JP3811936B2 - 表面傷の検出方法及び表面傷探傷装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、超音波の表面波を用いて材料の表面の探傷を行い、表面傷の種類と深さを検出する表面傷の検査方法及び表面傷探傷装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
超音波の表面波は、材料の表層部を探傷する手段として良く知られている。例えば、特開平6−331603号公報には、鋼板表面上を固定軸を介してタイヤで移動可能とし、タイヤ内部に充填液が密封され、かつ、角度調整器にて角度を可変とする可変角振動子で鋼板面に対して30°〜38°傾斜させて超音波を発振せしめるようにした鋼板の表面傷探傷が開示されている。しかし、この方法は反射法であるため、欠陥の方向に依存して欠陥検出能が変わってしまうことや検出された欠陥深さを推定できないなどの問題があった。
【0003】
このような問題点を解決する方法として、特開平10−213573号公報に、透過法による材料表層部の探傷法が記載されている。その構成の概要を図15に示す。所定の周波数のトーンバースト波を発生するバースト波発振器11からバースト波を発信し、送信用超音波探触子12により表面波に変えて被検査体13中に発信する。表面波は被検査体13の表面を伝播し、その表面に欠陥14があると、それによって減衰を受けて受信用超音波探触子15で受信される。この受信信号は、受信器16により処理され、欠陥13の有無とその深さが検出される。
【0004】
この発明においては、表面波の浸透深さが波長(周波数)に依存して変わることを利用して、材料表層部の欠陥を透過した表面波の周波数毎の透過率から欠陥深さを推定することを行っている。即ち、幾つかの異なる周波数を含む波形を送信波として用い、材料表層部の欠陥を透過した受信波から、周波数毎のそれぞれの減衰量をもとめて、減衰量の絶対割合に応じた欠陥の深さを演算している。このようにして、透過法を用い、かつ周波数毎の表面波の減衰量を計算することにより、欠陥の有無ばかりでなく、その深さを求めることができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平10−213573号公報に開示された発明においては、表面傷深さを推定するに際して、送信波で用いた幾つかの周波数の減衰の絶対量を用いて演算をしているので、表面傷のない部分、即ち健全面での減衰量が変化するような被検査体には適用ができないという問題点があった。
【0006】
すなわち、一般に、製鉄所でつくられる厚板等には、幅5m×長さ30mの大きさに及ぶものがあり、全面が均一な表面粗さでなかったり、表面傷の検査場における枕木の間隔に応じて反りが発生していたり、残留応力によって板が反っていたり、制御圧延による音響異方性が中央部とエッジ部で不均一に発生している場合がある。これらの現象は、表面傷の検査に用いる超音波探触子によって発生せしめる表面波の発生効率及び伝播効率を変化させるものである。
【0007】
要するに、製鉄所で作られる厚板の表面傷検査のような、一つの被検査体において表面波の発生効率や伝播効率が変動しうる検査対象においては、健全面における表面波の透過量が変化するので、特開平10−213573号公報に記載されている方法のような、絶対減衰量に基づく表面傷深さの推定方法は、誤推定の恐れがあり、実際に生産現場で使用する品質保証用の探傷装置としては信頼性に欠けるという問題点がある。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたもので、被検査対象に音響的に不均一な部分があったり、表面波の発生効率や伝播効率が変動する場合でも、傷の方向にかかわりなく、表面傷の種類と深さを精度良く検出できる表面傷の検出方法及び表面傷探傷装置を提供することを課題とする。
【0009】
前記課題を解決するための第1の手段は、複数の周波数成分を含む表面波の超音波を用い、被検査体の健全部を透過する超音波の透過量により正規化された正規化透過量の周波数パターンを用いて被検査体の表面傷を検出する方法であって、前記正規化透過量の周波数パターンを、特定の周波数における正規化透過量を基準にして、さらに正規化した透過量パターンとし、予め深さの異なる種々の表面傷を用いて、前記透過量パターンを求めて基準パターンとして記憶しておき、探傷の際には前記透過量パターンと前記記憶された基準パターンとのパターンマッチングを行い、最も一致率の高い基準パターンに対応する表面傷の種類と深さを検出値とすることを特徴とする表面傷の検出方法(請求項1)である。
【0010】
前述したような理由により、表面波である超音波の透過量は、表面傷以外の種々の要因の影響を受けるが、発明者等の実験によれば、超音波の透過率の周波数分布のパターンは、被検査体と測定条件が同一であれば、表面傷の種類と深さによって決まってしまい、前述したような外乱の影響を受けない。よって、複数の周波数成分を含む超音波を使用し、被検査体を透過する超音波の透過量を周波数毎に求め、周波数毎に求めた非検査体の健全部を透過する超音波の透過量で正規化し、正規化された透過量の周波数分布のパターンを測定することにより、外乱の影響を受けることなく、表面傷の種類と深さを検出することができる。また、本方法によれば、傷の方向にかかわりなく、表面傷の種類と深さを検出することができる。
【0011】
なお、本明細書において、「複数の周波数成分を含む超音波」とは、一つの波形の中に複数の周波数成分が含まれている場合ばかりでなく、複数の異なる周波数の超音波が時分割的に送出されるような場合をも含むものである。
【0013】
本手段においては、予め種類と深さの分かっている表面傷ごとに、探傷に用いられる探触子を使用した場合の、超音波の透過量の周波数分布のパターンを測定し、周波数毎に求めた非検査体の健全部を透過する超音波の透過量で正規化して基準パターンとして記憶しておく。そして、探傷に際しては、非検査体を透過する超音波の透過量を周波数毎に求め、周波数毎に求めた非検査体の健全部を透過する超音波の透過量で正規化し、正規化された透過量の周波数分布のパターンと、記憶された基準パターンとのパターンマッチングを行う。パターンマッチングの方法としては周知のものが使用できる。この際、パターン(形状)のマッチングだけが問題となるので、比較に際しては両方のデータを基準化して、絶対値の差が問題とならないようにする必要がある。その一方法としては、パターンの最大値を1として基準化する方法や、特定周波数における値を1として基準化する方法がある。
【0014】
このようにして、検出されたパターンに近い基準パターンを選び出し、その基準パターンを有する表面傷と深さを検出値とする。本手段においては、欠陥の検出にパターンマッチングを用いているので、周知の手法を利用して、正確な検出が可能である。
【0020】
前記課題を解決する第2の手段は、前記第1の手段であって、正規化透過量の周波数パターンにおいて、低周波側が高周波側に比して小さい場合には、前記特定の周波数には低周波側の周波数を用い、低周波側が高周波側に比して大きい場合には、前記特定の周波数には高周波側の周波数を用いるようにしたことを特徴とするもの(請求項2)である。
【0021】
発明者らの実験によれば、表面傷が開口傷である場合、超音波の高周波成分が低周波成分に比して大きく減衰し、表面傷が非開口傷である場合、超音波の低周波成分が高周波成分に比して大きく減衰することが分かった。よって、本手段により、表面傷が開口傷であるか非開口傷であるかの判定が可能である。
【0022】
前記課題を解決するための第3の手段は、被検査体の表面に存在する表面傷の種類と深さを、超音波の表面波を用いて透過法で検出する表面欠陥探傷装置であって、複数の周波数成分を含有する表面波の超音波を送信する送信器と、被検査体を透過した超音波を受信する受信器と、受信した超音波より周波数分布を求める手段と、求められた周波数分布を、被検査体の健全部を透過した送信波の周波数分布で除算して、正規化された超音波の透過量の周波数分布を求める除算器と、前記透過量の周波数分布を特定の周波数でさらに正規化して透過量パターンを求める演算器と、前記透過量パターンを、種々の表面傷の深さ毎に基準パターンとして記憶する記憶装置と、探傷に際して求められた、前記透過量パターンの形状に最も近い、記憶装置に記憶されている基準パターンを選定する演算装置と、選定された基準パターンより、表面傷の種類と深さを断定する判定装置とを有してなることを特徴とする表面欠陥探傷装置(請求項3)である。
【0023】
本手段においては、受信波のスペクトル分布を被検査体の健全部を透過した受信波のスペクトル分布で割ることにより、探傷部を透過した超音波の透過量の正規化された周波数分布を求める。そして、この周波数分布の形状(パターン)を、記憶装置に記憶してある基準パターンの形状と比較し、記憶装置に記憶してある基準パターンのうち、検出された周波数分布の形状に最も近いものを抽出する。そして、それに対応する表面傷の種類と深さを検出値とする。このようにして、周波数分布の形状に基づいて表面傷の種類と深さを検出することにより、被検査対象に音響的に不均一な部分があったり、表面波の発生効率や伝播効率が変動する場合でも、傷の方向にかかわりなく、表面傷の種類と深さを精度良く検出できる。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態の例を図を用いて説明する。図1は本発明の実施の形態の1例である表面傷探傷装置の構成を示す概要図である。図1において、1は被検査体である厚鋼板、2は表面傷、3はパルス送信器、4は送信用超音波探触子、5は受信用超音波探触子、6は受信器、7はスペクトラムアナライザー、8は演算器、9は出力装置である。
【0027】
パルス送信器3のパルス波の周波数帯域、及び送信用超音波探触子4と受信用超音波探触子5の周波数帯域は、厚鋼板1の表面波音速及び検出すべき表面傷2の深さから決定される。本実施の形態の場合、深さ0.1〜0.6mmの表面傷2を検出対象としているので、検査に用いる表面波の波長は、その深さを0.3で割った0.34〜2mm程度が適している。厚鋼板1中の表面波の音速は2980m/sであるから、周波数に換算すると、1.4〜8.8MHzである。よって、本実施の形態では、1〜10MHzの周波数帯域において感度を持つパルス送信器3、及び送信用超音波探触子4、受信用超音波探触子5を用いている。同時に受信器6も1〜10MHzの周波数帯域を持つものにしている。
【0028】
ここで、検査の周波数を選択するのに、検査対象の表面傷の深さを0.3で割ったのは、表面波が伝播の際、そのエネルギーが表面から波長の約0.3倍のところで50%に達するので、検査に適しているからである。また、パルス送信器3の送信電圧は、上記の周波数帯域全域で感度が十分取れるよう300Vp-pとしている。
【0029】
また、送信用超音波探触子4及び受信用超音波探触子5の振動子は、被検査体である厚鋼板1の表面波を送受信できるように、所定の角度θだけ傾いている。この角度は、楔および厚板と探触子間を満たす媒質の音速Vで決定され、この角度はスネルの法則より次式で表される。
θ=Sin-1(2980/V) …(1)
【0030】
パルス送信器3から送られるパルス電圧は、送信用超音波探触子4によって超音波に変換され、接触媒質を通して、厚鋼板1の表面で表面波に変換される。所定の領域を伝播した表面波は、受信用超音波探触子5にて受信され、振動が電気信号に変換されて受信器6に送られる。受信器6は、受信した電気信号から探傷に用いた透過波に相当するRF波形をスペトラムアナライザ7に送る。スペクトラムアナライザ7は透過RF波形をフーリエ変換し周波数軸のパワースペクトラムを得る。それらのデータは、演算器8に送られる。演算器8は、表面傷の種類と深さ推定を行って、傷有りと判定すれば、その深さと種類を出力装置9に送るように動作する。
【0031】
以下、演算器8のにおける表面傷の種類と深さの判断方法の例を説明する。
図1に示した構成の表面傷探傷装置で厚鋼板1の健全面を探傷したときの透過波形及びスペクトラムを図2に示す。図2において(a)は透過波形、(b)はそのパワースペクトラムである。この健全面での透過波のスペクトラム(b)は、本実施の形態の探傷システムの周波数毎の感度特性を示すものであり、通常の探傷の際には、透過波の周波数毎の強度を感度補正するために探傷で得られたスペクトラムを、この図2(b)のスペクトラムで除してやる必要がある(周波数毎の除算を行う)。演算器8は、そのためのメモリ、即ち、正規化された感度特性のスペクトラムを保存しておく機能を持っている。探傷で得られたスペクトラムを、感度補正したものを今後、正規化された透過量とよぶことにする(図においては、簡単化のため「透過率」と表している。
【0032】
次に、厚鋼板1に作製した図3に示すような深さhの人口傷(ノッチ傷)を、図1に示した構成の表面傷探傷装置で探傷した際の周波数毎の正規化された透過量を図4に示す。ここで、ノッチ傷は、深さh=0.1、0.3、0.5、0.7、0.9mmのものである。また、ノッチ傷の長さは送受信の探触子から送受でされる超音波ビームの幅より十分長くしている。
【0033】
この図4に示される、正規化された透過量−周波数の関係を、縦軸を正規化された透過量、横軸を傷深さh/波長λ(=傷深さ・周波数/音速)として書き換えると図5のようになる。即ち、所定深さの所定傷を透過する表面波の正規化された透過量は、波長毎に一義的に決まってしまう。
【0034】
従来技術の表面傷の推定方法では、正規化された透過量を求め、図5よりそれに対応するh/λを求め、λが既知であるので、これからhを求めている。しかし、そのアルゴリズムを使うと、何らかの要因で健全面における透過波の強度が低下したような場合でも、表面傷があると判断してしまうことは前述のとおりである。
【0035】
本実施の形態においては、演算器8は、正規化された透過量を求めた後に、正規化された透過量の各周波数の比を計算を計算する。具体的には、1、2、3、4、5、6、7、8、9MHzにおける正規化された透過量の比を使用している。
【0036】
図6は、厚鋼板1の健全部を測定した場合のパワースペクトラムを(a)に、その正規化された透過量と探傷周波数の関係を(b)に示したものである。いま、実線で示されるデータを測定して、その結果に基づいて正規化された透過量を算出しているので、このときの正規化された透過量は、いずれの周波数についても1となる。もし、板の反りなどの外乱の影響で、超音波の受信強度が50%低下した場合は、図6(a)で破線に示すように、スペクトラムは50%下がり、(b)に破線で示すように正規化された透過量も50%低下する。しかし、正規化された透過量のパターンは直線であり、変化しない。
【0037】
図7は、深さが0.3mmの開口表面傷を探傷したときのパワースペクトラムを(a)に、正規化された透過量と探傷周波数の関係を(b)に示したものである。このように、開口した表面傷の場合、周波数の上昇と共に正規化された透過量が減少する傾向にある。
【0038】
図8は、この表面傷の探傷時に、板の反りなどの外乱の影響で、超音波の受信強度が50%低下した場合のパワースペクトラムを(a)に、正規化された透過量と探傷周波数の関係を(b)に示したものである。図8(a)示すように、スペクトラムは50%下がり、(b)に示すように正規化された透過量も50%低下する。しかし、どの周波数に対しても50%ずつ低下するので、正規化された透過量のパターンの形状は変化しない。たとえば、1MHzの正規化された透過量を同じにして、図7(b)と図8(b)とを比較すると、図9に示すように両者は同じグラフとなる。
【0039】
その他の傷に関しても同様なことが成り立ち、1MHzの強度を基準にとった正規化された透過量は図10のようになる。演算器8は、この図10の関係を深さに対して、より詳細にデータとして持っておくことで、開口傷の精度良い深さ推定を行うことができる。
【0040】
非開口傷に関しても同様のアナロジーで深さを推定することができる。先ず、非開口傷の表面下の深さ毎の、正規化された透過量と周波数の関係は、図11のようになる。高い周波数ほどエネルギーが表面に集中しているので、正規化された透過量が大きくなっている。横軸を傷深さh/波長λ(=傷深さ・周波数/音速)として書き換えると図12のようになる。開口傷の時と同様に、周波数(波長)に依存した強度変化を示し、板の反りなどの外乱の影響を受けても、そのパターンは変化しないので、表面傷以外の要因で送受信の強度が変わった場合の影響を取り除くことは容易である。例えば、9MHzの強度(正規化された透過量)を基準とすれば、欠陥深さ毎の周波数と正規化された透過量の関係は、図13のようになり、9MHzの正規化された透過量と各周波数における正規化された透過量の比から、容易に非開口傷の表面下の深さを精度よく推定できる。
【0041】
以上、特定の周波数の相対強度による深さ推定の原理を述べてきたが、探傷に使用する有限個の周波数の相対強度で深さを推定できる範囲は限られているため、絶対的な量による変化も参考にしなければならない。例えば、本実施の形態の開口傷の場合(高い周波数がより大きく減衰している場合)、1MHzの絶対強度が、装置のキャリブレーション時において健全面を測定したときの絶対強度の20%以下になるような場合は、深さ1mm以上の傷と考え相対強度による深さ推定は行っていない、たとえこの強度変化が、傷以外の要因に起因するものであっても、最も透過率の高いはずの1MHzの超音波の透過率が、当初の設定時において健全部を測定した透過率の20%以下になるような場合は、その他の周波数での透過率は、もっと低い値となるので、強度比がばらついてしまい適当な評価ができないからである。
【0042】
以上説明した演算器8の表面傷の推定方法を図14のフローチャートにまとめて示す。まず、ステップS1において、スペクトラムアナライザー7が探傷波形から算出したスペクトラムを受取る。そして、ステップS2で、超音波の透過量の正規化を行う。すなわち、健全部を探傷したときの超音波の透過量のスペクトラムを予め記憶しておき、各周波数について、探傷時に得られたスペクトラム強度を、記憶してあるスペクトラムで割り算して、正規化された透過量を求める。この実施の形態においては、使用する周波数として1〜9MHzを1MHzおきに用いている。
【0043】
次にステップS3で、それぞれの周波数における正規化された透過量を比較し、高周波側が減衰しているか低周波側が減衰しているかを判断する。高周波側が減衰していればステップS4で開口傷と判断し、規準とする周波数を1MHzとする。そして、ステップS5で、1MHzにおける絶対透過量が、装置のキャリブレーション時において健全面を測定したときの絶対強度の20%以上あるかどうかを判定する。これが20%に満たない場合は、ステップS6に移って、本方法による推定範囲外であるとし、警報を出力する等の措置を行う。
【0044】
20%以上ある場合は、ステップS7に移って、正規化された透過量のパターンを基準化することにより形状を求める。すなわち、各周波数における正規化された透過量を、1MHzにおける正規化された透過量で割り、正規化された透過量のパターンの形状を基準化する。そして、ステップS8において、欠陥の種類と深さ毎に記憶してある正規化された透過量の基準パターンの形状との比較を行う。そして、最も検出されたパターンの形状に近い基準パターンを選出し、そのパターンに対応する傷の種類と深さを出力とする。ここでは、記憶してある正規化された透過量のパターンの形状は、1MHzの場合を1として基準化された値とされている。
【0045】
検出されたパターンの形状と最も近い記憶パターンの決定は、たとえば以下のようにして行う。正規化された透過量のパターン(基準化されたもの)の、iMHzにおける透過量をy(i)とし、記憶されているj番目の基準パターンのiMHzにおける透過量をxj(i)とする。このとき、両者の周波数毎の差の2乗和
ε={y(1)-xj(1)}2+{y(2)-xj(2)}2+……+{y(1)-xj(1)}2 …(1)
を各jについて求め、εの値が最も小さくなるものを、検出されたパターンの形状と最も近い記憶パターンと決定する。
【0046】
なお、検出されたパターンの形状と最も近い記憶パターンの決定の手法は、このようなものに限られず、周知のパターンマッチングの手法を適宜選択して使用することができる。
【0047】
ステップS3において、低周波側が減衰していると判断した場合は、ステップS9で非開口傷と判断し、規準とする周波数を9MHzとする。そして、ステップS10で、9MHzにおける絶対透過量が、装置のキャリブレーション時において健全面を測定したときの絶対強度の20%以上あるかどうかを判定する。これが20%に満たない場合は、ステップS11に移って、本方法による推定範囲外であるとし、警報を出力する等の措置を行う。
【0048】
20%以上ある場合は、ステップS12に移って、正規化された透過量のパターンを基準化することにより形状を求める。すなわち、各周波数における正規化された透過量を、9MHzにおける正規化された透過量で割り、正規化された透過量のパターンの形状を基準化する。そして、ステップS13において、欠陥の種類と深さ毎に記憶してある正規化された透過量の基準パターンの形状との比較を行う。そして、最も検出されたパターンの形状に近い基準パターンを選出し、そのパターンに対応する傷の種類と深さを出力とする。ここでは、記憶してある正規化された透過量のパターンの形状は、9MHzの場合を1として基準化された値とされている。
【0049】
検出されたパターンの形状と最も近い記憶パターンの決定は、ステップS8における手法と同様の手法により行う。
【0050】
なお、以上の説明においては、開口傷に関しては、1MHzを基準に、非開口傷に関しては9MHzを基準にして処理を行う例を示したが、これは、これらの周波数の超音波が、それぞれの傷に対して比較的透過率が高く、安定した基準と考えられたからであり、その他の周波数を基準としても問題はない。
【0051】
また、送信にパルス波を用い、スペクトラムアナライザにより、それぞれの周波数の強度を得たが、スペクトラムアナライザでなく、狭帯域のバンドパスフィルターで各周波数の強度を得てもよいし、送信波を狭帯域のトーンバースト波にして幾つかの周波数を時分割して送信して、それぞれの周波数の強度を得てもよい。
【0052】
また、この実施の形態においては、超音波の透過量を正規化する手段として、受信波のスペクトル分布を、被検査体の健全部を透過した透過波のスペクトル分布で割る方法を用いているが、被検査体の健全部を透過した透過波のスペクトル分布の代わりに、送信波のスペクトル分布で割ってもよい。この場合には、正規化された透過量として、超音波の透過率のスペクトル分布を使用することになる。この場合の検査の手順は、「正規化された透過量」という趣旨の記述を「透過率」に置換えることにより、前述の手順がそのまま適用できる。
【0053】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のうち請求項1に係る発明においては、正規化された超音波の透過量の周波数分布のパターンを測定しているので、外乱の影響を受けることなく、表面傷の種類と深さを検出することができる。また、傷の方向にかかわりなく、表面傷の種類と深さを検出することができる。
【0054】
請求項2に係る発明においては、欠陥の検出にパターンマッチングを用いているので、周知の手法を利用して、正確な検出が可能である。
【0055】
請求項3に係る発明においては、測定された超音波の透過率の周波数分布のパターンを測定しているので、外乱の影響を受けることなく、表面傷の種類と深さを検出することができる。また、傷の方向にかかわりなく、表面傷の種類と深さを検出することができる。
【0056】
請求項4に係る発明においては、欠陥の検出にパターンマッチングを用いているので、周知の手法を利用して、正確な検出が可能である。
【0057】
請求項5に係る発明においては、表面傷が開口傷であるか非開口傷であるかの判定が可能である。
【0058】
請求項6に係る発明及び請求項7に係る発明においては、被検査対象に音響的に不均一な部分があったり、表面波の発生効率や伝播効率が変動する場合でも、傷の方向にかかわりなく、表面傷の種類と深さを精度良く検出できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の1例である表面傷探傷装置の構成を示す概要図である。
【図2】図1に示した構成の表面傷探傷装置で厚鋼板の健全面を探傷したときの透過波形及びスペクトラムを示す図である。
【図3】厚鋼板上に作成した人口傷を示す図である。
【図4】図1に示した構成の表面傷探傷装置で探傷した際の周波数毎の正規化された透過量を示す図である。
【図5】所定開口表面傷の正規化された超音波透過量と(傷深さh/超音波波長λ)との関係を示す図である。
【図6】厚鋼板1の健全部を測定した場合のパワースペクトラムと、その正規化された透過量と探傷周波数の関係を示す図である。
【図7】深さが0.3mmの開口表面傷を探傷したときのパワースペクトラムと、正規化された透過量と探傷周波数の関係を示す図である。
【図8】深さが0.3mmの開口表面傷の探傷時に、外乱で超音波の受信強度が低下したときの、パワースペクトラムと、正規化された透過量と探傷周波数の関係を示す図である。
【図9】正規化された透過量のパターンを1MHzの値を基準にして基準化した図である。
【図10】開口表面傷の深さ毎の、正規化された透過量のパターンを1MHzの値を基準にして基準化した図である。
【図11】非開口表面傷の深さ毎の、正規化された透過量のパターンを示す図である。
【図12】所定非開口表面傷の正規化された超音波透過量と(傷深さh/超音波波長λ)との関係を示す図である。
【図13】非開口表面傷の深さ毎の、正規化された透過量のパターンを9MHzの値を基準にして基準化した図である。
【図14】本発明の実施の形態の1例における演算器の、表面傷の推定方法を示す図である。
【図15】従来の材料表面部の探傷方法を示す図である。
【符号の説明】
1…厚鋼板
2…表面傷
3…パルス送信器
4…送信用超音波探触子
5…受信用超音波探触子
6…受信器
7…スペクトラムアナライザー
8…演算器
9…出力装置
Claims (3)
- 複数の周波数成分を含む表面波の超音波を用い、被検査体の健全部を透過する超音波の透過量により正規化された正規化透過量の周波数パターンを用いて被検査体の表面傷を検出する方法であって、前記正規化透過量の周波数パターンを、特定の周波数における正規化透過量を基準にして、さらに正規化した透過量パターンとし、予め深さの異なる種々の表面傷を用いて、前記透過量パターンを求めて基準パターンとして記憶しておき、探傷の際には前記透過量パターンと前記記憶された基準パターンとのパターンマッチングを行い、最も一致率の高い基準パターンに対応する表面傷の種類と深さを検出値とすることを特徴とする表面傷の検出方法。
- 請求項1に記載の表面傷の検出方法であって、正規化透過量の周波数パターンにおいて、低周波側が高周波側に比して小さい場合には、前記特定の周波数には低周波側の周波数を用い、低周波側が高周波側に比して大きい場合には、前記特定の周波数には高周波側の周波数を用いるようにしたことを特徴とする表面傷の検出方法。
- 被検査体の表面に存在する表面傷の種類と深さを、超音波の表面波を用いて透過法で検出する表面欠陥探傷装置であって、複数の周波数成分を含有する表面波の超音波を送信する送信器と、被検査体を透過した超音波を受信する受信器と、受信した超音波より周波数分布を求める手段と、求められた周波数分布を、被検査体の健全部を透過した送信波の周波数分布で除算して、正規化された超音波の透過量の周波数分布を求める除算器と、前記透過量の周波数分布を特定の周波数でさらに正規化して透過量パターンを求める演算器と、前記透過量パターンを、種々の表面傷の深さ毎に基準パターンとして記憶する記憶装置と、探傷に際して求められた、前記透過量パターンの形状に最も近い、記憶装置に記憶されている基準パターンを選定する演算装置と、選定された基準パターンより、表面傷の種類と深さを断定する判定装置とを有してなることを特徴とする表面欠陥探傷装置。
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