JP3845638B2 - Nbドシメータの放射化量測定方法 - Google Patents

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本発明は、Nb(ニオブ)ドシメータ中不純物による妨害X線を除去し、放射化による 93mNbの放射能量を高信頼度で測定できるようにしたNbドシメータの放射化量測定方法に関するものである。
原子炉構造材のサーベイランス試験や原子炉燃料・材料の照射試験では、中性子照射量を評価する必要がある。原子炉における中性子照射量の測定には、ドシメータと呼ばれる金属のワイヤや箔が用いられている。ドシメータを原子炉内等の中性子を測定したい場所に装着して原子炉を運転すると、中性子とドシメータが反応し、放射化する。放射化生成物の量は、放射線計測により測定できるので、その量を測定することで中性子照射量を算出することができる。金属は種類により、反応する中性子のエネルギーが異なるので、ドシメータとしては、ニオブの他に、鉄、ニッケル、銅、コバルト、チタン、タンタルなどが用いられている。ドシメータの形状や大きさは、測定したい場所の中性子の強度やスペースに依存するが、例えば数mm程度に切断したワイヤや数mm四方に切断した箔が用いられている。
これら様々な金属からなるドシメータの中で、高速中性子照射量の測定には、93Nb(n,n′) 93mNb反応を利用するNbドシメータが適している。その理由は、しきい値が低いこと、(n、n′)断面積の形が損傷関数の形に近いこと、生成する 93mNbの半減期が長いことなどである。このNbドシメータの放射化量測定では、93Nb(n,n′)反応で生成した 93mNbを定量するが、 93mNbはγ線を放出しないため、内部転換に伴い放出される特性X線を計測することになる。
ところでニオブ(Nb)は、その主要鉱物であるタンタル石、コンブル石中にタンタル(Ta)と共存しており、Nb精製後もTaが不純物として残留しやすい。このTaは、中性子捕獲反応断面積が大きく、中性子照射により放射化し、 182Taが生成する。この 182Taが放出するγ線が93Nbの軌道電子をはじき出し、 93mNbの内部転換と同一エネルギーの特性X線を放出させる。
従って、照射後のNbドシメータから放出される特性X線は、 93mNbからと 182Taに起因するものの和である。中性子照射量評価に必要なのは 93mNbからの特性X線のみであり、 182Taに起因する分は除去する必要がある。その方法として考えられるのは、(a)時間をおいて減衰させる方法、(b)化学処理により分離する方法の2つである。(b)の化学分離に関しては、現在、ドシメータの製造時に可能な限りTaを分離しており、これ以上Taの不純物濃度を低減させるのは困難である。そこで従来用いられている方法は、(a)の減衰方法である(例えば非特許文献1参照)。この方法では、 182Taの半減期(114日)が 93mNbの半減期(16.4年)よりも遙かに短いことを利用して、 182Taを先に減衰させてから 93mNbを測定する。
ここで問題となるのは、「 182Taを減衰させた」という状態をどのように判断するかである。従来の考え方は、測定時に 182Taそのものを検出できなければ 182Taの影響もないであろうというものである。例えば、非特許文献1には、照射後、415日置いて 182Taを減衰させており、415日後の測定で 182Taが 93mNbに影響を及ぼしていないと記載されている。
しかし、本当に判断しなければならないのは、 182Taに起因する妨害X線が、 93mNbが出すX線に比べて無視できるか否かである。従来、これを定量的に評価する方法が無かったために、 182Ta自身が直接出すγ線に着目し、このγ線が検出できなくなれば、 182Taに起因する妨害X線の影響も無視できるであろうと仮定して測定を行っていたのである。そのため、一般に試料の保管期間が長くなりがちで、測定の迅速化と高信頼度は両立しえなかった。
「93Nb(n,n′) 93mNb反応による高速中性子フルエンスモニタの測定」桜井淳、原子力工業、第26巻第8号、p13〜16、日刊工業新聞社(1980年)
本発明が解決しようとする課題は、 182Taに起因する妨害X線の影響を排除するために、従来技術では 182Ta自身が直接出すγ線が検出できなくなるのを待って測定するため、試料の保管期間が長くなりがちで、測定の迅速化と高信頼度が両立しえなかった点である。
本発明の第1の方法は、Nbドシメータを溶解・乾燥固化処理した試料の放射化量を測定する方法において、非放射性の93Nbを添加した試料と、添加していない試料それぞれの特性X線を測定し、両者の強度が一致するまで減衰させ、それを確認した後に 93mNbの放射能量を測定することを特徴とするNbドシメータの放射化量測定方法である。
また本発明の第2の方法は、Nbドシメータを溶解・乾燥固化処理した試料の放射化量を測定する方法において、非放射性の93Nbを添加した試料と、添加していない試料それぞれの特性X線を測定し、両者の強度差と93Nb量の差から 182Taに起因する特性X線を求めて排除することにより、 93mNbの放射能量を求めることを特徴とするNbドシメータの放射化量測定方法である。
これら2つの方法を組み合わせることも有効である。まず、第2の方法で放射化量を求め、その後、第1の方法で放射化量を確定する手順とする。具体的には、Nbドシメータを溶解・乾燥固化処理した試料の放射化量を測定する方法において、非放射性の93Nbを添加した試料と、添加していない試料それぞれの特性X線を測定し、両者の強度差と93Nb量の差から 182Taに起因する特性X線を求めて排除することにより 93mNbの放射能量を求め、その後、添加していない試料それぞれの特性X線の強度が一致するまで減衰させ、それを確認した後に 93mNbの放射能量を測定することを特徴とするNbドシメータの放射化量測定方法である。
本発明に係る上記第1のNbドシメータの放射化量測定方法は、妨害X線の影響が無くなったことを定量的に判断できるので、その時点で 182Taのγ線が検出されても、保管を終了して測定を行うことができ、迅速に且つ高信頼度で測定できる。また上記第2のNbドシメータの放射化量測定方法は、 182Taによる妨害X線の影響があっても、それを排除できるため、更に測定の迅速化が可能となる。
Nbの放射化量測定は、Nbを溶解・乾燥固化させてからX線スペクトルを測定することにより行う。この過程で、Nb溶液に非放射性の93Nbを添加した試料(これを「試料A」と称す)と、添加していない試料(これを「試料B」と称す)を作製する。試料Aでは、添加した93Nbからも 182Taに起因する特性X線が放出される。従って、試料Aと試料Bは、 93mNbに起因する特性X線強度は等しく、 182Taに起因する特性X線強度は試料Aの方が大きい。これら2種類の試料を用いて、以下の2通りの方法により、妨害となる 182Taに起因する特性X線を除去する。
第1の方法は、 182Taに起因する特性X線を減衰させ、これを定量的に確認する方法である。上記試料A、Bの特性X線強度の時間経過を測定し、 182Taに起因する特性X線が減衰して 93mNbに起因する特性X線のみが残留する状態になれば、試料A、Bの特性X線強度は一致する。従って、両試料の特性X線強度が一致すれば、 182Taに起因する特性X線を除去できたと判断できる。これが確認された状態において、特性X線を測定し、 93mNbの放射能量を測定する。このようにすれば、 182Taに起因する特性X線による妨害が排除された高精度なNbの放射化量測定が行える。
第2の方法は、 182Taに起因する特性X線の強度を評価し、補正する方法である。上記の試料Aと試料Bの特性X線測定値の差は、非放射性の93Nb添加に起因するものであり、その添加量を事前に定量すれば、93Nb添加量とそれに起因する特性X線強度の関係が得られる。Nbドシメータの量は既知であるから、これと前述の関係により、試料Bの特性X線測定値のうち、 182Taに起因する分を計算することができる。これを試料Bの特性X線測定値から差し引くことで、 93mNbに起因する特性X線のみの強度を求めることができる。
Nbドシメータの放射化量測定フローの一例を図1に示す。
(1)試料溶解
ビーカ10等にフッ酸(HF)や硝酸(HNO3 )、あるいはこれらの混合物(HF+HNO3 )を入れ、これにNbドシメータ12を入れて溶解し、Nbの溶液を作製する。
(2)容量調整
この後で、乾固試料を作製し測定するときに適切なNb量になるように、溶液の濃度を調整する。具体的には、溶解時よりも濃度を薄めることになるので、純水を入れて希釈する。
(3)採取
乾固試料を作製するために、溶液を採取する。採取量は10-73 レベルの極少量であり、マイクロピペットを用いる。マイクロピペットで採取した極少量の溶液を、樹脂フィルムの上に滴下する。なお、採取量の測定は、滴下前後の樹脂フィルムの重量を電子天秤で測定し、差をとることにより行う。この場合、一方の試料には所定量の93Nbを添加し(試料A)、他方の試料はそのまま無添加(試料B)とする。
ここで試料Aを調製するには、例えば次のような手順で行えばよい。上記(1)試料溶解及び(2)容量調整と同様の手法により、93Nbを酸で溶解し、純水で希釈して、適切なNb量になるように濃度を調整する。このように調製したNb溶液を、マイクロピペット等で所定量採取し、上記(1)試料溶解及び(2)容量調整で作製したNbドシメータの溶液に滴下し、混合する。この混合液を採取し、試料Aとなる乾固試料を作製する。
(4)乾固試料調製
試料を樹脂フィルム上に滴下した後、ヒータ14で60℃程度に加熱し、乾燥させる。水分が完全に蒸発した後、別の樹脂フィルムを重ね、小さく切り抜き(例えば直径2cm程度)、周囲を加熱して溶着し、測定用の試料とする。
(5)放射能測定
Ge半導体検出器を用いて、作製した試料から放出される特性X線の強度を測定する。
Nbドシメータの特性X線測定結果の一例を図2に示す。
第1の方法では、試料A、Bの特性X線強度の時間経過を測定し、試料A、Bの特性X線強度が一致した状態になった後に、特性X線を測定する。この状態は、 182Taに起因する特性X線が減衰して 93mNbに起因する特性X線のみが残留している状態である。つまり、 182Taに起因する特性X線を除去できたことを定量的に確認できる状態であり、 182Taに起因する特性X線による妨害が排除されて高精度で 93mNbの放射化量測定が行える。
ドシメータの放置・保管場所は、 182Taの放射性崩壊を待つのが目的であるから、環境には依存しない。保管期間は、特性X線中の妨害X線の量に依存し、これはドシメータ中のTa不純物の濃度、ドシメータを照射した場の中性子量(強度、照射時間)、中性子のエネルギー( 93mNbは高エネルギー中性子、 182Taは低エネルギー中性子で生成しやすい)により変化する。高速実験炉「常陽」の幾つかの例では、保管期間が殆ど不要な(直ぐに測定しても 182Taの影響が無い)例から、2年程度保管が必要な例まで様々であることも分かった。
この第1の方法は、妨害X線を完全に(誤差要因にならないという意味で)除去できるので、測定誤差は通常のドシメータ測定誤差のみである。これは、照射・測定体系などに依存するが、例えば高速実験炉「常陽」の場合には3%程度である。この方法によれば、Nbドシメータの放射化量測定において、不純物の 182Taに起因する特性X線の影響を除去できる減衰期間を定量的に求めることが可能となり、これにより、妨害X線の影響が無くなったことを定量評価できるので、過度に保管期間が長くならず、また保管期間が短すぎるため誤差が増大することもなく、最短期間で信頼性の高い測定値が得られる。
第2の方法では、 182Taに起因する特性X線の強度を計算し、これを試料Bの特性X線測定値から差し引くことで、 93mNbに起因する特性X線のみの強度を求める。具体的な手順は次の通りである。
(1)ドシメータの重量、即ち93Nbの量をaとし、このドシメータの照射後の特性X線の量をX1 とする。X1 は、 93mNbが放出する特性X線と、 128Taが量aの93Nbに作用して発生する特性X線の合計である。
(2)他方、非放射性の93Nbを量b添加した試料の特性X線量をX2 とする。X2 は、 93mNbが放出する特性X線と、 128Taが量(a+b)の93Nbに作用して発生する特性X線の合計である。
(3)上記より、X2 とX1 の差(X2 −X1 )は、 183Taが、量bの93Nbに作用して発生する特性X線の量となる。
(4) 182Taが作用する93Nbの量と、それにより発生する特性X線の量は、比例関係にあると考えられるので、(X2 −X1 )×a/bは、量a、即ちドシメータの93Nbに 182Taが作用して発生する特性X線の量となる。
(5)X1 から上記の分を差し引いた値〔X1 −(X2 −X1 )×a/b〕は、ドシメータの特性X線測定値から、 182Taによる分が差し引かれた、 93mNbによる分のみの値となる。
このようにして、 93mNbに起因する特性X線のみの強度を求めることができる。
この方法は、 182Taの減衰を待つ必要がないので、測定結果を得るまでの期間が非常に短くて済む利点がある。但し、誤差は非放射性Nbを添加した試料(試料A)と無添加の試料(試料B)のそれぞれの測定値を用いて引き算を行うので、両試料の測定誤差が加わり、且つ引き算を行うので最終的な誤差の大きさはそれぞれの測定値の大きさに依存する。具体的には、妨害X線の寄与が殆ど無ければ引き算をしても直接得られる測定値と殆ど変わらない。しかし、妨害X線の寄与が大部分であると、誤差が増大する。従って、この方法による誤差を評価することにより、妨害X線の寄与の程度を把握でき、測定値の妥当性を判断できる。
第1の方法と第2の方法を組み合わせ、まず第2の方法で放射化量を求め、その後、第1の方法で放射化量を確定すれば、推定的な測定値が早期に得られ、また最終的に精度の高い測定値も得られる。
なお、第1の方法では、次のような簡便な方法で試料Aを調製することもできる。それは、Nbドシメータの溶液(93Nb無添加)を樹脂フィルム上に滴下した後、前述の手順で調製した93Nb溶液をマイクロピペットで極少量採取し、樹脂フィルム上に滴下されたNbドシメータの溶液の上に滴下する方法である。この方法は、溶液同士を混ぜ合わせないので、溶液の使用量が極少量で済み、手順も簡略化できる利点がある。しかし、逆に両方の溶液が完全に混ざり合わないため、 182Taの影響を定量的に評価することはできない。従って、この簡便な方法は、 182Taの影響の有無を判断できればよい第1の方法には適用できるが、第2の方法、あるいは第2の方法と第1の方法を組み合わせる方法には適用できない。
本発明に係るNbドシメータの放射化量測定方法のフロー図。 Nbドシメータの特性X線測定結果の一例を示すグラフ。
符号の説明
10 ビーカ
12 Nbドシメータ
14 ヒータ

Claims (3)

  1. Nbドシメータを溶解・乾燥固化処理した試料の放射化量を測定する方法において、非放射性の93Nbを添加した試料と、添加していない試料それぞれの特性X線を測定し、両者の強度が一致するまで減衰させ、それを確認した後に 93mNbの放射能量を測定することを特徴とするNbドシメータの放射化量測定方法。
  2. Nbドシメータを溶解・乾燥固化処理した試料の放射化量を測定する方法において、非放射性の93Nbを添加した試料と、添加していない試料それぞれの特性X線を測定し、両者の強度差と93Nb量の差から 182Taに起因する特性X線を求めて排除することにより 93mNbの放射能量を求めることを特徴とするNbドシメータの放射化量測定方法。
  3. Nbドシメータを溶解・乾燥固化処理した試料の放射化量を測定する方法において、非放射性の93Nbを添加した試料と、添加していない試料それぞれの特性X線を測定し、両者の強度差と93Nb量の差から 182Taに起因する特性X線を求めて排除することにより 93mNbの放射能量を求め、その後、添加していない試料それぞれの特性X線の強度が一致するまで減衰させ、それを確認した後に 93mNbの放射能量を測定することを特徴とするNbドシメータの放射化量測定方法。
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