JP3760181B2 - 磁力支持天秤装置における抗力較正方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、磁石を内部に有する風洞模型を風洞中に磁力支持する磁力支持天秤装置における抗力較正方法に関する。
【0002】
【従来技術】
従来、物体の空力的な特性を模型で得るため風洞設備の測定部において模型を支持体で支持することが一般的に行われてきたが、支持体自体が模型表面における空気流れに影響を及ぼすので、試験結果をそのまま模型の空力特性として採用することができない。そこで、風洞試験において、模型を磁力で支持することが提案されている。模型を磁力支持することによって支持体が不要となるので、支持体が存在することによる、模型周りの空力的な影響を取り除くことができる。
【0003】
模型を磁力支持する磁力支持天秤装置は、風洞試験において模型の周りを流れる気流が模型に作用する抗力等の空気力を、模型の内部に設けられる磁石と相互作用する磁気力を生じさせるために設けられているコイルに流す電流の大きさに置き換えて測定する装置である。こうした空気力とコイル電流の大きさとの関係を調べて予めマップ、関数、表等の対応関係を用意しておき、この対応関係をコイル電流の測定値に当てはめることによって、模型に作用する抗力等の空気力を知ることができる。
【0004】
図3及び図4を参照して、磁力支持型風洞及びそれにおける磁力支持天秤装置の概要を説明する。磁力支持天秤装置20は、模型支持に伴う支持装置と気流との干渉を避けるため風洞模型1を磁気の力で気流中に支持する装置であり、支持干渉のない風洞試験を実現することができる。風洞模型1には磁化された物質、超伝導コイルのような電流を流し続けているコイル、或いは永久磁石等から成る磁石体が搭載される。風洞模型1の磁石体には、風洞の測定部の周りに配置したコイルに電流を通じることにより生じた外部磁場との磁気作用によって磁気力が生じ、風洞模型1を磁気的に浮上支持させることができる。外部磁場は、コイル23〜26と、コイル27〜30から成る二つの磁気回路21,22と、その外側の空芯コイル31,32とによって発生され、磁気回路21,22の各コイルに流れる電流を調節することにより、磁気回路21,22内のy−z面内での磁場の強さと方向及びそれらのx軸方向の変化率を連続的に変化させることができる。また、空芯コイル31,32に流れる電流を調節することによりx軸方向磁場の強さのx軸方向で見た変化率を制御でき、都合5軸の制御が可能である。即ち、磁気回路21,22は、風洞模型1に働く揚力と縦揺れモーメントとに対抗する磁気力を与える揚力コイルとして機能し、空芯コイル31,32は風洞模型1に働く抗力に対抗する磁気力を与える抗力コイルとして機能している。
【0005】
風洞には、風洞模型1とコイル23〜32の他に、各コイルを駆動する電源系、風洞模型1の位置と姿勢とを計測する計測系(図1に示す測定装置36)、風洞模型1の位置と姿勢とを制御する制御系が組み込まれている。図4に示すように、計測系であるカメラ33が検出した風洞模型1の位置姿勢に関する計測データは、パソコン等の計算機34に送信され、計算機34での演算結果をアンプ35にて増幅した後、各コイル23〜32に制御された駆動電流を通じている。
【0006】
ところで、風洞試験の重要な試験項目の一つとして、風洞模型に気流の流れ方向に働く抵抗力を測定する抗力測定がある。流体中を移動するときに物体に作用する抗力を僅かでも低減させることができれば、移動に要するエネルギーが少なからず改善されて省エネルギーに貢献することができるので、抗力測定を極力正確に行うことが求められている。しかしながら、模型内に設けられる磁石の強さは経年変化によって少なからず劣化するので、時間の経過に伴って、当初得られている対応関係が実際の対応関係とは必ずしも一致しなくなるおそれがある。抗力測定においても、経年変化によって、磁石の強さとコイルに流す電流との間の対応関係も異なってくるので、磁力支持天秤装置の抗力較正を行う必要がある。
【0007】
磁力支持天秤装置の抗力較正は、通常、流れを止めた風洞の中に風洞模型を置き、仮に気流を流したとしたときに気流の流れ方向に生じるであろう抗力を何らかの方法で外力として加え、この力に釣り合う磁気力を発生させる抗力コイルに流される抗力コイル電流値を計測し、加えた力と抗力コイル電流値との対応関係を得ることによって可能となる。この対応関係に基づいて、実際に気流を流して行われる風洞試験で磁力支持中の模型に加わる抗力の評価を、釣合い状態での抗力コイルに流される抗力コイル電流値を測定することで行うことができる。
【0008】
抗力較正を含む縦三分力の較正方法の概略が図5に示されている。風洞測定部において磁力支持天秤装置20によって風洞模型1を磁力支持した状態で、抗力D、揚力L、縦揺れモーメントmに相当する力やモーメントを重りによって付加し、対応する各コイル電流が測定される。質量Mdの重りに働く重力Md・g(抗力Dに相当、gは重力加速度(以下同じ))は、抗力コイル31に流れる抗力コイル電流Ixに比例する。揚力Lは、質量Mlの重りに働く重力Ml・gと釣り合っており、揚力コイル21に流れる揚力コイル電流Iz1と揚力コイル22に流れる揚力コイル電流Iz2との和に比例し、縦揺れモーメントmは、質量Mmの重りに働く重力Mm・gと腕の長さs/2との積であって、揚力コイル21に流れる揚力コイル電流Iz1と揚力コイル22に流れる揚力コイル電流Iz2との差に比例している。
【0009】
抗力較正において、既知の力を加えるには、図5に示したように、そうした力を風洞模型1に与えるための機器の組立、調整、準備等の煩雑な作業が求められる。また、抗力に相当する力を変更するには、重りMd,Ml,Mmを交換し、その交換後、再度の釣り合い及び調整が必要であり、風洞模型1の動きが停止するまで待つ必要もある。このため、頻繁な抗力較正は現実には困難であり、較正時期の間隔が開き、抗力測定精度自体にも悪影響が出る虞れがある。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、磁力支持天秤装置の抗力較正において、抗力は気流によって模型に作用する他の空気力よりも比較的小さいことに着目し、重りに依らずとも、抗力と同等の気流流れ方向の力を得ることを可能にする点で解決すべき課題がある。
【0011】
この発明の目的は、重りを用いる場合に避けることができなかった、機器の組立、調整、準備、重りの交換等の煩雑な作業をなくし、時間やコストの観点で簡便で効率的に抗力較正を実施することを可能にする磁力支持天秤装置における抗力較正方法を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、この発明による磁力支持天秤装置における抗力較正方法は、気流によって風洞模型に作用する抗力に釣り合わせるため通電することにより磁気力を発生させる抗力コイルを備えた磁力支持天秤装置に関して、前記抗力に相当する力として前記風洞模型に作用される大きさが既知の力に釣り合わせるために前記抗力コイルに流される電流を求めることによって、前記抗力と前記電流との対応関係を較正する抗力較正方法において、前記風洞模型の重さをmgとし、重力のみが作用している前記風洞模型を前記磁力支持天秤装置で釣合い状態に磁力支持したときの前記風洞模型の基準ピッチ角及び前記基準ピッチ角の周りの微小ピッチ角をそれぞれθ0 ,θとしたとき、下式で定められる力Fdを前記風洞模型に作用する前記抗力に相当する力であると見なすことを特徴としている。
【数3】
【0013】
この磁力支持天秤装置における抗力較正方法によれば、風洞模型の重さmgは、磁力支持天秤装置外において十分高い精度で測定可能であり、また、重力のみが作用している風洞模型を磁力支持天秤装置で釣合い状態に磁力支持したときの気流の流れ方向に対する風洞模型の基準ピッチ角θ0 、及び基準ピッチ角θ0 の周りの微小ピッチ角θも、風洞模型が磁力支持天秤装置内に置かれているとしても、光学的に十分な精度で測定可能である。従って、風洞模型の姿勢を変更するだけで、大きさが分かった異なる抗力が風洞模型に作用したのと同じ状況が生じ、釣合い状態において、上記式で定められる力Fdを試験時に風洞模型に作用する空気力の一つである抗力に相当する力であると見なすことができ、そのときの抗力コイル電流を計測することにより、抗力と前記電流との対応関係を較正することが可能になる。
【0014】
この磁力支持天秤装置における抗力較正方法において、前記基準ピッチ角θ0 が零であるとき、下式で定められる力Fd’を前記風洞模型に作用する前記抗力に相当する力であると見なすことを特徴としている。
【数4】
この抗力較正方法によれば、風洞模型が飛行機等の飛翔体であるときに最も普通に採り得る姿勢の近傍である基準ピッチ角θ0 が零である状態に対して、試験時に風洞模型に空気力の一つとして作用する抗力に相当する力を、より簡単な式で得ることが可能である。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、この発明による磁力支持天秤装置における抗力較正方法の実施の態様を説明する。図1はこの発明による磁力支持天秤装置における抗力較正方法における座標と関連する物理量の概要を示す説明図である。
【0016】
図1に示すように、風洞模型1の重心を原点とする直交座標が縦面内に定められ、z軸を鉛直上方、x軸を風洞における気流の流れ方向に、またy軸はこれら両軸と右手系を成す方向に設定される。x軸は、基準ピッチ角θ0 が零であるとき、模型長軸方向と一致する方向に取るのが好ましい。ここで用いる物理量等の記号の定義は、以下のとおりであり、括弧内はその単位である。
F : 風洞模型1に働く力(N)
M : 風洞模型1に内蔵される磁石2の磁気モーメント(Wbm)
M0 : 風洞模型1に内蔵される磁石2の磁気モーメント(Wbm)
H : 磁力支持天秤装置が生じる磁場の強さ(AT/m)
m : 風洞模型1の質量
θ : 風洞模型1のピッチ角(rad)
なお、M,F,Hはベクトル量、M0 ,m,θはスカラー量であり、磁力支持天秤装置20は図3に示すのと同じ構造のものでよく再度の説明を省略する。
【0017】
上記の物理量の間には、以下の関係式がある。
【数5】
ここで、M=(Mx,My,Mz)
Mx=M0 ・cosθ
My=0
Mz=M0 ・sinθ
即ち、Myが零であるので、気流の流れに沿った縦面を横切る磁気モーメント成分はない。式(1)に上記のMを当てはめると次のようになる。
【数6】
【数7】
【0018】
ここで、電流は測定部内部を流れていないので、次の式(4)の関係がある。
【数8】
磁気支持天秤装置20では、浮揚させる風洞模型1は略水平の姿勢を有しており、基準ピッチ角θ0 は零の近傍にある。
また、磁場については、多くの場合、風洞模型1を浮揚させるために、コイル系21,22,31,32を|∂Hz/∂x|が大きな値となるように駆動している。即ち、
【数9】
更に、抗力は、多くの風洞実験では、他の空力荷重の3つの方向成分中、最も小さい値であり、それゆえ、較正の範囲は狭い。抗力は、本磁力支持天秤装置でも最大で風洞模型1の重さmgの5分の1であるので、ここでは、実用上の抗力較正範囲として模型模型1の重さmgの10分の1とする。
【0019】
風洞模型1について、鉛直方向の力の釣り合い、及びピッチ角θが小さい値であること、更に式(3)は、式(5)から、第2項が第1項に比べて十分小さく無視可能であるので、次のようになる。
【数10】
【0020】
一方、風洞模型1は静止流れの中に置かれており、流れがあるとしたときの流れ方向(x軸方向、図5でU∞で示す)については風洞模型1に働く力は釣り合っているから、式(2)自体は次のように表され、また式(4)及び式(6)を用いて更に変形すれば、式(7)が得られる。
【数11】
【0021】
式(7)の左辺第2項は、風洞模型1の重さmgとピッチ角θの正接の積である。しかも、重さmgについては磁力支持天秤装置20外で測定可能であり、またピッチ角θについても、風洞模型1が磁力支持天秤装置20で浮揚支持されていても光学的に測定可能である。即ち、風洞模型1が磁気力で浮揚支持されて釣合い状態にあるときには、磁気の作用に基づく流れ方向(x軸方向)の力の成分であるM0 ・cosθ・(∂Hx/∂x)を、風洞模型1の測定可能な重さmgとピッチ角θから求めることができる。即ち、ピッチ角θの変化が上記の狭い範囲内で抑まるように抗力コイル電流Ixを変更していくとき、釣合い状態では、抗力コイル(図5の抗力コイル31,32を参照)の磁気作用によって生じる力であるM0 ・cosθ・(∂Hx/∂x)の値はmg・tanθに等しく、mg・tanθは釣合い状態にあるときの流れ方向(x軸方向)力、即ち試験時に風洞模型1に作用する抗力に相当する力と見なすことができる。そのようにして得られた釣合い状態において、抗力コイル電流Ixの値と抗力(mg・tanθ)の値との組データは、磁石劣化等の場合には、抗力較正となり、即ち古い対応関係に取って代わる新しい対応関係を定めることができる。
【0022】
ピッチ角θが零の近傍でない場合には、ピッチ角は零でない有意の値の基準ピッチ角θ0 の周りに微小ピッチ角θで変動しているとして、次のように、x軸方向の荷重を近似することができる。即ち、式(6)に対応する式として、
【数12】
式(2)に対応する式として、
【数13】
式(8)と式(9)から式(7)に対応する式として、式(10)が得られる。
【数14】
ここで、θは微小であるとすると、
cos(θ0 +θ)≒cosθ0 ・cosθであるので、式(10)は次の式(11)となる。
【数15】
【0023】
式(11)において、その狭い範囲内でピッチ角の変動分θ内で、抗力コイル電流Ixを変更して風洞模型1を釣合い状態にもたらすと、抗力コイル31,32の磁気作用によって生じさせた力であるM0 ・cosθ0 ・(∂Hx/∂x)の値は−mg・tan(θ0 +θ)/cosθに等しい。即ち、ピッチ角の変動分θが小さい場合に、流れ方向(x軸方向)に風洞模型1に働く力を釣り合わせたときには、計測可能な値から求まるmg・tan(θ0 +θ)/cosθは、釣合い状態にあるときの流れ方向(x軸方向)力、即ち試験時に風洞模型1に空気力の一つとして作用する抗力に相当する力であると見なすことができる。そうした釣合い状態から得られた抗力コイル電流Ixの値と、抗力(mg・tan(θ0 +θ)/cosθ)の値との組データは、磁石劣化等の場合には、新しい対応関係を定める抗力較正を提供することができる。
【0024】
図2(A)は重りを用いて行う抗力較正の結果を示す図であり、図2(B)は模型の傾斜を利用して行う抗力較正の結果を示す図である。両図とも、横軸は抗力コイル電流Ix(アンペアA)、縦軸は抗力Fd(ニュートンN)であり、大きい抗力が生じているときには、当然ながら抗力コイル電流Ixが大きくなっている。図中、R2 は測定値の分散に対応する値であり、値1が分散ゼロに対応する。重りを用いた較正において図2(A)に示すような抗力コイル電流Ixと抗力Fdとの対応関係に現れる直線性が、模型の傾きに基づいた図2(B)に示す抗力Fdの較正においても良く得られている。両者の抗力コイル電流Ixと抗力Fdとの線型的な対応関係において、傾き及び切片の各値において良く近似しており、模型の傾きを利用した対応関係によって抗力較正を行うことの有用性を確認することができる。
【0025】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明による磁力支持天秤装置における抗力較正方法によれば、風洞模型の重さについては、磁力支持天秤装置外において十分高い精度で測定可能であり、また、重力のみが作用している風洞模型を磁力支持天秤装置で釣合い状態に磁力支持したときの気流の流れ方向に対する風洞模型の基準ピッチ角θ0 、及び基準ピッチ角θ0 の周りの微小ピッチ角θも、光学的に十分な精度で測定可能である。風洞模型を重りで引っ張るということをしなくても、風洞模型のピッチ角姿勢を変更するだけで、抗力に相当する力と見なすことができる大きさが既知の力が風洞模型に作用したのと同じ状況が生じる。その釣合い状態を維持するために抗力コイルに流される抗力コイル電流を計測することにより、両者間に新しい対応関係が定められ、例えば磁石劣化に起因した抗力と抗力コイル電流との間でずれを生じた対応関係を較正することができる。従って、重りを用いた抗力較正では避けることができなかった、機器の組立、調整、準備、重りを交換等の煩雑な作業も必要なくなり、時間やコストの観点で簡便で効率的な抗力較正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明による磁力支持天秤装置における抗力較正方法における座標と関連する物理量の概要を示す説明図である。
【図2】この発明による磁力支持天秤装置における抗力較正方法の有用性を示す図である。
【図3】この発明による磁力支持用風洞模型が用いられる磁力支持天秤装置の概略図である。
【図4】磁力支持天秤装置の概念図である。
【図5】磁力支持天秤装置における従来の抗力較正方法を示す概略図である。
【符号の説明】
1 風洞模型
2 磁石
20 磁力支持天秤装置
31,32抗力コイル
Ix 抗力コイル電流
mg 風洞模型の重さ
θ0 風洞模型の基準ピッチ角
θ 微小ピッチ角
D 風洞模型に作用する抗力
Fd,Fd’ 風洞模型に作用する抗力相当力
Claims (2)
- 気流によって風洞模型に作用する抗力に釣り合わせるため通電することにより磁気力を発生させる抗力コイルを備えた磁力支持天秤装置に関して、前記抗力に相当する力として前記風洞模型に作用される大きさが既知の力に釣り合わせるために前記抗力コイルに流される電流を求めることによって、前記抗力と前記電流との対応関係を較正する抗力較正方法において、前記風洞模型の重さをmgとし、重力のみが作用している前記風洞模型を前記磁力支持天秤装置で釣合い状態に磁力支持したときの前記風洞模型の基準ピッチ角及び前記基準ピッチ角の周りの微小ピッチ角をそれぞれθ0 ,θとしたとき、下式で定められる力Fdを前記風洞模型に作用する前記抗力に相当する力であると見なすことを特徴とする磁力支持天秤装置における抗力較正方法。
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