JP3842844B2 - 耳介の形態異常治療用矯正具 - Google Patents
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- A61F2002/183—Ear parts
Description
【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新生児の耳介のように成長途上の軟骨組織で形成された部位の形態異常を矯正するための矯正具及びその製造方法に関する。
【０００２】
【従来の技術】
従来、耳介の形態異常用矯正具には鋼線にＮｉメッキを施したゼムクリップ、歯科矯正用サンプラチナ線など弾性力のない金属線を曲げて、シリコンゴムチューブなどに通したものが使用されてきた。
【０００３】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来の弾性力の無い矯正具では耳介の矯正量が大きいときには、一度に矯正しようとすると、耳介に無理な強い矯正力がかかり炎症が発生するという問題があった。このため、耳介に無理な強い矯正力がかからないよう徐々に耳介を矯正する必要があり、複数回にわけて矯正具を作成しなければならないという問題があった。また、従来の矯正具は弾力がなく形状が固定されているため、複雑な形状の矯正具を作成すると、耳介への装着、取り外しが容易でないという問題があった。
【０００４】
そこで、本発明は超弾性力のある矯正具を使用することにより、耳介に無理な矯正力をかけることなく、一度に大きい量の矯正を行い、矯正具の作成回数を１回で済むようにすることを目的としている。また耳介への装着、取り外しを容易にすることを目的としている。さらにこの矯正具を簡便にかつ安価に製造することを目的としている。
【０００５】
【課題を解決するための手段】
請求項１記載の発明は、耳介の形態異常治療用矯正具であって、超弾性機能を有し、所定の範囲の変態点温度を有する形状記憶合金の線材を、治療後の目標となる耳介形状に合わせて形状記憶させて作成され、かつ、該形状記憶合金の周囲が多孔性緩衝材によって被覆されていることを特徴とする。
【０００６】
請求項２記載の発明は、前記形状記憶合金の変態点温度が０℃以上３７℃未満であることを特徴とする。
【０００８】
請求項３記載の発明は、前記緩衝材が、延伸多孔性ポリテトラフッ化エチレン（ＰＴＦＥ）チューブであることを特徴とする。
【００１１】
請求項１記載の発明によれば、超弾性の形状記憶合金でできた矯正具のため、大きく変形させて耳介に装着しても極端に大きな矯正力がかかることはなく、耳介が成長して大きくなり、矯正具の変形量が変わっても、耳介にかかる矯正力はほぼ一定のままである。また、耳介が目標形状となったときに矯正力がかからない。
また、同時に、形状記憶合金の周囲を多孔性緩衝材によって被覆したので、耳介にかかる圧力を分散することができ、さらに空気透過性が良いため、褥瘡のような炎症が起こりにくい。
【００１２】
請求項２記載の発明によれば、変態点温度が０℃から、ほぼ耳介の体温である３７℃未満の形状記憶合金の線材を使用することにより、矯正具を冷やして変態点温度以下にすると自由に変形できるようになり、耳介への装着、取り外しを容易にすることができる。また耳介に装着して体温によって変態点温度以上になると、記憶させておいた形状に変形させることができる。
【００１４】
請求項３記載の発明によれば、延伸多孔性ポリテトラフッ化エチレン（ＰＴＦＥ）を緩衝材として使用したので、緩衝材を薄くすることができ、柔軟で形状記憶合金の超弾性の性質を損なうことがない。また多孔質で空気透過性が良く、生体適合性も良いため、褥瘡のような炎症も起こりにくい。
【００１７】
【発明の実施の形態】
次に、本発明に係る耳介の形態異常治療用矯正具の実施の形態の具体例を図面を参照しながら説明する。
図１は、本発明に係る耳介の形態異常治療用矯正具の一実施例として、耳介が側頭部側に埋没したような状態となっているいわゆる埋没耳の矯正具を耳介に装着した状態を示す。この矯正具１は、線材２と緩衝材３からなり、線材２は、その全体が、変態点温度が０℃から耳介の体温であるほぼ３７℃未満の形状記憶合金であって、超弾性機能を有するＴｉ−Ｎｉ合金等で形成されている。また、線材２は、緩衝材３としての延伸多孔性ポリテトラフッ化エチレン（ＰＴＦＥ）チューブにより被覆されている。
【００１８】
緩衝材として延伸多孔性ポリテトラフッ化エチレン（ＰＴＦＥ）チューブを使用するのは、弾性力が比較的強い従来のシリコンゴムチューブを用いると、形状記憶合金の超弾性の性質を損なうことになるが、延伸多孔性ポリテトラフッ化エチレン（ＰＴＦＥ）チューブの場合には、非常に薄くすることができ、柔軟で形状記憶合金の超弾性の性質を損なうことがないためである。
【００１９】
また、無孔質のシリコンゴムチューブでは皮膚に接触させたときに蒸れて褥瘡の起こる可能性があるが、延伸多孔性ポリテトラフッ化エチレン（ＰＴＦＥ）チューブの場合は、多孔質で空気透過性が良く、生体適合性も良いため、褥瘡のような炎症も起こりにくくなる。
【００２０】
線材２は、目標の耳介形状に形成され、新生児の耳介に装着される耳介部２ａと、耳の付け根の側頭部に装着される側頭部２ｂと、これらを連結する連結部２ｃとで構成されている。そして、これらの全体が緩衝材３によって被覆されている。
【００２１】
図２は、本発明に係る耳介の形態異常治療用矯正具のもう一つの実施例として、形成不全の対輪脚用の矯正具を装着した状態を示す。ここで、対輪脚が形成不全とは、図において、Ｅ’の部分に本来存在すべき対輪上脚が存在せず、この部分がその周囲と同様に平面状になっているものである。そこで、矯正具１’によってＥ’部分をつまんで持ち上げるようにすることで、対輪上脚を形成するものである。従って、矯正具１’は、矯正具１と比較して形状が異なるのみであって、線材２と緩衝材３とからなり、その材質も矯正具１の場合と同様である。
【００２２】
尚、上記埋没耳や、対輪脚の形成不完全の場合の他に、例えば折れ耳の場合は耳輪の部分のみの矯正具を作成すればよく、耳介の形状異常の状況に適合させて矯正具の形状を適宜変更すれば良い。
【００２３】
上記のとおり、変態点温度が０℃から耳介の体温未満の形状記憶合金の線材を使用しているのは、矯正具を氷水などに漬けて変態点温度以下にすると自由に変形できるようになり、耳介への装着、取り外しを容易にすることができるからである。また耳介に装着して体温で変態点温度以上になると、記憶させておいた形状に変形させることができる。
【００２４】
次に、上記耳介の形態異常治療用矯正具の製造方法について、図３乃至図８を参照しながら説明する。
製造方法の全体の手順を図３に示す。最初に、目標となる治療後の耳介形状を決定する。この目標となる耳介形状は正常側の耳、兄弟等の肉親の耳の形状を計算機上に取り込み、左右反転、拡大縮小処理を行って作成する。耳介の三次元形状を計算機に取り込む方法としては、レーザーを利用する方法、モアレ縞を利用する方法、直接または型取りをした石膏像をＸ線ＣＴ装置にかけて断面像を入力する方法などがあるが、このＸ線ＣＴ装置により断面像を入力する方法が最も正確に耳介の複雑な凹凸部の形状を再現することができる。
【００２５】
次に、計算機に取り込んだ目標となる治療後の耳介の三次元形状から、矯正具が内接すべき耳介の輪郭線を抽出し、その輪郭線を辿って矯正具形状を決定する。例えば耳介形態異常の中でも埋没耳治療用の矯正具は、埋没した耳を引き出すために、耳の付け根から耳輪の内部を通る複雑な三次元形状をしている。このため、側頭部（耳の付け根）の輪郭線と耳輪内部の輪郭線を認識し、これらの輪郭線を辿って矯正具形状を決定する。
【００２６】
次に矯正具形状を平面板への溝加工用のＮＣデータに変換する。このためまず矯正具形状を最も良く近似する単数または複数の平面を求める。またこれらの平面同志の交角θを求めておく。例えば、埋没耳用の矯正具は図４に示すように側頭部（耳の付け根）の平面部分Ｐ1と耳輪部の平面部分Ｐ2から構成することができる。そのためには、まず側頭部及び耳輪部の三次元装具形状から各々の回帰平面Ｐ1、Ｐ2を最小二乗法によって求め、その後、装具の三次元座標（Ｘ1、Ｙ1、Ｚ1 ）をこれらの平面に投影した、例えば原点をＯとする二次元座標に座標変換し、この二次元座標を溝加工用のＮＣデータに変換する。
【００２７】
次に、治療用矯正具の線材を製造するための溝加工について図５及び図６を参照しながら説明する。図５は耳輪部の溝加工を行った加工板４であって、図６は側頭部の溝加工を行った加工板５である。融点が形状記憶させるための温度（３５０℃〜５００℃）より高い平面板、例えば鉄板を加工板４、５として溝加工を行う。この加工板４、５の板厚は形状記憶線材２の径の２倍程度のものを用いる。両加工板４、５の四隅には、これら加工板４、５を治具へネジ止めするための取付穴６を穿設する。
【００２８】
また、加工溝７、８の幅は線材が挿入し易いように線材径の２割増し程度の径のエンドミルを利用して加工する。加工溝７、８の深さは線材が完全に挿入できるように線材径と等しくする。このとき線材２を挿入しやすくするため、必要に応じて穴１０や逃げ部９、１１を加工しておくことが望ましい。
【００２９】
形状記憶合金としては、上述のように、Ｔｉ−Ｎｉ合金の形状記憶合金の線材２を使用する。溝加工した板４、５にこの形状記憶合金の線材２を挿入して、融点が形状記憶させるための温度より高い材質で、複数の平面板が取り付けられ取付面同志を自由に角度変化できるように作成した治具に取り付け、電気炉に入れて形状記憶させる。
【００３０】
ここで、埋没耳用の治具を図７及び図８を参照しながら説明する。この治具１２には、耳輪部加工板４を取り付ける耳輪部加工板取付部１３と、側頭部加工板５を取り付ける側頭部加工板取付部１４が設けられる。そして、線材２を耳輪部加工板４と耳輪部加工板取付部１３との間、及び側頭部加工板５と側頭部加工板取付部１４との間に装着する。これら耳輪部加工板取付部１３及び側頭部加工板取付部１４の交角は蝶番１５Ａ乃至１５Ｄにより可変となっている。
【００３１】
ネジ１６Ａ乃至１６Ｄが、固定用ナット１９Ａ、１９Ｂ及び図示しない固定用ナットによって側頭部加工板取付部１４に固定されるとともに、調整板１８に形成された溝１８ａを貫通している。そして、両加工板４及び５の交角が予め決定された角度θとなるように、ネジ１６Ａ乃至１６Ｄに対する調整用ナット１７Ａ乃至１７Ｆ、及び調整用ナット１７Ｃ及び１７Ｄに対向する位置に設けられた図示しない調整用ナットの位置を調整することができるように構成されている。
【００３２】
この治具１２の使用に際しては、まず、線材２の側頭部２ｂを加工溝８に位置決めした状態で側頭部加工板５と側頭部加工板取付部１４との間に固定する。次に、線材２の耳介部２ａを加工溝７に位置決めした状態で耳輪部加工板取付部１３に耳輪部加工板４を固定する。そして、ネジ１６Ａ乃至１６Ｄに対する調整用ナット１７Ａ乃至１７Ｆ及び図示しない調整用ナットの位置を調整して両加工板４及び５の交角がθとなるように調整する。この状態で、治具１２を電気炉に入れて所定の温度及び時間により形状記憶させる。
【００３３】
最後にこの形状記憶させた線材２の両端に余分な部分があれば切り落とし、緩衝材３としての延伸多孔性ポリテトラフッ化エチレン（ＰＴＦＥ）チューブに通して矯正具１が完成する。尚、線材２の端が直接皮膚に触れないよう、チューブは線材２よりも長くしておく。
【００３４】
尚、上記説明は、埋没耳用矯正具の製造の場合についてのものであるが、他の用途の矯正具についても同様な手法で矯正具の作成が可能である。例えば折れ耳の場合は耳輪の部分のみの矯正具を作成すればよく、また対輪脚が形成不全の耳介形態異常の場合に、対輪脚を挟み込んで形成させるための矯正具を作成する場合についても同様の方法を使用できる。この場合には、目標とする治療後の対輪脚の形状に合わせて上面側と下面側の形状をそれぞれ加工板に溝加工し、形状記憶合金挿入後、対輪脚を挟み込むために必要な角度をつけて治具に取り付け、形状記憶させて矯正具を作成すればよい。
【００３５】
本発明に係る耳介の形態異常治療用矯正具の製造方法においては、平面板に溝加工して製造するため、高価で複雑なプログラミングの必要な三次元加工機を使用しなくても、安価な二次元の加工機で容易に加工が行える。また溝加工は加工板上にのみ行うため、他の患者の矯正具を製造する場合でも、加工板を取り付ける治具はそのまま再利用でき、加工板上の溝加工のみやり直せばよい。また治具に複数の平面板を取り付けるときに取付面同志を自由に角度変化できるようにしたことにより、患者により取付角度が異なるときでも同一の治具をそのまま利用することができる。
【００３６】
【発明の効果】
請求項１記載の発明によれば、耳介に無理な強い矯正力がかかり炎症が発生するという問題がなく、一度に大きい量の矯正を行い、矯正具の作成回数を１回で済ませることが可能で、かつ、空気透過性が良く、褥瘡のような炎症が起こりにくい耳介の形態異常治療用矯正具を提供することができる。
【００３７】
請求項２記載の発明によれば、耳介への装着、取り外しが容易な耳介の形態異常治療用矯正具を提供することができる。
【００３９】
請求項３記載の発明によれば、形状記憶合金の超弾性の性質を損なうことがないとともに、褥瘡のような炎症が起こりにくい耳介の形態異常治療用矯正具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図１】本発明に係る耳介の形態異常治療用矯正具を埋没耳用に使用した場合を示す概略図である。
【図２】本発明に係る耳介の形態異常治療用矯正具を対輪脚形成不全矯正に使用した場合を示す概略図である。
【図３】本発明に係る矯正具作成手順を示すブロック図である。
【図４】埋没耳用矯正具の耳輪部側及び側頭部側の回帰平面を示す図である。
【図５】図１の埋没耳用矯正具を作成するための耳輪部側溝加工板を示す斜視図である。
【図６】図１の埋没耳用矯正具を作成するための側頭部側溝加工板の斜視図である。
【図７】本発明に係る耳介の形態異常治療用矯正具に使用する埋没耳用矯正具の形状記憶用治具を示す斜視図である。
【図８】図７の形状記憶用治具の側面図である。
【符号の説明】
１ 矯正具
２ 線材
３ 緩衝材
４ 耳輪部加工板
５ 側頭部加工板
６ 取付穴
７、８ 加工溝
９、１１ 逃げ部
１０ 穴
１２ 治具
１３ 耳輪部加工板取付部
１４ 側頭部加工板取付部
１５Ａ乃至１５Ｄ 蝶番
１６Ａ乃至１６Ｄ ネジ
１８ 調整板
１７Ａ乃至１７Ｆ 調整用ナット
１８ 調整板
１９Ａ、１９Ｂ 固定用ナット
【発明の属する技術分野】
本発明は、新生児の耳介のように成長途上の軟骨組織で形成された部位の形態異常を矯正するための矯正具及びその製造方法に関する。
【０００２】
【従来の技術】
従来、耳介の形態異常用矯正具には鋼線にＮｉメッキを施したゼムクリップ、歯科矯正用サンプラチナ線など弾性力のない金属線を曲げて、シリコンゴムチューブなどに通したものが使用されてきた。
【０００３】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来の弾性力の無い矯正具では耳介の矯正量が大きいときには、一度に矯正しようとすると、耳介に無理な強い矯正力がかかり炎症が発生するという問題があった。このため、耳介に無理な強い矯正力がかからないよう徐々に耳介を矯正する必要があり、複数回にわけて矯正具を作成しなければならないという問題があった。また、従来の矯正具は弾力がなく形状が固定されているため、複雑な形状の矯正具を作成すると、耳介への装着、取り外しが容易でないという問題があった。
【０００４】
そこで、本発明は超弾性力のある矯正具を使用することにより、耳介に無理な矯正力をかけることなく、一度に大きい量の矯正を行い、矯正具の作成回数を１回で済むようにすることを目的としている。また耳介への装着、取り外しを容易にすることを目的としている。さらにこの矯正具を簡便にかつ安価に製造することを目的としている。
【０００５】
【課題を解決するための手段】
請求項１記載の発明は、耳介の形態異常治療用矯正具であって、超弾性機能を有し、所定の範囲の変態点温度を有する形状記憶合金の線材を、治療後の目標となる耳介形状に合わせて形状記憶させて作成され、かつ、該形状記憶合金の周囲が多孔性緩衝材によって被覆されていることを特徴とする。
【０００６】
請求項２記載の発明は、前記形状記憶合金の変態点温度が０℃以上３７℃未満であることを特徴とする。
【０００８】
請求項３記載の発明は、前記緩衝材が、延伸多孔性ポリテトラフッ化エチレン（ＰＴＦＥ）チューブであることを特徴とする。
【００１１】
請求項１記載の発明によれば、超弾性の形状記憶合金でできた矯正具のため、大きく変形させて耳介に装着しても極端に大きな矯正力がかかることはなく、耳介が成長して大きくなり、矯正具の変形量が変わっても、耳介にかかる矯正力はほぼ一定のままである。また、耳介が目標形状となったときに矯正力がかからない。
また、同時に、形状記憶合金の周囲を多孔性緩衝材によって被覆したので、耳介にかかる圧力を分散することができ、さらに空気透過性が良いため、褥瘡のような炎症が起こりにくい。
【００１２】
請求項２記載の発明によれば、変態点温度が０℃から、ほぼ耳介の体温である３７℃未満の形状記憶合金の線材を使用することにより、矯正具を冷やして変態点温度以下にすると自由に変形できるようになり、耳介への装着、取り外しを容易にすることができる。また耳介に装着して体温によって変態点温度以上になると、記憶させておいた形状に変形させることができる。
【００１４】
請求項３記載の発明によれば、延伸多孔性ポリテトラフッ化エチレン（ＰＴＦＥ）を緩衝材として使用したので、緩衝材を薄くすることができ、柔軟で形状記憶合金の超弾性の性質を損なうことがない。また多孔質で空気透過性が良く、生体適合性も良いため、褥瘡のような炎症も起こりにくい。
【００１７】
【発明の実施の形態】
次に、本発明に係る耳介の形態異常治療用矯正具の実施の形態の具体例を図面を参照しながら説明する。
図１は、本発明に係る耳介の形態異常治療用矯正具の一実施例として、耳介が側頭部側に埋没したような状態となっているいわゆる埋没耳の矯正具を耳介に装着した状態を示す。この矯正具１は、線材２と緩衝材３からなり、線材２は、その全体が、変態点温度が０℃から耳介の体温であるほぼ３７℃未満の形状記憶合金であって、超弾性機能を有するＴｉ−Ｎｉ合金等で形成されている。また、線材２は、緩衝材３としての延伸多孔性ポリテトラフッ化エチレン（ＰＴＦＥ）チューブにより被覆されている。
【００１８】
緩衝材として延伸多孔性ポリテトラフッ化エチレン（ＰＴＦＥ）チューブを使用するのは、弾性力が比較的強い従来のシリコンゴムチューブを用いると、形状記憶合金の超弾性の性質を損なうことになるが、延伸多孔性ポリテトラフッ化エチレン（ＰＴＦＥ）チューブの場合には、非常に薄くすることができ、柔軟で形状記憶合金の超弾性の性質を損なうことがないためである。
【００１９】
また、無孔質のシリコンゴムチューブでは皮膚に接触させたときに蒸れて褥瘡の起こる可能性があるが、延伸多孔性ポリテトラフッ化エチレン（ＰＴＦＥ）チューブの場合は、多孔質で空気透過性が良く、生体適合性も良いため、褥瘡のような炎症も起こりにくくなる。
【００２０】
線材２は、目標の耳介形状に形成され、新生児の耳介に装着される耳介部２ａと、耳の付け根の側頭部に装着される側頭部２ｂと、これらを連結する連結部２ｃとで構成されている。そして、これらの全体が緩衝材３によって被覆されている。
【００２１】
図２は、本発明に係る耳介の形態異常治療用矯正具のもう一つの実施例として、形成不全の対輪脚用の矯正具を装着した状態を示す。ここで、対輪脚が形成不全とは、図において、Ｅ’の部分に本来存在すべき対輪上脚が存在せず、この部分がその周囲と同様に平面状になっているものである。そこで、矯正具１’によってＥ’部分をつまんで持ち上げるようにすることで、対輪上脚を形成するものである。従って、矯正具１’は、矯正具１と比較して形状が異なるのみであって、線材２と緩衝材３とからなり、その材質も矯正具１の場合と同様である。
【００２２】
尚、上記埋没耳や、対輪脚の形成不完全の場合の他に、例えば折れ耳の場合は耳輪の部分のみの矯正具を作成すればよく、耳介の形状異常の状況に適合させて矯正具の形状を適宜変更すれば良い。
【００２３】
上記のとおり、変態点温度が０℃から耳介の体温未満の形状記憶合金の線材を使用しているのは、矯正具を氷水などに漬けて変態点温度以下にすると自由に変形できるようになり、耳介への装着、取り外しを容易にすることができるからである。また耳介に装着して体温で変態点温度以上になると、記憶させておいた形状に変形させることができる。
【００２４】
次に、上記耳介の形態異常治療用矯正具の製造方法について、図３乃至図８を参照しながら説明する。
製造方法の全体の手順を図３に示す。最初に、目標となる治療後の耳介形状を決定する。この目標となる耳介形状は正常側の耳、兄弟等の肉親の耳の形状を計算機上に取り込み、左右反転、拡大縮小処理を行って作成する。耳介の三次元形状を計算機に取り込む方法としては、レーザーを利用する方法、モアレ縞を利用する方法、直接または型取りをした石膏像をＸ線ＣＴ装置にかけて断面像を入力する方法などがあるが、このＸ線ＣＴ装置により断面像を入力する方法が最も正確に耳介の複雑な凹凸部の形状を再現することができる。
【００２５】
次に、計算機に取り込んだ目標となる治療後の耳介の三次元形状から、矯正具が内接すべき耳介の輪郭線を抽出し、その輪郭線を辿って矯正具形状を決定する。例えば耳介形態異常の中でも埋没耳治療用の矯正具は、埋没した耳を引き出すために、耳の付け根から耳輪の内部を通る複雑な三次元形状をしている。このため、側頭部（耳の付け根）の輪郭線と耳輪内部の輪郭線を認識し、これらの輪郭線を辿って矯正具形状を決定する。
【００２６】
次に矯正具形状を平面板への溝加工用のＮＣデータに変換する。このためまず矯正具形状を最も良く近似する単数または複数の平面を求める。またこれらの平面同志の交角θを求めておく。例えば、埋没耳用の矯正具は図４に示すように側頭部（耳の付け根）の平面部分Ｐ1と耳輪部の平面部分Ｐ2から構成することができる。そのためには、まず側頭部及び耳輪部の三次元装具形状から各々の回帰平面Ｐ1、Ｐ2を最小二乗法によって求め、その後、装具の三次元座標（Ｘ1、Ｙ1、Ｚ1 ）をこれらの平面に投影した、例えば原点をＯとする二次元座標に座標変換し、この二次元座標を溝加工用のＮＣデータに変換する。
【００２７】
次に、治療用矯正具の線材を製造するための溝加工について図５及び図６を参照しながら説明する。図５は耳輪部の溝加工を行った加工板４であって、図６は側頭部の溝加工を行った加工板５である。融点が形状記憶させるための温度（３５０℃〜５００℃）より高い平面板、例えば鉄板を加工板４、５として溝加工を行う。この加工板４、５の板厚は形状記憶線材２の径の２倍程度のものを用いる。両加工板４、５の四隅には、これら加工板４、５を治具へネジ止めするための取付穴６を穿設する。
【００２８】
また、加工溝７、８の幅は線材が挿入し易いように線材径の２割増し程度の径のエンドミルを利用して加工する。加工溝７、８の深さは線材が完全に挿入できるように線材径と等しくする。このとき線材２を挿入しやすくするため、必要に応じて穴１０や逃げ部９、１１を加工しておくことが望ましい。
【００２９】
形状記憶合金としては、上述のように、Ｔｉ−Ｎｉ合金の形状記憶合金の線材２を使用する。溝加工した板４、５にこの形状記憶合金の線材２を挿入して、融点が形状記憶させるための温度より高い材質で、複数の平面板が取り付けられ取付面同志を自由に角度変化できるように作成した治具に取り付け、電気炉に入れて形状記憶させる。
【００３０】
ここで、埋没耳用の治具を図７及び図８を参照しながら説明する。この治具１２には、耳輪部加工板４を取り付ける耳輪部加工板取付部１３と、側頭部加工板５を取り付ける側頭部加工板取付部１４が設けられる。そして、線材２を耳輪部加工板４と耳輪部加工板取付部１３との間、及び側頭部加工板５と側頭部加工板取付部１４との間に装着する。これら耳輪部加工板取付部１３及び側頭部加工板取付部１４の交角は蝶番１５Ａ乃至１５Ｄにより可変となっている。
【００３１】
ネジ１６Ａ乃至１６Ｄが、固定用ナット１９Ａ、１９Ｂ及び図示しない固定用ナットによって側頭部加工板取付部１４に固定されるとともに、調整板１８に形成された溝１８ａを貫通している。そして、両加工板４及び５の交角が予め決定された角度θとなるように、ネジ１６Ａ乃至１６Ｄに対する調整用ナット１７Ａ乃至１７Ｆ、及び調整用ナット１７Ｃ及び１７Ｄに対向する位置に設けられた図示しない調整用ナットの位置を調整することができるように構成されている。
【００３２】
この治具１２の使用に際しては、まず、線材２の側頭部２ｂを加工溝８に位置決めした状態で側頭部加工板５と側頭部加工板取付部１４との間に固定する。次に、線材２の耳介部２ａを加工溝７に位置決めした状態で耳輪部加工板取付部１３に耳輪部加工板４を固定する。そして、ネジ１６Ａ乃至１６Ｄに対する調整用ナット１７Ａ乃至１７Ｆ及び図示しない調整用ナットの位置を調整して両加工板４及び５の交角がθとなるように調整する。この状態で、治具１２を電気炉に入れて所定の温度及び時間により形状記憶させる。
【００３３】
最後にこの形状記憶させた線材２の両端に余分な部分があれば切り落とし、緩衝材３としての延伸多孔性ポリテトラフッ化エチレン（ＰＴＦＥ）チューブに通して矯正具１が完成する。尚、線材２の端が直接皮膚に触れないよう、チューブは線材２よりも長くしておく。
【００３４】
尚、上記説明は、埋没耳用矯正具の製造の場合についてのものであるが、他の用途の矯正具についても同様な手法で矯正具の作成が可能である。例えば折れ耳の場合は耳輪の部分のみの矯正具を作成すればよく、また対輪脚が形成不全の耳介形態異常の場合に、対輪脚を挟み込んで形成させるための矯正具を作成する場合についても同様の方法を使用できる。この場合には、目標とする治療後の対輪脚の形状に合わせて上面側と下面側の形状をそれぞれ加工板に溝加工し、形状記憶合金挿入後、対輪脚を挟み込むために必要な角度をつけて治具に取り付け、形状記憶させて矯正具を作成すればよい。
【００３５】
本発明に係る耳介の形態異常治療用矯正具の製造方法においては、平面板に溝加工して製造するため、高価で複雑なプログラミングの必要な三次元加工機を使用しなくても、安価な二次元の加工機で容易に加工が行える。また溝加工は加工板上にのみ行うため、他の患者の矯正具を製造する場合でも、加工板を取り付ける治具はそのまま再利用でき、加工板上の溝加工のみやり直せばよい。また治具に複数の平面板を取り付けるときに取付面同志を自由に角度変化できるようにしたことにより、患者により取付角度が異なるときでも同一の治具をそのまま利用することができる。
【００３６】
【発明の効果】
請求項１記載の発明によれば、耳介に無理な強い矯正力がかかり炎症が発生するという問題がなく、一度に大きい量の矯正を行い、矯正具の作成回数を１回で済ませることが可能で、かつ、空気透過性が良く、褥瘡のような炎症が起こりにくい耳介の形態異常治療用矯正具を提供することができる。
【００３７】
請求項２記載の発明によれば、耳介への装着、取り外しが容易な耳介の形態異常治療用矯正具を提供することができる。
【００３９】
請求項３記載の発明によれば、形状記憶合金の超弾性の性質を損なうことがないとともに、褥瘡のような炎症が起こりにくい耳介の形態異常治療用矯正具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図１】本発明に係る耳介の形態異常治療用矯正具を埋没耳用に使用した場合を示す概略図である。
【図２】本発明に係る耳介の形態異常治療用矯正具を対輪脚形成不全矯正に使用した場合を示す概略図である。
【図３】本発明に係る矯正具作成手順を示すブロック図である。
【図４】埋没耳用矯正具の耳輪部側及び側頭部側の回帰平面を示す図である。
【図５】図１の埋没耳用矯正具を作成するための耳輪部側溝加工板を示す斜視図である。
【図６】図１の埋没耳用矯正具を作成するための側頭部側溝加工板の斜視図である。
【図７】本発明に係る耳介の形態異常治療用矯正具に使用する埋没耳用矯正具の形状記憶用治具を示す斜視図である。
【図８】図７の形状記憶用治具の側面図である。
【符号の説明】
１ 矯正具
２ 線材
３ 緩衝材
４ 耳輪部加工板
５ 側頭部加工板
６ 取付穴
７、８ 加工溝
９、１１ 逃げ部
１０ 穴
１２ 治具
１３ 耳輪部加工板取付部
１４ 側頭部加工板取付部
１５Ａ乃至１５Ｄ 蝶番
１６Ａ乃至１６Ｄ ネジ
１８ 調整板
１７Ａ乃至１７Ｆ 調整用ナット
１８ 調整板
１９Ａ、１９Ｂ 固定用ナット
Claims (3)
- 超弾性機能を有し、所定の範囲の変態点温度を有する形状記憶合金の線材を、治療後の目標となる耳介形状に合わせて形状記憶させて作成され、かつ、該形状記憶合金の周囲が多孔性緩衝材によって被覆されていることを特徴とする耳介の形態異常治療用矯正具。
- 前記形状記憶合金の変態点温度が０℃以上３７℃未満であることを特徴とする請求項１記載の耳介の形態異常治療用矯正具。
- 前記多孔性緩衝材が、延伸多孔性ポリテトラフッ化エチレン（ＰＴＦＥ）チューブであることを特徴とする請求項１または請求項２に記載の耳介の形態異常治療用矯正具。
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