薄膜磁気ヘッドにおいては、ハードディスクドライブ(HDD)の大容量及び小型化に対応すべく、高感度、高出力のものが要求されている。その要求に対して、薄膜磁気ヘッドの懸命な特性改善が進められている。
薄膜磁気ヘッドは、通常、誘導型記録素子と、磁気抵抗効果素子(MR素子)を用いた再生素子とを近接して積層した複合構造を有する。記録素子は、磁気記録媒体の記録層を長手方向に磁化する面内記録素子と、記録層を膜面に対して垂直方向に磁化する垂直記録素子の2つのタイプが知られている。再生素子を構成するMR素子は、スピンバルブ層(以下、SV膜と称する)を用いたものが主流であるが、一方で、強磁性トンネル接合層(以下、TMR層と称する)を用いた薄膜磁気ヘッドは、SV膜を用いた薄膜磁気ヘッドの2倍以上の抵抗変化率が期待できることから、その開発も精力的に行われ、実用化段階に入っている。
SV膜とTMR層は、センス電流を流す方向の違いからヘッド構造が異なる。一般に、膜面に対して平行にセンス電流を流すヘッド構造をCIP(Current In Plane)構造、膜面に対して垂直にセンス電流を流すヘッド構造をCPP(Current Perpendicular to Plane)構造(特許文献1参照)と呼ぶ。CPP構造は、磁気シールドそのものを電極として用いることができるため、CIP構造の狭リードギャップ化において深刻な問題になっている、磁気シールドと素子との間のショート(絶縁不良)が本質的に生じない。そのため、高記録密度化においてCPP構造は大変有利である。
TMR層は、基本的に、CPP構造となるので、上述した利点が得られる。SV膜においても、上述したCPP構造の利点を確保すべく、従来多用されていたCIP構造から、CPP構造への転換が図られつつある。例えば、スペキュラー型やデュアル型などの多層層構造がその例である。
CPP構造をとる場合、MR素子を両側から挟み込むように配置される第1のシールド層及び第2のシールド層を、センス電流を供給するための電極としても兼用する。第1のシールド層はスライダ基体の上に設けられる。スライダ基体は、耐摩耗性に優れたAl2O3−TiC(以下、アルティックと称する)で構成されるが、アルティックはAl2O3などと比較して導電率が高い。そこで、スライダ基体の端面に、第1の絶縁層を設け、この第1の絶縁層の上に第1のシールド層を形成する。そして、第1のシールド層と第2のシールド層の間を第2の絶縁層によって埋め、第2の絶縁層の内部にMR素子を配置する。
第2のシールド層の上には、第3の絶縁層が設けられ、第3の絶縁層の上に記録素子が設けられる。記録素子は、コイル、磁気回路及び記録用ギャップとを有する。コイルは、有機絶縁層または無機絶縁層によって、絶縁して支持されている。磁気回路は、コイルに流れる電流によって生じる磁束を導くものであって、第2のシールド層に対して第3の絶縁層を介して対向する磁性層(下部磁性層)と、この磁性層とともに磁気回路を構成する磁性層(第2の磁性層)とを有する。記録用ギャップは、磁気回路の途中に設けられる。
ところで、磁気記録の分野では、これまで、データ転送速度の高速化の要求に対応すべく、書込み周波数の高周波化が図られ、また、高密度記録の要請に応えるべく、記録素子及び再生素子の小型化が図られてきた。現在の薄膜磁気ヘッドは、現状の書込み周波数に追従でき、また、素子形状も、要求される高密度記録に対応できるものである。
しかし、データ転送速度の高速化及び高密度記録化の要求はとどまるところ知らず、現在の薄膜磁気ヘッド、特に、CPP型薄膜磁気ヘッドでは、早晩、その要求を満たしえなくなることが予想される。その理由は次のとおりである。
従来のCPP型薄膜磁気ヘッドは、導電性を有するスライダ基体と第1のシールド層との間に第1の絶縁層を設け、第1のシールド層と第2のシールド層の間を第2の絶縁層によって埋め、第2のシールド層と記録素子を構成する磁性層(下部磁性層)との間に第3の絶縁層を設け、更に、記録素子のコイルを有機絶縁層または無機絶縁層によって絶縁して支持する構造であるので、薄膜磁気ヘッドには、等価的に次のような寄生容量が形成される。
まず、記録素子のコイルと、磁性層(下部磁性層)との間において、コイルを支持する有機絶縁層または無機絶縁層を容量層とする第1の寄生容量C1が発生し、磁性層(下部磁性層)と第2のシールド層との間において、第3の絶縁層を容量層として、第2の寄生容量C2が発生する。また、第2のシールド層と、第1のシールド層との間において、第2の絶縁層を容量層とする第3の寄生容量C3が発生し、更に、第1のシールド層とスライダ基体との間において、第1の絶縁層を容量層とする第4の寄生容量C4が発生する。
上記寄生容量回路において、コイルに、高周波書込み電流を流した場合、第1の寄生容量C1、第2の寄生容量C2、第3の寄生容量C3及び第4の寄生容量C4が、高周波書込み電流によって充電される。
CPP型薄膜磁気ヘッドでは、第2の寄生容量C2を発生させる第2のシールド層と、第4の寄生容量C4を発生させる第1のシールド層は、MR素子の両側にそれぞれ配置されていて、位置が互い異なり、しかも、第2のシールド層と第1のシールド層との間に第3の寄生容量C3が発生している。
このため、第2のシールド層で見た第2の寄生容量C2の端子電圧V2と、第1のシールド層で見た第4の寄生容量C4の端子電圧V4が互いに異なり、その差電圧(V2〜V4)が、第1のシールド層及び第2のシールド層の間に発生する。この差電圧(V2〜V4)は、書込み電流を流すためにコイルに印加される電圧に対応して振動し、第1のシールド層及び第2のシールド層間にクロストークとして現れる。この書込み電流を流すためにコイルに印加される電圧によるクロストークにより、再生素子が劣化する。しかも、書込み周波数の高周波化が進展すればするほど、書込みのための電圧の変化が急峻になり、クロストーク電圧も高くなるから、書込み電流の高周波化が進むほどに、クロストークの弊害が大きくなり、再生素子の特性を劣化させる。
再生素子の断面積の縮小化された高密度記録対応の磁気ヘッドでは、特にこの弊害が大きくなり、SV膜では、エレクトロマイグレーションの加速による短寿命化、および、金属間拡散の加速による磁気特性の劣化などの問題も生じる。また、TMR素子では、強磁性層間に存在する絶縁層の破壊を招きやすくなる。
更に、第2のシールド層で見た第2の寄生容量C2と、第1のシールド層で見た第4の寄生容量C4が互いに異なるため、スライダ基体側から、外来ノイズが侵入しやすくなり、エラーの発生原因となる。
1.薄膜磁気ヘッド
図1は本発明に係る薄膜磁気ヘッドの構造を模式的に示す図、図2は図1に示した薄膜磁気ヘッドのより具体的な例を、媒体対向面側から見た図である。図1、図2に図示された薄膜磁気ヘッドは、スライダ基体1と、記録素子2と、再生素子3とを含む。なお、この明細書において、第1、第2、第3などの順序付けは、スライダ基体1を基準にしている。
スライダ基体1は、耐摩耗性に優れたアルティック等からなる。スライダ基体1は、ABSとなる媒体対向面に浮上特性制御用の幾何学的形状を有している。そのような幾何学的形状については、種々のパターン、構造、形状が提案されており、本発明では、何れの幾何学的形状を採用してもよい。アルティックでなるスライダ基体1は、Al2O3などの無機絶縁材料と比較して、耐磨耗性及び潤滑性に優れているが、導電性が高い。そこで、スライダ基体1の素子形成面には、Al2O3,SiO2などの無機絶縁材料でなる第1の絶縁層16を付着させてある。
再生素子3は、第1のシールド層31と、第2の絶縁層32と、第2のシールド層33と、MR素子30とを含む。第1のシールド層31及び第2のシールド層33は、例えばNiFeとAuなどの積層層によって構成され、第2の絶縁層32は、Al2O3,SiO2などの金属酸化物絶縁材料で構成される。第1のシールド層31、第2の絶縁層32及び第2のシールド層33は、この順序で、第1の絶縁層16の上で隣接している。
MR素子30は、第1のシールド層31及び第2のシールド層33の間に設けられ、第1のシールド層31及び第2のシールド層33を電極層として、センス電流の供給を受ける。MR素子30の周囲は、第2の絶縁層32によって埋められている。MR素子30は、SV膜又はTMR層で構成する。これらは、CPP型とする。
図3は、CPP型MR素子30の具体的な層構造を示す断面図である。MR素子30は、フリー層302を含み、フリー層302に隣接する非磁性層303を有し、非磁性層303の上に、ピンド層304が隣接している。ピンド層304の上には反強磁性層305が設けられている。ピンド層304は、反強磁性層305との交換結合により、磁化方向が、一方向に固定される。
フリー層302、非磁性層303、ピンド層304及び反強磁性層305の層構造及び組成材料等については、既に知られている技術を、任意に適用できる。一例をあげると、フリー層302及びピンド層304は、例えば、NiFe、NiFeCo、CoFe等で構成され、反強磁性層305はFeMn、MnIr、NiMn、CrMnPtなどによって構成される。非磁性層303は、SV膜の場合はCu等を主成分とする導電性材料層で構成され、TMR層の場合は、Al2O3層などの絶縁性材料層で構成される。
磁区制御層201、202は、MR素子30の幅方向の両側部に、絶縁層203、204による間隔を隔てて配置されている。磁区制御層201、202は、フリー層302の磁区を制御する。
第1のシールド層31及び第2のシールド層32のそれぞれは、下地層301、305を介して、MR素子30の両面に隣接している。したがって、MR素子30の膜面に対して垂直方向にセンス電流を流すMR素子30を得ることができる。
CPP構造のSV膜またはTMR層は、少なくとも1つのフリー層302を含んでおり、フリー層302に発生することのあるバルクハウゼンノイズを抑制しなければならない。図示実施例のMR素子30は、磁区制御層201、202を含んでおり、磁区制御層201、202は、MR素子30の幅方向の両側部に配置され、フリー層302の磁区を制御する。
絶縁層203、204は、磁区制御層201、202と、第1のシールド層31及び第2のシールド層32との間に層状に介在し、MR素子30との間では、両者間を完全に遮断するように形成されている。
再び、図1、図2を参照して説明する。記録素子2は、下部磁性層21と、第2の磁性層22と、薄膜コイル23と、記録記録ギャップ層24とを含む。下部磁性層21は、NiFe、CoNiFe,CoFeなどのめっき層で構成されており、第1の磁極層210と、第1の磁極211とを有し、第2のシールド層33に隣接する第3の絶縁層34の上に形成されている。第3の絶縁層34は、例えばAl2O3(アルミナ)などでなる。
第1の磁極211は記録媒体に対向する側、即ち、ABSの側において、第1の磁極層210の端部に備えられている。
第2の磁性層22は、第2の磁極層221と、第2の磁極222とを有している。第2の磁極層221は、第1の磁極層210から間隔を隔て形成され、後方に位置する後方結合部25により、第1の磁極層210と磁気的に結合されている。第2の磁極層221は、前端が第2の磁極222に隣接しており、NiFe、CoNiFe,CoFeなどの磁性材料によって構成されている。第2の磁極層221の前端は、第2の磁極222の媒体対向面から、若干後退した位置にある。第2の磁極222は、記録記録ギャップ層24を介して、第1の磁極211と、同一トラック幅を持って対向している(図3参照)。
薄膜コイル23は、後方結合部25の周りを周回している。薄膜コイル23は、第1の磁極層210と第2の磁極層221との間に生じるインナーギャップ内に充填された絶縁層26によって支持されている。薄膜コイル23は、Cuなどのめっき層として構成することができる。
上記構造により、第2の磁極層221、第2の磁極222、記録記録ギャップ層24、第1の磁極211、第1の磁極層210及び後方結合部25により、薄膜コイル23に流れる電流によって生じた磁束のための薄膜磁気回路が形成される。
図1及び図2は面内記録素子を示しているが、記録層を膜面に対して垂直方向に磁化する垂直記録素子であってもよい。面内記録素子と垂直記録素子の構造上の違いは、周知のように、主として、ポール部分の構造の違いとして現れる。図4にその一例を示す。図4はABS側から見た図で、主磁極となる第1の磁極層210と、ライトシールドを構成する第2の磁極222との間にギャップ24を有する。第2の磁極層221は、第2の磁極222とともにライトシールドを構成するものである。垂直記録素子の場合、ライトシールドを構成する第2の磁極222が、トラック方向に広く横たわっている点で、面内記録素子とは、明確に異なる。
次に、本発明に係る薄膜磁気ヘッドの作用効果について説明する。まず、導電性を有するスライダ基体1の上に、第1の絶縁層16を設け、第1の絶縁層16の上で第1のシールド層31、第2の絶縁層32及び第2のシールド層33を、この順序で、隣接させ、第1のシールド層31及び第2のシールド層33の間にMR素子30を設けてある。第1のシールド層31及び第2のシールド層33は電極層としても兼用される。この構造によれば、第1のシールド層31及び第2のシールド層33によって、MR素子30をシールドし、かつ、膜面に対して垂直にセンス電流を流すCPP構造の薄膜磁気ヘッドが得られる。CPP構造は、第1のシールド層31及び第2のシールド層33を、電極層として用いるため、CIP構造の狭リードギャップ化において深刻な問題になっている、磁気シールドと素子との間のショート(絶縁不良)が本質的に生じない。そのため、高記録密度に適した薄膜磁気ヘッドが得られる。
記録素子2において、コイル23に流れる電流によって生じる磁束は、下部磁性層21及び第2の磁性層22などの磁気回路によって導かれる。磁気回路は、記録ギャップ24を含んでおり、記録ギャップ24において、媒体に対する磁気記録が実行される。
上述した薄膜磁気ヘッドでは、記録素子2のコイル23と、下部磁性層21との間に、第4の絶縁層を容量層とする第1の寄生容量C1が発生し、下部磁性層21と第2のシールド層33との間に、第3の絶縁層34を容量層とする第2の寄生容量C2が発生する。また、第2のシールド層33と、第1のシールド層31との間に、第2の絶縁層32を容量層とする第3の寄生容量C3が発生し、更に、第1のシールド層31とスライダ基体1との間に、第1の絶縁層16を容量層とする第4の寄生容量C4が発生する。
これらの寄生容量C1〜C4は、CPP型薄膜磁気ヘッドでは、その構造上、避けることができないものであり、それゆえ、これに起因して発生するクロストークによるTMR素子30における絶縁層の破壊、さらには、SV膜におけるエレクトロマイグレーションの加速による短寿命化、および、金属間拡散の加速による磁気特性の劣化などの問題も、CPP型薄膜磁気ヘッドでは不可避である。更に、第2のシールド層33で見た第2の寄生容量C2と、第1のシールド層31で見た第4の寄生容量C4が互いに異なるため、スライダ基体側から、外来ノイズが侵入しやすくなり、エラーが発生する。
本発明では、この問題を解決する手段として、スライダ基体1及び第1のシールド層31の間において、第1の絶縁層16を容量層として発生する第4の寄生容量C4と、下部磁性層21及び第2のシールド層33の間において第3の絶縁層34を容量層として発生する第2の寄生容量C2とを、実質的に等しい値に選定してある。本発明でいう「実質的に等しい値」とは、本発明の実用的な作用効果が発現される幅のある範囲をいうのであり、具体的範囲は、C2とC4との比であるC2/C4の範囲が0.6〜1.4の範囲、好ましくは0.8〜1.2の範囲、より好ましくは0.9〜1.1の範囲である。
上記構成によれば、第2のシールド層33で見た第2の寄生容量C2の端子電圧V2と、第1のシールド層31で見た第4の寄生容量C4の端子電圧V4が実質的に等しくなり、その差電圧(V2〜V4)が実質的に零となる。
このため、書込み電流によるクロストークの発生を抑制することができる。また、いかなる周波数の外来ノイズがスライダ基体から侵入してきても、外来ノイズの影響を受けないから、外来ノイズによる再生素子の劣化及びエラーを回避し、信頼性を向上させることができる。
再生素子3の面積が縮小化された場合でも、SV膜におけるエレクトロマイグレーションの加速による短寿命化、および、金属間拡散の加速による磁気特性の劣化などの問題も回避でき、TMR素子30における絶縁層の破壊も回避できる。
更に、下部磁性層21とスライダ基体1は、100Ω以下、特に、0〜10Ω、さらには、0〜5Ωの抵抗R1によって接続することが望ましい。抵抗R1=0が理想であるが、現実には、0.01〜1Ω程度の抵抗が存在する。100Ω以下とすることにより、第2のシールド層33で見た第2の寄生容量C2の端子電圧V2と、第1のシールド層31で見た第4の寄生容量C4の端子電圧V4との差電圧(V2〜V4)を、実質的に零の安定した値に維持できる。
従って、いかなる周波数の外来ノイズがスライダ基体から侵入してきても、ノイズの影響を受けないことになるから、外来ノイズによるエラーの発生がなくなり、再生素子の信頼性が高くなる。
次に、データを参照して、本発明の効果を具体的に説明する。まず、図5は、外来ノイズの周波数(MHz)と再生信号に含まれるノイズ(V)との関係を示す図である。図を参照すると、(C2/C4)=3.0とした場合は、最大0.005(V)のノイズが発生し、(C2/C4)=2.0とした場合は、最大約0.0035(V)のノイズが発生し、(C2/C4)=0.66とした場合は、実用上、許容できる範囲であるが最大約0.0018(V)のノイズが発生している。これに対して、理想的な値である(C2/C4)=1.00とした場合は、ノイズはほとんど発生していない。
寄生容量C1、C2は、第1及び第3の絶縁層16、34の厚み及び比誘電率、スライダ基体1に対する第1のシールド層31の重なり面積、第2のシールド層34と下部磁性層21との重なり面積の設計によって、互いに等しくなるように、合わせることができる。
好ましくは、下部磁性層21とスライダ基体1は、100Ω以下の抵抗R1(図1、図2等参照)によって接続する。こうすることにより、第2のシールド層33で見た第2の寄生容量C2の端子電圧V2と、第1のシールド層31で見た第4の寄生容量C4の端子電圧V4との差電圧(V2〜V4)を、実質的に零の安定した値に維持できる。
図6は、抵抗R1をパラメータとしたときの(C2/C4)の比と、クロストーク電圧との関係を示すグラフである。図を参照すると、抵抗R1が1000(Ω)以上では、(C2/C4)の比が1の場合も、クロスークが発生する。
これに対して、抵抗R1が100(Ω)以下となる範囲では、(C2/C4)が「実質的に等しい値」を満たす限り、抵抗値の変化にかかわらず、クロストークは実質的に零を保つ。
図7は本発明に係る薄膜磁気ヘッドの別の実施例を示す図、図8は図7に示した薄膜磁気ヘッドを、下部磁性層21の第1の磁極層210の面で見た平面図である。図において、図1に現れた構成部分に相当する部分については、同一の参照符号を付し、重複説明はこれを省略する。この実施例は、抵抗R1を、適当な第1〜第3の抵抗層351〜353を積層することによって構成した具体例を示している。最下層にある第1の抵抗層351は、スライダ基体1の上に設けられており、その上に第2及び第3の抵抗層352、353が順次に積層されている。最上層に位置する抵抗層353は、導体層354によって、第1の磁極層210に接続されている。
第1〜第3の抵抗層351〜353は、図7に示すように、第1の磁極層210の後方に配置されている。もっとも、第1〜第3の抵抗層351〜353の配置位置は任意である。例えば、図9に例示するように、第1の磁極層210の側方等、適当な位置に設けることができる。
図10は本発明に係る薄膜磁気ヘッドの更に具体的な実施例を示す図である。図において、図7〜図9に現れた構成部分に相当する部分については、同一の参照符号を付し、重複説明はこれを省略する。この実施例においても、抵抗R1を、第1〜第3の抵抗層351〜353を積層することによって構成してある。スライダ基体1の面上には、絶縁層16が設けられており、第1の抵抗層351は、絶縁層16に形成された開口部161を通して、スライダ基体1に隣接している。
第1の抵抗層351は、第1のシールド層31と同時のプロセスによって形成されるものであるが、絶縁層17によって、第1のシールド層31から電気的に絶縁されている。第1の抵抗層351及び第1のシールド層31との間には、両者に跨って、絶縁層321、322(図7の第2の絶縁層32に相当)が形成されている。絶縁層321は、第1のシールド層31の上に形成されており、そのABS側の端部には、読取素子3を構成するMR素子30が備えられている。絶縁層322は、MR素子30のある部分を除き、絶縁層321を覆うように形成されている。
第2の抵抗層352は、第1のシールド層31と同時のプロセスによって形成されるものであるが、絶縁層18によって、第2のシールド層33から電気的に絶縁されている。第2の抵抗層352及び第2のシールド層33との間には、両者に跨って、第3の絶縁層34が形成されている。
第3の抵抗層353は、第3の絶縁層34の後部側において、第2の抵抗層352に隣接している。第3の抵抗層353は、下部磁性層21と同時のプロセスによって形成されるものであるが、絶縁層19によって、下部磁性層21から分離されている。
第3の抵抗層353及び下部磁性層21の間には、両者に跨って、導体層354が形成されている。従って、下部磁性層21とスライダ基体1との間には、導体層354を通して、第1〜第3の抵抗層351〜353による抵抗R1が接続されることになる。
導体層354は、非磁性金属材料、例えば、Cu、Ti、Taなどによって構成し、第3の絶縁層19を跨ぐのに必要な長さに設定する。その理由は次のとおりである。
即ち、図示の実施例では、第1の抵抗層351は、第1のシールド層31と同時のプロセスによって形成され、第2の抵抗層352は、第2のシールド層33と同時のプロセスによって形成され、更に、第3の抵抗層353は第1の磁極層210と同時のプロセスによって形成される。従って、第1の抵抗層351〜第3の抵抗層353は、磁性材料で構成されることになる。
このような構成のもとで、もし、導体層354を磁性材料で構成したとすると、第1の磁極層210から、導体層354を通り、第3の抵抗層353、第2の抵抗層352及び第1の抵抗層351に至る磁気回路が形成され、外部磁場に対して第1のシールド層31及び第2のシールド層33が飽和してしまうので、QST(Quasi Static Test)特性が悪くなる。
上述のような問題を回避するため、この実施例では、導体層354を、例えば、Cu、Ti、Taなどの非磁性金属材料よって構成してある。同様の観点から、記録ギャップ膜24の下側(図において)に隣接する高飽和磁束密度材料層400は、導体層354の後方には延長しないように、第3の絶縁層19の位置で終わらせてある。
更に、下部磁性層21、第3の抵抗層353及び導体層354の上には、絶縁層261によって絶縁された第1の薄膜コイル231、記録ギャップ層24、第2の磁極222及び後方結合部25などが形成されている。第1の薄膜コイル231は有機絶縁層262及び無機絶縁層263によって覆われている。
第1の薄膜コイル231、記録ギャップ層24、第2の磁極222、後方結合部25及び無機絶縁層263は、端面が同一平面を構成するように、例えば、CMP処理によって平坦化されており、その平坦化された面上に、絶縁層264によって絶縁して、第2の薄膜コイル232が形成されている。
第2の薄膜コイル232の周りは、ノボラック樹脂のような有機絶縁材料でなる絶縁層265によって覆われており、絶縁層265の上には、第2の磁性層22を構成する第2の磁極層221が形成されている。第2の磁極層221は、保護層27によって覆われている。
上述した薄膜磁気ヘッドにおいて、第1及び第2の薄膜コイル231、232と、下部磁性層21との間に、絶縁層261〜265を容量層とする第1の寄生容量C1が発生し、下部磁性層21と第2のシールド層33との間に、第3の絶縁層34を容量層とする第2の寄生容量C2が発生する。また、第2のシールド層33と、第1のシールド層31との間に、第2の絶縁層32を容量層とする第3の寄生容量C3が発生し、更に、第1のシールド層31とスライダ基体1との間に、第1の絶縁層16を容量層とする第4の寄生容量C4が発生する(C1〜C4については図7など参照)。
ここで、この実施例に係る薄膜磁気ヘッドでは、下部磁性層21とスライダ基体1との間に、導体層354を通して、第1〜第3の抵抗層351〜353による抵抗R1が接続されることになるから、第2のシールド層33で見た第2の寄生容量C2の端子電圧V2と、第1のシールド層31で見た第4の寄生容量C4の端子電圧V4との差電圧(V2〜V4)を、ほぼ零の安定した値に維持できる。従って、いかなる周波数の外来ノイズがスライダ基体から侵入してきても、ノイズの影響を受けないことになるから、外来ノイズによるエラーの発生がなくなり、再生素子の信頼性が高くなる。
2.薄膜磁気ヘッドの製造方法
次に、図11〜図25を参照し、図10に図示した薄膜磁気ヘッドの製造方法について説明する。まず、図11に示すように、例えば、AlTiC材料からなるスライダ基体1の上に、A1203などでなる第1の絶縁層16を、スパッタ法などによって形成した後、第1の絶縁層16に、イオンミリングなどの手段によって、開口部161を設け、第1の絶縁層16、及び、開口部161の表面に、スパッタなどの手段によって、めっき下地膜となるシード電極膜M1を形成する。更に、シード電極膜M1の表面にレジストフレームRF1を、所定のパターンで形成する。
次に、図12に示すように、めっき法により、レジストフレームRF1によって覆われていない領域に、第1のシールド層31及び第1の抵抗層351を形成する。第1のシールド層31及び第1の抵抗層351は、めっき法により同時に形成されるので、同一材質で構成されることになる。
次に、レジストフレームRF1を周知の手段によって除去した後、除去後270、170の底部に存在するシード電極膜M1を、ミリングなどの手段によって除去する。これにより、第1のシールド層31と、第1の抵抗層351が、電気的に分離される。図13は、シード電極膜M1を除去した後の状態を示している。
次に、除去後270、170を含む全面に、絶縁層17及び絶縁層271を、スパッタ法などの手段によって形成し、その後、表面をCMP法によって平坦化する。図14は、CMP法による平坦化後の状態を示している。
次に、図15に図示するように、第1のシールド層31の表面に、絶縁層321、及び、MR素子30を形成する。絶縁層321は、外周縁が第1のシールド層31の表面から絶縁層17の外側に延びるように形成する。絶縁層321及びMR素子30を形成するに当たっては、まず、MR素子30のための多層層を、スパッタ法などの適用によって、第1のシールド層31の表面に広く形成した後、ドライエッチングによって必要なパターンとし、その後に絶縁層321をスパッタするなどの方法が採用できる。
次に、図16に示すように、絶縁層321を覆う絶縁層322を、スパッタなどの手段によって形成する。絶縁層322は、MR素子30の表面には付着しないように、MR素子30の後方に、若干、距離をおいて形成する。
次に、図17に示すように、絶縁層322の上に、絶縁層18を形成するとともに、絶縁層18の内外に第2のシールド層33及び第2の抵抗層352を形成する。そのプロセスは、図11〜図14に示したプロセスと同じである。絶縁層18は、絶縁層17と同様の形状となるように、絶縁層17の上方に形成される。第2のシールド層33は、絶縁層322によって覆われていない開口部をとおして、MR素子30と接続され、第1のシールド層31とともに、MR素子30に対する電極層として兼用される。第2の抵抗層352は、第1の抵抗層351に接続され、絶縁層18によって第2のシールド層33から絶縁されている。第2のシールド層33及び第2の抵抗層352は、同一のめっきプロセスによって形成することができる。
次に、図18に図示するように、第3の絶縁層34を形成する。第3の絶縁層34は、外周縁が絶縁層18の外側に延びるように形成する。第3の絶縁層34は、スパッタ法などによって、第2のシールド層33の表面に拡がるように形成した後、ドライエッチングによって必要なパターンとすることによって形成することができる。
次に、図19に示すように、第3の絶縁層34の上に、絶縁層19を形成するとともに、絶縁層19の内外に、第1の磁極層210、及び、第3の抵抗層353を形成する。そのプロセスは、図11〜図14に示したプロセスと同じである。絶縁層19は絶縁層17、18と同様の形状となるように、絶縁層18の上方に形成される。第3の抵抗層353は、第2の抵抗層352に接続され、絶縁層19によって第1の磁極層210から絶縁されている。第1の磁極層210及び第3の抵抗層353は、同一のめっきプロセスによって形成することができる。
次に、第1の磁極層210、第3の絶縁層19、第3の抵抗層353及び絶縁層273の表面を、CMP法によって平坦化し、平坦化面上に、スパッタ法などの手段によって、高飽和磁束密度材料層400を形成し、更にこの高飽和磁束密度材料層400を、パターニングした後、図20に示すように、導体層354をスパッタ法などによって形成する。この導体層354によって第1の磁極層210と第3の抵抗層353が電気的に接続される。導体層354は、既に述べたような問題を回避するため、非磁性金属材料、例えば、Cu、Ti、Taなどによって構成し、第3の絶縁層19を跨ぐのに必要な長さに限定する。高飽和磁束密度材料層400も、同様の目的から、後端部が、第3の絶縁層19の位置で終わるように、パターニングする。
次に、図21に示すように、第1の磁極層210にトレンチ部分410を形成し、その内部にAl2O3などの無機絶縁物420を充填し、表面をCMP法などによって平坦化した後、図22に図示するように、記録ギャップ層24、第2の磁極222、第1の薄膜コイル231、第2の磁極222及び後方結合部25などを形成する。第1の薄膜コイル231は、絶縁層261によって第1の磁極層210から電気的に絶縁されており、また、周囲が有機絶縁層262及び無機絶縁層263によって埋められている。
次に、第1の薄膜コイル231、記録ギャップ層24、第2の磁極222、後方結合部25及び無機絶縁層263の表面を、CMP処理よって平坦化した後、図23に図示するように、平坦化された面上に、絶縁層264をスパッタ法によって形成し、絶縁層264の表面に第2の薄膜コイル232を形成する。第2の薄膜コイル232は、フレームめっき法によって形成する。
この後、図24に図示するように、第2の薄膜コイル232の周囲に、ノボラック樹脂などでなる有機絶縁層265を形成し、更に、図25に示すように、有機絶縁層265の表面に、フレームめっき法によって、第2の磁極層211を形成する。最後に保護層277(図10参照)をスパッタ法によって形成する。
上述した製造プロセスは、本発明において適用できるほんの一例であること、及び、ウエハの上で実行されるものであること、更に、垂直薄膜磁気ヘッドの製造方法にも適用できることを、付記しておく。
3.磁気ヘッド装置
本発明において、磁気ヘッド装置とは、薄膜磁気ヘッドをジンバルに取り付けたヘッド・ジンバル・組立体(Head Gimbal Assembly 以下、HGAと称する)、HGAをアームに取り付けたヘッド・アーム組立体(Head Arm Assembly 以下、HAAと称する)及び複数のHAAをスタックしたヘッド・スタック組立体(Head Stack Assembly 以下、HSAと称する)を含む概念である。
図26は磁気ヘッド装置の一部を示す正面図である。図示の磁気ヘッド装置は、先に述べた本発明に係る薄膜磁気ヘッド4と、ヘッド支持装置5とを含む。ヘッド支持装置5は、薄膜磁気ヘッド4を支持する。
ヘッド支持装置5は、一端部で薄膜磁気ヘッド4を支持している。ヘッド支持装置5は、金属薄板でなる支持体51の長手方向の一端にある自由端に、同じく金属薄板でなる可撓体を取付け、この可撓体の下面に薄膜磁気ヘッド4を取付けた構造となっている。具体的には、可撓体は、支持体51の先端を自由端とした舌状片524を有する。支持体51の下面には、例えば半球状の荷重用突起525が設けられている。この荷重用突起525により、支持体51の自由端から舌状片524へ荷重力が伝えられる。本発明に適用可能なヘッド支持装置5は、上記実施例に限定するものではなく、これまで提案され、またはこれから提案されることのあるヘッド支持装置5を広く適用できる。
薄膜磁気ヘッド4は、舌状片524の下面に接着等の手段によって取付けられ、ピッチ動作及びロール動作が許容されるように支持されている。
本発明に適用可能なヘッド支持装置5は、上記実施例に限定するものではなく、これまで提案され、またはこれから提案されることのあるヘッド支持装置5を、広く適用できる。例えば、支持体51と舌状片524とを、タブテープ(TAB)等のフレキシブルな高分子系配線板を用いて一体化したもの等を用いることもできる。また、従来より周知のジンバル構造を持つものを自由に用いることができる。
4.磁気ディスク装置
本発明に係る磁気ディスク装置は、磁気ヘッド装置と、磁気ディスクとを含む。前記磁気ヘッド装置は、先に述べた本発明に係る磁気ヘッド装置である。前記磁気ディスクは、前記磁気ヘッド装置と協働して、磁気記録の書込み及び読出しに供される。
図27は、図26に示した磁気ヘッド装置を用いた磁気ディスク装置の斜視図である。図示された磁気ディスク装置は、軸70の回りに回転可能に設けられた磁気ディスク71と、薄膜磁気ヘッド4と、薄膜磁気ヘッド4を磁気ディスク71のトラック上に位置決めするためのアッセンブリキャリッジ装置とを備えている。
アセンブリキャリッジ装置は、軸74を中心にして回動可能なキャリッジ75と、このキャリッジ75を回動駆動する例えばボイスコイルモータ(VCM)からなるアクチュエータ76とから主として構成されている。
キャリッジ75には、軸74の方向にスタックされた複数の駆動アーム77の基部が取り付けられており、各駆動アーム77の先端部には、薄膜磁気ヘッド4を搭載したヘッド支持装置5が固着されている。各ヘッド支持装置5は、その先端部に有する薄膜磁気ヘッド4が、各磁気ディスク71の表面に対して対向するように駆動アーム77の先端部に設けられている。
以上、好ましい実施例を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。