JP3870861B2 - エコーキャンセラ装置、及び音声通信装置 - Google Patents

エコーキャンセラ装置、及び音声通信装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エコーパスが介在する伝送路内の音声信号から、エコー信号を除去するためのエコーキャンセラ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、エコーキャンセラ装置としては、スピーカからの再生音がマイクロフォンで集音されて発生するエコー信号をマイクロフォンの出力信号から除去する音響エコーキャンセラ装置や、公衆電話回線網を介した電話機端末接続の際に回線の電気的特性の違いによって発生するエコー信号を除去するための回線エコーキャンセラ装置が知られている。
【0003】
上記音響エコーキャンセラ装置は、例えば、ハンズフリー機能を備える電話機などに内蔵されており、スピーカから再生された相手話者の音声がマイクロフォンで集音され、このエコー信号が電話回線を通じて相手側の電話機で受信され音声として再生されるのを抑制する機能を有する。尚、ここでいうハンズフリー機能とは、ユーザが受話器などの機器を持たずに、相手話者と通話を行うことが可能な機能のことである。
【0004】
電話機などに内蔵されているエコーキャンセラ装置は、エコー信号の発生原因である音声信号を参照信号としてアダプティブフィルタ(適応フィルタともいう)に入力することにより、その音声信号がエコーパスを経由して発生するエコー信号を擬似的に生成し、その擬似エコー信号を、エコー信号除去対象の音声信号から減算処理することにより、エコー信号を除去する。
【0005】
このアダプティブフィルタのフィルタ係数は、従来、最小二乗平均(least mean square:LMS)アルゴリズムに基づく方法で学習更新されている。即ち、従来のエコーキャンセラ装置は、擬似エコー信号を減算処理した音声信号を誤差信号として扱い、その誤差信号がゼロになるように、フィルタ係数を学習更新し、擬似エコー信号を真のエコー信号に収束させる。
【0006】
尚、このような方法で擬似エコー信号を真のエコー信号に収束させるためには、相手話者だけが発話している期間(エコー除去対象音声信号がエコー信号だけである期間)に限定して、フィルタ係数の学習更新を行う必要がある。二者が同時に発話している期間に、フィルタ係数の学習更新機能が動作してしまうと、フィルタ係数が不適切に更新され、エコー信号が適切に除去できなくなってしまうからである。
【0007】
したがって、従来のエコーキャンセラ装置には、二者が同時に発話している状態(以下、「ダブルトークモード」とする。)を検知するためのダブルトークモードディテクタなどが備え付けられている。また、このようなエコーキャンセラ装置は、ダブルトークモードディテクタの検知結果に基づいて、相手話者のみが発話している期間にフィルタ係数の学習更新を行う構成にされている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、この方法が採用された従来のエコーキャンセラ装置では、ダブルトークモードを検知するために、一定度の時間を要することから、そのタイムラグを起因とするフィルタ係数の誤学習を避けることができないという問題があった。また、ダブルトークモードディテクタがうまく機能しないことが原因で、二者が同時に発話している期間に、フィルタ係数の学習更新機能が継続して動作してしまい、結果的にフィルタ係数の学習更新が不適切に行われ、除去すべきエコー信号を対象音声信号から上手く除去できなくなってしまうという問題があった。
【0009】
また、マイクロフォンが集音する背景騒音や、ダブルトークモード時の上記誤動作によって、フィルタ係数の学習更新が不適切に更新されると、除去できなかったエコー信号がスピーカで再生され、その再生音が再びマイクロフォンで集音されてエコー信号となる一種の発振現象(ハウリング)が発生し、電話機間の通話に支障をきたす可能性があった。したがって、従来では、ハウリングを検知するためのハウリングディテクタを装置内に設けて、ハウリングが検知された際には、フィルタの学習更新を停止するなどしていた。
【0010】
しかしながら、ハウリングディテクタを設けても、上記ダブルトークモードディテクタと同様に、ハウリングの検知精度やタイムラグ等により発生するフィルタ係数の誤学習を抑制することができず、更には、部品点数が増加し、回路が複雑化するなどといった問題があった。
【0011】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであって、フィルタ係数の誤学習を抑制することにより、エコー信号を従来より適切に除去可能なエコーキャンセラ装置を提供すると共に、そのエコーキャンセラ装置を用いた音声通信装置を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載のエコーキャンセラ装置は、音声信号取得手段と、キャンセル信号生成手段と、除去出力手段と、フィルタ係数更新手段と、を備える。
【0013】
音声信号取得手段は、第一の伝送路から第一の音声信号を取得すると共に、第一の伝送路との間にエコーパス(即ち、エコー信号が生じる経路)が介在する第二の伝送路から第二の音声信号を取得する。
一方、キャンセル信号生成手段は、フィルタとして機能する構成にされており、予め設定されたフィルタ係数に従って、音声信号取得手段が取得した第一の音声信号をフィルタリングし、音声信号取得手段が取得した第二の音声信号に含まれる第一の音声信号のエコー信号を第二の音声信号から除去するためのキャンセル信号、を生成する。
【0014】
除去出力手段は、音声信号取得手段が取得した第二の音声信号に含まれる第一の音声信号のエコー信号を、キャンセル信号生成手段が生成したキャンセル信号を用いて第二の音声信号から除去し、その結果得られるエコー信号除去後の第二の音声信号を出力する。
【0015】
また、フィルタ係数更新手段は、除去出力手段から出力されたエコー信号除去後の第二の音声信号と、音声信号取得手段が取得した第一の音声信号と、キャンセル信号生成手段に対して設定されたフィルタ係数と、に基づいて、以後に除去出力手段から出力されるエコー信号除去後の第二の音声信号と、音声信号取得手段が取得する第一の音声信号とが相互に独立になるように、新たなフィルタ係数を算出する。その後、フィルタ係数更新手段は、算出した結果得られたフィルタ係数を、キャンセル信号生成手段に対して設定して、フィルタ係数を更新する。
【0016】
このように構成された請求項1に記載のエコーキャンセラ装置では、フィルタ係数更新手段が、エコー信号除去後の第二の音声信号と、第一の音声信号とが相互に独立になる方向に、フィルタ係数を更新するので、除去前の第二の音声信号がエコー信号成分だけで構成されていなくても、フィルタ係数の更新を適切に行うことができる。
【0017】
従来のエコーキャンセラ装置に採用されている手法では、第二の音声信号がエコー信号のみで構成されることを前提とし、エコー信号除去後の第二の音声信号がゼロになるようにフィルタ係数を学習更新していたため、第二の音声信号に、エコー信号とは異なる成分が多く含まれる場合には、ダブルトークモードディテクタなどの検知結果に基づいて、フィルタ係数の学習更新を停止しなけれならなかった。しかしながら、従来装置においては、フィルタ係数の学習更新機能の動作を切り替えるまでにタイムラグがあったり、ダブルトークモードの検知に失敗することが相応の頻度で発生するため、フィルタ係数の学習更新が不適切に行われてしまうことがあった。
【0018】
これに対し、本発明のエコーキャンセラ装置は、エコー信号除去後の第二の音声信号と、第一の音声信号とが相互に独立になるように、フィルタ係数を更新するので、エコー信号除去前の第二の音声信号が第一の音声信号のエコー信号のみで構成される場合に、エコー信号除去後の第二の音声信号がゼロになるようにフィルタ係数を更新することができる。また、エコー信号除去前の第二の音声信号が第一の音声信号と概ね独立である場合に、フィルタ係数の学習更新を自動的に停止することができる。
【0019】
したがって、本発明のエコーキャンセラ装置では、ダブルトークモードディテクタ等を用いて、フィルタ係数更新手段の動作/非動作を切り替えなくて済み、従来のようなダブルトークモードディテクタの動作性能に影響されず、精度よくエコー信号を除去することができる。また同時に、ハウリング現象が生じるのを防止することができる。また、本発明のエコーキャンセラ装置では、ダブルトークモードディテクタやハウリングディテクタ等を用いる必要がないので、装置を簡略化することができる。
【0020】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のエコーキャンセラ装置において、フィルタ係数更新手段を、infomax法に基づいて、除去出力手段から出力されるエコー信号除去後の第二の音声信号と、音声信号取得手段が取得する第一の音声信号とが相互に独立になるように、フィルタ係数を更新する構成としたものである。
【0021】
infomax法は、独立成分分析(ICA)を用いたブラインド音源分離の一手法として知られている。このinfomax法の基本原理は、特開平9−252235号公報などにも紹介されているが、infomax法では、マイクロフォンなどから得た複数の音声信号に、適応重みWを適用し、この処理後の音声信号を、密度関数の近似式としての非線形関数に代入することで、各信号に関わる情報量のエントロピーが最大になるようにし、各音源からの音声信号を分離する。
【0022】
本発明者らは、このinfomax法を、あえてブラインド音源ではない第一の音声信号、のエコー信号を第二の音声信号から除去するためのエコーキャンセラ装置に適用することによって、エコーキャンセラ装置の性能を向上させているのである。このようにinfomax法をエコーキャンセラ装置に適用すると、フィルタ係数の誤学習を防止して、適切にエコー信号を除去することが可能である。
【0023】
尚、infomax法をエコーキャンセラ装置に適用する場合には、請求項3に記載のように、各手段を構成すると良い。
請求項3に記載のエコーキャンセラ装置におけるキャンセル信号生成手段は、予め設定されたフィルタ係数W[j]と、音声信号取得手段が取得した第一の音声信号x1(t)と、を畳み込み演算することにより、第一の音声信号をフィルタリングして、キャンセル信号c(t)を生成する構成にされている。
【0024】
一方、除去出力手段は、キャンセル信号c(t)を、音声信号取得手段が取得した第二の音声信号x2(t)に加算し、その加算結果y(t)を、エコー信号除去後の第二の音声信号として出力する構成にされている。
また、フィルタ係数更新手段は、除去出力手段による加算結果y(t)を、非線形関数fに代入して値f(y(t))を算出し、更に、その値f(y(t))と、音声信号取得手段が取得した第一の音声信号x1(t)と、フィルタ係数W[j]と、を用いて、予め設定された定数Lを含む次の関係式、
W’[j]=W[j]−L・f(y(t))・x1(t−j)
に従い、フィルタ係数W’[j]を算出し、このフィルタ係数W’[j]を、新たなフィルタ係数W[j]として、キャンセル信号生成手段に対して設定することにより、フィルタ係数を更新する構成にされている。
【0025】
このフィルタ係数更新手段の構成は、infomax法に基づくものであり、フィルタ係数更新手段は、上式に従って、フィルタ係数の更新を繰り返すことにより、除去出力手段から出力されるエコー信号除去後の第二の音声信号を、音声信号取得手段が取得する第一の音声信号に対して、独立にする。
【0026】
このようなフィルタ係数更新手段を有する請求項3に記載のエコーキャンセラ装置は、フィルタ係数を不適切に学習更新することなく、エコー信号を適切に除去することができる。また演算も簡単であるので、フィルタ係数の学習更新をリアムタイムに適切に行うことができる。
【0027】
また、請求項3に記載のエコーキャンセラ装置においては、請求項4に記載のように、上記非線形関数を、シグモイド関数又はtanh(ハイパボリックタンジェント)関数又はsign関数とするのが良い。このような関数でフィルタ係数を更新すれば、演算量を抑えつつ、適切にフィルタ係数の学習更新を行うことができる。尚、sign関数は、代入値が負値であるときに、−1を返し、代入値がゼロであるときに0を返し、代入値が正値であるときに、1を返す関数である。
【0028】
以上に、請求項1〜請求項4に記載のエコーキャンセラ装置について説明したが、上記エコーキャンセラ装置は、例えば、電話機端末などの音声通信装置に設けることができる。また、エコーキャンセラ装置を音声通信装置に設ける場合には、具体的に、音声通信装置を請求項5に記載のように構成すると良い。
【0029】
請求項5に記載の音声通信装置は、請求項1〜請求項4のいずれかに記載のエコーキャンセラ装置を備える他、入力された音声信号を再生するスピーカと、入力音声を音声信号にして出力するマイクロフォンと、通信制御手段と、エコーキャンセラ開始手段と、を備えている。
【0030】
通信制御手段は、接続指令信号が入力されると、外部通信装置と自身とを音声通信可能に接続し、その外部通信装置から受信した受信音声信号をスピーカに入力すると共に、マイクロフォンから出力された音声信号に基づく送信音声信号を外部通信装置に送信する。
【0031】
一方、エコーキャンセラ装置は、音声信号取得手段により、上記第一の音声信号として、通信制御手段とスピーカとの間の伝送路から受信音声信号を取得すると共に、上記第二の音声信号として、マイクロフォンから出力される音声信号を、マイクロフォンの出力端に繋がる伝送路から取得し、更に、除去出力手段から出力されるエコー信号除去後の音声信号を、通信制御手段に送信音声信号として入力する。
【0032】
また、エコーキャンセラ開始手段は、通信制御手段が自身を外部通信装置に音声通信可能に接続する直前に、エコーキャンセラ装置を作動させる。
このように構成された音声通信装置では、エコーキャンセラ開始手段が、回線接続前にエコーキャンセラ装置を動作させるので、回線接続前にフィルタ係数を調整することができる。したがって、本発明の音声通信装置によれば、回線接続直後から適切にエコー信号を除去することができる。
【0033】
尚、回線接続直後から適切にエコー信号を除去するためには、音声通信装置を、請求項6のように構成すると、一層好ましい。
請求項6に記載の音声通信装置においては、エコーキャンセラ開始手段が、エコーキャンセラ装置を作動させると共に、通信制御手段が自身を外部通信装置に音声通信可能に接続するまでの間に、テスト音を発生させて、エコーキャンセラ装置にフィルタ係数を更新させる。
【0034】
このように構成された請求項6に記載のエコーキャンセラ装置においては、テスト音の発生により、エコーキャンセラ装置に適切にフィルタ係数を調整させることができる。
尚、エコーキャンセラ開始手段は、外部のオーディオ機器を動作させて音楽等を、上記テスト音として発生させる構成にされていてもよいし、予め登録されたテスト音を再生する構成にされていてもよい。
【0035】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施例について、図面とともに説明する。尚、図1は、本発明が適用されたエコーキャンセラ装置20を内蔵する音声通信装置1の構成を表す説明図である。
【0036】
本実施例の音声通信装置1は、ハンズフリー機能を備える周知の電話機端末と同様に、マイクロフォン3、スピーカ5、操作部7、回線制御部9、などを備えている。また、当該音声通信装置1は、エコーキャンセラ作動部10や本発明が適用されたエコーキャンセラ装置20などを備えている。この音声通信装置1は、回線制御部9を介して、外部の通信回線LN1,LN2(公衆電話回線など)に接続される。
【0037】
マイクロフォン3は、音声通信装置1を利用するユーザの音声を集音して音声信号を出力する周知のマイクロフォンであり、エコーキャンセラ装置20の端子P1に接続されている。また、スピーカ5は、呼出音や外部通信装置11から通信回線LN2を介して送信されてきた音声信号を再生するためのものである。この他、操作部7は、番号キーなどの各種キースイッチからなり、ユーザによるキースイッチの操作情報や各種指令を回線制御部9に入力する構成にされている。
【0038】
回線制御部9は、エコーキャンセラ装置20の端子P3,P4及び外部の通信回線LN1,LN2に接続されており、外部通信装置11から呼出信号が送信されてくると、図示しない呼出音発生回路を動作させることにより、呼出音をスピーカ5から出力する。また、ユーザが操作部7を操作することにより、操作部7から回線接続指令信号が入力されると、回線接続して、外部通信装置11と自身(しいては当該音声通信装置1)とを音声通信可能にする。また回線接続後、回線制御部9は、外部通信装置11から通信回線LN2を介して受信した音声信号をエコーキャンセラ装置20を介してスピーカ5に入力すると共に、エコーキャンセラ装置20の端子P3から出力されるマイクロフォン3からの音声信号を、通信回線LN1を介して外部通信装置11に送信する。
【0039】
エコーキャンセラ作動部10は、回線制御部9の動作に合わせてエコーキャンセラ装置20を作動させるためのものである。回線制御部9が外部通信装置11から呼出信号を受信していたり、外部通信装置11に向けて呼出信号を送信するなど、回線接続直前の動作を実行していると判断すると、エコーキャンセラ作動部10は、図2に示すように、S110でYesと判断し、エコーキャンセラ装置20を作動させると共に(S120)、回線制御部9による回線接続前に、テスト音発生部10aを動作させ(S130)、発生したテスト音を音響エコーキャンセラ部30を介してスピーカ5に入力する。尚、図2は、エコーキャンセラ作動部10にて実行される処理を表すフローチャートである。この動作によって、エコーキャンセラ作動部10は、音響エコーキャンセラ部30に、テスト音で、フィルタ係数を回線接続直前に更新(詳細は後述)させる。
【0040】
一方、外部通信装置11は、マイクロフォン13及びスピーカ15を備えた周知の電話機端末であり、回線接続後に、ユーザBが発した音声をマイクロフォン13で集音し、これを音声信号にして通信回線LN2に入力すると共に、通信回線LN1を介して音声通信装置1から送信されてきた音声信号を、スピーカ15にて再生する。
【0041】
さて、回線接続後に行われる音声通信装置1と外部通信装置11との間の音声通信では、ユーザBが発した音声が通信回線LN2を介してスピーカ5から再生されることになる。この時、スピーカ5とマイクロフォン3との間にはエコーパスが介在するから、スピーカ5で再生された音声はマイクロフォン3で集音され、その音声に対応するエコー信号(以下、「音響エコー」とする。)がマイクロフォン3から外部通信装置11に向けて伝送される。
【0042】
また、回線接続時には、回線LN1と回線LN2との間で、各回線の電気的特性によりエコーパスが生じるから、回線LN1を伝送する音声信号が回線LN2に入力されて、回線LN1を伝送する音声信号のエコー信号(以下、「回線エコー」とする。)が回線LN2内を伝播することになる。
【0043】
本実施例の音声通信装置1は、外部通信装置11から送信されてきた音声信号をエコーキャンセラ装置20を介してスピーカ5に出力することにより、回線エコーがスピーカ5で再生されるのを抑制すると共に、マイクロフォン3からの音声信号をエコーキャンセラ装置20を介して通信回線LN1に出力することにより、音響エコーが音声として外部通信装置11のスピーカ15で再生されるのを抑制する。
【0044】
本実施例のエコーキャンセラ装置20は、端子P1から端子P3へ繋がる送信用の伝送路と、端子P4から端子P2へ繋がる受信用の伝送路と、を備えており、これらの伝送路上に、音響エコーキャンセラ部30、回線エコーキャンセラ部40、アナログディジタル(A/D)変換器21,23、ディジタルアナログ(D/A)変換器25,27、などが配置された構成にされている。
【0045】
エコーキャンセラ装置20は、端子P4に入力された外部通信装置11からの音声信号を、A/D変換器23でディジタル信号に変換し、その変換後の音声信号を、端子S8を介して回線エコーキャンセラ部40に入力することにより、回線エコーを除去し、端子S7から出力される回線エコー除去後の音声信号を、端子S4介して音響エコーキャンセラ部30に入力する。そして端子S3を介して音響エコーキャンセラ部30から出力される回線エコー除去後の音声信号を、D/A変換器25でアナログ信号に変換し、これを端子P2に接続されたスピーカ5に入力する。
【0046】
また、エコーキャンセラ装置20は、マイクロフォン3から端子P1を介して入力されてきた音声信号を、A/D変換器21でディジタル信号に変換し、その変換後の音声信号を端子S1を介して音響エコーキャンセラ部30に入力し、音響エコーキャンセラ部30で音響エコーを除去する。そして、端子S2を介して音響エコーキャンセラ部30から出力される音響エコー除去後の音声信号を、端子S5を介して回線エコーキャンセラ部40に入力し、この回線エコーキャンセラ部40の端子S6から出力される音響エコー除去後の音声信号を、D/A変換器27でアナログ信号に変換し、変換後の音声信号を端子P3から出力して回線制御部9に入力する。
【0047】
次に、上記音響エコーキャンセラ部30の構成について説明する。図3(a)は、音響エコーキャンセラ部30内部の基本構成を表す機能ブロック図である。ここでは、まず最初に音響エコーキャンセラ部30の基本的な動作について図3(a)を用いて説明する。
【0048】
図3(a)に示すように、音響エコーキャンセラ部30は、回線制御部9の出力端に繋がる受信用の伝送路に接続された端子S4から、回線エコーキャンセラ部40による回線エコー除去後の音声信号Xin2(t)を取得し、これをフィルタ部31及びフィルタ学習部33に入力する。
【0049】
フィルタ部31では、式1に従い、フィルタ係数W1[j]と音声信号Xin2(t)とが畳み込み演算され、これによって、音声信号Xin2(t)がフィルタリングされ、端子S1から入力されるマイクロフォン3からの音声信号Xout1(t)に含まれる音響エコー(即ち、音声信号Xin2(t)のエコー信号)を音声信号Xout1(t)から除去するためのキャンセル信号F1(t)が生成される。
【0050】
【数1】
Figure 0003870861
【0051】
尚、jは、音声信号のサンプリング数がJである場合に、1〜Jまでの整数値を採る(即ち、j=1,2,…J)。その他、ここでいう値tは、音声信号のサンプリング周期T(例えば、T=125μs)を単位とする時間パラメータであって整数値を採るものである。音響エコーキャンセラ部30は、この演算により得たキャンセル信号F1(t)を加算部35に入力する。
【0052】
同時に、音響エコーキャンセラ部30は、マイクロフォン3から出力された音響エコー除去対象の音声信号Xout1(t)を、マイクロフォン3の出力端に繋がる送信用の伝送路に接続された端子S1から取得し、これを加算部35に入力する。
【0053】
加算部35では、式2に従い、音声信号Xout1(t)にキャンセル信号F1(t)が加算され、これによって音声信号Xout1(t)から音響エコーが除去され、加算結果として、音響エコー除去後の音声信号Xout2(t)が出力される。
【0054】
Xout2(t)=Xout1(t)+F1(t) …式2
音響エコーキャンセラ部30は、この音声信号Xout2(t)を、端子S2を介して回線エコーキャンセラ部40に入力すると共に、フィルタ学習部33に入力する。
【0055】
フィルタ学習部33では、先程キャンセル信号F1(t)を生成する際に使用されたフィルタ部31のフィルタ係数W1[j]と、加算部35から出力された音声信号Xout2(t)と、音声信号Xin2(t)とに基づき、次にフィルタ部31に設定すべきフィルタ係数W1’[j]が、学習レートL1を含む式3に従って算出される。
【0056】
W1’[j]=W1[j]−L1・
f(Xout2(t))・Xin2(t−j) …式3
ここで、f(Xout2(t))は、非線形関数f(u)にXout2(t)を代入した値を示すものである。フィルタ学習部33では、非線形関数f(u)に、値Xout2(t)が代入された後、式3によりW1’[j]が演算される。尚、非線形関数f(u)としては、tanh(ハイパボリックタンジェント)関数や、sign関数、シグモイド関数(具体的には、f(u)=1/{1+exp(−u)}。)等が挙げられる。また、上記学習レートL1は、学習速度を調整するための定数である。
【0057】
音響エコーキャンセラ部30は、上述のようにしてフィルタ学習部33で、新しいフィルタ係数W1’[j]を算出すると、このフィルタ係数W1’[j]をフィルタ部31に設定して、フィルタ係数W1[j]を更新する。
以上が、音響エコーキャンセラ部30の基本動作である。本実施例の音響エコーキャンセラ部30は、回線制御部9が外部通信装置11との間の回線接続の直前に行う呼出信号の送受信動作の際に、エコーキャンセラ作動部10からの指令を受けて動作する。
【0058】
以下では、図4を用いて、エコーキャンセラ作動部10の指令により、音響エコーキャンセラ部30が実行する一連の処理について説明する。尚、図4は、音響エコーキャンセラ部30が実行する音響エコーキャンセラ処理を表すフローチャート(a)、及びその処理内で実行される修正学習処理を表すフローチャート(b)である。
【0059】
音響エコーキャンセラ部30は、例えば、CPUや、DSP、ASICなどのLSIで構成することができ、音響エコーキャンセラ部30をCPUで構成する場合には、図4に示すフローチャートに従うプログラムを作成して、これをCPUに実行させることにより、上記フィルタ部31及びフィルタ学習部33及び加算部35などとしての機能をCPU上で実現することが可能である。
【0060】
音響エコーキャンセラ部30は、エコーキャンセラ作動部10からの指令を受けると、フィルタ係数W1[j]及び学習レートL1を初期値に設定する(S210)と共に、図示しないレジスタに記録された以前の音声信号のサンプリング結果Xout1(t)、Xin2(t)や、上記加算結果Xout2(t)などを消去する。尚、本実施例の音響エコーキャンセラ部30は、予め実験結果等に基づいて設定された初期フィルタ係数を記憶しており、初期化時には、この初期フィルタ係数をフィルタ部31に設定する。
【0061】
この初期化後、音響エコーキャンセラ部30は、一回目のサンプリングを開始して、上記テスト音に基づく音声信号Xin2(t)と、マイクロフォン3から出力された音声信号Xout1(t)と、を取得し(S220)、更に、このサンプリング結果を用いて、修正学習処理を実行する(S230)。
【0062】
修正学習処理において、音響エコーキャンセラ部30は、まず、フィルタ部31に音声信号Xin2(t)を入力することにより、式1に従うキャンセル信号F1(t)を取得する(S310)。その後、音声信号Xout1(t)とキャンセル信号F1(t)を加算部35に入力することにより、サンプリングしたXout1(t)にキャンセル信号F1(t)を加算し、加算結果Xout2(t)を得る(S320)。
【0063】
更に、音響エコーキャンセラ部30は、加算結果Xout2(t)と、音声信号Xin2(t)と、前回フィルタ部31に設定したフィルタ係数W1[j]とを用いて、フィルタ学習部33により、式3に従うフィルタ係数W1’[j]算出し、これをフィルタ部31に設定することにより、フィルタ係数を更新する(S330)。尚、図4では、上述の非線形関数f(u)として、tanh関数を用いた例を示す(f(u)=tanh(u))。
【0064】
この後、音響エコーキャンセラ部30は、学習レートL1が更新時期になったか否か判断し(S340)、更新時期になったと判断すると(S340でYes)、学習レートL1を更新する(S350)。
例えば、音響エコーキャンセラ部30は、音声信号のサンプリング数が一定数(例えば2000回)以上になると(S340でYes)、L1を予め設定されたLc倍にする(S350)。つまり、音響エコーキャンセラ部30は、既に設定されているL1に対して値Lc(例えば、Lc=0.98)を乗算することにより、Lc・L1を得て、これを次の学習レートL1として設定更新する。
【0065】
このようにして学習レートL1の更新が完了すると、音響エコーキャンセラ部30は、回線制御部9が自身を外部通信装置11に接続するまで待機し(S240)、接続が完了すると(S240でYes)、マイクロフォン3から出力される音声信号Xout1(t)、及び外部通信装置11から回線エコーキャンセラ部40を介して送信されてきた音声信号Xin2(t)のサンプリングを再び開始し(S250)、修正学習処理を実行し(S260)、修正学習処理の結果得た音響エコー除去後の音声信号Xout2(t)を端子S2から出力して回線エコーキャンセラ部40の端子S5に入力する(S270)。その後、音響エコーキャンセラ部30は、回線制御部9によって回線が切断されたか否か判断し(S280)、回線が切断されていないと判断すると(S280でNo)、再び、音声信号をサンプリングして(S250)、修正学習処理を実行する(S260)と共に、音響エコー除去後の音声信号Xout2(t)を出力する(S270)。そして、回線が接続されたと判断すると(S280でYes)、当該処理を終了して自身の機能を停止する。
【0066】
以上、音響エコーキャンセラ部30について説明したが、上述の式3は、infomax法に基づくフィルタ係数の学習方式を数式化したものである。本実施例の音響エコーキャンセラ部30は、上述のようにしてinfomax法に基づくフィルタ係数の学習更新を繰り返すことにより、音声信号Xout2(t)と音声信号Xin2(t)とを相互に独立にし、これによってエコーキャンセラ装置としての機能を果たす。
【0067】
例えば、ユーザAが発話しておらず、音声信号Xout1(t)が概ねスピーカ5から出力された音声信号Xin2(t)のエコー信号echo(t)である場合(即ち、Xout1(t)≒echo(t)である場合)、音響エコーキャンセラ部30は、音声信号Xout2(t)とXin2(t)とが相互に独立になるようにフィルタ係数W1[j]の学習更新を行うことで、音声信号Xout2(t)を概ねゼロとする。
【0068】
音声信号Xout1(t)は、ほぼエコー信号の成分で構成されるため、音声信号Xout2(t)とXin2(t)とが相互に独立になるようにすると、結果的に、フィルタ部31では、キャンセル信号F1(t)≒−echo(t)が生成されて、加算部35から、音声信号Xout2(t)≒0が出力されるのである。
【0069】
一方、ユーザAが発話している場合には、エコー信号除去前の段階で、音声信号Xout1(t)が、ユーザBの発話内容に基づく音声信号Xin2(t)に対して、ほぼ独立であることから、フィルタ学習部33によるフィルタ係数の学習更新は、実質的に停止する。即ち、フィルタ学習部33におけるフィルタ係数の更新は継続実行されるものの、ユーザAの発話中では、更新後のフィルタ係数が更新前のフィルタ係数と略同一に設定され、フィルタ係数が、ユーザA発話直前のフィルタ係数で略維持される。
【0070】
したがって、本実施例の音響エコーキャンセラ部30においては、ダブルトークモードディテクタやハウリングディテクタを設けなくとも、常に、エコー信号が除去される方向にフィルタ係数を適切に更新することができ、フィルタ係数の不適切な学習更新を防止することができる。
【0071】
また、本実施例の音響エコーキャンセラ部30では、以上のような動作で、フィルタ係数が更新されることから、背景雑音が大きい場合にも誤学習が行われないというメリットがある。つまり、ユーザAが発話していなくとも、背景雑音が大きい場合には、エコー信号除去前の段階で、音声信号Xout1(t)が音声信号Xin2(t)に対してほぼ独立になる。したがって、フィルタ係数の学習更新は実質的に停止し、フィルタ係数の誤学習は行われないのである。
【0072】
次に、上記回線エコーキャンセラ部40に構成について図3(b)及び図5を用いて説明する。図3(b)は、回線エコーキャンセラ部40内部の基本構成を表す機能ブロック図である。
回線エコーキャンセラ部40は、音響エコーキャンセラ部30によって音響エコーが除去されたマイクロフォン3からの音声信号Xout2(t)を、マイクロフォン3の出力端に繋がる送信用の伝送路に接続された端子S5から取得し、これをフィルタ部41及びフィルタ学習部43に入力する。
【0073】
フィルタ部41では、式4に従い、フィルタ係数W2[j]と音声信号Xout2(t)とが畳み込み演算され、これによって、音声信号Xout2(t)がフィルタリングされ、端子S8から入力される外部通信装置11からの音声信号Xin1(t)に含まれる回線エコー(即ち、音声信号Xout2(t)のエコー信号)を、音声信号Xin1(t)から除去するためのキャンセル信号F2(t)が生成される。
【0074】
【数2】
Figure 0003870861
【0075】
尚、パラメータj,tは上述した音響エコーキャンセラ部30と同種のパラメータである。
回線エコーキャンセラ部40は、このキャンセル信号F2(t)を加算部45に入力する一方で、回線エコー除去対象の音声信号Xin1(t)を回線制御部9の出力端に繋がる受信用の伝送路に接続された端子S8から取得し、これを加算部45に入力する。加算部45では、式5に従い、音声信号Xin1(t)にキャンセル信号F2(t)が加算され、これによって音声信号Xin1(t)から回線エコーが除去され、回線エコー除去後の音声信号Xin2(t)が出力される。
【0076】
Xin2(t)=Xin1(t)+F2(t) …式5
回線エコーキャンセラ部40は、この音声信号Xin2(t)を、端子S7を介して音響エコーキャンセラ部30に入力すると共に、フィルタ学習部43に入力する。フィルタ学習部43では、フィルタ部41に設定されているフィルタ係数W2[j]と、加算部45から出力された音声信号Xin2(t)と、音声信号Xout2(t)とに基づき、次にフィルタ部41に設定すべきフィルタ係数W2’[j]が、学習レートL2を含む式6に従って算出される。
【0077】
W2’[j]=W2[j]−L2・
f(Xin2(t))・Xout2(t−j) …式6
ここで、f(Xin2(t))は、非線形関数f(u)にXin2(t)を代入した値を示すものである。非線形関数f(u)としては、音響エコーキャンセラ部30と同様の関数が挙げられる。
【0078】
回線エコーキャンセラ部40は、このようにしてフィルタ学習部43で、新しいフィルタ係数W2’[j]を算出すると、このフィルタ係数W2’[j]をフィルタ部41に上記フィルタ係数W2[j]として設定することにより、フィルタ係数を更新する。
【0079】
以上が回線エコーキャンセラ部40の基本動作であるが、本実施例の回線エコーキャンセラ部40は、音響エコーキャンセラ部30と同様、回線制御部9が外部通信装置11との間の回線接続を行う直前に、エコーキャンセラ作動部10からの指令を受けて動作する。以下では、図5を用いて、回線エコーキャンセラ部40が実行する一連の処理を説明する。尚、図5は、回線エコーキャンセラ部40が実行する回線エコーキャンセラ処理を表すフローチャート(a)及び、その処理内で実行される修正学習処理を表すフローチャート(b)である。
【0080】
回線エコーキャンセラ部40は、エコーキャンセラ作動部10からの指令を受けると、まず、学習レートL2を初期値に戻すと共に、フィルタ係数W2[j]を前回の当該処理で算出したフィルタ係数に設定する(S410)。また、図示しないレジスタに記録された以前の音声信号のサンプリング結果Xin1(t)、Xout2(t)や、上記加算結果Xin2(t)などを消去する。
【0081】
この初期化後、回線エコーキャンセラ部40は、回線制御部9が自身を外部通信装置11に接続するまで待機し(S420)、接続が完了すると(S420でYes)、外部通信装置11から送信されてきた音声信号Xin1(t)及び、マイクロフォン3から音響エコーキャンセラ部30を介して送信されてきた音声信号Xout2(t)を取得し(S430)、その後、修正学習処理を実行する(S440)。
【0082】
修正学習処理において、回線エコーキャンセラ部40は、まず、フィルタ部41に音声信号Xout2(t)を入力して、式4に従うキャンセル信号F2(t)を得る(S510)。その後、加算部45にて、音声信号Xin1(t)にキャンセル信号F2(t)を加算し、加算結果Xin2(t)を得る(S520)。
【0083】
更に、回線エコーキャンセラ部40は、フィルタ学習部43により、加算結果Xin2(t)と、音声信号Xout2(t)と、前回フィルタ部41に設定したフィルタ係数W2[j]とを用いて式6に従いフィルタ係数W2’[j]算出する。そして、フィルタ係数W2’[j]をフィルタ部41に設定して、フィルタ係数を更新する(S530)。尚、図5では、上述の非線形関数f(u)として、tanh関数を用いた例を示す(f(u)=tanh(u))。
【0084】
この後、回線エコーキャンセラ部40は、学習レートL2が更新時期になったか否か判断し(S540)、更新時期になったと判断すると(S540でYes)、学習レートL2を更新する(S550)。尚、学習レートL2の更新方法は、上記音響エコーキャンセラ部30と同様である。
【0085】
学習レートL2の更新が完了すると、回線エコーキャンセラ部40は、修正学習処理の結果得た音声信号Xin2(t)を端子S7から出力して音響エコーキャンセラ部30の端子S4に入力する(S450)。その後、回線エコーキャンセラ部40は、回線制御部9によって回線切断されたか否か判断し(S460)、回線切断されていなければ、再び、音声信号をサンプリングして(S430)、修正学習処理を実行する(S440)と共に、回線エコー除去後の音声信号Xin2(t)を出力する(S450)。そして、回線切断されたと判断すると(S460でYes)、当該処理を終了して自身の機能を停止する。
【0086】
以上、回線エコーキャンセラ部40について説明したが、式6は、infomax法に基づくフィルタ係数の学習方式を数式化したものである。本実施例の回線エコーキャンセラ部40は、上述のようにしてinfomax法に基づくフィルタ係数の学習更新を繰り返し、音声信号Xout2(t)とXin2(t)とを相互に独立にし、これによってエコーキャンセラ装置としての機能を果たす。
【0087】
例えば、ユーザBが発話しておらず、音声信号Xin1(t)が音声信号Xout2(t)のエコー信号である場合、回線エコーキャンセラ部40は、音声信号Xin2(t)とXout2(t)を相互に独立になるようにフィルタ係数W2[j]の学習更新を行うことで、音声信号Xin2(t)≒0とする。
【0088】
一方、ユーザBが発話している場合には、音声信号Xin1(t)が音声信号Xout2(t)に対してほぼ独立であることから、フィルタ学習部43によるフィルタ係数の学習更新は、実質的に停止する。したがって、当該回線エコーキャンセラ部40によれば、従来装置のようにダブルトークモードディテクタやハウリングディテクタを用いてフィルタ係数の学習更新の動作/非動作を切り替えなくとも、フィルタ係数の不適切な学習更新を防止することができる。その他、本実施例の回線エコーキャンセラ部40は、音響エコーキャンセラ部30と同様に背景雑音に強いという特性を有する。
【0089】
尚、回線エコーキャンセラ部40は、音響エコーキャンセラ部30と同様、CPUや、DSP、ASICなどのLSIで構成することができる。図5に示したフローチャートに従うプログラムを作成して、これをCPUに実行させれば、CPU上で、上記フィルタ部41、フィルタ学習部43、及び加算部45としての機能を実現することが可能で、回線エコーキャンセラ部40の機能を実現することができる。
【0090】
以上、本実施例の音声通信装置1について説明したが、本実施例のエコーキャンセラ装置20においては、ダブルトークモードディテクタ及びハウリングディテクタを設けなくても、適切なフィルタ係数の学習更新を行える結果、それらディテクタの性能によらずエコー信号を適切に除去することができ、更には、装置構成を簡略化することができる。
【0091】
この他、本実施例のエコーキャンセラ装置20によれば、背景雑音によるフィルタ係数の誤学習を防止することができるので、精度よくエコー信号を除去できる。また、エコー信号を適切に除去できる結果、ハウリングの発生を防止することができ、ユーザA,B同士の通話に支障が生じるのを防止することができる。
【0092】
また、本実施例の音声通信装置1では、回線制御部9による回線接続前、つまりユーザA、B同士の発話がはじまる前にフィルタ係数の更新を行うことができるので、回線接続時から、エコー信号を適切に除去することができる。従って、ユーザA,Bにエコー発生による不快感が及ぶのを抑制することができる。
【0093】
尚、本発明のエコーキャンセラ装置は、本実施例のエコーキャンセラ装置20内の音響エコーキャンセラ部30、及び、回線エコーキャンセラ部40に相当する。また、音声信号取得手段は、音響エコーキャンセラ部30において、第一の音声信号x1(t)としての音声信号Xin2(t)を取得する動作と、第二の音声信号x2(t)としての音声信号Xout1(t)を取得する動作(S220,S250)と、により実現されている。この他、音声信号取得手段は、回線エコーキャンセラ部40において、第一の音声信号x1(t)としての音声信号Xout2(t)と、第二の音声信号x2(t)としてのXin1(t)を取得する動作(S430)と、により実現されている。
【0094】
また、本発明のキャンセル信号生成手段は、フィルタ部31,41に相当し、除去出力手段は、加算部35,45に相当し、フィルタ係数更新手段は、フィルタ学習部33,43に相当する。尚、本発明におけるキャンセル信号c(t)は、本実施例におけるキャンセル信号F1(t),F2(t)に相当し、フィルタ係数W[j]は、本実施例におけるフィルタ係数W1[j],W2[j]に相当し、フィルタ係数W’[j]は、本実施例におけるフィルタ係数W1’[j],W2’[j]に相当する。また定数Lは、学習レートL1,L2に相当する。また加算結果y(t)は、本実施例において、音声信号Xout2(t)、Xin2(t)に相当する。
【0095】
この他、本発明の通信制御手段は、回線制御部9に相当し、エコーキャンセラ開始手段は、エコーキャンセラ作動部10に相当する。
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明のエコーキャンセラ装置及び音声通信装置は、上記実施例に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。
【0096】
例えば、音響エコーキャンセラ部30では、学習レートL1の初期値を、サンプリングした音声信号Xin2(t)に関する振幅の絶対平均で除算し、その除算結果を、新たな学習レートL1として設定することで、学習レートL1を更新しても良い。
【0097】
この他、上記音声通信装置1では、テスト音発生部10aで『回線接続しています』等のアナウンス音を発生させることにより、フィルタ係数の更新を回線接続前に行うようにしたが、例えば、エコーキャンセラ作動部10をオーディオ機器操作可能な構成にして、オーディオ機器から音楽等をテスト音として発生させるようにしてもよい。
【0098】
また、上記実施例では、回線制御部9の動作を見てエコーキャンセラ装置20を動作させるようにエコーキャンセラ作動部10を構成したが、オーディオ機器が動作している際に、定期的にエコーキャンセラ装置20を動作させてフィルタ係数を学習更新させるように、エコーキャンセラ作動部10を構成してもよい。
【0099】
また、上記実施例では、通信回線LN1,LN2がアナログ回線であることを想定して、回線エコーキャンセラ部40を設けた音声通信装置1を例に挙げて説明したが、通信回線LN1,LN2がディジタル回線である場合などには、回線エコーが通常発生しないから、音声通信装置1から回線エコーキャンセラ部40を除いても構わない。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本実施例の音声通信装置1の概略構成を表すブロック図である。
【図2】 エコーキャンセラ作動部10にて実行される処理を表すフローチャートである。
【図3】 音響エコーキャンセラ部30(a)及び回線エコーキャンセラ部40(b)の基本構成を表す機能ブロック図である。
【図4】 音響エコーキャンセラ部30で実行される処理を表すフローチャートである。
【図5】 回線エコーキャンセラ部40で実行される処理を表すフローチャートである。
【符号の説明】
1…音声通信装置、3,13…マイクロフォン、5,15…スピーカ、7…操作部、9…回線制御部、10…エコーキャンセラ作動部、10a…テスト音発生部、11…外部通信装置、20…エコーキャンセラ装置、21,23…A/D変換器、25,27…D/A変換器、30…音響エコーキャンセラ部、31,41…フィルタ部、33,43…フィルタ学習部、35,45…加算部、40…回線エコーキャンセラ部、LN1,LN2…回線

Claims (6)

  1. 第一の伝送路から第一の音声信号を取得すると共に、該第一の伝送路との間にエコーパスが介在する第二の伝送路から第二の音声信号を取得する音声信号取得手段と、
    予め設定されたフィルタ係数に従って、前記音声信号取得手段が取得した第一の音声信号をフィルタリングすることにより、前記音声信号取得手段が取得した前記第二の音声信号に含まれる第一の音声信号のエコー信号を前記第二の音声信号から除去するためのキャンセル信号、を生成するキャンセル信号生成手段と、前記音声信号取得手段が取得した前記第二の音声信号に含まれる前記第一の音声信号のエコー信号を、前記キャンセル信号生成手段が生成したキャンセル信号を用いて前記第二の音声信号から除去し、該エコー信号除去後の第二の音声信号を出力する除去出力手段と、
    該除去出力手段から出力された前記エコー信号除去後の第二の音声信号と、前記音声信号取得手段が取得した第一の音声信号と、前記キャンセル信号生成手段に対して設定された前記フィルタ係数と、に基づいて、以後に前記除去出力手段から出力される前記エコー信号除去後の第二の音声信号と、前記音声信号取得手段が取得する第一の音声信号と、が相互に独立になるように、新たなフィルタ係数を算出し、該フィルタ係数を前記キャンセル信号生成手段に対して設定することにより前記フィルタ係数を更新するフィルタ係数更新手段と、
    を備えることを特徴とするエコーキャンセラ装置。
  2. 前記フィルタ係数更新手段は、infomax法に基づいて、前記除去出力手段から出力される前記エコー信号除去後の第二の音声信号と、前記音声信号取得手段が取得する第一の音声信号と、が相互に独立になるように、前記フィルタ係数を更新することを特徴とする請求項1に記載のエコーキャンセラ装置。
  3. 前記キャンセル信号生成手段は、前記予め設定されたフィルタ係数W[j]と、前記音声信号取得手段が取得した第一の音声信号x1(t)と、を畳み込み演算することにより、前記第一の音声信号をフィルタリングして、前記キャンセル信号c(t)を生成し、
    前記除去出力手段は、前記キャンセル信号c(t)を、前記音声信号取得手段が取得した前記第二の音声信号x2(t)に加算し、その加算結果y(t)を、前記エコー信号除去後の第二の音声信号として出力し、
    前記フィルタ係数更新手段は、前記除去出力手段による前記加算結果y(t)を、非線形関数fに代入して値f(y(t))を算出し、更に、該値f(y(t))と、前記音声信号取得手段が取得した第一の音声信号x1(t)と、前記フィルタ係数W[j]と、を用いて、予め設定された定数Lを含む次の関係式、
    W’[j]=W[j]−L・f(y(t))・x1(t−j)
    に従い、フィルタ係数W’[j]を算出し、このフィルタ係数W’[j]を、前記キャンセル信号生成手段に対して設定することにより前記フィルタ係数W[j]を更新することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエコーキャンセラ装置。
  4. 前記非線形関数は、シグモイド関数又はtanh関数又はsign関数であることを特徴とする請求項3に記載のエコーキャンセラ装置。
  5. 入力された音声信号を再生するスピーカと、
    入力音声を音声信号にして出力するマイクロフォンと、
    接続指令信号が入力されると、外部通信装置と自身とを音声通信可能に接続し、該外部通信装置から受信した受信音声信号を前記スピーカに入力すると共に、前記マイクロフォンから出力された音声信号に基づく送信音声信号を該外部通信装置に送信する通信制御手段と、
    前記音声信号取得手段により、前記第一の音声信号として、前記通信制御手段と前記スピーカとの間の伝送路から前記受信音声信号を取得すると共に、前記第二の音声信号として、前記マイクロフォンから出力される音声信号を取得し、更に、前記除去出力手段から出力されるエコー信号除去後の音声信号を、前記通信制御手段に前記送信音声信号として入力する請求項1〜請求項4のいずれかに記載のエコーキャンセラ装置と、
    前記通信制御手段が自身を前記外部通信装置に音声通信可能に接続する直前に、前記エコーキャンセラ装置を作動させるエコーキャンセラ開始手段と、
    を備えることを特徴とする音声通信装置。
  6. 前記エコーキャンセラ開始手段は、前記エコーキャンセラ装置を作動させると共に、前記通信制御手段が自身を前記外部通信装置に音声通信可能に接続するまでの間に、テスト音を発生させて、前記エコーキャンセラ装置に前記フィルタ係数を更新させることを特徴とする請求項5に記載の音声通信装置。
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