JP3822294B2 - 脱水多孔質炭 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は脱水多孔質炭に関するものであり、原料として水分を多量に含有する多孔質炭を用い、脱水後において自然発火性が抑制された脱水多孔質炭に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
多孔質炭は、その多孔質性によって多くの水分、例えば30〜70重量%もの水分を含有する。この様な高い含水量を有する多孔質炭では、例えばこれを工業地帯に輸送して利用しようとしても、水分を輸送しているに等しいという面もあって輸送コストが割高となり、山元近くで利用する他ないというのが実情である。この様な高水分含有多孔質炭の代表例としては褐炭が挙げられる。
【0003】
褐炭には低灰分・低硫黄という好ましい性質を有しているものもあるが、前述の如く、その多孔質性の故に含水量が高くなり、水分量が30%を超えるものになると輸送コストが非常に割高となり、その上含水量が多い分だけカロリーが低くなるので、上記好適性質にもかかわらず低品位炭との評価が下されている。また褐炭の他に、亜炭や亜瀝青炭等も同様の問題がある。
【0004】
以下、褐炭の場合を代表例として説明することがあるが、本発明の適用対象は亜炭や亜瀝青炭等の全多孔質炭に及ぶものである。また褐炭としても、ビクトリア炭、ノースダコタ炭、ベルガ炭等が存在するが、多孔質で高い含水量を有するものであれば産地を問わず、いずれも本発明の対象となる。
【0005】
従来より褐炭の含水率を下げて固形燃料としての利用を図る技術が検討されており、例えば乾式蒸発型脱水法によって得られる脱水褐炭が提案されている(従来例▲1▼)。
【0006】
しかし、褐炭の細孔から水分が除去されると、細孔内の褐炭表面の活性点が空気に曝されることになり、酸素の活性点への吸着及び酸化反応によって発熱が起こり、発火の危険が高まる。即ち、褐炭は多孔質で、多くの細孔を有し、比表面積が大きい為に、上記発熱が乾燥褐炭中に蓄熱され、やがて自然発火するという恐れがある。従って、上記従来例▲1▼の乾燥褐炭は、貯蔵や輸送における安全性が低いという実用上の問題が指摘される。
そこで、自然発火を抑えるために褐炭をコーティングする技術が、下記の如く提案されている。
【0007】
特公昭63-61358(従来例▲2▼):予め脱水した褐炭に、発塵防止及び高カロリー化の目的で、芳香族炭化水素とアスファルトの混合液をスプレーして褐炭粒子表面を被覆する技術である。
【0008】
特開昭58-127793 (従来例▲3▼):予め脱水した褐炭に、微粉の無煙炭と水溶性糊からなるペーストを噴霧してコーティングし、その後更に乾燥するというものである。
【0009】
特開平7-233383(従来例▲4▼):多孔質炭と重質油分含有油を混合してスラリー状態とし、これを100〜250℃に加熱して、脱水させつつ、該脱水により細孔内の水分が蒸発気化した後の空席部に、上記重質油分含有油を付着せしめたものであり、この油付着によって脱水後の乾燥褐炭の自然発火性を抑制しようとするものである。
【0010】
特公平7-47751 (従来例▲5▼):0.5〜1.5インチに砕かれた低品位塊状炭を油分中に浸漬加熱することによって、上記を放出して油分で置換する一方、蒸気がまだ石炭から放出されている間に塊状炭を分離し、更にこの湿潤塊状炭から油分を取除く方法であり、塊状炭が残留油分で被覆された状態となって自然発火性が抑制されるというものである。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来例▲2▼〜▲5▼は、従来例▲1▼に比べて自然発火性の抑制に関して改善されているものの、未だ不十分な点も存在する。
例えば、従来例▲2▼,▲3▼は、予め脱水された乾燥褐炭を対象として、これにスプレー(噴霧)処理を施すものである為、褐炭の細孔内に存在している空気によってスプレー液の浸入が不十分となる。即ち、褐炭粒子表面が被覆されるだけであって、細孔内まで侵入吸着している訳ではなく、被覆を完全に行うための技術的困難さが存在する。この様に被覆が不完全な場合、或いは被覆後の取扱い中に細孔表面が新たに開放された場合には、自然発火する恐れが残る。加えて、乾燥中や、乾燥の段階からコーティング操作の取り扱いに至る過程で、自然発火を起こす危険も残されている。
【0012】
また、従来例▲4▼,▲5▼では、細孔内水分の蒸発とともに油が細孔内に侵入するから、細孔内の活性点が被覆され、自然発火性を失わせることができるが、油分を処理炭に多量に残留させるので、その分量だけ原料費が上がり、製品炭のコスト上昇に繋がる。
そこで、本発明は、コーティング剤を多量に用いることなしに、自然発火性が抑制された脱水多孔質炭を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る脱水多孔質炭は、油分の存在下に加熱して油分を除去した脱水多孔質炭であり、N2 ガス吸着法によって求められる比表面積が10m2/g以上で、且つCO2 ガス吸着法によって求められる比表面積が160m2/g以下であることを要旨とする。
【0014】
多孔質炭に存在する細孔の大きさには、大・中・小、様々の大きさのものがあり、IUPAC(国際純正および応用化学連合)では細孔径が50nm以上のものをマクロポア、2〜50nmのものをメソポア、2nm以下のものをミクロポアと称している。
【0015】
多孔質炭についてN2 ガス吸着法によって求められる比表面積の値は一般に著しく小さい値となる。この理由はN2 ガスがミクロポアに侵入し難いからであり、従ってN2 ガス吸着法による比表面積の値は、マクロポアとメソポアの比表面積の和に相当すると考えられる。一方、CO2 ガス吸着法によって求められる比表面積の値は、上記N2 ガス吸着法に比べて著しく大きい。これはCO2 ガスが上記N2 ガスと異なりミクロポアへも侵入することができるからであり、このCO2 ガス吸着法による比表面積の値は、全比表面積に相当すると考えられる。
【0016】
本発明に係る脱水多孔質炭は、追って更に述べていく様に、気流中で脱水した褐炭(例えば上記従来例▲1▼)に比べてマクロポアとメソポアの比表面積の和が大きく、ミクロポアの比表面積が少ないものであり、この様にミクロポアの比表面積が少なくなったことで、多孔質炭全体としての比表面積が少なくなったものである。そのためこの脱水多孔質炭は、気流中で脱水した褐炭(従来例▲1▼)より酸素吸着量が少なく、その結果、酸化反応性が抑制される。以上のことから上記脱水多孔質炭は比表面積の減少に伴う酸化反応性の低下により、貯蔵,輸送時の自然発火性が小さくなったものと考えられる。
【0017】
以下に、本発明に係る脱水多孔質炭を得る方法を例示し、その際の細孔収縮機構を考察しつつ本発明を説明する。
本発明に係る脱水多孔質炭を得る方法は、例えば次に示す通りである。先ず、原料多孔質炭と媒体油分を混合してスラリーを得、操作圧における水の沸点以上に該スラリーを加熱して脱水した後、スラリーを固液分離し、得られた固形分を乾燥して油分を除去・回収して、本発明の脱水多孔質炭を得る。
多孔質炭が脱水される際には、最初にマクロポア中の自由水が蒸発し、続いて各細孔のキャピラリー水、更に吸着水の順に蒸発する。
【0018】
上記従来例▲1▼の様に褐炭を気流中で脱水した場合には、褐炭の見かけ体積は収縮するが、この脱水に伴う多孔質炭の収縮はキャピラリー水及び吸着水の脱離が主な原因であると考えられる。このことは文献Fuel,1973,Vol52,July, 第186 〜190 頁(David G.Evans) に報告されている。
【0019】
本発明者らは、油中で脱水した時の収縮挙動を検討したところ、気流中で脱水した場合とは異なる挙動を示すことを見出した。つまり、褐炭を油中で脱水した場合では、自由水及びキャピラリー水が蒸発したときには、見かけ体積の収縮が気流中で乾燥した場合に比べて著しく小さいが、吸着水の蒸発とともに顕著に収縮が誘発されることが分かった。
【0020】
この理由は、油中脱水の場合、自由水及びキャピラリー水の蒸発の段階では蒸発後の空席となったマクロポア及びメソポアに油分が侵入し、この侵入した油分によって多孔質炭の収縮が妨げられ、見かけ体積があまり収縮しないのであると考えられる。更にミクロポア中の吸着水が蒸発し、これによりできる空席部は2nm以下と非常に小さいから、また多孔質炭の表面が親水性であるから、疎水性である油は侵入することができないと考えられる。従って吸着水の蒸発によって生成する空席部は油によって埋められることがなく、このミクロポアに顕著な収縮が起こって、脱水の進行とともにミクロポアが消失していくものと考えられる。
【0021】
一方、気流中の乾燥の場合は、脱水過程においてマクロポア及びメソポアからは水蒸気が出ていくのみであり、収縮を妨げるものがなく、また吸着水の蒸発段階となって蒸発水量が減少したときには、気体分子の侵入が起こり、マクロポア及びメソポアだけでなくミクロポアにも水蒸気或いは気体(侵入した気体)が存在することになるから、蒸発過程において収縮を妨げるものが常に存在しない。
【0022】
従って蒸発過程において、油中脱水の場合は上述の様に多孔質炭の収縮力がミクロポアに収縮が集中するが、気流中の乾燥の場合ではミクロポアに収縮が集中することがないから、油中脱水多孔質炭と気流中の脱水多孔質炭では比表面積に違いが出るのであると考えられる。
【0023】
上記の様に得られた油中脱水多孔質炭は、比表面積が小さいから、たとえ多孔質炭の細孔表面に被覆された油分が除去されても、自然発火が生じ難くなる。
【0024】
この油中脱水多孔質炭としては、N2 ガス吸着法によって求められる比表面積が10m2/g以上で、CO2 ガス吸着法によって求められる比表面積が160m2/g以下の場合に、酸化反応性が著しく小さくなり、貯蔵中や輸送中の自然発火性が小さくなると考えられる。
【0025】
【発明の実施の形態及び実施例】
原料多孔質炭は通常、孔径が数nm以下のミクロポアが非常に発達し、細孔径の分布が幅広く、細孔の形状も複雑な構造のものであり、例えば、褐炭等の低石炭化度炭が挙げられる。
【0026】
そして本発明に係る脱水多孔質炭は、前述の如く、原料多孔質炭を油中脱水した後、固液分離し、固形分を乾燥して油分を除去・回収することによって得られる。上記油中脱水の際の加熱温度は、水分を蒸発させる目的から、操作圧力における水分の沸点以上の温度である必要があり、例えば100〜350℃である。
【0027】
該脱水による比表面積低減の効果は、脱水前の含水分量の90wt%の水が蒸発した時点から現れ始め、脱水の進行と伴に大きくなる。よって脱水の程度としては、脱水率90%以上である。
【0028】
脱水に用いる媒体油分としては、石油系油分であることが望ましい。上記固液分離により得られた液体分(媒体油分及び蒸発した水)や、上記乾燥により回収された油分は、凝縮回収され再利用されることになるが、上記媒体油分として仮に石炭油系油分を用いた場合は、石炭油系油分が親水基を有する油分を多く含んでいるから、多くの親水性官能基を有する褐炭の表面に吸着し、回収が難しくなる。加えて回収された液体分を油分と水分に分離する際に、水への油分の溶解度が大きくなるという問題があって好ましくない。一方、上記石油系油分は、褐炭表面との相互作用が小さいから蒸発回収し易く、また容易に油分と水分を分離できるから、容易に再利用することができて好ましい。
尚、上記石油系油分の沸点としては、水の沸点以上であることが必要である。従って、石油系油分のうちでも灯軽油留分がより望ましい。
【0029】
<実験例>
先ず、褐炭を灯油と混合してスラリー状態とし、120℃で加熱することによって油中脱水を行った。該油中脱水において下記表1の通り脱水率の異なった3種の脱水多孔質炭を作製した。次に、脱水後のスラリーを、固液分離機等によって油分と固形分に分け、得られた固形分を更に乾燥機等で加熱して残留する油分を回収し、脱水多孔質炭No. 1〜3を得た。
また対象として、褐炭を不活性ガス気流中で乾燥し、脱水多孔質炭No. 4を得た。
【0030】
これら脱水多孔質炭No. 1〜4について、ガス吸着法による細孔構造の検討、自然発火性試験、及び酸化性に関する検討を行った。
表1に、N2 ,CO2 ガスを用いて求めた比表面積値を示す。
【0031】
【表1】
Figure 0003822294
【0032】
表1から分かる様に、マクロポア及びメソポアの比表面積を示すN2 ガスによる測定の場合は、気流脱水多孔質炭No. 4に比べ油中脱水多孔質炭No. 1〜3の方が、比表面積が大きくなっている。一方、マクロポア,メソポア及びミクロポアの比表面積を表すCO2 ガス測定の場合は、油中脱水多孔質炭No. 1〜3の方が小さくなっている。
【0033】
上記比表面積の値の比較から、油中脱水多孔質炭は気流脱水多孔質炭に比べて、脱水時にマクロポアおよびメソポアの収縮が抑制され、ミクロポアがより収縮していることが分かる。
【0034】
次に、気流脱水多孔質炭No. 4及び油中脱水多孔質炭No. 1〜3に関する自然発火性試験の結果を、表2に示す。
尚、自然発火性試験の条件としては、下記の通りであり、下記試験装置において1週間以上発熱しないものは自然発火性無しと見なされる。
試験装置:自然発火性テスト装置(SIT-1 型:(株)島津製作所製)
初期温度:100℃
雰囲気 :空気(20ml/min. )
【0035】
【表2】
Figure 0003822294
【0036】
上記表2から分かる様に、気流脱水多孔質炭No. 4では13.7時間で発熱が開始し、油中脱水多孔質炭No. 1〜3では168時間(1週間)経過しても発熱は見られなかった。従って、脱水多孔質炭No. 1〜3は、自然発火性が抑制されていることが分かる。
【0037】
次に、脱水多孔質炭No. 1〜4の酸化性について述べる。尚、酸化性については、脱水多孔質炭を加熱し、その際の重量減少によって評価を行った。該酸化性は、自然発火し易さの指標となるもので、加熱酸化による重量減少が小さいほど、酸化性が小さいということが言え、自然発火が起こり難いと考えられる。
【0038】
図1は、各脱水多孔質炭No. 1〜4の加熱酸化による重量変化を示すグラフである。尚、昇温速度は5℃/min.であり、最高300℃まで昇温した。
図1から分かる様に、気流脱水多孔質炭No. 4に比べ油中脱水多孔質炭No. 1〜3は重量減少が少なく、また油中脱水多孔質炭においても脱水多孔質炭No. 1,2,3の順に重量減少が小さくなっており、特に脱水多孔質炭No. 2,3は重量減少が著しく少ない。この結果から、CO2 ガス測定による比表面積の小さい油中脱水多孔質炭No. 2,3は、CO2 ガス測定による比表面積の大きい気流脱水多孔質炭No. 4よりも、酸化反応性が抑制されていることが分かる。また、油中脱水多孔質炭No. 1は上記自然発火性試験において自然発火なしと見なされているが、加熱酸化による重量減少が小さいとは言い難く、酸化反応性が十分小さいとは言えない。油中脱水多孔質炭No. 2,3は加熱酸化による重量減少も少ないため、酸化反応性も著しく小さく、自然発火性が十分に抑制されるものと考えられる。
【0039】
【発明の効果】
本発明に係る脱水多孔質炭は、水分を多量に含む多孔質炭を原料として得られるものであって、該脱水多孔質炭は、コーティング剤を多量に消費することがなく安価であり、且つ自然発火性が良好に抑制されている。しかも本発明に係る脱水多孔質炭を得る方法は容易である。
【図面の簡単な説明】
【図1】脱水多孔質炭の加熱酸化による重量変化を表すグラフ。

Claims (1)

  1. 灯軽油留分を用いた油中脱水によって得られる脱水多孔質炭であり、
    前記脱水多孔質炭の細孔表面に被覆された前記灯軽油留分は除去されており、
    ガス吸着法によって求められる比表面積が10m/g以上で、且つCOガス吸着法によって求められる比表面積が160m/g以下であることを特徴とする脱水多孔質炭。
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