JP3799552B2 - 超音波による配管劣化診断方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、超音波パルスのエコーを用いた配管内面の腐食による劣化を診断する方法に関する。すなわち、超音波厚さ測定法による配管残存肉厚測定において、形状が複雑な腐食面から得られる重畳エコーから、測定したいポイントのエコーのみを抽出して正確な肉厚を測定することにより、高精度な配管劣化診断を行うための新規な技術を提供する。
【0002】
【従来の技術】
超音波厚さ測定法によって配管の残存肉厚測定を行う場合、測定位置におけるエコー観測時間抽出の精度が測定精度を左右する。腐食面の形状は複雑なため、観測されるエコーは複数のエコーが重畳したエコーとなる。超音波厚さ計による測定では、厚さ計内部でゲートと検知レベルを設定して、測定したい腐食ポイントのエコーが観測される時間を求めるが、エコーが重畳している場合、設定にっては測定ポイント周辺のエコーを抽出してしまう場合や、エコーを抽出できない場合などが起こりうる。
【0003】
例えば、図7に示すように、一般的な超音波パルス反射法による配管の残存肉厚測定では、配管10の平坦な外表面12に前処理を施した後で、超音波探触子20を接触させて測定する。測定に用いる超音波はビーム状に送信されるため、測定点を中心に末広がり状の有効径を持つ。配管10の内面14が腐食によって複雑な形状をしている場合、複数のエコーが重畳して観測される場合がある。この場合、測定位置における厳密な肉厚を測定するためには、複数のエコーが観測される時間をそれぞれ測定し、その中から測定したいポイントの真の肉厚を示すエコーを選択する必要がある。
【0004】
本発明者等は先に、「ウェーブレット変換を用いた配管腐食診断システム、日本機械学会論文集C編、64巻625号、1998年9月、No.97−0912」を発表した。ここでは、3種類の人工腐食を施した基準配管において腐食位置より得られるエコーデータから、ウェーブレット変換により各反射源からのエコーを抽出し、欠陥エコー高さを横軸に、底面エコー高さを縦軸に取った座標にプロットし、線形分離によって腐食形状ごとに領域分割をする。そのグラフ(腐食平面)を用いて得られるエコーデータの欠陥エコー高さと底面エコー高さから腐食形状の分類を行った。
しかしながら、この従来技術では、予め既知の人工腐食配管で腐食平面を作成しておく必要があり、腐食の大きさが超音波のビーム径を超える場合の対処が不充分であり、自然腐食による複雑な腐食形状の測定に対応できなかった。
【0005】
特開平8−334501号「超音波検査装置」には、1個のゲートで取り込んだ複数個の反射波の波高値及び伝播時間を、波形全体を計算機に取り込むことなしに、測定できる検査装置が記載されているが、自然腐食による配管の劣化を診断する方法については言及されていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、超音波探傷法を用いて複雑な形状の自然腐食が生じている配管の劣化を診断する方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、配管の特定の位置における腐食による残存肉厚を正確に測定する方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上述した目的を達成するため、本発明は、超音波探傷法によって配管内面の腐食状態を検査し配管の劣化を診断する方法であって、配管表面の測定点で超音波探触子による測定を行い、受信したエコーデータにウェーブレット変換を行い、横軸を時間軸、縦軸を周波数軸として正の値のみを等高線表示し、重畳していない単独のエコーデータ(例えば腐食がない場合に測定されるエコーデータ)のウェーブレット変換結果を参照パターンとしてパターンマッチングを行い、適合したパターンの極大値が現れる時間から残存肉厚を求めることにより配管の劣化を診断することを特徴とする配管劣化診断方法を提供する。
【0008】
【作用】
本発明による配管劣化診断方法では特に、受信したエコーデータにウェーブレット変換を行い、横軸を時間軸、縦軸を周波数軸として正の値のみを等高線表示し、重畳していない単独のエコーデータのウェーブレット変換結果を参照パターンとしてパターンマッチングを行い、適合したパターンの極大値が現れる時間から残存肉厚を求めることにより配管の劣化を診断するので、複雑な腐食面からの重畳エコーであっても、各エコーの観測される時間から反射源までの距離(残存肉厚)をそれぞれ推定することができ、それらの情報を用いて、より詳細な劣化診断が可能となる。
【0009】
本発明はその特徴として、配管表面に格子状に多数の測定点をプロットし、各点で測定されたエコーデータをウェーブレット変換することによって各エコーの観測時間を検出したとき、第1測定点における特定のエコーが隣接する左右上下4カ所の測定点で観測されない場合に、その特定エコーに対応する腐食が第1測定点で発生していると推定する。
【0010】
また本発明はその好適な態様として、第1測定点における測定エコーの全てが隣接する左右上下のいずれかの測定点で観測された場合に、超音波探触子の有効径を変化させて再度測定を行うことにより、さらに正確な腐食を診断することが可能になる。
【0011】
また本発明は他の好適な態様として、第1測定点における測定エコーの全てが隣接する左右上下のいずれかの測定点で観測された場合に、前記格子のピッチ間隔を変化させて再度測定を行うことにより、さらに正確に腐食を診断することが可能になる。
以下、本発明による好適な実施形態を添付図面を参照しながら説明する。
【0012】
【発明の実施の形態】
測定に提供する好適な機材としては、
(1)超音波パルス送受信機(パルサーレシーバ、超音波探傷機、超音波厚さ計など)
(2)超音波探触子
(3)接触媒質(グリセリンなど)
(4)エコーデータサンプリング用機器(デジタルオシロスコープ、パソコンなど)
【0013】
好適な測定手順としては、
(1)配管表面の錆やスケール及び部分的に剥離した塗装をワイヤブラシ等で除去し、砥石、サンドペーパー等で表面を適切に仕上げる
(2)配管表面に格子状に等間隔で測定ポイントを設定する
(3)測定ポイントに接触媒質を塗布し、超音波探触子を接触させる
(4)受信される超音波エコーデータをサンプリングする
(5)設定した全ての測定ポイントにおいてエコーデータをサンプリングする
(6)エコーデータをウェーブレット変換する
(7)変換結果からパターンマッチングによりエコーを検出し、その時間を抽出する
(8)周囲の測定ポイントにおける情報(エコーが観察される時間)から、測定したいポイントの真の残存肉厚値に、より近い肉厚値を表すエコーを選択する
(9)全測定ポイントにおいてエコーの観測される時間から残存肉厚値を算出する
【0014】
本発明では、図7に示した従来の方法で測定し受信した超音波エコーデータにウェーブレット変換を行う。ウェーブレット変換T(a,b)は次式で定義される時間周波数解析の手法として周知のものである。
【数1】
Figure 0003799552
ここで、f(t)は二乗可積分な関数、Ψ(t)はマザーウェーブレット(アナライジングウェーブレット)と呼ばれる二乗可積分な関数、bは時間のパラメータ、aは周波数のパラメータをそれぞれ表す。マザーウェーブレットとして、送信パルスと同じ周波数成分を持ち重畳していない単独のエコーとして測定される、腐食のない正常配管で観測される内面からのエコーを用いる。これは検出したいエコーに敏感に反応させるためである。
【0015】
また、マザーウェーブレットとして用いるためのアドミッシブル条件は次式で表され、この条件を満たすように、エコーを高さ方向にオフセットさせたものを用いる。
【数2】
Figure 0003799552
【0016】
図1は腐食のない正常配管で観測されたエコーデータを、横軸を時間(ns)、縦軸を電圧(V)として表しており、表面で反射された表面エコー22と内面で反射されたエコー24とが明確な時間差で識別できることがわかる。
図2は経年変化により内面が腐食した配管からサンプリングしたエコーデータを表しており、表面エコー32は同等であるが、内面で反射されたエコー34は腐食による複雑な面での反射のため乱れている様子がわかる。
両方の図に共通してみられる表面エコーは探触子20と配管10との境界面からのエコーである。ここで、図1に示す内面からのエコーデータ24をマザーウェーブレットとして用いる。
【0017】
図3は、図1のエコーデータから表面エコーを削除したデータをウェーブレット変換して、横軸を時間軸、縦軸を周波数軸として正の値のみを等高線表示したものである。ウェーブレット変換の結果、このように時系列に連続して3つの極大値を示す閉曲線群41,42,43が存在し、最も内側の閉曲線の中心付近にそれぞれ極大値が存在する。これは送信パルスの形状に基づいたパターン、つまり超音波探触子ごとの固有のパターンである。また、3つのうち最大のピーク(42のピーク)がエコーが観測される時間を表している。
【0018】
同様に、図4は、図2のエコーデータから表面エコーを削除したデータをウェーブレット変換して、横軸を時間軸、縦軸を周波数軸として正の値のみを等高線表示したものである。ウェーブレット変換の結果、このように時系列に連続して6つの極大値を示す閉曲線群51〜56が存在し、最も内側の閉曲線の中心付近にそれぞれ極大値が存在する。
【0019】
従って、図3のデータ(エコーの重畳がない場合)を参照パターンとし、図4のデータに対してパターンマッチングを行い、適合したパターンの極大値が現れる時間から残存肉厚を求めることにより配管の劣化を診断するのが本発明の特徴点である。
【0020】
図5は、配管10の表面に格子状に多数の測定点をプロットした状態を表している。配管の軸線方向をx軸(座標i)、配管の円周方向をy軸(座標j)とし、1mm間隔で縦10mm、横10mmの格子を形成した。
【0021】
図6は、この格子状の測定点を利用して特定の測定点(i,j)における腐食を推定する手法を表している。
まず、図3に示すエコーのパターンを極大値の時間差ΔT(=T2 −T1 )及び周波数軸での出現順序(a2−a1>0)によって表現する。各測定点(i,j)において、エコーデータをウェーブレット変換して得られた極大値の時間をtij n (n=1,2・・・k)、周波数をaij n とすると、以下の式が成り立つ場合で、最大の極大値の時間がエコーの観測時間となる。
【数3】
Figure 0003799552
ここで、pは適当な許容値である。
【0022】
上記の方法により検出された複数のエコーから、測定したいポイントの真の残存肉厚値により近い肉厚値を表すエコーを選択する。エコー高さは超音波ビームの有効径内における反射面の占有率に比例するので、エコー高さが最大のものを選択する方法や、または配管の劣化程度を検査するという目的を優先すれば、安全を見て最初に観測されるエコーを選択する方法が考えられる。
【0023】
しかし、測定点Pijにおける各エコーの中で、測定点Pijに隣接する4つの測定点Pi-1 j 、Pi+1 j 、Pi j-1 、Pi j+1 において検出されないエコーが存在する場合、そのエコーは測定点に近い、すなわち超音波ビームの中心に近い反射面からのエコーであると考えられるため、より真の残存肉厚に近い値を示すエコーであると判断できる。
すなわち、図6において、第1測定点72で検出されたエコーがa,b,cであるとき、左側の測定点71で検出されたエコーがb,cで、右側の測定点73で検出されたエコーがbで、上側の測定点62で検出されたエコーがb,cで、下側の測定点82で検出されたエコーがbであれば、特定のエコーaが、隣接する左右上下4カ所の測定点で検出されない場合に該当し、その特定エコーaに対応する腐食が第1測定点72で発生していると推定することができる。
【0024】
そこで、この条件を最上位のエコー選択規準とすることによって、より高精度な残存肉厚測定が可能となる。また、測定点Pijにおける全てのエコーが測定点Pi-1 j 、Pi+1 j 、Pi j-1 、Pi j+1 のいずれかの測定点において検出される場合には、超音波探触子の有効径(ビーム径)を変化させて再度測定を行うか、あるいは、格子のピッチ間隔を変化させて再度測定を行うことにより、高精度な残存肉厚測定が可能となる。
【0025】
【実施例】
本発明の方法を利用し、経年変化によって内面が腐食した配管を用いて検証実験を行い、残存肉厚を測定した。また、比較のために、超音波厚さ計による測定も同時に行った。図5に示すような格子状の測定領域を3カ所設定し、各領域を1mmピッチの等間隔で区切って測定点とした。各測定点における肉厚測定誤差の合計を領域毎に求めて、本発明の方法と、超音波厚さ計での測定と比較した。この際、真の残存肉厚は、レーザを用いた3次元測定器によって外部から測定した値を用いた。下記にその結果を示す。
【表1】
Figure 0003799552
【0026】
上記の表から示されるように、3つの測定領域の全てにおいて、超音波厚さ計による測定よりも、本発明による誤差の方が小さくなり、本発明による残存肉厚測定の正確さが実証された。
【0027】
【発明の効果】
以上詳細に説明した如く、本発明による配管劣化診断方法によれば、従来困難とされていた複雑な形状の自然腐食が生じている配管で、複数のエコーが重畳している場合であっても、超音波探傷法によって、配管の劣化を外部から診断することが可能になり、配管の特定の位置における腐食による残存肉厚を高精度で測定することが可能となる。さらに、
(1)配管劣化診断が低コストで正確に行うことができる
(2)適切なリニューアル提案ができる
(3)定期検査によって腐食原因の推定ができる
(4)配管寿命予測が正確にできる、
(5)予めゲートと検出レベルの設定をする必要がない
(6)検査機器をロボットに搭載し超音波探傷法で迅速かつ容易に検査を行うことができる等の利点も得られ、その技術的効果には極めて顕著なものがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】腐食による重畳がない場合のエコーデータを表すグラフである。
【図2】腐食による重畳がある場合のエコーデータを表すグラフである。
【図3】図1のエコーデータをウェーブレット変換したパターンのグラフである。
【図4】図2のエコーデータをウェーブレット変換したパターンのグラフである。
【図5】配管の表面に格子状に設けた測定点を表す斜視図と概略図である。
【図6】格子上の特定の点とその左右上下における観測エコーを表す概略図である。
【図7】従来の超音波探触子を用いた測定方法を表す断面図である。
【符号の説明】
10 配管
12 外表面
14 内面
20 超音波探触子
22,32 表面エコー
24,34 内面からのエコー
41〜43 閉曲線群
51〜56 閉曲線群
61〜63 測定点
71〜73 測定点
81〜82 測定点

Claims (1)

  1. 超音波探傷法によって受信したエコーデータにウェーブレット変換を行い、横軸を時間軸、縦軸を周波数軸として正の値のみを等高線表示し、重畳していない単独のエコーデータのウェーブレット変換結果を参照パターンとしてパターンマッチングを行い、適合したパターンの極大値が現れる時間から残存肉厚を求めることにより配管の劣化を診断する配管劣化診断方法において、
    配管表面に格子状に多数の測定点をプロットし、各点で測定されたエコーデータをウェーブレット変換することによって各エコーの観測時間を検出したとき、第1測定点における特定のエコーが隣接する左右上下4カ所の測定点で観測されない場合に、その特定エコーに対応する腐食が第1測定点で発生していると推定する配管劣化診断方法。
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