JP3877183B2 - ガラス製反射鏡 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガラス基体の表面に反射膜を被着したガラス製反射鏡に関し、特にスポット照明用反射鏡のように熱源の近傍で使用されるガラス製反射鏡に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、スポット照明やプロジェクション光源に使用される反射鏡は、一面を拡開させた回転放物状または回転楕円状等の凹部を有する反射基体と、この反射基体の凹部内面に被着された多層膜とからなり、凹部の中心位置にハロゲンランプやHIDランプ等の光源を装着するように構成されている。また、光源ランプを反射鏡の光軸方向に延在させるものでは、反射鏡の凹部中央に拡開側と反対方向に突出して光源ランプを保持するネック部と称する突出部を有するタイプのものも多用されている。そして、前記反射基体は、耐熱性および押圧成形性を考慮して適当なガラス組成と熱的特性を有する硼珪酸ガラスで形成されたものが多い。
【0003】
この種のガラスとして、たとえば特開平 1-87529号公報に記載の質量%でSiO2 68〜82%,Al2 O3 0.5〜5%,B2 O3 10〜18%,Na2 O+K2 O+Li2 O3.5〜8%,CaO+MgO0〜3%,NaCl+CaF(またはNaF)+As2 O3 +Sb2 O3 0.05〜1%を含有し、熱膨脹係数35〜50×10-7/℃のようなガラスがある。
【0004】
そして、工業的規模で量産されるこの種ガラスは、一般に、耐火物製のガラス溶融炉で溶融されたガラスを流出させて所定重量のゴブに切断し、金型でプレス成型することによって所定形状の反射基体とされる。さらに、この反射基体の凹部内面に真空蒸着やスパッタリング等の方法によって多層膜を被着形成されてガラス製反射鏡となる。
【0005】
前記多層膜は、高屈折率層と低屈折率層とを交互積層してなり、高屈折率層としてZnS,TiO2 等が、低屈折率層としてMgF2 ,SiO2 等が用いられ、各層の厚さを適当に設定することにより光の干渉を利用して可視光を反射し赤外線を透過する作用を有する。このような多層膜を有する反射鏡は、光源から放射された光のうち可視光を前方に反射し、赤外線を透過して後方に放射させるので、赤外線をほとんど含まない可視光、いわゆる冷光を放射し、店舗照明に用いれば商品を熱損するおそれがなく、また映写光源として用いればフィルムやLCDに熱害を与えない利点があり、上記した用途に利用されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記ガラス製反射鏡は、点灯時、光源が高温になることから、反射基体、多層膜とも耐熱性に優れた材質が使用されているが、製品の信頼性確保のために行われる高温でのヒートショックテストにおいて、多層膜あるいは反射基体表面に及ぶ微小クラックが発生することがあり、今後、光源の高出力化に伴って実使用時におけるクラックの発生が危惧されることがわかってきた。前記ヒートショックテストは、500℃以上の温度に保持した電気炉内に少なくとも5分間ガラス製反射鏡を収容し、その後常温で放冷させて変化を観察するものである。
【0007】
本発明はこのような背景からなされたもので、厳しい温度条件下においても膜クラックが発生しない熱的耐久性に優れたガラス製反射鏡を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記微小クラックの発生原因について様々な角度から検討した結果、微小クラックの発生した反射基体に共通する特徴があることを見出だし、本発明をするに至った。つまり、ヒートショックテストの結果、微小クラックが発生したガラス製反射鏡をその光軸と平行に切断し、断面を走査電子顕微鏡(以下、SEMと称する)による反射電子像により観察すると、コントラスト差から多層膜に接するガラス反射基体の極表面に、反射基体の他の部位とは異なる組成層が存在していることが判明した。さらにエネルギー分散型X線分析装置(以下、EDXと称する)によりこの反射基体を分析したところ、クラック発生のない部分からは検出されないZrO2 が高率に検出された。以上の結果に基づき、ガラス基体表層に含まれるZrO2 の濃度および層厚とクラックとの関連について試験し、以下の要件を導き出したものである。
【0009】
すなわち本発明は、ガラス基体の表面に薄膜を被着したガラス製反射鏡において、前記ガラス基体にはZrO 2 を比較的高率に含む部分とそうでない部分が存在し、前記薄膜が被着される部位のガラス基体表面に存在するガラス基体の他の部位に比べてZrO2を高率に含む層の層厚を15μm以下としたガラス製反射鏡である。また、ガラス基体の表面に薄膜を被着したガラス製反射鏡において、少なくとも前記薄膜が被着される部位のガラス基体面にはガラス基体の他の部位に比べてZrO2を高率に含む層が存在しないことを特徴とするガラス製反射鏡である。
【0010】
つまり、薄膜が被着される部位のガラス基体表面に、ガラス基体の他の部位に比べてZrO2を高率に含む層が存在しないかまたは存在するとしてもその層厚が15μm以下(好ましくは10μm以下)であれば、上記ヒートショックテストにおいても微小クラックが発生しない。
【0011】
そして、前記ZrO2を高率に含む層が存在する部位のガラス基体は、ガラス基体の他の部位に比べてZrO2を0.05質量%以上多く含むものを示す。したがって、薄膜が被着される部位のガラス基体表面に、ZrO2を高率に含む層が存在しても、その部位のZrO2含有率がガラス基体の他の部位に比べて0.05質量%以上高くなければ、上記ヒートショックテストにおいて微小クラックが発生せず、ガラス製反射鏡の実使用状態においてはまずクラックを生じることはない。
【0012】
また、前記ガラス基体が、熱膨脹係数30〜50×10-7/℃のガラスからなるものであることを特徴とする。これは、ガラス自体の溶融・成形性が良好で不均質層を生じにくく、ガラス基体自体に求められる耐熱性を満たすことができることのほか、被着される多層膜の第一層との間でストレスが小さく微小クラックが発生しにくくなる利点があるためである。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。まず、常法にしたがってガラス反射基体となる硼珪酸ガラスを溶融する。上述のように、基本的にZrO2 を含まないガラス組成から構成されるガラス反射基体からもZrO2 を高率に含む層が検出されていることから、ZrO2 は溶融炉の耐火物から混入することが考えられるので、溶融ガラスがZrO2 を含む耐火物に接しないようにすることが理想であるが、それが不可能な場合には極力ガラスの均質化に努め、ZrO2 等の低膨脹不均質部分がガラス中に残存しないようにする。
【0014】
次に、プレス成型前のゴブの段階で、シュリーレン法による脈理検査を実施し、ゴブ中に不均質層が存在するゴブを排除することによって、ZrO2 層の製品表面での顕在化を防止できる。
【0015】
以上のようにして不均質層を含まないゴブを金型でプレス成型することによって所定形状の反射基体とし、この反射基体の凹部内面に真空蒸着によってZnS−MgF2 交互層またはTiO2 −SiO2 交互層からなる多層膜を被着形成してガラス製反射鏡を作成する。
【0016】
このようにして作成したガラス製反射鏡について上記ヒートショックテストを行うとともにサンプルを切断し、縦断面をSEMにより観察した。この結果、ヒートショックテストにおいて微小クラックの発生は見られず、SEM観察においてもガラス反射基体の断面は明らかなコントラスト差のない均一な状態であった。
【0017】
【実施例】
次に本発明の実施例について説明する。実施例については、上記発明の実施の形態に記したとおりにガラス製反射鏡を30個作成し、比較例として、成型前のゴブを取りだしシュリーレン法による脈理検査を実施し、ゴブ中に不均質層が存在するゴブを選び出して再加熱後プレス成型した反射基体に実施例と同様にZnS−MgF2 交互層を被着したサンプルを70個作成した。なお、実施例、比較例ともガラスは共通の組成を有する熱膨脹係数37×10-7/℃の硼珪酸ガラスを使用し、ZnS−MgF2 交互層は、1.3〜6.7×10-2Paに減圧した真空槽内でガラス反射基体表面温度110〜150℃、蒸着源は抵抗加熱または電子銃加熱により、途中膜厚設計波長を変えて各12層、ZnS、MgF2 の順に交互計24層真空蒸着により成膜した。作成したサンプルは、50φの高出力ハロゲンランプ用反射鏡であり、通常、出力25〜360Wのハロゲンランプを光源として使用されるものである。
【0018】
作成したすべてのサンプルについて上記ヒートショックテストを実施した。ただし、500℃での保持時間を5分、10分、20分、30分と変えてクラックの有無を確認した。次いで各サンプルをクラックの発生部位を中心に切断し、SEMによりガラス反射基体断面の不均質層(ZrO2 層)を確認し、その層厚を計測した。さらに、塩酸でZnS−MgF2 交互層を除去した後、クラックの発生した部分とクラックが発生しなかった部分とを切り分け、ガラス反射基体中のZrO2 量について定量分析を行った。この結果を表1にまとめて示す。なお、表1中のZrO2 層厚、ZrO2 量はヒートショックテストの各時間経過後にクラックが発生したサンプル毎にその最小値と最大値を示した。
【0019】
【表1】
【0020】
表1の結果から明らかなように、本実施例のガラス製反射鏡ではヒートショックテストにおいてクラックの発生がほとんど見られなかったのに対し、比較例サンプルでは多くにクラックが発生した。また、クラックが発生したガラス反射基体のほとんどは、ZrO2 層が厚さ15μmを越えて存在したものであった。またZrO2 層厚が15μm以下であってもまれにクラックを生じるものもあり、クラック発生のなかったグループとの対比から、ZrO2 層が存在する場合には10μm以下であることがより好ましいといえる。。
【0021】
また、クラックのほとんどは、図1に示すガラス反射基体1の反射面部3のネック部付近に生じていたため、ZrO2 量についての定量分析は、ネック部2を除くガラス反射基体反射面部3のネック側3a(クラック発生部)と前面開口に近いフランジ側3b(クラック非発生部)とに分けて行った。この定量分析の結果は、それぞれの部位のガラス全量に対するZrO2 量を示すものであるため、実際のZrO2 層4の部分では、さらに高率のZrO2 が存在しているものと考えられ、高濃度のZrO2 によりガラス表面の熱膨脹係数が部分的に小さくなって、これに被着される薄膜5との膨脹係数差が拡大しクラックを誘発するものと考えられる。そして、表1の結果から、クラック発生部位と発生しなかった部位とではZrO2 含有量に少なくとも0.05質量%以上の差があることがわかる。換言すれば、ガラス反射基体に0.05質量%以上の部分的濃度差が生じない程度に均質であればクラックは生じにくいといえる。比較例の中でクラックが発生しなかったものの中には、SEM観察の結果、ZrO2 層が存在しても、それがガラス反射基体の凹部内表面でないものがあった。したがって、ZrO2 層が問題となるのは、薄膜が被着される部位のガラス基体表面に存在する場合である。
【0022】
さらに、この定量分析の結果と、ガラス反射基体の肉厚に対するZrO2 層の比とから、ZrO2 層内では少なくとも他の部分よりも1質量%または10倍以上高濃度のZrO2 が存在しているものと考えられるので、クラック防止のためにはそれ以下の濃度差であることが好ましい。
【0023】
また、本発明は被着される多層膜の第一層がZnS層のとき顕著な効果がある。一般に用いられる薄膜材料の中でZnSはZrO2 との膨脹係数差が大きく、微小クラックが発生しやすいものと考えられる。このため上記実施例では、多層膜として微小クラックを生じやすいZnSを使用した膜を被覆した例について示したが、他の膜物質を被覆した場合でも本発明の要件を満たす反射鏡では上記実施例と同様以上の優れた耐熱性を示した。
【0024】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、厳しい温度条件下で使用されるガラス製反射鏡においても膜クラックおよびガラス基体のクラック発生が防止され、点灯時高温となる高出力光源を用いる照明装置の反射鏡として極めて好適したものが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明が適用されるガラス製反射鏡の縦断面図である。
【符号の説明】
1 ガラス反射基体
2 ネック部
3 反射面部
3a ネック側
3b フランジ側
4 ZrO2 層
5 薄膜
Claims (3)
- ガラス基体の表面に薄膜を被着したガラス製反射鏡において、前記ガラス基体にはZrO2を高率に含む層が存在する部位とそうでない部位が存在し、前記薄膜が被着されるガラス基体表面のZrO 2 を高率に含む層が存在する部位は、ガラス基体の他の部位に比べてZrO 2 を0.05質量%以上高率に含み、前記ZrO 2 を高率に含む層の層厚が15μm以下であることを特徴とするガラス製反射鏡。
- 前記ZrO2 を高率に含む層の層厚が10μm以下であることを特徴とする請求項1記載のガラス製反射鏡。
- 前記ガラス基体が、熱膨脹係数30〜50×10−7/℃のガラスからなることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のガラス製反射鏡。
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JPH10133006A JPH10133006A (ja) | 1998-05-22 |
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1996
- 1996-10-31 JP JP30571496A patent/JP3877183B2/ja not_active Expired - Fee Related
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