JP3790517B2 - 磁気ヘッド - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えばハードディスク装置などに搭載されるスライダを備えた磁気ヘッドに係り、記録媒体の始動に要する起動力を軽減させると同時に、前記スライダのトレーリング側端部に設けられている薄膜素子を記録媒体との接触などから保護できるようにした磁気ヘッドおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
図1(a)はハードディスクなどに搭載される磁気ヘッドを記録媒体との対向面を上向きにして示した平面図であり、図1(b)は図1(a)に示す磁気ヘッドのIb―Ib線の断面図、図1(c)は図1(a)に示す磁気ヘッドのIc―Ic線の断面図である。
【0003】
この磁気ヘッドHでは、ディスクの移動方向Xに対して上流側(イ)がリーディング側と呼ばれ、下流側(ロ)が、トレーリング側と呼ばれている。スライダ1は、セラミック材料などにより形成され、前記スライダ1のディスク対向部には、エアーグルーブ7の両側にレール部4,4が形成されている。図1(b)に示すように、前記レール部4,4の断面は凸形状となっており、最上段には磁気ヘッドHの静止時にディスクの記録面と接触する対向面(浮上面;ABS面)5,5が形成されている。なお、前記対向面5,5は所定の曲率のクラウン形状に加工されている。また、図1(c)に示すようにレール部4,4のリーディング側の端部には傾斜面6,6が形成されている。
【0004】
図1(a)および(c)に示すように、スライダ1のトレーリング側(ロ)端部2には薄膜素子3およびこの薄膜素子3を覆うための保護層8が設けられている。この薄膜素子3は、磁気抵抗効果を利用してハードディスクなどの記録媒体からの洩れ磁界を検出し磁気信号を読み取るMRヘッド(読み出しヘッド)と、コイルなどがパターン形成されたインダクティブヘッド(書き込みヘッド)とを有している。また、前記保護層8は、例えばアルミナ(Al2O3)などの非磁性のセラミック材料で形成されている。
【0005】
磁気ヘッドHのスライダ1は、ロードビームの先端に固定されたフレキシャに支持され、スライダ1は、板バネにより形成されたロードビームの弾性力により、ディスクに付勢されている。この磁気ヘッドHは、いわゆるCSS(コンタクト・スタート・ストップ)方式のハードディスク装置に使用され、ディスクが停止しているときは、前記弾性力によりスライダ1の対向面5,5がディスクの記録面に接触する。ディスクが始動すると、ディスクの移動方向(X方向)に沿ってスライダ1とディスク表面との間に空気流が導かれ、対向面5,5が空気流による浮上力を受けて、スライダ1がディスク表面から短い距離だけ浮上する。
【0006】
浮上姿勢では、リーディング側(イ)がトレーリング側(ロ)よりもディスク上に高く持ち上がる傾斜した浮上姿勢となる。この浮上姿勢にて、薄膜素子3のMRヘッドによりディスクからの磁気信号が検出され、あるいはインダクティブヘッドにより前記磁気信号が書き込まれる。
【0007】
CSS方式のハードディスク装置に設けられるディスク駆動用のモータでは、ディスクとスライダとが確実に摺動を開始できるだけの起動トルクが必要とされる。ディスクとスライダとの始動に必要な起動トルクが高くなると、ハードディスク装置に大型のモータを使用しなくてはならなくなり、機器の小型化を制限するとともに、消費電力が多くなるという問題がある。
【0008】
ディスクの始動に必要なトルクは、スライダ1の対向面5,5とディスク表面との静摩擦力に依存する。ディスクの起動に必要な起動トルクを低下させるにはこの静摩擦力を低下させる必要がある。
【0009】
従来の記録媒体としてのハードディスクでは、ディスク表面の凹凸が比較的粗かったため、スライダ1の対向面5,5が比較的平滑な面であっても、ディスクの表面と前記対向面5,5との真実接触面積を小さくすることができ、その結果静摩擦力を小さくすることが可能であった。
【0010】
しかし、最近の高密度記録対応のハードディスクは、ディスク面が平滑になる傾向にある。その理由としては、まずハードディスクのディスク面を粗くすると、前記ディスク表面に凸部が不均一に突出しやすくなるため、磁気ヘッドが浮上姿勢で磁気記録・再生が行われているときに、スライダ1がディスク表面上の前記凸部に衝突しディスク表面を傷つける恐れがあるからである。また、スライダ1がディスク表面の凸部に衝突・接触を頻繁に起すと、スライダ1の端面2に取付けられている薄膜素子3を傷つけ、記録・再生性能が劣化するばかりか、スライダ1とディスク表面との衝突・接触により熱が発生し、再生出力にノイズが入るという問題も起こる。また、特に高密度記録を行なうハードディスクでは、薄膜素子3とディスク表面とのスペーシングを小さくする必要があるため、ディスク面に不規則な凸部が形成されるのを避ける必要がある。以上から高密度記録用のハードディスクでは、ディスク面が鏡面に近い平滑面となる傾向にある。
【0011】
このように、ハードディスクのディスク表面が平滑な面になると、前述した問題点を解決することができるが、ディスク表面およびスライダ1の対向面5,5が共に平滑な面であると、ハードディスク装置の停止時において、ディスク表面に塗布された潤滑剤や水膜がディスクとスライダ1との間に介在し、スライダ1がディスクに対して吸着された状態となる。このため、ディスクを起動するときに静摩擦力が増大し、ディスクを始動させるためには、非常に大きな起動トルクが必要となる。
【0012】
したがって、ディスク面が平滑な高密度記録対応のハードディスク用のディスク装置では、スライダ1の対向面5,5を粗くし、対向面5,5とディスク面との真実接触面積を小さくする必要がある。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
従来では、スライダ1の対向面5,5を粗くする方法として、例えば前記対向面5,5上に化学的エッチング処理やスパッタリング処理を施すことにより、前記対向面5,5に突起部を形成するテクチャリング加工と呼ばれる方法が知られている。
【0014】
しかし、このような方法では、化学的エッチングにより薄膜素子3が損傷しやすく、素子リセスが大きくなりやすい。素子リセスが大きくなると薄膜素子3とディスク面とのスペーシングロスが増加し、信号の書き込み効率の低下や、読み出し感度の低下を招く。または薄膜素子3を破壊し、正常な読み取りと書き込みができなくなる場合もある。
【0015】
また、前述したテクチャリング加工では、薄膜素子3の周囲に、前記薄膜素子3を傷つけずに突起部を形成することは難しい。このため、薄膜素子3の周囲には突起部が形成されておらず、従ってハードディスクの停止時に、薄膜素子3がディスク表面と直接接触し、ハードディスクが摺動し始めると、前記薄膜素子3に傷がつきやすく、摩耗しやすくなっていた。
【0016】
さらに、テクチャリング加工は、工程が複雑で且つ工程数が多く、また前記テクチャリング加工に用いられる処理設備は非常に高価なものとなっている。
【0017】
本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、レーザを用いることによって容易にスライダの対向面に突起部を形成できるようにし、特に薄膜素子3の周辺に前記薄膜素子3を傷つけることなく突起部を形成できるようにした磁気ヘッドおよびその製造方法を提供することを目的としている。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明は、記録媒体が停止しているときに記録媒体表面に接触し、記録媒体の始動後は記録媒体表面の空気流による浮上力を受けてリーディング側端部が浮上し、トレーリング側端部が記録媒体上に摺動する浮上姿勢となるスライダと、前記スライダのトレーリング側端部に設けられた磁気記録用と再生用の少なくとも一方の薄膜素子と、この薄膜素子を覆う保護層とが設けられて成る磁気ヘッドにおいて、
前記保護層の記録媒体との対向面のうちトレーリング側端部付近であって、前記薄膜素子の周囲のトレーリング側に、前記薄膜素子の記録媒体と対向する表面から突出する突起部が形成されているとともに、前記スライダの記録媒体との対向面のうちトレーリング側端部付近であって、前記薄膜素子の周囲のリーディング側に、前記薄膜素子の記録媒体と対向する表面から突出する突起部が形成されていることを特徴とするものである。
【0020】
さらに、前記保護層および前記対向面に形成された突起部は、その平均高さが5〜50nmで形成されていることが好ましい。
【0021】
なお、前記保護層および前記対向面には硬質炭素薄膜が成膜されていることが好ましく、前記硬質炭素膜は、その膜厚が5〜15nmで成膜されるとさらに好ましい。
【0022】
本発明において、前記スライダは、Al2O3(アルミナ)の結晶粒と、TiC(チタンカーバイト)の結晶粒とが混合されたアルミナ・チタンカーバイト、またはSi(シリコン)を使用することができる。
【0023】
本発明では、薄膜素子の周囲のトレーリング側、及びリーディング側に前記薄膜素子の記録媒体と対向する表面から突出する突起部を形成しており、従って前記薄膜素子がディスク表面と直接接触しないようになっている。このため、スライダとディスク表面が摺動を繰り返しても、前記薄膜素子は突起部に保護され、前記薄膜素子が破損するなどの問題が起こりにくい。
【0024】
また本発明では、研磨加工が施されたスライダの対向面および保護層にレーザ光を照射させることにより、突起部を形成している。レーザを使用すれば、容易に突起部を形成でき、しかも任意の場所に突起部を形成しやすい。このため薄膜素子の周囲に前記薄膜素子を傷つけることなく容易に突起部を形成できる。またレーザ加工の間、スライダの対向面および薄膜素子の周囲に機械的応力や熱的応力がかかることもないため、クラックおよび接合部分の歪みなどが発生することもない。またレーザの種類、あるいはレーザ光の出力を適正に選択することにより、突起部の形状、および前記突起部の平均高さを任意に変えることができる。
【0025】
なお、前記スライダは、浮上姿勢において、薄膜素子が設けられているトレーリング側端部が記録媒体上に浮上または摺動するが、この摺動は連続的なものであってもよいし、不連続なものであってもよい。
【0026】
【発明の実施の形態】
図1(a)はハードディスクなどに搭載される磁気ヘッドを記録媒体との対向面を上向きにして示した本発明の第1の実施形態を示す平面図であり、図1(b)は図1(a)に示す磁気ヘッドのIb―Ib線の断面図である。また図1(c)は、図1(a)に示す磁気ヘッドのIc―Ic線の断面図である。
【0027】
図1に示した磁気ヘッドHのスライダ1はセラミック材料により形成されており、記録媒体であるハードディスクとの対向部にエアーグルーブ7が形成され、その両側にレール部4,4が形成されている。
【0028】
本発明では前記スライダ1を形成するセラミック材料に、Al2O3(アルミナ)の結晶粒と、TiC(チタンカーバイト)の結晶粒とが混合されたアルミナ・チタンカーバイト、またはSi(シリコン)を例示することができる。
【0029】
アルミナ・チタンカーバイトは、耐摩耗性・切削性に優れており、シリコンは微細加工に適している。
【0030】
また上述した2種類のセラミック材料以外に、Al2O3,Al2O3−TiO3,CeO2―ZrO2,Y2O3−ZrO2,TiC,SiC,WC,Si3N4,AlNで形成されてもよく、これらのセラミック材料は耐摩耗性、耐熱性に優れたものである。
【0031】
なお、本発明では、前述したセラミック材料を単体で、または2種類以上の化合物で使用してもよい。
【0032】
前記レール部4,4の断面は、図1(b)に示すように凸型形状となっており、前記レール部4,4の最上段の表面には対向面(浮上面;ABS面)5,5が形成されている。この対向面5,5は所定の曲率のクラウン形状に形成されており、前記対向面5,5表面には多数の突起部がレーザにより形成されている。
【0033】
また、スライダ1のトレーリング側(ロ)の端面(端部)2には、薄膜素子3が設けられており、この薄膜素子3は、図1(a)および図1(c)に示すように、記録媒体と対向する表面以外の面を、例えばアルミナ(Al2O3)などのセラミック材料による保護層8で覆われている。この保護層8にも前記対向面5,5と同じようにレーザにより多数の突起部が形成されている。
【0034】
前記薄膜素子3は、磁性材料のパーマロイ(Ni−Fe系合金)や絶縁材料のアルミナなどが積層されたものであり、ディスクに記録された磁気記録信号を再生する磁気検出部、またはディスクに磁気信号を記録する磁気記録部、あるいは磁気検出部と磁気記録部の双方を含むものである。磁気記録部は例えば磁気抵抗硬化素子(MR素子)により構成されたMRヘッドである。また磁気検出部は、コイルとコアがパターン形成されたインダクティブヘッドにより構成される。
【0035】
図1に示した磁気ヘッドHは、ロードビームの先部に設けられたフレキシャにスライダ1が支持される。スライダ1が所定の力により記録媒体であるハードディスクに付勢される。
【0036】
また、この磁気ヘッドはCSS方式のハードディスク装置(磁気記録再生装置)に使用される。ディスクが停止しているときには、スライダ1の対向面5,5が、スライダ表面に接触する。ディスクが図1に示すX方向へ移動すると、スライダ1とディスクとの間に導かれる空気流により、スライダ1全体がディスク表面から浮上し、リーディング側(イ)がトレーリング側(ロ)よりもディスク上に高く持ち上がる浮上姿勢となるか、あるいはリーディング側(ロ)のみがディスク表面から浮上し、トレーリング側(ロ)端部がディスク表面に連続または不連続に接触して摺動する浮上姿勢となる。
【0037】
本発明では、前述したようにスライダ1の対向面5,5および保護層8に多数の突起部がレーザにより形成されている。レーザの種類などについては後で詳述するが、レーザによる突起部の形成は非常に簡単で、工程数も少なくて済み、しかもほぼ正確に任意の位置に突起部を形成できる。このため、保護層8など薄膜素子3に非常に近い位置に前記薄膜素子3を傷つけることなく突起部を形成できる。また、レーザ処理の間、スライダ1に機械的応力や熱的応力がかかることもないため、クラックの発生および接合部分の歪みなどが発生しない。
【0038】
レーザにより対向面5,5および保護層8に形成された突起部のうち、薄膜素子3の周辺に形成された突起部の形状および形成位置について図2を用いて説明する。なお、薄膜素子3の周辺以外に形成された突起部も図2に示す突起部と同様の形状で形成されている。
【0039】
図2は図1のIIの範囲内に形成された突起部を示した拡大平面図である。
図2(a)では、対向面5のトレーリング側端面2付近に突起部10が形成されている。この突起部10は図3(a)または図3(b)に示すような形状となっている。図2(b)では、保護層8にも突起部10が形成されている。また、図2(c)では、対向面5のトレーリング側端面2付近および薄膜素子3の両側に突起部10が形成されている。なお、本発明では突起部10の個数や位置に関して何ら限定を与えるものではない。ただし、薄膜素子3の周辺部(保護層8や対向面5のトレーリング側(ロ)端面2付近)にできるだけ多くの突起部を形成することが好ましい。
【0040】
図2(a)に示すように、薄膜素子3のリーディング側(例えば対向面5のトレーリング側(ロ)端面2付近)に突起部10が形成されると、ディスク上のゴミ等(コンタミネーション)が薄膜素子3に接触するのを防止でき、薄膜素子3の機能が低下したりする恐れがない。また図2(c)に示すように薄膜素子3の両側に突起部10が形成されると、磁気ヘッドのトラック間移動時に、ディスク上のゴミ等が薄膜素子3に接触するのを防止でき、薄膜素子3の機能が低下したりする恐れがない。
【0041】
また本発明では、突起部10の形状を図2(a)ないし(c)に示す形状に限定するものではなく、例えば図2(d)に示すように、突起部11が壁形状に形成されていてもよい。このようにレーザを用いれば薄膜素子3の周辺部に前記薄膜素子3を傷つけることなく突起部を形成でき、またどの様な形状の突起部でも容易に形成できる。
【0042】
また、対向面5,5および保護層8に形成された突起部は、その平均高さが5〜50nmの範囲内で形成されることが好ましい。突起部の平均高さが5nm以下であると、スライダ1の対向面5,5とディスク表面との真実接触面積が大きくなり、起動トルクが増大する。また、突起部の平均高さが50nm以上であると、スペーシングが大きくなり、記録密度を高めることができなくなる。なお、後で詳述するが、本発明で使用されるレーザを使用して突起部を形成すれば、前記突起部の平均高さを5〜50nmの範囲内で形成できることが確認された。
【0043】
また、保護層8や対向面5のトレーリング側(ロ)端面2付近(薄膜素子3の周辺部)に形成される突起部を、トレーリング側(ロ)端面2付近以外の対向面5,5に形成される突起部よりも密に形成することが好ましい。
【0044】
保護層8や対向面5のトレーリング側(ロ)端面2付近に形成される突起部はディスクとの接触・摺動頻度も高く、よって前記突起部は摩耗しやすくなっている。よって保護層8や対向面5のトレーリング側(ロ)端面2付近の突起部が密に形成されると、個々の突起部に加わる面圧力を低下させることができ、摩耗の発生を抑えることができる。ただし、トレーリング側(ロ)端面2付近以外の対向面5,5の突起部まで密に形成されると、CSS時の起動トルクが大きくなってしまう。従って保護層8や対向面5のトレーリング側(ロ)端面2付近の突起部のみが密に形成されれば、CSS時の起動トルクを減少でき、且つ耐摩耗性に優れた磁気ヘッドを製造できる。
【0045】
本発明では、薄膜素子3の周辺部および対向面5,5全体に突起部が形成されているため、ディスク表面に塗布されている潤滑油および水膜による吸着を防止することができる。よってディスクを始動させるための起動トルクを小さくすることが可能となる。また、特に薄膜素子3の周辺部に突起部が形成されることにより、前記薄膜素子3がディスク面との直接的な接触を回避できるものとなっている。このため、スライダ1とディスク表面が摺動を繰り返しても、薄膜素子3に傷がついたり、また前記薄膜素子3が摩耗したりすることがない。
【0046】
なお、対向面5,5および保護層8に硬質炭素膜が被覆形成されることが好ましく、これにより対向面5,5および保護層8に形成された突起部がディスク表面に接触しても摩耗しにくいものとなる。なお、前記硬質炭素膜の膜厚は5〜15nm程度であることが好ましい。
【0047】
次に本発明に使用されるレーザについて詳述する。
使用するレーザ装置としては、量産性に優れ、且つ突起部を適正な寸法で形成しやすいものとして、本発明ではNb−YAGレーザを例示できる。前記Nb−YAGレーザのレーザ光としては4次高調波(266nm)または2次高調波を使用することが好ましい。4次高調波および2次高調波は波長が短く、また4次高調波および2次高調波をレーザ光として使用すれば、高精度な加工を期待できる。
【0048】
また、Nb―YAGレーザ以外のレーザとしてAr,Kr,Xe,ArF,KrFなどのガスによるエキシマレーザ(波長は120〜400nm)を使用してもよい。前記エキシマレーザは高エネルギーでしかも単一組成のセラミック材料にも適正に突起部が形成できる。
【0049】
前述したレーザを用いて突起部を形成するには、予め研磨加工されたスライダ1の対向面5,5および保護層8の所定の位置に、レーザのレーザ光を照射させればよい。レーザ光が照射された場所が、盛り上がって突起部が形成される。なお、対向面5,5および保護層8は、レーザ光を照射する前に、その中心線平均粗さ(Ra)が3nm以下となるように研磨加工されることが好ましい。
【0050】
また、突起部をスライダ1の対向面5,5および保護層8に形成した後に、膜厚が5〜15nmの硬質炭素膜を被覆形成することがより好ましい。
【0051】
次に、前述したNb−YAGレーザおよびエキシマレーザを使用して実際に突起部を形成し、この突起部の形状および寸法を測定した。
【0052】
(実験1:Nb−YAGレーザによる加工)
スライダ1をアルミナ・チタンカーバイトで形成し、前記スライダ1の対向面5,5を中心線粗さ(Ra)が3nm以下となるように研磨加工した。
【0053】
次にNb―YAGレーザの4次高調波を出力1.5mW,2mW,3mwと変化させて前記対向面5,5にレーザを照射し、各出力に対して10個の突起部を形成した。
【0054】
この突起部をレーザ干渉による表面形状測定装置で測定したところ、出力が1.5mWの場合、前記突起部は図3(a)に示すような形状であり、出力が2mW,3mWの場合、突起部は図3(b)に示すような形状であった。また各突起部の高さ寸法h、幅寸法w、および深さ寸法dを測定し、その結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表に示すように出力が1.5mWの場合の突起部の平均高さは約25nmであり、出力2mWの場合の突起部の平均高さは約33nm、出力3mWの場合の平均高さは約41nmであった。このように、出力を変化させることにより、突起部の形状を変化させることができ、また出力を大きくすることにより、平均高さを高くできることがわかった。
【0057】
また、突起部とその周辺をEPMAによって化学分析したところ、突起部にはTiが多く含まれており、周辺部にはAlが多く含まれていた。これによりアルミナ・チタンカーバイトの場合、TiCが主に突起部を形成していることがわかった。
【0058】
(実験2:エキシマレーザによる加工)
ガスをKrFとしたエキシマレーザ(波長:248nm)を使用して、アルミナ・チタンカーバイトで形成されたスライダ1の対向面5,5に複数の突起部を形成した。
【0059】
突起部をレーザ干渉による表面形状測定装置で測定したところ、高さの平均値は16nmであり、また高さの最高値は25nm、最低値は11nmであった。
【0060】
また、EPMAにより突起部とその周辺を化学分析したところ、突起部にはTiが多く含まれており、周辺部にはAlが多く含まれていた。よってアルミナ・チタンカーバイトの場合、TiCが主に突起部を形成していることがわかった。
【0061】
このように、Nb−YAGレーザおよびエキシマレーザを使用して突起部を形成すれば、少なくとも前記突起部の平均高さを5〜50nmの範囲内で形成でき、またNb−YAGレーザのレーザ光の出力を変化させることにより、任意に突起部の形状および平均高さを変られることがわかった。
【0062】
次に、前述したレーザを使用して突起部を形成する第2の形成方法を以下に説明する。
【0063】
まず、研磨加工が施されたスライダ1の対向面5,5上に熱硬化性樹脂を塗布する。なお、前記熱硬化樹脂の膜厚が突起部の膜厚となるので、前記熱硬化性樹脂の膜厚を5〜50nm程度にしておくことが好ましい。
【0064】
次に、前述したレーザのレーザ光を所定の場所に照射させ、照射された熱硬化性樹脂を硬化させる。そして、硬化されていない熱硬化性樹脂をエッチングで除去する。なお、熱硬化性樹脂に代えてフォトレジストを使用してもよい。
【0065】
このような方法でも容易に、しかも任意の場所に突起部を形成できる。
図4(a)は、本発明の第2の実施の形態を示す磁気ヘッドHであり、記録媒体との対向面を上向きにして示した平面図である。なお、図4(b)は図4(a)に示す磁気ヘッドの右側側面図である。
【0066】
図に示すようにスライダ1の対向面5は、図1に示す対向面5,5のように完全に2つに分離されておらず、リーディング側(イ)で繋がっている。
【0067】
また図4に示す磁気ヘッドHは、図1に示す磁気ヘッドHと同様に、対向面5および薄膜素子3の周辺部にはレーザにより突起部が形成されているため、前記薄膜素子3とディスク表面との直接の接触を回避でき、また対向面5とディスク表面との静摩擦力を小さくでき、ディスクの始動時に必要な起動トルクを低減させることができる。
【0068】
また、図4に示す磁気ヘッドHは、図1に示す磁気ヘッドよりも浮上姿勢が安定しているため、スペーシングを小さくでき、高密度記録化により対応可能な磁気ヘッドHとなっている。
【0069】
【実施例】
以下にスライダを備えた磁気ヘッドの実施例について説明する。
【0070】
まず、図1に示す形状で、スライダ1の対向面5,5に平均高さが30nmで、径が4μmからなる突起部10をレーザにより複数形成し、且つ前記対向面5,5に10nm程度の硬質炭素膜を被覆形成して成る磁気ヘッドを製作した。そしてこの磁気ヘッドをハードディスク装置に組み込み、CSS(コンタクト・スタート・ストップ)方式により前記ハードディスク装置を起動させ、その時の起動トルクを測定した。
【0071】
図5はCSS回数と起動トルクとの関係を示すグラフである。なお、起動トルクの25(g.f)に点線のラインが引かれているが、このラインは定格トルクを示しておりこのラインよりも大きい起動トルクを必要とする場合は、ハードディスク装置が作動しないなどの不具合が生じやすくなる。
【0072】
図に示すようにCSS回数が増加しても起動トルクは4(g.f)程度からほとんど変動していない。このように起動トルクが4(g.f)程度の小さい値となっているのは、対向面5,5に突起部を形成することによりスライダ1とディスク表面との真実接触面積が小さくなっているためである。また、CSS回数を増やしてもほぼ一定の起動トルクを維持できるのは、対向面5,5に硬質炭素膜を被覆形成することにより、対向面5,5に形成された突起部がディスク表面と摺動を繰り返しても摩耗しにくくなっているからである。
【0073】
次に、図1に示す形状で、スライダ1の対向面5,5にレーザにより形成された突起部の径を5μm、突起部間の間隔を30μmで統一し、突起部の平均高さが異なる磁気ヘッドをそれぞれ製作した。そしてこれら磁気ヘッドをハードディスク装置に取り込み、前記ハードディスク装置を3万回起動させた後の必要な起動トルクについて測定した。
【0074】
図6は、突起部の平均高さと起動トルクとの関係を示すグラフである。
図に示すように突起部の平均高さが大きくなるほど、起動トルクは小さくなっている。この実験結果により突起部の平均高さを5nm以上とすると起動トルクを小さくできることが確認された。
【0075】
これは、突起部の平均高さを大きくすれば、対向面5,5とディスク表面との真実接触面積を小さくでき、その結果静摩擦力が小さくなっているからであると考えられる。
【0076】
次に、図1に示す形状で、スライダ1の対向面5,5に平均高さが30nmで、径が4μmからなる突起部10をレーザにより複数形成し、且つ前記対向面5に10nm程度の硬質炭素膜を被覆形成して成る磁気ヘッドを製作した。この時の素子リセスは5nmであった。なお、ディスク表面にも前記対向面5,5と同様に10nmの膜厚の硬質炭素膜を被覆形成した。
【0077】
そして前述の磁気ヘッドをハードディスク装置に組み込み、スペーシングを変化させながら、パルス信号の幅寸法を測定した。
【0078】
図7は、スペーシングとPW50との関係を示すグラフである。なお、PW50とは、パルス信号の1/2の高さの幅寸法のことである。
【0079】
図に示すように、スペーシングが大きくなるほど、PW50が大きくなっていることがわかる。つまり、スペーシングが大きいほど、パルス信号の幅寸法は大きくなり、従って記録密度が低下する。このため、スペーシングはできるだけ小さいことが好ましく、特に1平方インチ当り1G(ギガ)バイトの記録信号を得るには、PW50を0.38μm以下、つまりスペーシングを75nm以下にすることが好ましい。
【0080】
ところで、対向面5,5に形成された突起部の平均高さはスペーシングから対向面5,5およびディスク表面に被覆形成された硬質炭素膜の膜厚(本実験では各10nm)と、素子リセス(本実験では5nm)を引いた値であるため、好ましい突起部の平均高さは50nm以下であることがわかる。
【0081】
なお、スライダ1のリーディング側(イ)のみがディスク表面から浮上し、トレーリング表面に連続または不連続に摺動する浮上姿勢の場合であっても、本発明では、突起部の高さや硬質炭素膜の膜厚により、スライダ1とディスク表面には常に一定の隙間が保たれており、従って磁気ヘッドの出力を安定にすることが可能である。
【0082】
以上のように、図6および図7より対向面5,5および保護層8に形成される突起部の平均高さは5〜50nmの範囲内であることが好ましいとわかった。
【0083】
【発明の効果】
以上詳述した本発明によれば、Nb−YAGレーザおよびエキシマレーザを用いることにより、容易に薄膜素子の周辺部に前記薄膜素子を傷つけることなく突起部を形成できる。従って前記薄膜素子がディスク表面に直接接触することがないため、前記薄膜素子が傷ついたりまたは摩耗したりすることがない。
【0084】
また、前述したレーザを使用することにより、少ない工程数で突起部を形成でき、しかも任意の場所に突起部を形成できる。さらに、レーザによる処理の間、スライダに機械的応力や熱的応力がかかることもないため、クラックの発生および接合部分の歪みなどが発生しない。さらに、レーザのレーザ光の種類やレーザ光の出力を変えることにより突起部の形状および前記突起部の平均高さを適正に調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は本発明の第1実施形態の磁気ヘッドをディスク対向面を上向きして示した平面図、(b)は(a)に示すIb―Ib線の断面図、(c)は(a)に示すIc―Ic線の断面図、
【図2】(a)〜(d)は図1に示す磁気ヘッドの薄膜素子付近に形成された突起部の形状および位置を示す平面図、
【図3】Nb―YAGレーザを使用し、このレーザのレーザ光を4次高調波で統一し、(a)は前記レーザ光の出力を1.5mWとしたときの突起部の形状を示す拡大正面図、(b)は前記レーザ光の出力を2mW,3mWとしたときの突起部の形状を示す拡大正面図、
【図4】(a)は本発明の第2実施形態の磁気ヘッドをディスク対向面を上向きにして示した平面図、(b)はその右側側面図、
【図5】図1の形状で、スライダの対向面に複数の突起部(平均高さ;30nm,径;4μm)が形成された磁気ヘッドのCSS回数と起動トルクとの関係を示すグラフ、
【図6】図1の形状で、スライダの対向面に形成された突起部(径;5μm,突起部の間隔;30μm)の平均高さが異なる磁気ヘッドを複数製造し、CSSを3万回行った後の突起部の平均高さと起動トルクとの関係を示すグラフ、
【図7】図1の形状で、スライダの対向面に複数の突起部(平均高さ;30μm,径;4μm)が形成された磁気ヘッドのスペーシングとPW50との関係を示すグラフ、
【符号の説明】
1 スライダ
2 (トレーリング側の)端面
3 薄膜素子
5 対向面
6 傾斜面
7 エアーグルーブ
8 保護層
10,11 突起部
Claims (6)
- 記録媒体が停止しているときに記録媒体表面に接触し、記録媒体の始動後は記録媒体表面の空気流による浮上力を受けてリーディング側端部が浮上し、トレーリング側端部が記録媒体上に摺動する浮上姿勢となるスライダと、前記スライダのトレーリング側端部に設けられた磁気記録用と再生用の少なくとも一方の薄膜素子と、この薄膜素子を覆う保護層とが設けられて成る磁気ヘッドにおいて、
前記保護層の記録媒体との対向面のうちトレーリング側端部付近であって、前記薄膜素子の周囲のトレーリング側に、前記薄膜素子の記録媒体と対向する表面から突出する突起部が形成されているとともに、前記スライダの記録媒体との対向面のうちトレーリング側端部付近であって、前記薄膜素子の周囲のリーディング側に、前記薄膜素子の記録媒体と対向する表面から突出する突起部が形成されていることを特徴とする磁気ヘッド。 - 前記突起部は、その平均高さが5〜50nmで形成されている請求項1記載の磁気ヘッド。
- 前記保護層および前記対向面には硬質炭素薄膜が成膜されている請求項1又は2に記載の磁気ヘッド。
- 前記硬質炭素膜は、その膜厚が5〜15nmで成膜される請求項3記載の磁気ヘッド。
- 前記スライダは、Al2O3(アルミナ)の結晶粒と、TiC(チタンカーバイト)の結晶粒とが混合されたアルミナ・チタンカーバイトにより形成されている請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の磁気ヘッド。
- 前記スライダは、Si(シリコン)により形成される請求項1ないし4のいずれかに記載の磁気ヘッド。
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