JP3801437B2 - タイヤ特性判定装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、タイヤ特性判定装置に係り、より詳しくは、空気圧低下の状態、摩耗状態等のタイヤの特性を判定することができるタイヤ特性判定装置に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
従来より、基準となる車輪である基準輪におけるタイヤの動荷重半径を用いて、上記基準輪より空気圧が低下したタイヤが装着された車輪である低下輪の基準輪に対するスリップ率を導出し、導出したスリップ率と上記基準輪のスリップ率の差に基づいて上記低下輪のタイヤにおける空気圧低下の状態を判定するタイヤ特性判定装置が知られている。なお、上記動荷重半径rは、r=V/ω(ここで、Vは車体速度、ωは車輪の回転角速度)で定義されるものであり、走行速度、タイヤの空気圧等に応じて変化するものである。
【0003】
すなわち、基準輪のタイヤの動荷重半径を用いて導出した空気圧低下輪の基準輪に対するスリップ率と駆動力との関係を表すと、図14のようになる。なお、動作領域におけるスリップ率は駆動力が飽和する領域より小さいものと考えられるので、同図では直線で近似して表している。
【0004】
ここで、低下輪のスリップ率は基準輪のタイヤの動荷重半径を用いて導出しているので、駆動力がない場合であっても、空気圧が低下するに従って動荷重半径が減少して当該低下輪の回転速度が上昇するため、見かけ上、駆動力が0(零)である状態においてスリップ率のオフセット値ΔSを有することになる。すなわち、オフセット値ΔSは、原点(駆動力が0の点)における基準輪と低下輪の動荷重半径の差を示すものである。
【0005】
以上のことから、上記従来のタイヤ特性判定装置では、上記オフセット値ΔSの大きさに基づいて、タイヤの空気圧低下の度合いを判定していた。なお、以下では、動荷重半径に基づいて得られたオフセット値ΔSの大きさに基づいて空気圧低下の度合いを判定する方式及びそれに類した方式を動荷重半径方式という。
【0006】
しかしながら、低下輪の路面μ勾配(スリップ率と路面μ(摩擦係数)との関係を表す曲線の接線の傾きであり、タイヤのグリップ状態を表す物理量)は基準輪に比較して大きく、図14における直線(破線)の傾きが大きいので、駆動力が増加するに従ってスリップ率の差(S1−S0)が小さくなり、上記動荷重半径方式では空気圧低下の判定が困難になる、という問題点があった。
【0007】
一方、上記路面μ勾配は、タイヤの空気圧の低下に伴う接地面の増加に応じて値が増加する、という特性を有している。従って、このような路面μ勾配の特性を利用して、左右輪の路面μ勾配の差に基づいて空気圧低下の状態を判定することが可能である。
【0008】
ここで、路面μ勾配の変化要因としては、上記接地面の他に、路面摩擦状態、トレッド剛性、荷重、車輪慣性モーメント等が挙げられるが、このうち、トレッド剛性及び車輪慣性モーメントについては、走行中に路面μ勾配に対して影響を与えるほど変化するとは考えられないので、これらの要因については初期化等によって対応可能であると考えられる。しかしながら、タイヤと路面との間の摩擦特性については、時々刻々変化するため、その影響を受ける可能性がある。
【0009】
図15には、低下輪側の摩擦特性の変化によって当該低下輪の路面μ勾配が低下した場合の、当該低下輪の基準輪に対するスリップ率と駆動力との関係の一例が示されている。なお、このように路面μ勾配が低下する要因としては、タイヤの摩耗の進行やウェット路での走行等が例示される。
【0010】
そして、このように低下輪の路面μ勾配が低下し、基準輪の路面μ勾配との差が小さくなった場合には、路面μ勾配の差に基づく空気圧低下の判定が困難になる、という問題点があった。
【0011】
本発明は上記問題点を解消するために成されたものであり、空気圧低下状態や摩耗状態等のタイヤ特性を高精度に判定することができるタイヤ特性判定装置を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1記載のタイヤ特性判定装置は、車輪速度を検出し、車輪速信号を出力する車輪速センサと、前記車輪速信号に基づいてタイヤと路面との間の滑り易さを表す物理量を推定する物理量推定手段と、前記車輪速信号に基づいてタイヤの動荷重半径を導出する動荷重半径導出手段と、推定された前記物理量と導出された前記動荷重半径とに基づいてタイヤの特性を判定する判定手段と、を備えている。
【0013】
請求項1記載のタイヤ特性判定装置によれば、車輪速センサにより車輪速度が検出されて車輪速信号が出力され、物理量推定手段により上記車輪速信号に基づいてタイヤと路面との間の滑り易さを表す物理量が推定され、動荷重半径導出手段により上記車輪速信号に基づいてタイヤの動荷重半径が導出され、更に、判定手段により、推定された上記物理量と導出された上記動荷重半径とに基づいてタイヤの特性が判定される。
【0014】
すなわち、本発明では、タイヤの特性を判定する際に、前述の路面μ勾配に代表されるタイヤと路面との間の滑り易さを表す物理量と、タイヤの動荷重半径の双方を考慮することによって、タイヤ特性の判定精度を向上するようにしている。
【0015】
このように、請求項1に記載のタイヤ特性判定装置によれば、タイヤと路面との間の滑り易さを表す物理量と、タイヤの動荷重半径とに基づいてタイヤの特性を判定しているので、高精度にタイヤ特性を判定することができる。
【0016】
また、上記目的を達成するために、請求項2記載のタイヤ特性判定装置は、車輪速度を検出し、車輪速信号を出力する車輪速センサと、前記車輪速信号に基づいてタイヤと路面との間の滑り易さを表す物理量を推定する物理量推定手段と、前記車輪速信号に基づいてタイヤの動荷重半径を導出する動荷重半径導出手段と、推定された前記物理量に基づいてタイヤの特性を判定する第1判定手段と、導出された前記動荷重半径に基づいてタイヤの特性を判定する第2判定手段と、前記車輪速信号に基づく車輪速度、前記物理量、及び前記動荷重半径の少なくとも1つに基づいて、前記第1判定手段による判定及び前記第2判定手段による判定を切り替える切替手段と、を備えている。
【0017】
請求項2記載のタイヤ特性判定装置によれば、車輪速センサにより車輪速度が検出されて車輪速信号が出力され、物理量推定手段により上記車輪速信号に基づいてタイヤと路面との間の滑り易さを表す物理量が推定され、動荷重半径導出手段により上記車輪速信号に基づいてタイヤの動荷重半径が導出される。
【0018】
また、本発明では、推定された上記物理量に基づいてタイヤの特性を判定する第1判定手段と、導出された上記動荷重半径に基づいてタイヤの特性を判定する第2判定手段を備えており、切替手段によって上記車輪速信号に基づく車輪速度、上記物理量、及び上記動荷重半径の少なくとも1つに基づいて、上記第1判定手段による判定及び上記第2判定手段による判定が切り替えられる。
【0019】
すなわち、上記第1判定手段によるタイヤ特性の判定精度と、上記第2判定手段によるタイヤ特性の判定精度は、車輪速度、タイヤと路面との間の滑り易さを表す物理量、及びタイヤの動荷重半径の各々についてトレードオフの関係にある。そこで、本発明では、車輪速度、タイヤと路面との間の滑り易さを表す物理量、及びタイヤの動荷重半径の少なくとも1つに基づいて、より高精度にタイヤ特性を判定することができる判定手段を第1判定手段及び第2判定手段から選択するように切り替えている。
【0020】
このように、請求項2に記載のタイヤ特性判定装置によれば、車輪速度、タイヤと路面との間の滑り易さを表す物理量、及びタイヤの動荷重半径の少なくとも1つに基づき、上記物理量に基づいてタイヤの特性を判定する第1判定手段による判定と、タイヤの動荷重半径に基づいてタイヤの特性を判定する第2判定手段による判定を切り替えているので、タイヤ特性を高精度に判定することができる。
【0021】
なお、請求項1又は請求項2記載の発明におけるタイヤの特性は、請求項3記載の発明のように、当該タイヤの空気圧低下の状態又は摩耗状態であるものとすることができる。
【0022】
これによって、タイヤの空気圧低下の状態又は摩耗状態を高精度に判定することができる。
【0023】
また、請求項4記載の発明のように、本発明のタイヤと路面との間の滑り易さを表す物理量は、路面μ勾配の他、当該路面μ勾配と等価な物理量である制動力勾配や駆動力勾配を含めることができる。
【0024】
なお、上記各発明において、タイヤの特性を判定する際に、左輪と右輪との間のタイヤ特性の相違の度合いが大きい場合に、当該左輪及び右輪の少なくとも一方の車輪におけるタイヤ特性が異常であると判定することが好ましい。これによって、簡易にタイヤ特性を判定することができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
図1に示すように本第1実施形態に係るタイヤ特性判定装置10は、各々所定のサンプリング周期で対応する車輪の速度を検出し、車輪速の時系列データを車輪速信号として出力する車輪速センサで構成された右従動輪用の右従動輪車輪速検出手段12R、左従動輪用の左従動輪車輪速検出手段12L、右駆動輪用の右駆動輪車輪速検出手段14R、及び左駆動輪用の左駆動輪車輪速検出手段14Lと、右駆動輪車輪速検出手段14Rから出力された車輪速信号に基づいて右駆動輪における路面μ勾配を推定する路面μ勾配推定手段16Rと、左駆動輪車輪速検出手段14Lから出力された車輪速信号に基づいて左駆動輪における路面μ勾配を推定する路面μ勾配推定手段16Lと、各車輪速検出手段から出力された車輪速信号ωi(i=1,2,3,4)に基づいて駆動輪におけるタイヤの動荷重半径を導出する動荷重半径演算手段18と、各路面μ勾配推定手段16R、16Lによって得られた路面μ勾配及び動荷重半径演算手段18によって導出された動荷重半径に基づいてタイヤ特性の判定に用いる評価関数を導出する評価関数導出手段20と、評価関数導出手段20によって導出された評価関数に基づいて右駆動輪及び左駆動輪のタイヤ特性の差異を判定するタイヤ特性違い判定手段22と、を含んで構成されている。
【0026】
なお、タイヤ特性違い判定手段22には、タイヤ特性違い判定手段22によってタイヤ特性が異常であると判定された場合に警報を発するための警報発生器(図示省略)が接続されている。
【0027】
本実施の形態に係る動荷重半径演算手段18は、左右の各駆動輪のタイヤの動荷重半径Rを演算した後、これらの動荷重半径Rを示す信号を評価関数導出手段20に出力する。
【0028】
一方、本実施の形態に係る路面μ勾配推定手段16R及び路面μ勾配推定手段16Lは、低周波数領域の振動レベルと高周波数領域の振動レベルとの差を車輪速周波数特性量として用い、路面μ勾配を推定するようにしたものである。
【0029】
以下、本実施の形態に係る路面μ勾配の推定の原理について説明する。図7に示すように、車輪共振系の力学モデルは、リム50とベルト52との間に各々ばね定数K1、K2のタイヤのねじればね要素54、56を介在させると共に、リム50と車体との間にばね定数K3のばね要素58とダンパ60とを並列接続したサスペンションを介在させたモデルで表される。このモデルにおいて路面からの外乱(路面外乱)は、ベルト52からばね要素54、56、リム50に伝達されて車輪速ωに影響を与えると共に、サスペンション要素を介して車体に伝達される。
【0030】
ここで、1次の車輪減速度運動、2次のサスペンション前後共振、2次のタイヤ回転共振を統合した5次の車輪フルモデルを用いて、制動力勾配と路面外乱から車輪速までの伝達特性の追従周波数を表す車輪速周波数特性量との関係を説明する。この制動力勾配は、図8に示すように、スリップ速度(または、スリップ率)と制動力との関係を表す曲線の接線の勾配(傾き)によって表される。
【0031】
図9は、制動力勾配が300Ns/m〜10000Ns/mの限界制動領域からタイヤ特性に余裕のある低スリップ領域の範囲における、路面外乱から車輪速までの周波数応答を表すゲイン線図、すなわち周波数と路面外乱の振幅に対する車輪速の振幅ゲインとの関係を示したものである。
【0032】
図9において、限界付近等の制動力勾配が比較的小さな領域においては、車輪速の周波数特性は、低周波数領域のゲインは大きく、高周波数領域のゲインは小さくなっている。このため、制動力勾配が比較的小さな領域においては低周波数領域のゲインと高周波数領域のゲインとの差を表す車輪速周波数特性量は大きくなる。
【0033】
これに対し、定常走行等の制動力勾配が比較的大きな領域においては、車輪速の周波数特性において低周波数領域のゲインは制動力勾配の比較的小さな領域に比較して小さくなっている。また、高周波数領域のゲインは、タイヤの回転共振(40Hz付近)の発生等の影響によって制動力勾配が比較的小さな領域に比較してそれほど小さくはなっていない。この結果、制動力勾配が比較的大きな領域においては車輪速周波数特性量は小さくなっている。同様に、低周波数領域の車輪速信号の振動レベルと高周波数領域の車輪速信号の振動レベルとの差を表す車輪速周波数特性量も上記の低周波数領域のゲインと高周波数領域のゲインとの差を表す車輪速周波数特性量と同様に変化する。
【0034】
以上のことから、低周波数領域のゲインと高周波数領域のゲインとの差、または低周波数領域の車輪速信号の振動レベルと高周波数領域の車輪速信号の振動レベルとの差を表す車輪速周波数特性量は、制動力勾配が大きくなるのに伴って小さくなる値であり、この特性を利用することにより車輪周波数特性量から制動力勾配を推定することができる。
【0035】
また、図9において、タイヤ回転共振が発生する40Hz付近の周波数帯域に着目した場合、制動力勾配が大きくなるに従ってタイヤ回転共振の共振ピーク波形が尖鋭になっている。また、タイヤ回転共振の共振ピーク波形は、制動力勾配が大きくなるに従って全体的な周波数特性が高周波側に移行している。
【0036】
すなわち、この車輪特性を1次遅れモデルで近似した場合、図10に示すように、制動力勾配が大きくなるに従って周波数帯域が高くなることが理解できる。したがって、車輪特性を1次遅れモデルで近似して、ゲインが所定範囲の値から所定範囲外の値に変化するときの周波数である帯域周波数を車輪速周波数特性量として推定すれば、路面外乱から車輪速までの伝達特性の追従周波数を表す車輪速周波数特性量の値から制動力勾配を推定することができる。なお、2次、3次等の遅れモデルにおいても1次遅れモデルと略同様の特性を備えているので、車輪特性を低次の遅れの特性に近似してその車輪速周波数特性量を推定すれば、車輪速周波数特性量の値から制動力勾配を推定することができる。
【0037】
また、上記で説明したタイヤに制動力を与えたときの制動力勾配の他、タイヤに駆動力を与えたときの駆動力勾配は、いずれもタイヤと路面との間の滑り易さを表す物理量であり、タイヤのグリップ状態を表す路面μ勾配と等価な物理量である。したがって、車輪周波数特性量からスリップ率またはスリップ速度と制動力との関係を表す曲線の接線の傾きである制動力勾配、スリップ率またはスリップ速度と駆動力との関係を表す曲線の接線の傾きである駆動力勾配、及びスリップ率またはスリップ速度と路面μとの関係を表す曲線の接線の傾きである路面μ勾配のいずれかを路面の滑りやすさを表す物理量として推定することができる。
【0038】
次に、本実施の形態に係る路面μ勾配推定手段16R及び路面μ勾配推定手段16Lの構成について説明する。図2に示すように、本実施の形態の路面μ勾配推定手段16R及び路面μ勾配推定手段16Lは、低周波数領域の車輪速信号を抽出するためのバンドパスフィルタ40A、及びフィルタ処理後の車輪速信号から振動レベルを演算する第1の振動レベル演算手段42Aからなる低周波数特性量演算手段と、高周波数領域の車輪速信号を抽出するためのバンドパスフィルタ40B、及びフィルタ処理後の車輪速信号から振動レベルを演算する第2の振動レベル演算手段42Bからなる高周波数特性量演算手段と、低周波数特性量演算手段で演算された低周波数特性量と高周波数特性量演算手段で演算された高周波数特性量との偏差を車輪速周波数特性量として出力する特性量演算手段44と、上記車輪速周波数特性量に基づいて路面μ勾配を導出する路面μ勾配導出手段46と、を含んで構成されている。
【0039】
低周波数特性量演算手段におけるバンドパスフィルタ40Aは、車輪速運動における比較的低周波数の領域の車輪速信号を透過するように透過周波数が設定されており、本実施の形態では、15〜50Hzの周波数の車輪速信号が透過するように設定されている。また、高周波数特性量演算手段におけるバンドパスフィルタ40Bは、車輪速運動における比較的高周波数の領域の車輪速信号を透過するように透過周波数が設定されており、本実施の形態では30〜50Hzの周波数の車輪速信号が通過するように設定されている。
【0040】
振動レベル演算手段42Aは、バンドパスフィルタ透過後の車輪速信号を2乗してデシベル表現した信号を低周波数特性量として出力し、振動レベル演算手段42Bは、バンドパスフィルタ透過後の車輪速信号を2乗してデシベル表現した信号を高周波数特性量として出力する。
【0041】
特性量演算手段44は、低周波数特性量と高周波数特性量との差を車輪速周波数特性量として出力する。
【0042】
限界付近等の路面μ勾配が比較的小さな領域においては、車輪速の周波数特性は、低周波数領域のゲインは大きく、高周波数領域のゲインは小さいので、低周波数領域のゲインと高周波数領域のゲインとの差を表す車輪速周波数特性量は大きくなる。これに対し、定常走行等の路面μ勾配が比較的大きな領域においては、車輪速の周波数特性は低周波数のゲインが路面μ勾配の比較的小さな領域に比較して小さくなっている。また、高周波数領域のゲインは、タイヤの回転共振の発生などの影響によって路面μ勾配の比較的小さな領域に比較してそれほど小さくならない。この結果、車輪速周波数特性量は小さくなる。従って、低周波数領域の振動レベルと高周波数領域の振動レベルとの差を表す車輪速周波数特性量は、路面μ勾配が大きくなるのに伴って小さくなる値であり、この特性を利用することにより車輪周波数特性量から路面μ勾配を推定することができる。
【0043】
本実施の形態の路面μ勾配導出手段46は、車輪速周波数特性量が路面μ勾配が大きくなるのに伴って小さくなる性質を利用して、低周波数領域の振動レベルと高周波数領域の振動レベルとの差を表す車輪速周波数特性量と路面μ勾配との関係を示すマップを予め記憶しており、推定された車輪速周波数特性量とマップとから路面μ勾配を導出する。
【0044】
各車輪速検出手段12R、12L、14R、14Lが本発明の車輪速センサに、路面μ勾配推定手段16R、16Lが本発明の物理量推定手段に、動荷重半径演算手段18が本発明の動荷重半径導出手段に、評価関数導出手段20及びタイヤ特性違い判定手段22が本発明の判定手段に、各々相当する。
【0045】
次に、図3を参照して、路面μ勾配推定手段16R及び路面μ勾配推定手段16Lによって推定された右駆動輪及び左駆動輪の路面μ勾配と、動荷重半径演算手段18によって演算された動荷重半径とに基づいて評価関数導出手段20及びタイヤ特性違い判定手段22で行われるタイヤ特性判定処理について説明する。
【0046】
同図のステップ100では、路面μ勾配推定手段16Rによって推定された右駆動輪の路面μ勾配が、路面μ勾配推定手段16Lによって推定された左駆動輪の路面μ勾配より大きいか否かを判定し、大きい場合(肯定判定の場合)はステップ102へ移行して右駆動輪を基準輪に、左駆動輪を低下輪として設定した後にステップ106へ移行する。
【0047】
また、上記ステップ100において、右駆動輪の路面μ勾配が左駆動輪の路面μ勾配より大きくないと判定された場合(否定判定された場合)にはステップ104へ移行して左駆動輪を基準輪に、右駆動輪を低下輪として設定した後にステップ106へ移行する。
【0048】
ステップ106では、上記ステップ102又はステップ104において基準輪として設定された駆動輪のスリップ率(本実施の形態では、従動輪に対するスリップ率)SRを演算し、次のステップ108では、基準輪として設定された駆動輪の路面μ勾配の推定値KMと上記ステップ106によって演算されたスリップ率SRとを用い、次の(1)式によって駆動力Tを推定する。
【0049】
T=KM×SR ・・・(1)
ここで、例えば、右駆動輪を基準輪とした場合のスリップ率SRは、(ω3−ω1)/ω3(但し、ω3は右駆動輪の回転角速度、ω1は右従動輪の回転角速度)を演算することによって得られる。
【0050】
次のステップ110では、上記ステップ108によって推定した駆動力Tと、低下輪として設定された駆動輪の路面μ勾配の推定値TM及びスリップ率DRとを用い、次の(2)式によって、図14に示すような駆動力T=0の点(原点)におけるオフセット値ΔS(基準輪と低下輪の動荷重半径の差)を推定する。
【0051】
ΔS=DR−T/TM ・・・(2)
すなわち、図14において、低下輪の任意の駆動力yに対応するスリップ率をxとすると、スリップ率DR、駆動力T及び推定値TMは、次のような関係となる。
【0052】
(y−T)/(x−DR)=TM
従って、
x−DR=(y−T)/TM
ここで、y=0であるときのxがΔSであるので、
ΔS−DR=−T/TM
となり、これより、上記(2)式が得られる。
【0053】
次のステップ112では、オフセット値ΔSが所定値より大きいか否かを判定し、大きい場合(肯定判定の場合)はステップ114へ移行してタイヤ特性違い判定手段22に接続された図示しない警報発生器によって警報を発するように制御した後に本タイヤ特性判定処理を終了する。また、上記ステップ112において、オフセット値ΔSが上記所定値より大きくないと判定された場合(否定判定された場合)には、上記ステップ114の処理を行うことなく本タイヤ特性判定処理を終了する。
【0054】
すなわち、本実施の形態に係るタイヤ特性判定処理では、上記ステップ110によって推定したオフセット値ΔSが上記所定値より大きな場合は、低下輪として設定された駆動輪の空気圧が異常に低下しているものと見なして警報を発するようにしている。従って、上記所定値としては、該所定値をオフセット値ΔSが越えた場合に、低下輪の空気圧が異常に低下していると見なすことができる値として、実験やコンピュータ・シミュレーション等によって得られた値を適用することができる。
【0055】
なお、前述のように右駆動輪を基準輪とした場合において、車体速度Vは、
V=r3ω3=r1ω1
であり、スリップ率SRは、
となるので、スリップ率は従動輪に対する駆動輪の動荷重半径の変化率を表している。なお、ここで、r3は右駆動輪の動荷重半径を、r1は右従動輪の動荷重半径を、各々表す。
【0056】
以上詳細に説明したように、本第1実施形態に係るタイヤ特性判定装置10では、路面μ勾配と、タイヤの動荷重半径との双方に基づいてタイヤの特性を判定しているので、高精度にタイヤ特性を判定することができる。
〔第2実施形態〕
上記第1実施形態では、オフセット値ΔSの大きさに基づいて低下輪の空気圧の異常を判定する場合の形態例について説明したが、本第2実施形態では、オフセット値ΔSに加えて、路面μ勾配も加味して空気圧の異常を判定する場合の形態例について説明する。なお、本第2実施形態に係るタイヤ特性判定装置10の構成は、上記第1実施形態に係るタイヤ特性判定装置10の構成(図1、図2参照)と同様であるので、ここでの説明は省略する。また、本第2実施形態に係る路面μ勾配推定手段16R及び16Lと、動荷重半径演算手段18の作用も、上記第1実施形態と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0057】
以下、図4を参照して、路面μ勾配推定手段16R及び16Lによって推定された右駆動輪及び左駆動輪の路面μ勾配と、動荷重半径演算手段18によって演算された動荷重半径とに基づいて本第2実施形態に係る評価関数導出手段20及びタイヤ特性違い判定手段22で行われるタイヤ特性判定処理について説明する。なお、同図における図3と同様の処理を行うステップについては図3と同一のステップ番号を付して、その説明を省略する。
【0058】
図4のステップ150では、次の(3)式によって、左右の駆動輪の路面μ勾配の差(μ勾配差)MSを演算する。
【0059】
MS=RM−LM ・・・(3)
但し、RMは右駆動輪の路面μ勾配の推定値を、LMは左駆動輪の路面μ勾配の推定値を各々示す。
【0060】
次のステップ152では、上記ステップ150で演算したμ勾配差MS及び上記ステップ110によって推定したオフセット値ΔSの各々の2乗の和(すなわち、MS2+ΔS2)が所定半径Rの2乗(すなわち、R2)以上であるか否かを判定し、所定半径Rの2乗以上である場合(肯定判定の場合)はステップ154へ移行してタイヤ特性違い判定手段22に接続された図示しない警報発生器によって警報を発するように制御した後に本タイヤ特性判定処理を終了する。また、上記ステップ152において、所定半径Rの2乗以上でないと判定された場合(否定判定された場合)には、上記ステップ154の処理を行うことなく本タイヤ特性判定処理を終了する。
【0061】
すなわち、本第2実施形態に係るタイヤ特性違い判定手段22では、図5に示すように、μ勾配差MSとオフセット値ΔSの各々によってプロットされる2次元座標位置が、原点を中心とする所定半径Rの円の外部(警報領域EA)に位置するか、内部(正常領域SA)に位置するかによって、低下輪の空気圧が異常に低下しているか否かを判定している。
【0062】
従って、上記所定半径Rとしては、上記ステップ152の判定処理が肯定判定となった場合に、低下輪の空気圧が異常に低下していると見なすことができる値として、実験やコンピュータ・シミュレーション等によって得られた値を適用することができる。
【0063】
以上詳細に説明したように、本第2実施形態に係るタイヤ特性判定装置10では、路面μ勾配と、タイヤの動荷重半径との双方に基づいてタイヤの特性を判定しているので、高精度にタイヤ特性を判定することができる。
【0064】
なお、本第2実施形態では、空気圧の正常・異常の判定に用いる2次元図形として図5に示すような半径Rの円を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、上記円に代えて、矩形、楕円等を適用する形態とすることもできる。この場合も本第2実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0065】
また、本第2実施形態では、左右輪の路面μ勾配の差(μ勾配差MS)を適用して空気圧低下の状態を判定する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、上記μ勾配差MSに代えて、左右輪の路面μ勾配の比を適用する形態とすることもできる。この場合も、本第2実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0066】
更に、上記第1、第2実施形態では、タイヤ特性判定処理の実行時点における基準輪の路面μ勾配の推定値KM及びスリップ率SRに基づいて駆動力Tを推定した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、路面μ勾配の推定値KM及びスリップ率SRの時系列データに基づいて、例えば最小自乗法等によって駆動力Tを推定してもよい。この場合は、時々刻々変化する路面やタイヤの状態に応じた駆動力を推定することができるので、上記第1、第2実施形態に比較して、より高精度にタイヤ特性の判定を行うことができる。
〔第3実施形態〕
上記第1、第2実施形態では、路面μ勾配と動荷重半径の双方を考慮して低下輪の空気圧の異常低下を判定する場合の形態例について説明したが、本第3実施形態では、路面μ勾配に基づく空気圧低下状態の判定と、動荷重半径に基づく空気圧低下状態の判定を選択的に切り替えて行う場合の形態例について説明する。
【0067】
なお、本第3実施形態に係るタイヤ特性判定装置10の構成は、上記第1、第2実施形態に係るタイヤ特性判定装置10の構成(図1、図2参照)と同様であるので、ここでの説明は省略する。また、本第3実施形態に係る路面μ勾配推定手段16R、路面μ勾配推定手段16L、及び動荷重半径演算手段18の作用も、上記第1実施形態と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0068】
以下、図6を参照して、路面μ勾配推定手段16R及び16Lによって推定された右駆動輪及び左駆動輪の路面μ勾配と、動荷重半径演算手段18によって演算された動荷重半径とに基づいて本第3実施形態に係る評価関数導出手段20及びタイヤ特性違い判定手段22で行われるタイヤ特性判定処理について説明する。
【0069】
同図のステップ200では、各車輪速検出手段12R、12L、14R、14Lから出力された車輪速信号の各々が示す車輪速度の平均値ASを演算し、次のステップ202では、演算された平均値ASが所定速度より大きいか否かを判定し、大きい場合(肯定判定の場合)はステップ204に移行して、左右の駆動輪の路面μ勾配の差(μ勾配差)MSを演算し、次のステップ206において上記μ勾配差MSに基づいてオフセット値ΔSを推定し、その後にステップ212に移行する。なお、本第3実施形態に係る評価関数導出手段20では、複数のμ勾配差MSに各々対応するオフセット値ΔSの値が予めテーブル形式に記憶されており、上記ステップ206では、当該テーブルを参照することによってμ勾配差MSに応じたオフセット値ΔSを導出する。
【0070】
一方、上記ステップ202において、平均値ASが所定速度より大きくないと判定された場合(否定判定された場合)にはステップ208に移行して、左右の駆動輪の動荷重半径の差(動荷重半径差)DSを演算し、次のステップ210において上記動荷重半径差DSに基づいてオフセット値ΔSを推定し、その後にステップ212に移行する。なお、本第3実施形態に係る評価関数導出手段20では、複数の動荷重半径差DSに各々対応するオフセット値ΔSの値も予めテーブル形式に記憶されており、上記ステップ210では、当該テーブルを参照することによって動荷重半径差DSに応じたオフセット値ΔSを導出する。
【0071】
すなわち、一般に、車輪速度が高いほど駆動力は大きい。従って、車輪速度が高いほど動荷重半径差DSに基づいて得られるオフセット値ΔSによる空気圧低下の判定精度は低くなり、μ勾配差MSに基づいて得られたオフセット値ΔSによる空気圧低下の判定精度は高くなる。
【0072】
そこで、本第3実施形態に係るタイヤ特性判定処理では、上記ステップ202において、車輪速度の平均値ASが所定速度より大きいと判定された場合は動荷重半径差DSに基づく空気圧低下の判定では判定精度が低いものと見なし、上記ステップ204及びステップ206によってμ勾配差MSに基づいてオフセット値ΔSを推定し、他の場合には上記ステップ208及びステップ210によって動荷重半径差DSに基づいてオフセット値ΔSを推定するようにしている。従って、上記所定速度としては、該所定速度を平均値ASが越えた場合に、動荷重半径差DSに基づく空気圧低下の判定精度が許容範囲外になると見なすことができる値として、実験やコンピュータ・シミュレーション等によって得られた値を適用することができる。
【0073】
ステップ212では、上記ステップ206又はステップ210によって得られたオフセット値ΔSが所定値より大きいか否かを判定し、大きい場合(肯定判定の場合)はステップ214へ移行してタイヤ特性違い判定手段22に接続された図示しない警報発生器によって警報を発するように制御した後に本タイヤ特性判定処理を終了する。また、上記ステップ212において、オフセット値ΔSが上記所定値より大きくないと判定された場合(否定判定された場合)には、上記ステップ214の処理を行うことなく本タイヤ特性判定処理を終了する。
【0074】
すなわち、本実施の形態に係るタイヤ特性判定処理では、上記ステップ206又はステップ210によって推定したオフセット値ΔSが上記所定値より大きな場合は、低下輪として設定された駆動輪の空気圧が異常に低下しているものと見なして警報を発するようにしている。従って、上記所定値としては、該所定値をオフセット値ΔSが越えた場合に、低下輪の空気圧が異常に低下していると見なすことができる値として、実験やコンピュータ・シミュレーション等によって得られた値を適用することができる。
【0075】
上記ステップ202の処理が請求項2記載の発明の切替手段に、上記ステップ212の処理が請求項2記載の発明の第1判定手段及び第2判定手段に、各々相当する。
【0076】
以上詳細に説明したように、本第3実施形態に係るタイヤ特性判定装置10では、車輪速度に基づき、路面μ勾配に基づくタイヤの特性の判定と、タイヤの動荷重半径に基づくタイヤの特性の判定とを切り替えているので、タイヤ特性を高精度に判定することができる。
【0077】
なお、本第3実施形態では、車輪速度に応じて動荷重半径に基づく空気圧低下の判定と、路面μ勾配に基づく空気圧低下の判定とを切り替える場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、動荷重半径差DSや、μ勾配差MSに基づいて切り替える形態とすることもできる。
【0078】
このとき、動荷重半径差DSに基づいて切り替える場合は、動荷重半径差DSが所定値より大きなときは動荷重半径差DSに基づいて空気圧低下を判定するように切り替え、他のときはμ勾配差MSに基づいて空気圧低下を判定するように切り替える。また、μ勾配差MSに基づいて切り替える場合は、μ勾配差MSが所定値より大きなときはμ勾配差MSに基づいて空気圧低下を判定するように切り替え、他のときは動荷重半径差DSに基づいて空気圧低下を判定するように切り替える。
【0079】
これらの形態においても、本第3実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0080】
また、上記各実施形態では、本発明の物理量として路面μ勾配推定手段により路面μ勾配を推定する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、路面μ勾配と等価的に扱うことのできる物理量として、例えば、スリップ率またはスリップ速度と制動力との関係を表す曲線の接線の傾きである制動力勾配、スリップ率またはスリップ速度と駆動力との関係を表す曲線の接線の傾きである駆動力勾配等を適用することもできる。
【0081】
以下、一例として、本発明の物理量として制動力勾配を適用する場合の、該制動力勾配の推定手順について説明する。なお、ここで説明する推定手順は、路面外乱から車輪速までの伝達特性を1次遅れモデルに近似し、この1次遅れモデルの周波数応答から車輪速の時系列データに基づいて帯域周波数を推定し、推定した帯域周波数から制動力勾配を推定するようにしたものである。
【0082】
図11に示すように、この場合の形態の一例は、所定のサンプリング周期で車輪速度を検出し、車輪速の時系列データを車輪速信号として出力する車輪速センサ70と、車輪速の時系列データに基づいて、路面外乱から車輪速までの伝達特性を1次遅れモデルに近似したときの該モデルの周波数応答を表すゲイン線図において、ゲインが一定値から変化するときの周波数を帯域周波数(車輪速周波数特性量)として推定する帯域周波数推定手段72と、予め記憶された帯域周波数と制動力勾配との関係を表すマップに基づいて、推定された帯域周波数に対する制動力勾配を推定する制動力勾配推定手段74と、を含んで構成されている。
【0083】
なお、図11では、1つの車輪についての構成を示したが、例えば4輪自動車等の複数の車輪を持つ車両の場合には、各々の車輪について図示した構成が設けられる。
【0084】
帯域周波数推定手段72では、全ての周波数を含む外乱である白色外乱が路面からタイヤに入力したと仮定し、最小自乗法を用いて1次遅れモデルの帯域周波数を同定した。
【0085】
図12は、帯域周波数を同定するためのアルゴリズム、図10は、図7の車輪フルモデルに白色外乱を加えたときに図12のアルゴリズムによって同定される帯域周波数と対応する1次遅れモデルのゲイン線図を示したものである。
【0086】
まず、図12に基づいて帯域周波数を同定するためのアルゴリズムについて説明する。ステップ300において車輪速センサ70で検出された車輪速度の時系列データに白色外乱を加えたデータを取り込み、ステップ302において2次のバタワスフィルタを用いて、例えば2Hzのハイパスフィルタと例えば20Hzのローパスフィルタからなるフィルタによる前処理を行う。車輪速信号をハイパスフィルタに入力してハイパスフィルタ処理することにより、車輪の加速度の定常成分が除去され、ローパスフィルタ処理することにより車輪速信号の平滑化処理を行うことができる。
【0087】
次のステップ304において、オンライン最小自乗法を用いて前処理された車輪速の時系列データから帯域周波数の時系列データを推定する。まず、車輪速度センサ70によって、サンプル時間τ毎に離散化して検出された車輪速の時系列データをステップ302のフィルタによる前処理後の車輪速の時系列データをω [k](kはサンプル時間τを単位とするサンプル時刻であり、k=1,2,・・・)とし、以下のステップ1及びステップ2を繰り返すことにより、検出された車輪速度の時系列データから制動力勾配の時系列データを推定する。
ステップ1:
【0088】
【数1】
【0089】
なお、(4)式のφ[k]は、1サンプル時間での車輪速度の変化量にサンプル時間τを乗算した値(車輪速の変化に関する物理量)であり、(5)式のy[k]は、1サンプル時間の車輪速度の変化量(ω[k−1]−ω[k−2]、ω[k]−ω[k−1])の1サンプル時間での変化量(ω[k−1]−ω[k−2]−(ω[k]−ω[k−1]))(車輪速度の変化の変化に関する物理量)である。
ステップ2:
【0090】
【数2】
【0091】
という漸化式から推定値θ、すなわち、制動力勾配を推定する。ただし、(7)、(8)式のλは過去のデータを取り除く度合いを示す忘却係数(例えばλ=0.98)であり、Tは行列の転置を示す。
【0092】
なお、(6)式のθ[k]は、車輪速度の変化に関する物理量の履歴及び車輪速度の変化の変化に関する物理量の履歴を表す物理量である。
【0093】
なお、上記ではオンライン最小自乗法を用いて帯域周波数を推定する例について説明したが、補助変数法等他のオンライン同定法を用いて帯域周波数を推定することもできる。
【0094】
上記のようにして推定された1次遅れモデルにおける帯域周波数の推定結果の例を図10に示す。また、図10のゲイン線図より理解されるように、近似された1次遅れモデルのゲインは、制動力勾配が300Ns/m以外では、車輪フルモデルのゲイン線図の定常ゲインと反共振点(40Hz付近)におけるゲインを通過する特性として同定されており、低次元化により15Hz付近のサスペンション前後共振と40Hz付近のタイヤ回転振動の共振特性とが無視されている。また、制動力勾配が300Ns/mと小さいときには、1次遅れモデルでは反共振点を通過していないことから共振は表れず、1次遅れモデルの振動特性と車輪フルモデルの特性とが良く一致していることが理解できる。これは、制動力勾配が300Ns/m以下の限界付近の制動領域においては、サスペンション前後共振やタイヤ回転振動による共振の影響が小さく、車輪減速度運動モデルが支配的になっているためである。したがって、このような限界付近では、車輪運動は以下の車輪減速度運動モデルで近似できると考えられる。
【0095】
【数3】
ただし、νwは車輪速度(m/s)、wは路面外乱、kは制動力勾配(Ns/m)、RCはタイヤ有効半径(m)、Jは車両慣性モーメントであり、νwの係数は帯域周波数を表している。
【0096】
ところで、上記(9)式は、限界領域において、帯域周波数ω0と制動力勾配との間に、
【0097】
【数4】
という関係があることを示している。
【0098】
また、低スリップ領域においては、最小自乗法の適用により図13の関係が導き出せる。この図は、車輪フルモデルにおける制動力勾配と白色外乱を加えたときの車輪速データから同定された帯域周波数との関係を示したものである。なお、図13の帯域周波数は、単位を[rad/s]で表した。制動力勾配は、帯域周波数が増加するに従って単調増加している。この図13の帯域周波数と制動力勾配との関係をマップとして制動力勾配推定手段74のメモリに記憶しておき、マップを用いて車輪速信号に基づいて帯域周波数推定手段72で推定された帯域周波数に対応する制動力勾配を演算することにより、帯域周波数の推定(同定)結果から制動力勾配を推定することが可能になる。
【0099】
【発明の効果】
請求項1記載のタイヤ特性判定装置によれば、タイヤと路面との間の滑り易さを表す物理量と、タイヤの動荷重半径とに基づいてタイヤの特性を判定しているので、高精度にタイヤ特性を判定することができる、という効果が得られる。
【0100】
また、請求項2記載のタイヤ特性判定装置によれば、車輪速度、タイヤと路面との間の滑り易さを表す物理量、及びタイヤの動荷重半径の少なくとも1つに基づき、上記物理量に基づいてタイヤの特性を判定する第1判定手段による判定と、タイヤの動荷重半径に基づいてタイヤの特性を判定する第2判定手段による判定を切り替えているので、タイヤ特性を高精度に判定することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施の形態に係るタイヤ特性判定装置10の構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態に係る路面μ勾配推定手段の構成を示すブロック図である。
【図3】第1実施形態に係るタイヤ特性判定処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】第2実施形態に係るタイヤ特性判定処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】第2実施形態に係るタイヤ特性判定処理の説明に供する概略図である。
【図6】第3実施形態に係るタイヤ特性判定処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】路面μ勾配推定手段の推定原理の説明に供する車輪共振系の力学モデルを示すブロック図である。
【図8】スリップ速度と制動力との関係を示す線図である。
【図9】路面外乱から車輪速までの周波数応答を示すゲイン線図である。
【図10】1次遅れモデルの路面外乱から車輪速までの周波数応答を示すゲイン線図である。
【図11】制動力勾配を推定する場合の構成例を示すブロック図である。
【図12】図11の構成において帯域周波数を推定するアルゴリズムを示す流れ図である。
【図13】帯域周波数と制動力勾配との関係を示す線図である。
【図14】基準輪の動荷重半径を用いて導出した低下輪の基準輪に対するスリップ率と駆動力との関係の一例を示すグラフである。
【図15】低下輪側の摩擦特性の変化によって低下輪の路面μ勾配が低下した場合の、当該低下輪の基準輪に対するスリップ率と駆動力との関係の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
10 タイヤ特性判定装置
12L 左従動輪車輪速検出手段(車輪速センサ)
12R 右従動輪車輪速検出手段(車輪速センサ)
14L 左駆動輪車輪速検出手段(車輪速センサ)
14R 右駆動輪車輪速検出手段(車輪速センサ)
16L、16R 路面μ勾配推定手段(物理量推定手段)
18 動荷重半径演算手段(動荷重半径導出手段)
20 評価関数導出手段(判定手段)
22 タイヤ特性違い判定手段(判定手段)
40A、40B バンドパスフィルタ
42A、42B 振動レベル演算手段
44 特性量演算手段
46 路面μ勾配導出手段
Claims (4)
- 車輪速度を検出し、車輪速信号を出力する車輪速センサと、
前記車輪速信号に基づいてタイヤと路面との間の滑り易さを表す物理量を推定する物理量推定手段と、
前記車輪速信号に基づいてタイヤの動荷重半径を導出する動荷重半径導出手段と、
推定された前記物理量と導出された前記動荷重半径とに基づいてタイヤの特性を判定する判定手段と、
を備えたタイヤ特性判定装置。 - 車輪速度を検出し、車輪速信号を出力する車輪速センサと、
前記車輪速信号に基づいてタイヤと路面との間の滑り易さを表す物理量を推定する物理量推定手段と、
前記車輪速信号に基づいてタイヤの動荷重半径を導出する動荷重半径導出手段と、
推定された前記物理量に基づいてタイヤの特性を判定する第1判定手段と、
導出された前記動荷重半径に基づいてタイヤの特性を判定する第2判定手段と、
前記車輪速信号に基づく車輪速度、前記物理量、及び前記動荷重半径の少なくとも1つに基づいて、前記第1判定手段による判定及び前記第2判定手段による判定を切り替える切替手段と、
を備えたタイヤ特性判定装置。 - 前記タイヤの特性は、当該タイヤの空気圧低下の状態又は摩耗状態である請求項1又は請求項2記載のタイヤ特性判定装置。
- 前記物理量は、制動力勾配、駆動力勾配、及び路面μ勾配を含む請求項1乃至請求項3の何れか1項記載のタイヤ特性判定装置。
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