JP3880009B2 - 摺動部材の製造方法 - Google Patents
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上記半球状のシューは、上記斜板と摺動する摺動面と、半球状に形成される半球状凸面とから構成されており、上記摺動面は、外周側に比べて中央部側が僅か数μm程度盛り上がるような中高形状に形成されている。
このように、従来ではシューの摺動面を中高形状とする事により、斜板とシューの摺動面との間に僅かな隙間を生じさせ、そこに潤滑油を導入させて油膜を発生させるようにしている。これにより、斜板とシューの摺動面との摩擦を低減させるようにしている。
さらに、従来からシューの摺動特性を向上させるために、シューの摺動面に表面処理を施したり、改質したりといった処理を行っているが、このような処理を行うことによりシューの製造コストが高くなるという欠点があった。
そこで、本願の発明者が研究したところ、斜板とシューの摺動面との潤滑性を向上させるためには、シューの摺動面に微小な凹凸を形成して、そこに潤滑油を導入するのが有効であることが判明した。
このような微小な凹凸を摺動面に作成するための従来の加工方法としては、例えばエッチング、切削加工、転造、マイクロショット、放電加工が知られている。しかしながら、このような従来一般に知られている加工方法によって、シューの摺動面に微小な凹凸を作成すると次のような欠点が生じる。すなわち、従来の加工方法においては、摺動面に均一で滑らかな数μm未満の凹凸を形成することは困難であり、しかも凹凸の表面の粗さが大きくなる。また、製造コストが高くなる。さらに、上述したように摺動面に凹凸を形成してから摺動面に後加工を施すと、上記凹凸が消失するという欠点がある。
次に上記摺動面の表面を削除して該摺動面の表面を一旦平滑な面とした後に、
上記摺動面にバフ加工を施して該摺動面に微小な凹凸を形成するようにした摺動部材の製造方法を提供するものである。
斜板3は円板状に形成されており、この斜板3における両方の端面は、シュー4と摺動する平坦な摺動面3A、3Aとなっている。
一方、摺動部材としてのシュー4は全体として半球状に形成されており、上記斜板3の摺動面3Aと摺動する摺動面4Aと、半球状をした半球状凸面4Bとから構成されている。
上記斜板式コンプレッサのハウジング内には、回転軸2と平行に、かつそれを囲繞して複数のピストン5を配置している。各ピストン5の一端に形成した円弧状の切欠き部5A内に2個1組のシュー4を摺動自在に保持してあり、その状態の切欠き部5Aを上記斜板3の外周部を包み込むように配置すると同時に、各組のシュー4の摺動面4Aを斜板3の摺動面3Aに当接させている。
そして、上記回転軸2が回転されると斜板3が回転して、斜板3の両端面である摺動面3Aと各組のシュー4の摺動面4Aとが摺動するとともに、切欠き部5Aと各組のシュー4の半球状凸面4Bとが摺動し、それに伴って各組のシュー4を介して各ピストン5が軸方向に進退動されるようになっている。
上述した構成は従来公知の摺動装置のものと変わるところはない。
そして、本実施例においては、摺動部材としてのシュー4の摺動面4Aの全域にわたってレーザ焼入れを施してから後加工を施すことにより、摺動面4Aの耐焼付性を向上させている。
すなわち、本実施例におけるシュー4の製造工程を説明すると、先ず、SUJにより半球状をした母材としてのシュー4を製造する。次に、図2および図4に示すように、母材としてのシュー4の端面である摺動面4Aの表面全域に対して、所定のピッチPで多数の平行線Aを描くようにYAGレーザを照射する。本実施例においては、上記ピッチPは0.1〜1mmに設定している。
上記摺動面4Aに照射するYAGレーザの出力は50Wであり、これを摺動面4Aの表面に対して2mmの深さとなる位置でYAGレーザの焦点が結ばれるように集光レンズを調整して、したがって摺動面4Aの表面に対してはデフォーカスした状態で上記平行線Aを描くようにYAGレーザを照射するようにしている。
このように、摺動面4Aにレーザが照射されることで、該摺動面4Aの表面全域が焼入れされるようになっている。図4に示すように、上述したように摺動面4Aにレーザを照射することによって焼入れされる範囲は、レーザの照射位置(各平行線A)である表面を中心として断面半円形状となり、レーザの照射位置とその両側および内方側の箇所が焼入れされることになる。
本実施例においては、平行線AのピッチPを0.1〜1mmに設定しているので、隣り合う平行線Aの箇所にレーザが照射されることに伴って、上記凹部7となる箇所が二度にわたって焼入れされることになり、したがって、凹部7の内方側の箇所は、断面が逆三角形をした二重焼入れ部12となっている。
また、上記直接焼入れ部11および二重焼入れ部12よりも深さ方向の内方側の所定領域(波型の破線13と上記破線8との間の領域)は、厚さ約50μm程度の内部焼入れ層14となっている。つまり、上記直接焼入れ部11、二重焼入れ部12およびそれらの隣接内方側となる内部焼入れ層14に対してレーザ焼入れがなされている。
そして、本実施例においては、直接焼入れ部11の硬度をH1、二重焼入れ部12の硬度をH2、内部焼入れ層14の硬度をH3とし、シュー4の母材の硬度をHとした時に、それらの硬度が異なるようになっており、それらの硬度の関係は次のようになる。
H1>H2>H>H3
つまり、レーザ焼入れ後の摺動面4Aを表面側から見ると、膨出部6と凹部7とが交互に隣接して形成されるとともに、それらの箇所は表面側及び深さ方向においてレーザ焼入れによる硬さの違いが生じている。
因みに、発明者が行った試験では、本実施例では H1=Hv890、 H2=Hv800、H=Hv750、H3=Hv650の硬さとなっていた。
本実施例においては、シュー4の摺動面4Aに対して上述したように多数の平行線Aを描くようにレーザを照射して摺動面4Aの表面全域に対して焼入れを行うとともに、それによって摺動面4Aの表面および深さ方向において硬度の違いを生じさせるようにしている。
次に、本実施例においては、上述したラップ加工の後に、上記シュー4の摺動面の全域に対してバフ加工を施して加工が終了する。
このようにして加工が終了した後には、図3および図5に示すように、シュー4の摺動面4Aの全域に上記直接焼入れ部11の箇所(上記膨出部6の内方側)に上記膨出部6と同様の膨出部6’が形成されるとともに、二重焼入れ部12の箇所(上記凹部7の内方側)に上記凹部7と同様の凹部7’が形成される。つまり、加工後のシュー4の摺動面4Aには微小な多数の凹凸が形成されるようになっている。
このように加工後に微小な凹凸が生じるのは、上述したラップ加工後に摺動面4Aに硬度が異なる箇所が露出した状態となっており、その状態において摺動面4Aに対してバフ加工がなされるので、硬度が低い二重焼入れ部12が直接焼入れ部11よりも深さ方向に多量に除去されるためである。
加工終了後における上記膨出部6’と凹部7’の高低差(深さ)は、約0.1〜1μmとなっており、凹部7’は潤滑油が導入される貯溜部および潤滑油通路として機能するようになっている。
製造後のシュー4の摺動面4Aには、上記多数の膨出部6’と凹部7’とが形成されており、これら凹部7’内に潤滑油が貯溜されるようになっている。これにより、摺動面4Aの全域にわたって満遍なく油膜が維持されるようになっている。したがって、本実施例の製造方法によれば、耐焼付性に優れたシュー4を提供することができる。また、シュー4の摺動面4Aの負荷容量を向上させることができ、ひいては耐摩耗性にも優れたシュー4を提供することができる。
これに対して、上述した本実施例によれば、レーザ焼入れ処理後にラップ加工によって一旦摺動面4Aの表面を平滑な面としてからバフ加工を施すので、製造後の摺動面4Aの膨出部6’と凹部7’の表面の粗さは小さくなり、しかも摺動面4Aに形成される微小な凹凸は高低差が約0.1〜1μmの均一なものとなる。
また、上記本実施例によれば、上述した従来の加工方法によって摺動面に凹凸を形成する場合と比較して比較的安い製造コストによって摺動面4Aに2μm未満の微小な凹凸を形成することができる。
つまり、図6は、摺動面4Aに対して格子状にレーザを照射するものであり、図 7は中心を囲繞する同心円の位置にレーザを照射するものである。また、図8は反時計回りの渦巻き状にレーザを照射するものであり、さらに図9は、千鳥状に配置される多数の小さな円を描くように摺動面4Aにレーザを照射するものである。
これら図6〜図9に示したように、摺動面4Aに対するレーザの照射パターンを変更したとしても、レーザを照射した箇所が膨出することで、膨出部が形成されるとともにその隣接位置に凹部が形成される。そして、このように摺動面4Aにレーザを照射することで、摺動面4Aに焼入れが施されるとともに、摺動面の表面と深さ方向に硬度の違いを生じさせる。このレーザ焼入れ処理後の工程は、上述した実施例と同様に摺動面4Aに対してラップ加工を行って一旦平滑な面としてから摺動面4Aにバフ加工を行う。
このような図6〜図9示したレーザの照射パターンを用いて製造したシュー4であっても上述した本実施例と同様の作用・効果を得ることができる。
また、上述した実施例は、摺動部材としてのシュー4の製造に対して本発明の製造方法を適用した場合を説明したが、上記斜板3を製造するための製造方法として本発明を適用しても良いし、その他に2つの摺動部材が摺動する機械装置における摺動部材の製造方法として本発明を適用することも可能である。
さらに、上述した半球状のシュー4としては、上記半球状凸面4Bをさらに軸方向に圧縮させて全体として扁平な形状をしたシューを含むものである。
6’…膨出部 7’…凹部
Claims (4)
- 摺動部材の摺動面にレーザを照射してレーザ焼入れを施すことにより、上記摺動面の表面に硬度が異なる箇所を生じさせ、
次に上記摺動面の表面を削除して該摺動面の表面を一旦平滑な面とした後に、
上記摺動面にバフ加工を施して該摺動面に微小な凹凸を形成することを特徴とする摺動部材の製造方法。 - 上記摺動面にレーザ焼入れを施す際のレーザの照射軌跡は、平行な直線状、格子状、同心円状、渦巻き状および千鳥状に配置した円のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の摺動部材の製造方法。
- 上記レーザ焼入れ後の摺動面の表面をラップ加工によって削除することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の摺動部材の製造方法。
- 上記摺動部材は半球状をしたシューであって、上記バフ加工後における凹凸の高低差(深さ)は0.1〜1μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の摺動部材の製造方法。
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