JP3772686B2 - 高張力鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、プレス加工等により様々な形状に成形され、自動車の構造部材、特に側面衝突において衝撃を受け止める部材、例えばセンターピラーおよびその補強材として用いられる衝撃吸収性に優れた、高静動比であって高延性の高張力鋼板とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
乗用車の衝突安全性確保に対する社会的要求は、近年とみに高まっている。そこで、衝突時に搭乗者空間を確保するために、車体に様々な補強部材を取り付け、車体の強度アップが図られている。しかし、それにより車体重量が増加し、燃費が低下する傾向にある。これは、昨今の地球温暖化対策と相反する傾向である。そのために、高張力鋼板を用いて、車体の軽量化を図る動きがある。特に500MPaを超えるような高張力鋼板の適用が検討されている。一般に鋼板の高強度化に伴い延性が劣化するため、高延性の高張力鋼板が望まれている。
【0003】
このようなニーズに対し、SiとMnを複合添加した低炭素鋼を2相域焼鈍後、350 〜550 ℃まで急冷し、その温度で階段状の冷却あるいは短時間保持してオーステナイトを一部べイナイトに変態させ、最終的にフエライト、ベイナイトおよび残留オーステナイトからなる組織とした薄鋼板が有望である。通常、残留オーステナイト鋼板と呼ばれるこの鋼板は、成形時の変形中に残留オーステナイトが歪誘起変態し、大きな伸びを示す。
【0004】
例えば、特公昭62−35461 号公報では、0.7 〜2.0 %のSiと0.5 〜2.0 %のMnを含有する鋼板を、焼鈍過程においてフエライトおよびオーステナイトの2相域に加熱した後、冷却過程の650 ℃から450 ℃の間で10〜50秒の保持を複数回行なうことを特徴とし、最終製品において、各々体積率10%以上のフエライトと残留オーステナイトおよび残部組織がマルテンサイトおよびべイナイトから成る鋼板の製造方法が開示されている。
【0005】
また、特開昭61−157625号公報では、0.4 〜1.8 %のSiと0.2 〜2.5 %のMnを必須的に含有し、更に各々0.5 %以下のCu、Cr、Ti、Nb、V、およびMo、0.1 %以下のP、3%以下のNiの中から選んだ1種または2種以上含有する鋼板を素材とし、更に上記特公昭62−35461 号公報の場合と同様に、フエライトおよびオーステナイト2相域に加熱した後、冷却の途中の500 ℃〜350 ℃の間の温度で30秒から30分の範囲で一度保持する製造方法が開示されている。
【0006】
更に、特開平5−70886 号公報には、上記のような混合組織を有する鋼板の欠点である穴拡げ加工性のごとき伸びフランジ加工性の不足を解消するために、Siの一部をAlに置換した残留オーステナイト鋼板の製造法が開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
このような従来技術を背景に、発明者らは、実際の車体に組込まれた状態を再現するために、各種高張力鋼板を用いたハット型閉断面部材の高速軸圧潰試験、高速曲げ試験を実施した。その結果、特開平5−70886 号公報に開示されている方法で製造した残留オーステナイトを含む複合組織鋼板が、他の高張力鋼板と比較して、変形量の多い軸圧潰モードにおける衝撃吸収能は大きいが、変形量の少ない曲げモードではそれほど衝撃吸収能が優れている訳ではないことを見いだした。
【0008】
更に、高張力鋼板の高速引張試験により、上述の残留オーステナイトを含む複合組織鋼板である高張力鋼板( 以下、単に残留オーステナイト高張力鋼板という) においてそのような傾向が見られるのは、動的な引張強度と静的な引張強度の比(以下、静動比と呼ぶ)があまり大きくないことが原因であることを突き止めた。
【0009】
しかし、残留オーステナイト高張力鋼板は軸圧潰モードにおける衝撃吸収能は大きく高延性であることから、車体の衝突安全性を高めるために適用することが検討されている。
【0010】
ここに、本発明の課題は、静動比が高く、側面衝突のように曲げモードでも効果が大きい高静動比の残留オーステナイト高張力鋼板とその製造方法を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
高強度化すると静動比が低下することは良く知られているが、静動比を支配している因子については未知の部分が多い。そこで、発明者らは、様々な組成、組織バランスを持った残留オーステナイト鋼板を実験室で作成し、静動比の変化を調査した。その結果、以下のような事実を明らかにした。
(1) 残留オーステナイトの体積率が一定でも、ベイナイト体積率が大きくなると静動比が低下する。
(2) 組織の体積比が一定でも、残留オーステナイト中のC濃度が高くなると静動比が低下する。
【0012】
これらの原因は、必ずしも明らかになっていないが、各々について以下のように推論された。
(i) ベイナイトは多量の転位と微細なセメンタイトを含有しているので、ベイナイト内での転位の運動速度は、歪み速度にあまり影響されない。換言すると、ベイナイト単体は極めて静動比が低い組織で、そのような組織の増加は鋼板全体の静動比を低下させる。
【0013】
(ii)引張変形によらず、高歪み速度で変形した場合、ほぼ断熱状態で変形するため、加工熱で瞬時にして温度が上昇する。Cを多量に含有し安定化された残留オーステナイトの場合、Md点 (加工によるMs点上昇時の上限温度) 以上になることもあり得る。そのような場合には、応力誘起変態が生じず、加工硬化しなくなる。
【0014】
以上のような知見を基に、その後の系統的な実験により、ベイナイト体積率をなるべく小さくすること、および残留オーステナト中のC量をオーステナイトの安定性を損なわない範囲で少なくすることにより、静動比を高くすることが可能であることを見い出した。
【0015】
実際には所望の引張強度を得るために、ベイナイトを析出させる必要がある。一般的に、焼鈍板中に準安定オーステナイトを残留させるためには、2 相域に加熱し、その後ベイナイト変態させて、残留オーステナイト中にCを濃縮させる。そのため、過度に多くのベイナイトを生成させると、必然的に残留オーステナイト中にCが過度により濃縮されて、残留オーステナイトが過度に安定化されてしまう。
【0016】
そこで、発明者らは残留オーステナイト鋼板を製造する際に必ず添加するフエライト安定化元素に注目し、実験を行った結果、
(a)Al はSiに比べて、少ないベイナイト量で残留オーステナイトを安定化すること、
(b)Si はAlに比べて、固溶強化能が大きいため、少ないベイナイト量で所望の強度を出すことができること、そして
(c) 鋼中C濃度が高くなると、ベイナイトが増加し、引張強度が上昇すると同時に、残留オーステナイト中のC濃度も上昇すること
が明らかになった。
【0017】
即ち、Al、Si、Cのバランスを最適化すると、Siの固溶強化を活用し、前述のようにベイナイト体積率が小さく、かつ安定性を損なわず、かつ可能な限り少ないC量しか含有しない残留オーステナイト鋼板を得ることが可能なことを見いだした。
【0018】
また、軸圧潰時の吸収エネルギーは降伏比が低い方が不利であることも明らかになっている。このような観点で残留オーステナイトを含有する各種鋼板を比較すると、高Si添加鋼板ほど、低降伏比になることが明らかになった。よって、Si含有量には強度に応じた上限が必要なことが明らかになった。
【0019】
同様の観点から、ベイナイトによる変態組織強化の代わりに、NbC の析出強化を活用して降伏比を高くすることも有効であることを見いだした。
以上のような知見をもとに、衝撃吸収性に優れた高静動比の高延性高張力薄鋼板とその製造方法を完成した。
【0020】
よって、本発明は、下記式(1) で与えられる体積率VBのべイナイトと、C含有量が1.2 質量%以下で体積率が5%以上の残留オーステナイトと、残部がフエライトとからなる鋼組織を有し、静的な引張試験における降伏比が0.6 以上で、動的な引張試験における引張強度と静的な引張試験における引張強度との比TSd/TSs が下記式(2) で与えられる関係を満たすことを特徴とする高静動比を有する高延性高張力鋼板である。
【0021】
VB≦(TSs /60 )−1 ・・・・・・・・・・・(1)
TSd/TSs ≧0.8 +(300/TSs)・・・・・・・・(2)
ここで、
VB:ベイナイトの体積率(%)、 ‘
TSs :静的な引張試験における引張強度(MPa)、
TSd :歪み速度1000/sの動的引張試験における引張強度(MPa)。
【0022】
本発明にかかる高延性高張力鋼板は、鋼の化学組成が、質量%にて、C:0.05〜0.25%、Si:2.0%以下、Al:2.0%以下、Mn:0.5〜4.0%、Ni:5%以下、P:0.1%以下、S:0.1%以下、N:0.01%以下、かつ、下記式(3)〜(5)で与えられる関係を満足し、残部がFeおよび不純物からなる。
【0023】
(TSs/600)−0.8 ≦Si≦(TSs/400)−0.6 ・・・・(3)
1.2 ≦Si+Al≦1.8 ・・・・・・・・・・・・・(4)
Mn+(Ni/3)≧1.0 ・・・・・・・・・・・・・(5)
ここで、
TSs :静的な引張試験における引張強度(MPa)、
式中のSi、Al、Mn、Ni:鋼中での各元素の含有量(質量%)。
【0024】
本発明の好適態様では、上記鋼組成において、Feの一部に代えて、質量%にて、Nb:0.01〜0.07%を含有してもよい。
別の面からは、本発明は、上述の化学組成を有する鋼を熱間圧延してから、300 〜700 ℃にて巻き取り、圧下率30〜80%にて冷間圧延し、さらにAc1 温度以上Ac3 温度以下の温度域に加熱した後、冷却を行い、該冷却の途中の550 〜350 ℃の温度範囲において30秒以上保持するか、または該温度範囲を100 ℃/ 分以下の冷却速度にて冷却することを特徴とする高静動比を有する高延性高張力鋼板の製造方法である。
【0025】
【発明の実施の形態】
次に、本発明において、鋼の組織、組成、さらには製造条件を上述のように規定した理由について説明する。なお、本明細書において、鋼の化学組成を示す「%」はとくにことわりがない限り、「質量%」である。
【0026】
本発明にかかる残留オーステナイト高張力鋼板は、その組織が、ベイナイト、残留オーステナイト、そしてフェライトから構成される。
ベイナイト体積率(VB):ベイナイトは、鋼板の強化および残留オーステナイト中にCを濃縮するために必要な組織であるが、増加に伴って、鋼板の静動比を低下させるため、少ない方が好ましく、鋼板に本発明で規定される静動比を付与するためには、静的引張強度に応じて制限を加えるのであって、具体的には、下記式(1) に規定される範囲に制限される。
【0027】
鋼板の強度が所望レベルを満たしている限り、あるいは残留オーステナイトにCが十分濃縮されている限り、ベイナイトの体積率に下限を設ける必要はないが、5%以上であることが好ましい。
【0028】
VB (%) ≦TSs/60−1 ・・・・・・・・・・・・(1)
残留オーステナイト中のC濃度:オーステナイトを安定化するためには必要であるが、あまり多くなりすぎると、高速で変形させた際に、残留オーステナイトが応力誘起変態しなくなるので、1000/sで引っ張った際に鋼板に含まれていた残留オーステナイトの半分以上が変態を生じる1.2 %を上限とした。
【0029】
残留オーステナイトの体積率:最終製品としての本発明鋼の延性は、製品中に含まれる残留オーステナイトの体積率の増加に伴い向上するため、残留オーステナイトの体積率を5%以上とした。これ未満では、オーステナイトの歪誘起変態による延性の向上は期待できない。好ましくは10%以上である。
【0030】
なお、残留オーステナイトの体積率の上限は特に規定されないが、オーステナイトが局部延性を殆ど示さないことから、残留オーステナイトが多過ぎると板全体がくびれることなく、突然破断するとの理由から、30%以下であることが好ましい。
【0031】
次に、本発明によれば、静的な引張試験における降伏比が0.6 以上であって、静動比が次のように制限される。
静動比(TSd/TSs):一般的には静的な引張強度の上昇に伴い低下するが、高いエネルギー吸収能をえるために、本発明においては、以下のように限定した。
【0032】
TSd/TSs ≧0.8 +300/TSs ・・・・・・・・・(2)
TSd :歪み速度1000/sで引張った場合の引張強度 (単位はMPa)
TSs 静的に引張った場合の引張強度 (単位はMpa)。
【0033】
また、本発明者らの調査によれば、前記式(1) および(2) を含む関係は、プレス加工等により自動車の構造部材に加工された後にも適用できることが確認されている。つまり、本発明における上述の関係は、製品とした後にも同様に成立しているのであり、その関係を満足する限り本発明の範囲内である。
【0034】
ここに、本発明は、上述のような各組織を備えている限りにおいて、何ら制限されないが、本発明の好適態様においては、そのときの鋼の化学組成は次のようなものであることが好ましい。
【0035】
C:最も強力なオーステナイト安定化元素であり、本発明の必須構成要因の一つである。室温においてオーステナイトを安定化するためには、オーステナイト中に1%以上のCが含有されることが必要であるが、焼鈍のヒートサイクルを最適化することにより、0.05%以上含有されれば十分である。より多量のCを含有することにより、より高強度の高張力冷延鋼板を製造できる。しかし、0.25%を超えて含有されると鋼板が硬くなりすぎ、通常の製板工程では、薄鋼板に加工することができなくなるので、0.25%を上限とした。0.2 %を超えると溶接性が劣化傾向となり、溶接条件を厳しく選ぶ必要がでてくるため、好ましくは0.1 〜0.2 %である。さらに好ましくは0.12〜0.17%である。
【0036】
Si:Alと同様にフエライト安定化元素で、2相域焼鈍時のフエライトの体積率を増加させることにより、平衡するオーステナイト相のC濃度を高める。同時にSiはフエライトを強化する作用がある。しかし、2.0 %を超えて含有されると、Si添加鋼板特有の高Siスケールによる表面品質の劣化が生じるので、上限を2.0%とした。好ましくは、1.6 %以下である。
【0037】
フエライト安定化元素としてのSiとAlの合計量が少ないと、2 相域焼鈍時にオーステナイト中に十分なCが濃縮されないと同時に、静動比を劣化させるベイナイトの生成量が多くなりすぎるため、SiとAlの合計量は1.2 %を下限とした。また、SiとAlの合計量が多すぎると、2 相域焼鈍時にオーステナイトの体積率が下がりすぎ、残留オーステナイト中にさらにCを濃縮するために必要なべイナイトが十分生成しないことから、残留オーステナイトが安定化されない。そこで、1.8 %を上限とした。SiとAlの合計量の好ましい範囲は1.4 〜1.6 %である。
【0038】
さらに、静的な引張強度%(TSs) との関係でSi含有量が、 (TSs/600 −0.8)%を下回ると静動比が低下し、(TSs/400−0.6 )%を上回ると降伏比が0.6 を下回りエネルギー吸収能が低下する為、各々をSi含有量の下限および上限とした。
【0039】
Al:Siと同様にフエライト安定化元素で、Siと同様に2相域焼鈍時のフエライトの体積率を増加させることにより、平衡するオーステナイト相のC濃度を高める作用があり、本発明の必須構成要因の一つであり、Siと比べてオーステナイトを安定化する作用が強い。2.0%を超えて含有すると鋼板中に介在物が多くなり延性を損ねるので、これを上限とした。なお、Al含有量は0.5 %以上が好ましい。さらに好ましい範囲は0.7 〜1.2 %である。また、TS、Siとの関係でAlの含有量を制御する。
【0040】
図1は、本発明におけるSiとAlとの含有量の範囲を示すグラフであり、引張強度レベルによってそれぞれ含有量の範囲が異なることを示す。
Mn:オーステナイト安定化元素で、本発明の必須構成要因の一つである。Ni含有量との合計で規制され、Mn+(Ni/3)の値が1.0 %以上になるように含有させる必要がある。これが1.0 %未満ではオーステナイトが安定化されない。
【0041】
一方、Mn含有量が4.0 %を超えると鋼板が硬くなりすぎ高延性が得られない。Mnは、鋼中のSをMnS として固定し熱間脆性を防止する目的で含有させるので、下限を0.5 %とした。
【0042】
Ni:Mnと同様にオーステナイト安定化元素としての作用があり、含有させてもさせなくてもよい。しかし、Mnと比較してオーステナイトを安定化する作用が小さく、Mnの3割程度しかない。更に、Mnに比べて高価であり、基本的にはオーステナイトの安定化にはMnを含有させればよい。
【0043】
しかし、連続溶融亜鉛めっきラインにてめっき鋼板を製造する場合、鋼板表面にMn酸化物が生成し、めっき濡れ性が劣化するのを防止する作用があり、オーステナイト安定化元素として含有させる。Mn含有量との合計で規制され、Mn+(Ni/3)の値が1.0 %以上になるように含有させるのが好ましい。
【0044】
Ni が1.0 %未満ではオーステナイトが安定化されない場合があるので、含有させる場合は1.0 %以上を含有させるのが好ましい。一方、Niが5%を超えると製品コストが高くなりすぎるためこれを上限とした。
【0045】
P:不純物元素として、鋼中に不可避的に含有される。低い方が好ましい。0.1 %を超えて含有されると鋼板の延性が劣化する。本発明鋼のようにC含有量の多い鋼で極低燐化することは、現状の製鋼技術では経済的に不利であることから、0.0005%以上が好ましい。
【0046】
S:不純物元素として鋼中に含有される元素であり、低い方が好ましい。S含有量が多いと、MnS の析出量が多くなり、延性を阻害するのみならず、オーステナイト安定化元素として含有させるMnを析出物として消費するので、0.1 %以下に限定した。良好な延性をえるために、好ましくは、0.02%以下である。
【0047】
N:不純物元素として鋼中に含有され、低い方が好ましい。そこで、0.01%以下とする。一方、本発明鋼のようにC含有量の多い鋼でNを低くすることは、現状の製鋼技術では経済的に不利であることから、0.001 %以上とすることが好ましい。良好な延性を得るために、さらに好ましくは、0.005 %以下である。
【0048】
Nb:Fe の一部に代えて、さらにNb:0.01 〜0.07%を含有させてもよい。Nbは炭化物生成元素であり、NbC を形成し、その析出強化作用によって、降伏比を高くする効果がある。含有量が少な過ぎるとその効果が得られず、0.07%を超えて過剰量含有させても効果は飽和し、材料コストを上昇させるだけである。
【0049】
本発明においては、不可避不純物として、あるいは通常含有されるその他の成分として、Cr、Mo、VおよびTiなどを合計量として、0.2 %以下の含有が許容される。
【0050】
本発明にかかる製造方法にあっては、上述のような化学組成の鋼を、適宜手段で溶製し、分塊法あるいは連続鋳造法などにより鋼片とし、次いで熱間圧延を行えばよく、これらについては本発明においてとくに制限されない。
【0051】
熱間圧延後の巻取り温度:本発明鋼の場合、低温で巻取ると焼きが入り硬くなるため、その後の酸洗、冷間圧延が困難になる。また、高温で巻取るとセメンタイトが粗大化し、軟質になり酸洗、冷間圧延が容易になる反面、焼鈍の均熱時にセメンタイトの再固溶に時間がかかりすぎ、十分な量のオーステナイトが残留しなくなる。そのため、巻取り温度は300 〜700 ℃に限定した。酸洗、冷間圧延に支障のない範囲で低い温度で巻取るのがよい。好ましくは、550 〜650 ℃である。
【0052】
冷間圧延: 本発明における冷間圧延では圧下率30〜80%で圧延が行われる。好ましくは、圧下率55〜65%で圧延が行われる。通常は連続冷間圧延が行われるが、必要により、冷間圧延の間に焼鈍処理を行ってもよい。
【0053】
連続焼鈍条件:冷間圧延後、まず、フエライトおよびオーステナイトにするためAc1 以上、Ac3 変態点以下の温度域に加熱する。加熱温度が低すぎるとセメンタイトが再固溶するのに時間がかかりすぎ、高すぎるとオーステナイトの体積率が大きくなりすぎてオーステナイト中のC濃度が低下する。それ故、このときの均熱温度は、800 〜850 ℃とすることが望ましい。
【0054】
更に均熱後、徐冷してフエライトを成長させて、オーステナイト中のC濃度を高めるために、700 ℃までの冷却速度は10℃/s以下が望ましい。更に、過時効処理帯に入るまでのそれ以下の温度域では、オーステナイトのパーライト変態を抑制するために、冷却速度は逆に50℃/s以上が望ましい。
【0055】
過時効処理帯では、550 〜350 ℃の間で30秒以上、好ましくは、2 分以上の保持または100 ℃/min以下の冷却速度で徐冷し、オーステナイトをベイナイト変態させながら、オーステナイトへのCの濃縮を促進させる。このときの温度領域が550 ℃超ではベイナイト変態が生じず、350 ℃未満では、下部ベイナイトになり、オーステナイトヘのCの濃縮があまり起こらなくなる。
【0056】
過時効処理帯後の冷却速度はとくに限定する必要はない。
【0057】
【実施例】
次に、本発明の実施例を示すが、これは単に本発明の例示であって、これにより本発明が不当に制限されるものではない。
【0058】
実験用真空溶解炉において、表1に示す化学組成(Ac1点温度: ほぼ710 ℃、Ac3 点温度: ほぼ880 ℃) を有する鋼を溶解した。
これらを、熱間鍛造により25mm厚の実験用スラブとした。次に、電気炉で1250℃、1時間加熱した後、1150℃から930 ℃の温度範囲で、実験用熱間圧延機により3パス圧延し、5mm厚の熱延板を得た。
【0059】
巻取りのシュミレーションとして、鋼板は熱間圧延後直ちに強制空冷あるいは水スプレー冷却により、500 ℃の温度まで冷却し、次にその温度に保持した電気炉の中に挿入し、更にその温度で1時間保持した後に20℃/hr で炉冷した。
【0060】
次に、表面研削により熱延板を3.2mm 厚の冷間圧延用母材とし、1.4mm 厚まで冷間圧延( 圧下率56%) を行った。得られた冷延板は赤外線加熱炉にて、10℃/sで820 ℃まで加熱し、その温度で40s 保持後、700 ℃まで3℃/sで徐冷し、その後は50℃/sで400 ℃まで冷却し、その温度で3分間保持した後、平均冷却速度15℃/sで室温まで冷却した。
【0061】
焼鈍後、JIS 5号引張試験片による静的な引張試験および歪み速度1000/sで高速の動的な引張試験を行った。静動比は、動的引張試験に使用したのと同じ試験片を静的引張試験を行って求めた引張強度を用いて計算した。
【0062】
表2に引張試験の結果を示す。
鋼Aは本発明で規定するよりSi含有量が少ないため、ベイナイト体積率が大きく低静動比になった。鋼Dは逆に本発明の規定するよりSi含有量が多いため、低降伏比になり、エネルギー吸収能が低いことが懸念された。
【0063】
本発明の規定する範囲内の量のSiを含有した鋼B、Cでは本発明の目的である、高静動比、高降伏比が実現されていた。また更に、700MPa以上の引張強度を有する鋼E、Fにおいても、高静動比、高降伏比が実現されていた。
【0064】
また、Cが本発明の規定する範囲を超えて含有された鋼Gでは、ベイナイトの体積率が大きすぎるため、静動比が目的のレベルに達しなかった。さらに、Mn+(Ni/3) の値が本発明の規定する範囲を下回って少なく含有された鋼Hでは、ベイナイトの体積率が大きすぎるばかりか、残留オーステナイトの体積率も比較的低いため、低静動比、低延性となった。
【0065】
反対に、鋼Hに対してMnを増量した鋼Lでは、高静動比、高延性が得られた。また、強化のために、鋼Cに対してPの含有量を増加した鋼Mにおいても、ベイナイト体積率は減少するが、オーステナイトが十分に残留し、高強度化しても高降伏比、高延性が得られた。 図2ないし図4は、実施例の鋼AないしDについて、それぞれ機械的特性、ベイナイト体積率、残留オーステナイト中のC含有量、さらに静動比をAl含有量に対してまとめたグラフである。
【0066】
鋼B、Cの場合に、いずれの特性についても満足するものが得られることが分かる。
【0067】
【表1】
Figure 0003772686
【0068】
【表2】
Figure 0003772686
【0069】
【発明の効果】
このように、本発明によれば、高延性であって、高静動比の残留オーステナイト高張力鋼板が得られ、軸圧潰モードにおけるばかりでなく、曲げモードにおいても衝撃吸収能の大きい材料、例えば自動車用構造部材、特にセンターピラーおよびその補強材等として有効な高張力鋼板が得られ、今日的要請である自動車の軽量化に多大の貢献をするものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明におけるSiおよびAl含有量の範囲を示すグラフである。
【図2】本発明における引張特性に及ぼすAl含有量の影響を示すグラフである。
【図3】本発明におけるベイナイト体積率および残留オーステナイト中のC濃度に及ぼすAl含有量の影響を示すグラフである。
【図4】本発明における引張強度及び吸収エネルギーの静動比に及ぼすAl含有量の影響を示すグラフである。

Claims (3)

  1. 下記式(1)で与えられる体積率VBのべイナイトと、C含有量が1.2質量%以下で体積率が5%以上の残留オーステナイトと、残部がフエライトとからなる鋼組織を有し、静的な引張試験における降伏比が0.6以上で、動的な引張試験における引張強度と静的な引張試験における引張強度との比TSd/TSsが下記式(2)で与えられる関係を満たし、鋼の化学組成が、質量%にて、C:0.05〜0.25%、Si:2.0%以下、Al:2.0%以下、Mn:0.5〜4.0%、Ni:5%以下、P:0.1%以下、S:0.1%以下、N:0.01%以下、かつ、下記式(3)〜(5)で与えられる関係を満足し、残部がFeおよび不純物からなることを特徴とする高静動比を有する高延性高張力鋼板。
    VB≦(TSs/60)−1・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
    TSd/TSs≧0.8+(300/TSs)・・・・・・・・・・・・(2)
    (TSs/600)−0.8≦Si≦(TSs/400)−0.6・・・(3)
    1.2≦Si+Al≦1.8・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
    Mn+(Ni/3)≧1.0・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
    ここで、
    VB:ベイナイトの体積率(%)、
    TSs:静的な引張試験における引張強度(MPa)、
    TSd:歪み速度1000/sの動的引張試験における引張強度(MPa)
    TSs:静的な引張試験における引張強度(MPa)、
    式中のSi、Al、Mn、Ni:鋼中での各元素の含有量(質量%)。
  2. Feの一部に代えて、質量%にて、Nb:0.01〜0.07%を含有することを特徴とする請求項に記載の高静動比を有する高延性高張力鋼板。
  3. 請求項またはに記載の化学組成を有する鋼を熱間圧延してから、300〜700℃にて巻き取り、次いで圧下率30〜80%にて冷間圧延し、さらにAc温度以上Ac温度以下の温度域に加熱した後、冷却を行い、該冷却の途中の550〜350℃の温度範囲において30秒以上保持するか、または該温度範囲を100℃/分以下の冷却速度にて冷却することを特徴とする高静動比を有する高延性高張力鋼板の製造方法。
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