以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
―積層コンデンサ―
図1は本発明のメッキ膜形成装置によって製作した積層コンデンサを示す断面図である。同図に示す積層コンデンサ1は、複数の層に重ねられた誘電体層4と、各誘電体層4に形成された内部電極3と、誘電体層4を上下から挟む絶縁層2と、外部電極5とで構成されている。
この積層コンデンサ1は、所定の誘電率を有した誘電体層4に内部電極3を形成して、交互に積層して直方体形状の積層体を形成したものである。当該積層体の上下両面には、誘電体層4と同一材料からなる絶縁層2を形成している。更に前記積層体の両端部に内部電極3と電気的に接続される外部電極5を被着・形成している。この積層コンデンサ1の外形は、例えば、巾1.2mm、長さ2mm、高さ1.2mmの寸法にて形成される。
前記誘電体層4は、セラミック材料又は有機材料により形成される。セラミック材料から成る場合、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム等により形成される。有機材料から成る場合、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PP(ポリプロピレン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)等により形成される。誘電体層4の厚みは、例えば1層あたり1.0μm〜4.0μmに設定され、その積層数は、例えば30層〜600層に設定される。なお、絶縁層2の材質としては、誘電体層4と同様のセラミック材料や有機材料が用いられる。
誘電体層4間に介在される内部電極3は、例えばニッケル、銅、銀、金、プラチナ、パラジウム、クロム、これら金属の合金等から成り、その厚みは、例えば0.5μm〜2.0μmに設定される。
このような誘電体層4の材質や厚みや積層数,内部電極3の対向面積等は、所望する積層コンデンサの静電容量などによって適宜、決定される。
―メッキ膜形成装置−
上述した積層コンデンサは、図2〜図4に示すメッキ膜形成装置を用いて製造される。
図2は、本発明のメッキ膜形成装置を模式的に示す側面図、図3はこのメッキ膜形成装置に用いられる基体9を上(図2のA方向)から見た平面図、図4はこのメッキ膜形成装置に用いられる基体表面の構造を示す拡大側断面図である。
メッキ膜形成装置は、メッキ槽18の中に基体9を回転可能に配置し、基体9に対してメッキ槽18と反対の側に転写手段を配置することにより構成されている。
以下、メッキ膜形成装置の各構成要素について説明する。なお、以下に述べる構成要素のうち、例えば洗浄手段、洗浄液吸引手段、メッキ液吸引手段及び循環装置は、本発明のメッキ膜形成装置における必須の構成要素ではなく、付加的な構成要素として位置づけられるものである。
=基体=
基体9はメッキ膜形成装置の陰極として機能する。例えば、ステンレス、鉄、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、タンタル、モリブデン等の導電性を備えた金属により形成されている。基体9の表面には、その全周にわたり導電性膜6(図4参照)が形成されており、該導電性膜6の表面には導電性膜6を所定パターンに露出させるマスク層7が形成される。以下、基体9の表面と導電性膜6とを含めて「基体の表面」ということがある。
このような基体9の表面は、円柱状であり、曲率半径は、例えば50mm〜2000mmの範囲に設定され、その表面粗さは、例えば、最大高さRyでいえば0.5μm以下に設定される。すなわちRy≦0.5μmである。
基体9の表面に形成される導電性膜6としては、例えば、比抵抗が10−2Ωcm以下の材料が用いられる。電解メッキの際の電流密度を均一にするためには、比抵抗が10−3Ωcm以下の材料が好ましい。比抵抗が10−3Ωcm以下の導電性膜6の材料として、例えば、窒化チタンアルミニウム、窒化クロム、窒化チタン、窒化チタンクロム、炭窒化チタン、炭化チタン、導電性DLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)等を用いることができる。また、前記導電性膜6の材料のうち、金属メッキ膜8の剥離性を良好となすには、窒化チタンアルミニウム、窒化クロム、窒化チタン、窒化チタンクロム、炭窒化チタン等で導電性膜6を形成するのが好ましい。特に、耐久性を高めるには、窒化チタン等で導電性膜6を形成するのが好ましい。なお、導電性膜6は、従来周知の薄膜形成法、例えば、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学的気相成長法(CVD)等によって基体9の表面に形成される。
導電性膜6の表面に形成されるマスク層7は、金属メッキ膜8の析出領域を規制するためのものである。マスク層7は、十分な電気絶縁性を備えることが好ましい。例えば、その比抵抗は、104Ω・cm以上に設定するとよい。ビッカース硬度Hvは例えば1000以上、摩擦係数μは例えば0.3以下の材料を用いる。このような諸特性を満足する材料としては、例えば、アモルファス構造のDLCやGLC(グラファイト・ライク・カーボン)等が挙げられる。
このように、基体9の表面に金属メッキ膜8の析出領域を規制するマスク層7を形成しておくことにより、フォトエッチング等の煩雑な工程を経ることなく、基体9をメッキ液19に浸漬して、後述するメッキ槽18と基体9との間に電界を印加するだけで所望するパターンの金属メッキ膜8が容易に得られる。
前記マスク層7の厚みは、金属メッキ膜8の厚みと同じか、或いは、金属メッキ膜8の厚みよりもやや厚く形成することが好ましい。これは、マスク層7の厚みを越えて成長した金属メッキ膜8がマスク層7上に広がるのを防止するためである。
ここで、マスク層7の側面と底面との間に形成される角部の角度α(図4参照)は90度以下、例えば90度〜85度に設定しておくことが好ましい。このように90度以下に設定しておけば、基体9と接する金属メッキ膜8の下面の面積が、その上面の面積よりも小さくなることから、金属メッキ膜8を樹脂フィルム20等に転写する際、金属メッキ膜8の外周部がマスク層7に引っ掛かりにくくなり、金属メッキ膜8の剥離を容易することができる。
前記マスク層7は、例えば、DLC,GLC等を従来周知のスパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法等の薄膜形成法によって基体9の表面に所定厚みに被着・形成し、しかる後、従来周知のフォトエッチング法等を採用して、複数個の開口部を有したパターンに加工することによって形成される。前記開口部は、金属メッキ膜8の析出領域に対応する部位となる。
マスク層7の材質として用いられるDLCやGLCは、その電気抵抗が比較的高いことから、マスク層7の表面にメッキが析出することはない上に、表面の剥離性が良好で、摩擦抵抗も小さい。従って、金属メッキ膜8を被転写体である樹脂フィルム20等に対して転写する際、被転写体が損傷を受けることは少なくなる。このように、マスク層7の材質を選ぶことにより、基体9の耐久性が高められ、長期にわたって繰り返し使用しても高品質の金属メッキ膜8を得ることができる。
以上のような基体9は、図2に示すように、回転軸10によって回転可能に支持されるようになっている。この回転軸10を電動機の主軸に連結して、電動機の回転運動を伝達することにより基体9を軸周りに回転させる。そしてこの回転軸10は、回転ブラシを介して電源装置11に接続され、これによって基体9に負の電圧が印加される。すなわち、基体9がメッキ膜形成装置の陰極として機能することとなる。
=メッキ槽=
メッキ槽18は、メッキ膜形成装置の陽極として機能し、また同時に、その内部でメッキ液19を満たすことによりメッキ浴を形成するための容器として機能する。
このようなメッキ槽18の内面形状と基体9の表面とは、両者間に一定の間隔が形成されるよう、両者は、略同心円状に設置されている。基体9の表面とメッキ槽18の内面との間隔は、例えば2mm〜50mmに設定される。
メッキ液19は、後述する循環装置15等によって基体9とメッキ槽18との間を所定の流速で流動するようになっている。かかるメッキ液19としては、ニッケルメッキ膜を形成する場合、内部応力の少ない金属メッキ膜8を得るのに適したスルファミン酸ニッケルメッキ液等が好適に用いられる。このようなスルファミン酸ニッケルメッキ液としては、例えば、塩化ニッケル30g/リットル、スルファミン酸ニッケル300g/リットル、ほう酸30g/リットルの組成を有した水溶液等が用いられ、そのpH値は、例えば3.0〜4.2に設定される。特に内部応力の小さな金属メッキ膜8を得るには、pH値を3.5〜4.0に設定するとともに、メッキ液19の温度を45℃〜50℃に設定しておくことが好ましい。
そして、このようなメッキ液19には、好ましくは、セラミックや樹脂等から成る非導電性微粒子30が添加される。
また、上述したメッキ液19には、必要に応じて、ホウ酸、ギ酸ニッケル、酢酸ニッケル等から成るpH緩衝剤や、ラウリル硫酸ナトリウム等から成るピット防止剤、ベンゼンやナフタレン等の芳香族炭化水素にスルフォン酸、スルフォン酸塩、スルフォンアミド、スルフォンイミド等を付与した化学物質等から成る応力減少剤、芳香族スルフォン酸やその誘導体から成る硬化剤、ブチンジオール、2ブチン1.4ジオール、エチレンシアンヒドリン、ホルムアルデヒド、クマリン、ピリミジン、ピラゾール、イミダゾール等から成る平滑剤等を適宜、添加して用いてもよい。応力減少剤としては、例えば、サッカリン、パラトルエンスルフォンアミド、ベンゼンスルフォンアミド、ベンゼンスルフォンイミド、ベンゼンジスルフォン酸ナトリウム、ベンゼントリスルフォン酸ナトリウム、ナフタレンジスルフォン酸ナトリウム、ナフタレントリスルフォン酸ナトリウム等が用いられる。
上述したメッキ槽18と基体9との間に電位を印加して、従来周知の電解メッキ法を実施することができる。すなわち、陰極である基体9と陽極であるメッキ槽18の間に電位を加えることによって、基体9の表面のうち、マスク層7の存在しない領域に金属メッキ膜8が析出する。
また、メッキ槽18内のメッキ液19は、上述したように基体9とメッキ槽18との間を常に所定の方向に流動するようになっているため、金属メッキ膜8の膜質を均質なものとなすことができる利点がある。
=転写手段=
転写手段は、金属メッキ膜8を樹脂フィルム20の一主面に転写する樹脂フィルム転写手段と、セラミックグリーンシート26の一主面を、樹脂フィルム20に転写された金属メッキ膜8に付着させるセラミックグリーンシート転写手段とで構成されている。
樹脂フィルム転写手段は、送り出し部22と、加圧ロール23と、巻き取り部24とで構成されている。送り出し部22は、粘着層付きの樹脂フィルム20が巻かれたロール軸を電動機に連結して、この軸を所定の量だけ回転させて送り出すためのものである。加圧ロール23は、粘着層付きの樹脂フィルム20を回転しながら、基体9に加圧するためのものである。巻き取り部24は、加圧ロール23を通過して金属メッキ膜8が転写された粘着層付きの樹脂フィルム20を一定の力で巻き取るためのロールからなる。
加圧ロール23は、樹脂フィルム20を基体9に対して均等に加圧することができるように、少なくとも表面部分がウレタンゴムコート、ネオプレーンゴムコート、天然ゴムコート等の弾力材料によって被覆されていることが好ましい。加圧ロール23は、電動機に連結されない回転自在のものであってもよいし、電動機を連結して回転動作を行うようにしたものであってもよい。
樹脂フィルム20は、例えば、厚み20μm〜50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)等からなり、その主面(金属メッキ膜8を転写する面)に、厚み0.05μm〜10μmの粘着層21を形成したものが用いられる。粘着層21は、例えば、アクリル系(溶剤系)、アクリルエマルジョン系(水系)、ブチラール系、フェノール系、シリコン系、エポキシ系等の粘着剤をPETフィルム等の主面に塗布して乾燥することによって得られる。乾燥後の粘着力が例えば、0.1N/cmとなるように調整されたものを用いるのが好ましい。
また前記粘着層21は、比較的低温で確実に熱分解される材料により形成することが好ましい。具体的には、金属メッキ膜8が付着した場合であっても、焼成に際して熱分解するアクリル系(溶剤系)、アクリルエマルジョン系(水系)、ブチラール系の粘着剤を用いるのが好ましく、これらの中でも剥離性の良好なアクリル系粘着剤を用いるのが特に好ましい。このような粘着層21の粘着力は、例えば、0.005N/cm〜1.0N/cmに設定され、また転写性を良好とするには0.01N/cm〜1.0N/cmに設定することが好ましく、さらに剥離性を良好とするには0.01N/cm〜0.2N/cmに設定することが好ましい。
このような樹脂フィルム20を、送り出し部22によって基体9側へ順次供給し、その粘着層21が形成されている側を金属メッキ膜8が形成されている基体9の表面に対して、例えば、10Nの押圧力で加圧ローラ23にて加圧する。このことにより樹脂フィルム20上に金属メッキ膜8が転写される。その後、樹脂フィルム20は、巻き取り部24によって、基体9の表面の周速度と同じ速度で巻き取られる。
セラミックグリーンシート転写手段は、供給部28と、加圧ロール27と、収納部29とで構成されている。供給部28は、セラミックグリーンシート26付きの樹脂フィルム25を巻いたロールの軸を電動機に連結して、この軸を所定の量だけ回転させて送り出す。加圧ロール27は、セラミックグリーンシート26を樹脂フィルム20上の金属メッキ膜8に所定の圧力で当接させる。これにより、セラミックグリーンシート26が樹脂フィルム20の金属メッキ膜8の上に転写される。収納部29は、加圧ロール27を通過した樹脂フィルム25を一定の張力で巻き取る。前記加圧ロール27としては、先に述べた加圧ローラ23と同様の材質、構造のものが用いられる。
=洗浄手段=
洗浄手段12は、メッキ槽18から引き上げられた基体9の表面を洗浄するものであり、基体9の回転方向下流側に配される。具体的には、基体9の表面に形成された金属メッキ膜8やマスク層7の表面に残存するメッキ液19を洗い流すためのものである。
かかる洗浄手段12は、金属メッキ膜8およびマスク層7の表面に洗浄液を新たに供給する給液手段12bと、供給されて基体9の表面に接する洗浄液を内部に保持する洗浄容器12aと、洗浄液を洗浄容器12a内で撹拌させるべく洗浄容器12a内に空気などの流体を噴射する撹拌手段12cと、供給された洗浄液および除去されるメッキ液を洗浄容器12a内から回収する回収手段12dとを含んで構成される。
具体的な動作としては、基体9表面に配された洗浄容器12aに、当該洗浄容器12aにつながれた給液手段12bから洗浄容器12a内に大量の洗浄液が供給されるとともに撹拌手段12cから空気を噴射されることによって、洗浄容器12a内部で金属メッキ膜8およびマスク層7の表面に残存するメッキ液が、供給された洗浄液と混合・洗浄され、その後メッキ液が混合した洗浄液が洗浄容器12aから回収手段12dによって外部へと回収される。また、回収手段12dによって回収したメッキ液が混合した洗浄液は、濾過フィルタ12eを通すことによって不純物を除去し、イオン交換器(図示せず)によって洗浄液とメッキ液を分離することした後、分離された洗浄液が給液手段12bによって新たに洗浄容器12a内に供給されるように構成することができる。
また撹拌手段12cの流体噴射口は、洗浄容器12aと基体9との間の隙間に配されており、前記残存するメッキ液及び洗浄液を洗浄容器12a内に保持することから、洗浄液が洗浄容器12aから漏れ出ることがなく、漏れ出した洗浄液がメッキ槽18内に不純物として混入することによりメッキ液19の成分変化が生じ、その結果、金属メッキ膜8の成膜厚みが変化することを防止することができる。なお、基体9表面と洗浄容器12aとの間から洗浄液が漏れ出ることを防止する手段として、ゴムなどからなるシール材や上述の給液手段12bと同様の構成のものを両者間の隙間を塞ぐように設けることもできる。
また、撹拌手段12cにより洗浄容器12a内に噴射する流体としては、上述の空気に代えて、洗浄液、金属メッキ膜及び基体と化学反応を起こさない不活性気体、又は洗浄液と同一組成の液体を用いることができる。洗浄液と同一組成の液体を用いると、洗浄容器12a内の洗浄液の成分を一定に維持することができるとともに、別途、洗浄液を供給する手段を設ける必要のない簡素な構成の洗浄手段12とすることができ、他方、空気もしくは不活性気体を用いると、金属メッキ膜8及び基体9の腐食を防止するとともに、洗浄液の成分変化を防ぐことによって洗浄液を全面的に入れ替えることなく洗浄液を長期にわたり使用し続けることができる。
洗浄液としては、例えば水が用いられ、水に含まれる不純物が被転写材に金属メッキ膜8とともに転写されることによって金属メッキ膜8の導電層としての性能に変化が生じることを防止する観点から、純度が高い水を用いることが好ましく、不純物の割合を1000ppm以下とすればよい。また、不純物の大きさは、被転写材であるセラミックグリーンシートや金属メッキ膜8の厚さ以下の大きさものであることが好ましい。これ以上の大きさの不純物が存在する場合、金属メッキ膜8と共に転写されるため被転写材であるセラミックグリーンシートなどに穴が開くおそれがあり、電気不良が発生する原因となるからである。上述の水に代えて、アルコール、アセトン、トルエンなどを洗浄液として用いることもできる。
このように、洗浄手段12及び後述のメッキ液吸引手段14を用いて金属メッキ膜8およびマスク層7の表面上に残存するメッキ液を除去することにより、残存するメッキ液が金属メッキ膜8と共にセラミックグリーンシートに転写され、セラミックグリーンシートにキズを付けたり、膨潤、軟化(寸法変化)されることによって、焼成後の内部電極が劣化することなどによる製品の信頼性低下を防止することができる。
=洗浄液吸引手段=
洗浄液吸引手段13は、洗浄手段12に対し、基体9の回転方向下流側に配置されており、洗浄手段12によってメッキ液19を洗い流した後、金属メッキ膜8およびマスク層7の表面に残った洗浄液を完全に除去するためのものである。
かかる洗浄液吸引手段13はステンレス板等によって形成されており、その表面には吸引用の複数の穴が設けられ、これらの穴より吸引器を用いて吸引することにより、基体9の表面に残存した洗浄液を除去するようになっている。洗浄液吸引手段13の表面部分には、例えばウレタンスポンジや人工皮革等のように微細な孔が形成されたものを取り付ける。なお、洗浄液吸引手段13の形状は円筒状、円柱状、平板状のいずれであっても構わない。
なお、マスク層7と金属メッキ膜8の厚みが異なる場合には、マスク層7と金属メッキ膜8の表面に生じる段差部分に洗浄液が残存しやすいため、段差形状に沿うように洗浄液吸引手段13の表面形状を形成することが好ましい。また、洗浄液吸引手段13の形状は、上述のような円筒状もしくは円柱状に限定されず、平板状としてもよい。
=メッキ液吸引手段=
メッキ液吸引手段14は、洗浄手段12に対して、基体9の回転方向上流側に配置されており、金属メッキ膜8やマスク層7の表面に残存するメッキ液19を除去するためのものである。
かかるメッキ液吸引手段14はステンレス板等によって形成されており、その表面には、先に述べた洗浄液吸引手段13と同様に、複数の穴が設けられ、これらの穴からメッキ液19を吸引するようになっている。メッキ液吸引手段14の表面部分も、洗浄液吸引手段13と同様の構造が採用される。なお、メッキ液吸引手段14の形状は円筒状、円柱状、平板状のいずれであっても構わない。
なお、マスク層7と金属メッキ膜8の厚みが異なる場合には、マスク層7と金属メッキ膜8の表面に生じる段差部分にメッキ液が残存しやすいため、段差形状に沿うようにメッキ液吸引手段14の表面形状を形成することが好ましい。またメッキ液吸引手段14の形状は、上述のような円筒状もしくは円柱状に限定されず、平板状としてもよい。
=循環装置=
循環装置15は、メッキ槽18に注入されているメッキ液19を循環させるためのものである。メッキ槽18の底面中央の、基体9の最下端部と対向する部位にメッキ液19の供給口16が設けられている。メッキ液19は、この供給口16より、メッキ槽18の中に供給される。メッキ液19は、基体9の回転方向下流側では基体9の表面に沿って基体9の回転方向と同じ方向に流動し、基体9の回転方向上流側では基体9の表面に沿って基体9の回転方向と逆の方向に流動し、メッキ槽18の両端より溢れ出す。溢れ出したメッキ液19は、その外側に配置された循環槽に排出される。そして、この循環槽に溜まったメッキ液19は、その底部に設けられた吸出し口17より吸出され、ポンプによって再び前記供給口16よりメッキ槽18の中に供給される。
なお、このようにメッキ液19が循環する過程に、ろ過フィルタを設けて異物を除去するようにしても良いし、メッキ液19のpH値やメッキ液19の流量,非導電性微粒子の濃度等を必要に応じて調整するようにしても良い。
−電子部品の製造方法−
次に、上述したメッキ膜形成装置を用いて、積層コンデンサを製造する方法について、工程ごとに説明する。
=工程1=
まず、電解メッキ法にて、上述した基体9の表面に、金属メッキ膜8を形成する。基体9の表面の断面形状は円形なので、金属メッキ膜8もその断面形状は、前記円と同じ曲率半径を持った凸曲面状に形成される。
基体9の下部領域が、メッキ槽18に注入されているスルファミン酸ニッケルメッキ液19等に浸漬されるようにして、基体9を所定の回転速度で回転軸10の周りに回転させながら、電流密度が、例えば、2A/dm2〜15A/dm2となるようにメッキ槽18との間に所定の電位差を印加する。これにより、基体9の円形面に沿って、前述したマスク層7が形成されている領域を除いて金属メッキ膜8が凸曲面状に形成される。
このようにして形成される金属メッキ膜8は、ニッケル、銅、銀、金、プラチナ、パラジウム、クロム等やこれら金属の合金からなり、これらの金属材料の中でも耐熱性に優れたニッケルが積層コンデンサの内部電極3を形成する材料として好ましい。
以上のように、基体9を軸周りに回転させながら、メッキ槽18のメッキ液19に浸漬し、基体9とメッキ槽18との間に電界を印加して基体9の表面に金属メッキ膜8を連続的に形成することができ、これによって積層コンデンサの生産性が向上される。しかもこの場合、基体9とメッキ槽18との間の電流密度は略均一になることから、金属メッキ膜8を略一定の厚みで形成することもできるようになる。
またこの場合、メッキ液19中に、セラミックや樹脂からなる多数の非導電性微粒子30を多数添加すれば、このような非導電性微粒子30は、その一部が基体9と接するようにして金属メッキ膜8中に埋設される。その結果、非導電性微粒子30を含んだ金属メッキ膜8が形成される。
そして、基体9は、基体9の表面に形成された金属メッキ膜8が基体9の回転によってメッキ液19中より引き上げられた後、メッキ液吸引手段14、洗浄手段12及び洗浄液吸引手段13によって洗浄され、乾燥される。
=工程2=
次に、工程1により得た金属メッキ膜8を、一旦、樹脂フィルム20上に転写する。
このような樹脂フィルム20は、送り出し部22によって基体9側へ順次供給される。樹脂フィルム20の粘着層21が形成されている面を、金属メッキ膜8が形成されている基体9の表面に対し加圧ローラ23によって、例えば、10Nの押圧力で加圧する。これによって樹脂フィルム20上に金属メッキ膜8を転写させる。その後、樹脂フィルム20は巻き取り部24によって巻き取られる。
このとき、金属メッキ膜8は、工程1において、円形状の基体9の表面上に断面が凸曲面状をなすように形成されることから、金属メッキ膜8を樹脂フィルム20に析出させる際、金属メッキ膜8中に内部応力(引張応力)が生じても、得られた金属メッキ膜8を基体9より剥離させ樹脂フィルム20に析出させると、凸曲面状の金属メッキ膜8は樹脂フィルム20上で平坦化する方向に変形する。したがって、金属メッキ膜8は、平らな樹脂フィルム20上に、歪を生ずることなく、平坦な状態で形成される。
また、基体9上の金属メッキ膜8に、上述した如くセラミックや樹脂からなる多数の非導電性微粒子30を添加すれば、これらの非導電性微粒子30は基体9との密着性に乏しいことから、金属メッキ膜8を基体9より比較的容易に剥離させることができる。
なお、金属メッキ膜8の剥離性を向上させるには、メッキ析出面(導電性膜6と接する部位)に非導電性微粒子30が数多く配置されるように非導電性微粒子30を分布させておくことが好ましい。特に、金属メッキ膜8の表面に露出する非導電性微粒子30の露出面積が、金属メッキ膜8の総面積に対して0.01%〜40%の割合となるようにしておくことが、金属メッキ膜を基体から容易に剥離でき、金属メッキ膜の変形を未然に防止することができる点から好ましい。なお、この値が0.01%未満であると、金属メッキ膜8における金属成分の析出割合が多くなって基体9との密着力を十分に低下させることが困難になり、基体表面から金属メッキ膜を剥離する際に、金属メッキ膜が変形する場合がある。また40%を超えると、金属メッキ膜8中の金属成分が少なくなることによって金属メッキ膜自体の機械的強度が低下するので、基体表面から金属メッキ膜を剥離する際に、金属メッキ膜にクラックが生じる場合がある。
このような非導電性微粒子30としてセラミック材料を用いる場合は、誘電体シートとして用いられるセラミックグリーンシート26のセラミック材料と同材質のものが好適である。
他方、非導電性微粒子30として樹脂の微粒子を用いる場合は、セラミックグリーンシート26に含まれる有機バインダと同材質のものが好適である。
なお、非導電性微粒子30の大きさとしては、金属メッキ膜8の厚みよりも小さい平均粒径のものを用いることが好ましい。このようにしておけば、金属メッキ膜8を基体9から剥離させる際、金属メッキ膜8が変形するのを有効に防止することができる。
また、このような非導電性微粒子30として、セラミック材料から成る非導電性微粒子30と樹脂材料から成る非導電性微粒子30とを混合して用いても構わない。
=工程3=
次に、金属メッキ膜8が転写されている樹脂フィルム20上に、更に誘電体シートとしてのセラミックグリーンシート26を圧着させることにより、セラミックグリーンシート26を金属メッキ膜8上に付着させる。
セラミックグリーンシート26は、例えば、厚み12μm〜100μmのPETフィルム等から成る樹脂フィルム25上に支持された状態で、供給部28のロールに巻き取られている。セラミックグリーンシート26が樹脂フィルム20との合流位置まで供給されると、双方の樹脂フィルム20,25が重ね合わせられ、樹脂フィルム20上の金属メッキ膜8と接する。この部分を加圧ローラ27に内設しておいたヒータによって約70℃の温度で加熱しつつ、樹脂フィルム25を加圧ローラ27によって約100Nの押圧力で樹脂フィルム20側へ加圧する。このことによりセラミックグリーンシート26が金属メッキ膜8に付着される。その後、セラミックグリーンシート26が剥ぎ取られた樹脂フィルム25は、収納部29によって巻き取られる。
このように、金属メッキ膜8を、一旦、樹脂フィルム20上に転写した後、その上からセラミックグリーンシート26を重ねて付着させれば、セラミックグリーンシート26が硬質材料により形成されている基体表面のマスク層7に対して直接、接触することはないことから、セラミックグリーンシート26をマスク層7との接触により損傷させることなく、セラミックグリーンシート26を金属メッキ膜8上に良好に付着させることができる。
また、金属メッキ膜8は、基体9より剥離させたとき、前述したように平坦化する方向に変形していることから、かかる金属メッキ膜8にセラミックグリーンシート26の主面を転写しても、セラミックグリ−ンシート26や金属メッキ膜8に、変形やクラックが発生するのが有効に防止される。したがって、積層コンデンサ1の生産性向上に供することができる。
なお、樹脂フィルム25上に支持されたセラミックグリーンシート26は、例えば、1μm〜20μmの厚みに形成され、セラミック材料粉末に有機溶媒、有機バインダ等を添加・混合して得た所定のセラミックスラリーを、焼成後の厚さが2μm程度となるように従来周知のコーティング法または印刷法等によって樹脂フィルム25の主面に塗布した後、これを乾燥させることによって得られる。
樹脂フィルム25は、厚み38μmのPETフィルムが用いられる。このような樹脂フィルム25の一主面に、焼成後の厚みが、例えば2μmとなるようにセラミックスラリーを塗布及び乾燥させて、セラミックグリーンシート26付きの樹脂フィルム25を用意する。次に、樹脂フィルム25のセラミックグリーンシート26を樹脂フィルム20上の金属メッキ膜8に接するように当接させて、この当接部を半径100mm、長さ250mmの加圧ローラ27にて100N、70℃の加圧条件で挟み込み、セラミックグリーンシート26を金属メッキ膜8付き樹脂フィルム20に圧着させる。その後、セラミックグリーンシート26は樹脂フィルム25より剥離される。
=工程4=
次に、前述の工程3で得た金属メッキ膜8付きのセラミックグリーンシート26を複数枚準備して、例えば、60℃の温度で加熱しながら0.9MPaの圧力で仮圧着し、その後、従来周知の静水圧プレス等によって70℃の温度、50MPaの圧力で圧着させることによって、積層体を形成する。
=工程5=
そして最後に、工程4で得た積層体を所定形状に切断し、得られた個片を高温で焼成する。
積層体の焼成は、金属メッキ膜8を形成している金属の融点よりも低く、かつ、焼成中少なくとも一時点において、該金属の再結晶温度よりも高い温度になるようにして行う。これによってセラミックグリーンシート26は積層コンデンサの誘電体層4となり、金属メッキ膜8は内部電極3となる。
ここで、金属の再結晶とは、加工した金属材料を加熱すると、その金属がある温度を境に急激に軟化して、内部歪みを軽減するように安定化する現象のことである。この再結晶が開始する温度のことを再結晶温度という。例えばニッケルの場合、再結晶温度は530℃〜660℃、融点は1458℃、また銅の場合、再結晶温度は200℃〜250℃、融点は1083℃、また金の場合、再結晶温度は約200℃、融点は1060℃である。従って、金属メッキ膜8がニッケルから成る場合、積層体の焼成は、例えば、1300℃の温度で行われる。
このように金属メッキ膜8を、該金属メッキ膜8を形成する金属の融点より低い温度で焼成することにより、焼成時に金属メッキ膜8が熔けて金属メッキ膜8が分断されるといった不都合が確実に防止され、連続性に優れた内部電極3を形成することができる。
またこの場合、積層体を焼成する際のピーク温度は、金属メッキ膜8を形成している金属の再結晶温度よりも高く設定されているため、焼成時に金属メッキ膜8を形成している金属の再結晶化が進むことで金属が適度に軟化し、セラミックグリーンシート26中のセラミック粒子が金属メッキ膜8の表面に入り込む。このことによって金属メッキ膜8とセラミックグリーンシート26との密着力が向上し、その結果、構造欠陥の少ない積層コンデンサが得られるようになる。
しかもこの場合、金属メッキ膜8中には非導電性微粒子30が一部を埋設されているため、非導電性微粒子30としてセラミック材料を用いた場合には、非導電性微粒子30がセラミックグリーンシート26の焼成時に同時焼成され、セラミックグリーンシート26に含まれるセラミック成分と焼結して一体化される。その結果、金属メッキ膜8とセラミックグリーンシート26との密着性が向上する。また、非導電性微粒子30として樹脂材料を用いた場合には、非導電性微粒子30がセラミックグリーンシート26の焼成時に焼失して空隙を形成し、この空隙に、セラミックグリーンシート26中のセラミック成分が拡散することから、この場合も金属メッキ膜8とセラミックグリーンシート26との密着性が向上する。
=工程6=
そして最後に、積層体の両端部に、外部電極用の導体ペーストを従来周知のディッピング法等によって塗布し、これを焼成した後、その表面にメッキ処理を施すことによって外部電極5が形成され、これによって製品としての積層コンデンサ1が完成する。
−製造方法の変形例1−
次に電子部品の製造方法の他の実施形態について図5を用いて説明する。なお、先に述べた電子部品の製造方法と同様の工程については重複する説明を省略し、またメッキ膜形成装置の構成についても同一の参照符を付して重複する説明を省略することとする。
本実施形態が先に述べた製造方法と異なる点は、樹脂フィルム20に、一旦、転写した金属メッキ膜8を、樹脂フィルム25上に保持されているセラミックグリーンシート26の表面に再度転写させることようにした点である。
この場合、金属メッキ膜8が転写されたセラミックグリーンシート26は収納部29によって樹脂フィルム26ごと巻き取られ、以後の工程に使用される。
このような第2実施形態においても、先に述べた第1実施形態と全く同様の効果が得られる。
−製造方法の変形例2−
次に電子部品の製造方法の他の実施形態について図6を用いて説明する。なお、先に述べた電子部品の製造方法と同様の工程については重複する説明を省略し、またメッキ膜形成装置の構成についても同一の参照符を付して重複する説明を省略することとする。
本実施形態が先に述べた製造方法と異なる点は、基体9上に析出させた金属メッキ膜8を、樹脂フィルム25上で保持されているセラミックグリーンシート26の主面に直接、転写するようにした点である。すなわち、セラミックグリーンシート26が保持されたPETフィルム等から成る樹脂フィルム25を、送り出し部22のロールから送り出して、加圧ロール23によって基体9に圧着させる。これにより、基体9に形成された金属メッキ膜8が樹脂フィルム25上で保持されているセラミックグリーンシート26の主面に転写される。巻き取り部24は、加圧ロール23を通過して金属メッキ膜8が転写された樹脂フィルム25を巻き取る。
このような実施形態においても、先の実施形態と全く同様の効果が得られる。
またこの場合、メッキ膜形成装置に用いられる基体9のマスク層7をDLCやGLC等により形成しておけば、セラミックグリーンシート26がマスク層7の表面に付着することは殆どないため、安定した転写を繰り返すことができる。
−製造方法の変形例3−
次に電子部品の製造方法の他の実施形態について図7を用いて説明する。
いままでの方法では、金属メッキ膜8が転写された樹脂フィルム上の、金属メッキ膜8が存在しない部分には、何も膜が形成されていなかった。このため、樹脂フィルム上に金属メッキ膜8が形成されている部分と何も形成されていない部分には、段差が生じていた。
図7は、基体9から金属メッキ膜8が転写された、粘着層21を有する樹脂フィルム20に対して、金属メッキ膜8の存在しない部分に、段差を埋めるための薄い誘電体シート43を形成する方法を説明するための断面図である。
樹脂フィルム20の送給途中には、樹脂フィルム20を表裏から加圧するための一対のローラ40,41が配置されている。樹脂フィルム20の金属メッキ膜8が形成された主面に接するローラ40には、金属メッキ膜8と略等しい厚みの誘電体シート43が支持された樹脂フィルム42が送られてくる。誘電体シート43は、セラミックグリーンシートであることが好ましい。
誘電体シート43は、ローラ40の圧力によって、樹脂フィルム20の一主面に押圧される。このとき、誘電体シート43を、金属メッキ膜8の存在する部位と存在しない部位の双方に対して押圧することにより、金属メッキ膜8のエッジの切断力を利用して、樹脂フィルム20の一主面のうち金属メッキ膜8の存在しない部位にのみ誘電体シート43を選択的に付着させることができる。
このようにして、樹脂フィルム20の上に、誘電体シート43が埋設された平らな金属メッキ膜8を得ることができる。この誘電体シート43が埋設された平らな金属メッキ膜8の上に、図2や図5で説明したセラミックグリーンシート転写手段を用いて、セラミックグリーンシート26を転写する。
このような方法においても、先に述べた実施形態と全く同様の効果が得られることに加え、金属メッキ膜8とセラミックグリーンシート26と間に大きな隙間ができることがない。したがって、これを樹脂フィルム20より剥離させた上、複数枚積層することにより、これを熱処理して積層型電子部品を製作しても、デラミネーションや電極の湾曲による電気不良が生じるのを有効に防止することができ、信頼性及び生産性に優れたセラミック電子部品が得られる。
−製造方法の変形例4−
次に電子部品の製造方法の他の実施形態について図8を用いて説明する。
本実施形態が今までの実施形態と異なる点は、金属メッキ膜8をセラミックグリーンシート26の内部に埋設させて形成するようにした点である。
この製造方法は、図8の拡大図に示すように、金属メッキ膜8が転写された樹脂フィルム20の主面に、ノズル32から、金属メッキ膜8を覆うようにしてセラミックスラリ31を塗布し、これを加熱器33を用いて乾燥させ、金属メッキ膜8が埋設されたセラミックグリーンシート26を得る。
得られた、金属メッキ膜8が埋設されたセラミックグリーンシート26を複数枚積層することによりセラミックグリーンシート26の積層体が形成され、これを図示しない加熱炉の中で熱処理することによって積層型電子部品が製作される。
このような実施形態においても、先に述べた実施形態と全く同様の効果が得られることに加え、上述のようにして得られるセラミックグリーンシート26には、金属メッキ膜の存在する部位と存在しない部位との間に大きな段差が存在ないため、これのようなセラミックグリーンシート26を複数枚積層して積層体を形成しても、その内部に埋設される金属メッキ膜の変形は有効に抑制され、電気的不良やデラミネーションの発生が有効に防止される利点もある。
−メッキ膜形成装置の変形例1−
次に本発明の他の実施形態に係るメッキ膜形成装置について図9を用いて説明する。
本実施形態の特徴は、メッキ槽18が、陽極として機能する高電位領域18Aと、陰極として機能する低電位領域18Bとに区画されている点である。
即ち、基体9に電源6Aの陰極を、メッキ槽18の高電位領域18Aに電源6Aの陽極を接続している。さらに、基体9に電源6Bの陽極を、メッキ槽18の低電位領域18Bに電源6Bの陰極を接続している。電源6Aの陰極と電源6Bの陽極とは共通に接続される。
マスク層7の存在しない基体9の表面に金属メッキ膜8を析出させた後、電源6Bの逆の電位を用いて、一旦形成された金属メッキ膜8の表面部分、特に金属メッキ膜8と基体9及びマスク層7との接触部分を、メッキ液19中で再溶解させる。このことにより、金属メッキ膜8と基体9及びマスク層7との間に微小な隙間が生じて、金属メッキ膜8の剥離性が向上し、被転写材への転写の精度を上げることができる。
上述したメッキ槽18は、例えばその中央部に塩化ビニルなどからなる絶縁部材16Aを介在させることで、高電位領域18Aと低電位領域18Bとを電気的に分離させる。絶縁部材16Aとしては、上述の塩化ビニル以外にもポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。その比抵抗値は、両領域で金属メッキ膜8の析出・再溶解を適切に行えるように十分な絶縁性を保つため、1000Ωm以上の材料を用いることが好ましい。また絶縁部材16Aは、耐薬品性を有する材料であることが好ましく、特に耐酸性の性質を有するものが好ましい。
また、メッキ槽18と基体9との間で、前記絶縁部材16Aの上に、基体9表面との間に所定の間隔をあけて、各領域に対応するメッキ液同士を互いに隔離するための隔壁部材16Bを形成してもよい。この隔壁部材16Bで各領域に対応するメッキ液同士を互いに隔離することにより、両領域に対応する電界が互いに干渉することがないので、各々の領域におけるメッキ液の析出・再溶解をより適切に行うことができる。
前記絶縁部材16A及び前記隔壁部材16Bは、同一の材料により絶縁隔壁材料16として一体的に形成しても良い。この絶縁隔壁材料16は、後述する循環装置15の一部であるメッキ液供給口として用いることもできる。この場合には、絶縁隔壁材料16は中空で、且つメッキ槽18中のメッキ液19側にメッキ液を供給するための開口部を有するように構成すればよい。
なお、絶縁隔壁部材16を複数設けることにより、メッキ槽18の領域をさらに細かく区画するようにしても良い。このようにすることで、複数の電界を目的に応じてより適切に制御することができ、所望の金属メッキ膜を形成することが可能となる。
−メッキ膜形成装置の変形例2−
次に本発明の他の実施形態に係るメッキ膜形成装置について図10、図11を用いて説明する。
本実施形態が今までの実施形態と異なる点は、メッキ膜形成装置に使用される基体9の表面が、少なくとも表層部において、基体9の中核部に対して着脱可能に支持された複数のブロックに区画されている点である。
例えば、図10に示すように、基体9の表面側全面を覆うように絶縁材34を形成し、さらに絶縁材34上に複数の絶縁隔壁材35を所定の間隔で配置するとともに、絶縁材34上であって絶縁隔壁材35の間に、導電性膜6の上にマスク層7を形成したブロック部材36を、接着剤などを用いてはめ込むようにして基体9を構成している。
また、メッキ液19中で異なる位置に導電ローラ37A,37Bが設けられている。導電ローラ37A,37Bは、それぞれ電源装置6A、6Bを介して、メッキ槽18の高電位領域18A及び低電位領域18Bに接続されている。導電ローラ37Aに当接したブロック部材36は、メッキ槽18に対して正の高電位となり、導電ローラ37Bに当接したブロック部材36は、メッキ槽18に対して負の低電位となる。
また、図11に示すように、基体9の表層部のみならず中核部をも含めてブロック部材36として構成し、個々のブロック部材36は、基体9の中心部から表面へ向かって放射状に貫く絶縁隔壁材35を介するようにしても良い。
高電位領域18Aにおいて、マスク層7の存在しない基体9の表面に金属メッキ膜8を析出させた後、低電位領域18Bにおいて、逆の電位を用いて、一旦形成された金属メッキ膜8の表面部分、特に金属メッキ膜8と基体9及びマスク層7との接触部分を、メッキ液19中で再溶解させる。これにより、メッキ液19から引き上げた金属メッキ膜8は、金属メッキ膜8と基体9及びマスク層7との間に微小な隙間が生じて、金属メッキ膜8の剥離性が向上し、被転写材(樹脂フィルム)への転写の精度を上げることができる。
また、マスク層7などを、小さな表面積を有するブロック部材36に対して形成すればよいため、簡素な設備でブロック部材36にマスク層7などを作製することが可能となる。また、基体表面に形成されるマスク層7が部分的に摩耗した場合などに、当該ブロック部材のみの交換が可能となり、メンテナンス性にも優れるという利点がある。
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良等が可能である。
例えば、上述の実施形態においては、積層コンデンサを製造する場合を例にとって説明したが、積層コンデンサ以外の電子部品、例えば、インダクタ,フィルタ,回路基板等の他の電子部品を製造する場合においても本発明が適用可能であることは言うまでもない。