JP3879149B2 - 一方向性けい素鋼板の製造方法 - Google Patents

一方向性けい素鋼板の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、一方向性けい素鋼板の製造方法に関し、特に所定の磁気特性になる一方向性けい素鋼板を、生産効率良くかつ割れを少なくして製造することのできる方法を提案しようとするものである。
【0002】
【従来の技術】
一方向性けい素鋼板は、主として変圧器その他の電気機器の鉄心材料として使用され、磁気特性として磁束密度が高く、鉄損値が低いこと等が基本的に重要である。そのため、一方向性けい素鋼板の一般的な製造方法においては、厚み100 〜300 mmのスラブを高温に加熱後、熱間圧延し、次いでこの熱延板を1回又は中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延によって最終板厚とし、脱炭焼鈍後、焼鈍分離剤を塗布してから、二次再結晶及び純化を目的として最終仕上焼鈍を行うという、複雑な工程が採られている。
【0003】
すわなち、磁気特性を高めるためには、仕上焼鈍工程での二次再結晶で、磁化容易軸である〈001〉軸が圧延方向に揃った、{110}〈001〉方位(いわゆるゴス方位)の結晶粒を成長させることが重要であり、かかるゴス方位に高度に揃った二次再結晶組織よりなる鋼板を得るためにこそ、上記のような複雑な工程が採られている。
【0004】
このような二次再結晶を効果的に促進させるためには、まず、ゴス方位以外の一次再結晶の成長を抑制する、インヒビターと呼ばれる分散相を、均一かつ適正なサイズで鋼中に分散させることが重要である。かかるインヒビターには硫化物、窒化物等であって鋼中への溶解度が極めて小さいものが用いられ、代表的なものはMnS 、MnSe、AlN 及びVN等である。
【0005】
上述した硫化物や窒化物の主インヒビターを適切なサイズで微細分散させるために、従来から熱延前のスラブ加熱時にインヒビターを一旦完全に固溶させた後、熱延時に析出させる方法が行われてきた。ここに、インヒビターを十分固溶させるためのスラブ加熱温度というのは1400℃程度であり、普通鋼のスラブ加熱温度に比べて約200 ℃も高い。こうした高温スラブ加熱は、インヒビターの機能を十分に発揮させるために必須である反面、次のような弊害を招いていた。
(1) 高温加熱を行うためにエネルギー原単位が高い。
(2) 溶融スケールが発生し易く、またスラブ垂れが生じ易い。
(3) スラブ表層の過脱炭が生じる。
【0006】
そこで、上記(2) 、(3) の問題を解決するために、一方向性けい素鋼専用の誘導加熱炉が開発され、実際のスラブ加熱に使用されているが、省エネルギーの観点から見ると、却ってエネルギー増大につながるという問題点が残されていた。
【0007】
一方向性けい素鋼板を生産効率良く製造するためには、できる限り省エネルギーを図ることが希求されており、そのためにもスラブ加熱時のエネルギー削減は急務である。また、高級一方向性けい素鋼板はともかく、磁気特性が中級程度の汎用品においては特に、製造コストの削減が重要課題となっているため、スラブ加熱時のエネルギー削減(すなわち加熱温度の低温化)は、製造コストの削減につながる利点もある。
【0008】
そのため、一方向性けい素鋼板を製造する際におけるスラブ加熱の低温化を実現すべく、これまで多くの研究者が多大な努力をしてきた。その成果については既に多くの開示があり、例えば、特公昭54−24685号公報では、As、Bi、Pb、Sb等の粒界偏析元素を鋼中に含有させ、インヒビターとして利用することによってスラブ加熱温度を1050〜1350℃の範囲にする方法が開示された。また、特開昭57−158322号公報では、鋼中のMn量を下げ、Mn/Sの比率を2.5 以下にすることにより低温スラブ加熱化を行い、更にCuの含有により二次再結晶を安定化する技術が開示された。更に、特開昭57−89433号公報では、Mnに加えてS、Se、Sb、Bi、Pb、Sn、B等の元素を加えたスラブを用い、これにスラブの柱状晶率及び二次冷延圧下率の制御を組み合わせることにより1000〜1250℃の低温スラブ加熱化を実現している。
【0009】
これらの技術は、鋼中への溶解度が極めて小さい硫化物や窒化物の量を、大幅に減らして低温スラブ加熱でも固溶する範囲内に限定したものであり、特にAlN についてはインヒビターとして利用しない方針の技術である。したがって、結果としてインヒビターの抑止力が弱いために磁気特性がいま一つ良くなかったり、研究室規模の技術であるといった問題点があった。
【0010】
また、特開昭59−190324号公報では、一次再結晶焼鈍時にパルス焼鈍を施すという新規な技術が開示されたが、これも研究室規模の製造手段に留まっている。
次に、特開昭59−56522号公報では、Mnを0.08〜0.45%、Sを0.007 %以下にすることにより低温スラブ加熱化する方法が開示され、これにCrを添加することにより二次再結晶の安定化を図る技術が特開昭59−19035号公報で開示された。これらの技術はいずれも、S量を下げてスラブ加熱時のMnS の固溶を図るのが特徴である。しかし、重量の大きなスラブでは幅方向や長手方向で磁気特性のばらつきか生じるという問題点があった。
【0011】
一方、特開昭57−207114号公報では、けい素鋼の極低炭素化(C:0.002 〜0.010 %と低温スラブ加熱化とを組み合わせる技術が開示された。これは、スラブ加熱温度が低い場合には凝固から熱延までの間にオーステナイト相を経由しない方が後の二次再結晶に有利であるという思想に基づく技術である。このようにC量が極端に低いことは、冷延時の破断防止にも有利であるが、二次再結晶を安定化させるためには、脱炭焼鈍時に窒化させることが必要である。
上記の特開昭57−207114号公報の技術が開示された後は、製造工程の途中における窒化を前提とした技術開発が主流となった。例えば、特開昭62−70521では、仕上焼鈍条件を特定し、仕上焼鈍時に途中窒化することで低温スラブ加熱を可能にする技術が開示され、更に、特開昭62−40315号公報ではスラブ加熱時に固溶し得ない量のAl、Nを含有させ、途中窒化によってインヒビターを適正状態に制御する方法が開示された。
【0012】
しかし、上記のような脱炭焼鈍時に途中窒化を施す方法は、新たな設備を要し、コストが増大するという問題点があり、また、仕上焼鈍中の窒化は、制御が困難であるという問題点がある。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
以上述べたように、従来技術でのスラブ加熱の低温化には、それぞれ問題が残されていた。そればかりか、スラブ加熱温度を下げると、割れの発生頻度が高くなり、歩留まりが低下するという問題もあった。
【0014】
そこで、この発明が解決しようとする第1の課題は、スラブ加熱温度を下げた場合に頻繁に生じがちな冷延時の破断防止である。これにより歩留まりの向上を達成し、ひいては製造コストの軽減も図られるため、コスト削減が強く望まれる中級の一方向性けい素鋼板の製造においては、特に有利である。
次いで第2の課題は、特に積極的な製造途中での窒化を施すこと無く、スラブ加熱温度を低くすることのできる製造技術の開発である。
【0015】
【課題を解決するための手段】
かかる目的も達成するための、この発明の要旨構成は、けい素鋼スラブを加熱後に熱間圧延をし、次いで熱延板焼鈍を施してから、1回又は中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延により最終板厚とした後、脱炭焼鈍、次いで焼鈍分離剤を塗布した後に最終仕上焼鈍を施す一方向性けい素鋼板の製造方法において、上記けい素鋼スラブに、Alを0.010 〜0.020 wt%、Cを 0.015 0.065 wt 含有するものを用い、このスラブを1260℃以下に加熱すること、及び上記熱延板焼鈍を、1000℃以下にて60秒以内の短時間焼鈍とすることを特徴とする一方向性けい素鋼板の製造方法にあり、かくして磁気特性を所定のレベルに維持しつつ、一方向性けい素鋼板を割れが少なく、省エネルギーを可能として製造することができる。
【0016】
特に、けい素鋼スラブが、Cを 0.015〜0.065 wt%含有することにより、安定して磁気特性に優れる一方向性けい素鋼板が得られる。
更に、上記けい素鋼スラブが、Alの原子数以上の原子数のNをさらに含有し、かつ、冷間圧延を、タンデム圧延機にて100 ℃以上の温度で行うことにより、一層、磁気特性に優れる一方向性けい素鋼板が得られる。
【0017】
【発明の実施の形態】
先に述べたとおり、最近の技術開発の流れとしては、スラブ加熱時に固溶しきれない多くのAlをスラブに含有させ、製造工程の途中で窒化を施すことによってインヒビターの抑止力を強め、磁気特性を高める方向になってきている。しかし、Al量を高めて、低温スラブ加熱を行うことは、途中窒化工程が必須となるためコストが高まるだけでなく、割れの多発による歩留まりの低下を招く。
【0018】
発明者らは、冷延時の割れの発生頻度とスラブの成分組成との関係について調査した。その結果、割れの発生頻度は、鋼中のAl含有量と強い相関があることが明らかとなった。図1は、Al含有量の異なる、厚み200 mmのけい素鋼スラブを1200℃に加熱後、2.2 mmまで熱延し、1000℃で120 秒の熱延板焼鈍を施したのち、0.35mmまで冷間圧延した場合の割れの発生頻度を示したグラフである。なお、従来から割れの発生頻度との相関が強いことが知られているSi量、C量は、それぞれSi:2.95〜3.05wt%、C:0.029 〜0.031 wt%に揃えてある。この図1から、Al含有量が0.020 wt%以下の条件の下では、割れの発生頻度が非常に低いことが明らかとなった。
【0019】
しかし、Al量の低下は、その反面でインヒビターとしてのAlN の抑止力の低下をもたらす。実際、これまでに開示された、AlN をインヒビターとして利用する一方向性けい素鋼板の製造方法に係る特許出願のなかには、Al含有量を0.01wt%程度以上に規定しているものもあるが、それらの実施例において良好な磁気特性が得られたものは全て、Al含有量が0.020 wt%以上である。
【0020】
そこで、発明者らは、スラブのAl含有量が0.020 wt%以下であっても、良好な磁気特性が得られる条件について研究した。その結果、特に積極的な途中窒化を施さなくても、熱延板焼鈍条件を適正化することにより、磁気特性の改善が可能であることを発見した。
【0021】
すなわち、熱延板焼鈍の温度と均熱保持時間が製品の磁束密度に与える影響を調べるため、Al含有量及びスラブ加熱温度について、
条件A…Al量:0.025 wt%、スラブ加熱温度:1400℃
条件B…Al量:0.018 wt%、スラブ加熱温度:1200℃
の2条件で、厚み200 mmのスラブを2.2 mmの熱延した。上記条件Aは、高級品を製造する場合の標準的な条件であり、条件Bとの対比のために行った。なお、スラブ中のAl以外の成分の含有量は、C:0.032 wt%、Si:3.1 wt%、Mn:0.06wt%、Se:0.01wt%、Sb:0.012 wt%、N:0.008 wt%、残部Fe及び不可避的不純物とした。また、熱延板焼鈍後は、冷間圧延により板厚0.34mmとし、840 ℃で120 秒保持する脱炭焼鈍を施してから、得られた脱炭焼鈍板に焼鈍分離剤を塗布して、最終仕上焼鈍を行った。この実験結果を図2に示す。
【0022】
図2から、高級品志向の条件Aは、熱延板焼鈍の温度が(900 〜1100℃の範囲内では)高温になる程、磁束密度が高くなるが、条件BのようにAl量を0.018 wt%、スラブ加熱温度を1200℃とした場合には、熱延板焼鈍条件を1000℃以下にしたときに高い磁束密度が得られ、また、均熱保持する時間が1分間でも2分間でも差がないことが明らかとなった。この実験結果から、省エネルギー志向の条件Bにおいては、熱延板焼鈍は低温の方が磁気特性の面からも優れていて、時間も短くて差し支えないことがわかった。これは、製造コストの低減のために極めて好ましい実験結果であり、特に汎用品の製造に有利に適合する。
【0023】
上記の条件Bの場合に、最適な熱延板焼鈍条件が低温側に移る理由は次のように考えられる。すわなち、スラブ加熱温度を低くするほど熱延板組織は細かくなる。したがって、Al量が少なくインヒビターの抑止力が弱い条件下では、熱延板焼鈍の際に表層部の粒成長が活発になり、表層粗大粒が生じ易い。この表層粗大粒は後の二次再結晶焼鈍時に、二次再結晶粒の成長を阻害するので好ましくない。したがって、熱延板焼鈍の際は、表層粗大粒が生じないように低温度で行わなければならないものと考えられる。また、スラブ加熱温度が低ければ、熱延板焼鈍組織が細かい故に、組織均一化のための焼鈍は低温短時間で十分である。
【0024】
次に、Al量の下限、上限を磁気特性の面から求めるために、スラブのAl含有量が製品の磁束密度に与える影響を調査した。スラブ加熱温度は普通鋼並の1200℃の条件の他、比較のために1300℃、1400℃で実施した。ここではスラブの厚みは220 mm、スラブのAl以外の成分の含有量はC:0.030 〜0.040 wt%、Si:2.95〜3.25wt%、Mn:0.055 〜0.065 wt%、Se:0.008 〜0.012 wt%、Sb:0.010 〜0.015 wt%、N:0.0075〜0.0085wt%、残部Fe及び不可避的不純物である。これらのスラブを熱延後、 900℃60秒熱延板焼鈍をし冷間圧延を施して板厚0.34mmとしたのち、840 ℃で120 秒保持する脱炭焼鈍を施した。更に、得られた脱炭焼鈍板に焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上焼鈍を施した。その結果を図3に示す。
【0025】
図3から明らかなように、磁気特性が良好であるためのAl量の範囲は、スラブ加熱温度の低下とともに狭くはなるが、普通鋼並のスラブ加熱温度1200℃の場合においても、Al量:0.010 〜0.020 wt%の範囲内でB8 が1.85T超の良好な磁束密度が得られた。更に、Al量が0.014 〜0.017 wt%の範囲内に限定すれば、B8 が1.88T超の磁束密度が得られた。
【0026】
次に、磁気特性の安定化のためにC量の適正範囲を求めるために、スラブのC含有量が製品の磁束密度に与える影響を調査した。なお、スラブの厚みは220 mm、スラブのAl含有量は0.016 wt%で、その他の成分は図3と同様の範囲である。また、熱延後の工程も図3と同様である。その結果を図4に示す。
【0027】
図4から明らかなように、C量が0.015 〜0.065 wt%の範囲において、B8 が1.88T超という良好な磁束密度が得られた。ところで、Cは二次再結晶の安定化のために必要な成分であるが、脱炭焼鈍の負荷軽減によるコスト削減及び冷延の割れ防止のためには少ない方が良い。また、高級品志向の場合にはC量を0.07wt%以上にする方法が多数開示されているが、上記の実験から求められる好適C量:0.015 〜0.065 wt%というのは、それに比べて低く、脱炭焼鈍の短時間化が可能であるため、省エネルギーで経済的な製造方法として適している。
【0028】
次に、磁気特性の更なる改善を図るために、冷間圧延の条件が製品の磁気特性に与える影響について調査した。この実験では、2つの条件として、
条件A…Al:0.025 wt%、スラブ加熱温度:1400℃、熱延板焼鈍条件:1000℃で120 秒
条件B…Al:0.015 wt%、スラブ加熱温度:1200℃、熱延板焼鈍条件:900 ℃で50秒
を設定し、すなわち、比較のために高級品を製造する場合の標準的な条件Aを、条件Bと併せて実施した。スラブのC含有量は0.032 wt%とし、冷間圧延はタンデム圧延で行った。この冷間圧延の際の温度条件の他は、図3と同様である。圧延温度は、タンデム圧延機で実施可能な範囲で変化させた。その結果を図5に示す。
【0029】
図5より、条件A(高級品志向)の場合は、タンデム圧延機で実施できる範囲内の温間圧延では磁束密度があまり向上しないのに対して、条件Bの場合は100 ℃以上の温間圧延で磁束密度が明らかに向上した。すわなち、低温スラブ加熱化に適している後者においては、ほとんどコストアップを要しないタンデム圧延機での温間圧延で磁束密度が改善できるという、極めて好ましい実験結果が得られた。
【0030】
このように比較的低温(タンデム圧延機で容易に実施できる100 ℃程度)の温間圧延で磁気特性が向上する理由については、次のように考えられる。すなわち、この発明ではNを通常程度、例えば0.0085wt%程度に含有するスラブを用いているが、AlN としてNと原子的に当量のAl量は、N量が上記0.0085wt%の場合で0.0164wt%になる。ここにおいて、Alを主インヒビターとして利用する通常の一方向性けい素鋼では、Nの原子数に比べてAlの原子数が大幅に過剰であるようなAl量になっているが、この発明の成分範囲では、Nの原子数がAlの原子数が比べて同程度かそれ以上となっている。そのため、Alと結びつかずにフリーになっているN原子が固溶状態になっており、これが温間圧延の際の時効を促進する。その結果、固溶炭素による時効のみを利用する高Al材の温間圧延に比べて、この発明では固溶炭素、固溶窒素の両方の寄与があるために、比較的低温の温間圧延でも磁気特性が向上すると考えられる。
【0031】
以上の実験結果に基づいて、この発明の構成要件を次のように限定した。
スラブのAl含有量は、割れの防止、製品の磁気特性の観点から0.010 wt%以上、0.020 wt%以下とし、望ましくは磁気特性の観点から0.014 wt%以上、0.017 wt%以下とする。
【0032】
スラブ加熱温度は、エネルギー原単位を低くして普通鋼並にする目的及び溶融スケールの多発を防止する目的から1260℃以下とする。加熱温度の下限は、特に限定するものではないが、1000℃以下では圧延加重が高くなりすぎて、圧延機の寿命を短くするので1000℃程度以上とするのが好ましい。
【0033】
熱延板焼鈍の温度、時間については、図2に示したように磁束密度の観点から1000℃以下とし、均熱時間が60秒以内でも120 秒の同様の効果が得られるために省エネルギーの観点から60秒以内の短時間焼鈍とする。このように、均熱時間が60秒以内で済むということは、この発明の特徴の一つである。もっとも、あまりに保持時間が短すぎると熱延板焼鈍の効果が得られないことから、熱延板の厚み等にもよるが、10秒程度以上はあることが好ましい。
【0034】
また、磁気特性を安定化させるために、スラブのC含有量を、図4の結果のとおり、0.015 wt%以上、0.065 wt%以下とする。
更に望ましくは、冷間圧延をタンデム圧延機で100 ℃以上の温度で行う。圧延温度の上限は特に規定しないが、タンデム圧延機で実施可能な温度範囲であれば、高温ほど効果は大きいと考えられる。
【0035】
上述した要件以外については、特に限定することなく、例えばスラブにはインヒビターとしてAlの他にMn、Cu、S、Se、N、Sb、Snなどを加えることも可能であり、また、製造工程についても従来公知の方法を用いることができる。
【0036】
【実施例】
(実施例1)
C:0.032 wt%、Si:3.05wt%、Mn:0.056 wt%、Se:0.010 wt%、Sb:0.013 wt%、N:0.0078wt%を含有し、Al含有量が(1)0.008 wt%、(2)0.012 wt%、(3)0.015 wt%、(4)0.018 wt%、(5)0.023 wt%であり、残部はFe及び不可避的不純物よりなる210 mm厚のスラブを1200℃で加熱したのち、2.2 mm厚まで熱延した。この熱延板を900 ℃で60秒保持する熱延板焼鈍後、酸洗し、タンデム圧延機で常温で冷間圧延して0.34mm厚とし、840 ℃で120 秒保持する脱炭焼鈍を施した。得られた脱炭焼鈍に焼鈍分離剤を塗布し、最終仕上焼鈍を行った。Al含有量と製品の磁気特性及び冷間圧延での割れの発生頻度を表1に示す。表1から明らかなように、Al含有量が0.010 〜0.020 wt%の範囲にある適合例は、冷間圧延時の割れが少なく、かつ得られた製品の磁気特性も優れている。
【0037】
【表1】
Figure 0003879149
【0038】
(実施例2)
C:0.027 wt%、Si:3.18wt%、Mn:0.065 wt%、Se:0.012 wt%、Sb:0.014 wt%、N:0.0080wt%、Al:0.015 wt%を含有し、残部はFe及び不可避的不純物よりなる210 mm厚のスラブを1200℃で加熱したのち、2.2 mm厚まで熱延した。この熱延板に熱延板焼鈍を施したが、その条件は(1)900 ℃で50秒保持、(2)900 ℃で120 秒保持、(3)1100℃で50秒保持の3通りに変化させた。かかる熱延板焼鈍後は、酸洗し、タンデム圧延機で常温で圧延して0.34mm厚とし、840 ℃で120 秒保持する脱炭焼鈍を施した。得られた脱炭焼鈍板に焼鈍分離剤を塗布し、最終仕上焼鈍を行った。熱延板焼鈍温度と製品の磁気特性との関係を表2に示す。表2から、1000℃以下で60秒以内の熱延板焼鈍条件になる適合例は、同一温度で120 秒の均熱時間である場合に比べても、製品の磁気特性に遜色がない。
【0039】
【表2】
Figure 0003879149
【0040】
(実施例3)
C含有量が、(1)0.0100wt%、(2)0.0180wt%、(3)0.0280wt%、(4)0.0385wt%、(5)0.0570wt%、(6)0.0750wt%であり、また、Mn:0.058 wt%、Se:0.009 wt%、Sb:0.014 wt%、N:0.0083wt%、Al:0.016 wt%を含有し、残部はFe及び不可避的不純物よりなる210 mm厚のスラブを1200℃で加熱した後、2.2 mm厚まで熱延した。この熱延板を900 ℃で50秒保持する熱延板焼鈍後、酸洗し、タンデム圧延機で常温で圧延して0.34mm厚とし、840 ℃で120 秒保持する脱炭焼鈍を施した。得られた脱炭焼鈍板に焼鈍分離剤を塗布し、最終仕上焼鈍を施した。C含有量と製品の磁気特性及び冷延時の割れの発生頻度を表3に示す。
【0041】
【表3】
Figure 0003879149
【0042】
(実施例4)
C:0.033 wt%、Si:3.15wt%、Mn:0.063 wt%、Se:0.011 wt%、Sb:0.013 wt%、Al:0.017 wt%を含有し、残部はFe及び不可避的不純物よりる210 mm厚のスラブを1200℃で加熱した後、2.2 mm厚まで熱延した。この熱延板を900 ℃で50秒保持する熱延板焼鈍後、酸洗し、次いで(1)60℃(常温)、(2)100 ℃、(3)120℃、(4)150 ℃でタンデム圧延機で圧延して0.34mm厚とし、840 ℃で120 秒保持する脱炭焼鈍を施した。得られた脱炭焼鈍板に焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上焼鈍を施した。圧延温度と製品の磁気特性との関係を表4に示す。表4から、100 ℃以上の温間圧延を施すことにより、磁気特性が向上することが分かる。
【0043】
【表4】
Figure 0003879149
【0044】
【発明の効果】
この発明によれば、かつ所定の磁気特性になる一方向性けい素鋼板を、冷延時に割れが少なく、かつ生産効率良く製造することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼中のAl含有量と冷延時の割れ発生頻度との関係を示すグラフである。
【図2】熱延板焼鈍条件が磁気特性に及ぼす影響について示すグラフである。
【図3】鋼中のAl含有量と製品磁気特性との関係を示すグラフである。
【図4】鋼中のC含有量と製品磁気特性との関係を示すグラフである。
【図5】タンデム圧延時の圧延温度と製品磁気特性との関係を示すグラフである。

Claims (2)

  1. けい素鋼スラブを加熱後に熱間圧延をし、次いで熱延板焼鈍を施してから、1回又は中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延により最終板厚とした後、脱炭焼鈍、次いで焼鈍分離剤を塗布した後に最終仕上焼鈍を施す一方向性けい素鋼板の製造方法において、
    上記けい素鋼スラブに、Alを0.010 〜0.020 wt%、Cを 0.015 0.065 wt 含有するものを用い、
    このスラブを1260℃以下に加熱すること、及び
    上記熱延板焼鈍を、1000℃以下にて60秒以内の短時間焼鈍とすること
    を特徴とする一方向性けい素鋼板の製造方法。
  2. 上記けい素鋼スラブが、Alの原子数以上の原子数のNをさらに含有し、かつ、冷間圧延を、タンデム圧延機にて100 ℃以上の温度で行う請求項記載の一方向性けい素鋼板の製造方法。
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