JP3781577B2 - Rnaの抽出及び長期保存方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フェノール及びチオシアン酸グアニジンを含有するRNA抽出用薬剤を用いることを特徴とする、乳からのRNAの抽出及び長期保存方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
乳房炎とは、乳房内に侵入してきた病原性微生物により発症する乳房組織の炎症を指し、乳量の減少や罹患牛の淘汰など酪農、乳業にとって乳房炎によってもたらされる経済的損失は非常に大きい。乳房炎対策は早期発見、早期治療が原則であり、乳汁による診断法としては体細胞数の計測法、PLテストなどが一般的に用いられている。これらは乳房炎に罹患すると乳中の体細胞数が増加する現象や、乳汁のpHがアルカリ側に傾く現象を利用した測定法であるが、ともに個体間や泌乳期による変動が大きい因子であり、乳房炎の早期発見法としては不十分と考えられる。一般に、乳房炎乳は成分の変動が見られるが、特にカゼインについては減少が特徴的である。このことを利用し、過去に乳成分のカゼイン窒素量/総窒素量の値で乳房炎乳を判定する試みがなされたこともあるが、測定値のバラツキが大きく、正確な判定が困難であった。
【0003】
乳成分の変動は、様々な要因により発生するが、その一つとして乳房炎原因菌が乳管より乳房内に侵入して乳腺上皮細胞に付着することにより、乳腺上皮細胞における乳成分の合成が阻害されるという機構が考えられる。つまり、何らかの方法によって乳腺上皮細胞の乳成分合成能力の変化を測定することにより、乳房炎の早期発見が可能と考えられる。
近年、ポリメレース連鎖反応(PCR法:米国特許第4,683,195号及び4,683,202号)を利用した逆転写−ポリメレース連鎖反応(RT−PCR)法が、mRNAの転写量を高感度に検出する方法として用いられるようになり、この方法により細胞における発現タンパク質を高感度に定性的、定量的に測定することが可能となった。しかし、診断のために乳腺組織を切除してRNAを抽出することは産業動物である乳牛においては実質上不可能であり、生体を傷つけること無く乳腺上皮細胞のRNAを抽出する方法は過去に報告が無かった。このため、乳からRNAを抽出して検査に用いようとする試みがなされている。乳汁からRNAを抽出するためには、RNA分解酵素によるRNAの分解を最小限度に抑える必要があり、さらに細胞由来のRNAを抽出する場合は、乳汁中の乳腺上皮細胞数が他の細胞と比較して非常に少ないため、乳を遠心分離して細胞の沈殿を得た上でRNA抽出を行う必要がある。又、ケラチン遺伝子は上皮系の細胞でのみ特異的に発現する細胞骨格遺伝子であるが、様々な種類があり、種及び部位により発現するケラチン遺伝子の種類が異なるため、ウシ乳腺上皮細胞量の指標として用いるプライマーはウシ乳腺上皮細胞で発現するケラチンとハイブリダイズする必要があり、又、ケラチンの発現量は上皮細胞数と相関する必要がある。又、αS1−カゼインは4つの遺伝的変異体の存在が知られており、汎用性のある検出法のためには、何れのαS1−カゼイン変異体ともハイブリダイズするプライマーを用いる必要がある。
【0004】
このような状況に鑑み、本発明者らは乳汁からRNAを調製する方法、及び得られたRNAを用いた乳房炎の精度の高い検出法を鋭意研究した結果、乳汁を速やかに氷温まで冷却し、緩衝液にて希釈し遠心分離を行い、必要に応じこれを繰り返し、得られた細胞ペレットからRNAを抽出するという、乳汁中から乳腺上皮細胞由来のRNAを調製する方法を見出した。さらに、この方法により調製されたRNAを、細胞数と相関して発現するケラチン遺伝子の一部及びαS1−カゼイン遺伝子の一部を増幅するようにデザインされたそれぞれのプライマーを用いて、逆転写−ポリメレース連鎖反応(RT−PCR;Wang et al., Proc.Natl.Acad.Sci. USA, 86, pp9717-9721(1989) )法を行うという、乳から簡便、迅速、且つ高精度に乳房炎の検出を行う方法を見出した。
【0005】
このような方法を用いて乳房炎を検査する場合、乳からのDNA、あるいはRNAなどの分離操作が必要になる。従来、乳から核酸を分離するには、乳を遠心分離し上清を捨て、残った体細胞ペレットに核酸抽出試薬を加え、核酸を抽出している。しかし、この方法では生乳の遠心処理が必要であるため、遠心分離装置などの設備の無い場所において搾乳した場合、遠心分離装置などの設備のある場所に輸送する必要が生じる。又、乳中には核酸分解酵素が多量に存在するため、生乳の状態で長時間保持すると、体細胞中のDNAあるいはRNAが分解作用を受け、その後の試験結果を左右する可能性が生じる。さらに、核酸分解酵素の作用を抑制するために乳を凍結させると、体細胞が凍結融解によって破壊されるため、解凍後の核酸分解が懸念される。そこで、搾乳後の生乳を検査に用いるためには、搾乳後5時間以内のものでなければならなかった。又、細胞を得るために乳の希釈、あるいは遠心分離など操作が多く、それに伴い細胞に対する損傷なども起こるとともに、操作の煩雑性が問題であった。
【0006】
また、乳中の体細胞には乳腺上皮細胞以外に白血球などの血球細胞が多数含まれており、それらの細胞における炎症性因子の遺伝子発現を簡便に検出するための手段があれば、その発現レベルを測定することによって乳房炎などの疾病の診断に用いることも可能となる。さらに、近年体細胞クローン作出技術の急速な発展が見られ、良い形質の雌ウシの選別のために、遺伝子レベルでの判定を行なう必要性が増加すると考えられる。その際、乳中の体細胞から簡便にRNAを抽出し、カゼインなどの乳タンパク質の遺伝子発現レベルを検出することができれば、選別の判断基準を迅速、簡便に効率良く行うことも可能になる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
このような状況に鑑み、本発明者らは乳からRNAを抽出する方法及び長期保存するための方法を鋭意研究した結果、フェノール及びチオシアン酸グアニジンを含有するRNA抽出用薬剤を用いて乳からRNAを抽出することにより、乳から簡便且つ効率良くRNAを抽出し、さらに抽出されたRNAの長期保存を可能とすることを見出した。従って本発明は、フェノール及びチオシアン酸グアニジンを含有するRNA抽出薬剤を用いることを特徴とする、乳からのRNAの抽出及び長期保存方法を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、フェノール及びチオシアン酸グアニジンを含有するRNA抽出用薬剤を用いることを特徴とする、乳からのRNAの抽出及び長期保存方法に関する。この方法を用いることにより、乳から迅速、簡便に効率良くRNAを抽出し、さらに抽出されたRNAの長期保存を可能とする方法が提供される。本発明の方法は、特に乳の高感度検査のために用いるRNAを迅速、簡便に効率良く抽出し、さらに抽出されたRNAを長期保存できる方法として有用である。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明は、フェノール及びチオシアン酸グアニジンを含有するRNA抽出用薬剤を用いることを特徴とする、乳からのRNAの抽出及び長期保存方法に関する。本発明の乳からのRNAの抽出及び長期保存する方法は、サンプル乳にフェノール及びチオシアン酸グアニジンを含有するRNA抽出用薬剤を添加して乳を処理するのみである。この時、サンプル乳に対するフェノール及びチオシアン酸グアニジンを含有するRNA抽出用薬剤の量は、1:1〜1:5、特に1:3にするのが好ましい。この割合より低いとRNAを抽出することができなく、又高いとRNAが変性を受けてしまう。用いるフェノール及びチオシアン酸グアニジンを含有するRNA抽出用薬剤としては、特に限定されないが、特に好ましくはISOGEN−LS(ニッポンジーン社)あるいはRNAsol(テル・テスト社)が用いられる。このような薬剤で乳を処理することにより、迅速、簡便且つ効率良くRNAを抽出することができる。さらに、得られたRNAサンプルを速やかに−80℃に冷凍することにより、3日以上の長期保存が可能となる。この時、冷凍する方法としては特に限定されないが、例えばエタノールにドライアイスを加えて得られる冷エタノールを用いれば、サンプル乳を搾乳後、その場でフェノール及びチオシアン酸グアニジンを含有するRNA抽出用薬剤で処理しRNAを抽出し、すぐにその場で簡便に冷凍することができる。尚、RNA抽出用薬剤として本発明で示す組成以外にも様々なものが知られているが、これらを用いて乳からRNAを抽出及び冷凍保存すると、RNAが分解されてしまい試験用サンプルとして用いることができない。
得られたサンプルからRNAを調製するときは、有機溶媒を用いて遠心分離をするなど、常法により行うことができる。例えば、サンプル乳にクロロホルムを適量添加し、超遠心分離を行う。この時の遠心分離の条件は、通常行われるRNA抽出における超遠心分離の条件であれば特に限定されないが、4℃、回転数15,000RPM程度が好ましい。次に、遠心分離されたサンプルの上層を取り、その上層へ等量のイソプロピルアルコールを加え、混合後冷凍庫で保持し、RNAを析出させる。このサンプルを上記と同様の条件で超遠心分離(30分間)することにより、サンプル乳のRNA沈殿を得ることができる。この沈殿へ70%エタノールを適量添加し、再遠心してRNA純度を高めることにより、高純度のRNAを得ることができる。
このようにして得られたRNAは、例えば乳牛におけるタンパク質の発現レベルを確認するのに用いられ、これを利用して乳房炎などの診断、あるいはクローン動物を作成する際の選別に用いることができる。
【0010】
【実施例】
以下の実施例をもって本発明をより詳細に説明する。
【0011】
【実施例1】
乳からのRNAの抽出
泌乳ホルスタインより清潔なサンプリング容器に乳を2ml程度搾乳した。ピペットを用いてマイクロチューブに250μl量りとり、サンプル乳とした。このサンプル乳にISOGEN−LS(ニッポンジーン社)を750μl加え、良く混合した。混合液の状態で4℃、−20℃、及び−80℃で保存し、最大3日間保存した。毎日各々のサンプルにクロロホルムを100μl添加して激しく攪拌後室温で10分間保持し、15,000rpmで15分間遠心してRNA層である上層を採取した。採取した上層に等量のイソプロピルアルコールを加え、上下に反転して混合し、冷凍庫にて30分間保持してRNAを析出させた。その後、15,000rpmで30分間遠心してRNAの沈殿を得た。RNA沈殿に70%エタノールを1ml添加して15,000rpmで15分間遠心分離し、RNA沈殿の純度を高めた。得られたRNA沈殿を軽く風乾し、蒸留水を50μl添加して溶解し、RNA溶液とした。得られたRNA溶液について、分光光度計を用いて収量、純度の測定を行ない、保存せずにRNAを抽出した無保存区(コントロール)と比較した。その結果を表1に示す。
また、ケラチンとカゼインについてRT−PCRを行い、サンプルの評価も行なった。その結果を表2に示す。
【0012】
【表1】
【0013】
【表2】
【0014】
これらの結果より、RNAの収量にはバラツキが見られ、4℃保存区ではRNA分解によると思われる収量低下と純度低下が見られた。しかし、冷凍保存区では純度のバラツキはほとんど見られず、サンプル間の有意差は無かった。RT−PCRは、4℃保存区では反応が起こらず、RNAが分解されていることが示唆された。しかし、冷凍保存区では全てのサンプルについてRT−PCRを行なうことができ、カゼイン発現量/ケラチン発現量の値は全ての保存条件でコントロールである無保存のサンプルとほぼ同じ数値となった。ただし、−20℃で凍結保存した場合はRNAの部分的な分解に起因すると思われるRT−PCR結果の変化が生じ、サンプルとしての使用は−80℃保存が最も適切と考えられた。即ち、凍結時に−80℃にて急速に凍結させることにより、少なくとも3日間以上の長期保存が可能であることが明らかとなった。
【0015】
【発明の効果】
本発明により、フェノール及びチオシアン酸グアニジンを含有するRNA抽出用薬剤を用いることを特徴とする、乳からのRNAの抽出及び長期保存方法が提供される。本発明の方法は、特に乳の高感度検査のために用いるRNAを迅速、簡便に効率良く抽出し、さらに抽出されたRNAを長期保存できる方法として有用である。
Claims (1)
- サンプル乳に対してフェノール及びチオシアン酸グアニジンを含有するRNA抽出用薬剤を用いて抽出したRNA試料を−20℃〜−80℃の冷凍保存することを特徴とするRNAの長期保存方法。
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