JP3758446B2 - イオン源 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、例えばイオンドーピング装置(非質量分離型のイオン注入装置)、イオン注入装置、イオンビーム照射装置等に用いられるものであって、プラズマ電極の近傍に永久磁石を配置することによって、不要な軽イオンが引き出されるのを抑制することができるようにしたイオン源に関し、より具体的には、当該永久磁石が作る磁界がプラズマ側へ拡がるのを抑制して、当該磁界によるプラズマへの影響を少なくする手段に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば大型基板(例えば液晶ディスプレイ用のガラス基板)へのイオン注入を行う場合に、イオン源から引き出したイオンビームを質量分離電磁石を通さずに、即ちイオンビームの質量分離を行わずに、イオン源から引き出したイオンビームをそのまま基板に照射してイオン注入を行う装置を用いる場合がある。この装置は、イオンドーピング装置または非質量分離型のイオン注入装置と呼ばれる。
【0003】
半導体の作製、例えば液晶ディスプレイ用ガラス基板上に薄膜トランジスタ(TFT)を作製するためには、イオン源からリン(P)、ホウ素(B)等のドーパントを含むイオン(ドーパントイオン)を引き出してそれを基板に注入する。この場合、イオン源にイオン生成のために導入するイオン源ガスとして、例えばホスフィン(PH3 )、ジボラン(B2H6 )等のドーパントの水素化物ガスが用いられる。しかも通常は、このような水素化物ガスを、水素やヘリウムの希釈ガスで希釈したガスが使用される。
【0004】
イオン源ガスとして、このような水素化物ガスや、それを水素やヘリウムで希釈したガスを用いると、▲1▼必要なドーパントイオン、例えばPHx + (x=0〜4)やB2Hx + (x=0〜6)等のドーパントの水素化物イオン以外に、▲2▼希
釈ガスイオン(水素イオンやヘリウムイオン)および水素化物ガス分子から分解した水素イオンから成る不要なイオンが生成され、これらが混じったイオンビームがイオン源から引き出される。上記▲2▼の不要なイオンは、水素イオンまたはヘリウムイオンであるので軽イオンと言うことができ、上記▲1▼の必要なイオンは、この軽イオンに比べて重いので重イオンまたは高分子イオンと言うことができる。
【0005】
このようなイオンビームを用いて基板にイオン注入を行うと、不要なイオンまでもが基板に入射することになり、▲1▼基板の温度上昇が大きくなる、▲2▼トランジスタ作製時に基板表面に形成されているレジストに対して、軽イオンの侵入深さ(注入飛程)が深くなるために、レジストが露光による硬化と同様の現象を起こして剥離できなくなる、等の問題を惹き起こす。
【0006】
このような課題を解決するために、プラズマ電極の近傍に永久磁石を配置することによって、軽イオンが引き出されるのを抑制することができるようにしたイオン源が既に提案されている(特開平11−329270号公報)。そのイオン源を図6に示す。
【0007】
このイオン源2は、イオン源ガス6が導入されるプラズマ室容器4と、このプラズマ室容器4内でイオン源ガス6を電離させてプラズマ10を生成するプラズマ生成手段を構成するフィラメント8と、プラズマ室容器4の開口部付近に設けられていてプラズマ10から電界の作用でイオンビーム22を引き出す引出し電極系14とを備えている。引き出されたイオンビーム22は、この例では質量分離することなくそのまま基板24に照射・注入される。即ちこの図6の装置は、イオンドーピング装置(非質量分離型のイオン注入装置)を形成している(後述する図1の装置も同様)。
【0008】
プラズマ室容器4の周りには、この例では多数の磁石(例えば永久磁石)12が配置されており、プラズマ室容器4の内壁付近にカスプ磁場(多極磁場)が形成され、これがプラズマ10の閉じ込めに寄与する。このようなイオン源2は、バケット型イオン源とも呼ばれる。
【0009】
引出し電極系14は、1枚以上の電極、通常は複数枚の電極で構成されている。この例では、最プラズマ側から下流側に向けて配置されたプラズマ電極15、引出し電極16、抑制電極17および接地電極18で構成されている。各電極15〜18は、この例では多数のイオン引出し孔15a〜18aを相対応する位置にそれぞれ有している。
【0010】
更に、プラズマ室容器4内であってプラズマ電極15の上方近傍には、引出し電極系14のイオン引出し孔15a〜18aの形成領域すなわちイオン引出し領域20を挟んで異極性で(即ちN極とS極で)相対向するように、紙面の表裏方向に長い一組の棒状の永久磁石26が配置されている(図3も参照)。
【0011】
この一組の永久磁石26は、プラズマ電極15のプラズマ10側の面に沿う(即ち当該面に平行な成分を有する)磁界28を発生させる。
【0012】
このような磁界28を発生させると、図7に示すように、プラズマ10から引き出されるイオンの内、前述したドーパントイオンのような重イオン22aは殆ど直進するのに対して、前述した水素イオンやヘリウムイオンのような軽イオン22bは大きく曲げられたり曲げ戻されたりする。これによって、引出し電極系14から不要な軽イオン22bが引き出されるのを抑制して、必要な重イオン22aを選択的に(優先的に)引き出すことができる。これは一種の磁気フィルタであると言うことができる。
【0013】
更に、上記磁界28によって、プラズマ10からの高エネルギー電子がプラズマ電極15に近づくのを阻止して、プラズマ電極15付近でイオン源ガス6が電離するのを防止することができる。プラズマ電極15付近でイオン源ガス6が電離すると、そこから前述した軽イオン22bが引き出される可能性があるが、これを上記磁界28によって防止することができる。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
上記イオン源2においては、永久磁石26が作る磁界28は必然的にプラズマ10側へも拡がるので、当該磁界28がプラズマ10に影響を及ぼし、それによってプラズマ10の密度低下および不均一性増大を惹き起こす。
【0015】
即ち、上記永久磁石26が作る磁界28は、前述したカスプ磁場形成用の磁石12が作る磁場を乱し、プラズマ領域において磁場の非対称性が増すので、プラズマ10の閉込め性能が悪くなってプラズマ10の密度低下を惹き起こすと共に、プラズマ密度の均一性も悪くなるのでプラズマ10の不均一性増大を惹き起こす。
【0016】
上記磁石12を有していない(即ちバケット型でない)イオン源の場合も、プラズマ領域において上記永久磁石26による非対称磁場が存在すると、上記とほぼ同様の問題を惹き起こす。
【0017】
そこでこの発明は、上記のような軽イオンが引き出されるのを抑制するための永久磁石が作る磁界がプラズマ側へ拡がるのを抑制して、当該磁界によるプラズマへの影響を少なくすることを主たる目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
この発明のイオン源は、前記各永久磁石に対して、当該永久磁石の背面部に磁気的に接続されかつ当該永久磁石のプラズマ側の上方を覆う強磁性体をそれぞれ設け、かつこの両強磁性体の内側端を、前記引出し電極系のイオン引出し領域を挟んで相対向させて、両強磁性体の内側端間に、前記永久磁石間の磁界とは逆向きの磁界が形成されるよう構成していることを特徴としている。
【0019】
上記構成によれば、各強磁性体は各永久磁石の背面部にそれぞれ磁気的に接続されているので、両強磁性体の内側端間には、即ち永久磁石の上方を覆っている部分間には、両永久磁石間の磁界とは逆向きの磁界が形成される。この磁界は、永久磁石間の磁界よりも弱い。しかし、強磁性体の内側端付近では、永久磁石の作る磁界も弱くなっているので、その付近では両方の磁界が互いにうまく打ち消し合う。これによって、永久磁石が作る磁界がプラズマ側へ拡がるのを抑制して、当該磁界によるプラズマへの影響を少なくすることができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
図1は、この発明に係るイオン源の一例を示す断面図である。図2は、図1中の永久磁石および強磁性体周りを拡大して示す断面図である。図3は、図1中の永久磁石、強磁性体およびプラズマ電極を示す平面図である。図6および図7に示した従来例と同一または相当する部分には同一符号を付し、以下においては当該従来例との相違点を主に説明する。
【0021】
このイオン源2aにおいては、前記各永久磁石26に対して、当該永久磁石26の背面部に磁気的に接続されかつ当該永久磁石26のプラズマ10側の上方を覆う強磁性体30をそれぞれ設けている。この強磁性体30は、例えば鉄から成る。この強磁性体30は、ヨークと呼ぶこともできる。
【0022】
より具体的には、この例では、各強磁性体30は断面L字型をしており、この各強磁性体30と角棒状の各永久磁石26とを、両者で断面コ字型になるように互いに接続して、両強磁性体30の内側端30aを、引出し電極系14の前述したイオン引出し領域20を挟んで互いに向かい合わせにしている(相対向させている)。各強磁性体30は、棒状の各永久磁石26の長手方向に沿わせて配置しており、各永久磁石26と同程度の長さを有している(図3参照)。
【0023】
両強磁性体30の長手方向の両端部間は、図3に示す例のように、強磁性材から成る連結部34で連結しておくのが好ましい。引出し電極系14のイオン引出し領域20は(即ちイオン引出し孔15a〜18aの形成領域は)、この例では矩形をしており、このイオン引出し領域20の周囲を、二つの強磁性体30と二つの連結部34とで矩形に取り囲んでいる。このような連結部34を設けると、両永久磁石26を含む閉磁路の磁気抵抗が小さくなるので、両永久磁石26間のイオン引出し領域20における磁界28をより強くすると共に、当該磁界28のプラズマ10側への拡がりをより小さくすることができる。また、この連結部34によって、両強磁性体30の内側端30a間の空間に形成される下記の磁界32の強さを適度なものに調整することもできる。
【0024】
なお、図1および図4に示す例のように、永久磁石26の下部に、当該永久磁石26等を支持する支持板36を設けても良い。永久磁石26および強磁性体30は、この例では支持板36を介してプラズマ電極15と同電位にしている。更に、図4に示す例のように、永久磁石26と強磁性体30との間に、永久磁石26がプラズマ10に曝されるのを防止して永久磁石26を保護する充填物38を設けても良い。この支持板36および充填物38は、共に、アルミニウム等の非磁性材から成る。
【0025】
上記各強磁性体30は各永久磁石26の背面部にそれぞれ磁気的に接続されているので、図2に示すように、両強磁性体30の内側端30a間の空間には、即ち永久磁石26の上方を覆っている部分間には、両永久磁石26間の磁界28とは逆向きの磁界32が形成される。強磁性体30には磁気抵抗が存在するので、この磁界32は、永久磁石26間の磁界28よりもかなり弱くなる。しかし、強磁性体30の内側端30a付近では、永久磁石26の作る磁界28もかなり弱くなっているので、その付近では両方の磁界28、32が互いにうまく打ち消し合う。
【0026】
これによって、永久磁石26が作る磁界28がプラズマ10側へ拡がるのが抑制される。即ち、永久磁石26間では磁界28は強いけれども、プラズマ10側へ少し離れると当該磁界は急に弱くなる。更に上側においても同様である。その結果、永久磁石26が作る磁界によるプラズマ10への影響を少なくすることができる。従って、軽イオン22bが引き出されるのを抑制するための永久磁石26を設けても、それがプラズマ10の密度低下および不均一性増大を惹き起こすことを防止することができる。
【0027】
なお、両強磁性体30の内側端30aは、この例のように、永久磁石26の先端よりも内側へ張り出しておくのが好ましい。そのようにすると、永久磁石26が作る磁界28のプラズマ10側への拡がりをより効果的に抑制することができる。
【0028】
図5に磁束密度分布のシミュレーション結果の一例を示す。同図の横軸は、プラズマ電極15の表面からプラズマ10の中心部へ向かう距離Zである(図2および図7参照)。縦軸の磁束密度の測定位置は、引出し電極系14の中心軸上とした。同図中の実施例は、上記図1ないし図4に示した構造のものであり、従来例は図6および図7に示した構造のものである。なお、永久磁石26のZ方向の位置は、このシミュレーションでは実施例と従来例とで互いに同じにしている。
【0029】
このシミュレーション結果は、プラズマ10の中心領域10aへの漏れ磁界を互いにほぼ等しくした場合に、実施例の方が従来例よりも、プラズマ電極15の表面付近(即ちZ=0付近)での磁束密度を大きくすることができることを示している。プラズマ電極15の表面付近での磁束密度を大きくできれば、前述した軽イオンの引き出しを抑制するフィルタ作用や、プラズマ10からの高エネルギー電子がプラズマ電極15に近づくのを阻止する作用をより高めることができる。即ちこれらの作用をより効率良く行わせることができる。
【0030】
この図5は、見方を変えれば、プラズマ電極15の表面付近での磁束密度を互いにほぼ等しくするならば、実施例の方が従来例よりも、プラズマ10の中心領域10aへの漏れ磁界を小さくしてプラズマ10への影響を少なくすることができることを示している。
【0031】
また、前述したように永久磁石26のZ方向の位置を実施例と従来例とで互いに同じにしているにも拘わらず、従来例では磁束密度の最大領域BM がプラズマ電極15の表面から離れているのに対して、実施例の場合は最大領域BM がプラズマ電極15の表面付近になっていることが分かる。これは、上記強磁性体30を設けたことによる磁界32が、永久磁石26が作る磁界28をプラズマ電極15側へ押し下げた結果であると考えられる。実施例のように磁束密度の最大領域BM がプラズマ電極15の表面付近になる方が、前述した軽イオンの引き出しを抑制する作用や、プラズマ10からの高エネルギー電子がプラズマ電極15に近づくのを阻止する作用をさせたい所で最も磁束密度が高くなるので、これらの作用をより効果的に行わせることができる。
【0032】
この発明に係るイオン源2aは、上述したように軽イオンが引き出されるのを効果的に抑制することができるので、このイオン源2aを、質量分離電磁石を有していない前述したイオンドーピング装置に使用すれば、不要な軽イオンが基板に入射・注入されることに伴う前記問題の発生を、イオン源2a自身で防止することができ、非常に好都合である。
【0033】
なお、上記各永久磁石26は、1本の棒状の永久磁石で構成しても良いし、複数の短い永久磁石を棒状に並べて構成しても良い。
【0034】
また、引出し電極系14のイオン引出し孔15a〜18aは、上記例のような多数の丸い小孔の代わりに、複数の細長いスリット状の孔としても良い。
【0035】
また、プラズマ生成手段は、上記のようなフィラメント8を用いるものの代わりに、プラズマ室容器4内に高周波やマイクロ波を導入して、プラズマ室容器4内で高周波放電やマイクロ波放電を生じさせ、それによってイオン源ガス6を電離させてプラズマ10を生成するものでも良い。
【0036】
【発明の効果】
以上のようにこの発明によれば、上記のような強磁性体を設けたことによって、当該強磁性体の内側端間に、永久磁石間の磁界とは逆向きの磁界が形成され、強磁性体の内側端間付近で両方の磁界が互いにうまく打ち消し合うので、軽イオンが引き出されるのを抑制するための永久磁石が作る磁界がプラズマ側へ拡がるのを抑制して、当該磁界によるプラズマへの影響を少なくすることができる。即ち、当該磁界が、プラズマの密度低下および不均一性増大を惹き起こすことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明に係るイオン源の一例を示す断面図である。
【図2】図1中の永久磁石および強磁性体周りを拡大して示す断面図である。
【図3】図1中の永久磁石、強磁性体およびプラズマ電極を示す平面図である。
【図4】図3の線A−Aに沿う断面構造の一例を拡大して示す図である。
【図5】プラズマ電極表面からプラズマ中心部方向へ向けての磁束密度分布のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【図6】従来のイオン源の一例を示す断面図である。
【図7】図6中の永久磁石周りを拡大して示す断面図である。
【符号の説明】
2a イオン源
4 プラズマ室容器
10 プラズマ
14 引出し電極系
15 プラズマ電極
20 イオン引出し領域
22 イオンビーム
26 永久磁石
28 磁界
30 強磁性体
32 磁界
Claims (1)
- イオン源ガスが導入されるプラズマ室容器と、このプラズマ室容器内でイオン源ガスを電離させてプラズマを生成するプラズマ生成手段と、前記プラズマ室容器の開口部付近に設けられていて前記プラズマからイオンビームを引き出す引出し電極系と、この引出し電極系を構成する最プラズマ側の電極であるプラズマ電極の上部近傍に、当該引出し電極系のイオン引出し領域を挟んで異極性で相対向するように配置されていて、当該プラズマ電極のプラズマ側の面に沿う磁界を発生させる一組の永久磁石とを備えるイオン源において、前記各永久磁石に対して、当該永久磁石の背面部に磁気的に接続されかつ当該永久磁石のプラズマ側の上方を覆う強磁性体をそれぞれ設け、かつこの両強磁性体の内側端を、前記引出し電極系のイオン引出し領域を挟んで相対向させて、両強磁性体の内側端間に、前記永久磁石間の磁界とは逆向きの磁界が形成されるよう構成していることを特徴とするイオン源。
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