JP3820110B2 - シリンダライナの冷却構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジンにおけるシリンダライナの冷却構造に関し、特にシリンダライナの外周面とシリンダジャケットの内周面との間に形成された冷却室に該シリンダジャケットに設けられた冷却水通路を通して冷却水を供給するようにしたシリンダライナの冷却構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
エンジンにおけるシリンダライナは、内面をピストンが往復摺動するとともに肩部周辺を高温の燃焼ガスに晒されることから、燃焼ガスによる熱応力及びガス圧による応力に対する耐力を有するとともに、内面において高い耐摩耗性が要求される。
【0003】
図3はかかるシリンダライナの一般的な冷却構造を示す模式図で、図において2はクランクケースと一体に鋳造によって形成されたシリンダジャケット、1は該シリンダジャケット2内に挿入、固定されたシリンダライナである。該シリンダライナ1の内面1aにはピストン(図示省略)が往復摺動せしめられ、上部の肩部1b内側は燃焼ガスに晒されている。1cはスカート部である。
03は前記シリンダライナ1の外周面1dが臨み前記シリンダジャケット2の内周に形成され軸方向に一定長さを有する冷却室である。10は該冷却室03に冷却水を導入するための冷却水入口通路、11は前記シリンダライナ1冷却後の冷却水をシリンダヘッド(図示省略)に導出するための冷却水出口通路である。
【0004】
かかるシリンダライナの冷却構造を備えたエンジンの運転時において、冷却水ポンプ(図示省略)から送出された冷却水は冷却水入口通路10を通って冷却室03に入り、該冷却室03内をシリンダライナ1の外周面1dに沿って円周方向及び軸方向に流動しながらシリンダライナ1を冷却した後、冷却水出口通路11からシリンダヘッドに送出される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、かかる従来のシリンダライナの冷却構造にあっては、シリンダライナの冷却水が流動する単一の冷却室03を、高温の燃焼ガスに晒されるシリンダライナ肩部1b周辺からライナ下部のスカート部1c外周に亘って形成しているため、図3右側のシリンダライナ温度線図に示されるように、高温になる肩部1b周辺を十分に冷却しようとすると、比較的温度の低いライナ下部のスカート部1cが過冷却となって該スカート部1c温度が低温となり、シリンダライナ1の長手方向に温度のむらが存在する温度分布となる。
【0006】
このため、かかる従来技術にあっては、前記シリンダライナ1の長手方向温度差が大きくなることにより、シリンダライナ内面1aの変形量がライナ長手方向において変化し、該シリンダライナ内面1aを摺動するピストンリング(図示省略)の追従性悪化による焼き付きや折損の発生を誘発し易い。
また、かかる従来技術にあっては、前記のように高温になる肩部1b周辺を十分に冷却すると前記スカート部1cが過冷却となるため、冷却熱量の損失が大きくなり燃料消費率の増加に繋がる。さらには前記スカート部1cの過冷却による低温化に伴い、シリンダライナ内面1aにおける潤滑油の硫黄分析出による低温腐食が発生し易い。
【0007】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、シリンダライナの長手方向における温度変化を滑らかにして温度むらの発生を回避するとともにライナ下部の低温化を防止することにより、ライナ内面における低温腐食の発生を防止し、またピストンリングの追従性悪化による焼き付きや折損の発生を防止して、シリンダライナ及びピストンリングの耐久性を向上し、さらには冷却熱量の損失を低減して燃料消費率の低減を実現できるシリンダライナの冷却構造を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明はかかる課題を解決するため、請求項1記載の発明として、シリンダライナの外周面と該シリンダライナが挿入されるシリンダジャケットの内周面との間に形成された冷却室に該シリンダジャケットに設けられた冷却水通路を通して冷却水を供給するようにしたシリンダライナの冷却構造において、前記冷却室はシリンダライナの肩部側に形成された上部冷却室とシリンダライナのスカート部側に形成された下部冷却室とよりなり、前記上部冷却室と前記冷却水通路とを連通する上部導入口と前記下部冷却室と前記冷却水通路とを連通する下部導入口とを並列に配置し、前記冷却水通路を、鋳造によりシリンダ間における前記シリンダジャケット内の上部から下部に貫通して形成し、該冷却水通路の上部寄りの部位に前記上部導入口を開口するとともに該冷却水通路の前記上部導入口よりも下側部位に前記下部導入口を開口し、前記上部導入口の通路面積が下部導入口の通路面積よりも大きくなるように前記下部導入口に該導入口の通路面積を縮小する絞り機構を設けて、前記シリンダライナの長手方向の温度分布が滑らかに変化するように構成したことを特徴とするシリンダライナの冷却構造を提案する。
【0009】
かかる発明において、好ましくは請求項2のように、前記下部導入口に、該導入口の通路面積を縮小する可変式の絞り機構を設ける。
【0011】
請求項1の発明によれば、シリンダライナの肩部側に形成された上部冷却室及びライナ下部側に形成された下部冷却室の夫々と冷却水通路とを接続する上部導入口及び下部導入口を並列に配置し、該上部導入口の通路面積を下部導入口の通路面積よりも大きくなるように前記下部導入口に該導入口の通路面積を縮小する絞り機構を設けて、前記シリンダライナの長手方向の温度分布が滑らかに変化するように構成したので、高温になっているシリンダライナの肩部周辺を冷却する上部冷却室側に供給される冷却水の流量が、該肩部周辺よりも低温のライナ下部周辺を冷却する下部冷却室に供給される冷却水の流量よりも多くなって、前記肩部周辺を適正温度になるように冷却できるとともにライナ下部周辺を冷却する下部冷却室側においては上部冷却室側よりも少ない冷却水流量で以って冷却することが可能となり、ライナ下部が過冷却となるのを回避できる。
【0012】
これにより、シリンダライナの長手方向における温度分布が滑らかとなって温度むらの発生が回避される。従ってシリンダライナの長手方向温度差によるシリンダライナ内面の変形量のばらつきがライナ長手方向において少なくなって該シリンダライナ内面を摺動するピストンリングの追従性悪化による焼き付きや折損の発生が防止される。また前記ライナ下部の過冷却による低温化が回避されることにより、シリンダライナ内面における潤滑油の硫黄分析出による低温腐食の発生を防止できる。
これにより、シリンダライナ及びピストンリングの耐久性、信頼性を向上できる。
【0013】
また、高温の肩部周辺を適正温度になるように冷却しつつライナ下部周辺が過冷却となるのを回避できるため、従来技術に比べて冷却熱量の損失が低減され、燃料消費率の低減も実現できる。
さらに本発明によれば、上部導入口及び下部導入口に連通される冷却水通路を、鋳造によりシリンダ間における前記シリンダジャケット内の上部から下部に貫通して形成したことにより、冷却水通路の形状が簡単となって、鋳造時の中子の数が少なくなり鋳物形状が簡単化される。
【0014】
また請求項2の発明によれば、下部導入口に設けた可変式の絞り機構により、上部冷却室側及び下部冷却室側に供給される冷却水の流量割合を、シリンダライナの長手方向における温度分布が適正分布になるように容易に調整することができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図に示した実施例を用いて詳細に説明する。但し、この実施例に記載される構成部品の寸法、材質、形状、その他相対配置などは特に特定的な記載が無い限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0017】
図1は本発明の実施例に係るデイーゼルエンジン用シリンダライナの冷却構造を示すシリンダ列中心線に沿う要部断面図、図2は前記実施例におけるシリンダライナの冷却構造を示す模式図である。
【0018】
図1〜2において、2はクランクケースと一体に鋳造によって形成されたシリンダジャケット、1は該シリンダジャケット2内に挿入、固定されたシリンダライナである。該シリンダライナ1は前記シリンダジャケット2に穿孔されたライナ嵌合孔2a内に、該シリンダライナ1の外周に嵌装された複数個の水密シール用のОリング8を介して嵌合されている。
前記シリンダライナ1の内面1aには外周にピストンリングが嵌装されたピストン(何れも図示省略)が往復摺動せしめられ、上部の肩部1b内側は燃焼ガスに晒されている。1cは該シリンダライナ1の下部を構成するスカート部である。
前記シリンダライナ1及び取付部の構成自体は、図3に示されるような従来技術と同様である。
【0019】
3は環状の上部冷却室で、前記シリンダライナ1の肩部1b寄りの部位にシリンダライナ1外周と前記シリンダジャケット2におけるライナ嵌合孔2aとの間に区画形成されている。4は環状の下部冷却室で、前記シリンダライナ1の下部を構成するスカート部1cの外周と前記ライナ嵌合孔2aとの間に区画形成されている。
7は前記シリンダジャケット2に鋳造により形成された冷却水集合室で、各シリンダのシリンダ間(12は各シリンダのシリンダ中心線)における前記シリンダジャケット2内の上部から下部に貫通して、シリンダ間毎に形成されている。該冷却水集合室7には、その下部に開口された冷却水入口13から冷却水入口通路10(図2参照)を経た冷却水が導入される。
また前記上部冷却室3及び下部冷却室4の冷却水出口は、図2に示すように、シリンダヘッドの冷却部(図示省略)に接続される冷却水出口通路11にて合流される。
【0020】
5は上部導入口で、前記冷却水集合室7の上部寄りの部位と前記上部冷却室3とを連通している。6は下部導入口で、前記上部導入口5と並列に配置されて、前記冷却水集合室7の前記上部導入口5よりも下側部位と前記下部冷却室4とを連通している。前記上部導入口5の通路面積は下部導入口6の通路面積よりも大きく形成されており、このため下部導入口6には流路を絞る絞り部6aが形成されている。
該上部導入口5と下部導入口6との流路面積の調整は、前記絞り部6aの通路面積を変化させることにより行う。即ち該絞り部6aは、シリンダジャケット2の製作時に、前記上部導入口5と下部導入口6との流路面積比が、当該エンジンにおいて、図2の右側に示す該シリンダライナ1の長手方向温度分布が最適温度分布になるような流路面積比に相当する通路面積に設定している。
また前記絞り部6aは、外部から通路面積を調整可能とした可変絞り機構にて構成することもできる。
【0021】
かかる構成からなるシリンダライナの冷却構造を備えたエンジンの運転時において、冷却水ポンプ(図示省略)から送出された冷却水は冷却水入口通路10を通り、冷却水入口13から冷却水集合室7に流入し該冷却水集合室7に一旦溜められる。そして該冷却水集合室7内の冷却水は、下部導入口6の絞り部6aから下部冷却室4に導入されるとともに、これと並行して上部導入口5から上部冷却室3に導入される。
【0022】
前記上部冷却室3内の冷却水は、該冷却室3内をシリンダライナ1の外周面1dに沿って円周方向及び軸方向に流動しながら、高温になっている該シリンダライナ1の肩部1b周辺を冷却する。また前記下部冷却室4内の冷却水は、該冷却室4内をシリンダライナ1の外周面1dに沿って円周方向及び軸方向に流動しながら、前記肩部1b周辺よりも低温のスカート部1c周辺を冷却する。
前記のようにしてシリンダライナ1を冷却した後の冷却水は、冷却水出口通路11にて合流されシリンダヘッドに送出される。
【0023】
かかる実施例によれば、シリンダライナ1の肩部1b側に形成された上部冷却室3及びライナ下部のスカート部1c側に形成された下部冷却室4の夫々と冷却水集合室7(冷却水通路)とを接続する上部導入口5及び下部導入口4を並列に配置し、該上部導入口5の通路面積を下部導入口6の通路面積よりも大きく形成して構成したので、高温になっているシリンダライナ1の肩部1b周辺を冷却する上部冷却室3側に供給される冷却水の流量が該肩部1b周辺よりも低温のスカート部1c周辺を冷却する下部冷却室4に供給される冷却水の流量よりも多くなって前記肩部1b周辺を適正温度になるように冷却できるとともに、ライナ下部のスカート部1c周辺を冷却する下部冷却室側4においては上部冷却室3側よりも少ない冷却水流量でもって冷却されライナ下部のスカート部1cが過冷却となるのが回避される。
【0024】
これにより、図2の右側の温度線図に示されるように、シリンダライナ1の長手方向における温度分布が滑らかとなって温度むらの発生が回避される。
従ってシリンダライナ内面1aの変形量がライナ長手方向において少なくなって該シリンダライナ内面1aを摺動するピストンリング(図示省略)の追従性悪化による焼き付きや折損の発生が防止される。また、前記スカート部1cの過冷却による低温化が回避されることにより、シリンダライナ内面1aにおける潤滑油の硫黄分析出による低温腐食の発生を防止できる。
これにより、シリンダライナ及びピストンリングの耐久性が向上される。
【0025】
また、高温の肩部1b周辺を適正温度になるように冷却しつつライナ下部のスカート部1c周辺が過冷却となるのを回避できるため、図3に示されるような従来技術に比べて冷却熱量の損失が低減され、燃料消費率の低減も実現できる。
【0026】
【発明の効果】
以上記載のごとく本発明によれば、高温になっているシリンダライナの肩部周辺を冷却する上部冷却室側に供給される冷却水の流量が、該肩部周辺よりも低温のライナ下部周辺を冷却する下部冷却室に供給される冷却水の流量よりも多くなって前記肩部周辺を適正温度になるように冷却できるとともに、ライナ下部周辺を冷却する下部冷却室側においては上部冷却室側よりも少ない冷却水流量で以って冷却することが可能となってライナ下部が過冷却となるのが回避できる。
【0027】
これにより、シリンダライナの長手方向における温度分布が滑らかとなって温度むらの発生が回避される。従ってシリンダライナ内面の変形量のばらつきがライナ長手方向において少なくなって該シリンダライナ内面を摺動するピストンリングの追従性悪化による焼き付きや折損の発生が防止される。また前記ライナ下部の過冷却による低温化が回避されることにより、シリンダライナ内面における潤滑油の硫黄分析出による低温腐食の発生を防止できる。
これにより、シリンダライナ及びピストンリングの耐久性、信頼性を向上できる。
【0028】
また、高温の肩部周辺を適正温度になるように冷却しつつライナ下部周辺が過冷却となるのを回避できるため、従来技術に比べて冷却熱量の損失が低減され、燃料消費率の低減も実現できる。
さらに本発明によれば、上部導入口及び下部導入口に連通される冷却水通路を、鋳造によりシリンダ間における前記シリンダジャケット内の上部から下部に貫通して形成したことにより、冷却水通路の形状が簡単となって、鋳造時の中子の数が少なくなり鋳物形状が簡単化される。
【0029】
また請求項2のように構成すれば、下部導入口に設けた可変式の絞り機構により上部冷却室側及び下部冷却室側に供給される冷却水の流量割合を、シリンダライナの長手方向における温度分布が適正分布になるように容易に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例に係るデイーゼルエンジン用シリンダライナの冷却構造を示すシリンダ列中心線に沿う要部断面図である。
【図2】 前記実施例におけるシリンダライナの冷却構造を示す模式図である。
【図3】 従来技術を示す図2対応図である。
【符号の説明】
1 シリンダライナ
1a 内面
1b 肩部
1c スカート部
1d 外周面
2 シリンダジャケット
2a ライナ嵌合孔
3 上部冷却室
4 下部冷却室
5 上部導入口
6 下部導入口
6a 絞り部
7 冷却水集合室
13 冷却水入口
Claims (2)
- シリンダライナの外周面と該シリンダライナが挿入されるシリンダジャケットの内周面との間に形成された冷却室に該シリンダジャケットに設けられた冷却水通路を通して冷却水を供給するようにしたシリンダライナの冷却構造において、前記冷却室はシリンダライナの肩部側に形成された上部冷却室とシリンダライナのスカート部側に形成された下部冷却室とよりなり、前記上部冷却室と前記冷却水通路とを連通する上部導入口と前記下部冷却室と前記冷却水通路とを連通する下部導入口とを並列に配置し、前記冷却水通路を、鋳造によりシリンダ間における前記シリンダジャケット内の上部から下部に貫通して形成し、該冷却水通路の上部寄りの部位に前記上部導入口を開口するとともに該冷却水通路の前記上部導入口よりも下側部位に前記下部導入口を開口し、前記上部導入口の通路面積が下部導入口の通路面積よりも大きくなるように前記下部導入口に該導入口の通路面積を縮小する絞り機構を設けて、前記シリンダライナの長手方向の温度分布が滑らかに変化するように構成したことを特徴とするシリンダライナの冷却構造。
- 前記下部導入口に設けた絞り機構が可変式の絞り機構からなることを特徴とする請求項1記載のシリンダライナの冷却構造。
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