JP3874827B2 - 船舶用自動操舵装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は船舶用自動操舵装置のオートパイロットに関し、より詳細には斯かるオートパイロットの変針時の性能向上に関する。
【0002】
【従来の技術】
図7に従来の船舶用自動操舵装置の制御系のブロック図を示す。斯かる制御系を以下に単に自動操舵系と称する。自動操舵系は第1の加算器11と自動操舵装置即ちオートパイロット120と操舵機16と第2の加算器13と船体14−1と船首方位検出器14−2とを含む。
【0003】
自動操舵系に入力信号φINとして設定針路φC =φINが入力される。加算器11は設定針路φC と船首方位φの偏差ERR=φC −φを求める。自動操舵装置即ちオートパイロット120は斯かる偏差ERRと設定針路φC を入力して命令舵角UC を出力する。斯かる命令舵角UC は操舵機16に供給される。
【0004】
操舵機16は舵角Uを命令舵角UC に迅速に追従させるためのサーボ機構を有し、1次遅れ要素に相当する。船体14−1には風、波浪等の外乱dが作用する。加算器13は操舵機16の出力信号である舵角Uに角度換算した外乱dを加算する。
【0005】
船体14−1は船舶の方位軸周りに回転する運動系であると見なすことができる。従って船舶の角速度(旋回角速度)は船首方位φの角速度(1階微分)として表される。船体14−1は加算器13の出力信号U+dを入力して船首方位の角速度dφ/dtを出力する。
【0006】
船首方位検出器14−2は船首方位の角速度dφ/dtより船首方位φを演算する。船首方位検出器14−2はジャイロコンパス、磁気コンパス等を含むものであってよい。斯かる船首方位φは加算器11にフィードバックされる。こうして閉ループが構成され、この閉ループは、加算器11の出力である偏差ERRがゼロになると安定する。このとき船首方位φは自動操舵系の出力信号φOUT =φとして出力される。
【0007】
自動操舵装置即ちオートパイロット120は、一般に変針モードと保針モードの2モードにて作動される。変針モードは、前の設定状態と異なる設定針路φCが入力される変針時に対応し、保針モードは前の設定状態を保持し続ける保針時に対応する。
【0008】
図8を参照して自動操舵装置即ちオートパイロット120の構成と動作を説明する。オートパイロット120はモード制御部120−1と線形要素120−2及び非線形要素120−3とを有し、偏差ERRと設定針路又は設定方位φC を入力する。
【0009】
モード制御部120−1は偏差ERRと設定針路φC を入力して、自動操舵系が変針モードと保針モードのいずれのモードにて作動されるべきかを判定し、変針モード又は保針モードに対応した制御信号SGを出力する。
【0010】
線形要素120−2は、比例+積分+微分(PID)動作の機能、及びフィルタの機能を有する。非線形要素120−3は天候調整機構を有する。
【0011】
比例(P)動作及び微分(D)動作は、自動操舵中に船体の安定を保持するように機能し、通常の自動操舵系の周波数帯にて作動する。積分(I)動作は外乱dが船体14−1に作用したとき船体14−1に生じる船首方位φの偏差ERRを定常的にゼロにするように機能し、通常の運行で使用する低周波数域にて作動する。フィルタ機能は高周波域の外乱dを除去するように作動する。
【0012】
天候調整機構は、外乱dに起因して操舵機16に不要な操作量が生ずることを防止するように作動する。こうして、偏差信号ERRは線形要素120−2と非線形要素120−3の各動作によって処理され、命令舵角UC が生成され、斯かる命令舵角UC はオートパイロット120の出力信号として出力される。
【0013】
次に、保針状態から変針状態に推移し、再び保針状態に戻る場合について、オートパイロット120の動作を説明する。最初にモード制御部120−1は、供給された設定針路φC より保針状態であると判定し、保針モードに対応した制御信号SGを線形要素120−2及び非線形要素120−3に出力する。
【0014】
線形要素120−2に供給される制御信号SGは自動操舵系の保針性能を定める比例、微分、積分及びフィルタの各ゲイン及び定数を含み、非線形要素120−3に供給される制御信号SGは保針性能を提供するための天候調整機構の設定値を含む。こうして、自動操舵系は保針モードにて作動される。
【0015】
次に設定針路φC が変化すると、モード制御部120−1は変針状態であると判定する。例えば、偏差ERRの絶対値が所定の基準値以上となったときに、変針状態であると判定する。同様に、モード制御部120−1は、変針状態であると判定すると、変針モードに対応した制御信号SGを線形要素120−2及び非線形要素120−3に出力する。
【0016】
線形要素120−2に供給される制御信号SGは自動操舵系の変針性能を定める比例、微分、積分及びフィルタの各ゲイン及び定数を含み、非線形要素120−3に供給される制御信号SGは変針性能を提供するための命令信号を含む。こうして、自動操舵系は変針モードにて作動される。
【0017】
設定針路φC が一定に維持されると、モード制御部120−1は、再び保針状態であると判定し、自動操舵系は保針モードにて作動される。
【0018】
次に、保針モード及び変針モードにおける線形要素120−2及び非線形要素120−3の各動作を説明する。保針モードでは、上述のように自動操舵系の閉ループを安定化するように制御信号SGが設定される。変針モードでは、開始直後から短時間で船首方位φを新たな設定針路φC に追従させることが優先される。従って、線形要素120−2の積分動作は停止され、比例動作、微分動作及びフィルタ動作の各ゲインと時定数が設定され、更に、非線形要素120−3の動作は停止される。
【0019】
変針モードから保針モードへ変化した場合、線形要素120−2の積分動作は、保持していた値を0にリセットしてから作動を開始する。線形要素120−2の他の動作及び非線形要素120−3の動作は、保針モードにおけるゲイン、時定数及び設定値を使用して作動を開始する。
【0020】
図9に従来のオートパイロット120における針路変更に対する応答を示す。説明を簡単化するために、初めの保針時の船首方位φをゼロとし、オートパイロット120より非線形要素120−3を除去し、線形要素120−2のみの応答を表す。縦軸は保針時を基準とした船首方位φの変針量、横軸は時間である。時点t=0にて、オートパイロット120に変針量がφ C のステップ状の信号 が入力され、それより命令舵角UC が出力される。命令舵角UC は操舵機16に供給され、それによって船体14−1の船首方位φは変化する。
【0021】
曲線121は船首方位φの変化を表し、直線123は設定針路φC を表す。船首方位φは時間とともに設定針路φC に追従するように増加するが、時点t1 にて一旦オーバーシュートし、その後、減少して設定針路φC に収束する。
【0022】
【発明が解決しようとする課題】
従来のオートパイロット120は、変針モードにおいて、操船時に最適な変針軌道計画ができない欠点があった。変針軌道計画は、変針モードにおいて、船首方位の角速度(旋回角速度)dφ/dtを所望の値に設定するとき、操舵機16の性能(最大操舵角、追従角速度等)を考慮しなければならないとき、又は変針時間を予想するとき、等に必要となる。
【0023】
従来の自動操舵系では、ステップ入力により設定される設定針路φC に船首方位φを追従させることだけが考慮されていたから、変針軌道計画の要求に対応することができなかった。例えば、変針モードにおいて、船首方位の角速度dφ/dt、命令舵角UC 、命令舵角の微分値dUC /dt等がどのような値となるかを見積もることができなかった。従って、変針軌道計画が事前にできなかった。
【0024】
また、通常、命令舵角UC を制限するために設けられるリミッタにより非線形的要素が付加されるため、命令舵角UC が大きい場合にはリミッタの影響が加わり、変針軌道の予想が益々困難となった。
【0025】
更に、操舵機16の性能(許容舵角、追従角速度)及び船体14−1の特性(船体の等価時定数等)を適切に考慮することができなかったため、変針特性の設定時と実際時とのずれが問題となった。これは省エネルギ化や長寿命化の観点からも問題である。
【0026】
本発明は斯かる点に鑑み、変針モードにおいて、操船時の最適な変針軌道計画ができる自動操舵装置を提供することを目的とする。
【0027】
【課題を解決するための手段】
本発明は、例えば図1に示すように、参照針路に対する船首方位の偏差に基づいて命令舵角を出力する自動操舵装置と該自動操舵装置に対して船首方位をフィードバックする制御ループとを有する船舶用自動操舵装置において、上記自動操舵装置は、軌道計画に基づいた参照針路を演算する軌道演算部と上記制御ループを安定化させるために閉ループ制御を提供するフィードバック制御器と上記制御ループの変針特性を高めるために開ループ制御を提供するフィードフォワード制御器とを有し、上記軌道演算部によって求められる上記参照針路は加速モード、等速モード及び減速モードを含むように時間管理され、上記加速モードにおいて、上記参照針路の初期値として、変針開始時点の船舶の船首方位の角速度及び角加速度の値を取り入れるように構成されていることを特徴とする。
【0028】
本発明によると、フィードバック制御器12−3によって閉ループ系が提供され、斯かる閉ループ系によって自動操舵系の制御ループの安定化が確保される。この閉ループ系は参照針路に対する船首方位の偏差がゼロとなるように作動する。
【0029】
本発明によると、フィードフォワード制御器12−2によって開ループ系が提供され、開ループ系によって自動操舵系の制御ループの変針特性が高められる。この開ループ系は船首方位が直ちに参照針路に一致するように作動する。
【0030】
本発明によると、軌道演算部12−1において、時間管理された参照針路が演算される。斯かる参照針路は時間を変数とし且つ次の条件を満たす。
【0031】
(1)加速モード、等速モード、減速モードの各モード毎に時間管理された関数である。
(2)加速モードにおいて、参照針路の初期値として船舶の船首方位の角速度及び角加速度が取り込まれる。
【0032】
本発明は、上記記載の船舶用自動操舵装置において、上記自動操舵装置の上記フィードフォワード制御器は上記船舶の舵角から上記船首方位までの伝達特性の逆特性を有することを特徴とする。
【0033】
本発明は、上記記載の船舶用自動操舵装置において、上記参照針路は、上記フィードフォワード舵角及び上記フィードフォワード舵角の角速度の各々の最大値を取り込むことを特徴とする。
【0034】
尚、本発明に関して、以下の文献が参考になろう。詳細は斯かる文献を参照されたい。
(1)“二次安定化トラッキング制御とその高速位置決め装置への応用”山本他、計測自動制御学会論文集、vol.29、No.1、55/62(1993年)
【0035】
【発明の実施の形態】
以下に図1〜図6を参照して本発明の実施例について説明する。図1は本発明による船舶用自動操舵装置の制御系即ち自動操舵系のブロック図を示す。斯かる自動操舵系は自動操舵装置即ちオートパイロット12と加算器13と制御対象14とを含む。制御対象14は図7に示した船体14−1と船首方位検出器14−2を一体化したものである。尚、操舵機16を省略したのは、制御対象14にその性能を含ませたからである。
【0036】
オートパイロット12に入力信号として設定針路φC 及び設定値SVと船首方位φとが入力され、出力信号として命令舵角UC が出力される。尚、設定値SVについては後に説明する。
【0037】
オートパイロット12より出力された命令舵角UC は加算器13に供給される。加算器13は命令舵角UC と角度換算の外乱dとを加算し、その結果U=UC+dを制御対象14に出力する。そして、制御対象14からは船首方位φ、角速度φ’、角加速度φ”として出力され、且つオートパイロット12にフィードバックされる。
【0038】
次に本例の自動操舵装置即ちオートパイロット12の構成及び動作を説明する。本例のオートパイロット12は、軌道演算部12−1とフィードフォワード制御器12−2とフィードバック制御器12−3と第1及び第2の加算器12−4、12−5とを有する。
【0039】
軌道演算部12−1は設定針路φC と設定値SV及び船首方位φを用いて最適な変針特性を有する参照針路rを演算し、それを出力する。第1の加算器12−4は軌道演算部12−1から出力された参照針路rと制御対象14から出力された船首方位φとを入力して、船首方位の偏差ERRを求める。斯かる偏差ERRは次の式によって表され、フィードバック制御器12−3に供給される。なお、参照針路rの演算に際し、最適な変針特性を有するようにする方法については後述する。
【0040】
【数1】
ERR=r−φ
【0041】
フィードバック制御器12−3は斯かる偏差ERRを入力してフィードバック舵角UFBを演算し、それを第2の加算器12−5に供給する。フィードフォワード制御器12−2は参照針路rを入力してフィードフォワード舵角UFFを演算し、それを第2の加算器12−5に供給する。第2の加算器12−5はフィードバック舵角UFBとフィードフォワード舵角UFFとを加算して命令舵角UC を求める。斯かる命令舵角UC はオートパイロット12の出力信号として加算器13に供給される。
【0042】
フィードバック制御器12−3は、自動操舵系において閉ループ系を構成し、この閉ループ系は参照針路rに対する船首方位φの偏差ERRをゼロにするように作動する。これにより、フィードバック制御器12−3は自動操舵系の制御ループの安定性を確保するように機能する。
【0043】
一方、フィードフォワード制御器12−2は、自動操舵系において開ループ系を構成し、この開ループ系は船首方位φを直ちに参照針路rに一致させるように作動する。これにより、フィードフォワード制御器12−2は自動操舵系の制御ループの変針特性の向上に寄与するように機能する。
【0044】
即ち、フィードフォワード制御器12−2は、軌道演算部12−1から出力され変針時の操船要求と船体特性を満足する時間の関数としての参照針路rを使用して、最適な変針軌道を有する船首方位φを実現するように作用する。もし、船舶の積荷状態等の影響によって、フィードフォワード制御器12−2の作動だけでは船首方位φが参照針路rに一致しない場合でも、フィードバック制御器12−3を作動させることによって最終的には船首方位φは参照針路rに一致するようになる。
【0045】
次に、本例のオートパイロット12を含む自動操舵系の制御ループにおけるフィードフォワード制御器12−2及びフィードバック制御器12−3の機能をより詳細に説明する。
【0046】
参照針路r及び外乱dから船首方位φまでの伝達関数は次の式のように表される。次の式の第1項は変針又は応答特性を表し、第2項は外乱特性を表す。
【0047】
【数2】
φ(s)=Gr (s)r(s)+Gd (s)d(s)
【0048】
ここで、sはラプラス演算子である。Gr (s)は参照針路rから船首方位φまでの伝達関数であり、Gd (s)は外乱dから船首方位φまでの伝達関数であり、それぞれ次のように表される。
【0049】
【数3】
Gr (s)=〔P(s)KFF(s)+P(s)KFB(s)〕/〔1+P(s)KFB(s)〕
【0050】
【数4】
Gd (s)=P(s)/〔1+P(s)KFB(s)〕
【0051】
KFF(s)、KFB(s)はそれぞれフィードフォワード制御器12−2及びフィードバック制御器12−3の伝達関数である。P(s)は制御対象14の伝達関数であり、次のように表される。
【0052】
【数5】
P(s)=KS /〔(TS s+1)s〕
【0053】
ここで、KS 、TS は船体14−1の操縦性指数又はパラメータであり、それぞれ旋回力指数、追従安定性指数と称される。分母の因数sは船首方位検出器14−2の積分特性による。
【0054】
追従安定性指数TS 及び旋回力指数KS の極性は互いに同一であり、安定船では正、不安定船では負である。尚、追従安定性指数TS 及び旋回力指数KS は予め与えられているものとする。
【0055】
上述のように、数2の式の、右辺の第1項は変針特性又は応答性を表し、第2項は外乱特性を表す。
つまり、数3式及び数4式にフィードバック制御器12−3の伝達関数KFB(s)が含まれている。このため、フィードバック制御器12−3は変針特性と外乱特性の両者に作用する。これは、フィードバック制御器12−3によって、自動操舵系における閉ループ系が構成されることによる。
【0056】
従って、フィードバック制御器12−3は、変針特性と外乱特性の両者を考慮して設計される。フィードバック制御器12−3の設計は、例えば、従来のオートパイロットの設計とほぼ同様な方法によってなされてよい。
【0057】
一方、フィードフォワード制御器12−2の伝達関数KFF(s)は数3の式の第1項のみに含まれている。従って、フィードフォワード制御器12−2は変針特性のみに作用する。また、この伝達関数KFF(s)は数3の式の分子に含まれているから、自動操舵系の閉ループ系の安定性に寄与しない。即ち、フィードフォワード制御器12−2は開ループ制御のみを行うものである。
【0058】
次に図2及び図3を参照して本例によるフィードフォワード制御器12−2及びフィードバック制御器12−3の構成例を説明する。本例では、フィードフォワード制御器12−2の伝達関数KFF(s)を次のように設定する。
【0059】
【数6】
KFF(s)≡P(s)-1
【0060】
ここで、添字(−1)は逆数を表す。つまり、K FF (s)をP(s)の逆特性を有するように設定する。数6の式を数3の式に代入すると次のようになる。
【0061】
【数7】
Gr (s)=〔1+P(s)KFB(s)〕/〔1+P(s)KFB(s)〕
=1
【0062】
この場合、フィードバック制御器12−3に起因する閉ループ系の遅れはフィードフォワード制御器12−2の補償効果によって打ち消され、参照針路rが直接的に船首方位φとなる。従って、参照針路rが与えられるとほぼ同時に船首方位φは参照針路rに等しく(φ=r)なる。
【0063】
更に、参照針路rとフィードフォワード舵角UFFの関係を数6の式より求めると次のようになる。
【0064】
【数8】
UFF(s)=P(s)-1r(s)
=(TS s2 +s)r(s)/KS
【0065】
図2はフィードフォワード制御器12−2の構成例を示すブロック図である。sはラプラス演算子である。フィードフォワード制御器12−2は、例えば、2つの微分動作部12−2A、12−2Bと比例ゲインTS を有する比例動作部12−2Cと加算器12−2Dと比例ゲイン1/KS を有する比例動作部12−Eとを有するように構成してよい。数8の式を時間領域によって表すと次のようになる。
【0066】
【数9】
UFF(t)=〔TS ・r”(t)+r’(t)〕/KS
【0067】
ここで、tは時間を表し、r’(t)、r”(t)は、それぞれ参照針路rの時間に関する1階微分、2階微分を表す。この式より明らかなように、フィードフォワード制御器12−2は少なくとも2階微分可能な参照針路r(t)を入力して、数9の式の演算を行い、得られたフィードフォワード舵角UFF(t)を出力する。
【0068】
次に図3を参照してフィードバック制御器12−3の構成例を説明する。本例によると、フィードバック制御器12−3の伝達関数KFB(s)を、例えば次のように設定する。
【0069】
【数10】
KFB(s)=KP +TD s/(TF s+1)2 +1/(TI s)
【0070】
ここに、KP は比例ゲイン、TD は微分時定数、TF はフィルタ時定数、TIは積分時定数である。
【0071】
フィードバック制御器12−3は図示のように、比例ゲインKP を有する比例動作部12−3A、微分時定数TD を有する微分動作部12−3B、積分時定数TI を有する積分動作部12−3C、フィルタ時定数TF を有する2段のローパスフィルタ12−3D及び加算器12−3Eを有するように構成してよい。
【0072】
但し、変針時では、応答性を良くするために、積分動作部12−3Cは保針時の値を保持した状態にて維持され、比例動作部12−3A、微分動作部12−3B及びフィルタ12−3Dのみが作動する。変針後には、積分動作部12−3Cは偏差ERRが静定した状態より作動開始される。
【0073】
次に、図4〜図6を参照して軌道演算部12−1について説明する。図4は軌道演算部12−1の構成例を示す。図示のように、本例の軌道演算部12−1は、軌道計画部12−1Aと針路演算部12−1Bとを含み、上述のように設定針路φC 、設定値SV及び船首方位φ、さらに図1に示すように、φ’、φ”(既にオートパイロット12に入力されているため図示していない。)を入力して参照針路rを出力する。
【0074】
設定値SVは、次のような値を含む。
(1)変針時の船首方位の角速度(旋回角速度)の設定値:ωS
(2)フィードフォワード舵角UFFの設定値:UR
(3)フィードフォワード舵角の角速度UFF’の設定値:ωR
【0075】
旋回角速度の設定値ωS は一定値として設定されるが、それができない場合もある。その場合には、軌道計画部12−1Aによって新たな旋回角速度の設定値ωS が設定される。
例えば、ω S が著しく大きいとき、変針量が小さいとき、フィードフォワード舵角U FF の設定値U R
が小さいとき等ではω S を設定できないので、別の一定値を設定する。
【0076】
フィードフォワード舵角UFFの設定値UR 及びフィードフォワード舵角の角速度UFF’の設定値ωR は、操舵機16の性能を考慮して、フィードフォワード舵角UFFの最大値及びフィードフォワード舵角の角速度UFF’の最大値を使用してそれぞれ設定される。
【0077】
こうして、変針時において、船首の旋回角速度の設定値ωS によって操船要求が満たされ且つ設定値UR 、ωR によって操舵機16の追従可能領域にて使用することができる最適な参照針路rの実現が可能になる。
【0078】
時間関数としての船首方位φは変針開始時の旋回角速度と旋回角加速度の各値を作るために用いる。即ち、次のように表される。
【0079】
【数11】
φ’(tc )=dφ/dt|t =t C
φ”(tc )=d2 φ/dt2 |t =t C
【0080】
ここで、tc は変針開始時点である。これらの値は、例えば変針中に新たに別の変針を実施する場合等で必要となる。旋回角加速度値φ”(tC )及び旋回角速度値φ’(tC )は、軌道演算部12−1の初期値として取り込まれる。
【0081】
軌道計画部12−1Aは、設定針路φC と設定値SV及び旋回角加速度値φ”(tC )及び旋回角速度値φ’(tC )とを用いて、加速、等速及び減速の3モードにより構成された参照針路r(t)を演算するように構成されている。軌道計画部12−1Aは更に、フィードフォワード舵角UFF (t)の最大値及びその角速度dUFF/dtの最大値が、それぞれフィードフォワード舵角の設定値UR 及びその角速度の設定値ωR 以下となるように制限する。
【0082】
針路演算部12−1Bは、軌道計画部12−1Aによって演算された又は設定された定数、即ち、各モード時間Ta 、Tv 、Td 、加速及び減速定数βa 、βd 、旋回角速度の設定値ωS 、初期値C1a、C2a、C3v、C2d、C3dを用いて、時々刻々の参照針路r(t)の値を演算し出力する。これらの定数については以下に説明する。
【0083】
先ず参照針路rと設定針路φC の関係を説明する。参照針路rの変化量即ち変針量Δrは次のように、今回設定された設定針路φ C の前回設定針路φC (=φ C 0 )に対する変化量として表される。
【0084】
【数12】
Δr=φC −φC0
【0085】
ここで、添字0は前回の値を表す。尚、説明を簡単化するために、以下に、前回の設定針路φC0を0、変針開始時点tをt=0とするが、それによって、任意時点を開始時点とする場合に対する説明の一般化が損なわれることはない。
【0086】
軌道計画部12−1Aの動作について詳細に説明する。先ず基本となる参照針路r、フィードフォワード舵角UFF (t)及びその角速度dUFF/dt=UFF’について説明する。
【0087】
本例によると、参照針路r(t)は、次のような条件を有するように構成される。
(1)加速モード、等速モード及び減速モードの3モードより構成され、各モード毎に時間管理される。参照針路r(t)は、各モード毎に時間tを変数とする関数となる。
(2)加速モードと減速モードでは、参照針路r(t)の時間tに関する2階微分は2次関数となる。
【0088】
(3)等速モードでは参照針路r(t)の時間tに関する1階微分は一定であり、2階微分はゼロである。
(4)加速モードでは、参照針路r(t)は船舶の旋回角加速度d2 φ/dt2 =φ”及び旋回角速度dφ/dt=φ’の値を初期値として取り込む。
【0089】
このような条件を満たす参照針路r(t)の例について説明する。船首方位φの初期値φ0 は直接的には用いられない。何故なら、オートパイロット12への変針命令量は現在の船首方位φに対する変化量Δφとして与えられるからである。尚、以下では加速モード、等速モード、減速モードのそれぞれに対して添え字a、v、dを付す。
【0090】
(1)加速モード:〔0≦t≦Ta 〕
変針中に新たに別の変針を行わせるような場合など、通常、変針開始時において、船舶は船首方位φに対して旋回角加速度φ”及び旋回角速度φ’の値を有する。従って加速モードではそれらの変針開始時の値を初期値として取り込む。加速モードの目的は、モード終了時(t=Ta )に参照針路の角速度r’を旋回角速度φ’の設定値ωS に一致させ、船舶の初期運動量を減衰させることである。
加速モードにおける参照針路ra (t)を次のように表わす。
【0091】
【数13】
ra ”(t)=αa /Ta 2 t2 +βa /Ta t+C1a
ra ’(t)=αa /(3Ta 2 )t3 +βa /(2Ta )t2 +C1at+C2a
ra (t)=αa /(12Ta 2 )t4 +βa /(6Ta )t3 +C1a/2t2 +C2at
【0092】
ここで、ra は加速モードにおける参照針路、ra ’はその時間に関する1階微分、ra ”はその時間に関する2階微分である。tは時間、Ta は加速時間、βa は加速定数である。C1a、C2aはそれぞれ加速モードにおける参照針路の角加速度r”の初期値及び参照針路の角速度r’の初期値である。定数αa を求めるために加速モードの終了時点(t=Ta )において参照針路ra (t)の2階微分値ra ”(t)がゼロとなることを利用する。
【0093】
【数14】
ra ”(Ta )=αa +βa +C1a=0
【0094】
これより、定数αa が求められる。
【0095】
【数15】
αa =−βa −C1a
【0096】
C1a、C2aは上述のように、それぞれ参照針路の角加速度r”及び角速度r’の初期値であるが、ここでは船舶の旋回角加速度φ”及び旋回角速度φ’の初期値を用いる。従って次のように表される。
【0097】
【数16】
C1a=φ”(0)
C2a=φ’(0)
【0098】
ここで、φは船首方位、φ’及びφ”はその時間に関する1階微分及び2階微分である。
【0099】
(2)等速モード:〔Ta ≦t≦(Ta +TV )〕
加速モードに続く等速モードでは参照針路の角速度r’は一定であり及び角加速度r”はゼロである。従って等速モードにおける参照針路rv(t)は次のように表される。
【0100】
【数17】
rv ”(t)=0
rv ’(t)=ωS
rv (t)=ωS (t−Ta )+C3v
【0101】
ここで、rv は等速モードにおける参照針路、rv ’はその時間に関する1階微分、rv ”はその時間に関する2階微分である。Tv は等速時間、ωS は旋回角速度の設定値、C3vは等速モードにおける参照針路rの初期値である。等速モードの開始時点と加速モードの終了時点の各々において、参照針路、その微分値及びその2階微分値は互いに等しい。従って次の式が成り立つ。
【0102】
【数18】
rv ”(Ta )=ra ”(Ta )=0
rv ’(Ta )=ra ’(Ta )=(Ta /6)(βa +4C1a)+C2a
=ωS
rv (Ta )=ra (Ta )=(Ta 2 /12)(βa +5C1a)+C2aTa =C3v
【0103】
(3)減速モード:〔(Ta +TV )≦t≦(Ta +TV +Td )〕
等速モードに続く減速モードでは、モードの終了時点にて参照針路の角速度r’及び角加速度r”がゼロとなるように減衰される。従って減速モードにおける参照針路r d (t)は次のように表される。
【0104】
【数19】
rd ”(t)=βd /Td 2 (t−Ta −TV )2 −βd /Td (t−Ta −TV )
rd ’(t)=βd /(3Td 2 )(t−Ta −TV )3 −βd /(2Td )(t−Ta −TV )2 +C2d
rd (t)=βd /(12Td 2 )(t−Ta −TV )4 −βd /(6Td )(t−Ta −TV )3 +C2d(t−Ta −TV )+C3d
【0105】
ここで、rd は減速モードにおける参照針路、rd ’はその時間に関する1階微分、rd ”はその時間に関する2階微分である。Td は減速時間、βd は減速定数である。C2d、C3dはそれぞれ減速モードにおける参照針路の角速度r’の初期値及び参照針路rの初期値である。減速モードの開始時点と等速モードの終了時点の各々において、参照針路、その微分値及びその2階微分値は互いに等しい。従って次の式が成り立つ。
【0106】
【数20】
rd ”(Ta +TV )=rv ”(Ta +TV )=rd ”(Ta +TV +Td )=0
rd ’(Ta +TV )=rv ’(Ta +TV )=ωS =C2d
rd ’(Ta +TV +Td )=−βd Td /6+ωS =0
rd (Ta +TV )=rv (Ta +TV )=ωS TV +C3v=C3d
【0107】
次にフィードフォワード舵角UFF及びその角速度dUFF/dtについて説明する。軌道計画において操舵機の舵角は命令舵角UC ではなく、フィードフォワード舵角UFFを指す。参照針路rが制御対象14の逆モデルであるフィードフォワード制御器12−2に入力されると、その出力がフィードフォワード舵角UFFである。従って以下に随時フィードフォワード舵角UFFを単に操舵機の舵角と称し、その角速度dUFF/dt=UFF’を単に舵角角速度と称することとする。
【0108】
舵角UFF及び舵角角速度dUFF/dtのとり得る最大及び最小値は装備された操舵機の性能に関係する。操舵機への実際の入力はフィードフォワード舵角UFFとフィードバック舵角UFBの和である命令舵角UC である。ここで、フィードフォワード舵角UFFは確定値であるが、フィードバック舵角UFBは船舶と設定値のパラメータの間のずれ、非線形項、外乱等の影響に起因して生じるため不確定値である。従ってこれらを考慮したフィードフォワード舵角UFFの最大値を規定することによって操舵機の舵角の作動可能な範囲内で軌道計画を実現できる。
【0109】
操舵機の舵角角速度は、フィードフォワード舵角UFFの微分値UFF’で対応させる。この値UFF’を操舵機の追従角速度性能の領域内の所定の値として取り込むことによって、操舵機の遅れの影響を小さくすることができる。つまり、操舵機の舵角角速度として、微分値U FF ’を流用し、この値U FF ’を操舵機の追従可能な角速度性能の範囲内に設定する(U FF ’<[実装される操舵機の舵角角速度の実力値])。
【0110】
フィードフォワード舵角UFF は数9式から、また、その角速度dUFF/dt=UFF’はa 1 、a 2 、a 3 を用いて次の式によって表わす。
【0111】
【数21】
UFF(t)=(TS /KS )(r”+r’/TS )
UFF’(t)=(TS /KS )(a1 t2 +a2 t+a3 )
【0112】
a1 、a2 、a3 は係数であり、次の式によって表されるように、加速モード及び減速モード毎にそれぞれ異なる値として求められる。尚、加速モード及び減速モードに対してそれぞれ添字a、dを付す。
【0113】
【数22】
a1a=αa /(TS Ta 2 )
a2a=(1/Ta )(2αa /Ta +βa /TS )
a3a=βa /Ta +C1a/TS
a1d=βd /(TS Td 2 )
a2d=(1/Td )(2βd /Td −βd /TS )
a3d=−βd /Td
【0114】
次に舵角UFFが最大となる時点を求める。数21の式より明らかなように、舵角UFFは、参照針路の角速度r’及び角加速度r”を含み、加速モード及び減速モードの各々にて極値を有する。舵角UFFが極値となる時点は、舵角角速度UFF’をゼロとおくことによって得られる。数21の式にてUFF’=0とおくと時間tに関する2次方程式が得られる。これを解いて次の式が得られる。
【0115】
【数23】
t=−a2 /(2a1 )+flgs√〔(a2 /2a1 )2 −a3 /a1 〕
【0116】
a1 、a2 、a3 は数22の式によって表される係数である。flgsは極性定数であり、安定船の場合は+1、不安定船の場合は−1である。参考として数23の式の右辺の2つの項の大小関係を次式に示す。数23の式の右辺の第1項をt1 、第2項をt2 とする。
【0117】
(1)加速モード:
数23式でAを、A=(a 2 /2a 1 ) 2 −a 3 /a 1 とおく、
先ず、第 1 項のa 2 /2a 1 は、数22の式のa 1a ,a 2a を用いて、
a 2 a /2a 1 a =T S +T a β a /(2α a )
と変形される。
次に、第2項のa 3 /a 1 は、数22の式のa 1a ,a 3a を用いて、
a 3 a /a 1 a =(β a T a T S +C 1a T a 2 )/α a と変形される。
よって、A=(a 2 a /2a 1 a ) 2 −a 3 a /a 1 a
={T S +β a T a /(2α a )} 2 −(β a T a T S +C 1a T a 2 )/α a
さらに変形して、
=T S 2 +(β a 2 −4C 1a α a )T a 2 /4α a 2
ここで、数15式のα a =−β a −C 1a を用いて
=T S 2 +(β a +2C 1a ) 2 T a 2 /4α a 2
すなわち、
√A=√{(a 2 a /2a 1 a ) 2 −a 3 a /a 1 a }
=√{T S 2 +(β a +2C 1a ) 2 T a 2 /4α a 2 }
=√〔T S 2 {1+{(β a +2C 1a )T a /(2α a T S )} 2 }〕
ここで、(β a +2C 1a )T a /(2α a T S )<<1とすると、次を得る。
√A≒√(T S 2 )
よって、
【0118】
【数24】
t1 =−(a 2 a /2a 1 a )=−TS −Ta βa /(2αa )
t2 =√{(a 2 a /2a 1 a ) 2 −a 3 a /a 1 a }≒|TS |
【0119】
(2)減速モード:
同様に、第 1 項のa 2 /2a 1 は、数22の式のa 1 d ,a 2 d を用いて、
a 2 d /2a 1 d =T S −T d β a /2
と変形される。
次に、第2項のa 3 /a 1 は、数22の式のa 1 d ,a 3 d を用いて、
a 3 d /a 1 d =T S −T d /2 と変形される。
よって、A=(a 2 /2a 1 ) 2 −a 3 /a 1
=(T S −T d /2) 2 −(−β d /T d )/{β d /(T S T d 2 )}
さらに変形して、
=(T S −T d /2) 2 +T S T
=T S 2 +T d 2 /4
すなわち、
√A=√{(a 2 d /2a 1 d ) 2 −a 3 d /a 1 d }
=√{T S 2 +T d 2 /4}
=√〔T S 2 {1+{T d /(2T S )} 2 〕
ここで、T d /(2T S )<<1とすると、次を得る。
√A≒√(T S 2 )
よって、
【0120】
【数25】
t1 =−T S +T d /2
t2 ≒|TS |
【0121】
従って、舵角UFFが極値となる時点t(>0)は、安定船ではTS >0だからt=t1 +t2 、不安定船ではTS <0だからt=t1 −t2 となる。
【0122】
極性定数flgs(=±1)は、舵角UFFが極値となる時点tが、安定船及び不安定船の各々の場合に、加速モードの時間〔0≦t≦Ta 〕及び減速モードの時間〔(Ta +TV )≦t≦(Ta +TV +Td )〕内の値となるように選択される。舵角UFFの最大値は、数23の式によって表される時間tを数21の式のUFFに代入することによって得られる。
【0123】
次に舵角角速度UFF’が最大となる時点及び舵角角速度UFF’の最大値を求める。数21の式に示されるように、舵角角速度UFF’は時間tの2次関数であり、さらに微分した2階微分U FF ”は時間tの1次関数である。従って、舵角角速度UFF’の最大値及び最小値は加速モード及び減速モードの開始時点又は終了時点に起きる。
【0124】
舵角角速度UFF’は、加速モードでは船舶の運動の初期値の影響を受けるが、減速モードでは等速モードに続いて実行されるのでその影響は受けない。従って加速モードでは舵角角速度UFF’の絶対値はモードの開始時点と終了時点では異なるが、減速モードでは舵角角速度UFF’の絶対値はモードの開始時点と終了時点では同一である。以上より次の式が成り立つ。
【0125】
【数26】
UFF’a (0)=(TS /KS )(βa /Ta +C1a/TS )
UFF’a (Ta )=−(TS /KS )(βa /Ta +2C1a/Ta )
UFF’d (0)= −UFF’d (Ta )=(TS βd )/(KS Td )
【0126】
加速モードにおいて、UFF’a (0)とUFF’a (Ta )の絶対値の大きさは、C1aの極性によって変化する。UFF’a (0)とUFF’a (Ta )の絶対値の大きい方に対して舵角角速度のソフトリミッタとしての設定値ωR を置き換えることによって、軌道計画に舵角角速度UFF’の制限を導入することができる。
【0127】
軌道計画部12−1Aは上述の内容を用いる。表1に、変針量rSIG 、旋回角速度の設定値ωS 、最大舵角の設定値UR 、及び最大舵角角速度の設定値ωR を導入する必要度(達成水準)を示す。これら設定値の全てを満足する参照針路ra 、rv 、rd を一意的に求めることはできないので、表1に示すように、必須設定値を満足させながら、可変設定値を調節して参照針路を演算する。
【0128】
【表1】
【0129】
図5に軌道計画部12−1Aの動作の流れを示す。ステップ101にて軌道計画部12−1Aの動作が開始される。ステップ102にて設定針路φC 、設定値SV及び加速モードの初期値C1a、C2aが入力される。上述のように、設定値SVは、変針時における船首方位φの角速度(旋回角速度)の設定値ωS とフィードフォワード舵角の設定値UR 及びその角速度設定値ωR を含む。数16の式に示すように、初期値C1a、C2aはそれぞれ船舶の旋回角加速度及び旋回角速度の初期値φ”(0)、φ’(0)である。
【0130】
ステップ103にて加速モードの設定が行われる。加速モードの設定について説明する。加速時間Ta と加速定数βa は、数26の式によって表される舵角角速度UFF’の最大値を用いて得られる。舵角角速度UFF’の最大値は加速モードの開始時点(t=0)又は終了時点(t=Ta )にて生ずる。
即ち、加速度時間T a と加速度定数β a とは次の数27式の関係を有する。
【0131】
【数27】
t=0で最大値を生ずるとき:βa =CRaTa で表される。
ここで CRa=flg a CR −C1a/TS
t=Ta で最大値を生ずるとき:βa =CRaTa −2C1a で表される。
ここで CRa=flg a CR
【0132】
ここで、flg a は極性定数、CR 、CRaはそれぞれ軌道定数及び加速モードの軌道定数である。なお、軌道定数CR は次のように表される。
【0133】
【数28】
CR =ωR (KS /TS )
【0134】
先ず、数27式で加速時間Taを求める。
変針時の船首方位φの旋回角速度の設定値ωS は加速モードの終了時点(t=Ta )における参照針路の角速度r’に一致する。従って数27式を数18の式の第2式に代入すると加速時間Ta に関する2次方程式が得られる。
【0135】
【数29】
t=0で最大値を生ずるとき:CRaTa 2 +4C1aTa +6(C2a−ωS )=0
t=Ta で最大値を生ずるとき:CRaTa 2 +2C1aTa +6(C2a−ωS )=0
【0136】
この2つの式のそれぞれよりTa を解くと次のようになる。
【0137】
【数30】
t=0で最大値を生ずるとき:
Ta =−2C1a/CRa+√〔(2C1a/CRa)2 −6(C2a−ωS )/CRa〕
t=Ta で最大値を生ずるとき:
Ta =−C1a/CRa+√〔(C1a/CRa)2 −6(C2a−ωS )/CRa〕
【0138】
次に加速定数βa を求める。
先ず旋回角速度の設定値ωS と初期値C2aが等しいとき、数18の式の第2式にωS =C2aを代入して数31式で示される加速定数βa が得られる。
【0139】
【数31】
βa =−4C1a
【0140】
次に旋回角速度の設定値ωS と初期値C2aが等しくないとき、加速定数β a は、数18式の2式の旋回角速度の設定値ωS 及び初期値C1a、C2aより、数27式から加速モードの軌道定数CRaを求め、そして、加速時間Ta 及び加速定数βa を計算する。
ここで、表2に加速モードの軌道定数CRaの計算に際し、表2に示す条件を用いる。表2は、旋回角速度の設定値ωS と加速モードの初期値C2aとの間の大小関係、及び初期値C1aとゼロとの間の大小関係によって、舵角角速度UFF’の最大値の時点t及び極性定数flg aがどのような値となるかを示したものである。
【0141】
【表2】
【0142】
ステップ104にて減速モードが設定される。減速時間Td 、減速定数βd は舵角角速度UFF’の最大値及び旋回角速度設定値ωS は減速モードの終了時点でゼロとなることを用いて求められる。即ち、数26の式の第3式と数20の式の第3式によって次の式が得られる。
【0143】
【数32】
βd /Td =CRd=flg d CR とおくと、
Td =√(6|ωS |/CR )
【0144】
ここで、flg d は極性定数であり、符号判別関数signを使用して次のように表される。
【0145】
【数33】
flg d =−sign(rSIG )
【0146】
rSIG は3つのモードにおける変針量Δrの総和を表す。ステップ105にて加速、等速及び減速モードにおける参照針路rの変化量、即ち変針量Δrを求める。加速モード〔(0≦t≦T a )〕における参照針路rの変化量をΔra 、等速モード〔(T a ≦t≦T a +T v )〕における参照針路rの変化量をΔrv 、減速モード〔(T a +T v ≦t≦T a +T v +T d )〕における参照針路rの変化量をΔrd とする。これらは次のように表される。
【0147】
【数34】
数13式及び数15式より、
Δra =ra (Ta )−ra (0)=(Ta 2 /12)(βa +5C1a)+C2aTa
数17式より、
Δrv =rv (Ta +Tv )−rv (Ta )=ωS Tv
数19式及び数20式より、
Δrd =rd (Ta +Tv +Td )−rd (Ta +Tv )
=−βd Td 2 /12+ωS Td =βd Td 2 /12
即ち、r SIG は、次式で表される。
rSIG =Δra +Δrv +Δrd
【0148】
但し、加速モードと減速モードでの変化量Δra 、Δrd は等速モードでの変化量Δrv より優先されるから、等速モードの時間、即ち、等速時間Tv は次式より求められる。
【0149】
【数35】
Tv =Δrv /ωS
【0150】
ここで、Δrv =rSIG −Δra −Δrd である。
ステップ106にて等速モードが存在するか否かが判定される。次の式が成り立つとき等速モードが存在すると判定する。
【0151】
【数36】
Δrv ≧0
【0152】
数36の式が成り立つ場合にはステップ107に進み、数36の式が成り立たない場合にはステップ103に戻り、可変調節値である旋回角速度設定値ωS が再度設定される。
【0153】
ステップ107ではフィードフォワード舵角の最大値(絶対値) maxUFFが演算される。フィードフォワード舵角の最大値 maxUFFは加速モード又は減速モードのいずれかにおいて生ずる。即ち、2つのモードにて最大値を求めて両者を比較し、より大きい方が最大値 maxUFFである。
【0154】
フィードフォワード舵角UFFの最大値 maxUFFが生ずる時点t R は数23の式によって算出される。従って数23の式のtを数21の式に代入することによってフィードフォワード舵角の最大値 maxUFFが求められる。
【0155】
【数37】
max|UFFa |≧ max|UFFd |: maxUFF= max|UFFa |
max|UFFa |< max|UFFd |: maxUFF= max|UFFd |
【0156】
ステップ108にてフィードフォワード舵角の最大値 maxUFFがフィードフォワード舵角の最大値の設定値UR と比較される。
【0157】
【数38】
maxUFF≦UR
【0158】
数38の式が成り立つ場合にはステップ109に進み、数38の式が成り立たない場合にはステップ103に戻る。こうして、本例によると、フィードフォワード舵角の最大値 maxUFFは、常にフィードフォワード舵角の設定値UR より小さい値になるように制限される。
【0159】
ステップ109では参照針路rを演算するために必要な定数、即ち、各モード時間Ta 、Tv 、Td 、設定値ωS 、加速及び減速定数βa 、βd 、初期値C1a、C2a、C3v、C2d、C3dを求める。
ステップ110にて軌道計画部12−1Aの動作が終了し、これらの値は針路演算部12−1Bに出力される。
【0160】
最後に針路演算部12−1Bの動作を説明する。針路演算部12−1Bは軌道計画部12−1Aより供給されたモード時間Ta 、Tv 、Td 、設定値ωS 、加速及び減速定数βa 、βd 、初期値C1a、C2a、C3v、C2d、C3dを使用して各モード毎の参照針路r(t)を演算し、それを出力する。
【0161】
加速モード〔(0≦t≦T a )〕、等速モード〔(T a ≦t≦T a +T v )〕及び減速モード〔(T a +T v ≦t≦Ta+T v +T d )〕における参照針路r(t)は、数13の式の第3式、数17の式の第3式及び数19の式の第3式によってそれぞれ求められる。
そして、参照針路r(t)が求められると、数21の式を使用して、各モードにおけるフィードフォワード舵角UFFが求められる。
【0162】
図6に参照針路r(図6B)とフィードフォワード舵角UFF(図6A)の時間応答の例を示す。ここでは変針量Δrを+、加速モードの初期値C1a、C2aをゼロとした。
参照針路rは、図6Bに示すように、前回の設定針路φ c 0 に対して新たな設定針路φ c が設定されると、滑らかに変化する。そして、0≦t≦Taの加速モードの期間で変針量がΔr a 、Ta≦t≦Ta+Tvの等速モードの期間で変針量がΔr v 、T a +T v ≦t≦T a +T v +T d の減速モードの期間で変針量がΔr d となる。また、Δr=φ c −φ c0 =Δr a +Δr v +Δr d である。ここで、Δrは変針量の総和r SIG である。
フィードフォワード舵角U FF は、図6Aに示すように、加速モードの期間0≦t≦T a 内で舵角U FF =0から増加し始め、時点t R で最大値 maxU FF を生じた後舵角を減じ、等速モードに移行する。この等速モードで時間T v 経過した後減速モードに移行し時間T d 経過した時点で、加速モード開始時点の舵角U FF =0に復帰させるように動作する。
【0163】
本例の船舶用自動操舵装置の自動操舵装置によれば、変針モードにおいて、最大操舵角、追従角速度などの操舵機の性能を考慮することができるので、船首方位の角速度(旋回角速度)と変針時間を所望の値に設定することができ、操船時の最適な変針軌道計画を事前に実施することができる。
また、操舵機の性能及び船体の操縦性の特性パラメータを適切に考慮して、変針特性の設定時と実際時とのずれを抑制することができる。
以上本発明の実施例について詳細に説明してきたが、本発明は上述の実施例に限ることなく本発明の要旨を逸脱することなく他の種々の構成が採り得ることは当業者にとって容易に理解されよう。
【0164】
【発明の効果】
本発明によると、従来のオートパイロットでは実現することができなかった操舵機の性能及び船舶の特性を考慮した最適な変針軌道計画が実現可能となる利点がある。
【0165】
本発明によると、操舵機の性能を取り込んだ最適な変針軌道計画が得られるので機器の負担を軽減し省燃費を図ることができる利点がある。
【0166】
本発明によると変針時の旋回角速度、変針時間等を見積もることができるから、最適な運行計画を達成することができる利点を有する。
【0167】
本発明によると、フィードフォワード舵角の最大値及びその角速度の最大値を確定することができるので、操舵機の入力にリミットを設ける必要がなく、連続的な変針特性を保証することができる利点を有する。
【0168】
本発明によると、変針時の船舶の運動の初期値を取り込むように構成されているから、変針中に新たな変針設定が可能となる利点を有する。
【0169】
本発明は、ソフトウエア的処理によって実現することができるから、マイクロコンピュータを搭載している自動操舵装置に容易に付加することができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による自動操舵系を示すブロック図である。
【図2】本発明によるフィードフォワード制御器の動作を示すブロック図である。
【図3】本発明によるフィードバック制御器の動作を示すブロック図である。
【図4】本発明による軌道演算部の構成例を示す図である。
【図5】本発明による軌道計画部の動作を示す流れ図である。
【図6】本発明による参照針路とフィードフォワード舵角の例を示す図である。
【図7】従来の船舶用自動操舵系の構成例を示す図である。
【図8】従来の自動操舵装置(オートパイロット)の構成を示す図である。
【図9】従来の船舶用自動操舵系の変針応答特性を示す図である。
【符号の説明】
11 加算器
12 自動操舵装置(オートパイロット)
12−1 軌道演算部
12−2 フィードフォワード制御器
12−3 フィードバック制御器
12−4、12−5 加算器
13 加算器
14 制御対象
14−1 船体
14−2 船首方位検出器
16 操舵機
120 自動操舵装置(オートパイロット)
Claims (3)
- 参照針路に対する船首方位の偏差に基づいて命令舵角を出力する自動操舵装置と該自動操舵装置に対して船首方位をフィードバックする制御ループとを有する船舶用自動操舵装置において、
上記自動操舵装置は、
軌道計画に基づいた参照針路を演算する軌道演算部と上記制御ループを安定化させるために閉ループ制御を提供するフィードバック制御器と上記制御ループの変針特性を高めるために開ループ制御を提供するフィードフォワード制御器とを有し、
上記軌道演算部によって求められる参照針路は加速モード、等速モード及び減速モードを含むように時間管理され、
上記加速モードにおいて、上記参照針路の初期値として、変針開始時点の船舶の船首方位の角速度及び角加速度の値を取り入れるように構成されている
ことを特徴とする船舶用自動操舵装置。 - 請求項1記載の船舶用自動操舵装置において、
上記自動操舵装置の上記フィードフォワード制御器は上記船舶の舵角から上記船首方位までの伝達特性の逆特性を有することを特徴とする船舶用自動操舵装置。 - 請求項1記載の船舶用自動操舵装置において、
上記参照針路は上記フィードフォワード舵角及び上記フィードフォワード舵角の角速度の各々の最大値を取り込む
ことを特徴とする船舶用自動操舵装置。
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