JP3767359B2 - 突合わせ溶接方法及び溶接結合薄鋼板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶接を高速化でき、溶接精度を大幅に緩和できる突合わせ溶接方法及びその方法により得られた成形性に優れた溶接結合薄鋼板に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、薄鋼板の突合わせ溶接には、アーク溶接法や電気抵抗シーム溶接法が用いられているが、近年レーザー溶接法が採用されるようになってきた。レーザー溶接法は、溶接速度が速いことやビード幅が狭いために従来工法であるアーク溶接法や電気抵抗シーム溶接法に比べて、溶接速度が速く生産性が高くなることや、ビード幅が狭いため溶接結合薄板のプレス成形性が優れる等の利点を有する。
【0003】
レーザー光は、非常に強い集光性があり、エネルギー密度の極めて高い集中熱源となるので、溶接に適用すれば、溶け込み深さが深く、高速溶接を行うことができる。しかしながら、レーザー溶接法には以下の課題を有している。レーザー溶接ではレーザー光の集光性が高いという特長の裏返しとして、被溶接物の突合わせ間隙を厳格に管理する必要がある。突合わせ間隙の許容量は、被溶接物の板厚の10%程度であり、これを越えると溶融部が溶け落ちて、溶接継手の強度が低下する。特に曲線同士を突合わせて溶接する際には、突合わせ間隙を管理することが難しく、間隙が許容限度を超えることが多く、溶接品質のばらつきが大きい。
【0004】
くわえて、レーザー溶接法が高速溶接という裏返しとして、溶接部は急速に冷却されるため溶接金属が硬化するため、レーザー溶接結合薄板のプレス成形性が低下する。
【0005】
また、薄鋼板の突合わせ溶接では、アーク溶接法や電気抵抗シーム溶接法が使われる。前者のアーク溶接法は、従来から汎用されているものとしてティグ溶接、プラズマ溶接およびガスメタルアーク溶接が知られている。ティグ溶接は、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で、タングステン電極と母材間にアークを発生させて溶接する方法である。プラズマ溶接は、溶接トーチ内の2電極間に通電してアークを発生させ、その周囲にアルゴンと水素とを混合した作動ガスを送り込むと、作動ガスはアークの熱で電離してイオンと電子が混在したガス体であるプラズマとなり、このプラズマの熱で溶接する方法である。ティグ溶接およびプラズマ溶接は、非消耗電極方式溶接法と呼ばれている。一方、ガスメタルアーク溶接は、アルゴンなどの不活性ガスや炭酸ガスおよびこれらの混合ガス雰囲気中で、連続的に溶接用ワイヤを供給しながら、溶接用ワイヤと母材間にアークを発生させて両者を溶融させて溶接する方法であり、消耗電極方式溶接法と呼ばれている。
【0006】
これらのアーク溶接法では、レーザー溶接法に比べて熱源の収束性が劣ることや溶接速度が遅いために、金属薄板を突合わせ溶接すると、溶接入熱が過大となり、溶け落ち欠陥が発生しやすく、熱変形も大きくなるという課題を有する。
【0007】
後者の、電気抵抗シーム溶接法は、上下一対の円盤状の電極で接合する2枚の金属薄板の端部を加圧しながら電流を流して、金属薄板の固有抵抗により発熱・溶融して接合する方法である。そのため、この方法は、溶接部の厚さが厚く、幅が広いため、プレス成形性がレーザー溶接法およびアーク溶接法に比べて劣る。
【0008】
一方、レーザーとアークとを同時に照射して溶接する方法が提案されている。レーザー溶接とアーク溶接を複合させた場合の溶け込み量は、単純に両溶接法の溶け込み量の和よりも大きくなる。これはレーザー照射によって、溶接部にキーホールが形成されるため、アークの加熱が鋼材の表面からだけではなく、キーホール内部からも行われるためであると考えられている。くわえて、アークによって鋼材表面が加熱されるために、レーザーエネルギーの鋼材への吸収率が向上するためと指摘されている。この溶接方法は、例えば、特開昭62−263869号公報、特許登録1798896号公報、特開平9−122950号公報および特開平10−272578号公報において開示されている。ここで共通していることは、レーザーとティグアークとを複合化していることである。特開平10−216979号公報には、レーザーとプラズマを複合化した溶接方法が開示されている。しかし、ここで開示されている溶接技術は、隙間を有する薄鋼板の突合わせ溶接には適さない。すなわち、レーザーとティグアーク或いはプラズマを複合化することにより、溶接速度の高速化を図ることができるが、ティグアーク或いはプラズマ溶接法はいずれも非消耗電極方式溶接法であり溶接ワイヤからの溶融金属の供給は無いため、突合わせ継手における被溶接物間の隙間許容量の増加には寄与せず、溶け落ち欠陥に起因して継手強度の低下をきたすという課題は解決できない。レーザー溶接とガスメタルアーク溶接とを複合化した溶接法については、IIW Doc.XII−1565−99等に研究例が記載されている。ここでの研究例は、厚鋼板およびアルミニウム合金の溶接事例が示されている。前者の厚鋼板の溶接に関して、開先形状をV開先からY開先にすることにより溶接生産性が向上することや、アーク溶接の後熱サイクルによりレーザー溶接金属が焼きなまされて靭性向上が図れると指摘されている。一方、後者では、アルミニウム合金薄板の突合わせ溶接の研究事例が示されている。ここでは、アルミニウム合金はレーザー光に対して反射率が高いため、レーザーの溶接効率が低い。そこで、アーク熱源でアルミニウム合金を加熱してレーザー光の吸収率を高めることで、高能率の溶接が可能となると指摘されている。
【0009】
しかし、これらの研究事例においても、金属薄板の突合わせ溶接における突合わせ許容量の増加には寄与せず、溶け落ち欠陥に起因して継手強度が低下をきたすという課題は解決できない。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上述した従来技術では、薄鋼板の曲線の突合わせ溶接において、以下の課題があった。
【0011】
レーザー溶接では被溶接物間の隙間許容量が小さく、隙間が許容量を超えた場合に溶接部がアンダーフィルになるという課題がある。また、各種のアーク溶接では、薄鋼板構造物を対象にした場合には溶接入熱が過大であり被溶接物が溶け落ちるという課題がある。また、レーザーとティグアーク或いはプラズマの複合溶接法では、溶接用ワイヤを添加する溶接法でないため、レーザー溶接と同様に、隙間が許容量を超えた場合にアンダーフィルが起こるという課題を解決できない。
【0012】
溶接用ワイヤを添加する溶接法としては、レーザー溶接とガスメタルアーク溶接とを複合化した溶接法があるが、これらは厚鋼板やアルミニウム合金を対象とした溶接技術であり、薄鋼板の曲線突合わせ溶接を対象とした溶接技術は存在しない。
【0013】
本発明は、このような課題を解決するために、レーザー溶接とガスメタルアーク溶接を複合化することにより、曲線突合わせ溶接において隙間許容量を増大し、溶接を高速化でき、溶接精度を大幅に緩和できる突合わせ溶接方法及び成形性に優れ、継手強度のばらつきの少ない溶接結合薄鋼板を提供することを目的とすることである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
第1の発明は、溶接線が曲線となる薄鋼板の突合わせ部を溶接する際に、突合わせ部にYAGレーザーを照射する工程と、質量%で、C: 0.0010 〜 0.030 %、Si: 0.02 〜 1.50 %、Mn: 0.02 〜 1.50 %、残部Fe及び不可避的不純物からなる成分組成を有する溶接ワイヤ材料を用いて、前記レーザー照射工程後の高温領域の溶接予定位置においてガスメタルアーク溶接の狙い位置がレーザーの狙い位置における溶接線の接線上にあるように、ガスメタルアーク溶接を行う工程とを備えたことを特徴とする突合わせ溶接方法。
【0015】
第2の発明は、溶接線が曲線となる薄鋼板の突合わせ部を溶接する際に、突合わせ部にYAGレーザーを照射する工程と、前記レーザー照射工程後の高温領域の溶接予定位置においてガスメタルアーク溶接の狙い位置がレーザーの狙い位置における溶接線の接線上にあるように、かつレーザーの狙い位置から0mm以上8mm以下後方に位置するように、ガスメタルアーク溶接を行う工程と、前記ガスメタルアーク溶接工程の後に溶接部を500〜800℃の温度範囲に加熱する後熱処理を行う工程とを備えたことを特徴とする突合わせ溶接方法。
【0016】
第3の発明は、板厚0.3mm〜6mmの範囲の薄鋼板に対し、第1または第2の発明のいずれか1の溶接方法をおこなって得られた溶接結合薄鋼板。
【0017】
第4の発明は、第1または第2の発明のいずれか1の溶接方法のガスメタルアーク溶接工程に用いられ、質量%で、C: 0.0010 〜 0.030 %、Si: 0.02 〜 1.50 %、Mn: 0.02 〜 1.50 %、残部Fe及び不可避的不純物からなる溶接ワイヤ材料。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明に適用できる板厚範囲は、溶接入熱、溶接速度等の溶接条件に依存するが、一般的には、0.3mm以上、6mm以下である。薄鋼板を曲線で突合わせ溶接する場合には、薄板金属間に隙間があるため、溶融金属を供給しながら溶接する必要がある。発明者は、レーザー溶接とガスメタルアーク溶接を複合化し、低炭素量の溶接用ワイヤを用い、或いは後熱処理を行う溶接方法に関して、溶接の高速化や溶接精度が大幅に緩和し、くわえて、成形性に優れた溶接結合薄鋼板を製造する技術を見出した。
【0021】
第1の発明では、YAGレーザー溶接と溶接用ワイヤを供給するガスメタルアーク溶接とを複合化した溶接法により、隙間を有する突合わせ溶接において溶け落ち等の溶接欠陥の無い溶接を行うことができる。
【0022】
すなわち、ガスメタルアーク溶接単独では、溶接速度は最大2m/min程度であり、薄鋼板構造物を溶接する場合には、溶接入熱が過大となり溶け落ち欠陥を生じやすい。
【0023】
これに対し、本発明では、YAGレーザー照射後ガスメタルアーク溶接を行っている。このことにより、レーザーを照射された鋼材は、溶融・蒸発して、その一部が電離してプラズマとなる。この高温領域は、レーザー照射により金属蒸気密度および金属イオン密度が高いことに加えて、鋼材からの熱電子放出エネルギー或いは鋼材への熱電子吸収エネルギーも大幅に低下するため、ここにアークを照射すれば容易にアークの陽極点或いは陰極点になりやすく、アークの発生・維持が安定化し、アークが集中するようになる。またYAGレーザーはアークにより発生するプラズマに吸収されないのでアーク中に照射することができる。しかし炭酸ガスレーザーはアークにより発生するプラズマに吸収されるので、レーザー照射位置をアーク溶接位置から離さなければならずレーザーとアークの複合効果が得られない。
【0024】
したがって、本発明によれば、YAGレーザー溶接と複合化することによりガスメタルアークは安定化し、溶接速度が6m/min超えでも溶接可能となる。このように、高速溶接を可能となるため、溶接入熱はガスメタルアーク単独溶接に比べて30%以下となり、溶け落ち欠陥を生じなくなる。くわえて、ガスメタルアーク溶接では溶接用ワイヤを溶融して、薄鋼板構造物の隙間を埋めながら溶接が行われるため、隙間許容量を大幅に増加させることができる。
【0025】
またアークが安定化することによりアーク電流や溶接速度のとりうる範囲が広く、溶接入熱の調節が容易にできる。このことにより溶接入熱を適正にすることができ、溶接部における熱変形や熱影響部の軟化などが起こりにくくする。
【0026】
更に本発明によると、ガスメタルアーク溶接の狙い位置がレーザーの狙い位置における溶接線の接線上にあるようにして溶接を行っている。レーザー溶接の狙い位置は常に溶接線上にあるようにして溶接を行う。ガスメタルアーク溶接の狙い位置はレーザー溶接の狙い位置と同じであることが曲線を溶接する場合には望ましいが、実際には装置の取り合いなどから、同じにすることは難しく、所定の間隔を置いて後行する。ガスメタルアーク溶接の狙い位置の溶接線からのずれを最小にするため、ガスメタルアーク溶接の狙い位置はレーザーの狙い位置における溶接線の接線上に置く。レーザー溶接の狙い位置をガスメタルアーク溶接の狙い位置よりも優先するのは、ガスメタルアーク溶接のアークはレーザー照射位置に誘引されるので、ガスメタルアークの狙い位置が溶接線よりずれていても、実際のアークの溶接線よりのずれは狙い位置のずれより小さいからである。また、ガスメタルアーク溶接の狙い位置がレーザーの狙い位置における突合わせ溶接線の接線上にあるようにして溶接するためには、例えば、アークトーチがレーザートーチに対して一定の距離、角度を保つように固定され、レーザートーチを中心にして回転する機構を備えており、アークトーチが常に接線方向にあるようにすればよい。溶接線の各点での接線方向はトーチ位置のティーチングの際に入力あるいは溶接線の位置データより計算すればよい。
【0027】
第2の発明は、第1の発明の突合わせ溶接方法において、アーク溶接工程の後に溶接部を後熱処理する突合わせ溶接方法である。
【0028】
本発明の溶接方法は入熱が小さいため、溶接金属は急冷され硬化する場合がある。溶接部が硬化した場合には溶接部に焼き戻し熱処理を施し軟化させることができる。熱処理は生産性を考え高周波による加熱などが適しているが、このほかにデフォーカスしたレーザービームやガス炎、赤外線、電気抵抗加熱などをもちいてもよい。熱処理温度は500℃〜800℃で熱処理時間は0.1秒から100秒程度が好ましい。
【0029】
第3の発明では、レーザーの狙い位置は.溶接線方向に対して、ガスメタルアーク溶接の狙い位置よりも0mm〜8mm先行するように設定されている。レーザーの狙い位置とガスメタルアーク溶接の狙い位置の距離が、8mmを越えて設定された場合には、両者の距離が離れすぎているため、レーザー照射によるアークの安定化および集中効果が期待できなくなる。また、レーザーの狙い位置が、溶接線方向に対して垂直方向に、ガスメタルアーク溶接の狙い位置がずれた場合でも、プラスマイナス2mm以内に設定されていれば、レーザー照射によるアークの安定化および集中効果が認められ、好適である。なお、0〜8mmとは、レーザーの狙い位置とアーク溶接の狙い位置との間の直線距離ではなく、溶接線に沿う長さを意味する。
【0030】
第4の発明、第6の発明ではガスメタルアーク溶接を行う工程において用いる溶接ワイヤ材料の化学成分を質量%でC:0.0010〜0.030%,Si:0.02〜1.50%,Mn:0.02〜1.50%、残部が実質的に鉄および不可避的不純物からなると規定している。本発明の方法では溶接入熱が少ないため溶接金属は急速冷却され硬化する。溶接部が硬化すると結合部材の成形性が低下する。このため上記のように溶接ワイヤの成分を規定した。以下にそれぞれの成分をこのように規定した理由について述べる。
【0031】
C:0.0010〜0.030%
Cは鋼の焼入れ性を高め、溶接金属の硬化をもたらす元素である。このため0.030%以下とする。しかし、C濃度をあまり低くしすぎると粒界強度が低下して2次加工割れが生じやすくなるため0.0010%以上とする。
【0032】
Si:0.02〜1.50%
Siは脱酸元素として添加するほか、鋼を固溶強化するため用いられる。溶接中に酸素が空気中から溶接金属に混入し、鋼中のCと反応してCOとなりブローホールの原因となるのを防止するためSiは0.02%以上添加する。しかしながら過剰の添加は鋼の焼入れ性を高め溶接金属の硬化をもたらすため1.50%以下とする。
【0033】
Mn:0.02〜1.50%
Mnも脱酸元素として添加するほか、鋼を固溶強化するため用いられる。溶接金属の脱酸のため0.02%以上添加するが、過剰の添加は鋼の焼入れ性を高め溶接金属の硬化をもたらすため1.50%以下とする。さらに残部は実質的に鉄および不可避的不純物からなるが、本発明の作用効果を妨げない範囲で不可避的不純物以外の微量元素を含んでもよい。
【0034】
第5の発明は、本発明方法により得られた溶接結合薄鋼板で、成形性に優れ、継手強度のばらつきのないという優れた特性を有する。
【0035】
また発明では、レーザー光軸に対して、ガスメタルアークトーチの照射角度を5度以上、50度以下に設定するのが好ましい。
【0036】
レーザー光軸に対して、ガスメタルアークトーチの照射角度を5度未満に設定すると、レーザー溶接により形成される蒸発孔をガスメタルアーク溶接により供給される溶融金属が潰すため、溶け込み深さが減少すると同時に、その溶融金属にレーザーが照射されてスパッタの発生が誘発され、溶接継手品質を低下させるという問題を生じる。
【0037】
一方、レーザー光軸に対して、ガスメタルアークトーチの照射角度を50度越えに設定すると、レーザー照射によりレーザー光軸と同軸方向に形成される蒸発孔に対して、ガスメタルアーク溶接からの溶融金属の供給角度が急峻になるため、レーザー溶接部に安定に溶融金属を供給できず、ブローホールやハンピングビード等の溶接欠陥が発生しやすい。このような理由から、ガスメタルアークトーチの照射角度を5度〜50度とするのがよい。
【0038】
また、本発明のYAGレーザー発振器は、溶接に用いるため出力200ワット以上、好適にはキロワットクラスの出力が必要である。光学系には、変向用反射ミラーと数枚の正負の集束レンズを組み合わせた光学系を備えるものが好ましいが、レンズ系を用いずに凹面鏡と凸面鏡の組み合わせだけでレーザー光を集束するようにしてもよい。
【0039】
ガスメタルアーク溶接装置は、薄鋼板の溶接を対象とするため、溶接用ワイヤは直径1.2mm以下の細径ワイヤを用いるのが望ましい。シールドガスには、アークの安定性と溶接金属の酸化防止とを同時に達成するために、アルゴンガス等の不活性ガスを用いることが望ましいが、アルゴンガス中に炭酸ガスを10〜100%の範囲で混合させたガスおよびアルゴンガス中に水素ガス或いはヘリウムガスを2〜20%の範囲で混合させたガスを用いることもできる。
【0040】
【実施例】
以下、本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。
【0041】
[実施例1]
曲線の突合わせ溶接として直径300mmで1.6mm厚の薄鋼板の円板とそれに応じた大きさの円形の穴を持った同じ厚みの鋼板との突合わせ溶接を行った。突合わせの隙間を、0.05mmから0.50mmまで変えた試験片を準備した。溶接は、YAGレーザー溶接法のみ、ガスメタルアーク溶接法のみ、およびYAGレーザー溶接とガスメタルアーク溶接を複合化した本発明溶接法で行った。各溶接法の溶接条件を第1表に示す。
【0042】
第2表に、試験結果を示す。溶接試験の評価は、以下のように行った。溶け落ちがなく、継手強度が十分な溶接部が得られた場合を「○」とした。これに加えてスパッタの付着がなく、ハンピングによるビード幅のばらつきがほとんどなく、均一なビードが形成された場合を「◎」とした。また、溶け落ちは生じないが溶け込み深さの僅かな低下などにより溶接継手品質が若干低下する場合を「△」、溶接部が溶け落ちた場合を「×」とした。また、鋼板がつながらない場合も、継手強度がゼロのため、「×」とした。特に、ガスメタルアーク溶接法では、溶接速度が高速化するとアークが不安定となり溶接部が形成できなくなる。この場合も「×」とした。
【0043】
YAGレーザー溶接法では、溶接速度が1m/minと遅い場合には、鋼板隙間の許容量は0.05mmであるが、2.0m/min以上の溶接速度では、鋼板隙間が0.05mmでもアンダーフィルとなって健全な継手が得られない。これは、YAGレーザーではビード幅が約1mmと狭いため、溶接金属量が少なく、高々0.05mmの鋼板隙間があっても左右の鋼板をつなぐ溶接金属が不足するためである。
【0044】
ガスメタルアーク溶接法では、溶接速度が0.5m/minと遅い場合には、溶接入熱が過大となるため溶け落ちる。溶接速度が1.0m/minでは、溶接入熱が適正であり、鋼板隙間が0.4mmまでは健全な溶接部がえられるが、鋼板隙間が0.4mmを越えると、左右の鋼板がつながらない。溶接速度が1.0m/minを越えるとアークが不安定となり健全な溶接部が形成できなくなる。
【0045】
本発明法のレーザー・アーク複合溶接法では、溶接速度が0.5m/minと低速の場合においても、アークがレーザー照射部に集中し、溶接部幅はガスメタルアーク溶接法に比較して約50%と細くなるため、溶け落ちは生じない。また、鋼板隙間の許容量は0.3mmとなる。さらに、アークはレーザー照射により安定するため、溶接速度が1.0m/min以上の場合でも、ハンピングのない溶接部が得られ、鋼板隙間の許容量は0.3mmである。
【0046】
したがって、本発明法は、溶接の高速化と溶接精度の大幅な緩和が同時に達成できる。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
[実施例2]
レーザー光軸に対するガスメタルアークトーチの照射角度の溶接部品質に及ぼす影響を調査した。
【0050】
溶接実験では、直径300mmで1.6mm厚の薄鋼板の円板とそれに応じた大きさの円形の穴を持った同じ厚みの鋼板との突合わせ溶接をYAGレーザー溶接とガスメタルアーク溶接とを複合化した本発明溶接法で行った。また突合わせの隙間は0.2mmとした。レーザー光軸に対するガスメタルアークトーチの照射角度を3度から70度まで変化させた。その他の条件は、第1表に示す条件と同じである。また、溶接継手部の品質評価は、実施例1で実施した評価方法と同様の方法で行った。
【0051】
第3表に、溶接試験結果を示す。
【0052】
レーザー光軸に対して、ガスメタルアークトーチの照射角度が5度未満の場合はスパッタの発生が多く溶け込み深さが若干低下した。
【0053】
一方、レーザー光軸に対して、ガスメタルアークトーチの照射角度を50度越えに設定すると、レーザー溶接部にガスメタルアーク溶接からの溶融金属の供給安定にやや劣り、ハンピングビードとなっている。
【0054】
したがって、好ましくは、レーザー光軸に対して、ガスメタルアークトーチの照射角度を、5度以上、50度以下に設定することにより、健全な溶接部が得られる。
【0055】
さらに、レーザー光軸に対してガスメタルアークの照射角度を、10度以上、30度以下に設定すると、スパッタの付着が大幅に減少して、ハンピングによるビード幅のばらつきもほとんどなくなるため、レーザー光軸に対してガスメタルアークトーチの照射角度を10度以上、30度以下に設定することがより好ましい。
【0056】
【表3】
【0057】
[実施例3]
レーザーの狙い位置とガスメタルアーク溶接の狙い位置の溶接部品質に及ぼす影響を調査した。
【0058】
溶接実験では直径300mmで1.6mm厚の薄鋼板とそれに応じた大きさの円形の穴を持った同じ厚みの鋼板との突合わせ溶接をYAGレーザー溶接とガスメタルアーク溶接を複合化した本発明溶接法で行った。また突合わせの隙間は0.2mmとした。レーザーの狙い位置とガスメタルアーク溶接の狙い位置を、0mmから12mmまで変化させた。その他の条件は、第1表に示す条件と同じである。また、溶接継手部の品質評価は、実施例1で実施した評価方法と同様の方法で行った。
【0059】
第4表に、溶接試験結果を示す。
【0060】
レーザーの狙い位置とガスメタルアーク溶接の狙い位置の距離が8mmを越えて設定された場合には、両者の距離が離れすぎているため、レーザー照射によるアークの安定化および集中効果が低下して、溶け込み深さが僅かに減少している。
【0061】
したがって、好ましくはレーザーの狙い位置とガスメタルアーク溶接の狙い位置の距離を0mm以上、8mm以下に設定することが望ましい。
【0062】
レーザーの狙い位置とガスメタルアーク溶接の狙い位置の距離を0mm以上、2mm以下に設定すると、レーザー照射部によるアークの安定と集中効果がより顕在化するため、溶け込み深さの均一性が高まり、スパッタの発生も抑えられるため、レーザーの狙い位置とガスメタルアーク溶接の狙い位置の距離を0mm以上、2mm以下に設定するのがより好ましい。
【0063】
【表4】
【0064】
[実施例4]
図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている溶接装置の構成部品の形状、寸法およびその相対的配置等は特に特定的な記載がないかぎりは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0065】
図2には、本発明の実施形態に係るレーザー加工へッドが1で示されており、レーザー加工へッドに内蔵するファイバコネクタ、光ファイバー2を経て、レーザー発振器であるYAGレーザー発振器に接続している。
【0066】
さらに、アーク発生用のガスメタルアーク溶接ヘッド3は、前記のレーザー加工ヘッド1の先端部に、このレーザー加工ヘッド1と35度の角度をなし、また、レーザー光の狙い位置とガスメタルアークの狙い位置の距離を2mmに設定して、レーザートーチを中心として回転する機構6によって装着されている。また、ガスメタルアーク溶接ヘッド3はガスメタルアーク溶接装置に接続されたパワーケーブルと溶接用ワイヤ供給ケーブルとを同軸にしたケーブル5に接続されている。
【0067】
このように、レーザー発振器から発振されたレーザー光を加工位置に集束させる光学系を備えるレーザー加工ヘッドの先端部に、ガスメタルアーク溶接トーチを取付けることにより、コンパクトなレーザー・アーク複合溶接トーチを形成することができる。
【0068】
また、このレーザー・アーク複合溶接トーチは、産業用ロボットのアーム7に支持されていることにより、汎用性のある産業用ロボットを中心とした設備構成でレーザー・アーク複合溶接を実現できる。
【0069】
なお、溶接方向は、符号8に示すように、レーザーが先行する方向に行われる。溶接は、材料9a(薄鋼板)と材料9b(薄鋼板)とを突合わせた継手である。
【0070】
図2を用いてレーザーの狙い位置とメタルアークの狙い位置の関係を説明する。曲線の溶接線10を11の方向に溶接を行う。この場合にレーザーの狙い位置12は溶接線上を移動する。このときガスメタルアークの狙い位置13は狙い位置12における溶接線の接線14上にくるように、回転機構6によりガスメタルアーク溶接ヘッド3を接線14の方向に回転させる。溶接線上の各点での接線の方向は溶接線の位置をティーチングする際に自動的に計算される。
【0071】
[実施例5]
曲線の突合わせ溶接として直径300mmの薄鋼板とそれに応じた大きさの円形の穴を持った同じ厚みの鋼板との突合わせ溶接を本発明のレーザー・アーク複合溶接法により作成した。突合わせの隙間は0.2mmである。
【0072】
溶接に用いた鋼板は厚み0.8,1.6,2.4mmの340MPa級冷延鋼板である。溶接条件は第5表に示す。
【0073】
また、比較のため、レーザーの狙い位置とガスメタルアークの狙い位置の間隔を2mmとし、両者の位置関係を一定に保って平行移動させるだけで、レーザーの狙い位置を溶接線とし、溶接線上を移動させて溶接を行った。この場合には、ガスメタルアークの狙い位置が溶接接線上にないため、突合わせ隙間を埋めることができず、溶接部が溶け落ちた。
【0074】
【表5】
【0075】
またガスメタルアークに用いた溶接ワイヤの組成を第6表に示す。
【0076】
【表6】
【0077】
球頭張り出し試験、穴拡げ試験を行ない、溶接部の成形能を調査した。また、球頭張り出し試験片および試験条件は図3,第8表に、穴拡げ試験片および試験条件は図4,第9表に示したとおりである。試験結果を第7表に示す。この表から、本発明の溶接結合部材は成形性に優れていることがわかる。
【0078】
【表7】
【0079】
【表8】
【0080】
【表9】
【0081】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のレーザー溶接とガスメタルアーク溶接とを複合化したレーザー・アーク複合溶接方法によれば、レーザー光軸に対してアーク軸を、5度以上、50度以下の範囲に傾斜して、また、レーザーとアークとの照射位置間隔を0mm以上、8mm以下に設定することにより、レーザー溶接とアーク溶接の長所を生かせることになり、以下のような効果を奏する。
【0082】
(1)レーザー単体およびアーク単体での溶接に比較して、突合わせ溶接継手の許容隙間量が、大幅に拡大できる。
【0083】
(2)アーク単体溶接に比べて大幅に高速化でき、レーザー溶接並みの高速度溶接が可能である。
【0084】
(3)レーザー加工ヘッドとガスメタルアーク溶接へッドが、汎用性のある産業用ロボットのアームに容易に支持されることにより、簡易な設備構成のもとで、曲線の溶接線の突合わせ溶接を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係るレーザー・アーク複合溶接装置を示す構成図。
【図2】本発明の実施形態に係るレーザー溶接およびガスメタルアーク溶接の狙い位置の関係を示す図。
【図3】本発明による溶接結合材の球頭張出し試験の試験片形状を示す図。
【図4】本発明による溶接結合材の穴拡げ試験の試験片形状を示す図。
【符号の説明】
1…レーザー加工ヘッド、2…光ファイバー、3…ガスメタルアーク溶接ヘッド、4…溶接用ワイヤ、5…パワーケーブルと溶接用ワイヤ供給ケーブルの同軸ケーブル、6…ガスメタルアーク溶接へッドの回転機構、7…産業用ロボットアーム、8…溶接方向、9a,9b…薄鋼板、10…溶接線、11…溶接方向、12…レーザー溶接の狙い位置、13…ガスメタルアーク溶接の狙い位置、14…レーザー溶接の狙い位置における溶接線の接線。
Claims (4)
- 溶接線が曲線となる薄鋼板の突合わせ部を溶接する際に、突合わせ部にYAGレーザーを照射する工程と、質量%で、C: 0.0010 〜 0.030 %、Si: 0.02 〜 1.50 %、Mn: 0.02 〜 1.50 %、残部Fe及び不可避的不純物からなる成分組成を有する溶接ワイヤ材料を用いて、前記レーザー照射工程後の高温領域の溶接予定位置においてガスメタルアーク溶接の狙い位置がレーザーの狙い位置における溶接線の接線上にあるように、ガスメタルアーク溶接を行う工程とを備えたことを特徴とする突合わせ溶接方法。
- 溶接線が曲線となる薄鋼板の突合わせ部を溶接する際に、突合わせ部にYAGレーザーを照射する工程と、前記レーザー照射工程後の高温領域の溶接予定位置においてガスメタルアーク溶接の狙い位置がレーザーの狙い位置における溶接線の接線上にあるように、かつレーザーの狙い位置から0mm以上8mm以下後方に位置するように、ガスメタルアーク溶接を行う工程と、前記ガスメタルアーク溶接工程の後に溶接部を500〜800℃の温度範囲に加熱する後熱処理を行う工程とを備えたことを特徴とする突合わせ溶接方法。
- 板厚0.3mm〜6mmの範囲の薄鋼板に対し、請求項1または2のいずれか1の溶接方法をおこなって得られた溶接結合薄鋼板。
- 請求項1または2のいずれか1の溶接方法のガスメタルアーク溶接工程に用いられ、質量%で、C: 0.0010 〜 0.030 %、Si: 0.02 〜 1.50 %、Mn: 0.02 〜 1.50 %、残部Fe及び不可避的不純物からなる溶接ワイヤ材料。
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