JP3754267B2 - 配水量予測システム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、配水量予測システムに関し、特に浄水場から水需要家に対して配水する水の配水量を予測する配水量予測システムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
浄水場では、工場、会社、店舗あるいは家庭などの水需要家に対して配水する場合、所定の浄水処理を行った後、各水需要家へ配水している。一般に、浄水処理としては、例えば河川などから取水した原水へ凝集剤を投入して不純物をフロック(粒子)化し、これを沈殿させた後、ろ過するという処理が行われる。この処理にはフロック形成や沈殿などの処理が含まれることから、浄水処理全体で少なくとも3〜6時間も必要となる。また、設備規模などから単位時間に浄水処理できる量にも限りがある。さらに、浄水処理には膨大に電力が必要となるため、電力コストが割安な夜間に浄水処理を行っておきたいという要求もある。
【0003】
このような制約から、水需要家に対し水を安定供給するためには、前もって配水量を精度よく予測し、例えば前日深夜など、水需要が増加し始めるまでに必要な量の水を浄水処理して配水池に溜めておく必要がある。
ここで、水の需要は、日、週、月、季節などによって変動が大きい。さらに気温や原水のpH値などの変動要素に応じてフロックのでき方も変動するため、フロック形成速度や沈殿速度に差が生じ、浄水処理の所要時間も変化する。
従来、このような変動要素を含む配水量を予測する場合、水需要のパターンを日毎にグラフ化しておき、このパターンを参照して準備すべき配水量を予測したり、カルマンフィルタやニューラルネットワーク、あるいはメモリベース・ラーニング(Memory−Based Learning)を用いて配水量を予測したりしていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような従来のような配水量の予測方法では、浄水処理の所要時間を見越して精度よく配水量を予測できないという問題点があった。例えば、グラフ化された水需要のパターンから配水量を予測する方法によれば、変動要素と配水量についてあらゆるパターンを用意しておく必要があり、さらにこれら膨大なパターンから最適なパターンを的確に選択する必要があるが、実際には限られたパターンからある程度似たものを選択するものとなり、大まかな傾向しか予測できない。このため、必然的に配水量を多く見積もることになり、凝集剤の無駄使いや浄水処理された水の廃棄などが発生し、不経済な運転を余儀なくされてしまう。
【0005】
また、カルマンフィルタを用いて配水量を予測する方法では、せいぜい1時間後の予測が精一杯で、浄水処理の所要時間すなわち3〜6時間を見越して予測することができなかった。一方、ニューラルネットワークを用いて配水量を予測する方法では、ある程度の時間を見越して予測できるものの、学習による最適なモデル作成が難しい。さらに、モデル更新に浄水処理の所要時間と同等の時間を要し、モデル自身やパラメータの評価が困難であるため、実際的な運用性に欠け、十分な信頼性が得られなかった。
【0006】
また、メモリベース・ラーニングを用いて配水量を予測する方法(例えば、「Memory−Based Learningによる配水量予測」玉田ほか,平成4年電気学会全国大会 p13-22,23)では、異なる単位や範囲の変数を同列に扱うために入力データと各変数のサンプルデータとの距離を適切に設定する必要があるが、これは実際の浄水処理施設ごとにカットアンドトライして決定するしかなく、さらに変数が多次元となるにしたがって距離の決定に膨大な作業を要するため実際的な運用性に欠けていた。さらに、予測精度を向上させるためにはサンプルデータを集約せずすべてをそのままの状態で記憶しておく必要があり、膨大な記憶容量が必要となる。
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、実際的な運用性を有し、浄水処理の所要時間を見越して将来の配水量を十分な信頼性を持って予測できる配水量予測システムを提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
このような目的を達成するために、本発明による配水量予測システムは、浄水設備から予め得られた実際の配水量と予測に必要な変数との組からなる多数の実績データを取り込み履歴データとして保存し、所望の出力許容誤差に応じて事例ベースの入力空間を量子化するとともに、各履歴データを量子化された入力空間内に配置して1つ以上の履歴データを代表する事例を作成することにより事例ベースを生成する事例ベース生成部と、新たに入力された変数に対応する類似事例を事例ベースから検索する類似事例検索部とを設け、この類似事例検索部で検索された類似事例から新たに入力された変数に対応する配水量を推定するようにしたものである。
【0008】
変数としては、実際の配水量が得られた時間位置に関する時間データと、実際の配水量が得られた環境に関する環境データとを用いてもよく、さらに実際の配水量と関係する過去の配水量を用いてもよい。
また、浄水設備から配水される実際の配水量を測定する流量計を設け、この流量計で得られた実際の配水量とこの配水量に対応する変数との組を用いて、事例ベースのうちの所定事例のみを改訂することにより事例ベースを更新するようにしてもよい。
【0009】
【発明の実施の形態】
次に、本発明について図面を参照して説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態である配水量予測システムのブロック図であり、以下では、河川から取水した水を浄化処理し水需要家へ配水する浄水場を例として説明する。同図において、水運用システム10では、河川などから取水した原水が浄水処理され水需要家へ配水される。配水量予測装置50では、この水運用システム10などから得られる実績データ30から事例ベースを生成し、予想する配水量を規定する予測条件40に基づき、将来必要となる配水量を予測し配水計画データ20として出力する。水運用システム10では、この配水計画データ20に基づき浄水処理を制御する。
【0010】
水運用システム10には、ポンプ12で取水した原水を一時的に貯水する着水井13と、この着水井13の原水へ凝集剤を投入して不純物をフロック(粒子)化して沈殿させた後にろ過するなどの浄水処理を行う浄水設備14と、浄水処理した水を一時的に貯水しておく配水池15と、配水池15から水需要家へ配水された配水量を計測する流量計16と、これら設備を制御することにより配水計画データ20に基づいた水運用を実現する浄水制御装置11とが設けられている。
【0011】
実績データ30は、配水量予測装置50へ取り込まれ事例ベースとして用いられる。この実績データ30としては、水運用システム10の流量計16で計測された1時間分の時刻配水量や1日分の総配水量など実際に配水された配水量データ33が取り込まれる。また、この配水量データ33とともに、配水量の予測時に予測条件として用いる変数として、時間データ31や環境データ32が組として取り込まれる。時間データ31は配水量データ33が得られた時刻、日種別、季節などを示すデータであり、環境データは配水量データ33が得られたときの気温、最高気温、天候などを示すデータである。
【0012】
予測条件40は、配水量予測装置50で予測する配水量を規定する変数であり、時間パラメータ41および環境パラメータ42などから構成される。時間パラメータ41については、予測する配水量の時間位置を示す時刻情報、その日の種別、例えば平日、休日、旧前日、祭日、年末年始、稼働日などを示す日種別情報、その日が属する季節を示す季節情報などの時間に関する情報が単独であるいは組み合わせて用いられる。例えば、明日の正午における配水量を予測する場合、時刻情報として「正午」が設定され、明日が日曜日であれば日種別情報として「休日」が設定される。
【0013】
環境パラメータ42については、予測する配水量の時間位置における気温情報、天候情報、その日の最高気温情報などの環境に関する情報が単独であるいは組み合わせて用いられる。例えば、明日の正午における配水量を予測する場合、気温情報として昨日の同一時刻ここでは昨日正午における気温や明日正午の予想気温などを設定してもよい。また天候情報として明日の予想天気を設定してもよく、最高気温情報として昨日の最高気温や明日の予想最高気温を設定してもよい。
【0014】
これら予測条件40の各パラメータ41,42は、実績データ30の各データ31,32と対応して設定される。なお、実績データ30や予測条件40で用いる個々の情報については、前述したものに限定されるものではなく、システム構成や要求予測精度に応じて、適時、変更可能である。例えば、予測する配水量と関係のある配水量、例えば予測する配水量から24時間前の配水量や前日の総配水量などの配水量に関する情報などを組み合わせて用いてもよい。このような配水量情報については過去に取り込んだデータを利用できる。
【0015】
配水量予測装置50は、実績データ30や予測条件40を取り込む入力部51と、取り込んだ実績データ30からなる多数の履歴データ52と、この履歴データ52を用いて多数の事例からなる事例ベース54を生成する事例ベース生成部53と、新たに入力された予測条件40に基づき事例ベース54から類似事例を検索する類似事例検索部56とから構成されている。
【0016】
さらに、類似事例検索部56で検索された1つ以上の類似事例から新規予測条件40に対応する配水量を推定し、例えば明日1日分など所定期間にわたる配水計画データ20を出力する出力推定部57と、新たな実績データ30に基づき事例ベース54を部分改訂する適応学習部55が設けられている。このうち、事例ベース生成部53、類似事例検索部56、出力推定部57および適応学習部55は、それぞれソフトウェアで実現されている。
【0017】
配水量予測装置50では、事例ベース推論モデルを用いて配水量を予測推定している。この事例ベースとしては、過去に経験した事例、例えば配水量データ33、時間データ31、環境データ32などからなる実績データ30を蓄積したものを用いている。したがって、事例ベース自体がシステムの入出力関係を内包しており、従来のような入出力関係を表すための特殊なモデルを必要としない。また、新たな予測条件については、それと類似した予測条件を持つ既存の事例を事例ベースから検索している。このとき、入力量子化数をパラメータとして入力空間を量子化して事例ベースと類似度を定義し、評価指標値を算出して量子化数を決定している。このため収束計算を必要とせず、さらにこの評価指標値からモデルの完成度を評価でき、従来のように別途テストデータを用いてモデル評価を行う必要がない。
【0018】
このように、本発明は実際的な運用性を有しており、浄水処理の所要時間を見越して将来の配水量を十分な信頼性を持って予測できる。したがって、浄水処理にある程度時間を要し、また設備規模などから単位時間に浄水処理できる量にも限りがある場合でも、正確な予測配水量に基づき水需要に過不足することなく浄水処理を制御でき、電力コストが割安な夜間に浄水処理を行っておくこともできる。また、後述のシミュレーションに示されているように、事例ベースでの配水量予測に必要な変数として、時間パラメータや環境パラメータ、さらには過去の配水量を用いるだけという極めて少ない種類の変数で精度よく配水量を予測できる。これにより、多種にわたる多数の変数を用いる場合と比較して、変数が少ない分だけ演算処理速度も向上しシステム全体のリアルタイム性も高まるとともに、これら変数を検出するためのセンサ類を多数設置する必要がなく設備コストを削減できる。
【0019】
次に、本発明の動作について説明する。
まず、図2〜4を参照して、配水量予測装置50の事例ベース生成部53の動作について説明する。図2は本発明の事例ベース推論モデルで用いる位相の概念を示す説明図、図3は入力空間の量子化処理を示す説明図、図4は事例ベース生成処理を示すフローチャートである。
本発明の事例ベース推論モデルでは、数学の位相論における連続写像の概念に基づき、入力空間を量子化し位相空間とすることにより、出力許容誤差(要求精度)に応じた事例ベースと類似度の一般的な定義を行っている。
【0020】
位相論における連続写像の概念とは、例えば空間X,Yにおいて、写像f:X→Yが連続であるための必要十分条件が、Yにおける開集合(出力近傍)O逆写像f−1(O)がXの開集合(入力近傍)に相当することである、という考え方である。
この連続写像の概念を用いて、入力空間から出力空間への写像fが連続することを前提とし、図2に示すように、出力空間において出力誤差の許容幅を用いて出力近傍を定めることにより、これら出力近傍とその出力誤差の許容幅を満足する入力近傍とを対応付けることができ、入力空間を量子化し位相空間として捉えることができる。
【0021】
本発明では、この入力空間の量子化処理を図3に示すようにして行っている。履歴データは、過去に得られた入力データと出力データとの組からなり、ここでは入力x1,x2と出力yとから構成されている。これら履歴データは入力空間x1−x2において、図3(b)のように分布している。これを図3(c)のように、x1,x2方向にそれぞれ所定幅を有する等間隔のメッシュで量子化する場合、図3(d)に示すように出力誤差の許容幅εを考慮して、メッシュの大きさすなわち入力量子化数を決定している。
【0022】
出力誤差の許容幅εとは、推定により得られる出力と新規入力データに対する未知の真値との誤差をどの程度まで許容するかを示す値であり、モデリング条件として予め設定される。したがって、この許容幅εを用いてメッシュの大きさを決定することにより、出力近傍の大きさに対応する入力近傍すなわち事例を定義でき、その事例に属する全ての入力データから推定される出力データの誤差が、出力誤差の許容幅εを満足することになる。
【0023】
事例ベース生成部53では、このような入力空間の量子化処理を用いて、事例ベース54を生成している。図4において、まず、履歴データ52を読み込むとともに(ステップ100)、出力誤差の許容幅εなどのモデリング条件を設定し(ステップ101)、この許容幅εに基づき各種評価指標を算出し、その評価指標に基づいて各入力変数ごとに入力量子化数を選択する(ステップ102)。そして、各メッシュに配分された履歴データ52から事例ベース54を構成する各事例を生成する(ステップ103)。
【0024】
ここで、図5〜8を参照して、評価指標を用いた入力量子化数の決定処理について説明する。図5は入力量子化数の決定処理を示すフローチャート、図6は評価指標の1つである出力分布条件を示す説明図、図7は評価指標の1つである連続性条件を示す説明図、図8は評価指標の1つである事例圧縮度条件を示す説明図である。
【0025】
入力量子化数の決定処理では、まず、評価指標の良否を判定するための基準として評価基準(しきい値)を設定する(ステップ110)。そして、各入力量子化数ごとに各評価指標を算出し(ステップ111)、得られた評価指標と評価基準とを比較して、評価基準を満足する評価指標が得られた入力量子化数のいずれかを選択する(ステップ112)。評価基準としては、出力分布条件および連続性条件をともに満たす事例が90%以上となる入力量子化数を選択するのが望ましく、システムでは90%もしくは95%の分割数が表示されるようになっている。この90%や95%という値は、統計的に考えて適切な値と考えられるからである。
【0026】
出力分布条件とは、図6に示すように、選択した入力量子化数で入力空間を量子化して得られた任意のメッシュについて、そのメッシュ内に属する履歴データの出力yの出力分布幅が出力誤差の許容幅εより小さい、という条件である。これにより1つのメッシュすなわち入力近傍が、これに対応する出力近傍に定めた条件すなわち出力誤差の許容幅εを満足するかどうか検査される。
【0027】
連続性条件とは、図7に示すように、選択した入力量子化数で入力空間を量子化して得られた任意のメッシュについて、そのメッシュで生成された事例の出力値yと、その事例の周囲に存在する周囲事例の平均出力値y’との差が、出力誤差の許容幅εより小さい、という条件である。これにより、各事例間すなわち入力近傍間での出力値の差が、これらに対応する出力近傍間に定めた条件すなわち出力誤差の許容幅εを満足するかどうか検査される。この連続性条件を満たすことにより、各事例が連続的に所望の精度を満たすように、入力空間をカバーしていると判断できる。
【0028】
事例圧縮度条件とは、事例化による履歴データの圧縮率を条件とするものである。図8に示すように、選択した入力量子化数で入力空間を量子化して得られた任意のメッシュについて、そのメッシュ内に複数の履歴データが属する場合、履歴データの事例化により、これら複数のk個の履歴データが事例を代表する1つのデータとなり1/kに圧縮されたことになる。ここでは、履歴データ全体の事例圧縮率がモデリング条件として指定された許容圧縮率を満足するかどうかか検査される。
【0029】
入力量子化数は、各入力変数ごとに順に決定される。例えば、入力変数がx1,x2,‥,xnの場合、x1からxnまで順に入力量子化数を決定していく。ここで、評価指標を算出する際、すべての入力変数に入力量子化数を割り当てる必要がある。したがって、xiに関する評価指標を求める際、x1〜xi−1については、その時点ですでに決定されている入力量子化数を用い、xi以降のxi+1,‥,xnについては、xiと同じ入力量子化数を用いる。
【0030】
前述した各条件のうち、出力分布条件と連続性条件については、評価指標として、その条件を満足する事例の全事例に対する割合すなわち評価指標充足率が用いられる。例えば、xiに関する入力量子化数mの評価指標値は、x1,x2,‥,xnの入力レンジ幅をそれぞれの入力量子化数で量子化し、量子化により生成された全事例における、その評価指標条件を満たす事例の割合で求められる。
【0031】
また、事例圧縮度条件では、xiに関する入力量子化数mの評価指標値として、すべての入力変数x1,x2,‥,xnの入力レンジ幅を入力量子化数mで量子化して求めた履歴データ全体の事例圧縮率が用いられる。
そして、その入力変数xiについて、これら全ての評価指標値が評価基準をクリアした入力量子化数からいずれかを選択し、その入力変数xiの入力量子化数として決定する。
【0032】
事例ベース生成部53では、以上のようにして入力量子化数が選択され、その入力量子化数で量子化された入力空間ここでは各メッシュに各履歴データが配分され、事例が生成される。図9は事例生成処理を示す説明図、図10は事例生成処理を示すフローチャートである。
まず、選択された入力量子化数に基づき各入力変数を量子化(分割し)、メッシュを生成する(ステップ120)。図9(a)では、入力変数x1が10分割されるとともに入力変数x2が6分割されている。
【0033】
そして、各履歴データが各メッシュに振り分けられ(ステップ121)、履歴データが存在するメッシュが事例として選択され、その入出値および出力値が算出される(ステップ122)。図9(a)に示すように、同一メッシュに3つの履歴データが振り分けられた場合、これらが1つ事例として統合される。このとき、事例を代表する出力値として3つの履歴データの出力yの平均値が用いられ、事例を代表する入力値としてそのメッシュの中央値が用いられる。
【0034】
図1の配水量予測装置50では、このようにして生成された事例ベース54を用いて、新規に入力された予測条件から配水量を推定する。
まず、類似事例検索部56では、入力部51では予測条件40をサンプリングしいそれぞれ入力変数とし、類似度を用いて事例ベース54から類似事例を検索する。図11は類似度の定義を示す説明図、図12は類似事例検索部56における類似事例検索処理を示すフローチャートである。
【0035】
類似度とは、事例ベース54が持つ入力空間に設けられた各メッシュのうち、各事例が新規の予測条件すなわち入力データに対応するメッシュとどの程度の類似性を有しているか示す尺度である。
図11では、入力データに対応する中央メッシュに事例が存在すれば、その事例と入力データとは「類似度=0」であると定義されている。また、中央メッシュの1つ隣に存在する事例とは「類似度=1」となり、以降、中央メッシュから1メッシュずつ離れていくごとに類似度が1ずつ増加していく。
【0036】
したがって、推定を行う場合、類似度iの事例による推定値は、(i+1)×出力許容幅以内の精度を持つことになる。このとき、推定を行う入力値に対してうまく両側の事例が使用された場合は、(i+1)×出力許容幅よりも良い精度の出力値である場合が予想される。また、推定を行う値に対して片側の事例のみが使用された場合は、(i+1)×出力許容幅程度の精度であることが、入出力の連続性のもとに予想される。
【0037】
類似事例検索部56では、図12に示すように、まず、入力部51でサンプリングした新規予測条件を入力データとして取り込み(ステップ130)、事例ベース54が持つ入力空間から、その入力データに対応するメッシュを選択するとともに(ステップ131)、事例検索範囲として用いる類似度を0に初期化し(ステップ132)、その類似度が示す事例検索範囲から類似事例を検索する(ステップ133)。
【0038】
ここで、入力データに対応するメッシュに事例が存在した場合は(ステップ134:YES)、その事例を類似事例として出力する(ステップ136)。
一方、ステップ134において、入力データに対応するメッシュに事例が存在しなかった場合は(ステップ134:NO)、類似度を1だけ増やして事例検索範囲を拡げ(ステップ135)、ステップ133へ戻って、再度、類似事例を検索する。
【0039】
このようにして、類似事例検索部56において、新規の予測条件に対応する類似事例が事例ベース54から検索され、出力推定部57で、これら類似事例に基づき、新規予測条件に対応する配水量が推定される。
例えば、図13に示すように、入力データA(22.1,58.4)に対応するメッシュ150に事例が存在した場合、その事例の出力値y=70.2が推定出力値として選択される。
【0040】
また、図14に示すように、入力データA(23.8,62.3)に対応するメッシュ151に事例が存在しなかった場合、検索範囲152を拡大して類似事例を検索する。そして、検索された事例から推定出力値を算出する。このとき、複数の事例が検索された場合は、それら各事例の出力値の平均値が推定出力値として用いられる。
このようにして、新規予測条件に対応する配水量が推定され、その推定量に基づく配水計画データ20が、出力推定部57から水運用システム10へ指示される。
【0041】
次に、図15,16を参照して、適応学習部の動作について説明する。
適応学習部55では、入力部51から得られた新規の実績データ30に基づき事例ベース54を更新する。このとき、実績データ30をカレンダ機能や温度センサなどで例えば1時間ごとに自動的に得るようにしてもよく、自動運転が可能となる。
まず、事例ベース54が持つ入力空間から新規データに対応する事例が検索される。ここで、その新規データに対応する事例が存在した場合は、その事例のみを改訂する。
【0042】
図15は、対応する事例が存在する場合の適応学習動作を示す説明図である。ここでは、新規データB(23.9,66.8,48.2)に対応する事例160が存在するため、新規データBの出力値y=48.2と改訂前の事例160の出力値49.7とから、その事例の新たな出力値y=49.0を算出している。出力改訂演算式としては、忘却計数CForgetを設け、この忘却計数が示す比率で改訂前出力値Yoldと新規データBの出力値Yとを加算し、その事例の改訂後の出力値としている。
【0043】
一方、新規データに対応する事例が存在しない場合は、その新規データに基づき新たな事例を生成する。
図16は、対応する事例が存在しない場合の適応学習動作を示す説明図である。ここでは、新規データB(23.7,62.3,43.8)に対応するメッシュ161に事例が存在しないため、その新規データBに対応するメッシュの中央値を入力値とし、新規データBの出力値yを代表の出力値とする新規事例162を新たな生成して、事例ベース54に追加している。
【0044】
図17は本発明による事例ベース推論モデルを用いた場合の予想配水量と実際の配水量とを示すシミュレーション結果である。ここでは、予測時点の時刻T0から24時間先の時刻T1の配水量を予測するものとし、予測条件40として時刻T1から24時間前(この場合は時刻T0)の気温、時刻T1での日種別、および時刻T1から24時間前(この場合は時刻T0)の配水量を用いている。
図17(b)は事例ベース推論モデルからの推定出力値であり、図17(a)に示す水運用システム10で検出された実際の配水量とほとんど差がなく、時刻に応じて配水量が変化しても、推定出力値が遅れなく追従していることがわかる。
【0045】
配水量予測装置50で用いる推論モデルは、事例ベース推論の枠組みをモデリングに適用したもので、位相(Topology)の概念に基づき、システムの入出力関係の連続性が成り立つ一般的な対象に適用可能なモデリング技術といえる。従来のモデリング技術では、モデルの次数やネットワーク構造などのモデルパラメータを同定するが、本発明の事例ベース推論モデルでは、所望の出力許容誤差を指定することで入力空間の位相を同定している。
【0046】
したがって、データは同定された入力空間に事例として蓄えられ、出力推定時には入力と予め蓄積されている入力事例との位相距離(類似度)により推定出力値の信頼性が示せるという特徴を持つ。本発明では、このようなモデルを用いて将来の配水量を推定するようにしたので、ニューラルネットワークや回帰モデルなどの従来の推論モデルと比較して、次のような作用効果が得られる。
【0047】
従来の推論モデルでは、
1)入出力全域の関係を規定するために特殊なモデル構造を用いているため、システムに最適な構造を見つけるためには多くの手間を必要とする。
2)多量の履歴データの学習を行う場合、モデル構造の持つ複数のパラメータを同定するための収束計算を行う必要があり、この処理に膨大な時間がかかる。3)新たなデータに基づきモデルを更新する場合にもパラメータの同定を行う必要があり、実際には適応学習が困難である。
4)推定を行う入力値に対してモデル出力値がどの程度信頼できるかどうかを把握するのが困難である。
【0048】
これに対して、本発明によれば、
1)過去に経験した事例(問題と解答)を事例ベースとして蓄積し、システムの入出力関係を内包する入出力事例を用いているため、入出力関係を表すための特殊なモデルを必要としない。
2)新たに入力された問題については、それと類似した問題を持つ既存の事例を事例ベースから検索する。このとき、入力量子化数をパラメータとして入力空間を量子化して事例ベースと類似度を定義し、評価指標値を算出して量子化数を決定している。このため収束計算を必要とせず、さらにこの評価指標値からモデルの完成度を評価でき、従来のように別途テストデータを用いてモデル評価を行う必要がない。
【0049】
また、本発明によれば、
3)検索した類似事例の解答を修正し、新たに入力された問題に対する解答を得ている。したがって、推定を行う入力値に対して検索された事例の類似の程度が判定できるため、この類似度を出力値の信頼性評価に利用できる。
4)新たに入力された問題に対する正しい解答が判明した後、その新事例を事例ベースに追加するものとしているため、新たなデータに基づき事例ベースを部分改訂でき、従来のようにパラメータの同定を行う必要がなく、容易に適応学習できる。
【0050】
従来のモデルにおける学習と収束計算の問題については、事例ベース推論(Case−Based Reasoning:CBR)において事例ベース構造と類似度の定義という問題となる。これは、従来の事例ベース推論において、対象の十分な知見がなければ定義できないという、工学上の大きな問題となっている。本発明の事例ベース推論モデルでは、数学の位相論における連続写像の概念に基づき、出力許容誤差すなわち要求精度に応じた事例ベースと類似度の一番的な定義を、入力空間を量子化し位相空間とすることで行っている。
【0051】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明は、浄水設備から予め得られた実際の配水量と予測に必要な変数との組からなる多数の実績データを取り込み履歴データとして保存し、所望の出力許容誤差に応じて事例ベースの入力空間を量子化するとともに、各履歴データを量子化された入力空間内に配置して1つ以上の履歴データを代表する事例を作成することにより事例ベースを生成する事例ベース生成部と、新たに入力された予測条件に対応する類似事例を事例ベースから検索する類似事例検索部を設け、この類似事例検索部で検索された類似事例から新たに入力された予測条件に対応する配水量を推定するようにしたので、従来のように、水需要のパターンを用いたり、カルマンフィルタやニューラルネットワーク、さらにはメモリベース・ラーニングを用いて配水量を予測する場合と比較して、実際的な運用性を有し、浄水処理の所要時間を見越して将来の配水量を十分な信頼性を持って予測できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1の実施の形態による配水量予測システムのブロック図である。
【図2】 本発明の事例ベース推論モデルで用いる位相の概念を示す説明図である。
【図3】 入力空間の量子化処理を示す説明図である。
【図4】 事例ベース生成処理を示すフローチャートである。
【図5】 入力量子化数の決定処理を示すフローチャートである。
【図6】 出力分布条件を示す説明図である。
【図7】 連続性条件を示す説明図である。
【図8】 事例圧縮度条件を示す説明図である。
【図9】 事例生成処理を示す説明図である。
【図10】 事例生成処理を示すフローチャートである。
【図11】 類似度の定義を示す説明図である。
【図12】 類似事例検索処理を示すフローチャートである。
【図13】 出力推定動作(類似事例が存在する場合)を示す説明図である。
【図14】 出力推定動作(類似事例が存在しない場合)を示す説明図である。
【図15】 適応学習動作(対応事例が存在する場合)を示す説明図である。
【図16】 適応学習動作(対応事例が存在しない場合)を示す説明図である。
【図17】 本発明による事例ベース推論モデルを用いた場合のシミュレーション結果である。
【符号の説明】
10…水運用システム、11…浄水制御装置、12…取水ポンプ、13…着水井、14…浄水設備、15…配水池、16…流量計、20…配水計画データ、30…実績データ、31…時間データ、32…環境データ、33…配水量データ、40…予測条件、41…時間パラメータ、42…環境パラメータ、50…配水量予測装置、51…入力部、52…履歴データ、53…事例ベース生成部、54…事例ベース、55…適応学習部、56…類似事例検索部、57…出力推定部。
Claims (4)
- 浄水設備から配水する配水量を予測する配水量予測システムにおいて、
浄水設備から予め得られた実際の配水量と予測に必要な変数との組からなる多数の実績データを取り込み履歴データとして保存し、所望の出力許容誤差に応じて事例ベースの入力空間を量子化するとともに、前記各履歴データを量子化された入力空間内に配置して1つ以上の履歴データを代表する事例を作成することにより前記事例ベースを生成する事例ベース生成部と、
新たに入力された変数に対応する類似事例を前記事例ベースから検索する類似事例検索部と、
この類似事例検索部で検索された前記類似事例から前記新たに入力された変数に対応する配水量を推定する出力推定部とを備えることを特徴とする配水量予測システム。 - 請求項1記載の配水量予測システムにおいて、
前記変数として、前記実際の配水量が得られた時間位置に関する時間データと、前記実際の配水量が得られた環境に関する環境データとを用いることを特徴とする配水量予測システム。 - 請求項1記載の配水量予測システムにおいて、
前記変数に加えて、前記実際の配水量と関係する過去の配水量を用いることを特徴とする配水量予測システム。 - 請求項1記載の配水量予測システムにおいて、
前記浄水設備から配水される実際の配水量を測定する流量計と、
この流量計で得られた実際の配水量とこの配水量に対応する変数との組を用いて、前記事例ベースのうちの所定事例のみを改訂することにより前記事例ベースを更新する適応学習部とをさらに備えることを特徴とする配水量予測システム。
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