JP3847632B2 - 超臨界水を用いた低レベル放射性廃棄物の処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、低レベル放射性廃棄物中の難燃性物質を分解して、その全体量を少量化かつ無害化して廃棄することが出来るようにした低レベル放射性廃棄物の処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、放射性廃棄物のような有害性の強い廃棄物の場合、コンクリート詰め、または、ガラス内封入等の処理を施した後、土中に埋設したりするような手段が採られていた。 これは低レベルの放射性廃棄物の場合も同様である。
【0003】
一方、核燃料サイクル機構人形峠環境センターにおいて、過酸化水素を酸化剤として用いた超臨界水酸化法によって低レベル放射性廃棄物中の難燃物質の減容化が行われたことが報告されている。 このような手段で難燃物質部分の減容化を図ることにより、低レベル放射性廃棄物の全体量が少量化されるため、その廃棄作業は、これをそのままの状態で処理する場合に比して、作業能率は著しく高められることとなる。
【0004】
然し乍、上記環境センターの報告では、上記難燃物質を完全に分解するまでには至っておらず、そのため、超臨界水酸化法によって難燃物質を完全に処理することは、極めて困難であると考えられていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
前記したように、低レベル放射性廃棄物はその難燃性有機成分物の処理が燃焼手段に依存することができないため、埋設処理等に依存せざるを得なかった。 従って、その有害性のためにそのままの状態では埋設することができず、コンクリート詰め処理、または、プラスチック詰め処理等を施さなければならなかった。 そして、このような処理形態であると、当該廃棄物は何らの減量化を図られていないそのままの状態で廃棄処理とする関係上、量的に著しく膨大化し、廃棄場所確保の困窮化、処理費用の高騰化、埋設作業の著しい負担性等の問題が必然伴うことを余儀なくされた。
【0006】
更に、前記核燃料サイクル機構人形峠環境センターにおいて行われた超臨界水酸化法に依存した場合も、難燃物質を完全に処理することは、極めて困難であることが判明している。
【0007】
発明者は、超臨界水中において有機物を効果的に分解するために有効な触媒の探求を行い、その結果、酸化ルテニウム(IV)が有機物全般を超臨界水中において極めて高率での気体分解作用が奏される特筆できる有用性を具えた触媒であることを確認した。 本発明はこれにより、低レベル放射性廃棄物中の有機成分に対する殆ど完全に近い高率的な分解作用を促進させ、低レベル放射性廃棄物の著しい量的減少化を図り、もって、上記したような従来の問題を解消した「低レベル放射性廃棄物の分解処理方法」と言う新規な方法の提供を図ったものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、超臨界水中において酸化ルテニウム(IV)を触媒として用い、高分子化合物を酸化・還元的に分解し気体に変換すると共に、これに付着していた放射性の鉄及びコバルト等の放射性金属を不溶性酸化物に変換し、然る後、ガラス固化を図った後に廃棄するようにした低レベル放射性廃棄物の処理方法に係る
【0009】
具体的には、低レベル放射性廃棄物を超臨界水の中に浸漬すると共に、当該超臨界水中において、酸化ルテニウム(IV)を触媒とする酸化・還元反応を起こさせ、当該反応に基づき、当該低レベル放射性廃棄物中のプラスチック及び布等の高分子化合物を気体に変換し、当該低レベル放射性廃棄物に付着していた放射性の鉄及びコバルト等の放射性金属を沈殿に基づく不溶性の酸化物に変換し、然る後、当該不溶性酸化物に、天然に存在する安定同位体を添加あるいは天然に存在する安定同位体を添加せずに、ガラス固化を図って分離した後に廃棄することを特徴とする低レベル放射性廃棄物の処理方法に係るものである。
【0010】
本発明は、上記のような構成に基づき、従来の問題を解決したものである。
【0011】
【発明の実施の形態】
原子力発電所等原子力を扱う場所では、微量の放射性物質(大部分は放射性の鉄とコバルトである)が付着したプラスチックや布等の廃棄物が発生する。 そして、このような廃棄物は通常低レベル放射性廃棄物と呼ばれている。
【0012】
本発明は上記のような低レベル放射性廃棄物を処理するための新規な方法を提供するものである。 すなわち、本発明方法は、超臨界水中において酸化ルテニウム(IV)、RuO2を触媒として用い、高分子化合物を気体に変換すると共に、これに付着していた放射性の鉄及びコバルト等の放射性金属を不溶性酸化物に変換し、然る後、ガラス固化を図った後に廃棄処理を行うことを特徴とする低レベル放射性廃棄物の処理方法を要旨とするものである。
【0013】
本発明方法を具体的に述べればつぎの通りである。
低レベル放射性廃棄物を超臨界水の中に浸漬すると共に、当該超臨界水中において、酸化ルテニウム(IV)を触媒とする反応を起こさせる。 当該反応に基づき、上記低レベル放射性廃棄物中のプラスチック及び布等の高分子化合物は気体に変換される。 同時に、当該低レベル放射性廃棄物に付着していた放射性の鉄及びコバルト等の放射性金属は沈殿に基づく不溶性の酸化物に変換させられる。 然る後、当該不溶性酸化物に天然に存在する安定同位体を添加することによりガラス固化を図って分離した後に廃棄処理を行う。 また、法律上定められた基準値を下回る放射能と判断した場合には、ガラス固化を図らず海洋投棄を行う。
【0014】
上記したガラス固化のためのものとして、好ましくはケイ素アルコキシドが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0015】
また、ガラス固化が図られた処理済みの廃棄物であるが、これは土中に埋設したりするような手段を採るものであるが、当該廃棄物の毒性が微弱でかつ極めて少量の場合は、単なる投棄手段に依存してもよい。 また、当該廃棄物の毒性が比較的強いと判断した場合には、コンクリート詰め処理、または、プラスチック詰め処理等を施せばよい。
【0016】
更に、超臨界水中において酸化ルテニウム(IV)を触媒として用いて変換された気体であるが、当該気体はメタン、水素、エタン、プロパンのような可燃性ガス及び二酸化炭素であることが確認された。 従って、可燃性ガスは燃焼によって処理し、二酸化炭素は塩基性水溶液を用いた捕集によって処理するものである。
【0017】
ところで、水は臨界温度の374℃に加熱され、その際の圧力が臨界圧力の22.1MPa に達している場合に臨界状態となる。 水を反応容器に充填し、374℃以上に加熱した場合、圧力は充填された水の質量によりコントロールされ、22.1MPa 、またはこれ以上の圧力に達する。 このような状態にある水は超臨界水と称されている。 そして、当該超臨界水中においては分解作用が促進されることが確認されている。
【0018】
本発明において触媒として使用する酸化ルテニウム(IV)であるが、これは、当該酸化ルテニウム(IV)が液体状態、固体状態、直鎖状構造、環状構造等の何れの状態であっても、有機物全般を超臨界水中において、極めて高効果率で気体に分解することが実験により確かめられた。 そのため、本発明において、超臨界水中で使用する有機物分解用触媒として酸化ルテニウム(IV)を用いることを決定した。
【0019】
分解処理対象である難燃性物質としては、ポリ塩化ビニル(PVC)、ガラス繊維プラスチック(FRP)、テフロン(登録商標)樹脂(PTFE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ダイフロン(PFA)、ポリスチレン(PS)、天然ゴム(ラテックス)、ポリカーボネート、ポリエステル等のポリマー構造を有する化合物が挙げられる。
【0020】
難燃性物質の分解実験例として、ポリエチレンの分解実験例を示せば、下記の通りである。
バッチ式超臨界水反応容器にポリエチレン100mg(−C2H4−を単位としたときの見かけの物質量、3.56mmol)、酸化ルテニウム(IV)(RuO2)20mg、水3mlを仕込み、密閉後、加熱し、450℃で2時間反応させた。放冷後、この超臨界水反応容器を真空ガラスラインに連結し、オンラインガスクロマトグラフィーにより発生した気体成分の定量分析を行った。 また、油状有機残渣はクロロホルムにより抽出し、水相から分離して回収した。 この結果、ポリエチレンは99%が気体成分に分解しており、有機残渣を痕跡量程度(0.9mg)残すのみであった。 図1に示したガスクロマトグラム(検出器:FID、分離カラム:PorapakQ、キャリアガス:Ar)より、分解したポリエチレンの60%がメタン(4.25mmol)、3.4%がエタン(0.120mmol)、3.7%がプロパン(0.0868mmol)に転化していることが確認された。 これらの転化率はポリエチレンに含まれる炭素の総量およびそれぞれの炭化水素ガスに含まれる炭素の総量から算出された値である。 また、図2に示したガスクロマトグラム(検出器:TCD、分離カラム:モレキュラーシーブ5A、キャリアガス:Ar)により、多量の水素(1.49mmol)も同時に生成していることが確認された。 その他の気体成分は、図3に示したガスクロマトグラム(検出器:TCD、分離カラム:PorapakQ、キャリアガス:Ar)により、二酸化炭素であることが確認された。
【0021】
難燃性物質の分解実験例として、ポリスチレンの分解実験例を示せば、下記の通りである。
バッチ式超臨界水反応容器にポリスチレン100mg(−C8H8−を単位としたときの見かけの物質量、0.960mmol)、酸化ルテニウム(IV)(RuO2)20mg、水3mlを仕込み、密閉後、加熱し450℃で2時間反応させた。 放冷後、この超臨界水反応容器を真空ガラスラインに連結し、オンラインガスクロマトグラフィーにより発生した気体成分の定量分析を行った。 また、油状有機残渣はクロロホルムにより抽出し、水相から分離して回収した。 この結果、ポリスチレンは99%が気体成分に分解しており、有機残渣を痕跡量程度(1.1mg)残すのみであった。 図4に示したガスクロマトグラム(検出器:FID、分離カラム:PorapakQ、キャリアガス:Ar)より、ポリスチレンの61%がメタン(4.69mmol)、0.20%がエタン(0.00756mmol)、0.091%がプロパン(0.00234mmol)に転化していることが確認された。 これらの転化率はポリスチレンに含まれる炭素の総量およびそれぞれの炭化水素ガスに含まれる炭素の総量から算出された値である。 また、図5に示したガスクロマトグラム(検出器:TCD、分離カラム:モレキュラーシーブ5A、キャリアガス:Ar)により、多量の水素(1.04mmol)も同時に生成していることが確認された。 その他の気体成分は、図6に示したガスクロマトグラム(検出器:TCD、分離カラム:PorapakQ、キャリアガス:Ar)により、二酸化炭素であることが確認された。
【0022】
ポリエチレンやポリスチレン(高分子化合物)の可燃性ガスである低級炭化水素(メタン、エタン、プロパン)への転化および水素の生成は、酸化ルテニウム(IV)が、還元的分解反応を触媒したことを示している。 これと同時に、二酸化炭素への転化は、酸化ルテニウム(IV)が酸化的分解反応も触媒したことを示してる。 そして、このような高分子化合物の還元的分解反応による低級炭化水素への転化および水素の生成は、酸化反応により有機物を分解する超臨界水酸化法とは大きく異なる点である。
【0023】
上記したポリスチレンの分解実験の結果は、酸化ルテニウム(IV)が、ポリスチレンの直鎖構造を酸化と同時に還元的に切断し、ポリエスチレンが有するベンゼン置換基を酸化と同時に還元的に開環することを示している。 これにより、酸化ルテニウム(IV)は超臨界水中においてあらゆる有機化合物を酸化・還元的に分解することができる触媒であると結論づけられる。、
【0024】
低レベル放射性廃棄物の場合、酸化ルテニウム(IV)を触媒として用いた超臨界水中において、プラスチックや布等は気体に変換されるが、これに付着していた鉄、コバルト、ニッケル等は酸化物、Fe2O3 及びCo2O3、NiO等を生成するが、処理対象とする鉄とコバルトは極めて微量であるため、酸化物としての沈殿率を高めるために、これらの天然に存在する安定同位体を担体として添加する。 また、場合によっては、天然に存在する安定同位体を添加させなくてもよい。 同時に、超臨界水中でガラスを形成するためにケイ素アルコキシドを添加する。これは、酸化物として沈殿した放射性物質を最終的にガラスに封じ込めるためである。 この時、プラスチック、布等の有機物が気体に分解する際に発生する痕跡程度の残留固体成分も、上記ガラス内に同時に封じ込まれることとなる。
【0025】
【発明の効果】
本発明は請求項1に記載のような構成、すなわち、超臨界水中において酸化ルテニウム(IV)を触媒として用い、高分子化合物を酸化・還元的に分解し気体に変換すると共に、これに付着していた放射性の鉄及びコバルト等の放射性金属を不溶性酸化物に変換し、然る後、ガラス固化を図った後に廃棄するようにしたから、低レベル放射性廃棄物中の難燃性成分は上記分解に基づき無害なガスに転化される。 そして、わずかに残った有機物残渣は著しく微量化され放射性の鉄及びコバルト等の放射性金属と一緒にガラス固化が図られるため、低レベル放射性廃棄物の全体量が著しく少量化される。 そのため、従来のように有機廃棄物存在に基づく大量の処理量である場合に比して、廃棄処理の格段の容易性が図られることとなる。
【0026】
本発明は請求項2に記載のような構成、すなわち、低レベル放射性廃棄物を超臨界水の中に浸漬すると共に、当該超臨界水中において、酸化ルテニウムを触媒とする酸化・還元反応を起こさせ、当該反応に基づき、上記低レベル放射性廃棄物中のプラスチック及び布等の高分子化合物を気体に変換し、当該低レベル放射性廃棄物に付着していた放射性の鉄及びコバルト等の放射性金属を沈殿に基づく不溶性の酸化物に変換し、然る後、当該不溶性酸化物に天然に存在する安定同位体を添加、あるいは天然に存在する安定同位体を添加せずに、ガラス固化を図って分離した後に廃棄することにより、低レベル放射性廃棄物中の難燃性物質の廃棄処理が著しく容易かつ低コストでの実行が可能化されると同時に、有害残存物質も放射性の鉄及びコバルト等の放射性金属を不溶性酸化物と一緒にガラス固化体として処理されるため、環境浄化上の効果も卓越化される。
【0027】
本発明は請求項3に記載のような構成、すなわち、ガラス固化のためにケイ素アルコキシドを用いることにより、極めて安定したガラス固化体としての分離が可能化される。
【0028】
本発明は請求項4に記載のような構成、すなわち、超臨界水中において酸化ルテニウム(IV)を触媒として用いて変換された気体がメタン、水素、エタン、プロパンのような可燃性ガスおよび二酸化炭素であることに基づき、可燃性ガスは焼却処理することにより、また、二酸化炭素は塩基性水溶液に通して捕集処理することにより、当該ガスの無害化が図られる。
【0029】
本発明は請求項5に記載のような構成、すなわち、超臨界水の温度範囲を374℃から500℃またその圧力を22.1MPa以上とすることに依り、極めて安定した分離変換作用が奏されることとなる。
【0030】
本発明方法で触媒として用いた酸化ルテニウム(IV)の回収手法についてであるが、これを濾過することのみならずオゾンを用いて気体とし、この気体をシリカゲル等で還元することにより、再度触媒として利用可能を図るものとする。
【図面の簡単な説明】
【図1】ポリエチレンの分解実験後に得られた低級炭化水素のガスクロマトグラムを表した図である。
【図2】ポリエチレンの分解実験後に得られた水素のガスクロマトグラムを表した図である。
【図3】ポリエチレンの分解実験後に得られた二酸化炭素のガスクロマトグラムを表した図である。
【図4】ポリスチレンの分解実験後に得られた低級炭化水素のガスクロマトグラムを表した図である。
【図5】ポリスチレンの分解実験後に得られた水素のガスクロマトグラムを表した図である。
【図6】ポリスチレンの分解実験後に得られた二酸化炭素のガスクロマトグラムを表した図である。
Claims (4)
- 超臨界水中において酸化ルテニウム(IV)を触媒として用い、高分子化合物を酸化・還元的に分解し気体に変換すると共に、これに付着していた放射性の鉄及びコバルト等の放射性金属を不溶性酸化物に変換し、然る後、ガラス固化を図った後に廃棄するようにした低レベル放射性廃棄物の処理方法。
- 低レベル放射性廃棄物を超臨界水の中に浸漬すると共に、当該超臨界水中において、酸化ルテニウム(IV)を触媒とする酸化・還元反応を起こさせ、当該反応に基づき、上記低レベル放射性廃棄物中のプラスチック及び布等の高分子化合物を気体に変換し、当該低レベル放射性廃棄物に付着していた放射性の鉄及びコバルト等の放射性金属を沈殿に基づく不溶性の酸化物に変換し、然る後、当該不溶性酸化物に天然に存在する安定同位体を添加すると共にガラス固化を図って分離した後に廃棄することを特徴とする低レベル放射性廃棄物の処理方法。
- ガラス固化のためにケイ素アルコキシドを用いた請求項1または請求項2に記載の低レベル放射性廃棄物の処理方法。
- 超臨界水中において酸化ルテニウム(IV)を触媒として用いて変換された気体がメタン、水素、エタン、プロパンのような可燃性ガス及び二酸化炭素であることに基づき、可燃性ガスを燃焼により処理し、二酸化炭素を塩基性水溶液により捕集処理することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の低レベル放射性廃棄物の処理方法。
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