以下、本発明の一実施形態である粒子線治療システムを図面を参照しつつ説明する。
本実施形態の粒子線治療システムである陽子線治療システムは、図1に示すように、荷電粒子ビーム発生装置1と、4つの治療室2A,2B,2C及び3と、荷電粒子ビーム発生装置1の下流側に接続された第1ビーム輸送系4及びこの第1ビーム輸送系4から分岐するようにそれぞれ設けられた第2ビーム輸送系5A,5B,5C,5Dを有するビーム輸送系と、切替え電磁石(経路切替え装置)6A,6B,6Cと、各治療室別のシャッタ(第1シャッタ)7A,7B,7C,7Dと、全治療室共通のシャッタ(第2シャッタ)8とを有している。第1ビーム輸送系4は、第2ビーム輸送系5A,5B,5C,5Dのそれぞれにイオンビームを導く共通のビーム輸送系である。
荷電粒子ビーム発生装置1は、イオン源(図示せず)、前段荷電粒子ビーム発生装置(ライナック)11及びシンクロトロン12を有する。イオン源で発生したイオン(例えば、陽子イオン(または炭素イオン))は前段荷電粒子ビーム発生装置(例えば直線荷電粒子ビーム発生装置)11で加速される。前段荷電粒子ビーム発生装置11から出射されたイオンビーム(陽子ビーム)は四極電磁石9及び偏向電磁石10を介しシンクロトロン12に入射される。荷電粒子ビーム(粒子線)であるそのイオンビームは、シンクロトロン12で、高周波加速空胴(図示せず)から印加される高周波電力によってエネルギーを与えられて加速される。シンクロトロン12内を周回するイオンビームのエネルギーが設定されたエネルギー(例えば100〜200MeV)までに高められた後、出射用の高周波印加装置(図示せず)から高周波がイオンビームに印加される。安定限界内で周回しているイオンビームは、この高周波の印加によって安定限界外に移行し、出射用デフレクタ(図示せず)を通ってシンクロトロン12から出射される。イオンビームの出射の際には、シンクロトロン12に設けられた四極電磁石13及び偏向電磁石14等の電磁石に導かれる電流が電流設定値に保持され、安定限界もほぼ一定に保持されている。高周波印加装置への高周波電力の印加を停止することによって、シンクロトロン12からのイオンビームの出射が停止される。
シンクロトロン12から出射されたイオンビームは、第1ビーム輸送系4より下流側へ輸送される。第1ビーム輸送系4は、ビーム経路61、及びビーム経路61にビーム進行方向上流側より配置された四極電磁石18、シャッタ8、偏向電磁石17、四極電磁石18、切替え電磁石6A、四極電磁石19、切替え電磁石6B、四極電磁石20、切替え電磁石6Cを備えている。第1ビーム輸送系4に導入されたイオンビームは、これらの電磁石及び切替え電磁石6A,6B,6Cの励磁、非励磁の切り替えによる偏向作用の有無によって(詳細は後述)、第2ビーム輸送系5A,5B,5C,5Dのいずれかに選択的に導入される。各切替え電磁石は、偏向電磁石の一種である。
第2ビーム輸送系5Aは、ビーム経路62に接続されて治療室2A内に配置された照射装置15Aに連絡されるビーム経路62、及びビーム経路62にビーム進行方向上流側より配置された偏向電磁石21A、四極電磁石22A、シャッタ7A、偏向電磁石23A、四極電磁石24A、偏向電磁石25A、偏向電磁石26Aを備える。切替え電磁石6Aはビーム経路62に配置されているとも言える。第2ビーム輸送系5Bは、ビーム経路62に接続されて治療室2B内に配置された照射装置15Bに連絡されるビーム経路63、及びビーム経路63にビーム進行方向上流側より配置された偏向電磁石21B、四極電磁石22B、シャッタ7B、偏向電磁石23B、四極電磁石24B、偏向電磁石25B、偏向電磁石26Bを備える。切替え電磁石6Bはビーム経路63に配置されているとも言える。第2ビーム輸送系5Cは、ビーム経路62に接続されて治療室2C内に配置された照射装置15Cに連絡されるビーム経路64、及びビーム経路64にビーム進行方向上流側より配置された偏向電磁石21C、四極電磁石22C、シャッタ7C、偏向電磁石23C、四極電磁石24C、偏向電磁石25C、偏向電磁石26Cを備える。また、第2ビーム輸送系5Dは、ビーム経路61に接続されて治療室3内に設置された固定照射装置16に連絡されるビーム経路65、及びビーム経路65にビーム進行方向上流より配置された四極電磁石27,28、シャッタ7Dを備えている。切替え電磁石6Cはビーム経路64、65に配置されているとも言える。第2ビーム輸送系5Aへ導入されたイオンビームは、該当する電磁石の励磁によりビーム経路62を通って照射装置15Aへと輸送される。第2ビーム輸送系5Bへ導入されたイオンビームは、該当する電磁石の励磁によりビーム経路63を通って照射装置15Bへと輸送される。第2ビーム輸送系5Cへ導入されたイオンビームは、該当する電磁石の励磁によりビーム経路64を通って照射装置15Aへと輸送される。また、第2ビーム輸送系5Dへ導入されたイオンビームは、該当する電磁石の励磁によりビーム経路65を通って照射装置16へと輸送される。
治療室2A〜Cは、内部にそれぞれ設置された回転ガントリー(図示せず)に取り付けられた照射装置15A〜Cをそれぞれ備える。治療室2A〜Cは例えば癌患者用の第1〜第3治療室であり、治療室3は、固定式の照射装置16を備えた眼科治療用の第4治療室である。
図2を用いて、治療室2A内の構成及び機器配置を説明する。治療室2B,2Cも治療室2Aと同様な構成及び機器配置を有しているので、説明は省略する。治療室2Aは、1階部分に設けた施療室(区画)31、及びこれより一段低い地下1階部分に設けたガントリー室(区画)32を備えている。また、治療室2Aの外側で治療室2Aに近接して照射制御室33が配置されている。照射制御室33は治療室2B,2Cに対しても同様に配置される。照射制御室33は、施療室31やガントリー室32とは遮断されている。しかしながら、照射制御室33内における患者30Aの様子は、照射制御室33及び施療室31の境界壁に設けられた例えばガラス窓越しにあるいは施療室31内に設けたテレビカメラ(図示セず)で撮影した映像のモニターによる観察で見ることができる。
第2ビーム輸送系5Aの一部である逆U字状のビーム輸送装置及び照射装置15Aは、回転ガントリー(図示せず)の略筒状の回転胴50に設置されている。回転胴50はモータ(図示せず)により回転可能に構成されている。回転胴50内には治療ゲージ(図示せず)が形成される。
照射装置15A〜Cは、回転胴50に取り付けられ前述の逆U字状のビーム輸送装置に接続されるケーシング(図示せず)、及びイオンビームを出射するノズル先端側に設けられるスノート(図示せず)を有している。ケーシング及びスノート内には、図示していないが、例えば偏向電磁石、散乱体装置、リングコリメータ、患者コリメータ、ボーラス等が配置される。
ビーム経路62を経て逆U字状のビーム輸送装置から治療室2A内の照射装置15A内へ導入されたイオンビームは、照射装置15A内でリングコリメータによってその照射野を粗くコリメートされ、患者コリメータによってビーム進行方向と垂直な平面方向に患部形状に合わせて整形される。更に、そのイオンビームは、ボーラスによってその到達深度が治療用ベッド29Aに載っている患者30Aの患部の最大深さに合わせて調整される。治療用ベッド29Aは、照射装置15Aからイオンビームを照射する前に、ベッド駆動装置(図示せず)によって移動され上記治療ゲージ内に挿入されるとともに、照射装置15Aに対する照射にあたっての位置決めが行われる。このようにして照射装置15Aにて粒子線治療に最適な線量分布が形成されたイオンビームは、患者30Aの患部(例えば癌や腫瘍の発生部位)に照射され、患部においてそのエネルギーを放出し、高線量領域を形成する。イオンビームの照射装置15B,15C内での移動状態、及び治療用ベッドの位置決めは、照射装置15Aと同様に行われる。
このとき、回転胴50の回転は、ガントリーコントローラ34によってモータの回転を制御することによってなされる。また、照射装置15A〜C内の偏向電磁石、散乱体装置、リングコリメータ等は照射ノズルコントローラ35によって駆動制御される。またベッド駆動装置はベッドコントローラ36によって駆動制御される。これらコントローラ34,35,36は、いずれも治療装置2A内のガントリー室32に配置された照射制御装置40によって制御される。なお、施療室31側に延設されたケーブルを介しペンダント41が照射制御装置40に接続されており、患者30Aの傍らに立った医者(又はオペレータ)が、ペンダント41の操作により、制御開始信号及び制御停止信号を照射制御装置40を介して該当するコントローラ34〜36に伝える。ペンダント41から回転ガントリーの制御開始信号が出力されると、後述の中央制御装置100が記憶装置110内の治療計画情報のうち患者30Aに関する回転ガントリーの回転角情報を取り込んで照射制御装置40を介して該当するコントローラ34に伝える。コントローラ34はその回転角情報を用いて回転ガントリーを回転させる。
照射制御室33内に配置されたオペレータコンソール37には、第1手動入力装置(準備完了情報出力装置)としての患者用の準備完了スイッチ38、準備完了表示装置としてのディスプレイ39、第2手動入力装置としての照射指示スイッチ42、及び第3手動入力装置である照射取消スイッチ66が設置されている。これらの機能については後述する。照射制御室33は治療室3に対しても別途設けられている。
本実施形態の陽子線治療システムが備えている制御システムを、図3を用いて説明する。その制御システム90は、中央制御装置100、治療計画データベースを格納した記憶装置110、中央インターロック装置(安全装置)120、電磁石電源制御装置130、加速器用電源装置(以下、加速器電源という)140、ビームパス電磁石用電源装置(以下、ビームパス電源という)150、スイッチング電源(以下、スイッチング電源という)160及び経路切替制御装置170を有する。更に、本実施形態の陽子線治療システムは、スイッチ切替盤180、シャッタ駆動装置190A〜D、シャッタ駆動装置200及びシャッタ駆動装置210(図示せず、後述の図13参照)を有している。なお、図3では治療室2A〜Cのうち、図示の煩雑防止のため治療室2Aに係わる構成のみを例示しているが、他の2つの治療室2B,2Cについても同様の構成が設けられている。
イオンビームによる照射治療を受けようとする患者30Aは、治療室2A〜Cのいずれかに入室する。その際、各患者30Aと一対一に対応して予め付与された患者識別情報である識別子(例えばいわゆるIDナンバー)が、例えば照射制御室33のオペレータコンソール37に設けた患者ID入力装置(PC等)43を介しオペレータ(あるいは場合によっては医者でもよい。以下同様)により入力される。なお、例えば患者30Aの身につけるもの(例えば手首にはめるベルト状のもの)に識別子(例えばバーコード情報)を書き込んでおき、治療室内への入室の際に治療室の入口に設けられた図示していない識別子読取装置(例えばバーコード読取装置)によりその識別子を読み込ませても良い。この患者ID装置43は、各治療室2A〜Cごとに設けられていることから、当該患者識別情報と、患者30Aが入室した治療室の治療室情報(例えば治療室番号)とを関連づけて一緒に中央制御装置100のCPU(中央演算装置)101へ出力する。
一方、入室後に所定の検査等を済ませた患者30Aが治療用ベッド29Aに横たわり、回転ガントリーの回転及び治療用ベッド29Aの位置決め等の照射前の準備が完了してイオンビームの照射を待つばかりの状態となったとき、オペレータは、治療室2A退出して最寄りの照射制御室33内へ行き、オペレータコンソール37の準備完了スイッチ(ボタンでも良い)38を押す。なおこの準備完了スイッチ38はオペレータの被曝防止が別の手段で確実に図られるのであれば、治療室2A〜C内にそれぞれ設けても良い。この準備完了スイッチ38を押すことによって発生する患者準備完了信号(照射準備完了信号)は、中央インターロック装置120へと出力される。
中央インターロック装置120は、治療室2A,2B,2Cにそれぞれ対応する3つのAND回路121A,121B,121C、治療室3に対応するAND回路121D(図示せず、AND回路121Aと同じ機能を有する)、さらに2つのAND回路122,123とを備えている。AND回路121A〜Dには、治療室2A〜C、3に対応する各照射制御室33内のそれぞれの準備完了スイッチ38からの患者準備完了信号と、詳細な説明は省略するが各治療室2A〜C、3内のイオンビームの照射に係わる装置、機器がスタンバイ(準備完了)状態になったときに出力される機械準備完了信号とがそれぞれ入力される。装置、機器側の準備が完了した状態で、治療室2A〜C、4の各照射制御室33内の準備完了スイッチ38が押されると、AND回路121A,121B,121C、121DよりON信号が中央制御装置100の先着優先制御装置(First Come First Serve)102に入力される。
先着優先制御装置102が実行する処理手順を、図5により説明する。先着優先制御装置102は、3つの機能を有する。第1は、図5でステップ75、70の処理を行う治療順序決定装置としての機能であり、第2は図5でステップ71の処理を行う治療室情報出力装置としての機能である。最後の第3は図5でステップ72〜74の処理を行うビーム照射キャンセル装置としての機能である。まず、第1の機能について説明する。ステップ75は治療順序決定工程であり、ステップ70は治療室番号(治療室情報)の追加工程である。治療順序決定工程(ステップ75)では、治療室2A(治療室番号No.1)に対応するAND回路121A,治療室2B(治療室番号No.2)に対応するAND回路121B,治療室2C(治療室番号No.3)に対応するAND回路121C,治療室3(治療室番号No.4)に対するAND回路からの各ON信号について、それらのON信号の入力順(照射準備完了信号の発生順、照射準備完了信号の出力順)、すなわち最先に入力したON信号を優先的に早い順番にするように各治療室に対する治療順序が決定される。治療室番号の追加工程(ステップ70)では、決定した治療順序で入力したON信号を出力したAND回路に対応した該当する治療室番号(治療室情報)が先着優先制御装置102のメモリ(図示せず)に記憶されている照射待ち順番の最後尾に追加される。AND回路121A,121B,121C,121Dが設けられているため、オペレータが間違って準備完了スイッチ38を押した場合には、機械準備完了信号が該当するAND回路に入力されないため、ON信号が出力されない。このため、不要なビーム経路を形成する操作(後述の電磁石の励磁等)が防止できる。
次に、第2の機能について説明する。一番最初の治療(例えば、1日の一番最初の治療)では、先着優先制御装置102のメモリ内に記憶された最先順番の治療室番号が出力される(ステップ71)。この最先順番の治療室番号(No.1、No.2、No.3又はNo.4)は、中央制御室100のCPU101(図4参照)に入力される。二番目以降は、コントローラ220(図13参照)から出力された照射満了信号(後述)または中央インタロック装置120(図15参照)のオア回路69の出力であるビーム停止信号(後述)が端子67を介して入力されたとき、上記の最先順番の治療室番号が先着優先制御装置102からCPU101へ出力される。照射満了信号及びビーム停止信号は照射満了信号であり、最先順番の治療室番号は照射満了信号で出力される。最先順番の治療室番号の出力により、上記メモリ内の照射待ちの治療室番号は出力順位が1つ繰り上がる。
最後に、第3の機能について説明する。この機能は、ある治療室に対する準備完了スイッチ38が押された後で照射指示スイッチ42が押されるまでの間に、治療用ベッド29A上の患者30Aの具合が悪くなってイオンビームの患者30Aへの照射を中止するときに働かせる。例えば、No.1の治療室2A内の患者30Aが具合が悪くなった場合には、治療室2Aに対応する制御室33内の照射取消スイッチ66を医者が押す。これにより発生するキャンセル信号が先着優先制御装置102に入力されると、ステップ72で該当する治療室番号が出力済みかを判定する。「NO」であれば、先着優先制御装置102のメモリ内の該当する治療室番号(今回はNo.1)がキャンセルされる(ステップ74)。このとき、キャンセルされた治療室番号よりも後の照射待ちの治療室番号が1つ繰り上がる。ステップ72の判定が「YES」であれば、出力済みの治療室番号をキャンセルするために、荷電粒子ビーム発生装置1へのビーム停止信号を出力する(ステップ73)。このビーム停止信号は、端子68介して中央インタロック装置120のオア回路69(図15参照)より出力され、荷電粒子ビーム発生装置1が強制停止される。第3の機能により、具合が悪くなった治療用ベッド29A上の患者に対するイオンビームの照射を停止できる。
先着優先制御装置102は、内部のメモリ内に治療順に記憶されている複数の治療室番号を、その順序で、各治療室2A〜C、3に対応する各照射制御室33内のオペレータコンソール37に設けられた各ディスプレイ39に出力する。治療順に治療室番号が各ディスプレイ39に表示されるため、各治療室2A〜C、3に対応した照射制御室33内にいる各オペレータは、担当の治療室の現在における治療順を知ることができる。なお、このような表示に限らず、先着優先制御装置102は、待ち人数が何人であるか、治療までの待ち時間がおおよそどの程度になるか等を、各ディスプレイ39に表示しても良い。あるいは、それほど具体的でなく、優先順位が1位でないこと(今すぐ照射可能ではなく少なくとも患者一人分は待たなければならないこと)を表示するのみとしても良い。
先のステップ71で先着優先制御装置102より出力された最先順番の治療室番号(これから照射を行うために選択された治療室の番号)、すなわち選択された治療室の治療室番号は、中央制御装置100のCPU101へ入力される。以下の説明の都合上、その治療室番号を「No.1」とする。すなわち、治療室“Aが選択された治療室である。
CPU101は、この治療室番号と、先に各治療室2A〜Cの患者ID装置43から入力され、治療室情報に関連づけられた患者識別情報とによって、これからイオンビームの照射治療を行う患者及び治療のためにイオンビームを導く治療室を認識する。そして、記憶装置110の治療計画データベースにアクセスする。このデータベースには、予め医者が作成した、照射治療を受けようとする全患者についての治療計画データが格納蓄積されている。
記憶装置110に記憶されている各患者毎の上記治療計画データ(患者データ)の一例を、図6を用いて説明する。この治療計画データは、患者IDナンバー、照射線量(一回当たり)、照射エネルギ、照射方向(図示せず)、照射位置(図示せず)等のデータを含んでいる。なお、前述したように、患者識別情報と治療室情報とが関連づけられるため、この治療計画データ自体に、治療室情報を必ずしも含める必要はない。しかし、治療行為の便宜等を考えて、治療計画データに含めてもよいことはいうまでもない。
CPU101は、入力した患者識別情報を用いて、これから照射治療を行う患者に関する上記の治療計画データを記憶装置110から読み込む。この患者別治療計画データのうち、重要なのは照射エネルギの値である。これによって、既に述べた各電磁石への励磁電力供給の制御パターンが決まる。
中央制御装置100内に設けたメモリ103に予め記憶されている電力供給制御テーブルを、図7を用いて説明する。これに示すように、照射エネルギの各種の値(この例では70,80,90,…[Mev])に応じて、シンクロトロン12を含む荷電粒子ビーム発生装置1における四極電磁石9,13及び偏向電磁石10,14、第1ビーム輸送系4の四極電磁石18,19,20及び偏向電磁石17、治療室2Aに係わる第2ビーム輸送系5Aの四極電磁石22A,24A、治療室2Bに係わる第2ビーム輸送系5Bの四極電磁石22B,24B、治療室2Cに係わる第2ビーム輸送系5Cの四極電磁石22C,24C、治療室3に係わる第2ビーム輸送系5Dの四極電磁石28に対する供給励磁電力値(図中では「…」で図示省略しているが、実際は具体的な数値である)又はそのパターン、及びスイッチング電源162−1、162−2、162−3、162−4(後述)における起電力値(図中では「…」で図示省略しているが、実際は具体的な数値である)が予め設定されている。
本実施形態は、図7に示した患者別治療計画データを用いて各種電磁石及び電源の制御を行い、これによってビーム経路を切替え制御する。ここで、本実施形態の大きな特徴のひとつは、4つの治療室2A,2B,2C,3にそれぞれイオンビームを導く4つのビーム経路62,63,64,65のいずれかに、ビーム経路61からイオンビームを導くようにビーム経路を切替える場合に、当該ビーム経路の切替え設定のために直接関係のない電磁石については、特に積極的な制御をせず、その状態を問題にしないことにある。このことを、図8を用いて説明する。
図8に示す電力供給の制御テーブルは、中央制御装置100内に設けたメモリ103に予め格納記憶されている。その制御テーブルは、図7に示す電力供給制御テーブルとは別の電力供給の制御テーブルを表す図である。図8に示すように、治療室番号(No.1〜No.4)に応じて、シンクロトロン12を含む荷電粒子ビーム発生装置1における四極電磁石9,13及び偏向電磁石10,14、第1ビーム輸送系4の四極電磁石18,19,20及び偏向電磁石17、治療室2Aに係わる第2ビーム輸送系5Aの四極電磁石22A,24A、第2治療室2Bに係わる第2ビーム輸送系5Bの四極電磁石22B,24B、治療室2Cに係わる第2ビーム輸送系5Cの四極電磁石22C,24C、治療室3に係わる第2ビーム輸送系5Dの四極電磁石28に対して制御する(図中「ON」で表す)。図中の[No Care]の部分は、該当する機器(例えば、四極電磁石22B)の制御データを含んでいないことを意味する。これは、以下でも同じである。例えば、治療室2Aへ第2ビーム輸送系5Aを介しイオンビームを輸送しようとするときは、荷電粒子ビーム発生装置1における四極電磁石9,13及び偏向電磁石10,14、第1ビーム輸送系4の四極電磁石18及び偏向電磁石17、第2ビーム輸送系5Aの四極電磁石22A,24Aについては、治療室2Aにイオンビームを導くビーム経路上に位置するため、ON制御しなければならない。しかしながら、そのビーム経路以外の部分に位置する他の電磁石については、ONであろうとOFFであろうと本質的にはビーム経路の切替え制御には影響がない。なお、[No Care]の部分に情報を付加する場合には、対象機器に対する制御が実行されない、情報と無関係な情報を付加する。
同様に、第2治療室2Bへ第2ビーム輸送系5Bを介しイオンビームを輸送しようとするときは、第1ビーム輸送系4の四極電磁石20,27、治療室2Aへの第2ビーム輸送系5Aの四極電磁石22A,24A、治療室2Cへの第2ビーム輸送系5Cの四極電磁石22C,24C、治療室3への第2ビーム輸送系5Aの四極電磁石28は制御を行わない。また、治療室2Cへ第2ビーム輸送系5Cを介しイオンビームを輸送しようとするときは、電磁石22A,24A,22B,24B,27,28については制御を行わない。また治療室3へ第2ビーム輸送系5Dを介しイオンビームを輸送しようとするときは、電磁石22A,24A,22B,24B,22C,24Cについては制御を行わない。
CPU101は、制御情報作成装置として、図6に示した治療計画データと図7及び図8に示した電力供給制御テーブルとを用いて、これから照射を受けようとする患者について、荷電粒子ビーム発生装置1や各ビーム経路に配置された電磁石を制御するための制御指令データ(制御指令情報)を作成する。
以上のようにしてCPU101が作成した制御指令データの一例を、図9を用いて説明する。この例では、患者は、治療室2A(治療室番号No.1)において70MeVのエネルギにて照射を受ける。図6に示した患者データの後に、図7に示す「70MeV」の欄の数値及びパターンのうち図8で「ON」で示される部分を抽出したデータを合成して作成したものである(すべての電磁石について制御データ用の通信上のアドレスは付与されている)。図9に示すように、後述するビーム経路切替え制御のために、少なくともこの段階では治療室番号は必ず含まれていなければならない。その意味ではこの制御指令データは必ずいずれかの治療室2A〜C,3の番号(No.1〜No.4)と対応しており(治療室別制御指令データ)CPU101は、治療室別制御情報作成装置としても機能する。
CPU101は、このようにして作成した制御指令データを、電磁石電源制御装置130と、中央制御装置100内に別途設けた判定器(情報確認装置)104へ出力する。
電磁石電源制御装置130は、演算機能を備えたCPU(中央演算装置)131と、信号送受信対象である加速器電源140、ビームパス電源150、スイッチング電源160の定電流コントローラ、及び判定器の総数と同じ個数だけ入出力部を設けた入出力変換制御装置(例えばいわゆるA/D、A/I、D/O、D/I等)とを備えている。入出力変換制御装置としては、加速器電源140との信号授受を行う入出力変換制御装置132、ビームパス電源150との信号授受を行う入出力変換制御装置133、スイッチング電源160との信号授受を行う入出力変換制御装置134を備えている。
電磁石電源制御装置130のCPU131は、中央制御装置100のCPU101から入力した制御指令データを、加速器電源140、ビームパス電源150、スイッチング電源160の制御にそれぞれ必要な成分(エレメントの制御情報)に再分解し、対応する入出力変換制御装置132,133,134に分配する。
すなわち、CPU131は、加速器電源140に対応する入出力変換制御装置132に、図9に一例を示した制御指令データのうち荷電粒子ビーム発生装置1の四極電磁石9,13、偏向電磁石10,14に対するそれぞれの電力供給制御データ(エレメントの制御情報)を分配する。
CPU131は、一般的には、ビームパス電源150に対応する入出力変換制御装置133に、図9に一例を示した制御指令データのうち荷電粒子ビーム発生装置1以外の部分、すなわち第1ビーム輸送系4の四極電磁石18,19,20及び偏向電磁石17、第1治療室2Aに係わる第2ビーム輸送系5Aの四極電磁石22A,24A、第2治療室2Bに係わる第2ビーム輸送系5Bの四極電磁石22B,24B、第3治療室2Cに係わる第2ビーム輸送系5Cの四極電磁石22C,24C、第4治療室3に係わる第2ビーム輸送系5Dの四極電磁石28に対するそれぞれの電力供給制御データ(エレメントの制御情報)を分配する。これらの電力供給制御データの分配は、制御指令データに含まれた治療室情報、すなわち治療室番号の情報によって異なる。例えば、制御指令データに含まれた治療室番号が前述したように、「No.1」である場合には、CPU131は、その治療室番号で指定された治療室(選択された治療室)にシンクロトロン12からイオンビームを導くビーム経路に配置された四極電磁石18,22A,24A及び偏向電磁石17に係る各電力供給制御データを入出力変換制御装置133に分配する。制御指令データが他の治療室番号の情報を含んでいる場合でも、CPU131は同様に該当する電磁石に係る各電力供給制御データを分配する。
CPU131は、スイッチング電源160に対応する入出力変換制御装置134に、図9に一例を示した制御指令データのうち治療室番号データ(図9の例ではNo.1)を分配する。
加速器電源140は、定電流コントローラ141、電源142、電流計143を1ユニットとして、これらユニットを多数個(例えば、電流出力対象、言い換えれば制御対象である四極電磁石9,13及び偏向電磁石10,14の数と同数だけ)備えている。定電流コントローラ141は、所望値の定電流制御機能を備えた制御装置(いわゆるACR)141aと、判定器141b(エレメント情報確認装置)とを有する。
入出力変換制御装置132からの四極電磁石9,13及び偏向電磁石10,14に係わる各電力供給制御データ(電流値指令信号を含む)は、それぞれの電磁石に対応して設けられた定電流コントローラ141のACR141aに入力される。ACR141aは、その制御データに基づき該当する電源142に電流値指令信号を出力し、この指令信号により電源142をONすると共に、その電源142を制御する。これにより、その電源142から該当する電磁石である偏向電磁石10に供給される電流の大きさが制御される。電源142が出力する電流の電流値は電流計143にて検出され、その検出された実電流値IactがACR141a及び判定器141bに入力される。ACR141aは、電流計143の出力である電流値Iactをもとにフィードバック制御を行う。このフィードバック制御により、電力供給制御データのデータにほぼ等しい値の電流(ビームの加速・出射態様に応じ時間的に変化する公知の態様の電流値)が制御対象である偏向電磁石14に対し供給される。判定器141bにはACR141aからの電流指令信号が入力されている。判定器141bは、その電流指令値(エレメントの制御情報)Irefと実電流値(エレメントの状態情報)actとを比較し、実電流値actが許容範囲を含めて電流指令値Irefになっているかを判定する。換言すれば、この実電流値と電流指令値との判定は、実電流値が電流指令値になっていることを確認することである。また、他の定電流コントローラ141も同様に機能して電流指令値refになっている電流を四極電磁石9,13、偏向電磁石に供給する。これにより、各電磁石が電流指令値Irefの定電流で励磁されるため、照射を受けようとする患者の治療態様に応じたビーム加速がシンクロトロン12で行える状態となる。
このとき、ACR141aは、後述するこのシステム全体の動作確認のために電流計143からの実電流値(エレメントの状態情報)を表す信号を入出力変換制御装置132へ出力する。判定器141bは、上記判定で得られた判定結果(判定情報又は確認情報という)、すなわち「OK(又はNG)」を、電磁石電源制御装置130CPU131に出力する(詳細は後述)。判定器141bは、上記の判定結果が異常の発生を示している場合には、対応する電源142及びACR141aの異常の有無を診断し、この診断結果(診断対象に対する「OK(又はNG)」)も中央インタロック装置120に出力する。他の判定器141bも同様に機能して判定結果、診断結果を中央インタロック装置120に出力する。
ビームパス電源150は、加速器電源140と同様、定電流コントローラ151、電源152、電流計153を1ユニットとして、これらユニットを多数個(例えば、電流出力対象、言い換えれば制御対象である四極電磁石18,19,20,22A〜C,24A〜C,27,28及び偏向電磁石17の数と同数だけ)備えている。定電流コントローラ151は、所望値の定電流制御機能を備えた制御装置(ACR)151a及び判定器151b(エレメント情報確認装置)を有する。
入出力変換制御装置133からの各電磁石に対応した電力供給制御データは、それぞれの電磁石(例えば、選択された治療室2Aに導かれるイオンビームが通るビーム経路に配置された上記の各電磁石)に対応して設けられた定電流コントローラ151のACR151aに入力される。ある定電流コントローラ151のACR151aは、その制御データに基づき、加速器電源140の定電流コントローラ141と同様、該当する電源152をONすると共に、電流計153で検出された実電流値をフィードバックして電源152を制御する。これにより、電源152から出力される電流が電流指令値Irefに調整され、選択された治療室2Aにイオンビームが導かれるときに通過する四極電磁石18,22A,24A及び偏向電磁石17に電流指令値Irefの定電流が各電源152から供給される。それらの電磁石が励磁される。また、ACR151aは、実電流値actの情報を入出力変換制御装置133に出力する。
定電流コントローラ151の判定器151bは、判定器141bと同様に、電流計153で検出した実電流値actを電流指令値Irefと比較して、判定する(実電流値actが電流指令値Irefであるかの確認)。判定器151bはその判定結果(判定情報又は確認情報という)すなわち「OK(又はNG)」及び診断結果(診断対象に対する「OK(又はNG)」)を中央インタロック装置120に出力する。他の定電流コントローラ151のACR151a及び判定器151bも上記と同様な機能を発揮する。
スイッチング電源160は、加速器電源140と同様に、定電流コントローラ161、電源162及び電流計163を1ユニットとして、電源162が4つあるためこれらユニットを複数個(例えば、この例では4つ)備えている。定電流コントローラ161は、所望値の定電流制御機能を備えた制御装置(ACR)161a及び判定器161bを有する。
入出力変換制御装置134からの各スイッチング電源162(図10に示すスイッチング電源162−1、162−2、162−3、162−4)に対応した電力供給制御データは、それぞれのスイッチング電源162に対応して設けられた各定電流コントローラ161のACR161aに入力される。ある定電流コントローラ161のACR161aは、その制御データに基づき、該当する電源162をONすると共に、電流計163からの実電流値をフィードバックしてスイッチング電源162を制御する。これにより、スイッチング電源162から電流指令値Irefの定電流が電流供給対象である、スイッチ切替盤180に設けられた該当の切替えスイッチ群(図10参照)に供給される。切替えスイッチ群の制御により対応する電磁石への電流供給は後述する。ACR151aは、電流計163からの実電流値actの情報を入出力変換制御装置134に出力する。
定電流コントローラ161の判定器161bは、判定器141bと同様に、電流計163で検出の実電流値actを電流指令値Irefとを判定する(実電流値actが電流指令値Irefであるかの確認)。判定器161bはその判定結果(判定情報又は確認情報という)、すなわち「OK(又はNG)」及び診断結果(診断対象に対する「OK(又はNG)」)を中央インタロック装置120に出力する。他の定電流コントローラ161のACR161a及び判定器161bも上記と同様な機能を発揮する。
電磁石電源制御装置130のCPU131は、治療室番号データ(図9の例ではNo.1)を経路切替制御装置170にも出力する。経路切替制御装置170は、スイッチングコントローラ171、メモリ172、判定器173を備えている。スイッチングコントローラ171は、CPU131からの治療室番号データに基づき、スイッチ切替盤180に備えられた各スイッチの切替制御を行う。
スイッチ切替盤180の詳細構成を、図10により説明する。スイッチ切替盤180は、4つのスイッチ群を有する。第1スイッチ群はスイッチSW1,SW2を有し、第2スイッチ群はスイッチSW3,SW4を有し、第3スイッチ群はスイッチSW5,SW6を有し、第4スイッチ群はスイッチSW7,SW8を有する。これらのスイッチ群の各スイッチを切替えることにより、第2ビーム輸送系5A,5B,5Cの偏向電磁石6A〜6C,21A〜21C,23A〜23C,25A〜25C,26A〜26Cに対する選択的な制御を行う。それぞれのスイッチは、排他的な切替え機能を備えた排他的選択装置である機械的スイッチ装置(例えばいわゆる双頭式の機械的スイッチを含む)を備えている。
第1スイッチ群においては、スイッチング電源160の1つのスイッチング電源162−1にスイッチSW1の入力側端子が接続され、スイッチSW1の出力側端子1にスイッチSw2の入力側端子が接続されている。電気的に直列に配置された切替え電磁石(偏向電磁石)6A及び偏向電磁石21AがスイッチSW2の出力側端子1に接続される。電気的に直列に配置された切替え電磁石(偏向電磁石)6B及び偏向電磁石21BがスイッチSW2の他の出力側端子2に接続される。電気的に直列に配置された切替え電磁石(偏向電磁石)6C及び偏向電磁石21CがスイッチSW1の他の出力側端子2に接続される。後述する経路切替制御装置170によるスイッチの切替え操作により、スイッチング電源162−1から、選択された治療室2A内に照射装置15Aに達するビーム経路62にビーム経路61からイオンビームを曲げる切替え電磁石6Aに電流が供給される。切替え電磁石6Aが励磁される。このとき、スイッチSW1は出力側端子1に、スイッチSW2は出力側端子1に接続されている。
第2スイッチ群のスイッチSW3、SW4も、上記した第1スイッチ群と同様に、各スイッチの相互の端子が接続され、スイッチング電源162−2がスイッチSW1の入力側端子に接続されている。偏向電磁石23AがスイッチSW2の出力側端子1に、偏向電磁石23BがスイッチSW2の他の出力側端子2に、偏向電磁石23CがスイッチSW1の他の出力側端子2に接続される。
第3スイッチ群のスイッチSW5、SW6も、上記した第1スイッチ群と同様に、各スイッチの相互の端子が接続され、スイッチング電源162−3がスイッチSW1の入力側端子に接続されている。偏向電磁石25AがスイッチSW2の出力側端子1に、偏向電磁石25BがスイッチSW2の他の出力側端子2に、偏向電磁石25CがスイッチSW1の他の出力側端子2に接続される。
第4スイッチ群のスイッチSW7、SW8も、上記した第1スイッチ群と同様に、各スイッチの相互の端子が接続され、スイッチング電源162−4がスイッチSW1の入力側端子に接続されている。偏向電磁石26AがスイッチSW2の出力側端子1に、偏向電磁石26BがスイッチSW2の他の出力側端子2に、偏向電磁石26CがスイッチSW1の他の出力側端子2に接続される。
選択された治療室2Aにイオンビームを導くために、各スイッチ群の操作により、ビーム経路62に配置された偏向電磁石23A,25A,26Aにそれぞれ電流が供給され、それらが励磁される。
以上のようなスイッチ切替盤180の構成は、第1スイッチ群に対応する第1電磁石群、第2スイッチ群に対応する第2電磁石群、第3スイッチ群に対応する第3電磁石群及び第4スイッチ群に対応する第4電磁石群を有し、これらの電磁石群がビーム経路62、63、64においてイオンビームの進行方向に順次配置されている。更に、各電磁石群においては、各電磁石群に含まれる各電磁石がビーム経路62、63、64にそれぞれ1つずつ配置される。1つの電磁石群に含まれる各電磁石には、共通の電源に接続され、排他的なスイッチの切替えにより、電流が供給できるようになっている。各電磁石群においては、1つの電磁石のみに電源より電力が供給され、残りの電磁石にはその電源から電力が供給されない構造となっている。
換言すれば、第1、第2、第3及び第4スイッチ群において、治療室2A,2B、2Cにそれぞれイオンビームを導くビーム経路62,63,64のそれぞれに沿った、異なる3つの電磁石群Aが構成されているとも言える。このため、各スイッチ群内の各スイッチの操作により、4つのスイッチ電源162−1、162−2、162−3、162−4から選択された治療室(例えば治療室2A)に延びているビーム経路(ビーム経路62)に沿って配置されている1つの電磁石群に含まれる5つの電磁石が励磁される。
スイッチ切替盤180の各スイッチの切替え操作は、経路切替制御装置170の制御によって行われる。経路切替制御装置170は、スイッチングコントローラ171、メモリ172、判定器173を有する。メモリ172は、スイッチSW1〜SW8に対する図11に示す基準切替えパターンの情報を記憶している。スイッチングコントローラ171は、基準切替えパターンの情報に基づいて、スイッチSW1〜SW8のうち該当する各スイッチに対して位置1又は位置2となる切り替え制御信号を出力し、該当するスイッチの切替え操作を行う。スイッチの基準切替えパターンは、接続する出力側端子の位置1(図11中の「1」)または位置2(図11中の「2」)を含んでいる。図11に示された「No Care」は前述したように制御情報を含んでいない。
スイッチングコントローラ171は、電磁石電源制御装置130のCPU131からの治療室番号データ(No.1)を入力すると、メモリ172を参照して対応するスイッチ切替パターンを読み込む(治療室番号No.1のスイッチ番号1〜8に対する切替えパターン)。スイッチングコントローラ171は、読み込んだ基準切替えパターンの情報に基づいて、該当する各スイッチの切替え操作を行う。治療室No.1(選択された治療室2A)に対する基準切替えパターンは、スイッチ番号1〜8が全て「1」であるため、スイッチSW1〜SW8の全てが出力側端子1に接続される。これにより、スイッチ電源162−1、162−2、162−3、162−4からビーム経路62に沿って配置された切替え電磁石6A,偏向電磁石21A,23A,25A,26Aにそれぞれ電流が供給される。これらの電磁石への電流の供給は、前述したスイッチング電源160及び経路切替制御装置170の協調によって実現される。
スイッチ切替盤の他の実施例を図17によって説明する。本実施形態のスイッチ切替盤は、4つのスイッチを用いている。スイッチSW1,SW2の出力側端子1及び2には、スイッチ切替盤180と同じ電磁石が接続されている。スイッチSW4の出力側端子1には、偏向電磁石23A,25A,26Aが直列に接続される。スイッチSW4の出力側端子2には、偏向電磁石23B、25B,26Bが直列に接続される。スイッチSW3の力側端子2には、偏向電磁石23C,25C,26Cが直列に接続される。本実施形態における基準切替えパターンは図11のスイッチ番号1〜4に対応するパターンとなる。本実施形態のスイッチ切替盤は、スイッチ切替盤180に比べてスイッチの数が少なくまた必要な電源の数も少なくなる。このため、陽子線治療システムの構成を単純化できる。
CPU101から出力された制御指令データによる制御は、加速器電源140、ビームパス電源150、スイッチング電源160及び経路切替制御装置170によって上記したように行われる。これらによる制御により、選択された治療室、具体的には選択された治療室2Aにイオンビームを導くために必要な、荷電粒子ビーム発生装置1内の全電磁石、及びビーム経路61とビーム経路62との接合部の上流及び下流に配置された全電磁石の励磁が完了する。
なお、スイッチ切替盤180の各スイッチSW1〜SW8の各出力側端子にはスイッチの切替え状態を検出する検出器(例えば公知のリミットスイッチ等)がそれぞれ設けられている。すなわち、スイッチSW1の出力側端子1にはリミットスイッチL11,他方の出力側端子2にはリミットスイッチL12が設けられている。同様に、リミットスイッチL21,L22,L31,L32,L41,L42,L51,L52,L61,L62,L71,L72,L81,L82が、図10に示すように、各スイッチの出力側端子に設けられている。
判定器173は、それらのリミットスイッチからの出力信号を入力し、これらの出力信号に基づいて得られる実際の切替えパターンが図11に示す基準切替えパターンになっているかを判定する。この判定は実際の切替パターンが基準パターンになっていることを確認することでもある。実際の切替パターンが基準切替パターンになっている時には「OK」を、基準パターンになっていないときには「NG」を、電磁石電源制御装置130のCPU131に出力する(詳細は後述)。また、判定器173は、各スイッチSW1〜SW8の検出信号に基づき、独自にメモリ172にアクセスして基準切替パターン情報を参照して、実際のスイッチSW1〜SW8の切り替え状況が何番の治療室2A〜C,3に相当するかを判定し、その結果を表す信号(実治療室情報)を電磁石電源制御装置130のCPU131へ出力する。
電磁石電源制御装置130のCPU131は、加速器電源140の各定電流コントローラ141のACR141aより入出力変換制御装置132へ入力された実電流値、ビームパス電源150の定電流コントローラ151のACR151Aaより入出力変換制御装置133へ入力された実電流値、及びスイッチング電源160の定電流コントローラ161のACR161aより入出力変換制御装置134へ入力された実電流値を、対応する各電磁石の実状態データ(エレメントの状態情報)としてまとめて中央制御装置100の判定器104(情報確認装置)へ出力する。経路切替制御装置170の判定器173より出力された判定結果(判定情報、確認情報)は、CPU131を介して判定器104に出力される。
判定器104は、このようにして入力した加速器電源140、ビームパス電源150、及びスイッチング電源160の前述した各ユニット単位における電磁石の実状態を示す実状態データ(実電流値)、及び経路切替制御装置170からの該当する電磁石の実状態データ(例えば、該当する電磁石にスイッチング電源162−1等のスイッチング電源162から供給される電流の電流値(実電流値))を入力する。その一方で、前述したようにこの判定器104には、CPU101で作成した制御指令データ(治療室番号データを含む)が入力されている。そして、判定器104は、その制御指令データと上記電磁石実状態データとを比較するとともに、制御指令データに含まれる治療室番号データを上記実治療室情報とを比較する。
ここで、本実施形態の別の特徴のひとつは、判定器104における上記確認の方法にある。その内容を図12を用いて説明する。
図12は、判定器104における確認の様子を説明するためのデータ比較説明図である。図12の上半分に示したデータは、先に図9に示した制御指令データの一例を再掲したものであり、下半分に示したデータはこれに対応する上記電磁石実状態データを示したものである。
この図12において、CPU101で作成した制御指令データは、前述したように、すべての電磁石について制御データ用のアドレスは付与されているが、照射対象である治療室番号に対応したビーム経路に直接関与しない電磁石については特に積極的な制御を行わない(制御データ用の通信用のアドレスは付与されているが、データの数値は不定である)。
一方、電磁石実状態データは、該当する電磁石の制御が行われたか否かに関係なく、常時、すべての電磁石に関する実状態データ(電流計の電流値)が数値データとして含まれている(図中、a,b,c,d,e,…等で示す)。
本実施形態では、このようなデータ生成における実背景を考慮し、システム全体の動作確認のために制御指令データと実状態データとを比較するにあたり、上記積極的な制御を行わない部分については、比較対象から除外する。すなわち、全電磁石実状態データから、実際に制御が行われた各電磁石(選択された治療室2Aに対して言えば、荷電粒子ビーム発生装置1に含まれた全電磁石、及びビーム経路61とビーム経路62との接合部の上流及び下流のそれぞれのビーム経路に配置された全電磁石)の電磁石実状態データを抽出する。これは、判定器104が、全電磁石実状態データから、制御指令データに制御情報が含まれている各電磁石(図12に示すCPU101で作成した機械指令データのA部及びB部に示す全電磁石)に対応する電磁石実状態データを選択することにより行われる。その機械指令データは制御指令データである。この結果、図12に示す全電磁石実データのうち、図12に示すA部及びB部に示す各電磁石実データが選択される。判定器104は、選択された各実電磁石状態データとCPU101で作成した制御指令データ、すなわち図12に示す制御指令データのA部及びB部の各制御データとを比較し、前者の各実電磁石データが後者の各制御データであるかを確認し、これによって、システム全体においてCPU101が指定した制御の状態を確認できる。判定器104は、選択された全実電磁石状態データが正常であることが確認したとき、システム全体の動作許諾信号を前述した中央インターロック装置120のAND回路122へ出力する(図4参照)。
本実施例における判定器104は、最終的に、照射治療を行うべく選択された治療室に係わる実電磁石データのみ抽出し選択された治療室に対応した制御指令データと比較する。これにより、例えば複数の治療室のうちいずれか1つに不具合が生じ、その治療室に係わる各電磁石実状態データに通常の値ではないデータが含まれていたとしても、その治療室を実際に治療に使用せず選択しないようにすれば、抽出判定手段はそのような通常の値でない検出信号に惑わされることなく、指令値と実際値との比較という本来の役割を確実に果たすことができる。この結果、1つの治療室に不具合が生じても、正常な残りの治療室を用いて引き続き治療行為が可能となるため、治療能力の低下を防止又は最小限にとどめることができ、円滑に治療を継続することができる。言い換えれば、トラブル発生に対し能力低下の少ない、強いシステムを実現することができる。
一方、本実施形態のさらに別の特徴のひとつは、前述したシャッタ7A,7B,7C,7D,8の開閉制御にある。その内容を以下詳細に説明する。
上記シャッタ7A,7B,7C,7D,8の開閉制御は、前述した中央インターロック装置120によって行われる。図13は、この中央インターロック装置120の上記シャッタの開閉制御に係わる機能を表すブロック図である。
図13において、中央インターロック装置120は、先に述べたAND回路121A〜C,122,123とは別に、5つのAND回路124A,124B,124C,124D,124Eと、これらにそれぞれ対応して接続されたNOT回路125A,125B,125C,125D,125Eと、5つのAND回路124A〜IEのうち4つのAND回路124A〜Dにそれぞれ対応して接続された4つの信号出力器126A,126B,126C,126Dを備えている。
AND回路124Aは、第2ビーム輸送系5Aに設けたシャッタ7Aを開閉駆動するシャッタ駆動装置190Aへ駆動制御信号を出力(信号が「1」のONでシャッタ開き駆動)するものであり、NOT回路125A、信号出力器126Aが接続されいる。言い換えれば、AND回路124A、NOT回路125A、及び信号出力器126Aが治療室2Aに対応づけられる1つのグループとなっている。同様にして、AND回路124B、NOT回路125B、及び信号出力器126Bが治療室2Bに対応づけられて第2ビーム輸送系5Bのシャッタ7Bを開閉駆動するシャッタ駆動装置190Bへ駆動制御信号を出力する。AND回路124C、NOT回路125C、及び信号出力器126Cは治療室2Cに対応づけられて第2ビーム輸送系5Cのシャッタ7Cを開閉駆動するシャッタ駆動装置190Cへ駆動制御信号を出力する。AND回路124D、NOT回路125D、及び信号出力器126Dは治療室3に対応づけられて第2ビーム輸送系5Dのシャッタ7Dを開閉駆動する駆動装置210へ駆動制御信号を出力する。AND回路124Eは、NOT回路125Eと接続されており、第1ビーム輸送系4に設けたシャッタ8を開閉駆動する駆動装置200へ駆動制御信号を出力する。
前述のように中央制御装置100の判定器104は、制御指令データに含まれる各制御データと該当する実電磁石状態データとを比較して動作が正常であることを確認したとき、システム全体としての動作許諾信号を出力する。AND回路124A〜Dのそれぞれには、まずこの動作許諾信号がON信号「1」として入力される。このとき、各AND回路124A〜Dには、信号出力器126A〜Dの信号も併せて入力されている。信号出力器126A〜Dには、前述の先着優先制御装置102からの治療室番号を表す信号が入力される。そして各信号出力器126A〜Dは、前述のようにして自らが関連づけられている治療室の番号と同一の治療室番号が先着優先制御装置102より入力された場合にのみ、ON信号「1」を出力し、それ以外はOFF信号「0」を出力するようになっている。この結果、先着優先制御装置102からの治療室番号が1(すなわち治療室2Aの選択を意味する)だった場合、信号出力器126Aからの出力のみがON信号「1」となり、他の信号出力器126Bからの出力はOFF信号「0」となる。なおこのとき、AND回路124A〜DにはNOT回路125A〜Dを介して別途設けた線量検出コントローラ220からの信号も入力されているが、後述するように通常はこの信号はNOT回路125A〜DによりON信号「1」となっている。この結果、信号出力器126Aに対応するAND回路124AからON信号「1」が出力され、治療室2Aへの第2ビーム輸送系5Aに設けたシャッタ7Aのみが開き制御され、他のシャッタ7B,7C,7Dは閉じ状態のまま維持されることとなる。すなわち、他の第2ビーム輸送系5B,5C,5Dはシャッタ7B,7C,7Dで遮断され、治療室2Aへのビーム経路のみが開通する。同様に、先着優先制御装置102からの治療室番号が2,3,4だった場合、それぞれ、信号出力器126B,126C,126Dからの出力のみがON信号「1」となって、対応するシャッタ7B,7C,7Dのみが開き制御され、対応する治療室2B,2C,3へのビーム経路のみが開通する。
なおこのとき、各シャッタ7A,7B,7C,7Dには、図示しない開閉状態検出装置(例えば公知のリミットスイッチ等)が設けられており、対応する検出信号は中央インターロック装置120に入力され、指令信号と比較される。
図14及び図15は、このシャッタ開閉比較機能を含む、中央インターロック装置のさらに他の機能(異常検出時のロック機能)を表すブロック図である。既に述べた部分については同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
図15において、中央インターロック装置120は、異常検出ロック機能に係わるメインのAND回路127を備えている。このAND回路127に入力される信号のうちの1つは、シャッタ開閉に係わる比較器128からの出力信号である。前述したリミットスイッチ等からのシャッタ開閉検出信号(実シャッタ動作情報)と、図13を用いて前述した中央インターロック装置120のAND回路124A〜D側からの各シャッタ7A〜Dを駆動するシャッタ駆動装置190A〜C,210への指令信号とが、それぞれこの比較器128へ入力される。但しこのとき、指令信号側は、当該開き駆動されているシャッタ7A〜Dへのシャッタ開指令信号のみが図示しない抽出手段で抽出されて比較器128へ入力され、同時に閉じ状態のまま維持されている他のシャッタへの指令信号については比較器128へは入力されない(図15におけるテーブル129参照)。開き指令が出ているシャッタが正常に開き動作していれば比較器128の比較(判定)が満たされ、ON信号「1」がAND回路127へ入力される。
このとき一方、AND回路127には、上記シャッタ動作に係わる信号のほか、「電磁力供給異常」「電流異常」「切替異常」「切替盤異常」にそれぞれ係わる4つの信号が入力されている。以下、それらを順次説明する。
(1)電磁力供給異常信号
前述した加速器電源140、ビームパス電源150、スイッチング電源160には、前述したユニット単位(定電流コントローラ・電源・電流計)で各種異常検出手段(図示せず)を備えている。そして、異常検出時においてそれぞれに対応する検出信号を電磁石電源制御装置130の対応する入出力変換制御装置132,133,134へと出力する。異常検出の内容は、電源装置における過電流発生、定電流コントローラにおける電力供給異常発生、電流供給先の各電磁石の過熱発生、各電磁石への冷却流体(空気又は他の冷媒)の過小流量、電源盤の過熱発生、電源盤を冷却するファンの停止、電源盤の開閉扉の開き状態検出である。なお、このとき併せて、各ユニット単位で設けられた図示しない非常停止スイッチが手動操作された場合の操作信号についても、同様に入出力変換制御装置132,133,134へ入力される。
これら電源装置140,150,160の各ユニットからの異常検出信号(非常スイッチ操作信号を含む、以下同様)は、電磁石電源制御装置130の入出力変換制御装置132,133,134を介し、CPU131(前述の図4を参照)へと収集される。CPU131には、機能的に、上記ユニットの総数に等しいだけのOR回路135及びAND回路136、さらに1つのOR回路137と同等の機能が備えられている(図14中には回路そのものとして図示。あるいは実際にハードとしてそのような回路を備えていてもよい)。各ユニットからの上記8つの異常検出信号等は、OR回路135により1つの出力信号に集約され、すなわちいずれか1つの異常が検出されたら、この出力信号がON信号「1」となる。この出力信号は、さらに対応するAND回路136に入力される。このときAND回路136の他方側には、対応するユニットが指令による実質的な(積極的な)制御状態にある場合にON信号「1」が入力されている。したがって、治療室2A,2B,2C,3の選択による前述したビーム輸送経路の形成に対応し、当該電源装置140,150,160のユニットが中央制御装置100で生成した前述した制御指令データに基づく実質的な(積極的な)制御下にある場合には、上記OR回路135からの異常検出信号がそのまま最終的なOR回路137へと出力される。一方上記のような制御下にない場合(既に述べた各図における「NoCare」を参照)には、異常検出信号がたとえON信号「1」であってもそれは無効化(無視)され、OR回路137へはOFF信号「0」が出力される。以上のようにして、OR回路137からは、実質的な制御下にある電源装置140,150,160の各ユニットにおいて何らかの異常が発生した場合には、「電磁力供給異常」を表すON信号「1」が中央インターロック装置120側へと入力される。中央インターロック装置120では、この信号をNOT回路221Aを介し上記AND回路127へ取り込む。したがって、異常が発生しない場合にAND回路127へはON信号「1」が入力される一方、異常が発生した場合にはOFF信号「0」が入力され、AND回路127からの出力信号も確実にOFF信号「0」となる。
(2)電流異常信号
既に述べたように、加速器電源140、ビームパス電源150、スイッチング電源160には、前述したユニット単位(定電流コントローラ・電源・電流計)で判定器141b,151b,161bを備えている。そして、対応する電源142,152,162やACR141a,151b,161bが正常に機能し異常がないかどうか(例えば、確認結果が所定の範囲内に収まっているかどうか)を判断する。異常と判定された場合、これに対応する信号(NG信号)が「電磁力供給異常」を表すON信号「1」として中央インターロック装置120側へと入力される。中央インターロック装置120には、上記ユニットの総数に等しいだけのAND回路222及び1つのOR回路223が備えられている。上記電磁力供給異常を表す信号は、対応するAND回路222へそれぞれ入力される。このときAND回路222の他方側には、上記(1)で述べたものと同様、対応するユニットが指令による実質的な(積極的な)制御状態にある場合にON信号「1」が入力されている。したがって、治療室2A,2B,2C,3の選択に対応し当該ユニットが実質的な(積極的な)制御下にある場合には、上記電流異常検出信号がそのまま最終的なOR回路223へと出力される。一方上記のような制御下にない場合には、OR回路223へはOFF信号「0」が出力される。この信号はNOT回路221Bを介し上記AND回路127へ取り込まれる。したがって、電流異常が発生しない場合にAND回路127へはON信号「1」が入力される一方、異常が発生した場合にはOFF信号「0」が入力され、AND回路127からの出力信号も確実にOFF信号「0」となる。
(3)切替異常信号
既に述べたように、経路切替制御装置170には判定器173が備えられている。そして、各スイッチ1〜8やスイッチングコントローラ171が正常に機能し異常がないかどうかを比較(判断)する。異常と判定された場合、これに対応する信号(NG信号)が「切り替え異常」を表すON信号「1」として中央インターロック装置120側へと入力される。中央インターロック装置120では、この信号はNOT回路221Cを介し上記AND回路127へ取り込まれる。したがって、切り替え異常が発生しない場合にAND回路127へはON信号「1」が入力される一方、異常が発生した場合にはOFF信号「0」が入力され、AND回路127からの出力信号も確実にOFF信号「0」となる。
(4)切替盤異常信号
経路切替制御装置170には、上記判定器173の他に、スイッチ切替盤180や経路切替制御装置170自体に関する各種異常検出手段(図示せず)を備えている。そして、異常検出時においてそれぞれに対応する検出信号を別途設けたOR回路174へと出力する。異常検出の内容は、スイッチングコントローラ171における電力供給異常発生、電源盤の過熱発生、電源盤を冷却するファンの停止、電源盤の開閉扉の開き状態検出である。なお、このとき併せて、経路切替制御装置170に設けた図示しない非常停止スイッチが手動操作された場合の操作信号についても、同様にOR回路174へ入力される。
これら5つの異常検出信号等は、OR回路174により1つの出力信号に集約され、すなわちいずれか1つの異常が検出されたら、この出力信号がON信号「1」となる。この出力信号は、中央インターロック装置120へと入力される。各種異常検出手段(図示せず)を備えている。そして、異常検出時においてそれぞれに対応する検出信号を電磁石電源制御装置130の対応する入出力変換制御装置132,133,134へと出力する。異常検出の内容は、電源装置における過電流発生、定電流コントローラにおける電力供給異常発生、電流供給先の各電磁石の過熱発生、各電磁石への冷却流体(空気又は他の冷媒)の過小流量、電源盤の過熱発生、電源盤を冷却するファンの停止、電源盤の開閉扉の開き状態検出である。なお、このとき併せて、各ユニット単位で設けられた図示しない非常停止スイッチが手動操作された場合の操作信号についても、同様に入出力変換制御装置132,133,134へ入力される。
これら電源装置140,150,160の各ユニットからの異常検出信号(非常スイッチ操作信号を含む、以下同様)は、電磁石電源制御装置130の入出力変換制御装置132,133,134を介し、CPU131(前述の図4を参照)へと収集される。CPU131には、機能的に、上記ユニットの総数に等しいだけのOR回路135及びAND回路136、さらに1つのOR回路137と同等の機能が備えられている(図14中には回路そのものとして図示。あるいは実際にハードとしてそのような回路を備えていてもよい)。各ユニットからの上記8つの異常検出信号等は、OR回路135により1つの出力信号に集約され、すなわちいずれか1つの異常が検出されたら、この出力信号がON信号「1」となる。この出力信号は、さらに対応するAND回路136に入力される。このときAND回路136の他方側には、対応するユニットが指令による実質的な(積極的な)制御状態にある場合にON信号「1」が入力されている。したがって、治療室2A,2B,2C,3の選択による前述したビーム輸送経路の形成に対応し、当該電源装置140,150,160のユニットが中央制御装置100で生成した前述した制御指令データに基づく実質的な(積極的な)制御下にある場合には、上記OR回路135からの異常検出信号がそのまま最終的なOR回路137へと出力される。一方上記のような制御下にない場合(既に述べた各図における「NoCare」を参照)には、異常検出信号がたとえON信号「1」であってもそれは無効化(無視)され、OR回路137へはOFF信号「0」が出力される。以上のようにして、OR回路137からは、実質的な制御下にある電源装置140,150,160の各ユニットにおいて何らかの異常が発生した場合には、「電磁力供給異常」を表すON信号「1」が中央インターロック装置120側へと入力される。中央インターロック装置120では、この信号をNOT回路221Dを介し上記AND回路127へ取り込む。したがって、異常が発生しない場合にAND回路127へはON信号「1」が入力される一方、異常が発生した場合にはOFF信号「0」が入力され、AND回路127からの出力信号も確実にOFF信号「0」となる。
以上のようにして、「シャッタ動作」「電磁力供給」「電流」「切替」「切替盤」についていずれも異常検出がなかった場合には、AND回路127からはON信号「1」が照射可能信号として出力される。この照射可能信号が、前述の中央制御装置100の判定器104からの動作許諾信号とともにAND回路122へと入力されるのである。上記のように各部の異常検出がなく照射可能信号が入力され、また前述のようにして制御指令データと電磁石実状態データとがほぼ一致して動作許諾信号が入力されたら、AND回路122は、ON信号「1」を機械側の最終準備が完了したことを表す信号(表示信号)としてオペレータコンソール37のディスプレイ39へ出力し、またAND回路123へも同様の信号を出力する。ディスプレイ39では、上記表示信号に応じて、機械側最終準備完了の表示(言い換えれば最終的に照射開始する意志があるかどうかの確認表示)を行う。例えば医者(海外ではオペレータの場合もあり得るが、日本では法令上の規制により安全上・人道上の観点から現状では医者に限定される)によって照射指示スイッチ(又はボタンでもよい)42が操作されると、これに対応した照射開始指示信号がON信号「1」として中央インターロック装置120の上記AND回路123に入力される。この時点で、AND回路123の他方側には前述のように機械側最終準備完了信号としてのON信号「1」が入力されていることから、AND回路123からは、ON信号「1」が、第1ビーム輸送系4に設けた第2シャッタ8を開き制御する信号として出力される。
図13に戻り、この第2シャッタ開信号は、前述した中央インターロック装置120のシャッタ8に関連するAND回路124Eに入力される。このとき、前述したように、AND回路124Eの他方側に線量検出コントローラ220からNOT回路125Eを介し入力される信号は、通常ON信号「1」となっている。この結果、AND回路124EからON信号「1」が出力され、第1ビーム輸送系4に設けたシャッタ8が開き制御される。このとき、第2シャッタ8には、前述の第1シャッタ7A〜Dと同様、図示しない開閉状態検出手段(例えば公知のリミットスイッチ等)が設けられている。そして、第2シャッタ8が開き状態になると、対応する検出信号(第2シャッタ開検出信号)が中央インターロック装置120に別途設けたAND回路224へ入力される。この時点で、AND回路224の他方側には前述のように第2シャッタ開信号としてのON信号「1」が入力されていることから、AND回路224からは、ON信号「1」が出射指示信号及び加速指示信号として出力され、それぞれ、ライナック11及びシンクロトロン12の前述した高周波加速空胴へ出力される。
以上説明したようにして、荷電粒子ビーム発生装置1から出射されたイオンビームがシンクロトロン12で加速され、さらにシンクロトロン12から出射されたイオンビームが、開き状態の第2シャッタ8を通過しつつ第1ビーム輸送系4を輸送される。そして、イオンビームは、開き状態の第1シャッタ7A〜Dを通過しつつ照射対象の患者が在室する治療室2A〜C,3に対応する第2ビーム輸送系5A〜Dに導入され、治療室2A〜C,3の照射装置15A〜C,16を介し、当該患者30の患部に治療計画通りの最適な態様で照射される。
なおこのとき、図13に示すように、対応する照射装置15A〜C,16のノズル内には公知の線量計(線量検出手段、累積線量検出手段)225が設けられており、その検出信号が線量検出コントローラ220に入力される。線量検出コントローラ220は、通常はOFF信号「0」を出力している。そして、線量計225による累積線量が所定の値(予め設定記憶された値でもよいし、中央制御装置100のCPU101を介し患者ごとの治療計画に基づく値(図6の患者データにおける「照射線量」の欄参照)を照射の都度読み込むようにしてもよい)に達したら、ON信号「1」を出力する。これにより、前述のNOT回路125A〜Eを介しすべてのAND回路124A〜EにOFF信号「0」が入力される。この結果、シャッタ駆動装置190A〜C,210を介してそれまで開いていた第1シャッタ7A〜Dが閉じ駆動制御される。同様にシャッタ駆動装置200を介し、開いていた第2シャッタ8も自動的に閉じられる。AND回路127の出力は、NOT回路を介してオア回路69より出力される。この出力はビーム停止信号である。シャッタ7A〜7Dのうち開いていたシャッタは、そのビーム停止信号を端子51を介して図13に示すオア回路52よりNOT回路125A,125B,125C,125D,125Eのうち該当するNOT回路を経てAND回路124A,124B,124C,124D,124Eのうち該当するAND回路に入力することによっても閉じられる。これは、陽子線治療システムにおいて何らかの異常が生じ、ビーム停止信号が中央インタロック装置120、具体的にはオア回路69から出力された場合に、開いているシャッタを確実に閉じることができる。これは、陽子線治療システムの安全性を著しく向上することができる。
図16は、以上の流れを経時的に示したものである。なお、第1のシャッタ7A〜Dよりも第2のシャッタ8が軽いので、開閉動作(特に開き動作)に要する時間の短い速動性のものとして構成されている。
以上のように構成した本実施形態の粒子線治療システムによれば、以下のような効果を得る。
本実施形態においては、各第2ビーム輸送系5A〜Dのそれぞれに、ビーム進行経路を遮断する第1シャッタ7A〜Dを設けている。すなわち、照射対象でない治療室への誤ったビーム輸送を防止するために、ビーム自体を物理的にブロックしてしまうシャッタ7A〜Dをビーム経路上に設けることにより、電磁石切り替えを行う制御コントローラのソフトの信頼性のみに依存する従来技術に比べて、安全性を向上できる。
また本実施形態においては、中央制御装置100のCPU101が、患者識別情報(IDNo.)と治療室情報と、各患者ごとの治療計画情報とを用いて患者別制御指令データを作成する。すなわち、医者側では各患者の治療計画情報のみを作成し、オペレータ側からはどの治療室にどの患者がいるかという患者識別情報及び治療室情報のみを患者ID入力装置43よりCPUへ入力すれば足りる。CPU101は、これら治療計画情報、患者識別情報、治療室情報に基づき、自動的に患者別制御指令データを作成する。この結果、最終的な患者別制御指令データを作成するにあたり、医学的な見地に基づく患者の治療計画情報と単に治療システムの操作上に必要な情報とをすべて網羅した膨大なデータを用意する必要がなくなる。したがって、医者側とオペレータ側とでデータに関する分業化を図ることができるので、システム構成を簡素化できるとともに、円滑で効率の良い治療を行うことができる。
さらに本実施形態においては、先着優先制御装置102により、患者の照射準備が先に完了した治療室ほどより優先的にイオンビームが輸送されるように、ビーム輸送経路が制御される。これにより、複数の治療室2A〜C,3にて適宜自由に患者の照射準備を行い、照射準備が完了したものから順次イオンビームの照射を行うようにすることができる。これにより、例えば予め各治療室の照射順番を予めこれに従ってビーム輸送を行う場合と異なり、例えば照射準備に手間取ったあるいは患者が気分が悪くなった等の治療室については、照射準備が先に完了した治療室より自動的に後回しにする等柔軟に対応し、無駄な待機時間をなくしてシステムを最大限有効に活用することができる。したがって、多数の患者に対し、円滑な効率の良い治療を行うことができる。さらに例えば、照射順番やスケジュールを予め決めておくことが必ずしも必要なくなったり、あるいはスケジュールを容易にフレキシブルに変更することができる。この場合、治療時におけるオペレータの手間や労力を大幅に低減することが可能となる。
さらに本実施形態においては、治療室2A〜C,3の選択に応じてCPU101が治療室別制御指令データを作成し、これに応じて各電磁石が作動するとき、各電磁石に対応する電流計143,153,163等からの検出信号は治療室の選択に無関係に出力されている。そして、それらに基づく各電磁石の実状態データから、判定器104が、選択された治療室に係わるものを抽出しCPU101からの治療室別制御指令データと比較判定する。すなわち、判定器104は、最終的に、照射治療を行うべく選択された治療室2A〜C,3に係わるデータのみ抽出し治療室別制御指令データと比較する。これにより、例えば治療室2A〜C,3のうちいずれか1つに不具合が生じ、その治療室に係わる実作動検出データとして通常ではない値が検出されていたとしても、その治療室を実際に治療に使用せず選択しないようにすれば、判定器104はそのような通常の値でない検出信号に惑わされることなく、指令値と実際値との比較という本来の役割を確実に果たすことができる。この結果、1つの治療室に不具合が生じても、正常な残りの治療室を用いて引き続き治療行為が可能となるため、治療能力の低下を防止又は最小限にとどめることができ、円滑に治療を継続することができる。言い換えれば、トラブル発生に対し能力低下の少ない、強いシステムを実現することができる。
さらに本実施形態においては、スイッチ切替盤180において、スイッチ1〜8は、上記4つの電源162−1〜162−4からの電力が、第2ビーム輸送系5Aに係わる系統(偏向電磁石6A,21A,23A,25A,26A)、第2ビーム輸送系5Bに係わる系統(偏向電磁石6B,21B,23B,25B,26b)、第2ビーム輸送系5Cに係わる系統(偏向電磁石6C,21C,23C,25C,26C)の3つのうちの少なくとも2つの系統にまたがって供給された場合には、第2ビーム輸送系5A〜Cのうちいずれのビーム輸送経路も形成されないように(言い換えれば1つのビーム輸送経路を完成させたときには必ずそれに対応する1つの系統の電磁石群にしか電力が供給されないように)接続されている。
これにより、正常時には1つの系統の電磁石群にのみ電力が供給されて1つのビーム輸送経路が完成され、照射しようとする治療室にのみビームが導入される。一方、何らかの異常で電力が複数系統にまたがって供給された場合にはいずれのビーム輸送経路も形成されず、すべての治療室2A〜C,3にビームは導入されない。すなわち、いずれにしても、照射を予定していない治療室に誤ってビームが導入されるのは確実に防止できるので、安全性を向上することができる。
さらに本実施形態においては、準備完了スイッチ38で患者の照射準備が完了したことを操作入力すると、ディスプレイ39が荷電粒子ビーム発生装置1及びビーム輸送系4,5A〜Dの照射準備が整ったことを表示し、これを受けて照射指示スイッチ42で照射開始を指示入力するようにしたことである。
これにより、患者側の照射準備完了後に機械側準備が完了し照射を開始する直前まで、照射開始を始めるかどうかを治療室2A〜D,3内(又はその近傍にある照射制御室33内)の側で決定することができる。この結果、患者の体調・気分が照射治療を許容できる万全の状態にあるか、気分が悪くなったりトイレに行きたくなったりしていないか等、照射直前ギリギリまでいつでも照射を中止可能な柔軟な体制とすることができる。したがって、各患者にとって安全かつ支障のない万全を期した治療を行うことができる。
なお、上記実施形態においては、経路切替制御装置170の判定器173が、各スイッチ1〜8の検出信号に基づき実際のスイッチ1〜8の切り替え状況が何番の治療室2A〜C,3に相当するかを判定する際、メモリ172にアクセスしてテーブルを参照することで実際の実治療室情報を得たが、これに限られない。すなわち、このようなソフト上の処理ではなく、ハード的な構成(例えば多数の論理回路の結合体)で同様の機能を持たせても良い。