JP3816438B2 - 電極還元法による汚染地下水および土壌の処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、汚染地下水及び/又は土壌を現場で浄化、修復する技術に関し、特に鉛、砒素、カドミウム、水銀などの重金属類を効果的に地下水及び/又は土壌から除去する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
土壌中に吸着、不溶化した重金属を現場で溶出させ、これらを除去する方法として、帯水土壌中に離間して埋設した電極間に直流電圧を印加して、電気浸透現象及びイオン移動現象を利用して重金属イオンをカソード(還元電極)側に移動させ、揚水もしくは掘削回収する方法が考案されている。(例えば特許文献1、特許文献2、および特許文献3参照)。従来方法は、帯水土壌中に離間して埋設したアノードおよびカソード間に直流電圧を印加すると、帯水層中の水が電気分解されて、アノード近傍で生成したH+イオンにより酸性となった地下水中に、付近の土壌から重金属イオンが溶出して、この重金属イオンが動電現象によってカソード側に移動していくことを利用しており、このような仕組みで濃縮、蓄積された重金属イオンを含む地下水を揚水するか、同土壌部分を掘削回収することにより、重金属イオンを除去するものである。
【0003】
尚、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては次のものがある。
【0004】
【特許文献1】
特許第3214600号
【特許文献2】
特公平7−87912号
【特許文献3】
特開平9−234491号
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これらの従来法には、以下のような問題点が懸念される。まず、従来法において、土壌中の重金属がイオン化して地下水中に溶出する際の溶出速度および電気泳動による重金属イオンの移動速度が非常に遅く、重金属イオンの除去に多大な時間がかかるという点が挙げられる。現場の帯水土壌における重金属の溶出速度および電気泳動による重金属イオンの移動速度は、水が飽和した多孔質をモデルとして計算した理論速度よりも遅いことがわかっており、深刻な重金属汚染土壌を早急に修復、浄化することは困難である。
【0006】
また、先に説明したとおり、従来法においては、土壌に埋設された電極間に直流電圧を印加し、土壌中の地下水を電気分解することによって酸性になった地下水に、付近の土壌から重金属イオンが溶出し、溶出した重金属イオンが電気浸透現象およびイオン移動現象によりカソード側に移動していくことを利用している。ところが、先に説明した水の電気分解反応によってカソード近傍にはOH-イオンが生成し、これによりカソード近傍はアルカリ性に偏っているが、地下水中に溶出した重金属イオンが電気浸透現象などによりカソード側に近づくと、カソード近傍に存在するOH-イオンと反応して水酸化物となり、沈殿してしまうというおそれがある。
【0007】
さらに、重金属イオンの電気浸透速度を増大させるために、カソード側から強制的に地下水を揚水することで、アノードとカソードとの間の浸透水流を発生もしくは促進させることが試みられている(例えば特許文献3参照)。ところが、カソード側から地下水を揚水すると、アノード近傍の酸性水が重金属汚染領域に拡散し、汚染領域が酸化的雰囲気となるおそれがある。このように汚染領域が酸化的雰囲気になると、土壌pHの低下が充分でない場合には、特に鉛などの重金属は水和酸化物を形成し、不動態化することがある。重金属類が不動態化してしまうと、地下水に溶出することも電気浸透によりカソード側に移動させることも困難になる。
【0008】
上記のような重金属類の不動態化を防止するために、土壌を極端に酸性に偏らせ(例えばpH3以下など)、重金属類を溶解させるという方法も試みられている。しかしこのような土壌の極端な酸性化によって土壌のアルカリ度が喪失するばかりか、土壌中の微生物、植物への悪影響、さらには土壌構造自体の損壊などの弊害も懸念される。
【0009】
そこで、本発明は、重金属汚染土壌及び/又は地下水から、現場で重金属類を除去する方法において、汚染領域を極端な酸性に曝すことなく、かつ重金属類の水酸化物形成による沈殿や不動態化をも防止して、効果的にこれら汚染源を除去する方法を提供するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1の態様の汚染地下水及び/又は土壌の処理方法は、自然な地下浸透水流及び/又は人工的な浸透水流の存在下で、汚染領域を含む帯水層またはその上流に埋設したカソード(還元電極)と、該カソードから浸透水流下流側に離間して埋設したアノード(酸化電極)との間に直流電圧を印加し;さらに該カソードと該アノードとの間に設置した井戸から重金属を含有する水を揚水する;ことを特徴とする。すなわち、特許文献3に説明される従来法においては、浸透水流上流側にアノード、下流側にカソードを埋設し、地下水中に溶出した重金属イオン類をカソード側に移動させていたが、本発明においては浸透水流上流側にカソード、下流側にアノードを配置して埋設し、重金属イオン類をアノード側に移動させることを特徴としている。先に説明したとおり、従来法においてはいずれもアノード側近傍における水の電気分解より生じたH+イオン(酸性)により重金属類を溶解させていたが、本発明は、カソード側の適度な還元状態により重金属の溶出を促進させる方法であり、根本的に原理が異なる方法である。
【0011】
本発明において「浸透水流」なる語は、土壌中を自然に浸透し、流動する地下水流及び/又は、人工的な手段により地下水を強制的に流動させた場合の水流を指す。人工的な手段とは、例えば揚水ポンプ等を意味し、揚水ポンプにより地下水を揚水することによって、揚水地点に向かって流動する浸透水流を人工的に作ったり促進させることが可能である。
【0012】
本発明においては、自然に存在する地下浸透水流を利用し、これに沿って後記する電極を埋設してもよく、また埋設した電極に沿って、人工的な浸透水流を形成してもよい。
【0013】
先に説明したとおり、本発明においては浸透水流上流側にカソード(還元電極)、下流側にアノード(酸化電極)を埋設することに特徴がある。すなわち、従来法とは逆の方向に重金属イオンを移動させることを目的としている。本発明の方法に従ってカソードおよびアノードを配置し、埋設した場合の重金属イオン回収の仕組みは、以下の通りである。
【0014】
埋設した電極間に直流電圧を印加すると、カソード側近傍の地下水が還元的雰囲気(酸価数の小さい物質が多い状態)になり、重金属類の腐食域に達する。これに伴い、土壌に付着/吸着している重金属類がイオン化し、地下水中に溶出することになる。重金属イオンは正電荷を帯びているため(M2+、M3+等)、イオン移動現象によれば、カソード側(すなわち上流側)に移動しようとするはずである。しかしながら、本発明者の研究により、電気浸透およびイオン移動現象による土壌中での重金属イオンの移動速度はきわめて遅いことが判明している(例えば、土壌中にアノードとカソードとの間を1m離間して埋設し、ここに20Vの直流電圧を印加した場合、電極から30cm以上離れた地点でのイオンの移動速度は、10cm/日程度であった)。そこで、これ以上の速度で流動する地下浸透水流中に電極を埋設するか、あるいはこれ以上の速度で流動する浸透水流を人工的に形成すれば、重金属イオンをカソード側ではなくアノード側に移動させることが可能となる。
【0015】
本発明の方法により、重金属イオンをアノード側に効果的に移動させうるが、酸化還元電位の高い(すなわち酸化的雰囲気の)アノード側に近づいた重金属イオンは、特に鉛などの場合水和酸化物、炭酸塩、鉄吸着態共沈物、マンガン吸着態共沈物等を形成して再び不動態化してしまう傾向にある。したがって、本発明においては、カソードとアノードとの間に位置する井戸から重金属を含有する水を揚水することによって、鉛などの重金属類が酸化的雰囲気において不動態化するより前に土壌から除去する。すなわち、重金属イオンがアノード近傍に近づきすぎて、酸化的雰囲気において不動態化してしまう前に、手前で井戸から地下水を揚水することにより、重金属類がイオンの形で地下水中に存在するうちに除去することが可能になるのである。したがって、このような目的で用いる井戸は、本発明の方法で使用する上流側のカソードと下流側のアノードとの間に存在していることが好ましい。
【0016】
本発明の方法に使用するアノードの材質として、グラファイト、チタン、チタン合金、チタンコートした金属をはじめとする耐腐食性の高い導電性の材料を用いることができる。かかる物質は、耐腐食性が高いため、土壌中に埋設した場合でも腐食することなく電極としての機能を維持することができる。耐腐食性の低い金属を電極として使用すると、土壌中で電極が腐食して金属が溶出するので、周囲の土壌空隙が閉塞し、揚水が困難になる場合があるので好ましくない。
【0017】
本発明の方法に使用するカソードの材質としては、導電性のものであればいかなるものも使用でき、例えば、一般的に金属性のもの(鋼矢板、H鋼、ステンレス等)やグラファイト、グラッシーカーボン等を用いることができる。カソードは電極腐食のおそれがないため、如何なる導電性の物質も好適に用いることができる。
【0018】
1組のカソードおよびアノードの間の距離は、汚染領域の広さや現場の透水係数、電気伝導度などにもよるが、一般的には電極間に汚染領域を挟むことができるような距離であればよく、現場に応じて様々に変えることができる。
【0019】
また本発明の方法において重金属類とは、土壌汚染において問題となる金属類一般を指し、例えば鉛、カドミウム、水銀、砒素、クロム、ニッケル等が挙げられる。
【0020】
本発明の方法において、カソード側に余りにも強い還元電位を与えると、カソード近傍の土壌が極端な還元的雰囲気となって、重金属類の不感域に入るため、逆に重金属類がイオンを形成しにくくなる。したがって、本発明の第2の態様の汚染地下水及び/又は土壌の処理方法は、前記カソードの酸化還元電位を水素標準電極に対して−2.0V〜+0.4Vの範囲にすることを特徴とする。カソード側の酸化還元電位を上記のような範囲に維持することにより、重金属が不溶化することを防止することができる。アノードの酸化還元電位を維持するためには、例えばポテンシオスタットなどを用いて酸化還元電位を制御することが好ましい。
【0021】
さらに本発明の第3の態様の汚染地下水及び/又は土壌の処理方法は、前記アノードの近傍または浸透水流下流側に設置した揚水井から揚水した水を、前記カソードの近傍または浸透水流上流側に設置した注入井に注入することを特徴とする。浸透水流下流側に配置されたアノードの近傍または浸透水流下流側に設置された揚水井から、アノード近辺に生成した酸性水(ここではpHが低くかつ酸化的雰囲気の水を意味する)を揚水し、浸透水流上流側に配置されたカソードの近傍または浸透水流上流側に設置された注入井に注入してやることにより、カソード近傍で生成したOH-イオンを中和することができる。本発明では、カソード近傍を適度な還元的雰囲気にして、土壌に吸着などされていた重金属類をイオン化させ、地下水に溶出させることを利用している点は上述したが、一方、カソード近傍には水の電気分解により生じたOH-イオンも増加する。すなわち、カソード近傍は、還元的雰囲気で、かつpHの高い状態になる。この際、OH-イオンが多く形成されて極端に濃度が高くなると、還元的雰囲気によりイオン化した重金属類が、このOH-イオンと反応して水酸化物になり、再び沈殿してしまう。したがってかかる重金属類の水酸化物の形成を防止するためにも、生成したOH-イオンを中和して適度な濃度に調整する必要がある。この目的のために、アノード側で生成した酸性水を使用することが好適である。本態様の方法に従ってアノード側の酸性水をカソード近傍に注入してやると、驚くべきことにカソード近傍の還元的雰囲気を保持したまま、OH-イオンの中和のみを進行させることができることを本発明者は見出した。そこで、カソード近傍の還元的雰囲気を保持しつつ中性〜弱酸性を維持するために、本態様のような方法を採ることが好ましい。
【0022】
アノード近傍に設置する揚水井の材質として、例えばポリ塩化ビニルなどの高分子化合物製の管等を用いることができる。かかる管は、アノード近傍の酸化的条件下で腐食を起こしにくいからである。耐腐食性の低い金属などを揚水井として使用すると、土壌中で揚水井自身が腐食して溶出した金属により周囲の土壌空隙が閉塞し、揚水が困難になる場合があるので好ましくない。また、耐腐食性の高い導電性の材料を該揚水井の材料として用いる場合には、該揚水井自体をアノードとして兼用することも可能である。
【0023】
カソード近傍に設置する注入井の材質としては、水を通すことができる管状のものであればいかなるものも使用でき、例えば、プラスチック管(ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等)、ゴム管、金属管等が挙げられる。カソード近傍に設置する注入井は、腐食のおそれがないため、如何なる材料でも好適に用いることができる。また、導電性の材料を該注入井の材料として用いる場合には、該注入井自体をカソードして兼用することも可能である。
【0024】
ここで、「アノード(の)近傍」、「カソード(の)近傍」なる語は、一般的には注入井または揚水井による水位変動の影響が及ぶ範囲と考えられ、現場の透水係数や帯水層の深さなどに依存する。この距離は修復、浄化しようとする土壌の構成や透水係数、および帯水層の厚みなどにより種々変わりうる。
【0025】
また、本発明において「アノードの近傍または浸透水流下流側」なる語は、上記に説明したアノードの近傍の範囲から、該アノードから見て浸透水流方向下流側にかけての範囲を示し、同じく「カソードの近傍または浸透水流上流側」なる語は、上記に説明したカソードの近傍の範囲から、該カソードから見て浸透水流方向上流側にかけての範囲を示す。
【0026】
本発明の第4の態様の汚染地下水及び/又は土壌の処理方法は、前記カソードの近傍または浸透水流上流側にさらに設置した注入部から、酸、界面活性剤、キレート剤、電子供与体から選択される少なくとも1以上を含む添加剤を注入することを特徴とする。カソードの近傍または浸透水流上流側に注入部を設置し、ここから、添加剤を注入することができる。本態様の注入部として、本発明の第3の態様の汚染地下水及び/又は土壌の処理方法について説明したような注入井を用いてもよいし、この注入井とは別個に注入部を設けてもよい。
【0027】
この注入部から注入することができる添加剤としての酸は、カソード近傍のOH-イオンの中和をするほか、添加した酸を浸透水流と共に移動させることによって、汚染領域を中性〜弱酸性でかつ還元的雰囲気に維持し、重金属類のイオン化を促進するために添加するものである。好適な酸として、例えば、塩酸等の無機酸のほか、酢酸、クエン酸、アスコルビン酸等の有機酸が挙げられる。
【0028】
添加剤としての界面活性剤は、重金属イオンの溶出を促進し、水中での重金属イオンの安定化のために添加するものである。好適な界面活性剤として、例えば、アルキル硫酸塩類(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)など)などのアニオン界面活性剤、アミン塩型カチオン界面活性剤、第4アンモニウム型カチオン界面活性剤などのカチオン界面活性剤、ポリエチレングリコール型、多価アルコール型界面活性剤などの非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤および高分子界面活性剤等が挙げられるが、弱酸性のアニオン界面活性剤は重金属イオンと反応して不溶性塩を形成するので、本発明における添加剤としての使用には好ましくない。
【0029】
添加剤としてのキレート剤は、重金属イオンの溶出を促進し、水中での重金属イオンの安定化のために添加するものである。好適なキレート剤として、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)などが挙げられる。
【0030】
添加剤としての緩衝剤は、汚染領域のpH変動を抑制し、水中の重金属イオンの安定化を図るために添加するものである。好適な緩衝剤として、例えば、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、塩酸−塩化カリウムなどが挙げられる。
【0031】
添加剤としての電子供与体は、汚染領域の還元的雰囲気を維持するために添加するものである。好適な電子供与体として、例えば、有機物、還元剤、水素などが挙げられる。また、特に汚染領域中に炭酸イオンや硫酸イオンが高濃度で存在し、重金属イオンが不溶化するおそれがある場合には、電子供与体の添加によりメタン菌、硫酸還元菌等の嫌気性細菌を増殖させ、炭酸、硫酸を消費させることができる。かかる場合には電子供与体に加えて窒素源、リン酸などの微生物増殖基質を添加することができる。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図1を用いて説明する。図1は、本発明による汚染地下水及び/又は地下水を処理する方法を実施するための装置の一例を示すものである。図中、符号1は帯水層、2は重金属汚染領域、3はカソード、4はアノード、5は注入井、6は回収井、7は揚水井、8および9は揚水ポンプ、10は凝集沈殿槽、11は処理水、12は金属スラッジ、13は薬液タンクを示す。重金属で汚染された領域2を含む帯水層1の近傍に、複数の井戸5,6および7を掘削し、カソード3およびアノード4を杭打ち機等を用いて埋設する。ここで帯水層1の地下水流動方向は図中矢印の通り左から右(すなわち、カソード3からアノード4の方向)である。次にカソード3およびアノード4に直流電圧を印加する。すると水の電気分解によってカソード近傍が還元的雰囲気となる。かかる還元的雰囲気になった地下水が図中に矢印に示した方向に浸透流動し、重金属汚染領域2に達すると、土壌に吸着等されている重金属がイオン化して地下水に溶出する。溶出した重金属イオンは正電荷を帯びているため、カソード側に移動しようとするが、この移動速度よりも速度の大きい浸透水流にのってアノード4側に移動する。回収井6では重金属イオンを含んだ地下水を揚水し、凝集沈殿槽10で重金属を沈殿させ、処理水11および金属スラッジ12を得る。アノード4で発生した酸性水(ここでは、pHが低く、かつ酸化的雰囲気の水)を揚水井7から揚水し、注入井5より注入して、カソード3で発生するアルカリ性水(ここでは、pHが高く、かつ還元的雰囲気の水)と混合する。以上の揚水、注入を連続的に行うことにより、自然の地下水勾配と併せて、カソード側からアノード側へ流動する人工的な浸透水流を形成することができる。また、揚水井7から揚水した酸性水を注入井5に注入することによって、カソード近辺に生じたOH-イオンが中和されるため、カソード近傍が極端な高pHになることを防止することができる。これにより重金属イオンが水酸化物になって再び沈殿してしまうことを防ぐことができる。さらにアノード側に生成した酸性水、すなわち酸化的雰囲気の水を揚水することによって、鉛などの重金属が水和酸化物になるなどの不動態化を防ぐこともできる。すなわち、上記のような構成を採用することにより、重金属汚染領域を適度な還元的雰囲気に維持することが可能となる。
【0033】
図1に示すように、カソード3およびアノード4の長さは、帯水層1に達するのに充分な長さがあればよい。カソード3の材質は導電性のものであれば特に限定されず、例えば止水壁などに用いられている鋼矢板などを好適に使用することができる。カソード3と注入井5を兼用するものであってもよい。またアノード4は耐腐食性を有する導電体材料を用いることが好ましい。アノード4と揚水井7は兼用するものであってもよい。アノード3およびカソード4の間に印加する電圧は、重金属のイオン化および溶出を促進することが可能でかつエネルギー的に無駄が生じない範囲に設定すべきであり、地中の導電性により数ボルト〜数百ボルトの範囲内で適宜変更できる。カソード3近辺の雰囲気を極端に還元性にしないようにするという観点からは、カソード3の電位を−2.0V〜+0.4V(SHE)の範囲に制御することが好ましい。
【0034】
本発明の方法によるさらなる利点は、シアン化合物のような有害な陰イオンが重金属とともに混在しているような場合でも、本発明の方法を適用することができるという点である。従来法によるイオン移動現象を利用した方法では、陰イオンはアノード側に移動するので、カソード側に移動する重金属イオンとともに回収することはできない。しかし、本方法では陽イオンである重金属イオンと、陰イオンを水流によりともにアノード側に移動させることができるので、重金属イオンとともに有害な陰イオンも同時に回収できる。したがって、重金属と有害な陰イオンとの複合汚染領域に対しても本発明の方法が適用可能となる点で非常に有利である。
【0035】
本発明の方法を利用して、広範囲にわたる汚染土壌及び/又は地下水を処理する場合には、図1で説明したような装置を連続して複数組設置することもできる。縦方向に複数組設置すれば、細長い領域にわたって汚染が連続している場合に適用でき、横方向に複数組設置すれば、汚染領域が幅広い場合に適用できる。
【0036】
【実施例】
以下に本発明を実施例により具体的に説明する。但し本実施例は本発明の如何なる態様をも限定することを意図したものではない。
【0037】
長さ60cm、幅15cm、深さ15cmのガラス製の実験槽に、土壌を厚さ13cm入れて、土壌領域モデルを作成し、本発明の方法の有効性を確認した。実験槽中央部近辺の土壌に500mgPb/kg土壌となるように炭酸鉛を添加し、長さ20cmにわたる重金属汚染土壌領域モデルを調製した。実験槽の両端に採水口を取り付け、地下水位が一定の勾配を維持するように水を左端から注入し、右端から流出させ、地下水の流動速度が10cm/日となるように流量を調整した。同じ装置を2系統作製し、それぞれ右端から流出する間隙水について、原子吸光法を用いて鉛濃度を測定したところ、1ヶ月間の予備運転期間中における鉛溶出濃度は、いずれの系でも0.1mg/L程度であった。これは地下水の水質汚濁にかかる環境基準を10倍超過している値に該当する。また、該汚染土壌領域の汚染濃度および重金属汚染分布に大きな変化は見られなかった。
【0038】
本実験系のうち、一方の装置に、図1に示すような電極および井戸を配置した。注入井、カソード、回収井、アノード(本実施例では揚水井と兼用した)は、それぞれ実験槽の左端から5cm、10cm、42cm、55cmの位置に配置した。揚水井から酸性水を200mL/日で揚水し、この酸性水を注入井より200mL/日注入した。また、一方900mL/日の速度で回収井より水の回収を行った。同時にカソードに−0.4V(SHE)の還元電位を印加し、ポテンショスタットの出力は最大20Vとした。もう一方の装置は対照区とし、モデル地下水流のみの運転を継続させた。
【0039】
電位を印加してから3日後に、重金属汚染領域は酸化還元電位0.0V(SHE)の還元状態となり、かつpH7.3の中性条件を保っていた。同時期に回収井より回収した水中の鉛濃度が上昇しはじめ、15日後には330mg/Lの最大値に達した。その後鉛溶出濃度は減少し、25日後には0.01mg/L以下となった。また、揚水井および実験槽右端からの流出水中の鉛濃度は3日後までに0.01mg/L以下に低下し、以降その値を維持した。この運転を30日間継続した後、実験槽内の土壌を採取して、鉛濃度を測定した。重金属汚染領域を含むいずれの採取地点の土壌サンプルにおいても、鉛濃度は0.01mg/L以下であった。これは土壌環境基準値以下であることを示す。
【0040】
一方、対照区からの鉛流出水濃度はその後も変化なく、0.1mg/L程度を維持していた。また、重金属汚染領域の汚染濃度および重金属汚染分布に大きな変化は見られなかった。
【0041】
【発明の効果】
本発明の方法の汚染地下水及び/又は土壌の処理方法は、土壌及び/又は地下水に含まれる重金属類を、現場でかつ実用的に可能な短い期間で回収、除去することができる。本発明の方法は、土壌を極端な酸性条件に曝す必要がないにもかかわらず、重金属イオンが水酸化物等になって沈殿することを防止することができる。カソードの還元電位を適度なものに維持することによって、カソード付近が極度な還元状態になることを防ぎ、これにより重金属類の不感域に入って重金属類が溶解しなくなる現象を防止できる。また本発明の方法は、電極間に直流電圧を印加して、アノード側に重金属イオンを含有する地下水を移動させるものであるが、これと同時に有害な陰イオン(CN-など)もアノード側に移動するので、重金属類の回収とともにかかる有害アニオンをも回収でき、複合汚染領域に適用可能な方法であり、大変効率的である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の汚染地下水及び/又は土壌の処理方法を実施するためのシステムの一例を表す断面図である。
【符号の説明】
1:帯水層、2:汚染領域、3:カソード、4:アノード、5:注入井、6:回収井、7:揚水井、8、9:揚水ポンプ、10:凝集沈殿槽、11:処理水、12:重金属スラッジ、13:薬液タンク
Claims (3)
- 自然地下浸透水流及び/又は人工的な浸透水流の存在下で、
汚染領域を含む帯水層またはその上流に埋設したカソード(還元電極)と、該カソードから浸透水流下流側に離間して埋設したアノード(酸化電極)との間に直流電圧を印加し;前記アノードの近傍または前記浸透水流下流側に設置した揚水井から揚水した水を、前記カソードの前記浸透水流上流側に設置した注入井に注入し、
さらに該カソードと該アノードとの間に設置した井戸から重金属を含有する水を揚水する;こと
を含む、汚染地下水及び/又は土壌の処理方法。 - 前記カソードの酸化還元電位を水素標準電極に対して−2.0V〜+0.4Vの範囲にすることを特徴とする、請求項1に記載の汚染地下水及び/又は土壌の処理方法。
- 前記カソードの近傍または前記浸透水流上流側に設置した注入部から、酸、界面活性剤、キレート剤、電子供与体から選択される少なくとも1以上を含む添加剤を注入することをさらに含む、請求項1または2に記載の汚染地下水及び/又は土壌の処理方法。
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