JP3782724B2 - 排ガス測定システム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、自動車のエンジンなどから排出される排ガス中に含まれる特定成分の質量を測定するように構成されている排ガス測定システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車のエンジン排ガスに含まれる炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOX )、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2 )等の各種の特定成分を測定する排ガス測定システムとして、従来より、シャシダイナモ装置に搭載された自動車に適宜の負荷を与え、走行モードにしたがって自動運転装置またはマニュアル操作によって走行させ、そのときに排出される排ガスを定容量サンプリング装置によって採取し、この採取されたサンプルガスを、測定原理の異なる複数のガス分析計を搭載したガス測定装置に供給して前記各特定成分をそれぞれ測定し、その測定結果を自動車排ガス測定データ処理装置において管理するようにしたものがある。
【0003】
ところで、近年においては、前記排ガスに含まれる特定成分は、総量で規制される傾向にあり、そのため、前記特定成分の濃度のみならず、その重量(質量)をも算出する必要がある。そこで、例えばNOX の排出量(質量)を求めるには、NOX 濃度を例えば化学発光分析計(CLD)などのようなNOX 計(濃度測定装置)を用いて測定するとともに、排ガスの流量を適宜の流量計を用いて測定し、これらNOX 濃度と排ガス流量とを乗算することにより、NOX の排出質量を得ることが行われている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来の手法においては、特定成分の濃度測定装置と排ガス流量計(排ガス流量測定装置)との応答遅れ時間の差を補正して前記乗算を行うようにしている。しかしながら、実際には、特定成分濃度や排ガス流量をそれぞれ測定する装置には、図6(A),(B)にそれぞれ示すように、応答なまりが存在している。すなわち、図6(A)は、真の濃度値(仮想線で示す)と濃度測定装置の出力g1 (t)を、同図(B)は、真の流量値(仮想線で示す)と流量計の出力g2 (t)を時系列でそれぞれ模式的に示している。このように、応答なまりを含む特定成分濃度と排ガス流量との積〔=g1 (t)・g2 (t)〕によって特定成分の質量を求める従来の手法では、過渡応答時、装置の応答遅れ時間の差によって同図(C)においてハッチング部cに示すような誤差が生じてしまう。
【0005】
この発明は、上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、特定成分の濃度と排ガスの流量とをリアルタイムに乗算することにより得られる特定成分の質量の連続値を精度よく求めることのできる排ガス測定システムを提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、この発明では、排ガス中に含まれる少なくとも1種の特定成分の濃度を測定する濃度測定装置と、前記排ガスの流量を測定する流量測定装置と、前記濃度測定装置により測定された濃度値と前記流量測定装置により測定された排ガス流量とを乗算して前記特定成分の質量をリアルタイムに連続算出する演算処理部とを備えている排ガス測定システムにおいて、前記演算処理部は、前記濃度測定装置および流量測定装置の応答関数をそれぞれ予め求めて保存する手段と、前記濃度測定装置の出力信号および前記流量測定装置の出力信号とこれらにそれぞれ対応する前記各応答関数をデコンボリューションして、測定対象特定成分の応答速度を持つ濃度を表す濃度測定装置への入力信号および測定対象特定成分の応答速度を持つ排ガス流量を表す流量測定装置への入力信号にそれぞれ戻し、これら戻した両入力信号を前記両測定装置の真の濃度値および真の排ガス流量値として両値を乗算し前記特定成分の質量を算出する手段とを有することを特徴としている。
【0007】
この発明の排ガス測定システムにおいては、特定成分の濃度を測定する濃度測定装置および排ガス流量を測定する流量測定装置の応答関数を予め求めて保存しておき、これら両測定装置のそれぞれの出力信号とこれらにそれぞれ対応する各応答関数をデコンボリューションすることによって、測定対象特定成分の応答速度を持つ濃度を表す入力信号および測定対象特定成分の応答速度を持つ排ガス流量を表す入力信号に戻すことが可能である。そして、それら本来の応答速度に戻された両各入力信号を前記両測定装置の真の濃度値および真の排ガス流量として両者の積を算出することによって、特定成分の排出質量を得ることができる。このように、この発明においては、各測定装置に対する応答速度を持つように戻された入力信号を真の特定成分濃度値及び真の排ガス流量値に見做して両値を乗算して特定成分の質量を算出するので、従来に比べて誤差を大幅に低減することができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の詳細を、図を参照しながら説明する。図1は、この発明の排ガス測定システムのハード構成の一例を示す。この図において、1は試験に供される自動車で、その駆動輪(例えば前輪)2がシャシダイナモメータ3のローラ4上に載置される。5は自動車自動運転装置の自動運転ロボット(メカユニットともいう)で、自動車1の運転席に適宜の手法によりセットされ、自動車自動運転装置の制御部(図示していない)からの信号によって制御される。6は自動車1の例えばディーゼルエンジン、7はエンジン6に連なる排気管、8は触媒である。
【0009】
9は前記排気管8に接続される排ガス流路で、その下流側には、定容量ガスサンプリング装置10の配管11が接続されている。この配管11の上流側には、希釈空気精製機12を備えた希釈空気供給路13が接続されており、エンジン6からの排ガスGが希釈用空気Aによって適宜希釈される。また、前記配管11の下流側には、メインベンチュリ14および吸引用ブロア15を備えるとともに、メインベンチュリ14のやや上流側に希釈された排ガスGの一部をサンプルガスSとして採取するためのサンプリングベンチュリ16を備えたガスサンプリング配管17が接続されており、定流量でサンプルガスSを採取するように構成されている。
【0010】
そして、18はガスサンプリング配管17によって採取されるサンプルガスS中の各種の特定成分の濃度を測定するためのガス分析装置(濃度測定装置の一例)で、測定原理の異なる複数のガス分析計を備えている。また、19はメインベンチュリ14からの信号によって希釈された排ガスGの流量を算出する方式の流量計(流量測定装置の一例)である。なお、この実施の形態では、エンジン6からの排ガスGが適宜希釈されるものであるので、前記流量信号は希釈前の値に換算して用いる必要がある。さらに、20は演算処理部としてのコンピュータで、前記ガス分析装置18により測定された特定成分濃度を表す出力信号および前記流量計19により測定された排ガスGの流量を表す出力信号が取り込まれる。これらの出力信号に基づいて後述する演算を行う。
【0011】
そして、この発明においては、特定成分の排出質量を求めるのに、特定成分濃度を表すガス分析装置18の出力信号と排ガスGの流量を表す流量計19の出力信号との積をそのまま求めるのではなく、以下のようにして前記ガス分析装置18の真の濃度値および前記流量計19の真の排ガス流量値を求め、それら両値を乗算することで、特定成分の排出質量とするのである。これは、排ガス測定システムにおいては、サンプリング部品やガス分析計に起因する応答なまりがあるため、出力信号の応答波形もその影響を受けて、本来の入力信号がなまったものとなっているからである。
【0012】
そこで、この発明では、ステップ入力に対する応答時間からガス分析装置18および流量計19それぞれの応答関数を求め、これら求めた応答関数とガス分析装置18および流量計19の出力信号をデコンボリューションして測定対象特定成分の応答速度を持つ濃度を表す入力信号および測定対象特定成分の応答速度を持つ排ガス流量を表す入力信号にそれぞれ戻し、これら戻した両入力信号を前記ガス分析装置18の真の濃度値および前記流量計19の真の排ガス流量値に見做して、これら両値を乗算した積を特定成分の排出質量とするのである。以下、信号処理について、図2〜図4を参照しながら説明する。
【0013】
図2は、排ガス測定システムにおける演算モデルを示すもので、測定システムへの入力信号をf(t)とし、出力信号をg(t)とし、応答関数をh(t)とする。一般に、入力信号f(t)、応答関数h(t)および出力信号g(t)の関係は、線形近似が成立する範囲では、下記式(1)で表される。この式(1)の関係は、コンボリューションと呼ばれる。なお、排ガス測定システムの場合は、1次応答で近似的に表されることが多い。
【0014】
【数1】
【0015】
まず、応答関数h(t)の求め方を説明する。今、入力信号f(t)を、下記式(2)で示す既知のステップ信号であるとする。
【0016】
【数2】
【0017】
前記式(1)よりステップ入力したときのステップ応答出力信号g(t)は、下記式(3)となる。
【0018】
【数3】
【0019】
前記式(3)の両辺を微分することにより、応答関数h(t)が求められる。つまり、ステップ入力に対する出力信号g(t)を微分したものが応答関数h(t)である。すなわち、
h(t)=g’(t) ……(4)
となる。
【0020】
ここで、前記式(1)をラプラス変換すると、排ガス測定システムの応答関数h(t)が1次である場合、時定数をτとすると、下記式(5)で表される。
G(s)=H(s)・F(s)
=1/(τs+1)・1/s
=1/s−τ/(τs+1) ……(5)
そして、G(s)の逆ラプラス変換より、g(t)は、下記式(6)となる。
g(t)=L-1[G(s)]
=1−exp(−t/τ) ……(6)
【0021】
前記式(6)で表されるg(t)を微分することにより、下記式(7)に示すような応答関数h(t)が得られ、さらに、これをラプラス変換することにより、下記式(8)が得られる。
h(t)=g’(t)=1/τ・exp(−t/τ) ……(7)
H(t)=L[h(t)]
=1/(τs+1) ……(8)
【0022】
次に、入力信号f(t)の求め方を説明する。前記式(5)の変形に式(8)を代入すると、下記式(9)が得られる。
F(s)=G(s)/H(s)
=(τs+1)・G(s) ……(9)
【0023】
そして、ラプラス変換の公式により、前記式(9)は、下記式(10)に示すように逆ラプラス変換することができる。
f(t)=L-1[F(s)]
=L-1[(τs+1)・G(s)]
=L-1[τs・G(s)]+L-1[G(s)]
=τg’(t)+g(t) ……(10)
【0024】
そして、現状の排ガス測定システムでは、データをディジタル信号の形で処理するのが一般的であるため、前記式(10)を離散化する必要がある。但し、サンプリング時間をT、ステップ入力に対する時定数をτとするとき、n個目のデータは、下記式(11)で表される。
f(t)=τ〔{g(nT)−g(n−1)T}/T〕+g(nT)
=(τ/T+1)・g(nT)−τ/T・g((n−1)T)
……(11)
【0025】
今、排ガス測定システムのガス分析装置18の応答速度(T90)を1.5秒とすると、応答関数h(t)の時定数τは0.652秒(=1.5/2.3)となる。そして、入力信号f(t)をステップ信号としたときの出力信号g(t)と応答関数h(t)は、図3に示すようになる。
【0026】
図4(A),(B),(C)は、それぞれ、上述した演算処理によって特定成分の本来の応答速度を持つ濃度を表す入力信号f1 (t)、特定成分の応答速度を持つ排ガス流量を表す入力信号f2 (t)に戻し、これら応答速度に戻した入力信号を前記ガス分析装置18の真の濃度値および前記流量計19の真の排ガス流量値として両値を乗算して算出される特定成分の質量を表す信号の時間的変化を模式的に示すもので、前記入力信号f1 (t),f2 (t)は、下記式(12),(13)によって与えられる。なお、同図(A),(B)における仮想線は、従来用いていた特定成分濃度測定装置の出力信号、排ガス流量計の出力信号をそれぞれ示している。
【0027】
【数4】
【0028】
上記図4から理解されるように、この発明の排ガス測定システムにおいては、特定成分の真の濃度を表す入力信号f1 (t)と真の排ガス流量を表す入力信号f2 (t)との積で特定成分の質量を求めるため、濃度測定装置18および流量計19それぞれの応答なまりおよびその差に起因する質量値の誤差を低減することができる。そして、前記各入力信号f1 (t),f2(t)は、それぞれ濃度測定装置18および流量計19の出力信号と応答関数とをデコンボリューションして濃度測定装置18および流量計19の応答速度に戻すようにしているので、従来の出力信号を用いるものより応答性に優れた質量測定を行うことができる。
【0029】
上述実施の形態においては、排ガスGの流量測定を、定容量ガスサンプリング装置10のメインベンチュリ14における流量信号に基づいて行うようにしているが、エンジン6に連なる排気管7またはこれに連なる排ガス流路9のいずれかに流量計を設け、希釈前の排ガスGの流量を測定するようにしてもよい。
【0030】
なお、上述実施の形態においては、排ガス測定システムの応答関数h(t)を1次としているが、2次、3次またはそれ以上であってもよい。
【0031】
そして、上記実施の形態においては、排ガスにおける特定成分測定を行うに際して、自動車1をシャシダイナモメータ3上に搭載して自動車自動運転装置によって所定の走行モードで走行させていたが、これに代えて、自動車1を実際の路面上を所定の走行モードで走行させるようにしてもよい。以下、この実施の形態を図5を参照しながら説明する。
【0032】
図5において、図1に示す符号と同じものは同一物または相当物である。21はガス分析装置で、この実施の形態では赤外線ガス分析装置よりなり、その分析出力は演算装置としてのコンピュータ20に入力される。このガス分析装置21には、排気管7において適宜の分岐接続部22を有するガスサンプリング流路23と、排気管7において適宜の合流接続部24を有する排出流路25とが接続されている。そして、分岐接続部22は、排気管7を流れてくるエンジン6からの排ガスGの一部を採取できるように構成されている。また、26はエンジン6の近傍に設けられる吸入空気流量センサで、その出力は流量計27を介してコンピュータ20に入力される。なお、28は路面である。
【0033】
上記構成においては、自動車1を実際の道路28上を走行させることにより、エンジン6から排ガスGが排出される。そして、前記ガス分析装置において、例えばCOおよび/またはCO2 の濃度が測定され、濃度を表す出力信号が得られる。また、エンジン6の近傍に設けた吸入空気流量センサ26の出力に基づいてエンジン6からの排ガスGの流量を表す出力信号を得ることができる。したがって、前記図5に示したものにおいても、上述した実施の形態と同様に、ガス分析装置21および流量計27の応答関数を予めそれぞれ求めて保存しておき、ガス分析装置21および流量計27の出力信号と前記各応答関数をデコンボリューションして、測定対象特定成分であるCOおよび/またはCO 2 の濃度を表す入力信号および排ガス流量を表す入力信号をそれぞれ求め、これらの入力信号を前記ガス分析装置21の真の濃度値および前記流量計27の真の排ガス流量値と見做して、これらを乗算することで、COおよび/またはCO2 の質量を得ることができる。
【0034】
なお、この発明は、上述の自動車エンジンの排ガスにおける特定成分の質量測定のみならず、工場のボイラーなどから排出されるガスにおける特定成分の質量測定にも適用することができる。
【0035】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明の排ガス測定システムにおいては、排ガス流量を測定する装置および特定成分の濃度を測定する装置の応答関数を予め求めて保存しておき、濃度測定装置の出力信号および流量測定装置の出力信号とこれらにそれぞれ対応する各応答関数をデコンボリューションすることによって、測定対象特定成分の応答速度を持つ濃度を表す入力信号および測定対象特定成分の応答速度を持つ排ガス流量を表す入力信号にそれぞれ戻し、これら戻した入力信号を前記両測定装置の真の濃度値および真の排ガス流量値と見做してこれら両値を乗算することにより、特定成分の排出質量を得るようにしており、各測定装置のそれぞれの入力信号の実際の挙動に着目して、真の特定成分濃度値と真の排ガス流量値を求めて特定成分の質量を算出しているので、従来に比べて誤差を大幅に低減することができ、精度の高い測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の排ガス測定システムのハード構成の一例を概略的に示す図である。
【図2】 前記排ガス測定システムにおける演算モデルの概略的に示す図である。
【図3】 入力信号をステップ信号としたときの出力信号および応答関数の一例を示す図である。
【図4】 前記排ガス測定システムにおける作用効果を説明するための図で、(A)は特定成分の濃度の入力信号の、(B)は排ガス流量の入力信号の、(C)は前記信号を互いに乗じて得られる特定成分の質量を表す信号のそれぞれの時間的変化を模式的に示す図である。
【図5】 この発明の排ガス測定システムのハード構成の他の例を概略的に示す図である。
【図6】 従来技術を説明するための図である。
【符号の説明】
18…特定成分の濃度測定装置、19…排ガス流量測定装置、f(t)…入力信号、g(t)…出力信号、h(t)…応答関数、G…排ガス。
Claims (2)
- 排ガス中に含まれる少なくとも1種の特定成分の濃度を測定する濃度測定装置と、前記排ガスの流量を測定する流量測定装置と、前記濃度測定装置により測定された濃度値と前記流量測定装置により測定された排ガス流量とを乗算して前記特定成分の質量をリアルタイムに連続算出する演算処理部とを備えている排ガス測定システムにおいて、前記演算処理部は、前記濃度測定装置および流量測定装置の応答関数をそれぞれ予め求めて保存する手段と、前記濃度測定装置の出力信号および前記流量測定装置の出力信号とこれらにそれぞれ対応する前記各応答関数をデコンボリューションして、測定対象特定成分の応答速度を持つ濃度を表す濃度測定装置への入力信号および測定対象特定成分の応答速度を持つ排ガス流量を表す流量測定装置への入力信号にそれぞれ戻し、これら戻した両入力信号を前記両測定装置の真の濃度値および真の排ガス流量値として両値を乗算し前記特定成分の質量を算出する手段とを有することを特徴とする排ガス測定システム。
- 前記濃度測定装置および流量測定装置の応答関数を1次応答で近似的に求めるように前記濃度測定装置及び前記流量測定装置を含む系が各別に構成されている請求項1に記載の排ガス測定システム。
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