JP3759781B2 - 生分解性の潤滑油用基油および潤滑油組成物 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は生分解性に優れる潤滑油用基油及び潤滑油組成物に関するものである。更に詳しくは、潤滑油組成物が漏洩することで河川、地下水、土壌、海洋等に混入する可能性のある潤滑油用途に使用されても、当該地域を汚染する恐れのない生分解性に優れた潤滑油用基油及び潤滑油組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
建設機械に使用される油圧作動油、グリース油、木の伐採に使用されるチェーンソーに使用されるチェーンソー油、レジャーボートに使用される2−サイクルエンジン油等の潤滑油組成物は、その殆どが鉱物油を主成分とするものである。一方、これらの用途に於いては、運転時に潤滑油の飛散および漏洩等で河川、地下水、土壌、海洋等に混入することが避けられない。そして、鉱物油を主成分とする従来の潤滑油組成物は生分解性が低いため、近年、それらによる環境汚染への影響が深刻な問題となってきている。
【0003】
このような環境問題を解決する手段として、菜種油等の天然油脂を主成分とする生分解性を高めた潤滑油組成物が報告されている。例えば、特開平5−230490号公報には菜種油、大豆油、ゴマ油、ひまし油等の植物系油80〜98重量%および添加剤2〜20重量%からなる生分解性チェーン油が開示されている。また、特表平5−503949号公報には精製菜種油および/または大豆油を主成分にして特定な酸化防止剤およびエステル成分を配合した作動油が開示されている。
しかしながら、これらの天然油脂を主成分とするものは生分解性に優れるものの天然油脂中に不飽和結合が多い為、酸化劣化を受けやすく熱酸化安定性に問題がある。
【0004】
WO95/02659号明細書には、グリセリンに対して0.5〜3モルのエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシドを付加した化合物を炭素数6〜24の飽和または不飽和脂肪酸でエステル化した化合物、または天然油脂に0.5〜3モルのエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシドを挿入した化合物を主成分とする生分解性に優れる作動油用基油および組成物が開示されている。しかしながら、グリセリンに対して用いるエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシドが0.5〜3モルの範囲のものは、作動油として必要な低温流動性を満足させるためには不飽和部を多くしなければならないため、本発明で問題とする熱酸化安定性が改善されていない。
【0005】
一方、特開平1−230697号公報には、天然油脂と3価以上の多価アルコールの混合物に天然油脂1モルあたり10〜100モルのアルキレンオキシドを付加して得られる反応生成物を必須成分として含有することを特徴とする金属加工用潤滑剤が開示されている。しかしながら、かかる潤滑剤は金属加工の分野において、トリグリセライド構造を有する天然油脂の潤滑性を維持しつつ、それを水可溶化して乳化型潤滑剤の欠点を改善することを目的としたものであり、その生分解性についての記載は存在しない。また、前記のような油圧作動油、チェーンソー油、2−サイクルエンジン油等とは異なり、環境汚染防止の為に生分解性が課題となることのない潤滑油である。
【0006】
また、フロンを冷媒とする冷凍機油用潤滑油として、特開平4−328197号公報には、グリセリン系ポリアルキレンポリオールの末端の水酸基をモノ脂肪族カルボキシル化合物でエステル化した化合物を主成分とするフロン冷媒用潤滑油が開示されている。さらには、特開平2−276881号公報には、一価アルコール、二価アルコールおよび三価アルコールのポリアルキレンポリエーテルの末端水酸基の全部または一部をアシル化した化合物を含有するテトラフルオロエタン系冷凍機用組成物が開示されている。
【0007】
しかしながら、冷凍機油用潤滑油として提供されるこれらの化合物は、冷媒であるフロン雰囲気下で使用されることから、フロンとの相溶性を重視して開発されたものであり、また冷凍機は密閉系の潤滑システムであることから、冷凍機油用潤滑油は環境汚染防止の為に生分解性が課題となることのない基油である。従って、上記の化合物は本発明のように生分解性を付与するために合成されたものではなく、これらの上位概念で記載された化合物のうち、如何なるものが生分解性を示すのか等については、全く記載されていない。
また、環境汚染防止の為に、自然界に漏洩することの多い油圧作動油及びグリース油はより高い生分解性が要求されるが、生分解性に優れるとともに熱酸化安定性に優れた油圧作動油及びグリース油は従来知られていなかった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、生分解性に優れるとともに、熱酸化安定性に優れた潤滑油用基油および潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、油脂原料から得られる特定の油脂誘導体からなる潤滑油用基油が生分解性および熱酸化安定性を満足するものであることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、
(1)天然油脂、多価アルコール、及び油脂1モルに対して5〜150モルのアルキレンオキシドを原料として用い、これらを混合した状態でアルキレンオキシドの付加反応とエステル交換反応を行うことによって得られる油脂誘導体からなる生分解性の油圧作動油用又はグリース油用の基油、
(2)ヨウ素価が50(Ig/100g)以下である前記(1)記載の基油、
(3)油脂1モルに対して9〜90モルのアルキレンオキシドを用い、かつ、アルキレンオキシドに占めるエチレンオキシドの割合が40〜100モル%、プロピレンオキシドの割合が0〜60モル%である前記(1)又は(2)記載の基油、
(4)油脂1モルに対して5〜30モルのアルキレンオキシドを用い、かつ、アルキレンオキシドに占めるエチレンオキシドの割合が0〜40モル%、プロピレンオキシドの割合が60〜100モル%である前記(1)又は(2)記載の基油、
(5)前記(1)〜(4)いずれかにおいて記載の油脂誘導体が有する末端水酸基の一部または全部を、脂肪族カルボン酸またはそのエステル誘導体を用いてエステル化することで得られる生分解性の油圧作動油用又はグリース油用の基油、
(6)一般式(III)で表される化合物を含有してなる前記(1)〜(5)いずれか記載の基油、
【0011】
【化3】
【0012】
(式中、AOはアルキレンオキシド、a1、a2、a3はそれぞれ独立に0または正の整数、かつ、a1+a2+a3が5〜150である。X1 、X2 、X3 はそれぞれ独立にHまたはR’CO基(R’は脂肪族カルボン酸又は油脂由来のアルキル基)、かつX1、X2 、X3 のうち少なくとも1つはR’CO基である。)
(7)前記(1)〜(6)いずれか記載の基油を50重量%以上含有してなる生分解性の油圧作動油用又はグリース油用組成物、並びに
(8)更に、 (1) 鉱物油、 (2) 天然油脂または合成油脂、 (3) ポリ−α−オレフィン、 (4) ポリブテン、及び (5) ポリオールエステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の潤滑油用基油を含有してなる前記(7)記載の生分解性の組成物、
に関する。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の潤滑油用基油は、環境汚染防止のため生分解性が要求される潤滑油組成物に用いることのできる基油である。より具体的には、前述のような油圧作動油、グリース油、チェーンソー油、2−サイクルエンジン油等が代表的な用途であり、更に、4−サイクルエンジン油、ギヤ油等の用途に用いられる。これらの中でも本発明の潤滑油用基油は、環境への影響がより深刻である建設機械等に使用され、且つ高い熱酸化安定性が要求される油圧作動油およびグリース油用途に特に好適に用いられる。即ち、運転時に潤滑油の飛散および漏洩等で河川、地下水、土壌、海洋等に混入することが避けられず、近年、それによる環境汚染への影響が問題となっている分野であれば、特に限定されない。
【0016】
本発明における生分解性とは、微生物によって分解できる物質の性質をいうものである。したがって、本明細書中の生分解性の潤滑油用基油および潤滑油組成物とは、微生物によって分解できる物質を用いた潤滑油用基油および潤滑油組成物を指す。
【0017】
本発明の潤滑油用基油は、製造に用いられる原料の相違により、2つの態様に大別される。即ち、第1の態様は、油脂、多価アルコール、及び油脂1モルに対して5〜150モルのアルキレンオキシドを混合した状態でアルキレンオキシドの付加反応とエステル交換反応を行うことによって得られる油脂誘導体からなる生分解性の潤滑油用基油であり、第2の態様は、油脂、脂肪族カルボン酸、及びアルキレンオキシドを混合した状態でアルキレンオキシドの付加反応とエステル交換反応を行うことによって得られる油脂誘導体からなる生分解性の潤滑油用基油である。
なお、以下の説明において、態様別に記載されていない部分は、両態様に共通する内容である。
【0018】
本発明における油脂とは、脂肪酸類のグリセリンエステルを主成分とするものを指し、天然油脂、合成油脂および硬化油脂を包合する。
天然油脂としては、ヤシ油、パーム油、パーム核油、オリーブ油、大豆油、ナタネ油、棉実油、アマニ油、ヒマワリ油、サフラワー油、コーン油、ゴマ油、ヒマシ油などの植物油、牛脂、豚脂、骨油などの動物油、イワシ油、サバ油、サメ肝油などの魚油およびこれらの油脂の精製工程で得られる回収油等が挙げられる。
【0019】
また、合成油脂としては、飽和あるいは不飽和脂肪酸とグリセリンから合成されるモノグリセリド、ジグリセリドおよびトリグリセリドなどのグリセリンエステル誘導体が挙げられる。
硬化油脂としては、上記天然油脂および合成油脂を水素添加することでそのアルキル鎖中の不飽和結合の全部或いは一部を飽和結合へ還元したものである。
【0020】
これらの油脂の中で、熱酸化安定性の面から不飽和結合の数が少ないもの程好ましい。従って、ヨウ素価(Ig/100g)が120以下が好ましく、60以下がさらに好ましく、特にヨウ素価が30以下である油脂が好ましく、具体的には硬化油脂、ヤシ油、パーム核油などが挙げられる。
また、低温流動性の面からは平均炭素数16以下、特に平均炭素数8〜16の炭化水素基を含有するもの、例えばヤシ油やパーム核油等が好ましい。
【0021】
本発明の第1の態様における多価アルコールは、炭素数2〜60を有するものが好ましく、炭素数2〜30を有するものがより好ましい。アルコールの価数でいえば、2〜20価のアルコールが好ましく、2〜10価のアルコールがより好ましく、2〜6価のアルコールが特に好ましい。
【0022】
具体的には、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の2価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール等の3価アルコール、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ポリグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、マンニトール、ソルビトール等の4価以上のアルコールが挙げられる。
これらのうち、好ましくはグリセリン、ジグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、エチレングリコールが用いられる。
【0023】
本発明の第2の態様における脂肪族カルボン酸は、飽和直鎖カルボン酸、飽和分岐カルボン酸、不飽和直鎖カルボン酸、不飽和分岐カルボン酸等のモノカルボン酸や、直鎖および分岐ジカルボン酸、不飽和カルボン酸の多量化反応などにより得られるジカルボン酸、トリカルボン酸等の多価カルボン酸等が挙げられる。具体的には、(1) 炭素数1〜12の直鎖モノカルボン酸、(2) 炭素数4〜20の分岐モノカルボン酸、(3) 炭素数4〜20の直鎖および分岐ジカルボン酸、及び(4) 炭素数3〜18の不飽和カルボン酸の多量化反応により得られる多価カルボン酸、よりなる群から選ばれる1種以上の脂肪族カルボン酸であることが好ましい。
【0024】
炭素数1〜12の直鎖モノカルボン酸の具体例として、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、カプロン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、ノナン酸、カプリン酸、ラウリン酸等の飽和直鎖モノカルボン酸;ヘキセン酸、ノネン酸、デセン酸等の不飽和直鎖モノカルボン酸が例示され、これらの中でも低温流動性及び熱酸化安定性の点から飽和直鎖モノカルボン酸が好ましい。さらに好ましくは、炭素数6〜10の飽和直鎖モノカルボン酸であるカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸などが用いられる。
【0025】
炭素数4〜20の分岐モノカルボン酸の具体例として、イソ酪酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、3−メチルヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、イソステアリン酸等の飽和分岐モノカルボン酸;メタクリル酸等の不飽和分岐モノカルボン酸などが例示され、これらの中でも低温流動性及び熱酸化安定性の点から飽和分岐モノカルボン酸が好ましい。さらに好ましくは、炭素数6〜18の飽和分岐モノカルボン酸である2−エチルヘキサン酸、イソステアリン酸などが用いられる。
また、炭素数4〜20の直鎖および分岐ジカルボン酸の具体例として、コハク酸、アジピン酸等の飽和ジカルボン酸;マレイン酸、フマール酸、アルケニルコハク酸等の不飽和ジカルボン酸等が用いられる。
【0026】
炭素数3〜18不飽和カルボン酸の多量化反応により得られる多価カルボン酸の具体例として、オレイン酸の二量化による炭素数36のダイマー酸や三量化による炭素数54のトリマー酸などが例示され、不飽和部を水素添加処理した炭素数36の水添ダイマー酸が好ましい。炭素数18より大きい不飽和カルボン酸の多量化反応により得られる多価カルボン酸の使用は、低温流動性を悪化させるとともに、高粘度化する傾向があり、実用的でない。
これら (1)〜(4) の脂肪族カルボン酸の中でも、生分解性、低温流動性及び熱酸化安定性の点から、(1) の炭素数1〜12の直鎖モノカルボン酸がより好ましい。
【0027】
本発明におけるアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等が挙げられ、生分解性の観点からエチレンオキシドが好ましく、低温流動性の観点からプロピレンオキシドが好ましく、また他の油溶性添加剤および潤滑油基油との相溶性の観点からプロピレンオキシド及びブチレンオキシドが好ましい。また、単独の使用でも2種以上のアルキレンオキシドを使用してもよい。
ここで低温流動性とは、0℃以下の温度における流動性をいう。
【0028】
更には2種以上のアルキレンオキシドを使用する場合はランダム付加でもブロック付加でもかまわないが、低温流動性の点からエチレンオキシドを付加させたのちにプロピレンオキシドを付加させたブロック付加の方が好ましい。また、反応に用いるアルキレンオキシドの種類および使用モル数は、生分解性および低温流動性に大きく影響するので、最適な組成を選択することが重要である。
具体的には反応に用いるアルキレンオキシドの使用モル数が大きくなるほど生分解性が低下し、少なくなるほど低温流動性が低下することから、反応に用いるアルキレンオキシドは油脂1モル(即ち、油脂中のグリセリン部1モル)に対して5〜150モルであり、5〜90モルがより好ましく、5〜50モルが更に好ましく、特に好ましくは9〜30モルである。
【0029】
更には、エチレンオキシドを用いた油脂誘導体はプロピレンオキシドを用いた油脂誘導体よりも生分解性が優れることや、プロピレンオキシドを用いた油脂誘導体はエチレンオキシドを用いた油脂誘導体よりも低温流動性に優れることから、より好適な組成として、(1)アルキレンオキシドに占めるエチレンオキシドの割合が40〜100モル%、より好ましくは40〜90モル%、プロピレンオキシドの割合が0〜60モル%、より好ましくは10〜60モル%であり、油脂1モルに対してアルキレンオキシドの付加モル数を9〜90モル、または(2)アルキレンオキシドに占めるエチレンオキシドの割合が0〜40モル%、より好ましくは10〜40モル%、プロピレンオキシドの割合が60〜100モル%、より好ましくは60〜90モル%であり、油脂1モルに対してアルキレンオキシドの付加モル数を5〜30モル、にすることが望ましい。さらに(1)又は(2)の潤滑油用基油は、生分解性及び経済性の点からエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドを用いて誘導されたものがより好ましい。
【0030】
本発明の第1の態様における油脂誘導体の製造は、油脂、多価アルコール、及びアルキレンオキシドを原料として用い、これらを混合した状態でアルキレンオキシドの付加反応とエステル交換反応を行うことによって行われる。具体的には、例えば油脂と多価アルコールの混合物に、アルカリ性物質(水酸ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキサイド等)、脂肪酸石鹸等の触媒を所定量加え、これに50〜200℃、1〜5Kg/cm2 の温度、圧力条件でアルキレンオキシドを反応させること等によって製造される。なお、アルカリ性触媒を用いた場合は、反応終了後に適当な酸による中和処理あるいは吸着剤による吸着処理等を適宜行ってもよい。
【0031】
このようにして得られた生成物(油脂誘導体)は、単一な組成ではなく、一般式(I)〜一般式(III) で示される多様な組成を含む混合物となる。なぜなら、多価アルコール及び中間生成物などの化合物へのアルキレンオキシドの付加反応の進行に伴い、これらの中間生成物と油脂のグリセリンエステルとの間でエステル交換反応を起こすからである。
【0032】
一般式(I)は多価アルコールのアルキレンオキシド付加およびそれと油脂とのエステル交換により得られる化合物の構造を示す。なお、多価アルコールがグリセリンの場合、一般式(I)と(III) は同一内容となる。
【0033】
【化5】
【0034】
(式中、R1 は多価アルコールから水酸基を除いた炭化水素基、AOはアルキレンオキシド、nは多価アルコールの水酸基数を表し、a1+a2+・・anが5〜150、X1、X2、・・Xnは水素またはR’CO基(R’は脂肪族カルボン酸又は油脂由来のアルキル基)、かつ、X1、X2、・・Xnのうち少なくとも1つがR’CO基である。)
【0035】
一般式(II)は、中間生成物の一つであるアルキレンオキシドの自己重合体と油脂とのエステル交換体の構造を示す。
Z−O−(AO)c−Z (II)
(式中、AOはアルキレンオキシドを表し、c>1、Zは水素またはR’CO基(R’は脂肪族カルボン酸又は油脂由来のアルキル基)で少なくとも1つはR’CO基である。)
一般式(III) は、油脂と多価アルコールのアルキレンオキシド付加物とのエステル交換反応により得られるグリセリン誘導体の遊離の水酸基へのアルキレンオキシドの付加反応、及びグリセリン誘導体のアルキレンオキシド付加物と反応混合液中に存在する他の化合物とのエステル交換反応などにより得られる化合物の構造を示す。
【0036】
【化6】
【0037】
(式中、AOはアルキレンオキシド、a1、a2、a3はそれぞれ独立に0または正の整数、かつ、a1+a2+a3が5〜150である。X1 、X2 、X3 はそれぞれ独立にHまたはR’CO基(R’は脂肪族カルボン酸又は油脂由来のアルキル基)、かつX1 、X2 、X3 のうち少なくとも1つはR’CO基である。)
【0038】
反応に用いる多価アルコールは、油脂中のグリセリン部1モルに対して0.01〜20モルが好ましく、0.1〜10モルがより好ましい。なぜなら、多価アルコールが0.01モル未満のときはアルキレンオキシド付加物がほとんど生成しないためエステル交換反応が十分に起こらない。20モル以上用いると一般式(I)のモノエステル体の割合が増加して、遊離の水酸基が多く存在するため、他の油溶性添加剤および潤滑油基油を併用する際の相溶性に問題が生じる。
【0039】
さらに、動粘度または流動点(低温流動性)の調整を目的として、第1の態様における反応工程中に1種以上の脂肪族カルボン酸またはそのエステル誘導体を共存させることも可能である。具体的には、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸などの直鎖モノカルボン酸またはそのエステル誘導体;2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、3−メチルヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸などの分岐鎖モノカルボン酸またはそのエステル誘導体;コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸などのジカルボン酸またはそのエステル誘導体;不飽和カルボン酸の多量化によって得られる多価カルボン酸またはそのエステル誘導体、例えば、オレイン酸の二量化による炭素数36のダイマー酸や三量化による炭素数54のトリマー酸などが例示される。
【0040】
本発明の第2の態様における油脂誘導体の製造は、油脂、脂肪族カルボン酸、及びアルキレンオキシドを原料として用い、これらを混合した状態でアルキレンオキシドの付加反応とエステル交換反応を行うことによって行われる。具体的には、例えば油脂と脂肪族カルボン酸の混合物に、アルカリ性物質(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキサイド等)、脂肪酸石鹸等の触媒を所定量加え、これに50〜200℃、1〜5Kg/cm2の温度、圧力条件でアルキレンオキシドを反応させること等によって製造される。尚、アルカリ性触媒を用いた場合は、反応終了後に適当な酸による中和処理あるいは吸着剤による吸着処理等を適宜行ってもよい。
【0041】
このようにして得られた生成物(油脂誘導体)は、単一な組成ではなく、一般式(IV)、(V)及び(III)で示される多様な組成を含む混合物となる。なぜなら、脂肪族カルボン酸及び中間生成物などの化合物へのアルキレンオキシドの付加反応の進行に伴い、これらの中間生成物と油脂のグリセリンエステルとの間でエステル交換反応を起こすからである。
【0042】
一般式(IV)は脂肪族カルボン酸のアルキレンオキシド付加およびそれと油脂とのエステル交換により得られる化合物の構造を示す。
【0043】
【化7】
【0044】
(式中、R2 は脂肪族カルボン酸からカルボキシル基を除いた炭化水素基、AOはアルキレンオキシド、nは脂肪族カルボン酸のカルボキシル基数を表し、a1+a2+・・anが好ましくは5〜150、X1、X2、・・Xnは水素またはR’CO基(R’は脂肪族カルボン酸又は油脂由来のアルキル基)、かつ、X1、X2、・・Xnのうち少なくとも1つがR’CO基である。)
【0045】
一般式(V)は中間生成物の一つであるアルキレンオキシドの自己重合体と油脂とのエステル交換体の構造を示す。
Z−O−(AO)c−Z (V)
(式中、AOはアルキレンオキシドを表し、c>1、Zは水素またはR’CO基(R’は脂肪族カルボン酸又は油脂由来のアルキル基)で少なくとも1つはR’CO基である。)
【0046】
一般式(III)は、油脂と脂肪族カルボン酸のアルキレンオキシド付加物とのエステル交換反応により生じたグリセリン誘導体の遊離の水酸基へのアルキレンオキシドの付加反応、及びグリセリン誘導体のアルキレンオキシド付加物と反応混合液中に存在する他の化合物とのエステル交換反応などにより得られる化合物の構造を示す。
【0047】
【化8】
【0048】
(式中、AOはアルキレンオキシド、a1、a2、a3はそれぞれ独立に0または正の整数、かつ、a1+a2+a3が1〜200モル、好ましくは5〜150である。X1 、X2 、X3 はそれぞれ独立にHまたはR’CO基(R’は脂肪族カルボン酸又は油脂由来のアルキル基)、かつX1 、X2 、X3 のうち少なくとも1つはR’CO基である。)
【0049】
反応に用いる脂肪族カルボン酸は、油脂中のグリセリン部1モルに対して0.01〜20モルが好ましく、0.1〜10モルがより好ましい。なぜなら、脂肪族カルボン酸が0.01モル以下のときはアルキレンオキシド付加物がほとんど生成しないためエステル交換反応が十分に起こらない。20モル以上用いると一般式(IV)のモノエステル体の割合が増加するため、他の油溶性添加剤および潤滑油基油を併用する際の相溶性に問題が生じる。
【0050】
本発明においては、以上のように第1又は第2の態様により得られる油脂誘導体の末端水酸基の一部または全部を、脂肪族カルボン酸またはそのエステル誘導体を用いてさらにエステル化することで、併用される可能性のある鉱物油やポリ−α−オレフィン等の炭化水素系基油および他の油溶性添加剤との相溶性を向上させた潤滑油用基油であってもよい。これらのエステル化された油脂誘導体は、好ましくは水酸基価が50(mgKOH/g)以下であり、より好ましくは水酸基価が30(mgKOH/g)以下である。
【0051】
このとき用いられる脂肪族カルボン酸またはそのエステル誘導体としては、(1) 炭素数1〜18の飽和直鎖カルボン酸、(2) 炭素数4〜20の飽和分岐カルボン酸、よりなる群から選ばれる少なくとも1種の脂肪族カルボン酸またはそのエステル誘導体であることが好ましい。脂肪族カルボン酸のエステル誘導体は、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等の炭素数1〜4の低級アルコールとのエステルが好ましく、特にメチルエステルが好ましい。
【0052】
炭素数1〜18の飽和直鎖カルボン酸の具体例として、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、カプロン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、ノナン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸が例示され、好ましくは、炭素数6〜12の飽和直鎖カルボン酸であるカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸等が用いられる。また、炭素数18より大きい飽和直鎖カルボン酸の使用は低温流動性を悪化させる傾向があり好ましくない。
【0053】
炭素数4〜20の飽和分岐カルボン酸の具体例として、イソ酪酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、3−メチルヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、イソステアリン酸等が例示され、好ましくは、炭素数6〜18の飽和分岐カルボン酸である2−エチルヘキサン酸、イソステアリン酸等が用いられる。また、炭素数20より大きい飽和分岐カルボン酸の使用は低温流動性を悪化させる傾向があり好ましくない。
【0054】
上記における油脂誘導体のエステル化は、具体的には、脂肪族カルボン酸メチルエステル等を加え、80〜150℃にて、順次メタノールを回収することで行うことができ、また、脂肪族カルボン酸を用いてエステル化を行う場合は、脂肪族カルボン酸を加えた後、150〜230℃に加熱、脱水反応により製造される。
【0055】
以上のような油脂誘導体を含有する本発明の潤滑油組成物の熱酸化安定性は、ナタネ油などと比較して良好であるが、油脂誘導体のヨウ素価を50以下、より好ましくは20以下、特に好ましくは10以下にすることで更に良好になる。なぜなら、油脂誘導体中の不飽和部を少なくするほど、熱による酸化劣化を受けにくく、熱酸化安定性を改善させる傾向にあるからである。
【0056】
本発明の油脂誘導体は、鉱物油やポリ−α−オレフィン等の炭化水素系基油および他の油溶性添加剤との相溶性の点から、水酸基価が50(mgKOH/g)以下であることが好ましく、30以下がより好ましい。また相溶性は用いるアルキレンオキシドの種類によっても影響され、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドを用いると相溶性は向上する。
【0057】
本発明の油脂誘導体は、金属の腐食性の点から、酸価が5(mgKOH/g)以下であることが好ましく、3以下がより好まく、1以下が特に好ましい。
【0058】
また、本発明の油脂誘導体は、潤滑油用途における使用環境を考慮すると、動粘度および流動点はある所定の範囲内であることが実用上必要となる。具体的には、100℃における動粘度(測定法はJIS K−2283に準拠)は1〜100mm2/s であることが望ましい。更には、2〜50mm2/s が好ましく、3〜30mm2/s であることがより好ましい。また、流動点(測定法はJIS K−2269に準拠)は0℃以下であることが望ましい。更には−10℃以下であることが好ましく、−20℃以下であることがより好ましい。
【0059】
本発明の潤滑油組成物は、環境汚染防止のため生分解性が要求される潤滑油組成物として使用することができ、以上のような油脂誘導体よりなる潤滑油用基油を50重量%以上、より好ましくは80重量%以上含有してなるものである。
【0060】
また、本発明の潤滑油組成物は、生分解性を損なわない範囲に於いて、更に、(1) 鉱物油(例えばナフテン系またはパラフィン系)、(2) 天然油脂または合成油脂、(3) ポリ−α−オレフィン、(4) ポリブテン、及び(5) 直鎖または分岐の脂肪酸を有するポリオールエステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の潤滑油用基油を含有してもよい。
【0061】
更に、本発明の潤滑油組成物に於いては、その性能を向上させる目的で、生分解性を損なわない範囲に於いて公知の各種添加剤を使用できる。これらの添加剤としては塩基性カルシウムスルフォネート、塩基性カルシウムフェネート、塩基性カルシウムサリシレート等の金属系清浄剤、アルケニルコハク酸イミド、ベンジルアミン、ポリアルケニルアミン等の清浄分散剤、ポリメタクリレート、オレフィン共重合物等の粘度指数向上剤、流動点降下剤、酸化防止剤、錆止め剤、消泡剤等が挙げられる。具体例は桜井俊夫著「石油製品添加剤(幸書房)」に例示されている。これらの各種添加剤は単独で添加しても、数種類併用添加してもかまわない。これらの添加量は生分解性を損なわない範囲において任意であるが、通常、潤滑油組成物100重量部に対して30重量部以下、好ましくは15重量部以下である。
【0062】
本発明の潤滑油組成物は、生分解性に優れ、かつ、熱酸化安定性に優れていることから、特に、油圧作動油、グリース油、チェーンソー油、2−サイクルエンジン油用途に適しているが、その他に4−サイクルエンジン油、ギヤ油等にも使用可能である。これらの中でも本発明の潤滑油用基油は、環境への影響がより深刻である建設機械等に使用され、且つ高い熱酸化安定性が要求される油圧作動油およびグリース油用途に特に好適に用いられる。
【0063】
【実施例】
以下、実施例、比較例および試験例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。
【0064】
実施例1
5Lのオートクレーブにヤシ油673g(1モル,ヨウ素価11)、グリセリン414g(4.5モル)および水酸化カリウム1.7gを仕込み、窒素気流下、150℃まで昇温した。次いで、エチレンオキシド1320g(30モル)を150℃、圧力3.5kg/cm2 の条件で少しずつ反応させた。エチレンオキシドの付加反応後、反応液を80℃まで冷却し、酢酸を加えてpH6に中和した。この反応生成物のヨウ素価は2.8Ig/100g、100℃における動粘度10.2mm2/s であった。
なお、ヤシ油のモル数は、ヤシ油の組成をトリグリセリド体100%であると仮定して、その鹸化価より求めた平均分子量を基準とした。以下の実施例における油脂のモル数についても同様である。また、動粘度は、JIS K−2283により測定した。以下の実施例における動粘度についても同様に測定した。
【0065】
実施例2
5Lのオートクレーブに硬化パーム油841g(1モル,ヨウ素価0.9)、パルミチン酸514g(2モル)、グリセリン230g(2.5モル)および水酸化カリウム1.7gを仕込み、窒素気流下、150℃まで昇温した。次いで、エチレンオキシド2200g(50モル)を150℃、圧力3.5kg/cm2 の条件で少しずつ反応させた。エチレンオキシドの付加反応後、反応液を80℃まで冷却し、酢酸を加えてpH6に中和した。この反応生成物のヨウ素価は0.2Ig/100g、100℃における動粘度15.7mm2/s であった。
【0066】
実施例3
5Lのオートクレーブにナタネ油990g(1モル,ヨウ素価100)、グリセリン184g(2モル)および水酸化カリウム1.7gを仕込み、窒素気流下、150℃まで昇温した。次いで、エチレンオキシド440g(10モル)を150℃、圧力3.5kg/cm2 の条件で少しずつ反応させた。エチレンオキシドの付加反応後、反応液を80℃まで冷却し、酢酸を加えてpH6に中和した。この反応生成物のヨウ素価は61.3Ig/100g、100℃における動粘度7.4mm2/s であった。
【0067】
実施例4
5Lのオートクレーブに大豆油886g(1モル,ヨウ素価102)、グリセリン46g(0.5モル)および水酸化カリウム1.7gを仕込み、窒素気流下、150℃まで昇温した。次いで、エチレンオキシド880g(20モル)を150℃、圧力3.5kg/cm2 の条件で少しずつ反応させた。エチレンオキシドの付加反応後、反応液を80℃まで冷却し、酢酸を加えてpH6に中和した。この反応生成物のヨウ素価は48.9Ig/100g、100℃における動粘度16.3mm2/s であった。
【0068】
実施例5
実施例1で得られた反応生成物80重量部に、合成エステル(ペンタエリスリトールのC8 〜C1 8直鎖脂肪酸エステルよりなる潤滑油用基油)20重量部を配合した。
【0069】
実施例6
5Lのオートクレーブにパーム核油687g(1モル,ヨウ素価18)、グリセリン92g(1モル)および水酸化カリウム1.1gを仕込み、窒素気流下、150℃まで昇温した。次いで、エチレンオキシド880g(20モル)を150℃、圧力3.5kg/cm2 の条件で少しずつ反応させた。エチレンオキシドの付加反応後、反応液を80℃まで冷却し、吸着剤(キョーワード600S、協和化学工業製)9gを加えて30分間攪拌したのち濾過した。この反応生成物のヨウ素価は7.5Ig/100g、100℃における動粘度10.7mm2/s であった。
【0070】
実施例7
5Lのオートクレーブにヤシ油673g(1モル,ヨウ素価11)、トリメチロールプロパン134g(0.5モル)および水酸化カリウム1.1gを仕込み、窒素気流下、150℃まで昇温した。次いで、エチレンオキシド1188g(27モル)を150℃、圧力3.5kg/cm2 の条件で少しずつ反応させた。エチレンオキシドの付加反応後、反応液を80℃まで冷却し、吸着剤(キョーワード600S、協和化学工業製)9gを加えて30分間攪拌したのち濾過した。この反応生成物のヨウ素価は3.8Ig/100g、100℃における動粘度10.7mm2/s であった。
【0071】
実施例8
5Lのオートクレーブにヤシ油673g(1モル,ヨウ素価11)、エチレングリコール62g(1モル)および水酸化カリウム1.1gを仕込み、窒素気流下、150℃まで昇温した。次いで、エチレンオキシド660g(15モル)を150℃、圧力3.5kg/cm2 の条件で少しずつ反応させた。エチレンオキシドの付加反応後、反応液を80℃まで冷却し、吸着剤(キョーワード600S、協和化学工業製)9gを加えて30分間攪拌したのち濾過した。この反応生成物のヨウ素価は5.3Ig/100g、100℃における動粘度9.4mm2/s であった。
【0072】
実施例9
5Lのオートクレーブにヤシ油673g(1モル,ヨウ素価11)、2−エチルヘキサン酸288g(2モル)及び水酸化カリウム1.1gを仕込み、窒素気流下、150℃まで昇温した。次いで、エチレンオキサイド881g(20モル)を150℃、圧力3.5kg/cm2 の条件で少しずつ反応させた。エチレンオキサイドの付加反応後、反応液を80℃まで冷却し、吸着剤(キョーワード600S、協和化学工業製)9gを加えて30分間攪拌したのちろ過した。この反応生成物はヨウ素価3.0、100℃における動粘度5.2mm2/s であった。
【0073】
実施例10
5Lのオートクレーブにヤシ油1346g(2モル)、グリセリン55.2g(0.6モル)および水酸化カリウム9gを仕込み、窒素気流下、150℃まで昇温した。次いで、エチレンオキシド・プロピレンオキシド混合物(エチレンオキシド:プロピレンオキシドの混合割合は40モル%:60モル%)1258g(24モル)を150℃、圧力3.5kg/cm2 の条件で少しずつ反応させた。エチレンオキシド・プロピレンオキシドの付加反応後、反応液を80℃まで冷却し、吸着剤(キョーワード600S、協和化学工業製)50gを加えて30分間攪拌したのち濾過した。
【0074】
実施例11
5Lのオートクレーブにヤシ油1346g(2モル)、グリセリン55.2g(0.6モル)および水酸化カリウム9gを仕込み、窒素気流下、150℃まで昇温した。次いで、プロピレンオキシド1856g(32モル)を150℃、圧力3.5kg/cm2 の条件で少しずつ反応させた。プロピレンオキシドの付加反応後、反応液を80℃まで冷却し、吸着剤(キョーワード600S、協和化学工業製)50gを加えて30分間攪拌したのち濾過した。
【0075】
実施例12
5Lのオートクレーブにヤシ油673g(1モル、ヨウ素化11)、C36ダイマー酸(Empol 1008、ヘンケル社製)585g(0.5モル)および水酸化カリウム2.8gを仕込み、窒素気流下、150℃まで昇温した。次いで、エチレンオキサイド705g(16モル)を150℃、圧力3.5kg/cm2 の条件で少しずつ反応させた。エチレンオキサイドの付加反応後、反応液を80℃まで冷却し、吸着剤(キョーワード600S、協和科学工業製)20gを加えて30分間攪拌したのちろ過した。この反応生成物はヨウ素価4.2、100℃における動粘度19.1mm2/s であった。
【0076】
実施例13
5Lのオートクレーブにヤシ油673g(1モル,ヨウ素価11)、カプリル酸725g(5モル)および水酸化カリウム1.1gを仕込み、窒素気流下、150℃まで昇温した。次いで、エチレンオキサイド1410g(32モル)を150℃、圧力3.5kg/cm2 の条件で少しずつ反応させた。エチレンオキサイドの付加反応後、反応液を80℃まで冷却し、吸着剤(キョーワード600S、協和科学工業製)9gを加えて30分間攪拌したのちろ過した。この反応生成物のヨウ素価2.4、100℃における動粘度8.6mm2/s であった。
【0077】
実施例14
5Lのオートクレーブにパーム油687g(1モル,ヨウ素価18)、2−エチルヘキサン酸288g(2モル)および水酸化カリウム1.1gを仕込み、窒素気流下、150℃まで昇温した。次いで、エチレンオキサイド881g(20モル)を150℃、圧力3.5kg/cm2 の条件で少しずつ反応させた。エチレンオキサイドの付加反応後、反応液を80℃まで冷却し、吸着剤(キョーワード600S、協和科学工業製)9gを加えて30分間攪拌したのちろ過した。この反応生成物のヨウ素価4.3、100℃における動粘度6.1mm2/s であった。
【0078】
実施例15
5Lのオートクレーブにヤシ油673g(1モル)、グリセリン92g(1モル)および水酸化カリウム1.7gを仕込み、窒素気流下、150℃まで昇温した。次いで、エチレンオキシド1056g(24モル)を150℃、圧力3.5kg/cm2 の条件で少しずつ反応させた。エチレンオキシドの付加反応後、反応液を80℃まで冷却した。
次いで、ヤシ脂肪酸メチルエステル*1(商品名:エキセパールMC、花王(株)製)660gを加え、120℃、10Torrの条件まで、徐々に減圧しながら加熱した。途中、副生するメタノールを順次回収した。
反応後、反応液を80℃まで冷却し、吸着剤(キョーワード600S、協和化学工業製)14gを加えて30分間攪拌したのち濾過した。この反応生成物のヨウ素価は3.5Ig/100g、酸価0.4mgKOH/g、水酸基価18mgKOH/g、100℃における粘度10.2mm2 /sであった。
*1 :C8〜C18脂肪族カルボン酸の混合物
【0079】
実施例16
5Lのオートクレーブにヤシ油673g(1モル)、トリメチロールプロパン134g(0.5モル)および水酸化カリウム1.1gを仕込み、窒素気流下、150℃まで昇温した。次いで、エチレンオキシド396g(9モル)を150℃、圧力3.5kg/cm2 の条件で少しずつ反応させた。エチレンオキシドの付加反応後、反応液を80℃まで冷却した。
次いで、ヤシ脂肪酸メチルエステル(商品名:エキセパールMC、花王(株)製)330gを加え、120℃、10Torrの条件まで、徐々に減圧しながら加熱した。途中、副生するメタノールを順次回収した。
反応後、反応液を80℃まで冷却し、吸着剤(キョーワード600S、協和化学工業製)9gを加えて30分間攪拌したのち濾過した。この反応生成物のヨウ素価は5.2Ig/100g、酸価0.6mgKOH/g、水酸基価46mgKOH/g、100℃における粘度8.1mm2 /sであった。
【0080】
実施例17
5Lのオートクレーブにパーム核油687g(1モル、ヨウ素価18)、グリセリン46g(0.5モル)及び水酸化カリウム1.7gを仕込み、窒素気流下、150℃まで昇温した。次いで、エチレンオキシド594g(13.5モル)を150℃、圧力3.5kg/cm2 の条件で少しずつ反応させた。エチレンオキシドの付加反応後、反応液を80℃まで冷却し、吸着剤(キョーワード600S、協和化学工業製)14gを加えて30分間攪拌したのち濾過した。
次いで、カプリル酸(商品名:ルナック8−98、花王(株)製)70gを加え、210℃まで加熱、反応させた後、5Torrまで徐々に減圧し、未反応の脂肪族カルボン酸を留去した。
この反応生成物のヨウ素価8.9Ig/100g、酸価0.5mgKOH/g、水酸基価10mgKOH/g、100℃における粘度9.2mm2 /sであった。
【0081】
実施例18
5Lのオートクレーブにパーム核油687g(1モル、ヨウ素価18)、グリセリン46g(0.5モル)及び水酸化カリウム1.7gを仕込み、窒素気流下、150℃まで昇温した。次いで、エチレンオキシド594g(13.5モル)を150℃、圧力3.5kg/cm2 の条件で少しずつ反応させた。エチレンオキシドの付加反応後、反応液を80℃まで冷却し、吸着剤(キョーワード600S、協和化学工業製)14gを加えて30分間攪拌したのち濾過した。
次いで、2−エチルヘキサン酸72gを加え、210℃まで加熱、反応させた後、5Torrまで徐々に減圧し、未反応の脂肪族カルボン酸を留去した。
この反応生成物のヨウ素価9.5Ig/100g、酸価0.6mgKOH/g、水酸基価13mgKOH/g、100℃における粘度10.1mm2 /sであった。
【0082】
実施例19
5Lのオートクレーブにヤシ油1346g(2モル)、グリセリン55.2g(0.6モル)および水酸化カリウム3gを仕込み、窒素気流下、150℃まで昇温した。次いで、エチレンオキシド1056g(24モル)を150℃、圧力3.5kg/cm2 の条件で少しずつ反応させた。エチレンオキシドの付加反応後、反応液を80℃まで冷却し、吸着剤(キョーワード600S、協和化学工業製)24gを加えて30分間攪拌したのち濾過した。
【0083】
実施例20
5Lのオートクレーブにヤシ油1346g(2モル)、エチレングリコール55.8g(0.9モル)および水酸化カリウム9gを仕込み、窒素気流下、120℃まで昇温した。次いで、エチレンオキシド・プロピレンオキシド混合物(エチレンオキシド:プロピレンオキシドの混合割合は20モル%:80モル%)1713g(31モル)を120℃、圧力3.5kg/cm2 の条件で少しずつ反応させた。エチレンオキシド・プロピレンオキシドの付加反応後、反応液を80℃まで冷却し、吸着剤(キョーワード600S、協和化学工業製)50gを加えて30分間攪拌したのち濾過した。
【0084】
実施例21
5Lのオートクレーブにヤシ油673g(1モル)、エチレングリコール27.9g(0.45モル)および水酸化カリウム4.5gを仕込み、窒素気流下、120℃まで昇温し、エチレンオキシド138g(3.1モル)を150℃、圧力3.5kg/cm2 の条件で少しずつ反応させた。次いで、120℃まで冷却し、プロピレンオキシド720g(12.4モル)を反応させた。その後、反応液を80℃まで冷却し、吸着剤(キョーワード600S、協和化学工業製)25gを加えて30分間攪拌したのち濾過した。
この反応生成物のヨウ素価は7.0Ig/100g、酸価0.6mgKOH/g、水酸基価62mgKOH/g、100℃における粘度9.2mm2 /sであった。
【0085】
実施例22
5Lのオートクレーブにヤシ油673g(1モル)、エチレングリコール27.9g(0.45モル)および水酸化カリウム4.5gを仕込み、窒素気流下、120℃まで昇温した。次いで、エチレンオキシド・プロピレンオキシド混合物(エチレンオキシド:プロピレンオキシドの混合割合は20モル%:80モル%)2155g(39モル)を120℃、圧力3.5kg/cm2 の条件で少しずつ反応させた。エチレンオキシド・プロピレンオキシドの付加反応後、反応液を80℃まで冷却し、吸着剤(キョーワード600S、協和化学工業製)25gを加えて30分間攪拌したのち濾過した。
この反応生成物のヨウ素価は2.1Ig/100g、酸価0.4mgKOH/g、水酸基価19mgKOH/g、100℃における粘度15.4mm2 /sであった。
【0086】
実施例23
5Lのオートクレーブにヤシ油1346g(2モル)、グリセリン55.2g(0.6モル)および水酸化カリウム3gを仕込み、窒素気流下、150℃まで昇温した。次いで、エチレンオキシド660g(15モル)を150℃、圧力3.5kg/cm2 の条件で少しずつ反応させた。エチレンオキシドの付加反応後、反応液を80℃まで冷却し、吸着剤(キョーワード600S、協和化学工業製)24gを加えて30分間攪拌したのち濾過した。
この反応生成物のヨウ素価は5.7Ig/100g、酸価0.5mgKOH/g、水酸基価54mgKOH/g、100℃における粘度8.2mm2 /sであった。
【0087】
<構造確認試験>
本発明で得られた実施例11及び19の油脂誘導体の赤外線吸収スペクトル(日立製作所製、270形赤外分光光度計を使用)およびプロトン核磁気共鳴スペクトル(ブルーカー製、AC200Pを使用)のデータを以下に示した。これらのデータにより、実施例11及び19で得られた油脂誘導体は、一般式(III) で表される化合物であることが分かった。
【0088】
実施例11の油脂誘導体
IR(NEAT、cm-1)
3500(O−H伸縮)、2925、2855(C−H伸縮)、1732(C=O伸縮)、1460(C−H変角)、1100(C−O伸縮)
1H NMR(CDC13 、δppm)
a:0.8〜1.0、多重線、9H
b:1.1〜1.2、多重線、42H
c:1.2〜1.5、多重線、50H
d:1.5〜1.7、多重線、6H
e:2.2〜2.4、三重線、6H
f:3.1〜4.0、多重線、53H
g:5.0〜5.2、多重線、3H
【0089】
【化9】
【0090】
(mは平均アルキル炭素数であり、nはアルキレンオキシドの平均付加モル数である。)
【0091】
実施例19の油脂誘導体
IR(NEAT、cm-1)
3500(O−H伸縮)、2925、2855(C−H伸縮)、1738(C=O伸縮)、1460(C−H変角)、1120(C−O伸縮)
1H NMR(CDC13 、δppm)
a:0.8〜1.0、多重線、9H
b:1.1〜1.5、多重線、54H
c:1.5〜1.7、多重線、6H
d:2.2〜2.4、多重線、6H
e:3.4〜3.9、三重線、52H
f:4.2〜4.3、多重線、6H
【0092】
【化10】
【0093】
(mは平均アルキル炭素数であり、nはアルキレンオキシドの平均付加モル数である。)
【0094】
比較例1〜2
なお、本発明で述べた実施例の効果を比較するために、比較例1として市販のパラフィン系鉱物油(粘度分類:SAE10W)、比較例2として市販のナタネ油(ヨウ素価118.3Ig/100g)を用いた。
【0095】
比較例3
5Lのオートクレーブにヤシ油1346g(2モル)、グリセリン55.2g(0.6モル)および水酸化カリウム3gを仕込み、窒素気流下、150℃まで昇温した。次いで、エチレンオキシド264g(6モル)を150℃、圧力3.5kg/cm2 の条件で少しずつ反応させた。エチレンオキシドの付加反応後、反応液を80℃まで冷却し、吸着剤(キョーワード600S、協和化学工業製)24gを加えて30分間攪拌したのち濾過した。
この反応生成物のヨウ素価は7.0Ig/100g、酸価0.4mgKOH/g、水酸基価64mgKOH/g、100℃における粘度7.6mm2 /sであった。
【0096】
比較例4
5Lのオートクレーブにナタネ油1980g(2モル)、グリセリン55.2g(0.6モル)および水酸化カリウム6gを仕込み、窒素気流下、120℃まで昇温した。次いで、プロピレンオキシド349g(6モル)を120℃、圧力3.5kg/cm2 の条件で少しずつ反応させた。プロピレンオキシドの付加反応後、反応液を80℃まで冷却し、吸着剤(キョーワード600S、協和化学工業製)48gを加えて30分間攪拌したのち濾過した。
この反応生成物のヨウ素価は155Ig/100g、酸価0.6mgKOH/g、水酸基価45mgKOH/g、100℃における粘度8.5mm2 /sであった。
【0097】
試験例1
<生分解性試験>
実施例および比較例の生分解性をOECD 301B試験またはCEC−L33−A−93試験に準じて測定した試験結果を表1及び表2に示した。
OECD(Organization for Economic Co-operation and Development) による301B試験に準じた試験では、試料中に含まれる炭素から計算されるCO2 の理論発生量に対して、バクテリア分解によって発生するCO2 ガス量(試験日数は28日間)が60%以上を生分解性ありと判定している。実施例1〜9、12〜18の潤滑油用基油の生分解率はいずれも60%以上であった。
【0098】
CEC−L33−A−93は、欧州規格諮問委員会(CEC:Co-ordinating European Council) によって、2−ストロークサイクル船外機用エンジン油を対象にして、生分解性を測定する試験として制定された試験法であるが、作動油、グリースなどの不水溶性潤滑油の生分解性試験としても広く使用されている試験法である。この試験では、試料を微生物源とともに、25℃で21日間振盪培養した後、四塩化炭素抽出分を赤外線吸収スペクトルを測定し、試料のメチレン基由来の吸収強度を定量化することで、生分解率(%)を算出する。この試験での合格基準は67%以上の生分解率を有することである。実施例10、11、19〜23の潤滑油用基油の生分解率はいずれも67%以上であった。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
試験例2
<熱酸化安定性試験>
潤滑油酸化安定度試験(JIS−K2514)に準じて、試験温度165.5℃、試験時間24時間にて試験した。その結果を表3に示す。
ナタネ油と比較して、本発明の実施例の潤滑油用基油はいずれも全酸価の増加量及び粘度増加率が低い値であり、熱酸化安定性が優れていることを示した。
【0102】
【表3】
【0103】
試験例3
<相溶性試験>
本発明で得られた生分解性基油の相溶性を調べることを目的として、鉱物油との相溶性を以下の方法で測定した。本発明の生分解性基油を鉱物油(日本石油製、スーパーオイルA)に対して10重量%、30重量%、50重量%、90重量%の割合になるように、200ml混合容器にそれぞれ100g(生分解性基油+鉱物油)入れた。60℃にて、約200rpmで10分、攪拌混合した。次いで、100mlのスクリュー管に移し、60℃の恒温槽にて、24時間静置した後の外観を観察した。その結果を表4にまとめた。
【0104】
【表4】
【0105】
表4より、エチレンオキシド付加体においては、水酸基価が低くなる程、相溶性が向上することがわかる。また、プロピレンオキシド付加体の相溶性は、エチレンオキシド付加体の場合より高いことがわかる(実施例4と11)。
【0106】
試験例4
<潤滑性試験>
油圧作動油の潤滑性評価試験としてよく使用されるASTM−D−2783試験法に記載されている四球試験機を用いて、荷重30kgfおよび60kgf、回転数1200rpm、試験時間20分の条件で試験を行った。表5に各試験油における試験球の摩耗痕径(mm)をまとめた。
【0107】
【表5】
【0108】
表5より、実施例の潤滑油基油は比較例のものより潤滑性が優れていることがわかる。また、比較例の潤滑油基油に耐摩耗剤であるTCPを添加したものと同等以上の潤滑性を有することがわかる。
【0109】
【発明の効果】
本発明の潤滑油用基油及び潤滑油組成物は、生分解性に優れるとともに熱酸化安定性も良好であるため、環境汚染防止のため生分解性が要求される分野に好適に用いることができる。
Claims (8)
- 天然油脂、多価アルコール、及び油脂1モルに対して5〜150モルのアルキレンオキシドを原料として用い、これらを混合した状態でアルキレンオキシドの付加反応とエステル交換反応を行うことによって得られる油脂誘導体からなる生分解性の油圧作動油用又はグリース油用の基油。
- ヨウ素価が50(Ig/100g)以下である請求項1記載の基油。
- 油脂1モルに対して9〜90モルのアルキレンオキシドを用い、かつ、アルキレンオキシドに占めるエチレンオキシドの割合が40〜100モル%、プロピレンオキシドの割合が0〜60モル%である請求項1又は2記載の基油。
- 油脂1モルに対して5〜30モルのアルキレンオキシドを用い、かつ、アルキレンオキシドに占めるエチレンオキシドの割合が0〜40モル%、プロピレンオキシドの割合が60〜100モル%である請求項1又は2記載の基油。
- 請求項1〜4いずれかにおいて記載の油脂誘導体が有する末端水酸基の一部または全部を、脂肪族カルボン酸またはそのエステル誘導体を用いてエステル化することで得られる生分解性の油圧作動油用又はグリース油用の基油。
- 請求項1〜6いずれか記載の基油を50重量%以上含有してなる生分解性の油圧作動油用又はグリース油用組成物。
- 更に、(1) 鉱物油、(2) 天然油脂または合成油脂、(3) ポリ−α−オレフィン、(4) ポリブテン、及び(5) ポリオールエステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の潤滑油用基油を含有してなる請求項7記載の生分解性の組成物。
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