JP3808322B2 - 鏡面仕上げ性に優れた快削プラスチック成形金型用鋼 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、プラスチック部品およびプラスチック製品を成形する金型用鋼に関し、詳しくはプラスチックの射出成形等の金型用鋼であって、さらに被削性、鏡面仕上げ性に優れ、28〜42HRCの硬さを有する快削プラスチック成形金型用鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、家電をはじめ、自動車、OA機器、精密機械、光学機器など、多くの分野で製品のプラスチック化が進んでいる。これらプラスチック製品は射出成形にて製造される。最近ではプラスチック製品の高精密化に伴って、より高品質なプラスチック成形用の金型鋼が求められている。また、射出成形では、プラスチック成形用金型の仕上げ面そのものが、製品肌として転写されるため、例えば、光学レンズや医療機器のような透明なプラスチック製品を成形する金型には、極めて高度な鏡面仕上げ性が不可欠である。
また、最近のプラスチック成形金型用鋼の分野において、射出成形機の価格に占める金型製作費の比率上昇に伴い、金型製作費低減の観点から、高能率加工への対応や切削工具の長寿命化への要求が高まり、プラスチック金型用鋼においては、さらに優れた被削性が要求されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
一方、プラスチック成形用の金型は、主としてコストの観点から一般構造用鋼やSCM系の低合金鋼が主流であった。しかし、一般構造用鋼は硬さがHV200前後であり、型の寿命が短いという問題がある。また、SCM系はHRC30前後を確保できるため、高寿命が要求される用途に使用されているが、大型の製品では硬さの確保が困難で均一性の面で問題がある。さらに、SCM系はC量が高いため溶接性が悪いという問題を抱えている。
【0004】
また、HRC40前後が得られる析出硬化系があり、硬さの均一性に優れ、高級プラスチック金型用鋼として用いられている。しかし、高硬度であるため、Sなどの快削元素を添加して被削性向上を図っており、被削性を付与するMnSが鏡面研磨時に脱落したり、掘り起こされたりしてピンホールを発生させ、鏡面仕上げ性が十分ではない。一方で、鏡面仕上げ性を重視して、快削元素のSなどを無添加とした析出硬化系鋼では、依然、被削性に劣るという問題があった。
さらに、一般の金型に用いられるプリハードン鋼には製鋼時の脱酸生成物であるAl2 O3 等の硬質介在物が含まれており、これらの介在物がピンホールの発生原因となることにより、鏡面仕上げ性に影響を及ぼしている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上述したような問題を解消するために、発明者らは鋭意開発を進めた結果、特にMn+8.5C<2.8にすることにより、ベイナイトにフェライト相を分散させた基地組織を形成して被削性を向上させると共に、さらにNi,Cu,Alの析出硬化によって、高い強度と良好な被削性を付与することで、プラスチック成形用の金型鋼として十分な28〜42HRC程度の硬さを有しながら、快削元素を添加することなく、優れた機械加工性を実現した。さらにO≦15ppm、N≦150ppm、およびS<0.01%に規制し、非金属介在物を大幅に低減することにより、鏡面仕上げ性に極めて優れたプラスチック金型用鋼を提供する。
【0006】
その発明の要旨とするところは、
(1)質量%で、C:0.01〜0.10%、Si:≦1.0%、Mn:0.9〜2.5%、Ni:1.5〜2.5%、Al:0.3〜1.0%、Cu:0.3〜0.85%、S:<0.01%、O:≦15ppm、N:≦150ppm、を含み、かつ、Mn+8.5C<2.8を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなることを特徴とする鏡面仕上げ性に優れた快削プラスチック成形金型用鋼。
(2)質量%で、Cr:0.8〜3.0%、またはMo:≦0.45%の1種または2種を含有することを特徴とする前記(1)記載の鏡面仕上げ性に優れた快削プラスチック成形金型用鋼にある。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る成分組成の限定理由について説明する。
C:0.01〜0.10%
Cは、焼入れ性および焼入相の硬さを確保するために必要な元素であり、そのためには0.01%以上必要である。しかし、多過ぎると溶接性を損なうと共に、基地をマルテンサイト化して被削性を低下させるため、その上限を0.10%とする。
Si:≦1.0%
Siは、溶製時の脱酸材として必要不可欠な元素であるが、多過ぎると時効硬化後の靱性を低下させるので、上限を1.0%とする。
【0008】
Mn:0.9〜2.5%
Mnは、脱酸および焼入れ性を確保するために添加するが、その効果を得るために、0.9%を下限とする。しかし、余りに多量に添加した場合は靱性の低下を招き、また、基地のマルテンサイト量が増加して被削性、シボ加工性の低下をもたらすため、上限を2.5%とする。
Ni:1.5〜2.5%
Niは、ベイナイト焼入れ性を高め、時効処理実施時にNi−Al系の金属間化合物を析出させ、硬さを確保するために不可欠であり、プラスチック金型に必要なシボ加工性を向上させるために有効な成分であることから、少なくとも1.5%以上は必要である。過剰な添加はフェライトの生成を抑制して被削性を損ない、また、熱伝導率を低下させるために2.5%を上限とする。
【0009】
Al:0.3〜1.0%
Alは、時効処理実施時にNi−Al系金属間化合物を生成し、所望の硬さを得るために必須であるため、少なくとも0.3%以上必要である。しかし、過剰な添加は熱間加工性、靱性を低下させると共に、OやNと結合して酸化物や窒化物系の非金属介在物を生成して鏡面仕上げ性、被削性に悪影響を及ぼすため1.0%を上限とする。
Cu:0.3〜0.85%
Cuは、時効処理実施時に微細析出し、Ni、Alと同様に析出硬化をもたらすと共に、被削性向上にも有効であるため少なくとも0.3%以上必要である。しかし、過剰な添加は熱間加工性を低下させると共に、被削性、靱性を低下させるため0.85%を上限とする。
【0010】
S:<0.01%
Sは、被削性の向上に有効であるが、一方で粗大な硫化物系介在物を形成した場合、靱性に異方性が生じたり、孔食の発生や過度のピットの原因となり鏡面性を低下させる。本発明鋼は基地組織をベイナイト相と若干のフェライト相の混合組織とすることで基地組織に良好な被削性を持たせ、さらにNi−Al金属間化合物、Fe−Cu固溶体の微細析出により高い強度と良好な被削性を付与することにより、快削元素であるSを添加する必要がない。従って、Sの上限を0.01%に規制した。
【0011】
O:≦15ppm、N:≦150ppm
本発明に係る鏡面仕上げ性および被削性に優れたプラスチック成形金型用鋼において、その溶製時、O量について質量割合でO:15ppm以下とすることが必要となる。ここでO量を15ppm以下とするのは、O量がこれよりも増加すると酸化物系介在物が増加し、鏡面仕上げ性および被削性が低下するためである。N量については質量割合でN:150ppm以下とすることが必要となる。ここでN量を150ppm以下とするのは、NはAlと窒化物を形成し、オーステナイト粒を微細化して均一な組織が得られるが、過剰に添加することにより、硬質で粗大な窒化物を形成し、鏡面加工時に容易にその脱落を招くことにより鏡面加工性を低下させるためである。
【0012】
Mn+8.5C<2.8
CおよびMnは、焼入性を確保し、所望とする基地硬さを得るために必要であるが、(Mn+8.5C)値の増大と共にベイナイト基地に占めるフェライト相の割合が低下して、溶体化状態における基地硬さが高くなり(図1参照)、かつ、またベイナイト組織が微細化するため被削性の低下を招く。特にMn+8.5C≧2.8ではフェライト相が生成されず、ベイナイト単相あるいはベイナイトとマルテンサイトの混合組織となるために基地の粘さが増し、被削性が著しく悪いものになる。そこで、質量%でCを0.01〜0.10%とし、Mnを0.9〜2.5%とした上で、さらにMn+8.5C<2.8に規制する必要がある。さらに、特に被削性に優れる鋼を得るためには、Mn+8.5C≦2.5とすることが望ましい。
【0013】
Cr:0.8〜3.0%、またはMo:≦0.45%の1種または2種
Cr、Moは、金型の焼入性を改善させ、硬さ、靱性を向上させるのに有効であり、また、耐食性の向上にも有効な成分である。多過ぎるとベイナイト組織を微細化させ、基地の靱性を必要以上に高めることによって被削性を低下させ、一方で低過ぎると上記効果が得られないため、その範囲をCrは質量%で0.8〜3.0%とし、Moは0.45%を上限として添加されても良い。
【0014】
本発明における鏡面仕上げ性、溶接性および被削性に優れたプラスチック金型用鋼は、熱間での圧延もしくは鍛造を行った後、あるいはさらに、1073〜1223Kでの溶体化処理を実施した後、723〜873Kでの時効処理を行ない、28〜42HRC程度の硬さを有したプリハードンプラスチック成形金型用鋼として提供される。また、本発明鋼は通常製造される鋼と同様に製造すればよく、例えば電気炉にて溶製した鋼塊を圧延または鍛造により、所望の形状に仕上げて製品とし、そのままあるいは溶体化処理を実施した後、時効硬化処理を実施してプリハードン鋼として使用される。
【0015】
【実施例】
以下、本発明について実施例によって具体的に説明する。
表1に示す化学成分を有するプラスチック成形金型用鋼を通常の溶製方法により溶製し、鍛造後、熱間加工を実施し、その後1143Kに加熱して溶体化処理を行ない、引続き773Kに加熱して時効硬化処理を行ない、プリハードンプラスチック成形金型用鋼を供試材として作製する。ここで、表1に示すNo.1〜7は、本発明例であり、No.8〜14は比較例である。また、被削性の指標として、表2に示す条件で試験を行った。その結果を表3に示す。表3に示す被削性の評価として、エンドミル加工において、工具折損までの切削距離の測定と、エンドミル加工において、工具の逃げ面摩耗幅が0.04mmになるまでの切削距離を測定した。さらに、鏡面仕上げ性の指標として、自動研磨装置で研磨を行った後の鏡面加工面のピンホールの個数を計測し、ピンホールの個数が特に少ないものから、優れる:◎、良い:○、劣る:×、とした。靱性の指標として、圧延方向に垂直な方向において、鋼材中心部から2mmUノッチ試験片を割り出し、シャルピー衝撃値を測定した。衝撃値の良好なものから、良い:○、やや劣る:△、劣る:×、とした。
【0016】
【表1】
【0017】
【表2】
【0018】
【表3】
【0019】
本発明鋼No.1〜6は、いずれも化学成分および(Mn+8.5C)値が請求項1ないし2を満たすものであり、表3に示すように、被削性および鏡面仕上げ性に優れるとともに靱性も良好である。一方で、比較例No.7は、C量と(Mn+8.5C)が上限を大きく超えており、基地中にフェライトが生成しないため被削性が悪い。比較例No.8は、C,Ni,Cu,Alが過剰であるが、Sの過剰添加により被削性は比較的良好である。しかし、鏡面仕上げ性、靱性に劣っている。比較例No.9も同様にSの過剰な添加により被削性に非常に優れるものの硫化物系介在物の存在により、鏡面仕上げ性、靱性が低下している。
【0020】
比較例No.10は、C量と(Mn+8.5C)が過剰で、Niが不足しているため、Sの過剰添加により被削性を補っているが、鏡面仕上げ性に劣っている。比較例No.11は、O,N量が過剰なため、研磨時に硬質介在物に起因するピンホールが多数発生し、鏡面仕上げ性が非常に悪い。また、C量、(Mn+8.5C)が過剰で、被削性が不十分である。比較例No.12は、Cr,Mo量が過剰であり、基地組織が必要以上に微細化するために、被削性が非常に劣る。比較例No.13は、C,Niが過剰なため基地組織が微細化し、被削性が不十分である。また、Cu,Al量が過剰であり、靱性に劣っている。
【0021】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明により優れた被削性と鏡面仕上げ性を兼ね備えた28〜42HRCの硬さを有する快削プラスチック成形金型用鋼が得られ、高品質化とコスト削減に貢献する優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】(Mn+8.5C)と溶体化処理後の硬さ、および時効硬化処理後の鋼材をエンドミル加工したときのエンドミル折損までの切削距離を示す図である。
Claims (2)
- 質量%で、
C:0.01〜0.10%、
Si:≦1.0%、
Mn:0.9〜2.5%、
Ni:1.5〜2.5%、
Al:0.3〜1.0%、
Cu:0.3〜0.85%、
S:<0.01%、
O:≦15ppm、
N:≦150ppm、
を含み、かつ、Mn+8.5C<2.8を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなることを特徴とする鏡面仕上げ性に優れた快削プラスチック成形金型用鋼。 - 質量%で、Cr:0.8〜3.0%、またはMo:≦0.45%の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1に記載の鏡面仕上げ性に優れた快削プラスチック成形金型用鋼。
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