JP3774571B2 - 凍結防止剤 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、凍結防止剤に関する。さらに詳しくは、金属の錆の発生を抑制できる凍結防止剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
冬季においては、特に寒冷地においては、道路を始めとし、空港滑走路、バスターミナル、プラットホーム等が雨や雪によって凍結し、しばしば事故の原因となる。そこで、従来から、道路等の凍結防止のために、塩化ナトリウム、塩化カルシウムあるいは塩化マグネシウム等が凍結防止剤として道路等に散布されている。しかし、これら塩化ナトリウム、塩化カルシウムあるいは塩化マグネシウム等の凍結防止剤は、金属を錆びさせるという問題がある。この金属の錆の問題の解決策として、錆止め剤として各種の界面活性剤等を併用することが提案されているが、一般に界面活性剤の併用はコストが高く、また凍結防止の効果が悪くなり、さらには別の問題、例えば界面活性剤に起因する滑り易さの問題や公害が発生したりして、未だ実用化されていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記従来の状況に鑑み、十分に実用に供し得るように、安価に、かつ別の新たな問題を発生することなく金属の錆の発生を抑制できる凍結防止剤を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、本発明の凍結防止剤は、塩化ナトリウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムから選ばれた少なくとも一種の塩化物と、クエン酸塩との混合物を溶融乾燥処理したものを含有することを特徴とする。
【0005】
混合物を溶融乾燥処理することにより、塩化ナトリウム、塩化カルシウムあるいは塩化マグネシウムの表面がクエン酸塩でコーティングされ、錆の発生を抑制することができる。
【0006】
また、本発明は溶融乾燥処理が、加熱溶融乾燥であることを特徴とする。
【0007】
さらに、上記の加熱溶融乾燥の処理温度は、100〜250℃であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の凍結防止剤は、上記のクエン酸塩が、クエン酸三ナトリウムであることを特徴とする。
【0009】
上記のクエン酸三ナトリウムを混合する際は、その混合割合を、塩化物100重量部に対してクエン酸三ナトリウム2〜10重量部とすることが好ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の凍結防止剤は、塩化ナトリウム、塩化カルシウムおよび塩化マグネシウムから選ばれた少なくとも一種の塩化物とクエン酸塩の混合物を溶融乾燥処理することにより得られる。即ち、塩化ナトリウム中には通常7〜8重量%の水分が含有されているが、溶融乾燥するとこの水分がクエン酸塩を溶かし、溶けたクエン酸塩が塩化ナトリウムの周りに付着し、コーティングする。塩化カルシウム及び塩化マグネシウムの場合も、それぞれ通常2つの結晶水、6つの結晶水を含んでいるため、同様の過程でクエン酸塩がコーティングされる。
【0011】
本発明の実施に当たり、塩化ナトリウム、塩化カルシウムあるいは塩化マグネシウムとしては、従来から凍結防止剤として用いられていたものを、特に制限する要なく適宜選択して用いることができる。これら塩化ナトリウム、塩化カルシウムあるいは塩化マグネシウムは、それぞれを単独で用いることもできるし、複数種を併用することもできる。
【0012】
また、クエン酸塩としても、市販されているクエン酸塩を、特に制限する要なく適宜選択して用いることができる。具体的には、クエン酸三ナトリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0013】
そのなかでもクエン酸三ナトリウムは好適に用いられる。クエン酸三ナトリウムが溶けて塩化物をコーティングする際には、塩化物が塩化ナトリウムの場合にはそのままクエン酸三ナトリウムとして、塩化物が塩化カルシウム及び塩化マグネシウムの場合にはそれら塩化物と反応しそれぞれクエン酸カルシウム、クエン酸マグネシウムとなってコーティングする。
【0014】
また、塩化ナトリウム、塩化カルシウムおよび塩化マグネシウムから選ばれた少なくとも一種の塩化物と、クエン酸塩との混合割合は、必要に応じて適宜選択することができる。具体的には、クエン酸塩がクエン酸三ナトリウムの場合、上記塩化物100重量部に対してクエン酸三ナトリウム2〜10重量部が適当であり、好ましくはクエン酸三ナトリウム3〜5重量部である。クエン酸三ナトリウムの混合割合が2重量部未満では、金属の錆の発生の抑制効果が少なくて十分に所期の目的を達成し得ず、一方、10重量部を越えて多量にクエン酸三ナトリウムを用いても、金属の錆の発生の抑制効果のさらに一層の向上は期待できず、不経済となる。
【0015】
混合物を溶融乾燥処理する方法としては、加熱による溶融乾燥が好適に用いられるが、その他にも真空あるいは減圧下で処理したり、触媒を添加して処理することができる。その場合、加熱することは必ずしも必要ではない。すなわち、結晶水を含んだ塩化物を溶融させることができる方法であれば用いることができる。
【0016】
加熱溶融乾燥させる場合の処理温度としては、あまり高温で乾燥するとクエン酸塩が分解して不可である。一般に、加熱乾燥温度は250℃以下が適当であり、好ましくは100〜145℃である。また、加熱乾燥の処理時間は、加熱乾燥温度、通風状況、混合物の所望の乾燥度合等の加熱乾燥処理条件に応じて適宜設定することができるが、一般に10〜30分が適当である。
【0017】
また、混合物の乾燥度合は、あまり高温で乾燥するとクエン酸塩が分解するので効果がなくなる。混合物の乾燥度合は、例えば、7〜12重量%の水分を含む塩化ナトリウムとクエン酸三ナトリウム2水分の混合物の場合は、該混合物の水分量が0.1〜0.5重量%になる程度の乾燥度合が適当である。また、塩化カルシウム2水分とクエン酸三ナトリウム2水分の混合物の場合は、塩化カルシウム1水分とクエン酸三ナトリウム1水分の混合物になる程度の乾燥度合が適当である。さらにまた、塩化マグネシウム6水分とクエン酸三ナトリウム2水分の混合物の場合は、塩化マグネシウム5水分とクエン酸三ナトリウム1水分の混合物になる程度の乾燥度合が適当である。
【0018】
加熱溶融乾燥させる際には、上述したように100〜250℃で処理することによって、所期の金属の錆の発生の抑制効果を得ることができる。例えば、(イ)上記塩化物とクエン酸塩とを単に混合して混合物とした場合、あるいは(ロ)当該混合物を100℃未満の温度で加熱溶融乾燥した場合、あるいは(ハ)100〜250℃の温度で加熱溶融乾燥するにしても、上記塩化物とクエン酸塩とをそれぞれ別途に加熱溶融乾燥し、その後それらを混合して混合物となした場合等においては、各塩化物とクエン酸塩が混合しているだけであるために所期の金属の錆の発生の抑制効果を得ることができない。
【0019】
上記の混合物を加熱溶融乾燥する手段は、従来から知られた手段を用いることができる。具体的には、トンネル乾燥機、熱風乾燥機(箱型、円筒型など)、半円筒型加熱乾燥機等が挙げられる。
【0020】
本発明においては、(a)塩化ナトリウムとクエン酸塩の混合物、(b)塩化カルシウムとクエン酸塩の混合物、(c)塩化マグネシウムとクエン酸塩の混合物、(d)塩化ナトリウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムから選ばれたいずれか二種の塩化物とクエン酸塩の混合物、あるいは(e)塩化ナトリウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムの三種の塩化物とクエン酸塩の混合物を上記のごとき条件で溶融乾燥させたものを、それぞれ単独であるいは複数種組み合わせて、凍結防止剤として用いることができる。例えば、塩化ナトリウムとクエン酸三ナトリウムの混合物の加熱溶融乾燥物60重量%と、塩化マグネシウムとクエン酸三ナトリウムの混合物の加熱溶融乾燥物40重量%との組み合わせは凍結防止剤として好ましく用いられる。
【0021】
また、上記の各混合物を溶融乾燥処理したものは、必要に応じて、それぞれ単独であるいは複数組み合わせて、いわば錆止め剤のように、通常の塩化ナトリウム、塩化カルシウムあるいは塩化マグネシウムからなる従来の凍結防止剤に混合して用いることができる。この場合、上記の溶融乾燥物の混合割合は、当該溶融乾燥物におけるクエン酸塩の混合割合等により一概にはいえないが、一般に、通常の塩化ナトリウム等の塩化物100重量部に対して2.5〜10重量部が適当である。また、このように上記の溶融乾燥物を通常の塩化ナトリウム等の塩化物に混合して用いれば、金属の錆の発生の抑制効果を有する凍結防止剤を一層安価に提供することができる。
【0022】
【実施例】
以下、実施例、比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1
温度180℃、風速5m/secで加熱空気が通気されている、長さ15mの半円筒型トンネル乾燥機中に、水分含有量7〜10重量%の塩化ナトリウム100重量部とクエン酸三ナトリウム2水分3重量部の混合物を、移動速度0.5m/minにて供給、温度150℃で通過させ、加熱溶融乾燥させ、得られた加熱溶融乾燥物を粒径0.3〜2mmの微粒子に粉砕した。得られた加熱溶融乾燥物の水分含有量は0.1〜0.2重量%であった。
【0023】
得られた加熱溶融乾燥物について腐食テストを行った。すなわち、得られた加熱溶融乾燥物の濃度3重量%の水溶液を調製し、この水溶液中に鉄4.5gを1日浸漬した後取り出して1日放置するという操作を7回繰り返して行い、この操作の繰り返し毎に新しい濃度3重量%の加熱溶融乾燥物の水溶液を用い、当該操作の7回繰り返し後の錆発生量を重量パーセントで算出した。その結果を表1に示す。
【0024】
実施例2
半円筒型トンネル乾燥機に供給する混合物として、塩化カルシウム2水分100重量部とクエン酸三ナトリウム2水分3重量部の混合物を用いたこと以外は実施例1と同様にして、混合物の加熱溶融乾燥物を得、それを微粒子に粉砕した。得られた加熱溶融乾燥物の水分含有量は25〜28重量%であった。また、得られた加熱乾燥物について実施例1と同様の腐食テストを行ったところ、表1に示すとおりの結果であった。
【0025】
実施例3
半円筒型トンネル乾燥機に供給する混合物として、塩化マグネシウム6水分100重量部とクエン酸三ナトリウム2水分2.91重量部の混合物を用いたこと以外は実施例1と同様にして、混合物の加熱溶融乾燥物を得、それを微粒子に粉砕した。得られた加熱溶融乾燥物の水分含有量は40〜47重量%であった。また、得られた加熱溶融乾燥物について実施例1と同様の腐食テストを行ったところ、表1に示すとおりの結果であった。
【0026】
実施例4
実施例1で得られたと同様の塩化ナトリウムとクエン酸三ナトリウムの混合物の加熱溶融乾燥物60重量%と、実施例3で得られたと同様の塩化マグネシウムとクエン酸三ナトリウムの混合物の加熱溶融乾燥物40重量%からなる混合物を調製し、該加熱溶融乾燥物の混合物について実施例1と同様の腐食テストを行ったところ、表1に示すとおりの結果であった。
【0027】
さらに、得られた加熱溶融乾燥物の混合物の3重量%水溶液について以下に示す試験を行った。なお実施例2で得られた加熱溶融乾燥物の3重量%水溶液と、比較例として水および塩化ナトリウム3重量%水溶液についても同様の試験を行った。
試験方法 試験片を試験液に浸漬し一定時間経過後の試験片の重量変化を 測定する。その際、腐食生成物(錆)はこすり落として除去する。
試験片 ゼムクリップ(市販品)を伸ばしたもの
試験温度 室温
測定結果を表2及び図1に示す。表中の数値は重量減少率(重量%)である。これにより本発明の凍結防止剤は塩化物を単独で用いる場合に比べて優れた防錆効果を有することが明らかとなった。
【0028】
別の試験として、上記の加熱溶融乾燥物の混合物の3重量%水溶液について以下に示す試験を行った。なお、比較例として塩化ナトリウム3重量%水溶液及び水道水についても同様の試験を行った。
試験機関 横浜市工業技術支援センター
試験期間 平成10年6月29日〜7月13日(2週間)。
試験方法 試験片全体を試験液70ml中に浸漬し、恒温水槽で25℃に保った。試験液は週3回(月、水、金)交換し、その交換時に測定する試験片の腐食減量(mg)から腐食速度(mdd)を算出し評価した。なお、腐食減量を測定するために腐食生成物(錆)を除去するが、その際には、目の細かい研磨剤を用いて行い、さらに腐食していない試験片についても同じ除去操作を行うことによって測定値の補正を行った。
mdd=腐食減量mg/(試験片面積(dm2 )×試験日数(day))
さらに、試験片を浸漬する前及び、2日間浸漬した後の試験液のpHを測定した。
試験片 ハルセル試験用鉄板(幅2.5cm、長さ10cm、表面積50cm2 (0.5dm2 ))の表面の亜鉛めっきを塩酸で剥離させたもの。
試験結果を表3に示す。表3より、本発明にかかる試験液の腐食速度が最も小さいことから防錆効果に優れていることが明らかとなった。なお、同一の試験液についてpH5〜9の範囲では腐食速度はほぼ一定であり、腐食速度の測定値に影響はないと考えられる。また、比較例とした2種類の試験液については孔食が発生したが、本発明にかかる試験液については孔食は見られなかった。このことからも本発明が優れた防錆効果を有することが明らかである。
【0029】
実施例5
半円筒型トンネル乾燥機に供給する混合物として、塩化マグネシウム6水分100重量部とクエン酸三ナトリウム2水分7.5重量部の混合物を用いたこと以外は実施例1と同様にして、混合物の加熱溶融乾燥物を得た。得られた加熱溶融乾燥物の水分含有量は24〜28重量%であった。この得られた加熱溶融乾燥物40重量部と、水分含有量0.1重量%に乾燥した塩化ナトリウム60重量部とを混合し、粒径0.3〜2mmの微粒子に粉砕した。この加熱溶融乾燥物と水分含有量0.1重量%の塩化ナトリウムの混合物について実施例1と同様の腐食テストを行ったところ、表1に示すとおりの結果であった。
【0030】
比較例1〜3
濃度3重量%の塩化ナトリウム水溶液(比較例1)、濃度3重量%の塩化カルシウム水溶液(比較例2)、および水道水(比較例3)を用いて、実施例1と同様の腐食テストを行った。その結果を表1に示した。
【0031】
比較例4
水分含有量0.1重量%に乾燥した塩化ナトリウム100重量部に、クエン酸三ナトリウム2水分3重量部を混合して混合物を得た。得られた混合物について実施例1と同様の腐食テストを行ったところ、表1に示すとおりの結果であった。
【0032】
【表1】
Figure 0003774571
【表2】
Figure 0003774571
【表3】
Figure 0003774571
【0033】
【発明の効果】
本発明によれば、塩化ナトリウム、塩化カルシウムおよび塩化マグネシウムから選ばれた少なくとも一種の塩化物とクエン酸塩の混合物を溶融乾燥処理するという簡単で安価な手段により、別の新たな問題を発生することもなく、金属の錆の発生を抑制できる凍結防止剤が提供される。本発明に係る凍結防止剤は、実用に供して、十分に所期の目的、すなわち安価に、かつ別の新たな問題を発生することなく金属の錆の発生を抑制して凍結防止をするという目的を達成できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例2及び実施例4における腐食試験結果を示すグラフである。

Claims (5)

  1. 塩化ナトリウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムから選ばれた少なくとも一種の塩化物と、クエン酸塩との混合物を溶融乾燥処理したものを含有することを特徴とする凍結防止剤。
  2. 溶融乾燥処理が、加熱溶融乾燥であることを特徴とする請求項1記載の凍結防止剤。
  3. 加熱溶融乾燥の処理温度が100〜250℃であることを特徴とする請求項2記載の凍結防止剤。
  4. クエン酸塩が、クエン酸三ナトリウムであることを特徴とする請求項1乃至3記載の凍結防止剤。
  5. クエン酸三ナトリウムの混合割合が、塩化物100重量部に対してクエン酸三ナトリウム2〜10重量部であることを特徴とする請求項4記載の凍結防止剤。
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