装置における電気ブレーキから流体ブレーキへの移行過程の信号変化を示すグラフである。
【符号の説明】
1 編成ブレーキ力指令部
2 M車ブレーキ力設定器
3 T車ブレーキ力設定器
4 電気ブレーキ力指令部
5 電気ブレーキ装置
6 切換スイッチ
7 電気ブレーキ力検出器
8 絞込信号発生器
9,12,14,19 演算器
11 M車流体ブレーキ装置
15 T車流体ブレーキ装置
16 ダミー信号発生器
17 M車電制負担決定部
18 T車電制負担決定部

Claims (4)

  1. モータ車及びトレーラ車を含んで編成された列車の電気ブレーキ装置及び流体ブレーキ装置を、トレーラ車優先の遅れ込め方式にて制御するブレーキ制御装置であって、
    モータ車の負担するブレーキ力Fを設定するモータ車ブレーキ力設定手段と、
    トレーラ車の負担するブレーキ力Fを設定するトレーラ車ブレーキ力設定手段と、
    前記電気ブレーキ装置により発生する電気ブレーキ力等価信号Fを検出する電気ブレーキ力検出手段と、
    列車速度の低下に伴い電気ブレーキから流体ブレーキへの移行を指示する電制絞込信号を発生する絞込信号発生手段と、
    前記電制絞込信号を受けた場合において、当該電制絞込信号を受ける前の電気ブレーキ力等価信号を、前記ブレーキ力F より大きい値であるE0として、そのうちのトレーラ車相当の電気ブレーキ力等価信号FBT及びモータ車相当の電気ブレーキ力等価信号FBMをそれぞれ、
    BT=FE0 及び、FBM=FE0−FBTとし、かつ、当該電制絞込信号を受けた後の電気ブレーキ力等価信号Fに基づき設定される電気ブレーキ力信号をFDEとするとき、モータ車の流体ブレーキ力指令信号FAM及びトレーラ車の流体ブレーキ力指令信号FATを、
    AM=F−(FBM/(FBM+FBT))・FDE、及び、
    AT=F−(FBT/(FBM+FBT))・FDE
    とする流体ブレーキ力制御手段と
    を備えたことを特徴とする鉄道車両用ブレーキ制御装置。
  2. 前記電気ブレーキ力信号FDEは、前記電気ブレーキ力等価信号FEと一定の関係を有して当該電気ブレーキ力等価信号FEよりも信号レベルを下げたダミー信号であることを特徴とする請求項1記載の鉄道車両用ブレーキ制御装置。
  3. 前記絞込信号発生手段は、前記電気ブレーキ力等価信号FEが低下し始める時点より所定時間早く前記電制絞込信号を発生することを特徴とする請求項1記載の鉄道車両用ブレーキ制御装置。
  4. 前記絞込信号発生手段は、前記電気ブレーキ力等価信号FEが低下し始める時点より所定時間早く前記電制絞込信号を発生し、
    前記流体ブレーキ力制御手段は、前記電気ブレーキ力等価信号FEが低下し始める時点より所定時間早く、前記電気ブレーキ力等価信号FEより信号レベルを下げたダミー信号を前記電気ブレーキ力信号FDEとして提供する
    ことを特徴とする請求項1記載の鉄道車両用ブレーキ制御装置。
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