JP3864722B2 - 塗装ガンの異常検出装置およびその方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、塗料を吹き付けるための塗装ガンの異常検出装置およびその方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
塗装ガンは、スプレーにより塗料を被塗装物に吹き付けるものである。このような塗装ガンでは、塗装中に目詰まりなどの異常を起こし、塗装むらの発生原因となることがある。
【0003】
従来、このような異常を検出するために、たとえば特開平8−29211号公報では、塗装動作中における塗装ガンの振動を検出して、この振動を周波数解析し、そのときの周波数分布パターンと正常時における周波数分布パターンを比較することで、目詰まり異常を検出することが開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来のように、正常時と塗装動作中における周波数分布パターンを比較する場合、作業者がパターンを見て比較すると、両者のパターンの違いから異常を判断することができる。
【0005】
ところが、これをパソコンなどによって自動的に判断させることを考えた場合、両者のパターンを図形として比較することになる。図形の比較検討は、近年のコンピュータ技術の進歩をもってしても、ある程度の時間を要するため、判断に遅れが生じるといった問題がある。また、そもそも図形を比較して両者のパターンにどの程度違いがあれば異常と判断させるかを設定するのが難しいと言った問題もある。これは、人間が図形を見て判断するプロセスをパソコンで自動化するためには、このような判断プロセスを実行するためのプログラムの作成が必要で、このようなプログラムの作成は数値比較と異なり難しいためである。
【0006】
特に、塗装ガンのスプレーノズルの半詰まりの状態は、周波数解析結果のパターンを比べるだけでは、人間による判断であっても非常に難しく、このような半詰まり状態をも確実に判断することのできる解析手法が求められている。
【0007】
そこで、本発明の目的は、自動的かつ容易に塗装ガンの異常検出、特に半詰まり状態をも容易に検出することができる塗装ガンの異常検出装置およびその方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、下記する手段による達成される。
【0009】
(1)塗装ガンの振動を検出する振動検出手段と、
前記振動検出手段が検出した正常時の振動から高速フーリエ変換によって正常時の周波数スペクトラムを求めるとともに、前記振動検出手段が検出した塗装中の振動から高速フーリエ変換によって塗装中の周波数スペクトラムを求め、当該正常時の周波数スペクトラムと当該塗装中の周波数スペクトラムのそれぞれの多次元ベクトルの内積関数に、さらに当該正常時の周波数スペクトラムと当該塗装中の周波数スペクトラムのそれぞれのベクトルの大きさの比を掛けた評価関数から相関値を求めて、当該相関値に基づいて前記塗装ガンの異常を判断する演算手段と、を有することを特徴とする塗装ガンの異常検出装置。
【0010】
(2)塗装ガンの振動を検出する振動検出手段と、前記振動検出手段が検出した正常時の振動から高速フーリエ変換によって正常時の周波数スペクトラムを求めるとともに、前記振動検出手段が検出した塗装中の振動から高速フーリエ変換によって塗装中の周波数スペクトラムを求め、当該正常時の周波数スペクトラムと当該塗装中の周波数スペクトラムの内積を求めるための式において前記各スペクトラムからから前記各スペクトラムの平均値を引いた相関関数にさらに当該正常時の周波数スペクトラムと当該塗装中の周波数スペクトラムのそれぞれのベクトルの大きさの比をかけた評価関数から相関値を求めて、当該相関値に基づいて前記塗装ガンの異常を判断する演算手段と、を有することを特徴とする塗装ガンの異常検出装置。
【0011】
(3)正常時における塗装ガンの振動を検出する段階と、検出した前記正常時における振動から高速フーリエ変換によって正常時の周波数スペクトラムを求める段階と、塗装中における前記塗装ガンの振動を検出する段階と、検出した前記塗装中における振動から高速フーリエ変換によって塗装中の周波数スペクトラムを求める段階と、前記正常時の周波数スペクトラムと前記塗装中の周波数スペクトラムのそれぞれの多次元ベクトルの内積関数に、さらに前記正常時の周波数スペクトラムと前記塗装中の周波数スペクトラムのそれぞれのベクトルの大きさの比を掛けた評価関数から相関値を求める段階と、前記相関値に基づいて前記塗装ガンの異常を判断する段階と、を有することを特徴とする塗装ガンの異常検出方法。
【0012】
(4)正常時における塗装ガンの振動を検出する段階と、検出した前記正常時における振動から高速フーリエ変換によって正常時の周波数スペクトラムを求める段階と、塗装中における前記塗装ガンの振動を検出する段階と、検出した前記塗装中における振動から高速フーリエ変換によって塗装中の周波数スペクトラムを求める段階と、前記正常時の周波数スペクトラムと当該塗装中の周波数スペクトラムの内積を求めるための式において前記各スペクトラムから前記各スペクトラムの平均値を引いた相関関数にさらに前記正常時の周波数スペクトラムと前記塗装中の周波数スペクトラムのそれぞれのベクトルの大きさの比をかけた評価関数から相関値を求める段階と、前記相関値に基づいて前記塗装ガンの異常を判断する段階と、を有することを特徴とする塗装ガンの異常検出方法。
【0019】
【発明の効果】
本発明は、下記の効果を奏する。
【0020】
本発明によれば、振動検出手段により塗装動作中の塗装ガンの振動を検出して、演算手段が、正常時の振動から高速フーリエ変換によって正常時の周波数スペクトラムを求めるとともに、前記振動検出手段が検出した塗装中の振動から高速フーリエ変換によって塗装中の周波数スペクトラムを求め、当該正常時の周波数スペクトラムと当該塗装中の周波数スペクトラムのそれぞれの多次元ベクトルの内積関数に、さらに当該正常時の周波数スペクトラムと当該塗装中の周波数スペクトラムのそれぞれのベクトルの大きさの比を掛けた評価関数から相関値を求めて、当該相関値に基づいて前記塗装ガンの異常を判断することとしたので、数値演算により塗装ガンの異常を検出することができる。特に、正常時の周波数の大きさと塗装中の周波数の大きさの比をさらにかけた関数の値を用いることで、半詰まりのような従来の周波数パターンによる解析では判断の難しかった異常をも検出することが可能となる。したがって、パソコンなどの演算装置を用いることで自動的かつ容易に塗装ガンの異常を検出することができる。
【0021】
また、本発明によれば、振動検出手段により塗装動作中の塗装ガンの振動を検出して、演算手段が、前記振動検出手段が検出した正常時の振動から高速フーリエ変換によって正常時の周波数スペクトラムを求めるとともに、前記振動検出手段が検出した塗装中の振動から高速フーリエ変換によって塗装中の周波数スペクトラムを求め、当該正常時の周波数スペクトラムと当該塗装中の周波数スペクトラムの内積を求めるための式において前記各スペクトラムからから前記各スペクトラムの平均値を引いた相関関数にさらに当該正常時の周波数スペクトラムと当該塗装中の周波数スペクトラムのそれぞれのベクトルの大きさの比をかけた評価関数から相関値を求めて、当該相関値に基づいて前記塗装ガンの異常を判断することとしたので、数値演算により塗装ガンの異常を検出することができる。特に、半詰まりのような従来の周波数パターンによる解析では判断の難しかった異常をも検出することが可能となる。したがって、パソコンなどの演算装置を用いることで自動的かつ容易に塗装ガンの異常を検出することができる。
【0022】
また、本発明によれば、前記周波数を5〜22kHzの範囲としたので、電源周波数によるノイズや機械振動に起因した高周波成分をカットし、より精度よく塗装ガンの異常を検出することができる。
【0023】
また、本発明によれば、前記5〜22kHzの周波数範囲を周波数解析前に抽出することとしたので、周波数解析や演算処理にかかる負荷を少なくし、より早く異常の有無を判断することが可能となる。
【0024】
また、本発明によれば、正常時の周波数解析を0.75秒以上12.5秒未満の間検出した振動から行うことによって、塗装中に異常が発生した場合、この正常時の周波数と、異常発生時の周波数との相関が明確になり、異常の判断をしやすくなる。
【0025】
また、本発明によれば、正常時における塗装ガンの振動を検出する段階と、検出した前記正常時における振動から高速フーリエ変換によって正常時の周波数スペクトラムを求める段階と、塗装中における前記塗装ガンの振動を検出する段階と、検出した前記塗装中における振動から高速フーリエ変換によって塗装中の周波数スペクトラムを求める段階と、前記正常時の周波数スペクトラムと前記塗装中の周波数スペクトラムのそれぞれの多次元ベクトルの内積関数に、さらに前記正常時の周波数スペクトラムと前記塗装中の周波数スペクトラムのそれぞれのベクトルの大きさの比を掛けた評価関数から相関値を求める段階と、前記相関値に基づいて前記塗装ガンの異常を判断する段階と、を有することとしたので、数値演算により塗装ガンの異常を検出することができる。特に、正常時の周波数の大きさと塗装中の周波数の大きさの比をさらにかけた関数の値を用いることで、半詰まりのような従来の周波数パターンによる解析では判断の難しかった異常をも検出することが可能となる。したがって、パソコンなどの演算装置を用いることで自動的かつ容易に塗装ガンの異常を検出することができる。
【0026】
また、本発明によれば、正常時における塗装ガンの振動を検出する段階と、検出した前記正常時における振動から高速フーリエ変換によって正常時の周波数スペクトラムを求める段階と、塗装中における前記塗装ガンの振動を検出する段階と、検出した前記塗装中における振動から高速フーリエ変換によって塗装中の周波数スペクトラムを求める段階と、前記正常時の周波数スペクトラムと当該塗装中の周波数スペクトラムの内積を求めるための式において前記各スペクトラムから前記各スペクトラムの平均値を引いた相関関数にさらに前記正常時の周波数スペクトラムと前記塗装中の周波数スペクトラムのそれぞれのベクトルの大きさの比をかけた評価関数から相関値を求める段階と、前記相関値に基づいて前記塗装ガンの異常を判断する段階と、を有することとしたので、数値演算により塗装ガンの異常を検出することができる。特に、半詰まりのような従来の周波数パターンによる解析では判断の難しかった異常をも検出することが可能となる。したがって、パソコンなどの演算装置を用いることで自動的かつ容易に塗装ガンの異常を検出することができる。
【0027】
また、本発明によれば、前記周波数を5〜22kHzの範囲としたので、電源周波数によるノイズや機械振動に起因した高周波成分をカットし、より精度よく塗装ガンの異常を検出することができる。
【0028】
また、本発明によれば、前記5〜22kHzの周波数範囲を周波数解析前に抽出することとしたので、周波数解析や演算処理にかかる負荷を少なくし、より早く異常の有無を判断することが可能となる。
【0029】
また、本発明によれば、正常時の周波数解析を0.75秒以上12.5秒未満の間検出した振動から行うことによって、塗装中に異常が発生した場合、この正常時の周波数と、異常発生時の周波数との相関が明確になり、異常の判断をしやすくなる。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下、添付した図面を参照して、本発明の一実施の形態を説明する。
【0031】
実施形態1
図1は本発明を適用した本実施形態1に係る塗装装置と異常検出装置の概略構成を示す図面である。
【0032】
塗装装置は、ロボット10のアーム先端に取り付けられた塗装ガン11と、この塗装ガン11に塗料を供給するポンプ13および塗料タンク14とからなる。塗装ガン11は、その先端に塗料を噴射するためのスプレーノズル12が設けられている。
【0033】
異常検出装置は、スプレーノズル12に取り付けられた振動センサ21と、演算装置22と、結果を出力するための出力装置23とからなる。ここで、演算装置22はいわゆるパソコンなどであり、後述する処理手順に従って作成されたプログラムが実行されることにより、高速フーリエ変換(FFT)による周波数解析を行い、異常の有無を判断する。また、出力装置23はパソコンに接続されているディスプレイやプリンタなどである。
【0034】
振動センサ21は、加速度センサであり、スプレーノズル12から塗料が噴射される際の振動を検出する。
【0035】
塗装動作は、ロボット10が所定のプログラムによって、塗装ガン11をワーク(不図示)の被塗装面に対して所定の範囲が塗装されるように動作させることによって行われる。このとき、ポンプ13がロボット10の動作と連動して、塗料タンク14内の塗料を塗装ガン11へ所定の圧力で送出する。これにより、塗装ガン11先端に設けられているスプレーノズル12から塗料が噴射されて塗装が行われる。
【0036】
次に、塗装動作中における塗装ガンの異常を検出するための手順について説明する。
【0037】
図2は、異常検出手順を示すフローチャートである。
【0038】
まず、実際の異常検出に先立ち、正常時の塗装状態における振動を検出する(S1)。
【0039】
ここで正常時の振動検出は、図3に示すように、振動を検出して周波数解析を行う1単位の切り出し時間をnとした場合、本実施の形態では最初の切り出し時間n0の区間を用いている。
【0040】
検出した正常時の振動は、周波数解析として、FFT(高速フーリエ変換)解析を行い(S2)、続いて、特定周波数帯を切り出し、正常時スペクトラムX0を算出する(S3)。
【0041】
なお、ここで特定周波数帯は、たとえば5〜22kHzの範囲が好ましい。これは、5kHz未満をカットすることで、電源周波数やその他外部からの低周波振動(たとえば人や機械が移動するときの振動)成分を除くことができ、一方、22kHzを越える周波数をカットすることで、機械の発振などの高周波成分を除くことができ、外部からのノイズの影響を受けずに精度よく塗装ガンの異常発生を検出することができる。
【0042】
前記ステップS3における正常時スペクトラムの算出は以下のように行う。
【0043】
ここでは、時系列時間信号x(n)に対して、その周波数スペクトラムx(m,L)を下記(1)式に示すように定義する。
【0044】
【数1】
【0045】
ただし、式中、Nはブロックサイズ、Mはオーバラップサイズ、
−K≦k≦Kのときω(k)=(1−cos(2πk/K))/2、kがその他のときω(k)=0、K=N/2であり、mは時間方向に大きくなる整数であり、Lは周波数方向に大きくなる整数である(以下、各式おいて同様)。なお、時間、周波数共に、離散データとなる。
【0046】
この(1)式から、正常時スペクトラムX0は下記(2)式のように定義する。
【0047】
【数2】
【0048】
ただし、式中、「nに含まれるNの個数」とは、各1つの切り出し時間nの中に、FFT解析のためのブロックサイズNを1単位として何単位分の解析個数が含まれているかを示す数である。具体的には、たとえばブロックサイズNが512(ブロック数)であれば、n時間の間に512個を1単位とするFFT解析が何回行われたかを示す数である(以下、各式において同様)。
【0049】
正常時スペクトラム算出後は、実際の塗装動作における異常検出を行う。
【0050】
まず、塗装動作中の振動を検出する(S4)。検出した振動は一定時間間隔ごとにFFT解析を行い(S5)、特定周波数帯を切り出して、前記(1)式を用いて動作中スペクトラムXiを下記(3)式により算出する(S6)。ここで、特定周波数帯は前記同様に、5〜22kHzが好ましい。
【0051】
【数3】
【0052】
動作中スペクトラムXi算出後、正常時スペクトラムX0と動作中スペクトラムXiとから、下記(4)式に示す関数(以下評価関数と称する)を用いて正常時と塗装中との相関値ρ(i)を算出する(S7)。
【0053】
【数4】
【0054】
(4)式において、fUは下限周波数(ここでは5Hz)であり、fLは上限周波数(ここでは22Hz)である。
【0055】
(4)式に示した評価関数は、FFTの解析結果として得られる正常時と塗装中の周波数の内積関数に、正常時の周波数の大きさと塗装中の周波数の大きさの比をかけたものである。上記(4)式において、内積関数部分は、下記(5)式のとおりであり、正常時と塗装中のそれぞれの周波数の大きさの比の部分は下記(6)式のとおりである。
【0056】
【数5】
【0057】
【数6】
【0058】
内積関数は、周知のとおり、相関を求めるための関数の一つで、FFTの解析結果として得られる各周波数スペクトラム成分を多次元ベクトルとして、上記(5)式のように求めるものである。また、正常時の周波数の大きさと塗装中の周波数の大きさの比は上記(6)式のとおり、各周波数スペクトラムのベクトルの大きさの比である。
【0059】
このように、内積関数に正常時の周波数の大きさと塗装中の周波数の大きさの比をかけることで、検出された振動の強度を加味して評価することが可能となる。これは、たとえば周波数分布がほとんど変わらずに、振動強度のみが変化するよう場合、内積関数だけで正常時と塗装中の相関を評価すると、その値(内積関数の算出結果)はほぼ「1」となるが、上記(4)式のように、内積関数に正常時の周波数の大きさと塗装中の周波数の大きさの比をかけることで、周波数分布には大きな変化がなくても振動強度が変化するような場合でも、その算出結果の値(上記(4)式の計算結果)は、「1」とはならずに異常を検出することができるのである。
【0060】
このようにして評価関数の算出結果ρ(i)を求めた後、その値が予め決められたしきい値に基づいて異常か否かを判断し(S8)、異常が検出された場合には異常信号を出力装置23へ出力して(S9)、処理を終了する。一方、異常がなければ、ステップS4へ戻り、塗装動作が終了まで異常検出を継続する。
【0061】
ここで、しきい値は、FFT解析のブロックサイズ、諸定数の取り方などによって異なるが、さまざまな実験を行った結果、たとえば、ブロックサイズ512、観測時間0.75秒、オーバラップ0、としたとき、全詰まり異常はしきい値を0.85として、これ以下であれば全詰まり異常と判断する。また、半詰まり異常は、後述するように、半詰まりの部分で相関値が急激に大きくなるので、しきい値を1.1としてこれ以上のときに半詰まりと判断する。
【0062】
図4は、全詰まり異常が発生した場合の相関値を示す図面であり、図5は、半詰まり異常が発生したときの相関値を示す図面である。なお、各図において、縦軸は相関値(評価関数の算出結果)、横軸は時間(秒)である。
【0063】
図4からわかるように、全詰まり異常発生時には相関値がしだいに下がり、最終的には0となる。
【0064】
一方、図5に示すように、半詰まり異常が発生した時には、相関値が急激に上昇し、それから下がっている。これは、(4)式による算出値として半詰まりがあった場合には、その振動強度が変化していることを示すもので、しきい値として、上限(この実施形態では1.2)と下限(この実施形態では0.8)の両方を設定しておけば、このような半詰まりの状態を本実施の形態では的確に捉えることができる。
【0065】
以上、本実施形態1では、全詰まり異常も半詰まり異常も、数値として評価することができるため、これら異常状態を容易に検出することができる。
【0066】
なお、本実施形態1においては、(4)式に示したように、内積関数に正常時と塗装中のそれぞれの周波数の大きさの比をかけたものを評価関数として用いたが、これに代えて、下記(7)式のように、内積関数の代わりに、各内積を求めるためのスペクトラムからその平均値を引いた値を使用する相関関数に、正常時と塗装中のそれぞれの周波数の大きさの比をかけたものを評価関数として用いてもよい。
【0067】
【数7】
【0068】
また、「(fU−fL)間の個数」とは、下限5kHz、上限22kHzとしてFFT解析を行った際、実際得られるデータが離散データになるので(Δf=(サンプリング周波数/ブロックサイズ))、そのうちの上限と加減の間に存在するデータの個数を言う。
【0069】
このように、(7)式を用いた場合で、上述した(4)式を用いた場合と同じように、全詰まり異常、半詰まり異常をとも確実に検出することができる。
【0070】
実施形態2
図6は、本発明を適用した本実施形態2に係る塗装装置と異常検出装置の概略構成を示す図面である。なお、前述した実施形態1と同様の機能を有する部材には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0071】
塗装装置の構成は前述した実施形態1と同様であり、ロボット10、塗装ガン11、ポンプ13、および塗料タンク14とからなり、塗装ガン11には、その先端にスプレーノズル12が設けられている。この塗装装置による塗装動作は実施形態1と同様であるので、その説明は省略する。
【0072】
異常検出装置は、スプレーノズル12に取り付けられた振動センサ21、振動センサからの信号から、特定の周波数成分を抽出するために、高周波成分をアナログ的に直接カットするローパスフィルタ(LPF)31と低周波成分をカットするハイパスフィルタ(HPF)32、演算装置22、および出力装置23からなる。
【0073】
次に、塗装動作中における塗装ガンの異常を検出するための手順について説明する。
【0074】
図7は、異常検出手順を示すフローチャートである。
【0075】
まず、正常時の振動を検出する(S11)。そして、ローパスフィルタ31およびハイパスフィルタ32により、振動センサからの信号から不要な周波数成分をカットして特定の周波数成分のみを抽出する(S12)。ここでは前述同様に5〜22kHzの範囲の信号のみを通過させる。
【0076】
その後は、前述の実施形態1同様にFFT解析を行って(S13)、正常時スペクトラムX0を算出する(S14)。
【0077】
正常時スペクトラム算出後は、実際の塗装動作における異常検出を行う。
【0078】
まず、塗装動作中の振動を検出し(S15)、前記同様にローパスフィルタ31およびハイパスフィルタ32を用いて、振動センサからの信号から不要な周波数成分をカットする(S16)。
【0079】
その後前述の実施形態1同様に、FFT解析を行って(S17)、動作中スペクトラムXiを算出する(S18)。続いて、前述の(4)式または(7)式に示した評価関数を用いて相関値を算出する(S19)。続いて、相関算出の結果から相関値と予め決められたしきい値に基づいて異常か否かを判断し(S20)、異常があれば、異常信号を出力装置23へ出力して(S21)、処理を終了する。一方、異常がなければ、ステップS15へ戻り、塗装動作が終了まで異常検出を継続する。
【0080】
これにより、本実施形態2においても前述の実施形態1同様に、塗装ガンの全詰まり異常や半詰まり異常を検出することができる。
【0081】
そして、本実施形態2では、振動センサからの信号からローパスフィルタ31およびハイパスフィルタ32を用いて、アナログ的に不要な周波数成分をカットしているので、演算装置22では始めから異常検出に必要な周波数成分のみを処理すればよいため、演算装置にかかる負荷が少なくなる。
【0082】
実施形態3
上述した実施形態1および2では、正常時のスペクトラムとして、最初の切り出し時間nを1つのみ使用して算出しているが、本実施形態3では、これに代えて、複数の切り出し時間を用いて、正常時におけるスペクトラムの算出を行ったものである。
【0083】
これを概念的に図示すると、図8に示すように、基準区間t0としてこの間の複数の切り出し時間n01〜n0iから正常時スペクトラムを算出し、その後、観測区間n1〜niの振動を検出して異常の判断を行うものである。
【0084】
したがって、本実施の形態3における装置構成は、実施形態1または2と同じでよく、また、全体の動作手順も実施形態1または2と同じでよい。そこで本実施形態3の説明としては、これら装置構成や動作手順の説明は省略し、本実施形態3特有の正常時スペクトラムの算出と、これを用いた異常判断についてのみ説明する。
【0085】
まず、正常時スペクトラムの算出に際して、1つの切り出し時間nにおけるスペクトラムを下記(8)式により算出する。
【0086】
【数8】
【0087】
そして、算出された1つの切り出し時間nにおけるスペクトラムを複数の切り出し時間(n01〜n0i)について下記(9)式により平均し、正常時スペクトラムX0(m)を算出する。
【0088】
【数9】
【0089】
続いて、この正常時スペクトラムについて、基準区間内における各スペクトラムX0iの相関評価値ρ0(i)を下記(10)式により算出する。
【0090】
【数10】
【0091】
この相関評価値ρ0(i)の平均を下記(11)式により求めて、これを基準区間t0におけるばらつき関数ρ0とする。
【0092】
【数11】
【0093】
ただし、式中、「基準スペクトラム数」とは、塗装を行った際に、スプレーノズルにから塗料が正常に吹き出している状態のときのスペクトラム数である。
【0094】
そして、観測区間において検出された切り出し時間nごとの振動から、下記(12)式により、正常時と実際の塗装作業中の評価関数ρ(i)を算出する。
【0095】
【数12】
【0096】
ここでも、前述した実施形態1において説明したように、この(12)式で示した評価関数では、正常時と塗装中の周波数の多次元ベクトルより求められる内積関数に、正常時と塗装中のそれぞれの周波数の大きさの比をかけたものを基本としている。
【0097】
これにより、正常時に発生するさまざまな振動成分をも加味して塗装ガンの異常を検出することが可能となる。なお、正常時スペクトラムを算出するための分析時間は、実際の塗装現場や塗装ガンの状態に合わせて任意に決定するが、たとえば0.75秒から12.5秒程度が好ましい。これは、正常時スペクトラムを算出するための分析時間があまり短いと、正常時に発生するさまざまな振動成分を取り込むことができず、一方、あまり長くてもその間に異常が発生する場合もあるので、上記の範囲が好ましいものである。
【0098】
また、正常時スペクトラムの算出は、塗装動作に入る前に予め行っておいてもよいし、塗装動作に入る直前に行ってそのまま塗装動作に移ってもよい。
【0099】
なお、本実施形態3においても、(12)式に代えて、相関関数を用いた下記(13)式により評価を行ってもよい。
【0100】
【数13】
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明を適用した実施形態1に係る異常検出装置の構成を説明するための概略図である。
【図2】 実施形態1に係る異常検出手順を示すフローチャートである。
【図3】 実施形態1に係る周波数解析の切り出し時間を説明するための図面である。
【図4】 全詰まり異常が発生したときの相関値を示す図面である。
【図5】 半詰まり異常が発生したときの相関値を示す図面である。
【図6】 本発明を適用した実施形態2に係る異常検出装置の構成を説明するための概略図である。
【図7】 実施形態2に係る異常検出手順を示すフローチャートである。
【図8】 実施形態3に係る周波数解析の切り出し時間を説明するための図面である。
【符号の説明】
11 塗装ガン
12 スプレーノズル
21 振動センサ
22 演算装置
23 出力装置
31 ローパスフィルタ(LPF)
32 ハイパスフィルタ(HPF)
Claims (18)
- 塗装ガンの振動を検出する振動検出手段と、
前記振動検出手段が検出した正常時の振動から高速フーリエ変換によって正常時の周波数スペクトラムを求めるとともに、前記振動検出手段が検出した塗装中の振動から高速フーリエ変換によって塗装中の周波数スペクトラムを求め、当該正常時の周波数スペクトラムと当該塗装中の周波数スペクトラムのそれぞれの多次元ベクトルの内積関数に、さらに当該正常時の周波数スペクトラムと当該塗装中の周波数スペクトラムのそれぞれのベクトルの大きさの比を掛けた評価関数から相関値を求めて、当該相関値に基づいて前記塗装ガンの異常を判断する演算手段と、を有することを特徴とする塗装ガンの異常検出装置。 - 前記演算手段は、
前記正常時のスペクトラムX0を下記(2)式により求め、
また、「nに含まれるNの個数」は、各1つの切り出し時間nの中に、高速フーリエ解析のためのブロックサイズNを1単位として何単位分の解析個数が含まれているかを示す数であり、
また、fUは下限周波数であり、fLは上限周波数である) - 前記演算手段は、
前記正常時のスペクトラムX0(m)は、まず、1つの切り出し時間nにおけるスペクトラムを(8)式により求めて、さらに(9)式により平均化した値を用い、
また、「nに含まれるNの個数」は、各1つの切り出し時間nの中に、高速フーリエ解析のためのブロックサイズNを1単位として何単位分の解析個数が含まれているかを示す数であり、
また、fUは下限周波数であり、fLは上限周波数であり、
また、(12)式中、
また、上記(11)式中、「基準スペクトラム数」とは、塗装を行った際に、スプレーノズルにから塗料が正常に吹き出している状態のときのスペクトラム数である) - 塗装ガンの振動を検出する振動検出手段と、
前記振動検出手段が検出した正常時の振動から高速フーリエ変換によって正常時の周波数スペクトラムを求めるとともに、前記振動検出手段が検出した塗装中の振動から高速フーリエ変換によって塗装中の周波数スペクトラムを求め、当該正常時の周波数スペクトラムと当該塗装中の周波数スペクトラムの内積を求めるための式において前記各スペクトラムからから前記各スペクトラムの平均値を引いた相関関数にさらに当該正常時の周波数スペクトラムと当該塗装中の周波数スペクトラムのそれぞれのベクトルの大きさの比をかけた評価関数から相関値を求めて、当該相関値に基づいて前記塗装ガンの異常を判断する演算手段と、を有することを特徴とする塗装ガンの異常検出装置。 - 前記演算手段は、
前記正常時のスペクトラムX0を下記(2)式により求め、
また、「nに含まれるNの個数」は、各1つの切り出し時間nの中に、高速フーリエ解析のためのブロックサイズNを1単位として何単位分の解析個数が含まれているかを示す数であり、
また、fUは下限周波数であり、fLは上限周波数であり、
また、「(fU−fL)間の個数」とは、下限周波数と上限周波数の間に存在するデータの個数である) - 前記演算手段は、
前記正常時のスペクトラムX0(m)は、まず、1つの切り出し時間nにおけるスペクトラムを(8)式により求めて、さらに(9)式により平均化した値を用い、
また、「nに含まれるNの個数」は、各1つの切り出し時間nの中に、高速フーリエ解析のためのブロックサイズNを1単位として何単位分の解析個数が含まれているかを示す数であり、
また、fUは下限周波数であり、fLは上限周波数であり、
また、(13)式中、
また、上記(11)式中、「基準スペクトラム数」とは、塗装を行った際に、スプレーノズルにから塗料が正常に吹き出している状態のときのスペクトラム数である) - 前記下限周波数は5kHzであり、上限周波数は22kHzであることを特徴とする請求項2、3、5、6のうちいずれか1つに記載の塗装ガンの異常検出装置。
- 前記下限周波数から上限周波数までの周波数範囲は、前記振動検出手段により検出された振動から、演算手段へ送られる前に抽出されることを特徴とする請求項7記載の塗装ガンの異常検出装置。
- 前記正常時の周波数スペクトラムは、0.75秒以上12.5秒未満の間前記振動検出手段が正常時に検出した振動から求めたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載の塗装ガンの異常検出装置。
- 正常時における塗装ガンの振動を検出する段階と、
検出した前記正常時における振動から高速フーリエ変換によって正常時の周波数スペクトラムを求める段階と、
塗装中における前記塗装ガンの振動を検出する段階と、
検出した前記塗装中における振動から高速フーリエ変換によって塗装中の周波数スペクトラムを求める段階と、
前記正常時の周波数スペクトラムと前記塗装中の周波数スペクトラムのそれぞれの多次元ベクトルの内積関数に、さらに前記正常時の周波数スペクトラムと前記塗装中の周波数スペクトラムのそれぞれのベクトルの大きさの比を掛けた評価関数から相関値を求める段階と、
前記相関値に基づいて前記塗装ガンの異常を判断する段階と、を有することを特徴とする塗装ガンの異常検出方法。 - 前記正常時のスペクトラムX0を下記(2)式により求め、
また、「nに含まれるNの個数」は、各1つの切り出し時間nの中に、高速フーリエ解析のためのブロックサイズNを1単位として何単位分の解析個数が含まれているかを示す数であり、
また、fUは下限周波数であり、fLは上限周波数である) - 前記正常時のスペクトラムX0(m)は、まず、1つの切り出し時間nにおけるスペクトラムを(8)式により求めて、さらに(9)式により平均化した値を用い、
また、「nに含まれるNの個数」は、各1つの切り出し時間nの中に、高速フーリエ解析のためのブロックサイズNを1単位として何単位分の解析個数が含まれているかを示す数であり、
また、fUは下限周波数であり、fLは上限周波数であり、
また、(12)式中、
また、上記(11)式中、「基準スペクトラム数」とは、塗装を行った際に、スプレーノズルにから塗料が正常に吹き出している状態のときのスペクトラム数である) - 正常時における塗装ガンの振動を検出する段階と、
検出した前記正常時における振動から高速フーリエ変換によって正常時の周波数スペクトラムを求める段階と、
塗装中における前記塗装ガンの振動を検出する段階と、
検出した前記塗装中における振動から高速フーリエ変換によって塗装中の周波数スペクトラムを求める段階と、
前記正常時の周波数スペクトラムと当該塗装中の周波数スペクトラムの内積を求めるための式において前記各スペクトラムから前記各スペクトラムの平均値を引いた相関関数にさらに前記正常時の周波数スペクトラムと前記塗装中の周波数スペクトラムのそれぞれのベクトルの大きさの比をかけた評価関数から相関値を求める段階と、
前記相関値に基づいて前記塗装ガンの異常を判断する段階と、を有することを特徴とする塗装ガンの異常検出方法。 - 前記正常時のスペクトラムX0を下記(2)式により求め、
また、「nに含まれるNの個数」は、各1つの切り出し時間nの中に、高速フーリエ解析のためのブロックサイズNを1単位として何単位分の解析個数が含まれているかを示す数であり、
また、fUは下限周波数であり、fLは上限周波数であり、
また、「(fU−fL)間の個数」とは、下限周波数と上限周波数の間に存在するデータの個数である) - 前記正常時のスペクトラムX0(m)は、まず、1つの切り出し時間nにおけるスペクトラムを(8)式により求めて、さらに(9)式により平均化した値を用い、
また、「nに含まれるNの個数」は、各1つの切り出し時間nの中に、高速フーリエ解析のためのブロックサイズNを1単位として何単位分の解析個数が含まれているかを示す数であり、
また、fUは下限周波数であり、fLは上限周波数であり、
また、(13)式中、
また、上記(11)式中、「基準スペクトラム数」とは、塗装を行った際に、スプレーノズルにから塗料が正常に吹き出している状態のときのスペクトラム数である) - 前記下限周波数は5kHzであり、上限周波数は22kHzであることを特徴とする請求項11、12、14、15のうちいずれか一つに記載の塗装ガンの異常検出方法。
- 前記下限周波数から上限周波数までの周波数範囲は、検出された振動から、周波数解析される前に抽出されることを特徴とする請求項16記載の塗装ガンの異常検出方法。
- 前記正常時における周波数スペクトラムは、正常時に0.75秒以上12.5秒未満の間検出した振動から求めたことを特徴とする請求項10〜17のいずれか一つに記載の塗装ガンの異常検出方法。
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