JP3749856B2 - 記録装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高密度記録が可能な記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
パソコンなど情報機器の飛躍的な機能向上により、ユーザーの扱う情報は著しく増大してきている。このような状況の下で、これまでより飛躍的に記録密度の高い情報記録再生装置に対する期待は高まるばかりである。記録密度を向上させるためには、記録媒体において記録の書き込み単位である1つの記録セルまたは記録マークの大きさを微小化することが必要である。しかし、従来の記録媒体において記録セルまたは記録マークの微小化は大きな困難に直面している。
【0003】
例えば、ハードディスクなどの磁気記録媒体では、記録層に粒度分布の広い多結晶体を用いている。しかし、結晶の熱揺らぎのために、小さい多結晶体では記録が不安定となる。このため、記録セルが大きい場合は問題ないが、記録セルが小さいと記録の不安定性やノイズの増大が生じる。これは、記録セルに含まれる結晶粒の数が少なくなることと、記録セル間の相互作用が相対的に大きくなることが要因になっている。
【0004】
相変化材料を用いた光記録媒体においても状況は同様であり、記録マークサイズが相変化材料の結晶サイズと同程度となる1インチ平方当たり数百ギガビット以上の記録密度では、記録が不安定になるとともに媒体ノイズが大きくなる。
【0005】
これらの問題を回避するため、磁気記録の分野においては、あらかじめ記録材料を非記録材料により分断し、単一の記録材料粒子を単一の記録セルとして記録再生を行うパターンドメディアが提案されている(S.Y.Chou et al.,J.Appl.Phys.,76(1994)pp6673;US Patent 5,820,768および5,956,216;R.H.M.Newet al.,J.Vac.Sci.Technol.,B12(1994)pp3196;荻野谷他,特開平10−233015号公報)。
【0006】
記録媒体表面を記録材料が一様に覆い記録材料が分断されていない連続媒体では、記録ヘッドが記録媒体の特定位置にデータを記録する際に、書き込み開始のタイミングがずれることにより書き込み位置がトラック方向に少しずれたとしても、媒体表面が一様であるために記録エラーは起きにくい。
【0007】
一方、記録媒体表面において記録材料が非記録材料により分断されているパターンドメディアでは、記録ヘッドが記録媒体の特定位置にデータを記録する際に分断された記録セルの1つ1つにデータを書き込む必要があるため、記録ヘッドによる記録開始のタイミング合わせが困難である。記録開始タイミングがずれると、記録ヘッドが非記録材料部分または隣り合う記録セルにまたがって書き込み動作を行うことになるため、書き込みエラーが増える。例えば、記録媒体の所定セクタの半径座標をr=25mm、記録媒体の回転速度をμ=5400rpmとすると、媒体は記録ヘッド下を約14m/secの速度で通過する。媒体中の記録セルのサイズが例えば20nmであるとき、1つの記録セルが記録ヘッド下を通過する時間は1.4nsec程度である。記録開始のタイミングを合わせるには、記録セルサイズの数%以下の精度が必要であり、0.1nsec以下のタイミング合わせが必要である。しかし、現状では再生ヘッドと記録ヘッドが数μm以上離れているため、上記のタイミング精度を達成するのは困難である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、Tbpsi級の記録密度を実現するために、パターンドメディアは有効な手段であるが、記録ヘッドを用いて個々の記録セルへデータを書き込む際に、記録開始タイミングを合わせるのに有効な方法が確立していないため書き込みエラーが生じる。
【0009】
本発明の目的は、記録セルのパターンが高度に配列化した記録媒体への記録開始タイミングずれによる書き込みエラーの影響を解消することができ、高速なデータ書き込みが可能な記録装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の一態様に係る記録装置は、単一の記録材料粒子を単一の記録セルとして記録再生を行うように記録材料を非記録材料により分断して形成された複数の記録セルをトラック方向に沿ってピッチPで周期的に配列した複数列のサブトラックを含む記録トラック帯と、記録トラック帯間を分離する分離帯を有し、前記記録トラック帯内で隣り合うサブトラック上に位置する最近接の2つの記録セルは互いの中心がトラック方向に沿って前記ピッチPの1/2ずれている記録媒体に対してデータを記録する記録装置であって、隣り合う2つのサブトラックからなる記録トラック上に配置される再生ヘッドおよび記録ヘッドと、前記記録ヘッドに記録開始信号を与える制御器と、前記記録トラック上を前記記録ヘッドが前記ピッチPの1/2のn倍(nは2以上の整数)の距離を通過するのに要する時間で1つのデータ信号を書き込むようにデータ信号を生成する信号発生器と、前記再生ヘッドからの読み出し信号を処理する信号処理器とを具備したことを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
図1に本発明の一実施形態に係る記録装置によって記録がなされる記録媒体の記録層の平面図を示す。図1に示す記録層には、複数の記録トラック帯1が複数の帯状の分離帯2によって互いに分離されて形成されている。記録媒体全体の形状はディスクでもカードでもよく、特に形状は限定されない。ディスク状の記録媒体では、記録トラック帯1を同心円状またはスパイラル状に形成することが好ましい。カード状の記録媒体では、記録トラック帯1を直線状に形成することが好ましい。
【0012】
記録トラック帯1内には規則的に配列した複数の記録セル11が、非記録材料からなるマトリックス12によって互いに分断されて形成されている。マトリックス12の材料は記録セル11に書き込まれた情報を破壊しないものであれば特に限定されない。マトリックス12の材料としては、例えばSiO2、Al23などの無機絶縁材料、ポリマーなどの有機絶縁材料を用いることができるが、これらに限定されない。
【0013】
上述した分離帯2は非記録材料で形成してもよいし、記録材料で形成してもよい。分離帯が非記録材料からなる場合、再生ヘッドが複数の記録トラック帯を横切る度に、周期的に信号がない領域が現れることを利用して記録トラック帯のシークが容易になる。分離帯が記録材料からなる場合、分離帯に記録トラック帯のアドレス情報を記録することができる。
【0014】
記録セル11はトラック方向に沿ってピッチPをもって周期的に配列してサブトラックを形成し、1つの記録トラック帯1内には複数列のサブトラックが含まれる。図1では記録トラック帯1内に19列のサブトラック1a〜1sが含まれている。なお、記録トラック帯1内のサブトラックの数は特に限定されず、設計に応じて適宜設定される。
【0015】
図1では記録セル11は最も安定な構造である六方細密充填構造をなして三角格子を形成している。このため、記録トラック帯1内で隣り合うサブトラック例えば1aおよび1b上に位置する最近接の2つの記録セル11は、トラック方向に沿って互いの中心間の間隔が1つのサブトラック例えば1a上での記録セル11間のピッチPの1/2だけずれている。
【0016】
図2は本発明の一実施形態に係る記録装置、例えば磁気ディスク装置の全体的な構造を示す斜視図である。磁気ディスク21はスピンドルモーター22に装着され、図示しない制御部からの制御信号により回転する。軸23にはアクチュエータアーム24が保持され、アクチュエータアーム24はサスペンション25およびその先端のスライダ26を支持している。磁気ディスク21が回転すると、スライダヘッド26の媒体対向面は磁気ディスク21の表面から所定量浮上した状態で保持され、情報の記録再生を行う。アクチュエータアーム24の基端にはボイスコイルモーター27が設けられ、アクチュエータアーム24はボイスコイルモーター27により回動できるようになっている。アクチュエータアーム24の先端には微小位置制御を行うためのピエゾ素子が設置される。磁気ディスク装置内部には記録セルの信号からトラッキング信号を発生するためのマイクロプロセッサーが設置される。
【0017】
図3は本発明の一実施形態に係る磁気ディスク装置の磁気ディスクおよびスライダを示す断面図である。また、図4はスライダの平面図である。
【0018】
図3に示すように、磁気ディスク21は、基板10上に、記録セル11が規則配列した記録トラック帯1および分離帯2を含む記録層3と、保護層4が形成された構造を有する。磁気ディスク21はスピンドルモーター22に装着されている。磁気ディスク21上にはスライダ26が配置される。スライダはピエゾ素子を含む2段アクチュエータ(図示せず)によって位置決めされる。
【0019】
図3および図4に示すように、スライダ26の先端には再生ヘッド31と記録ヘッド32が搭載されている。既述した図1に示したように、再生ヘッド31および記録ヘッド32は、磁気ディスク21の記録トラック帯1上において隣り合う2つのサブトラック(図1では1aおよび1b)からなる記録トラック上をカバーするように配置される。
【0020】
図3に示すように、再生ヘッド31には再生信号を処理する信号処理器33が接続されている。記録ヘッド32には制御器34および信号発生器35が接続されている。再生ヘッド31で読み出された記録セルの信号に基づいて、制御器34は記録ヘッド31に記録開始信号を与える。また、制御器34は信号発生器35で生成されたデータ信号を記録ヘッド31に与える。信号発生器35は、記録ヘッド32が記録トラック上を記録セル11間のピッチPの1/2のn倍(nは2以上の整数)だけ通過するのに要する時間で1つのデータ信号を書き込むようにデータ信号を生成する。なお、データ信号の先頭に追加される特定のヘッダパターン信号を生成するヘッダ発生器が設けられる場合もある。
【0021】
記録ヘッド32により記録セル11がピッチPで配列したサブトラック2つからなる記録トラックに対して書き込みを行う場合、記録ヘッド32が各記録セル11の直上に位置したときにその記録セル11へ記録すべき情報を順次書き込むことができれば好都合である。ただし、このような理想的な状態での記録を実現するには、記録ヘッド32が媒体上のどの位置にあり、かつどの記録セル上にあるかがわかっている必要がある。しかし、上述したように、現状では再生ヘッドと記録ヘッドが数μm以上離れていることから記録開始のタイミング合わせが困難であり、記録トラック上でピッチPの1/2で等間隔に並ぶ記録セル列に位相を合わせて書き込みを行うのは困難である。このため、記録ヘッドの書き込み開始位置の位相はトラック方向に沿ってランダムになる。
【0022】
このような状況の下で、記録ヘッドが媒体上を記録セル間のピッチPの1/2の距離を通過するのに要する時間内で、1つのデータ信号の書き込みを行う場合について検討する。この場合、隣り合う2つのサブトラック上に配置された記録ヘッドは、一方のサブトラック上で1つのデータ信号を書き込み、次に他方のサブトラック上で1つのデータ信号を書き込む、という書き込み動作を繰り返す。
【0023】
上記の書き込み動作において、記録ヘッドの書き込み位置ずれが様々な大きさで生じたときの記録セルへの記録状態を図5(A)〜(E)に示す。記録ヘッドの書き込みタイミングは、図の上部の黒塗りバーで示している。書き込み位置ずれの大きさは、記録セル間のピッチPの倍数で表示している。記録が成功した記録セルは黒丸または白丸で表示し、記録エラーの可能性のある記録セルは灰色の丸で表示している。すなわち、記録ヘッドによる書き込みデータ(磁化)が反転するタイミングで、記録ヘッド下に位置する記録セルに対しては記録が正しく行われない可能性がある。
【0024】
これらの図から、記録タイミングが記録セルの位相と合っている図5(A)および(E)以外の場合には、必ず書き込みエラーが生じる可能性があることがわかる。このような書き込み動作では、書き込みエラーの影響を解消することが困難であり、高速記録を達成できない。
【0025】
以下、本発明の一実施形態の記録装置を用いて書き込み動作を行う場合について説明する。例えば、記録ヘッドが媒体上を記録セル間のピッチPの1/2の2倍(n=2)の距離を通過するのに要する時間で、1つのデータ信号(例えば1ビットの符号化データ)の書き込みを行う場合について説明する。この場合、隣り合う2つのサブトラック上に配置された記録ヘッドは、2つのサブトラック上における最近接の2つの記録セルが含まれ得る所定長さの領域に1つのデータ信号を書き込む動作を繰り返す。
【0026】
上記の書き込み動作において、記録ヘッドの書き込み位置ずれが様々な大きさで生じたときの記録セルへの記録状態を図6(A)〜(G)に示す。図6(A)、(D)、(G)のように、書き込みタイミングが記録セルの位相と合っている場合には、2つのサブトラック上における最近接の2つの記録セルにそれぞれ正しい情報が書き込まれる。また、図6(B)、(C)、(E)、(F)のように、書き込みタイミングが記録セルの位相とずれている場合には、記録ヘッドによる書き込みデータ(磁化)が反転するタイミングで、記録ヘッド下に位置する記録セルへの記録は正しく行われない可能性がある。しかし、これらの図からわかるように、書き込みタイミングがずれた場合でも、2つのサブトラック上の最近接の2つの記録セルのうち、少なくともいずれか一方の記録セルにはデータが正しく書き込まれる。したがって、後述するように読み出し信号を適切に処理することによって、書き込みエラーの影響を解消することができる。
【0027】
また、記録ヘッドが媒体上を記録セル間のピッチPの1/2の3倍(n=3)の距離を通過するのに要する時間内で、1つのデータ信号の書き込みを行う場合について説明する。この場合、隣り合う2つのサブトラック上に配置された記録ヘッドは、2つのサブトラック上における最近接の3つの記録セルが含まれ得る所定長さの領域に1つのデータ信号を書き込む動作を繰り返す。
【0028】
上記の書き込み動作において、記録ヘッドの書き込み位置ずれが様々な大きさで生じたときの記録セルへの記録状態を図7(A)〜(G)に示す。図6(A)、(D)、(G)のように、書き込みタイミングが記録セルの位相と合っている場合には、2つのサブトラック上における最近接の3つの記録セルにそれぞれ正しい情報が書き込まれる。また、図7(B)、(C)、(E)、(F)のように、書き込みタイミングが記録セルの位相とずれている場合には、記録ヘッドによる書き込み情報が反転するタイミングで、記録ヘッド下に位置する記録セルへの記録は正しく行われない可能性がある。しかし、これらの図からわかるように、書き込みタイミングがずれた場合でも、2つのサブトラック上の最近接の3つの記録セルのうち、2つの記録セルには情報が正しく書き込まれる。この場合にも、後述するように読み出し信号を適切に処理することによって、書き込みエラーの影響を解消することができる。
【0029】
次に、本発明の一実施形態に係る記録装置による読み出し信号の処理について説明する。
【0030】
再生ヘッドは、1つの記録セルが再生ヘッド下を通過する距離に相当する時間で記録セルの情報を1つずつ順次読み出す。
【0031】
信号処理器は、読み出された情報をn個の記録セルを含む記録区域ごとに区分し、所定数の記録区域内でそれぞれn個の記録セルの情報をトラック方向に沿って1つずつn個に振り分ける操作を繰り返してn群のデータ列を生成する。このnは2以上の整数であり、記録ヘッドが記録トラック上をピッチPの1/2のn倍だけ通過するのにかかる時間で書き込み動作を行った区域に含まれ得る記録セルの数に等しい。そして、例えば各データ列にそれぞれエラー訂正処理を行ってデータ列ごとにエラー蓄積数を算出し、エラー蓄積数の最も少ないデータ列の信号を再生信号として出力する。また、nが3以上の場合には、n群のデータ列を比較して互いに等しいデータ列の信号を再生信号として出力してもよい。このようにして、書き込みエラーの影響を解消することができる。
【0032】
以下、上記の信号処理をより具体的に説明する。
まず、例えばn=2の場合には、区分された各記録区域に含まれる2個の記録セルの情報を、トラック方向に沿って1番目の記録セルから読み出された情報と2番目の記録セルから読み出された情報に1つずつ振り分けて、所定数の記録区域内で合計2群のデータ列を生成する。これらの2群のデータ列は、連続的に読み出される情報の全データ列で見ると、奇数番目に読み出されるデータ列と偶数番目に読み出されるデータ列に相当する。上記の書き込み動作に関する説明からわかるように、2群のデータ列のどちらかが正しいデータ信号である。
【0033】
同様に、n=3の場合には、区分された各記録区域に含まれる3個の記録セルの情報を、トラック方向に沿って1番目の記録セルから読み出された情報と2番目の記録セルから読み出された情報と3番目の記録セルから読み出された情報に1つずつ振り分けて、所定数の記録区域内で合計3群のデータ列を生成する。上記の書き込み動作に関する説明からわかるように、3群のデータ列のうち2群のデータ列が正しいデータ信号である。
【0034】
一般化して記載すれば、各単位時間に読み出されたn個の記録セルの情報を、トラック方向に沿って1番目、2番目、・・・、n番目の情報に1つずつ振り分けて合計n群のデータ列を生成する。
【0035】
上記のようにして生成されたn群のデータ列のうち、どのデータ列が正しく、どのデータ列が書き込みエラーを含んでいるかについては、記録ヘッド位置の位相が把握できないため、そのままでは正しいデータ信号を判断することはできない。本発明の実施形態においては、例えば以下において説明する2つの手法のいずれかを用いて正しいデータ信号を判断することができる。
【0036】
1つ目は、エラー訂正処理を用いる手法である。エラー訂正処理とは例えば Magnetic Information Storage Technology (Electromagnetism) by Shan X. Wang, A. M. Taratorin, p217 に説明されているように、記録するデータのサイズをより冗長なチャンネルコードに変換することにより、記録時に起きるチャンネルコードの単発的な記録エラーを発見して修正する処理である。具体的には、変換後のチャンネルコードはある一定のルールに基づいた一部の信号パターンのみが許容される。従って許容された信号パターン以外の信号パターンが現れたときはエラーとして発見される。この際、エラーの発見された信号パターンが、許容された信号パターンからどのくらい異なっているかを示す指数が Hamming distance(d)またはエラー蓄積数と呼ばれる数値である。エラー訂正処理ではエラーの発見された信号パターンにおけるdがある一定値以下ならば正しい信号パターンへ訂正することが可能となる。
【0037】
上記の Hamming distance(d)を利用して、上記のn群のデータ列のうち、どのデータ列に書き込みエラーが生じているかを判断する。すなわち、信号処理部は得られたn群のデータ列のdを算出する。書き込みエラーのないデータ列ではdの値は0となる。書き込みエラーが増えるほどdの値が増えるので、最もdの値の大きいデータ列に記録ヘッドの位相ずれによる書き込みエラーが生じていると判定される。例えばn=2の場合、奇数番目のデータ列と偶数番目のデータ列のdを算出し、d=0またはdの値が小さい方を正しく記録されたデータ列として扱う。
【0038】
2つ目は、nが3以上のデータ列に対して多数決を用いる手法である。一般にn個の記録セルを含み得る領域に対して1つのデータ信号の書き込み動作を行った場合に位相ずれが生じると、少なくとも1群のデータ列は書き込みエラーを含むが、残りのデータ列には書き込みエラーが生じない。このため、書き込みエラーの数は1群のデータ列にのみ多く認められる。したがって、得られた全てのデータ列の互いに比べると、位相ずれの起こった1群のデータ列のみがエラーの多い信号パターンを示し、他のデータ列は等しく正しい信号パターンを示す。なお、n=2の時には2群のデータ列のうち一方に記録エラーが起きると他方のデータ列は1つなので、互いのデータ列を比べてもどちらに記録エラーが生じているか分からない。したがって、n=2の場合には前述のエラー訂正における Hamming distance を比較する手法が好ましい。一方、nが3以上の場合には1群のデータ列に記録エラーが発生していると、残りのデータ列はほとんど記録エラーのない同じ信号パターンとなる。したがって、信号処理部はn群のデータ列を互いに比べ、最も差の大きなデータ列だけを位相ずれの起きたデータ列として排除し、その他の記録エラーのないデータ列を正しい再生信号として出力する。具体的にはn群のデータ列から各ビットを抽出して比較し、多い方の信号を採用する。
【0039】
さらに、本発明の他の実施形態においては、信号処理器によって、所定数の記録区域を含む1つのセクタについてn群のデータ列のエラー蓄積数を算出して記憶し、連続する2以上のセクタに含まれる各群のデータ列のエラー蓄積数を合計して、エラー蓄積数の合計が最も少ないデータ列の信号を再生信号として出力するようにしてもよい。
【0040】
このような信号処理は以下のような場合に有効である。例えば、エラー蓄積数として Hamming distance(d)を用いる場合、ある一定のエラー数を超過すると、その信号パターンが本来記録した信号パターンとは別の信号パターンに近づくことがある。この場合、dの値が減少するかまたは0となり、正しい信号として認識されてしまう可能性がある。一方、記録媒体中の記録トラックを構成する記録ビットが複数のセクタにまたがって均一な間隔で配列している場合、記録ヘッドの位相ずれによって生じる記録エラーはどのセクタでも同じ位置に現れる。すなわち、1つのセクタを構成するn群のデータ列のうちk番目のデータ列で位相ずれにより記録エラーが起きている場合、記録セルが均一に配列している範囲の複数セクタのn群のデータ列では全てk番目のデータ列に位相ずれが発見される。
【0041】
ここで、あるセクタAにおいて上記のようにエラー数が超過して本来の信号パターンが別の信号パターンに近づいた場合を考える。この場合、そのセクタの信号パターンのみを判定すれば、偶然k番目のデータ列のdの値が低く、他のデータ列が誤って記録エラーとして選択されることがあり得る。このような場合でも、複数のセクタを比較して他のセクタの多くでk番目のデータ列が記録エラーと判定される場合には、セクタAでもk番目のデータ列を記録エラーとして破棄する。
【0042】
例えば、n=2のときに4つのセクタで判断する場合について説明する。ここで、セクタ1、セクタ2、セクタ4では偶数番目の記録セルから構成されるデータ列でエラー蓄積数が多くエラーと判定され、セクタ3では奇数番目の記録セルから構成されるデータ列でエラー蓄積数が多くエラーと判定されたものとする。この場合、偶数が3つ、奇数が1つであり、偶数の方が多いため、4つのセクタ全てにおいて偶数番目のデータ列を破棄し、奇数番目のデータ列を再生信号として採用する。
【0043】
このように複数のセクタに含まれる各データ列のエラー蓄積数を合計することによって判定する処理を行うことにより、位相ずれによる記録エラーの数が原因となって偶然あるセクタでのあるデータ列でエラー蓄積数dが低い値になったとしてもそのデータ列を破棄することができ、正しい記録情報を判定できる。
【0044】
【実施例】
本実施例では、基板上に形成した溝領域においてブロックコポリマーを規則配列化させることにより記録トラック帯を形成した。図8(A)〜(D)を参照して本実施例に係る磁気記録媒体の製造方法を説明する。
【0045】
図8(A)に示すように、以下のようにして基板上に溝構造を形成した。直径2.5インチのガラスディスク基板41上に、厚さ約30nmのPd下地層と厚さ約50nmの垂直磁気記録材料CoCrPtを製膜して磁性層42を形成し、さらに磁性層42上に厚さ約50nmのSiO2膜43を製膜した。SiO2膜43上にレジスト44をスピンコートした。ナノインプリンティングリソグラフィーによりレジスト44を加工し、幅40nmの凸部によって幅約400nmのスパイラル形状の溝45を規定するようにレジストパターンを形成した。このレジストパターンをマスクとして、RIEにより磁性層42に達するまでSiO2膜43をエッチングしてSiO2膜43に溝45を転写した。このようにして形成された溝領域が記録トラック帯となる。また、レジストパターン下部の磁性層が分離帯として用いられる。
【0046】
図8(B)に示すように、以下のようにして溝領域内にブロックコポリマーを埋め込んで微粒子の規則配列構造を形成した。磁性層42の表面をヘキサメチルジシラザンにより疎水化処理した。その後、レジストパターンの残渣をアッシングした。ポリスチレン−ポリブタジエンのブロックコポリマー(PSの分子量Mw=4000、PBの分子量Mw=20000)をトルエンに1%w/wの濃度で溶解した溶液を調製した。試料上に溶液をスピンコートしてSiO2膜43に転写された溝領域内にブロックコポリマー46を埋め込んだ。試料を真空中において150℃で30時間アニールして、ブロックコポリマー46を規則配列化させた。この結果、島状のポリスチレン粒子47が海状のポリブタジエン部分48によって囲まれた構造が形成される。
【0047】
図8(C)に示すように、以下のようにして規則配列した微粒子をマスクとして記録セルを形成した。ブロックコポリマー46をオゾン処理してポリブタジエン部分48を除去した後、水洗した。残ったポリスチレン粒子47をマスクとしてArイオンミリングにより磁性層42をエッチングして記録セル49を形成した。
【0048】
図8(D)に示すように、以下のようにして記録セル間のマトリックスを形成し、表面を平坦化した。ポリスチレン粒子の残渣をアッシングした。全面に厚さ約50nmのSiO2膜を製膜して記録セル49間に埋め込んでマトリックス50を形成した。SiO2膜の表面をケミカルメカニカルポリッシング(CMP)により研磨して平坦化した。その後、全面にダイアモンドライクカーボンを製膜して保護膜51を形成した。
【0049】
製造した磁気記録媒体を磁気力顕微鏡により観察したところ、図1に示したような構造が認められた。幅約400nmの記録トラック帯1と幅約50nmの磁性層からなる分離帯2が交互に形成されている。記録トラック帯1内において、記録セル11はマトリックス12によって互いに分離され、六方細密充填構造をなして三角格子を形成している。記録セル11は20nm径であり、トラック方向に沿って40nmのピッチPで周期的に形成されてサブトラックを形成している。1つのサブトラック上ではトラック方向に沿って400個の記録セルが等間隔に並んでいる。記録トラック帯1内には19列のサブトラック1a〜1sが含まれている。上記のように記録セル11は三角格子を形成しているため、記録トラック帯1内で隣り合うサブトラック上に位置する最近接の2つの記録セル11はトラック方向に沿う中心間の間隔が1つのサブトラック上での記録セル11間のピッチPの1/2すなわち20nmだけずれている。分離帯2を形成している磁性層には各記録トラック帯のアドレス番号およびセクタ番号に相当する情報が予め書き込まれている。
【0050】
製造された磁気ディスクを用いて図3および図4に示すような磁気ディスク装置を作製した。ヘッドスライダ26の先端に設けられたGMR再生ヘッド31の寸法は縦約30nm、幅約20nm、単磁極記録ヘッド32の寸法は縦20nm、幅約20nmである。再生ヘッド31は記録ヘッド32よりトラック方向に沿って先にあり、再生ヘッド31と記録ヘッド32の距離は約3μmである。図1に示すように、再生ヘッド31および記録ヘッド32は、記録トラック帯内で所定のピッチで規則配列した19列のサブトラックのうち、2列のサブトラック(例えば1aおよび1b)からなる記録トラックに対して記録、再生を行う。再生ヘッド31および記録ヘッド32のサイズは、位置をずらすことなく記録、再生ができるようになっている。
【0051】
本実施例に係る磁気記録装置を用いて以下のようにして記録、再生を行った。磁気ディスクを5400rpmで回転させた。この条件では、磁気ディスク上の半径25mmの位置にあるトラックは、ヘッドの下を約14m/秒の速度で移動する。したがって、ヘッドの下をトラック方向に沿う記録セル間のピッチの1/2の距離(20nm)が通過する時間は約1.41nsecとなる。
【0052】
信号発生器は、2つのサブトラックからなる記録トラック上の2つの記録セルが記録ヘッドの下を通過する時間すなわち2.83nsecの間に1つのデータ信号(1ビットの符号化データ)を書き込むタイミングで記録ヘッドにデータ信号を送る。なお、記録したデータ信号は、ユーザーデータを1/2(2,7)コードに従って変調したものである。
【0053】
記録後の記録媒体を再生ヘッドによって再生した。再生ヘッドは回転数5400rpmで回転する磁気ディスク上の半径25mmの位置にあるトラック上において、20nm間隔で1つの記録セルが再生ヘッド下を通過する時間1.41nsecごとに各記録セルの情報を1つずつ読み出す。
【0054】
信号処理器は、再生ヘッドによって読み出された情報を2個の記録セルを含む記録区域ごとに区分し、1セクタを8個の記録区域(合計16個のコード)として、連続する8セクタについて以下のようにして読み出し信号を処理した。すなわち、1つのセクタで各記録区域に含まれる2個の記録セルの情報をトラック方向に沿って1つずつ振り分ける操作を繰り返して、偶数番目の記録セルから得られたデータ列Aと奇数番目の記録セルから得られたデータ列Bを生成した。この操作を8セクタについて行った。1/2(2,7)コードに従って、各データ列についてエラー訂正処理を行い、エラー蓄積数dを算出した。表1に、8セクタにおける各データ列のd値とその合計を示す。
【0055】
【表1】
Figure 0003749856
【0056】
表1に示されるように、d値の合計は、データ列Aの方がデータ列Bより少ない。この場合、信号処理器は読み取った8つのセクタの全てにおいて、データ列Aを正しいデータとして判断する。
【0057】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明によれば、記録セルのパターンが高度に配列化した記録媒体に対して高速で読み出し読み出しが可能な記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に一実施形態に係る磁気記録媒体の記録層の表面を概略的に示す平面図。
【図2】本発明に一実施形態に係る磁気ディスク装置を示す斜視図。
【図3】本発明に一実施形態に係る磁気ディスク装置の磁気ディスクおよびヘッドスライダの断面図。
【図4】本発明に一実施形態に係る磁気ディスク装置のヘッドスライダの平面図。
【図5】n=1の場合に、記録ヘッドの書き込みタイミングずれによる記録状態を示す平面図。
【図6】n=2の場合に、記録ヘッドの書き込みタイミングずれによる記録状態を示す平面図。
【図7】n=3の場合に、記録ヘッドの書き込みタイミングずれによる記録状態を示す平面図。
【図8】本発明の実施例における磁気記録媒体の製造方法を示す断面図。
【符号の説明】
1…記録トラック帯
2…分離帯
11…記録セル
12…マトリックス
21…磁気ディスク
22…スピンドルモーター
23…軸
24…アクチュエータアーム
25…サスペンション
26…スライダ
27…ボイスコイルモーター
31…再生ヘッド
32…記録ヘッド
33…信号処理器
34…制御器
35…信号発生器
41…ガラスディスク基板
42…磁性層
43…SiO2
44…レジスト
45…溝
46…ブロックコポリマー
47…ポリスチレン粒子
48…ポリブタジエン部分
49…記録セル
50…マトリックス
51…保護膜

Claims (5)

  1. 単一の記録材料粒子を単一の記録セルとして記録再生を行うように記録材料を非記録材料により分断して形成された複数の記録セルをトラック方向に沿ってピッチPで周期的に配列した複数列のサブトラックを含む記録トラック帯と、記録トラック帯間を分離する分離帯を有し、前記記録トラック帯内で隣り合うサブトラック上に位置する最近接の2つの記録セルは互いの中心がトラック方向に沿って前記ピッチPの1/2ずれている記録媒体に対してデータを記録する記録装置であって、
    隣り合う2つのサブトラックからなる記録トラック上に配置される再生ヘッドおよび記録ヘッドと、
    前記記録ヘッドに記録開始信号を与える制御器と、
    前記記録トラック上を前記記録ヘッドが前記ピッチPの1/2のn倍(nは2以上の整数)の距離を通過するのに要する時間で1つのデータ信号を書き込むようにデータ信号を生成する信号発生器と、
    前記再生ヘッドからの読み出し信号を処理する信号処理器と
    を具備したことを特徴とする記録装置。
  2. 前記記録ヘッドは、前記記録媒体の隣り合う2つのサブトラック上で前記ピッチPの1/2ずれて配置されている少なくとも2つの記録セルのうち少なくとも1つの記録セルの正しいデータ信号を書き込むことを特徴とする請求項1記載の記録装置。
  3. 前記再生ヘッドは、1つの記録セルが再生ヘッド下を通過する距離に相当する時間で記録セルの情報を1つずつ読み出し、
    前記信号処理器は、読み出された情報をn個(nは前記2以上の整数)の記録セルを含む記録区域ごとに区分し、所定数の記録区域内でそれぞれn個の記録セルの情報をトラック方向に沿って1つずつn個に振り分ける操作を繰り返してn群のデータ列を生成し、各データ列にそれぞれエラー訂正処理を行ってデータ列ごとにエラー蓄積数を算出し、エラー蓄積数の最も少ないデータ列の信号を再生信号として出力する
    ことを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
  4. 前記信号発生器は、前記記録トラック上を前記記録ヘッドが前記ピッチPの1/2のn倍(nは3以上の整数)の距離を通過するのに要する時間で1つのデータ信号を書き込むようにデータ信号を生成し、
    前記再生ヘッドは、1つの記録セルが再生ヘッド下を通過する距離に相当する時間で記録セルの情報を1つずつ読み出し、
    前記信号処理器は、読み出された情報をn個(nは前記3以上の整数)の記録セルを含む記録区域ごとに区分し、所定数の記録区域内でそれぞれn個の記録セルの情報をトラック方向に沿って1つずつn個に振り分ける操作を繰り返してn群のデータ列を生成し、n群のデータ列を比較して互いに等しいデータ列の信号を再生信号として出力する
    ことを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
  5. 前記信号処理器は、所定数の記録区域を含む1つのセクタについてn群のデータ列のエラー蓄積数を算出して記憶し、連続する2以上のセクタに含まれる各群のデータ列のエラー蓄積数を合計して、エラー蓄積数の合計が最も少ないデータ列の信号を再生信号として出力することを特徴とする請求項2または3に記載の記録装置。
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