JP3862764B2 - 稔性回復遺伝子の導入方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、細胞融合法によりラファナス属植物の稔性回復遺伝子をブラシカ属植物に導入する方法および該方法により作成されたブラシカ属植物に関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】
細胞質にある核外遺伝子には、細胞質雄性不稔(Cytoplasmic Male Sterility;以下、「CMS」と略すこともある)などの有用遺伝子が存在することが知られている。このCMSは、ハイブリッド植物の作成に深い関連を持つことから、近年注目を集めている。
【0003】
ブラシカ属植物におけるCMSの利用に関する研究は、自家不和合性のないナタネ(Brassica napus)で特に盛んに行われている。しかしながら、従来より広く利用されてきたのはナタネ品種ポリマ(Polima)由来のCMSのみであり、このポリマのCMSは高温条件下、特に20℃以上で栽培すると稔性が回復してしまう等のCMSの安定性に関して問題があった。そのため、ヘテローシス(雑種強勢)を示すF1 (雑種第1代)種子の生産には十分に利用できていなかった。
【0004】
一方、本願発明者らは先にX線照射したダイコン由来のプロトプラストとヨード化合物処理したブラシカ属植物由来のプロトプラストとを融合させ、直接ダイコン由来のプロトプラストからその細胞質遺伝子をナタネ等のブラシカ属植物由来のプロトプラストに導入する方法(特開平1−218530号公報)、ダイコン由来のサイトプラストとヨード化合物処理したブラシカ属植物由来のプロトプラストとを融合させ、直接ダイコン由来のサイトプラストからその細胞質遺伝子をナタネ等のブラシカ属植物由来のプロトプラストに導入する方法(特開平2−303426号公報)を提案した。しかしF1 種子を生産するためには、稔性回復遺伝子(以下、「Rf遺伝子」と略す)を有する片親が必要となるが、ダイコン由来のCMS遺伝子をナタネに導入できても、ナタネにはこれに対応するRf遺伝子が存在しないため、かかるRf遺伝子をダイコンから導入しなければならなかった。遠縁交雑によるダイコンRf遺伝子のナタネへの導入は種々検討されているが、細胞融合法による導入はまだ報告されていないのが現状であった。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記のダイコン等のラファナス属植物のRf遺伝子を上記のナタネ等のブラシカ属植物に導入するべく検討を重ねた結果、予想外にも細胞融合法によりかかる目的が達成されることを初めて見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち本発明の要旨は、ブラシカ属(Brassica)植物のプロトプラストおよび細胞質雄性不稔性に対応する稔性回復遺伝子を有するラファナス属(Raphanus)植物のプロトプラストを融合させ、次いで得られた融合細胞を培養してコロニーを形成させ、該コロニーから植物体を再生させることを特徴とするブラシカ属植物への稔性回復遺伝子の導入方法、および同方法によりラファナス属植物の稔性回復遺伝子が導入されたブラシカ属植物に存する。
【0007】
以下、本発明につき詳細に説明する。
本発明で使用されるブラシカ属植物としては、ラファナス属植物のCMSを導入したもの、正常な細胞質を有する優良品種等のいずれも使用できる。本発明においてはナタネ(Brassica napus)が好ましく、具体的には小瀬菜ダイコンのCMSを導入したナタネ(Brassica napus,cv.Westar)またはその優良栽培品種等が挙げられる。
【0008】
ラファナス属植物としては、ラファナス属植物のRf遺伝子を持つ系統や品種であれば特に制限はされない。本発明においてはダイコン(Raphanus sativus)が好ましく、具体的には日本の小瀬菜ダイコンや、中国のダイコン品種である園紅、心里美等が挙げられる。
これらのプロトプラストは、常法に従い、下胚軸や幼植物体の葉などを細分し、セルラーゼやペクチナーゼ等の細胞壁分解酵素を含む等張溶液中に25〜30℃、5〜20時間処理することによって得ることができる。
【0009】
精製したプロトプラストは、例えばポリエチレングリコール(PEG)法で融合させることができる。融合方法としては、プロトプラスト同士をそのまま細胞融合させる対称融合法や、一方の核を不活化したうえで融合させ、特定の遺伝子を限定して導入する非対称融合法が挙げられ、本発明においては後者の非対称融合法が好ましい。具体的には、ラファナス属植物のプロトプラストをX線、γ線、紫外線(X線の場合は、10〜300KR)等の放射線で照射することによって核内の染色体にある程度の損傷を与えておく。またブラシカ属植物のプロトプラストは、2〜40mMのヨード化合物(ヨードアセトアミド、ヨード酢酸等)を用いて常温下で5〜30分間処理し、細胞質を不活化させる。
【0010】
以下、PEG法で融合させる場合につき、より具体的に説明する。
プロトプラストを融合させる溶液は、6.7〜40%のPEGを含むW5(Plant Cell Report,3,196−198(1984))を用いた(Plant Science,43,155−162(1986))。この溶液中に、両方のプロトプラストを3:1〜1:3(ブラシカ属:ラファナス属)の割合で総濃度が1〜4×106 個/mlになるように混合し、室温で融合させる。使用されるPEGとしては、ベーリンガー・マンハイム社の分子量1500のもの等が挙げられる。
【0011】
上述のようにプロトプラストを融合処理した後、PEGを除去してプロトプラスト培養培地、例えば0.05〜0.5mg/lの2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)、0.02〜0.5mg/lのナフタレン酢酸(NAA)、0.1〜2.0mg/lのベンジルアミノプリン(BAP)および0.4Mのグルコースを含むKM液体培地(Planta,126,105−110(1975))を加えて培養する。約1週間後に、0.1Mのショ糖、0.2〜3.0mg/lの2,4−D、0.02〜0.5mg/lのNAAおよび0.1〜2.0mg/lのBAPを含むKM培地を等量加え、さらに培養を続けると、3週間前後で直径0.5〜1mm程度のコロニーが数多く形成される。この時点で、コロニーをカルス増殖培地、例えば0.5〜2mg/lの2,4−D、0.1〜0.5mg/lのBAP、1〜5%のソルビトール、1〜5%のショ糖、0.5〜2g/lのカゼイン加水分解物(CH)および0.5〜1%の寒天を含むMS固形培地(Murashige & Skoog,1962)に移して弱光下で2〜3週間培養すると、ある程度グリーン化したカルスが得られる。
【0012】
カルスは直ちに再分化培地、例えば0.01〜0.1mg/lのNAA、0.5〜2mg/lのBAP、1〜5%のソルビトール、0.5〜2%のショ糖、0.05〜0.5g/lのCHおよび0.5〜1%の寒天を含むMS固形培地に移植して、不定芽を再生させる。本発明においては、再分化してきた不定芽をさらに発根誘導培地、例えば0.05〜0.2mg/lのNAA、0.01〜0.05mg/lのBAP、1〜5%のショ糖および0.2%のゲルライト(Kelco,Division of Merck & Co.,Inc)を含むMS固形培地に移植することによって、健全な幼植物体が得られる。そして最後に幼植物体は、1000倍程度に希釈したハイポネックス(村上物産株式会社)を添加したバーミキュライト(昭和バーミキュライト株式会社)に移植して、培養瓶の蓋代わりに通気性の良いミリラップ(ミリポーア社)等を用いることによって、ラファナス属のRf遺伝子が導入されたブラシカ属体細胞雑種植物を得ることができる。 得られた雑種植物から、花粉稔性や染色体数などによってRf遺伝子の導入された個体を選抜することができる。また必要に応じてブラシカ属植物との連続戻交雑を行うことによって、植物学的ならびに細胞学的に安定し、しかもラファナス属植物のRf遺伝子を持ったブラシカ属植物を得ることができる。
【0013】
【発明の効果】
本発明によれば、生物学的な属の違いにもかかわらず細胞融合、特に非対称細胞融合法を用いることによってラファナス属植物のRf遺伝子を短期間でブラシカ属植物に導入することができる。よって、ラファナス属植物のCMSを利用したブラシカ属植物の雑種第一代(F1 )育種の実用化が期待できる。
【0014】
【実施例】
以下、本発明につき実施例を挙げて詳細に説明するが、その要旨を越えない限り以下に限定されるものではない。
実施例1
▲1▼ ダイコンからのプロトプラスト調整
Rf遺伝子を持つ小瀬菜ダイコンの無菌苗から幼葉を取り、酵素液の中で細分し、25℃、薄暗い場所にて一晩静置した。酵素液は、0.35Mのショ糖、0.5mg/lの2,4−D、0.5mg/lのNAAおよび1mg/lのBAPを含むNN67培地(Nitsch & Nitsch,1967)に0.5%のセルラーゼR−10、2%のセルラーゼRS、0.05%のマセロザイムR−10および0.02%のペクトリアーゼY−23を加えたものを使用した。
【0015】
酵素処理した後、酵素液をろ過して未消化物を除去し、ろ液を800rpmで10分間遠心分離して沈澱物を集め、それを0.6Mのショ糖液の上に静かに乗せて、さらに800rpmで10分間遠心分離してプロトプラストのバンドを回収した。
▲2▼ X線照射
上記▲1▼で精製したプロトプラストを106 個/mlの濃度に調製し、総線量60KレントゲンのX線を照射した。
▲3▼ ナタネからのプロトプラスト調製
CMSナタネ(Brassica napus,cv.Westar)の種を無菌条件下で発芽させて、4〜6日目の下胚軸を酵素液の中で細分し、25℃、薄暗い場所にて一晩静置した。酵素液は、0.4Mのショ糖および0.1%のMES(同仁化学研究所株式会社)を含むNN67培地(Nitsch & Nitsch,1967)の無機塩溶液に2%のセルラーゼRSおよび0.01%のペクトリアーゼY−23を加えたものを使用した。酵素処理した後、酵素液をろ過して未消化物を除去し、ろ液を800rpmで10分間遠心分離して上層のプロトプラスト画分を回収した。
▲4▼ ヨードアセトアミド処理
上記▲3▼で回収したプロトプラストをW5溶液中で2×105 個/mlの濃度に懸濁し、これに100mMのヨードアセトアミド液を最終濃度が10mMになるように加えた。これを室温で10分間静置した後、800rpmで5分間遠心分離してプロトプラストを集め、W5液で3回洗浄した。
▲5▼ 細胞融合
X線照射した小瀬菜ダイコンのプロトプラストとヨードアセトアミド処理したナタネのプロトプラストとを、2:1の割合で最終濃度が2×106 個/mlの濃度となるように混合し、6cmシャーレ上に100μlのドロップとして3、4個滴下した。ドロップ内の細胞が沈むまで5分間程度静置した後、40%PEGを含むW5液100μlをそれぞれのドロップに静かに加え、さらに5分間静置した。その後40%PEG液を吸い取り、13%PEGおよび6.7%PEGを含むW5液で同様に処理した。
▲6▼ 融合細胞の培養
PEG液を完全に吸い取った後、0.4Mのグルコース、1mg/lの2,4−D、0.1mg/lのNAAおよび0.4mg/lのBAPを含むKM液体培地をシャーレごとに3ml加え、25±1℃、弱光下で培養を行った。1週間後に0.4Mのグルコースの代わりに0.1Mのショ糖を含む上記KM培地を等量加え、さらに2〜3週間培養を続けたところ、数多くのコロニーが形成された。
【0016】
このコロニーを、1mg/lの2,4−D、0.25mg/lのBAP、3%のソルビトール、2%のショ糖、1g/lのCHおよび0.5%の寒天を含むMS培地に移植して、増殖させた。増殖されたカルスを0.02mg/lのNAA、2mg/lのBAP、3%のソルビトール、0.5%のショ糖、0.1g/lのCHおよび0.6%の寒天を含むMS培地に移植して、不定芽の形成を誘導した。
【0017】
再分化してきた不定芽をさらに0.1mg/lのNAA、0.01mg/lのBAP、3%のショ糖および0.2%のゲルライトを含むMS培地に移植して発根を促したところ、健全な幼植物体が得られた。
葉と根共に発達した幼植物体は、1000倍希釈のハイポネックスを添加したバーミキュライトに移植して、培養瓶の蓋の代わりに通気性のよいミリラップを用いることによって、容易に体細胞雑種植物を馴化することができた。得られた雑種植物は、高い稔性を示し、ナタネの染色体数(2n=38)を有していた。
【0018】
これらの個体を自殖させたところ、植物学的ならびに細胞学的に安定し、かつダイコンのRf遺伝子をホモで持ったナタネを得ることができた。さらにこれをCMSナタネに交配したところ、通常のナタネ品種を花粉親として交配したときと変わらず、十分量のF1 種子が得られ、かつその種子からの植物体は雌性不稔が見られず、高いヘテローシスを示した。
Claims (6)
- 細胞質雄性不稔性を有するブラシカ属(Brassica)植物のプロトプラストおよび細胞質雄性不稔性に対応する稔性回復遺伝子を有するラファナス属(Raphanus)植物のプロトプラストを非対称融合させ、次いで得られた融合細胞を培養してコロニーを形成させ、該コロニーから植物体を再生させ、稔性を確認することを特徴とする稔性回復遺伝子が導入されたブラシカ植物の製造方法。
- ラファナス属(Raphanus)植物のプロトプラストが放射線処理したものであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
- ラファナス属(Raphanus)植物のプロトプラストが放射線処理したものであり、該放射線処理が総線量60KR以下の放射線を照射することであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
- ブラシカ属植物が、ナタネ(Brassica napus)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
- ブラシカ属(Brassica)植物のプロトプラストがヨード化合物処理したものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
- ラファナス属植物が、ダイコン(Raphanus sativus)であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
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